● 男って言うのは本当に馬鹿だと思う。 煌びやかな分かり易い魅力にばかり飛びついて、本当の価値と言う物に気付かない。 きっと彼らは死ぬまで気付かないのだ。そして己の愚かさを気付く事無く人生を閉じる。 本当に、馬鹿だ。救いようがない。 「どぉいつも、こぉいつもぉ……! 私の何(ぬぁに)が不満だって言うのよおおおお!!!」 雷鳴が轟いた。 ――それも上天でではなく、地の上で。街のど真ん中で。 「女は顔じゃないわよ!」 悲鳴が上がる。町並みが破壊される。 その中心に立つのは1人の女性。 「性格――せ、性格でも無いわよ!!」 性格にも自信なかったらしい。 「愛嬌――何てどうでも良いわよ!!!」 うん。凄い形相で街を破壊するあなたに愛嬌はあんまりない、ですね確かに。 「女は! 女は……」 言葉が途切れた。 ついでに雷による破壊も途切れ、辛うじて無事隠れていた人々が僅かな希望を目に様子を伺う。 「うがああああああああ!!!!!!」 何かもう女を捨てた叫び声が上がる。と言うか思考を放棄しやがったぞあの女。 再び巻き起こる大破壊に泣き逃げ惑う無辜の民。誰もが思っていた。 なんだこれ。なんだこの事態。 ● 物の値段は需要と供給によって決まる。 端的に言い換えれば、今まさに必要とされている品の価値は非常に高い物となるのだ。 「感情を増幅し、その感情を魔力に変換し続けるアーティファクトか……。 六道第三召喚研究所のやつら、そんな代物に一体どんな需要があるというんだか」 「あれ? それって、この間どっかで見つけたって言ってたやつじゃなかったッスか?」 床に正座させられているとは思えぬほど平然と疑問を口にしてみせる部下を前に、三尋木の幹部が1人である『Spelunker』六月(じゅん)は肩をすくめてみせる。 「報酬は出す、調査後で構わんから譲れ、だとさ。どこから知ったものだかな」 情報と言うのは商品の一つだ。同じ組織内であれど、みだりに共有して良い物でもない。 どこからその情報を得たのかなど、不穏な物を感じなくもないが――今はその話は重要ではない。 「まあ、無闇と喧嘩するってのも、らしくないッスし。普通に連絡来たんでしょ? すげえ高額で買い取ってくれるんなら、別にありなんじゃねッスか?」 「ああ、こっちとしては非常に助かる。物は売ってもデータは残るしな、良い事尽くめだ」 言葉とは裏腹に不機嫌そうに眉を顰め、とんとん、と神経質に煙草の灰を灰皿に落とす六月。 ――その瞳に色濃く映る、焦燥と苛立ち。 「でもちょっともったいない気もするッスね。凄い強そうじゃねッスか、それ。 所持者の感情を増幅して魔力に変換する、でしたっけ」 「馬鹿を言うな。 感情を増幅された持ち主は即座に正気を喪うし、半日もすれば精神が耐え切れず廃人になる。 ――どんなに強力でも、制御できんのでは意味が無い」 ただの危険物だと言い捨てる六月に、部下はうへえと肩をすぼめた。 「運ぶだけでも特殊な箱に入れないと危うい。そういう難物なんだよ」 それを。と続けながら、部下の肩をがしりと掴む。 「そ・れ・を! どうしてその箱を持たせたお前じゃなく、麻友の奴が行ってるんだあああ!?」 その叫びには涙と血すら滲んでいた。 「俺には行かなきゃならない即売会(ルビ:たたかい)があったんッスよ!」 言い返した部下の目には一辺の曇りも無かった。 六月はそれを即座に殴り倒した。 ● 「今から最速で行けば彼女の出す被害を、少ない状態で止める事が出来る」 ブリーフィングルームにて。『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)は淡々とそう言った。 なんかもう目が死んでる気もするがきっと気のせいだと思う。大丈夫、きっとそう。 「三尋木のフィクサード達も事態に気が付いてるけど、到着には間がある。 その間に彼女を無力化して、アーティファクトを回収して。 特殊な箱が必要って言ってたけど――それは回収班が準備してる。皆は触らないように注意して」 横取りするみたいでちょっと微妙な気分ではあるが、放置して良い様な品でもない。 買い取り手とやらの思惑にも不安を感じずにはいられない。 「あ、あの、このフィクサードのことなんだが……なんで、あんな暴れ方を……?」 淡々と必要な事のみを説明していくイヴの言葉をおずおずと遮り、1人のリベリスタがようやくそう聞いた。 イヴはおよそ10秒ほど沈黙した後、渋々と言った風に口を開く。いつも以上に平坦な声で。 「高波・麻友(たかなみ・まゆ)、ジーニアスのマグメイガス。 けど何でか物凄く身体能力に恵まれている事で有名で、『雷神の娘』と言う二つ名で知られてる」 ふう、と細く息を吐き。 「それと、男の人に短期間で捨てられては大騒ぎする事でも有名。 28歳未婚。で、先週付き合ってた男性に振られてる」 うわあ。 リベリスタ達の顔が一斉にげんなりした物になった。 「アーティファクトによって暴走しているから、説得はほぼ無理。 際限なく増幅される魔力によって全ての力が強化されている。強敵だよ」 色んな意味で。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年10月03日(水)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ぴがが。 『あーあー、マイクテストマイクテスト』 ノイズ交じりの音が響き、それに続いて声が聞こえる。 近づきつつある爆音、轟音と発狂絶叫の中で、理性のある声は逆に人々の興味を引いた。 手にした拡声器の音を確認した『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)が、よし、とひとつ頷くともう一度拡声器のスイッチを入れる。 「えー、仲良くあるいはひっそりお食事中の勤勉なサラリーマンとOLの皆さん。 ただ今、傷心の女性による天変地異的八つ当たりが発生しております。 巻き込まれたくなければ、速やかにこの場より離れてください」 なんだそれは、何かのイベントか、とでも言いたげなおじさんたちが、しかし近づく破壊音の方へと目を向け、それが真実だったと思い知る。 なんだありゃ、今あの女何か妙なの投げたぞ、雷? いやまさか、そんなもの人間は投げられない。 おじさんは大暴れする女がいるだけだと認識し、しかし巻き込まれるのは明らかに面倒なのでそそくさと逃げる。概ねの一般人の反応はそんなものだが、ひっくり返せば、そんなもので済んでいる。 現時点でも多少混乱は起きているが――これ以上の大混乱は免れそうだ。 弁当箱を閉めながらも騒動の方をよく見ようとする男の姿を見つけて、ブレスは拡声器を向ける。 『はいそこのおにーさん。見物などすれば、火傷程度では済みませんので速やかに避難してください』 その男の肩を、『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)が押してくるりと方向転換させた。 「はい落ち着いてーおさないかけない、喋らないでいこうネ」 いわゆるおかしだのおはしだのと言われるアレである。お前を離さない死なせない。それはともかく、混乱を目の当たりにして誘導されれば素直にしたがって逃げる一般人が多く、魔眼の必要まではなさそうである。『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)も誘導に回っている。 その状況に、強結界を展開した『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が心の内で胸を撫で下ろす。人が少ないわけではないが、広さもそこそこある。爆音の方向に背を向けて逃げる人々に避難誘導は不要そうだ。そう考えながら、己の背に翼の加護を求め。 「ちょ、え!?」 「羽生えた!」 その神秘は、数人のサラリーマンたちの視線を誘う。 「早く退避してください!」 凛子はその人々に避難を呼びかける。見た人の記憶を操作しようかとも思ったが――そんな時間も用意もないうえに、一人二人で済む状況でもない。 「え、あ、ああ……」 凛子の背を何度も振り返りながらも避難勧告に従うサラリーマンたち。その視線が気にならないこともないが、もう一度、避難して下さい、と声をかけた。 ● 騒音、轟音、大爆音の方に目を向けると、麻友が頭上を飛んだ烏を魔毒で撃ち落としたところだった。哀れな烏の行く末には目もくれず、麻友は叫ぶ。 「カラスの足跡なんて、まだできてないわよー!!」 目尻にシワはなくっても、鼻にシワがよってます。 どうやら目に付くもの、気がつくものの全てが憎いらしい彼女の、その視界に黄色いズボンが映り込む。麻友がそちらに目を向けると、緑のシャツのイケメンがオレンジの髪をさらりとかき上げたところだった。 「やっぱり女の子は顔だよね」 Let's ぼう☆げん! わざと全力で麻友の心をえぐりにかかった『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)、今日は純粋イケメンモードである。出ていった妻のために取得したとも言われる超幻視で、たとえエリューション能力者であっても彼の見た目はいつものインコ頭ではなく、イケメンである。全身のエネルギーを守りにまわしている換羽期のインコはしかし、脳内はいつものインコだった。 (女の子を傷つけるのは不本意だガ、これも任務なのダ~) なお、精神攻撃のこうかはばつぐんだ! 「フシャーー!!」 そうでなくても自覚あるが故にダメージの大きな言葉を、美形に言われてはたまらない。 何か既に生き物としての種別を問いたい勢いで言語にならない咆哮をあげた麻友がカイに向かって走りだし、ヒールの折れた靴でそのままジャンプし見事な放物線に乗ったドロップキック。ちなみに涙目。 「……って状態ね。なるべく無事に返してあげたいんだけど、その為に協力願えないかなって」 魔力の活性化を試みながら、『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)が通信機越しに奇声が届かなかったかと確認を取る。 受話口が沈黙していたのは、比較的僅かな時間だった。 『――この状況を招いたのは、こちらの落ち度だ。それで、要求は? ソリッドガール』 通話の相手は、六月である。アンナが以前、六月の部下が携帯番号を残したのを憶えていたのだ。 六月としても、正座させて説教中の部下が鳴り響いた電話に何の躊躇もなく出たと思ったらその相手がアークだったことには内心で度肝を抜かれていたのだが――それは万華鏡での観測結果であり、この時点のリベリスタにはそんな事など知る由もない。 『俺には行かなきゃならない即売会(ルビ:たたかい)があったんッスよ!』 とか叫ぶ声が電話の向こうから響いた――直後、殴打音と思しき音が続いた――のを聞きながら、アンナは続ける。 「こっちで捕縛しても高波さんの身柄は無条件で引き渡すわ。 お金の件は、以前のテスター代で貸し借り無しに出来ない?」 『テスターとやらは、何のことだかわからんな。 だが、カレイドシステムのことだ。どれくらいこちらの状況がわかっているかは知らんが――そのアーティファクトがどのようなものかは把握しているんだろう』 「そうね。だから、『激情劇場』の回収を諦めてもらえると助かるのよ――」 「今度カラオケにでも行かない?」 通話を続けるアンナの前に、『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)が割って入り、通話の向こうに声をかける。『えっマジで! やったもーマジ行くッス!』とか聞こえなくもなかったが、再び殴打音らしきものが聞こえた辺り、状況はそれを許さないだろう。 「あ、こら、明奈……」 アンナが若干呆れ気味に呟いた後、慌てて通信機を耳から離した。受話口から酷いノイズが漏れる。 おそらく、向こうの携帯が壊されたのだろう。だが、必要なことは全て終えた後だ。アンナが、明奈の目を見て頷く。明奈も笑って頷き返した。 「可愛い部下ちゃんの命(こころ)と玩具、どっちを選ぶか六月ちゃんは決めたみたいだねぇ。 ……あ、背中に張り付いてるみたいだよ、アーティファクト」 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)がちらりと白石黒石のやり取りを見やってから、麻友に目を向ける。 「高波ちゃん、元気だねぇ~☆」 生み出した漆黒の闇を身に沿わせ、麻友へと手を振る葬識。 「……後は白石部員たちに任せて、私帰っていいわよね?」 ソラ先生がそんなことを言い出し、ゲー研部員たちに両手でばってんを作られる。 凛子がワイヤーを体に巻き付け始める。長いワイヤーの端を地面に垂らし、アースとするつもりらしい。 「痺れる事さえ無ければ回復させて頂きます」 「いやーほんと、大変だねぇ、アラサーってやつハ。小生男女の仲にさして興味ないからわかあんないヤ」 幾らか後方に下がっていた颯が、言うなり地を蹴って風の如く飛びかかる。 「女は……盆栽ダヨ、手間暇掛けて、整え、成長させるのサ。――つまり女は顔だ!」 「同じ女に言われたかないわよ!」 同性相手だからか若干理性の戻った――または人語を解する状態になったらしく、颯のナイフを受けながら吠える麻友。そこに真正面から、裂帛の気合と共に、ブレスのCrimson roarのブレードが突きこまれる。 「感情暴走アーティファクトに失恋真っ最中の女性とかどこで鉢合わせたんだよ馬鹿野郎! 見る目の無い野郎に振られて同情するが、こっちもお仕事なんでね!」 「――ぐ、ぬやろぉおおっ!!」 麻友の傷は浅くない。 痛みに覚えた不快感が増幅されたのか、憎悪に近い表情をブレスに向けようとした麻友が、 「はしたなく大声で喚いている女なんて、誰も見向きしないよ」 「フギャーーー!!!」 膂力で持って杖を叩きつけるカイの挑発(?)に、目標を変更して全力で吠え、ざっと周囲に目を走らせる。目の前にカイ、少し後方の颯。狙いたい相手を同時に攻撃するには、目標の位置が分散している。 迷わず放たれた麻友の雷撃が、地を舐め空を切るように、円周状に周囲を走り抜けた。 「――意味はありませんでしたね」 ワイヤーを見て、凛子が呟く。 ダメージは酷いというほどのものではなかったが、まともに直撃を受けてしまったソラは倒れて起き上がれそうにない。 その一方で、けろりとしているのは明奈だ。彼女に庇われていたアンナも、当然無傷である。 「必殺が無い相手なんて怖くなーいイエーイ。アンナが立っていれば勝てるさ。信じてるぜ!」 明奈の怪我は無視できる状態ではないのだが――余裕を持ってピースしてみせる明奈。たとえ倒れるような大怪我を負いそうになったとしても、明奈の幸運(ドラマ)は彼女が倒れることを容易に許可しない。急ぎ、高位存在へと力の一端を借り受けたアンナの詠唱に、癒しの息吹がリベリスタたちを撫でていった。 葬識が常のままの飄々とした調子で、麻友に声をかける。 「女の子は顔でも性格でもないよねぇ~」 その言葉に麻友の目に少しだけ光が戻り、ゆらり、と葬識の方を向く。それを機会と見て、葬識の歪で巨大な鋏――逸脱者のススメ――が、その精神ごと麻友を斬りつける。 「けれど、高波ちゃんは十分に美人だとおもうけど」 「フフ……フフフ……フ……」 続けた葬識の言葉に、麻友はうつむき、不気味な笑みを放ち――顔を上げた時、その表情はハの字の眉に見開かれた目、無理に上げられた口角の、憎しみだけが彩る笑顔となっていた。 「……今マデノ彼氏ニ、何度、ソウ言ウ、オ世辞ヲ言ワレテキタコトカ――!!」 あ、血の涙。 ● 「ま、八つ当たりは程々にしておけ?」 再度中衛距離から麻友の懐までを一気に飛び込んで斬りつける颯が、飛び退りながらそう言い捨てる。まだ少し残る傷を、再びの息吹――今度は凛子が喚びかけたものだ――が癒していく。 「容姿に悩み。性格に悩む。その姿はまさに乙女心そのものですよ。それを可愛いと思います。 私がそう思うのですから、そういう風に思ってくれる方は他にもいるでしょう」 「■■■■■■■■■ーーー!!!!」 その言葉が、すっかり狂化した麻友に届いているのかどうか。 というか、初対面の同性にそう励まされたとて、失恋の痛手には対して影響ないのではなかろーか。 「被害を抑える俺等の苦労も考えやがれ! ……まっ、戦いとなったら死は付き纏うもの。生きるか死ぬかは本人の気合次第だ……な!」 ブレスのデッドオアアライブが、今度は真正面から切り払うように叩きつけられる。彼は戦場であれば、遠慮なく背後を狙う男だ。生死を賭ける戦いに、卑怯も何もあったものではないと――生き抜くことの難しさを知っているのだから。だが、今は殺しあうための場ではなく――何より、回収すべきアーティファクトも背面にあるというのなら、正面から切り結ぶ方が色々と都合が良い。 麻友の前で杖を構えてしっかりと狙いをつけながらも、少し乱れた髪を手櫛で無造作に直し、微笑みを湛えた口元に僅かな流し目で、あろうことかさらにウインクまで添えたカイが、ふ、と軽く笑う。 「おしとやかな性格って、惹かれるなぁ」 どうしようこのインコまだダメ押しする気だ! ついに麻友の目に怯えが混じり、僅かに泳ぎ始める。だがその姿はいまだ、なんというか同調率400%のあれ初号機暴走中みたいな状態であり――オオオオオォォォン! と一声吠えると、再度、今度は渾身の雷撃を荒れ狂わせる。どうするんだこれ麻友が人間辞める前にこの戦い終われるのか。 それはともかくとして――先よりも怒りと気合の入った術式は一層激しい雷撃となって周囲を荒れ狂う。その様は、さながら雷鎚のよう。 「――まっけらんねーのさ若さダカラ」 運命でもって倒れこみかけた体をねじ伏せ、立ち続ける颯。 「ちょっと明奈、本当に大丈夫?」 「だ、ダイジョーブダイジョーブ……」 庇い続ける明奈も、その雷撃が体に残っていることを自覚できる状態だ。それは彼女だけでなく、颯以外の雷撃にさらされた皆が感じていることでもある。アンナが先に続けて聖神の助力を請うも――詠唱を慌てたか、その効果は些か薄い。 それでも怪我の癒えは十分で。下がるかどうか一瞬考えた葬識が、軽い足取りで前に踏み出した。 「奥ゆかしさとか、女の子に求めすぎるものが多いんだよねぇ~、馬鹿な男ってさ~☆」 そう言ってうんうんと頷くような、同情するような節を見せつつ、ソウルバーンを再び狙う。 「あとで気づいて愛情なくなるなんてひどい男だよねぇ~。せっかくだし、こっちも見てよ。 敵同士で恋に堕ちるなんてロマンチックじゃあないかなぁ~☆ 俺様ちゃん博愛主義だよ」 どんな相手でも大歓迎。どーせ最後は殺すんだから。 そう続けて、ゆるい笑顔を浮かべる殺人鬼。 後は、似たようなことの繰り返しだ――麻友の雷撃を、アンナと凛子の二人が癒し、二人が嫌しきれなかった悪影響があったとしても、カイの放つ光がその危険を打ち滅ぼす。回復に厚いこのチームを相手に、圧倒的な魔力の補助こそあれど回復の手段を持たぬ麻友に太刀打ちできようはずもなく。 颯のナイフによる強襲が、葬識の大鋏の纏う暗黒の魔力が、生死を問わぬブレスの斬突が麻友の体力を削っていく。麻友は雷撃以外の魔術も使いはしたものの、狙うのはせいぜいが彼女を挑発したリベリスタ、つまり、概ねの場合はカイである。たまに回復の主軸を担うアンナが狙われても、明奈がかばい続けているためにアンナ自身は傷ひとつ追うことなく、それはまさに彼らの狙い通りの状況であり――やがて、麻友はアスファルトに崩れ落ちたのだった。 ● 「うん、割れてないよ、大丈夫だねぇ~」 葬識が麻友をうつ伏せにさせて、激情劇場の無事を確認する。 六月との交渉の結果、麻友の身柄を三尋木に返すのと引換にこのアーティファクトを回収する、という形で話がついている。慌てて引っぺがす必要はなかったが、それでもこのままにしておくわけにもいかない。 「感情を増幅するとハ、怪しいアーティファクトなのダ。 吾輩はいつも平常心でいられるかラ、大丈夫なのダ――平常心が大切なのダ」 カイが超幻視を解いたのか、甲高い声でうむうむと頷く。 「この姉ちゃんさあ。……なんか未来の自分を見ているようで悲しくなるんだよ! そもそもワタシには彼氏いないし……。 ん? 向こうは彼氏は出来るけどフラれる……彼氏は、いる……?」 明奈が何か、気がついてはいけないことに気が付きかけた様子で、口元に軽く拳を当てて考えこむ。 その考えがまとまる前にと思ったのか――僅かに困ったような笑みを浮かべて、凛子が昏倒した麻友へと癒しの微風を呼びかける。 「貴女は貴女であるというだけで好きになってくれる方は見つかりますよ」 場所柄、人払いの結界にも限度がある。騒ぎが収まったことに気がつけば――自分たちが撤収すれば、徐々に人も集まってくる事だろう。しっかりとした治療を行うのは、さすがに難しそうだ。 回収班が麻友の服の背を、慎重に、少しだけ切り開いてマニピュレーターを操作しているのを横目に、葬識はメモ帳にさらりと自分のアドレスを書き付けて麻友の手に握らせ、囁く。 「今は殺さないよ。チャンスは焦らない、それが殺人鬼の作法だ――またね。次は殺し合おう」 「自分を偽っテ、それで誰かが君を好きになったとしてモ、それでは本当に君自身が好かれた訳じゃないのダ。いつかきっト、そのままの君を受け入れてくれる人が現れるのダ。 ……大体、ちょっと付き合っただけなラ、そんなの別れの内に入らないのダ。 結婚して子供が生まれてから別れるとカ、ものごっつ大変なのダ……っていうカ……」 色々と思うところのあったらしいカイが、明奈と、倒れたままの麻友とにこんこんと言い聞かせる――言い聞かせていたはずだった、のだが、何故か途中から明らかに自分の愚痴へと変化していて。 「妻よ~!! 戻ってきてくレ~~~!!」 何故だか最終的には、そんな叫びを脂粉とともに風に載せ、街中に響かせるカイなのであった。 ● コーヒーショップのテラス席に突っ伏していた麻友が、小さく唸って目を覚ました。――アーティファクトを回収した服の背は、とうに縫われている。 「……あったま、ガンガンするー……」 「どうだい? 傷が癒えたら、一度、一緒にお茶しないか?」 二日酔いにも似た痛みを抱えながら軽く頭を振った麻友に、向かいに陣取っていたブレスが軽くカップを掲げてみせた。 「………………はい?」 状況に只管混乱している麻友も、記憶をなくしたわけではない。先程までどつき合いをしていた相手からの申し出に、目を丸くして、「新手のナンパ?」と呟いた。 煙草を咥えたブレスはその言葉に、僅かに肩をすくめて口の端をあげてみせる。 「口説く積もりは更々無いが、心無い野郎達に受けた心の傷のアフターケアは出来る男の仕事だぜ」 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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