下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






骸炭コークス

●焔の骸
 目前の樹から火柱が上がり、一瞬にして消し炭と化す。
 掌の中に握っていた煤けた石は炎に合わせて熱を持ち、宝石のような赤々しさを宿した。
「すごいな……これがあれば、何だって出来る」
 青年は驚きながらも、何処か嬉しげに不吉な言葉を呟いた。
 視界が揺れ、目が眩みそうになったのはすぐ目の前で上がった炎の熱の所為だろうか。酷い疲れが身体を襲った気がしたが、青年はすぐに思考を別の場所へと戻す。
 この石に念じれば、思いのままに対象を燃やし尽くすことが出来ると分かった。
 ならば、やるべき事はひとつ。
「――復讐、だ」
 赤い色はいつしか消え去り、煤けた灰色の石に戻った『それ』を握り締め、青年は笑う。
 自分からすべてを奪ったアイツらを消し炭にしてやるのだと――。

●命の炎
 近い未来、アーティファクトを使った殺人事件が起こる。
「復讐だとか大層な事を言ってたけど、ただ単にギャンブルに負けた逆恨み。自業自得ってやつだ」
 視得た出来事を語った『サウンドスケープ』 斑鳩・タスク(nBNE000232)は冷やかに言い放つと、今回の仕事についての説明を始めた。
 目的はアーティファクトの破壊。
 一般人の青年が偶然にも手に入れた魔道具の名は『骸炭』といい、見た目はただの石炭のような石だ。
 しかしそれは、使用者となった者の念じるままに炎を起こし、対象を焼き尽くして炭化させてしまう代物だ。ただ、その力は代償なしに扱えるものではない。
「燃やしているのは使用者の生命エネルギー。さしずめ、命の炎ってところかな」
 タスクはやれやれと肩を落とすと、このままでは大変なことになるのだと語った。
 青年がアーティファクトを使用すれば、怨みの対象へと被害が出る。それだけではなく、命の炎を燃やし尽くされた青年本人までもが、文字通りの炭の骸となって果ててしまうのだ。

 しかし、『骸炭』には厄介な機能がもうひとつある。
「危険が迫ると、使用者に付き従う煙の従者を生み出すんだ。不幸中の幸いか、これを出すだけならば命を削る量も少ないようだね。だけど、戦うとなるとかなりの障害になってくる」
 無論、青年がアーティファクト本来の力を使って抵抗することも考えられる。
 彼は傍若無人で自分勝手、それでいてギャンブルなどで身を崩す男だ。まず真っ当な説得は通じず、こちらが石を狙っていると分かると問答無用で排除して来ようとするだろう。
 アーティファクト使用には疲弊も伴うが、死ぬ時は呆気なく倒れる。彼の性格的に、それが命を削るのだと告げても嘘だと決めつけて向かって来るに違いない。
「良いかい、炎の力は十回ほどの使用で彼の命を完全に奪い取る。それまでに止められなかったら……」
 失敗だ、と神妙に告げたタスクはリベリスタ達を見渡す。
 相手は一般人ではあるが、アーティファクトを持っている以上は強敵だ。しかし、彼を守る煙の従者さえ倒してしまえば後は軽く捻りあげるだけなので、それまでが勝負となるだろう。
「まぁ、何て云うか、ね……どうしようもない男だけど、命ある限りは救わないと」
 君達なら出来るはずだと信頼を向け、タスクは話を締め括る。
 そして少年は戦いの場に赴く仲間達見つめると、その背をしっかりと送り出した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年09月28日(金)23:32
骸炭と書いてコークスと読む。こんにちは、犬塚ひなこです。

●成功条件
 青年の生存とアーティファクトの破壊

●戦闘場所
 時刻は夕刻。場所は郊外の林付近。
 皆様はOP冒頭で、アキラが試しに樹を燃やしている場面に駆け付けることになります。
 周囲には人も居らず、特にまわりを気にすることなく戦えます。

●敵詳細
大内・アキラ
 ギャンブルに身をやつす不良大学生。勉強もせずに留年し放題。
 毎日ぶらぶらと彷徨い、危ない賭け事などをやって暮らしていたようです。
 従者に自分を守らせ、後ろから『骸炭の炎』(威力大/特殊効果無し)を使用。あと十発撃てば彼が死に、アーティファクトもその手を離れますが、死亡させてしまったら失敗です。そのため、戦いは時間との勝負となるでしょう。

煙の従者×4
 アキラを守るアーティファクトの化身。もやもやとした煙の柱です。
 『フレアバースト』や『ゲヘナの火』のような力を使います。戦いと同時に防護バリアのようなものを張っているらしく、これらをすべて倒さなければアキラに近付けません(倒した後は、アキラを軽く叩くだけでアーティファクトを奪えます)
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
クロスイージス
シビリズ・ジークベルト(BNE003364)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)
ソードミラージュ
フラウ・リード(BNE003909)
ナイトクリーク
鳳 黎子(BNE003921)
プロアデプト
ヤマ・ヤガ(BNE003943)
★MVP
覇界闘士
喜多川・旭(BNE004015)
レイザータクト
神葬 陸駆(BNE004022)

●夕焼けの熱
 宵闇が迫る郊外にて、赤々とした焔が燃え立つ。
 それは夕陽すら焦がすかのような鮮烈な色を宿し、辺りを凄まじい熱で包み込んだ。
 かの炎を生み出した要因はアーティファクトたる灰色の石欠片だ。まるで伝承のウィル・オ・ウィスプを思い出すかと独り言ち、『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)達は青年の元に駆け付ける。
 あれは確か、悪人が地獄に行けずに道標にもらったものだったか。自業自得といえばそれまでだが、彼の所業を放って置くことは出来ない。
 人影に気付き、振り向いた青年。
 訝しげに此方を睨み付ける彼をちらと見遣り、『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)は溜息を零す。
「やあれ、やれ。命の使い方は人それぞれとはいえ、流石にちィと勿体無いんではないかの」
「何だテメェらは。まさか、今のを見られたのか……!」
 いかにも柄の悪そうな返答をした彼、アキラは既に一度試し燃やしをしていた。
 故に、あと十回。石による焔を放たせてしまえば、その命は文字通りに燃え尽きる。その事実を知らぬ彼を見据え、『√3』一条・玄弥(BNE003422)は骸灰の石に視線を落とした。
「最近、小火やら火付けが流行ってるんですかねぇ?」
 そうして玄弥は青年に、その石を賭けて勝負をしないかと申し出た。だが、突然現れた者達の奇妙な誘いに乗るほど、彼は余裕を持ってはいなかった。
「誰が賭けなんてするかよ。体裁良くコレを奪おうったってそうは行かねえ!」
 話に聞いていた通り、彼はギャンブルで負け続けたのだ。『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は青年の反応も尤もだと納得し、皮肉めいた言葉を投げ掛ける。
「ギャンブルに負けて逆恨み。んで、勝手に復讐とか騒ぎ立てるってー言うんすか?」
 一体どんな経緯でアーティファクトがその手に渡ってしまったのだろう。想像を巡らせたフラウは帽子の鍔を軽く上げると、抵抗する気に満ちているアキラを見遣った。
「うるせえよ、俺の何を知ってるかは知らねえが黙れ!」
 彼が叫んだ途端、周囲に煙の従者が現れはじめる。
 やはり戦いは避けられないかと察し、『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)が身構えた。やれやれ、と肩を竦めた彼は従者が張った防御壁を見つめる。
 『ブラックアッシュ』鳳 黎子(BNE003921)も同様に、揺らめく煙人に狙いを定めた。
「せめて人殺しにならないようにしてあげましょうか」
 赤と黒の三日月刃を構えた黎子の傍ら、こくりと頷いた『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)が煙の従者との距離を詰めた。動き始めたリベリスタに対し、自棄気味になったアキラも石を構えて機を窺う。
 刹那、リベリスタ達よりも先に動いた煙人が禍々しいまでの炎を生み出した。
 広がる焔に耐えながら、『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)は魔力剣の柄を握り直す。それと同時に極細の気糸がアキラに向けられたが、予想通り攻撃が貫通することは無かった。
「復讐の炎とはよくいったものだが、自分の命を燃やしてまでのトレードは割には合わないだろう」
 リスクヘッジができてこそのギャンブルだ。
 そう告げた少年の瞳は静かな色を宿し、戦いへの熱を燃やす青年を映した。

●揺らぐ烟
 髪の先が焦げ付き、独特の香りが鼻先をくすぐる。
 ヤマは周囲に燃え広がる赤を瞳に映すと、気糸を四方へと解き放った。魔糸の軌跡は真っ直ぐな線を描き、煙の従者を穿った。されど、未だ戦いは始まったばかり。
 煙はもやもやと形を変え、そんな攻撃など取るに足らぬとばかりに動きはじめる。
「説教をするよな立場ではないし、ヤマの業とはちと違うが、真っ当な仕事も少しは、の」
 いこか、と軽く呟いた彼女は揺らめく煙を視界に捉えたまま、戦場の様子を窺った。
 そんな中、従者との距離をひといきに詰めた黎子が軽やかなステップを踏む。味方を巻き込まぬよう、踊るように振るわれる刃の舞は敵を次々と斬り裂き、従者を巻き込んでゆく。
「煙のようですが、手応えはあるようですね!」
 攻撃が確かに効いていると感じ、黎子は身を翻した。
 次の瞬間、打ち込まれたのはアキラの骸灰による焔だ。視界を奪う程の熱が彼女を包み込み、迸る。リベリスタが一撃で屠られることは無いが、その炎は傍目にも相当なものだと分かった。
「あまり、そう安易に使うな。目減りするだろう」
 杏樹は敢えてそういった言葉を選び、使用回数の制限があるように思い込ませる狙いに出る。
 従者に向けた業火を帯びた矢が弧を描く最中、杏樹は骸灰を見据えた。彼女の言葉と目線により、僅かな動揺を覚えたらしき青年だったが、それは火に油を注ぐような言葉でもあったらしい。
「減ったとしてもそれが何だ。目的さえ果たせれば俺はそれで良い!」
 ぎりぎりと奥歯を噛み締めるアキラは必死に見えた。それ程に殺したい相手を憎んでいるのだろうか。否、彼は自暴自棄になったようにしか映らなかった。
「これだからギャンブル狂いは」
 光輝の防御壁を展開していたシビリズが呆れたような言葉を紡ぐ。
 ああいった類はゲームの範囲のみで楽しむべきだ。それが彼自身の思いではあるが、己が金を何に費やそうとも構わず、ギャンブル自体は個人の自由だとも思う。どちらにしろ救えない相手だと感じながら、シビリズは破邪の力を帯びた槍を振るった。
「邪魔だ、退け。煙如きが私を遮るなッ!」
 切り裂く刃が従者の身を揺らがせ、大きな衝撃を与える。
 その隙を見逃さなかった玄弥が素早く暗黒の力を解放し、煙人達を一気に巻き込んでいった。
「煙だけにけむにまかれるんですかねぇ」 
 冗談めいた一言を口にし、玄弥は鋭い双眸を僅かに細める。
 その態度に馬鹿にされていると感じたのか、アキラは強く足元を踏み締めると怒りの声をあげた。
「どいつもこいつも! どうせお前らもアイツらのように俺を騙そうって魂胆なんだろうな!」
 巡りゆく戦いの中、彼は二発目の焔を放つ。
 煙の従者からも向けられる火を身体で受け止め、果敢に堪えるフラウは徐々に此方が押されかけている状況を察した。しかし、だからといって弱気になる等という選択肢は取れない。調子に乗って三発目を撃とうとする青年を睨み付け、フラウはじりじりと痛む腕を擦る。
「大抵の場合、こういうのは自分の手に入れた力に天狗になって、周囲に迷惑掛けるだけ掛けて盛大に自爆していくんすよね。ホント、始末に負えない話っすよ」
 それでも、彼を救えるのならば。未だ間に合うのなら力を尽くすのが常。
 フラウの澱みなき連続攻撃が瞬時に見舞われ、一体の煙の従者の動きを留める。一瞬にして霧散してゆく煙は強敵ではあるが、決して倒せない相手ではないとリベリスタ達は感じ取った。
 陸駆は不可視の刃を周囲に生み出し、煙人が二体固まった場所へと解き放つ。
「人を傷つけ、それを神秘をもって行うのであれば、傷つけられる覚悟を持ってもらおうか」
 言葉を向けるのは無論、バリアに守られた奥に居るアキラに対してだ。
 刃が従者たちを切り刻む中、青年は忌々しげに陸駆達を見渡した。その表情からは言い知れぬ不安と焦燥が入り混じり、何とも言えぬ感情が見て取れる。
「この、ガキが……っ」
 従者とリベリスタが激しく攻防を繰り広げる中、アキラが悪態を吐く。
 子供はどちらなのだか、と言葉にしない思いを抱いた陸駆に続き、旭も周囲の敵へと崩落撃を見舞った。炎自分の肌を掠めていく中、旭はふと思う。
 先程、あの青年は「騙された」という事を口にしていた。きっと、彼の周囲には今までろくな人間が居なかったのだろう。もしあの捨て鉢にも似た態度がそういった環境から生まれたものだとしたら――それは酷く悲しくて、辛いこと。
「何にしたって、アキラさん! それは簡単に使っちゃいけない力なんだよう!」
 必死の思いを呼び掛け、旭は煙を穿つ。
 そして彼女が相手取った対象が途端に揺らめき傾ぐ。ゆっくりと二体目の従者が消えていく姿を横目に映しながら、旭は新たな標的に眼差しを向けた。

●鮮烈な赤
 燃え盛る炎が空気を熱し、喉がひりつくかのようだ。
 刃が振り下ろされ連撃が叩き込まれる。幾度も巡る攻防の中、双方ともに消耗している。
「まだまだ残暑が残ってるのぉ」
 冗談めいた言葉で誤魔化す玄弥だが、彼をはじめとしたリベリスタ達に大きな回復の術はなく、ただ炎を避けながら受けた痛みを耐えることでしか対処が出来ない。つまりは、いつ誰が倒れてもおかしくない状況だ。
 青年が四度目の炎を解き放ったとき、対象となったフラウの身が傾ぐ。
「このくらい、まだ耐えられるっすよ」
 遠退きそうになる意識をしかと保ち、運命を手繰り寄せた彼女はナイフを構え直す。
 既に半分、青年は命を削っている。流石に疲弊も見え始めているが、彼が攻撃を止めようとする気配は見えない。此方が止めようとすればするほど、反抗するように攻撃を仕掛けてくるのだ。
 地を蹴ったフラウの斬撃が従者の体の一部を穿ち、大きな衝撃を与えた。だが、相手から放たれ続ける猛攻は未だ侮ることは出来ない。
 敵方の炎に巻かれても揺らがぬよう、杏樹は出来る限り平然とした態度で挑む。
「炎の使い方が甘い。消し炭に変えたいなら、こうだっ」
 インドラの矢が残る敵へと打ち放たれ、煙達に業炎を宿してゆく。焼けつくような香りが辺りに充満し、別の意味で意識が飛びそうにもなったが、此処からが勝負でもある。己の疲弊を感じている杏樹は凛と口元を引き結び、更なる一撃への狙いを高めた。
 その間にも煙人が放つ焔が広域に拡散し、ヤマの身を焼いた。
 無論、後方までの攻撃を遮蔽しようと動くシビリズ達も前方にいるのだが、放たれた一撃は容赦なくリベリスタ達を襲う。火炎がじわりと己の力を奪い取る感覚に倒れそうになるも、ヤマもまた己の運命を賭けて立ち上がる。
「……なあ、ちと聞きたいのだが。ぬしゃ本当に命を賭けてまで焼きたいのか? ちぃと手が滑れば今ここでヌシは死ぬ。焼いたら焼いたで焼いた奴が死ぬ」
 そこまでやる恨みや悩みがあるようにも見えぬが、とヤマはアキラに問うた。
 ぼろぼろになりながらも立ち向かう彼女達に一瞬は怯んだ青年だったが、舌打ちをして答える。
「死ぬなら死ぬでそれも良い。もういいんだ、こんな世の中なんて全部燃えちまえよ!」
 吐露された言葉はおそらく、半分以上が本気だ。
 陸駆は幼いながらも、その感情に機微に気付く。ギャンブルなどもう真っ平だという姿勢を見せる彼だが、結局は自分の命さえベットしてしまっているのだ。愚かで哀れな青年を少年が見据えたとき、相手が五度目の炎を生み出した。
「五回目だ。貴様もそろそろ気づいているんじゃないのか。自らが、生命が削られている底冷えを」
 まともに一撃を受けた陸駆は熱に耐えながら、警告を発する。
 倒れそうになっても地を踏み締め、堪えた陸駆。息を切らしながら石を握り締めるアキラ。
 両者の視線が重なりあう中、黎子は魔力を秘めたカードを嵐のように舞いあがらせる。残る二体の従者の耐久力は未知数。それゆえに、と敢えて狙いを絞らなかった彼女の一撃は消滅の運命を対象に与える。
「……本当の復讐の思いを込めた炎っていうのはですね、こんなに微温くはないんですよ」
 受けた熱さを思い返しながら、黎子が告げた。
 その瞬間、一体の煙が掻き消えるようにして防衛機能を失う。それまで果敢に残りを相手取っていた旭も額の汗を拭い、最後になった従者をしかと見据えた。相手も消耗しているが、自分とてそれは同じだ。
 必死に立ち回り、森羅の呼吸で態勢を整えた旭は思う。
 多分、青年は疲れ果てていただけなのだ。やさしい人に巡り逢えず、死んでも良いとまで思えるほどに追い詰められている。ならば、本当に彼を救えるのは自分達しかいない。
「全部奪われてなんてないよ。まだいっぱい持ってる」
 だから、とアキラに向けた旭の言葉にはちいさな想いが宿っている。
 冗談でも気休めでもなく、それは少女が真に思うことだ。その言葉にはっとした青年だが、今更止めることは出来ぬとばかりに石をかざした。此方が従者を相手取る間にも、六度、七度と命を削る焔を解放していく。
 それに対抗するようにしてフラウの斬撃が見舞われ、杏樹の精密射撃が追撃として打ち込まれる。
 ヤマも弱りゆく従者を見つめ、徐々に最後の決着が近付いているのだと感じていた。
「てめぇが火ならこっちのや闇が出てくる。最後まで抵抗するんやったら、覚悟しとくんでさぁ」
 警告にも似た言葉を紡ぎ、玄弥は魔閃光を打つ。
 同時に受けた炎が彼の体を焼くが、鋭く収束した闇の一撃も煙を揺らがせた。次第に防護バリアの幕が薄まりはじめている事を気取ったシビリズは、深く息を吸い込む。
 相変わらず獄炎が体に纏わりつき、熱でどうにかなってしまいそうでもあった。しかし、彼は引き寄せた運命を以てして己を強く保ち、槍の柄を握り締める。そう、此処まで追い詰められてこその逆境こそが彼の真髄でもあるのだ。
「さぁ――最期だ。終わりの一瞬まで闘争を楽しもう!」
 焦る青年ごと相手を見据え、シビリズは切先を従者に向ける。そして全身の膂力を爆発させた彼はひといきに敵を貫き――煙は跡形も無く消え去り、アーティファクトの化身は其処ですべての力を失った。

●灰に帰す
「嘘だろ、何なんだよお前……――らっ!?」
 驚愕した青年が後退しようとしたとき、ぺちんと軽い音が響く。
 突然のことに呆気に取られたアキラは其処でようやく、自分に近付いた旭がアーティファクトを叩き落としたのだと気付く。そこに痛みはなかったが、石はころころと地面を転がった。何すんだよ、と追い掛けようとする青年に対し、陸駆がすかさず動く。
「チェックメイトだ」
 自信満々に告げられた言葉と、喉元に突き付けられた剣。無論、陸駆は彼を傷付ける気など無い。単なる脅しなのだが、思わずアキラが怯んだその間にフラウが駆けた。
「コレはアンタが持っててイイモノじゃねーんすよ。だから、壊させてもらう」
 容赦なく、素早く打ち込まれた一撃が骸灰を打ち砕く。
 一瞬、赤い熱を宿したアーティファクトはすぐに色と熱を失い、ただの欠片と成り果てた。
「これにて一件落着。こんなものがあっても、どちらにしても残るのは残骸ばかりでさぁ」
 ええ勉強になったやろ、と笑った玄弥は後は任せたとばかりに先に去っていく。
 その後ろ姿を茫然と見つめた青年は、唯一の頼りだった代物が壊れたことに対しての絶望と、蓄積した疲弊との両方に打ちひしがれていた。石が研究に使えるかもしれないと考えていた黎子だったが、青年の為にもこの場で壊してしまう方が良かったのだろうと納得する。
「畜生、畜生が……」
 へたりこみ、弱々しい声で呟き続ける青年に、シビリズは冷ややかな視線を差し向けた。
「諦めたまえ。ソコにまで至った時点で、君にギャンブルの才は無いのだ」
 きっと、命を賭けることすら向いていなかったのだろう。自業自得ではあるが、彼がこれ以上の過ちの道を歩まぬことだけは救いとも言えるはずだ。そう感じたシビリズは軽い溜息を零すと、ただの残骸となったアーティファクトを見下ろした。
 杏樹もまた、戒めを込めた言葉をアキラに告げる。
「これに懲りたら、ギャンブルから足を洗うんだな。破れば、次はその命を奪うぞ」
 今回は運が良かったから助かっただけ。もし次があれば保障はしない、と語られたことに青年は驚き怯え、こくこくと頷くことしか出来なかった。
 フラウもそんな彼に情けなさを覚えながら、呆れたような瞳を向ける。
「ったく、これからはもう少し陽の当たる生き方をする事をお勧めするっすよ?」
「んなことわかってんだよ……うるせえよ」
 項垂れる青年の物言いは相変わらずであり、リベリスタ達は顔を見合わせた。そうして仕事を終えた仲間達が青年を置いて去ろうとする最中、旭はそっと彼の傍に屈み込む。
「ね、一番楽に生きる方法知ってる? それはね、誠実になることだよ」
 普通に仕事をして、気の置けない友達を作って、少しでも信頼し合える友達を作ること。
 それが出来れば楽しいよ、と微笑みかけた旭の表情は、青年にとって眩しいもののように思えた。
 何より、彼女が戦いの最中から紡いできた言葉の中には優しさが宿っている。先のことなど判らぬが、それだけは何故か確かなもののような気がしたのだ。
「……そうだな、そう……出来たら良いんだが」
 顔を上げたアキラは何かに焦がれるような表情を見せ、そして黙り込んだ。旭はそれ以上は何も告げず、或る意味で世界を嫌った彼を暫し見守り続けていた。
 そんな彼らの様子をちらと見遣ったヤマは、ふと独り言のような呟きを零す。
「死ぬのも良い、か。果たして何処までが本心かの」
 先程に彼が言っていた事を思い返し、ヤマは何とも言えぬ感情を弄んだ。その言葉すら業ならば、この青年はこれからをどう生きて行くのか。それは未だ、誰も知らぬ未来の話だ。

 振り仰ぐ夕陽はいつしか沈み、間もなく宵が訪れるだろう。
 暮れから夜の色に移り変わる空の彩は宛ら、熱を失ってゆく骸灰の最期にも似ていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
どん底まで落ちたならば、後は這い上がるだけ。
青年が底から上を目指すかは未だ分かりません。それでも、皆様の力は確実に最悪の展開を救ったのだと思います。少なくとも、今だけは。

あまり後味が良いお話ではありませんでしたが、無事に成功です。
ご参加、どうもありがとうございました!