●お人形はふたつもいらない 「ママ、わたし新しいお人形がほしいわ」 可愛らしい少女が、母親の服を引っ張ってせがんだ。 その手に持っているのは、波打つ美しい金色の髪に、赤いお洋服を着た女の子のお人形。 しかし、少女はそのお人形ではなく、新しいお人形がほしいのだと言う。 「お人形は、この間買ったでしょう?」 少女が手に持つお人形を指して、母親は子供をたしなめた。 その通り、そのお人形はまだ真新しく、目立った傷もなければ色だって新品のように綺麗だ。 それでも、少女は言い募る。 新しいお人形がほしい。これではダメ。これは違う。 少女がほしいのはすでにそのお人形ではなく、新しいお人形なのだ。 「違うわ、ママ。わたしがほしいのは、赤い髪で、桃色のお洋服を着たお人形だもの」 前にほしいと言っていたお人形は、確かにその手の中にある人形だったけど。 今ほしいものは、もうこれではない。 ねえお願い、新しいのを買って。 そう言ってせがむ子供に母親は仕方ない子ね、と笑って。きっとまた新しいお人形を買い与えるだろう。 そうして、いらなくなったお人形はどうなるのか。 必要とされなくなったお人形は、どこへ行くのか。 新しく買い与えられたお人形を嬉しそうに抱いた少女の手から、無用のお人形が零れ落ちていく。 使い古されたお人形の視界には、新しいお人形を抱いて満足そうに笑った少女の笑顔が映る。 そうして、気付くのだ。 嗚呼―― 自分は、捨てられるのだと。 「ねえ、あそびましょう」 夜な夜な、そう言ってそのお人形は現れる。 波打つ美しい金髪の髪。赤いお洋服に身を包んで、通りがかった誰かの手に触れる。 ねえ、あそびましょう。 ずっと、ずっと、いっしょに。 触れた手は冷たく、思いのほか力が強い。 捕まれた手が青く痕を付けるほどに握り締められて、そしてお人形は捕まえた人間を暗がりへ引きずり混むのだ。 あそびましょう、あそびましょう。 お人形は何度もそう言って繰り返す。 笑顔を象った顔は、お人形だけあってとても美しいものだろう。 しかし、その目は笑顔に不釣合いなほどにほの暗く。 ビー玉のように感慨も浮かばない目で、冷たくなった人間を見下ろす。 「どうして、あそんでくれないの」 大切にしてくれるって、言ったのに。 ずっと遊んでくれるって、言ったのに。 ずっとわたしと遊んでくれなきゃ――ダメじゃない。 捨てられたお人形は、そうして夜更けの道をさ迷い歩く。 優しく抱いてくれていた少女の手は既に遠く、その手では何も掴めないから。 どうしようもない嘆きを吐き出して、お人形はまた次の人間を探して、彷徨い続けるだろう。 ●禁じられた遊び 「女の子を象ったお人形のエリューションが現れるの」 それは、大好きだった少女に捨てられエリューション化してしまったE・ゴーレムだ。 『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)はブリーフィングルームに集まった面々を一瞥し、今回の事件を伝える。 「お人形は夜な夜な道を歩いて、女性であればもう誰彼構わず攻撃してくるみたいだよ」 お人形にしてみれば、もしかすれば遊んでいるつもりかもしれない。 夜更けの路地で見つけた人間の手を掴んで、暗がりへと連れ込んでお人形はその遊びの果てに殺してしまうのだ。 その路地は元々人通りも少なく、だからこそお人形は女性でさえあれば構わずに襲ってくるのだろう。 たまたま通りかかった仕事帰りのOLでもいいし、勉強の合間にコンビニに行こうとしていた学生でもいい。 もうぼやけてしまった元の自分の持ち主を思い浮かべながら、お人形は彷徨っているから。 だから、思い出の中の少女の面影を、通りすがりの女性に重ねて遊びをはじめてしまう。 また、お人形は女性を狙って攻撃するが、邪魔をするものがいれば誰であれ同じく攻撃してくるだろう。 遊びを邪魔されるのは、誰だって嫌であるようにそれはお人形にもいえることだ。 「お人形の周りには、もう2体のE・ゴーレムがいるよ。ゴミが固まって小人みたいな形になってるみたい」 ゴミの小人は、お人形を守るように動くようだ。 お人形はそうすることで、心置きなく狙った人間と遊ぶことが出来るから。 「お人形は遊びたいだけかもしれないけど、それはとても危ないことなの」 ただのお人形であれば、違ったかもしれない。 でも、エリューションとなったお人形は、既にただの玩具ではない。 力を持ってしまったお人形は、わけもわからないまま、ただ衝動のままに動いているのだ。 遊びたい――たった、それだけの気持ちで。 「でも、あなたたちなら、遊んであげられるよね」 だから、お願いするね。 お人形と、遊んであげてほしいの。 イヴはそう言って、リベリスタたちを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ここの | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月23日(日)23:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夜更けに彷徨う 冷たい帳の落ちた、深い夜。 ほの暗い夜は、空一面を塗りつぶすように青黒く、星の灯りは小さい。 静けさに沈黙する夜更けの路地を照らすのは、自然の光ではなく路地に建て並べられた街灯だけだ。 その中で。 リベリスタたちは、ここで彷徨っているというお人形のために訪れた。 「本当に、ここにお人形がいるのかな」 だとしたら、やっぱり寂しいよね。 街灯の下で、『エターナル・ノービス』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)が呟いた。 次いで、あたりを見回して、お人形の影を探す。きっといまも、彷徨っているはずだ。 「可愛いお人形さん、ふたりいたって全然いーのに」 「そうだよねっ、可愛いお人形を不要だから捨てるなんて、そんなことってないよねー!!」 倣うように街灯の下で足を止めて『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)も、悲しげに眉を下げる。 それに強く同意を示したのは『愛に生きる乙女』御厨・忌避(BNE003590)だ。 金色の飴玉のような目に、早くもぶわりと大量の涙を浮かべて大きく頷いている。 不必要だから捨てるなんて。そんなの寂しいに決まっている。 でも、きっと。 そんなのは、別段珍しいことじゃないのだ。 いらないものは、いらない。いらないものは――捨てるもの。 「人は色々な物を捨てて生きていく。思い出も、物も。忘れ去っていく」 羨ましいよ。『語り手を騙りて』ジョバンニ・F・アルカトル(BNE004038)が目を伏せれば。 「……僕たち誰しも、経験があることではないでしょうか」 自身にトップスピードを付与した『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)は、少しだけ、考えてみる。 新しい玩具を手に入れてしまえば、古い玩具に対しての愛着なんて、すぐに薄れてしまう。 子供なんて、特にそうだ。新しいものが好きで好きで、仕方がない。 今回のお人形のことも、珍しいことではなかったのだろう。 ただ、そういった不可思議なことがいくつも重なってしまってしまっただけ。 きっと、それだけのこと。 心の中でそう考えたけれど。それでも、叶うことならば。 「なればこそ、愛音はお人形殿と遊ぶだけなのでございますよ!」 『愛の一文字』一万吉・愛音(BNE003975)が、指でハートマークを作り、明るく笑う。 お人形の遊びたいという気持ちに応えるなら、めいいっぱい今日は遊ぼう。 そうすることで、お人形が自らの意思で昇華していけるように。 「――あそんで、くれるの?」 そのときだ。 ゆらりと暗闇から現れたお人形が、笑う。 暗がりに波打つ金色の髪の、赤いお洋服をまとったお人形だ。 お人形はゴミの小人を引き連れて、リベリスタたちの前に現れると、ゆったりと笑みを深めた。 そう、あそんでくれるのね。うれしいわ。 お人形らしい小奇麗な顔を歪めれて、お人形はそうして暗がりの路地へと誘う。 「さあ、あそびましょう」 ずっと。そう、ずっと。 ずっといっしょに――あそびましょう? ●暗闇に微笑む 「お人形さん。さあ、一緒に遊びましょう?」 そう言って、はじめに動いたのは『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)だった。 金髪の髪に、赤いお洋服。お人形の姿を視界に納めて、そっと目を細める。 思わず胸が痛むのは、きっとどうしようもなく、いつかの自分の姿と重なってしまったからだ。 ミリィは痛みを耐えるように杖を握り締めて、効率動作を共有して自身の力を向上させていく。 かつて優しく抱いてくれた誰かに手を伸ばしても、伸ばしたその手は決して届かないけれど。 一人ぼっちは、忘れ去られ置いていかれるのは、嫌だから。 だからミリィはお人形へと手を伸ばして、そっと笑いかけるのだ。 お人形が大好きだった女の子ではないけれど。この手は、その手を掴むことが出来るはず。 「あなたの流儀で遊んであげるわ。さあ、遊びましょう」 今だけは、あなたは私たちのお人形よ。 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)も、並ぶように立ち手を差し伸べる。 持ち主に捨てられ、彷徨い続けたお人形に罪はない。けれど、世界が受け入れることもない。 世界を守るために滅ぼさなければならないけれど、だからこそ。 せめて、たくさん、たくさん遊んであげられるように。 自前に展開していた魔陣は氷璃へと力を与え、自らの血液を黒い鎖となしてゴミの小人たちへと差し向ける。 濁流のような攻撃が、ゴミの小人たちを飲み込んでいくのがわかった。 お人形はそれを後から眺めて、ゆったりと笑っていた。そして、くるりと一回り。 「そうね、あそびましょう。だいじょうぶ、きっとたのしいわ」 そうしてリベリスタたちに笑いかければ、ゴミの小人も動き出す。戦うために――否、遊ぶために。 その様子を見ていたリベリスタたちも、もちろんそれを皮切りに動き出す。 遊びはもう、はじまっているのだ。 「ゴミの小人は、僕たちに任せてください」 孝平はそう言って、まず予め決めていた優先順位に従ってゴミの小人へと攻撃をしかける。 決して止まることのない、澱みのない連続攻撃がゴミの小人へと突き刺さった。 更に、それに続くように。 「そうそう、お人形さんはよろしくね!」 旭も前衛をかけ、ゴミの小人へと集中的に攻撃をしかける。 一気に間合いを詰めたその攻撃は、激しい雪崩のような威力をもってして、ゴミの小人を地面へと叩き付けた。 すると、足を取られ地面へと叩きつけられたゴミの小人の体が崩れ、いくつかのゴミが散らばってゆく。 様々なゴミをいっしょくたに集めただけの、元はただのゴミの塊だ。 攻撃によってぼろぼろと体を崩していったゴミの小人が、痛みに小さなうめき声を上げる。 そこで、気が付いた。 ゴミの小人から、異臭が漂い始めたのだ。 なんとも言えない生臭さと、何かが腐ったような腐臭による濃度の濃いその異臭に、リベリスタたちは顔を歪めた。 気が付けばそれは早く、鼻を劈くような臭いがあたりに充満し、吐き気さえ感じる。 う、と短い嗚咽を漏らして鼻を押さえたリベリスタたちに、メイは慌てて仲間の回復へと動いた。 こうしては、いられない。 「いま、すぐに回復するからね!」 動けば早く、メイはそう言うやいなや、詠唱を紡ぎ、癒しの息吹を具現化させる。 状態に異常を来たす攻撃に対抗できるのは自分しかいないからこそ、役目もシンプルなものだ。 仲間すべてに行き渡るようにと思いを乗せた息吹は、そうしてリベリスタたちを包み込み、異臭を取り除いていった。 やっと、息が出来る。 取り除かれた異臭に思いっきり息を吐いて、次いで吸い込んだのは忌避だ。 二度とあんな異臭に触れたくはない。お人形のこともあるのだから、早く倒してしまわなければ。 声を張り上げて怒って見せせた忌避は、思いを新たにゴミの小人へと追撃をはじめる。 「もうっ、悪い子にはおしおきだよー!!」 すばやい詠唱で魔方陣が展開されれば、今まさに旭を攻撃したゴミの小人へと魔力の矢が放たれた。 そして。 ジョバンニの1$シュートが併走して撃ち放たれれば、まず1体のゴミの小人が地に伏すことになった。 ゴミを集めて出来た小人は、存外脆いのかもしれない。 ジョバンニは崩れ落ちただのゴミの塊となったものを見つめて、言葉を落とす。 「キミ達はもう、充分頑張ったよ。だから――星屑になって、ゆっくりとおやすみ」 残る1体の小人も、そう時間もかけずに星屑になる。 夜空の小さな星灯りを見上げて、そうしてお人形へと視線を移した。 ふわり、ふわり。 お人形は暗がりの路地で、楽しげに髪を揺らして笑っている。 ゴミの小人たちが崩れていっても、お人形は悲しくはない。 きっとお人形は、それが自分であっても、同じことだ。悲しくなんてない。 それは壊れることよりも、遊んでもらえない方がお人形たちにとっては何倍も悲しいからだ。 こうして遊んだ末に壊れるなら、きっとその方がよかった。 忘れられていくより。捨てられていくより。 こんな風に彷徨い続けて寂しい思いをするよりも。その方が、ずっとずっと良い。 「ねえ、あそびましょう。あそびましょう」 だから、そう言って繰り返す。 ただ、遊びたいだけ。何より、愛してほしかっただけ。 そんなお人形の言葉にいち早く、言葉を返したのは愛音だった。 「一万吉愛音でございます。お人形殿と遊びに来たのでございますよ! LOVE!」 お人形の気を引くように一歩前へと踏み出て、にっこりと笑いかける。 あやとりでもいいし、お手玉でもいい。遊び方は色々ある。 うたを歌ってもらうのだっていいかもしれない。 なんにしても、ゴミの小人を先に倒すならば、お人形の気をこちらに逸らしておかなければ。 愛音に続くようにミリィもお人形へと声をかけ、もう一度手を差し伸べてお人形の気を引く。 「何をして、遊びたいですか?」 指折りに色んな遊びを提案してみせれば、お人形は首を傾げる。 笑っていたお人形が、僅かに目を瞬かせて愛音たちを見ていた。 お人形はもう一度、目を瞬かせると、小さく頭を振る。 「よくわからないわ。そんなあそび、しらないもの。でもね、」 そこで一度、言葉を切る。間を置いたお人形は、少しだけ考えてみせる。 そうして、金色の髪を揺らして近づいてきたお人形は、そのまま差し伸べられた手のひらを掴み―― 「あそぶなら、たのしいほうがいいでしょう?」 ぶわりとなびいた金色の髪が、ミリィと愛音に襲いかかった。 ●宵闇に遊ぶ 残る1体のゴミの小人へと最期の攻撃をしかけた孝平は、切り伏せたゴミの塊を確認した後、仲間を振り返る。 既にお人形と応戦している仲間たちの様子を見れば、戦闘はゴミの小人たちを倒し終え、お人形へと移り変わっているようだ。 「さあ、あそびましょう。ずっと、ずっと!」 甲高い声をあげて、お人形が笑う。 こうやって戦うことこそが楽しく、こうして戦うことこそが遊びとお人形は言う。 お人形は、遊び方を知らなかったのだ。 持て余した力をぶつけることを遊びと呼ぶならば、きっと本当の遊びを知りえない。 いつかの女の子に買われて、すぐに捨てられてしまったお人形は、遊んでもらったことなどなかったのかもしれない。 長い金色の髪で捕らえたまま、その手で掴みかかるお人形に、けれどリベリスタたちが反抗することはしなかった。 攻撃をされてもなお、笑顔でいる様子に、やがてお人形の手は止まっていく。 ゆっくり、ゆっくり。やがて、その手を下ろせば。 笑っていた甲高い声も身を潜め、人形らしからぬ表情に顔を歪めたお人形は、小さく声を漏らす。 「どうして? どうしてあそんでくれないの?」 その小さな声に、ミリィは神妙に頷く。 「……あなた、遊び方を知らなかったんですね」 遊び方を知らないから、力をぶつけることしか出来なかった。 そうして、何人も何人も、女の子の面影を探して間違った遊びを続けることしか出来なかった。 悲しげに佇むお人形を見つめて、リベリスタたちは顔を見合わせた。 「う、うわーーん!!!! 人形さん、そうだったの!? そうだったのーーーー!!??」 それじゃあ遊べないわけだよね! そうだよね! その中で、忌避の涙声があたりに響き渡る。 その声に驚いたのはお人形だった。 びくり、肩を揺らしたお人形はそっと動きを縛っていた髪を下ろして僅かに後退する。 目を瞬かせて怪訝な様子でこちらを見ているお人形に、忌避はなおも続けた。 「うんうん! 忌避でよかったらなんでも遊んであげる! っていうか、人形さんじゃ呼びづらいね! 名前はあるのかな? 忌避は、御厨忌避だよ! 名前なかったら、忌避がつけてあげる!」 赤い服が綺麗だから、リコリスちゃんはどうかな。 いやいや、それなら手毬歌からとって、まりちゃんもかわいいと思う。 いやいやいや、それならソニアもどうかな。 いつの間にやら、忌避に釣られるように、リベリスタたちが話し始める。 お人形は、その様子を呆然と見ていた。 そんなお人形に、先ほどまで自分を縛っていたその金色の髪を撫で付けて、愛音がまた笑いかける。 「言ったでございましょう? 愛音たちは、お人形殿と遊びたいのでございますよ?」 その言葉が。 お人形にとって、どれほど嬉しかったことだろう。 ずっと、遊びたかった。 ずっと、ずっと、遊んでほしかった。 名前を呼んで、優しいその手で触れて、遊んでいてほしかったから。 だからこそ、力が抜けたように、それでも今まで以上に。 お人形は心の底から頷いて、そっと微笑み返したのだった。 結局、お人形の名前が決まることはなかった。 元から名前があったからではない。 氷璃が間を取り直すようにお人形へと名前を問いかけたが、お人形には名前がなかった。 それでも、名前が決まることがなかったのは。 お人形がどの言葉にも頭を振り、名前をほしがらなかったからだ。 「ありがとう、でもなまえはいらないわ。なまえは、なくていいの」 いつかの女の子の面影を思い出しながら、お人形は笑う。 名前を持ち主からもらうこともないまま、捨てられてしまったけど。 次に、また誰かに拾われることがあるならば。そのとき、名前をつけてもらえればいいから。 いまは、名前のないお人形のままでいい。 「それより、ねえ、あそびましょう。あやとり? おてだま? わたしに、おしえてほしいの」 どんな遊び方をすればいいか、わからないから。 どうぞ教えてくれませんかと、手を差し伸べて。 そうして微笑んだお人形の手に触れれば、今度こそ。その手を掴むことが出来たから。 「いいよ! 私たちが教えてあげる!」 「たくさん遊んだら、うたも歌おう。歌ってくれたなら、ボクもいっしょにハーモニカを鳴らすよ」 夜はまだまだ長いから。たくさん遊べるはず。 遊べなかった分も、たくさん、たくさん遊べるはず。 笑い合うお人形とリベリスタたちの夜は、そうして、更けていった。 ●夜明けに溺れる 遠い向こうの夜空が、少しばかり明るんでいるのが分かる。 空を見上げたリベリスタたちは、近づく夜明けの空の下で、そっと息を吐いた。 どれだけ遊んだだろうか。わからないくらい、久しぶりに遊び倒した気がする。 目の前で満足げに微笑んでいるお人形を見れば、どことなく心の中が暖かくなるようだった。 「いっぱい遊んだでございますね、お人形殿」 「そうね、あそぶのって、こんなにたのしいのね」 ありがとう、そう言って笑ったお人形は、そうしてリベリスタたちを見回した。 「もう、だいじょうぶだよ。とてもたのしかったから」 リベリスタたちの目的は、お人形と遊ぶこと。そして――撃破すること、だ。 僅かに表情を曇らせたリベリスタたちに、お人形はもう一度繰り返す。だいじょうぶ。 やがて。一歩踏み出した氷璃に応えるように、お人形も一歩踏み出す。 そうして優しく抱きしめたなら。 血液から成した黒い鎖の中に、閉じ込めるようにして氷璃は葬操曲を奏で、そして。 お人形は最期、眠るように温かな腕の中で最後の夜を終えたのだった。 「おやすみなさい」 誰からともなく、目を伏せて呟く。 ゴーレムであっお人形は、壊れてしまったけれど。 きっと次に、お人形として作られたなら。名前をつけて、遊んで、愛してもらえるように。 リベリスタたちは、ただそれだけを願った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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