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ヒーローになれない朝が来る


 はじまりは、子供っぽい憧れだったように思う。
 誰にでもあるだろう。薄い液晶の向こうで戦う、正義の味方に憧れていた時が。

 彼は、ひとが出来ることならば、大抵のことは出来た。
 出来ないことも勿論あったけれど、努力は欠かさなかった。どうしても出来ないことは、他で補った。
 誰もが、彼のことを好きだった。そんな彼のことを妬むものも居たが、それでも。
 そんなひとにも、彼は手を差し伸べてきた。
 ひとを助ける自分に浸りたかったわけじゃない。感謝されたかったわけじゃない。
 ただの、子どもっぽい憧れだった。誰かにとってのヒーローでありたかった、それだけなのだ。

 彼はいつだって、ヒーローだった。
 彼はいつだって、ヒーローだったのだ。

 だから、彼が革醒を果たしたとき、彼は驚かなかった。
 これは、人を救う力だ。この日の為に、今までがあったのか。そう、納得した。
 時に力無い人を助け、時に志半ばで倒れた人の意志を継ぎ。
 時に、大勢を助ける為に仲間と信じた人を切り捨てた。
 彼は、どれほどの人に愛され、どれほどの人に憎まれたのだろう。それは誰にも分からない。
 愛された分と同じくらいの、もしかしたらそれ以上の痛みも苦しみも、すべてその身に背負って。
 彼はヒーローで有ろうとした。その姿は間違いなく、ヒーローだったのだろう。
 けれども。幾度倒れようと己の無力に嘆こうと、彼を祝福し続けた運命は有限だった。
 彼はそれを知らなかった。気付こうとすれば、気付けたのかもしれない。
 でも。ヒーローでない自分なんて、彼は知らなかったから。
 ある日、世界のすべてが彼に牙を剥くだなんて、彼は思わなかったのだ。信じなかったのだ。
 ヒーローになれない朝が来る。
 世界は優しいのだと、ほんとうに悪人などいないのだと、心から信じる『彼』のもとへ。

 せかいはやさしかった。
 誰が生きようと、誰が死のうと、誰が愛されようと恨まれようと。
 せかいはいつだって変わらず、今日も陽は昇って沈んでいくのだ。
 ヒーローになれない、朝が来る。


「ノーフェイスの討伐」
 たった一言。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は資料を手渡しながら、言った。
 そしてそのまま目を伏せて黙り込んだ少女の顔を、リベリスタたちが覗き込む。イヴははっと顔を上げて。いつもより歯切れの悪い、なんとも不明瞭な説明を付け加えた。
「………ごめん。彼はもうヒーローじゃない。ヒーローじゃないから、討伐してきて」
 不思議そうに首を傾げたリベリスタたちをぐるりと見回したイヴは、再び資料に視線を落とす。
「彼が革醒したのは、ずっとずっとむかしの話。それから彼はリベリスタとして、戦い続けてきた。
 彼はひとりでも多くを救いたかった。ひとりでこの国に来て、確かに多くのひとを救ったよ」
 戦って、傷ついて、それでも守り抜いて、そうして。そうしてある日、彼は運命から見放された。
 ほんの僅かに表情を曇らせたリベリスタたちとは目を合せず、イヴはつらつらと説明の言葉を並べる。
「その日、彼は2体のEビーストと対峙している。ヒーローとして、世界を守るために」
 彼とEビーストが現れるのは、浜辺。月明かりの美しい夜のことだという。
 Eビーストも彼の手によって倒されてしまうだろうから、そちらの心配もしなくていいという。

 討伐しなければならないのは、たったひとりの、『彼』。

 まだフェイトを損失した直後のノーフェイスである『彼』だが、
 今までもこれからも、戦い続けるであろう彼を逃せば革醒が進行する可能性は非常に高い。
 だから確実に討伐してきて。ちいさく呟いた声は、どこか悲しげで。
「彼はまだ、自分に救えるものがあると信じてる。でも、もう誰も救えない。誰も、救えない」
 いろちがいの瞳を閉じて。ゆっくり開いて、もういちど。
 誰よりも世界を信じ、ヒーローで有り続けてきた彼を。そんな彼を殺せと少女は言った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:あまのいろは  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年12月31日(月)22:40
 せいぎのみかたに憧れていたのは、いつのはなしだった?
 あまのです。以下詳細となります。

●成功条件
 ノーフェイス『彼』の討伐

●ノーフェス『彼』
 いつでもヒーローであろうとした異国の男。難しい日本語は話せない。
 それでも一人でも多くを救いたいという思いだけで、ひとりで戦い続けてきた孤独な男。
 器用貧乏のお人よし。それでも私情を殺し、誰かを救い続けてきた元リベリスタ。
 フェイトを損失した直後のノーフェイスではあるが、
 基本スペックの高さは、今までひとりで戦い続けてきた努力の賜物だろうか。
 ヒーローである彼は、どこまでも『彼』でしかない。

・痛み無く(P)
 毎ターンHP中回復。人でなくなった彼は、HPを回復する能力を身につけました。
・驕り無く(P)
 WP、ドラマ値大上昇。
・迷い無く(P)
 HP30%以下で命中・回避・DAが大上昇。ヒーローであろうとした、彼の生きかた。
・躊躇無く(A/物近複/BS:致命)
 中命中、中ダメージ。特別に全力移動後このスキルを使用可能です。
・欺瞞無く(A/物遠全/BS:怒り)
 高命中、小ダメージ
・後悔無く(A/物遠範/BS:無力/崩壊/虚脱)
 特高命中、大ダメージ

●戦場補足
 とある浜辺。明かりは月と星明かり。とおくに、街の光が見えます。
 浜辺ですので、砂に足を取られると少し動きづらいかもしれません。

 以上となります。ご参加、お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■

葛葉・颯(BNE000843)
ソードミラージュ
出田 与作(BNE001111)
プロアデプト
氏名 姓(BNE002967)
スターサジタリー
天ヶ瀬 セリカ(BNE003108)
ソードミラージュ
佐倉 吹雪(BNE003319)
ダークナイト
鋼・剛毅(BNE003594)
レイザータクト
伊呂波 壱和(BNE003773)
デュランダル
羽々希・輝(BNE004157)


 ぎゃいん、獣が吠えてその場に崩れ落ちた。
 たった今倒れたばかりのそれの横に、同じようにもう一匹の獣が倒れていた。
 満天の星空。風は冷たい。寄せては返す波のおとだけが、静かに響いている。
 倒れた獣を見つめる『彼』の耳に届いた、じゃり、と砂を踏む複数人のあしおと。
 振り返ればの八人の影が、すぐ近くにあった。
 『彼』が瞬く。そのうちのひとりと目が合った。闇より黒い、漆黒のひとみが柔らかく弧を描いて。
 『0』氏名 姓(BNE002967)が『彼』へ、ゆっくりと一礼。
「こんばんは、世界を守ってくれてありがとう」

 瞬いた。
 青い瞳は丸く、どこか幼い印象を与える。背はすらりと高い。耳の後ろで切り揃えられた金の髪はゆるいウェーブを描いている。『ヒーロー』と言うには線の細すぎるこの男こそが、『彼』だった。
「………こんばんは?」
 すこし、たどたどしかったけれど。彼は日本語でリベリスタたちに短い挨拶をした。
 彼は微笑みながら、長剣を振るって獣の血を払う。ぱたりぱたりと、砂浜に血が染み込む。
 彼は、リベリスタたちに敵意を示さなかった。武器を手にしているものの、明確に敵意を示さないリベリスタたちにいきなり切り掛かるほど、自我を失ってはいないらしい。
 そんな彼を見て、『Sword Maiden』羽々希・輝(BNE004157)が胸の前で、手をぎゅうときつく握った。
 嗚呼、運命はなんて唐突で、残酷なのでしょうか。
 輝からすべてを奪ったように。ヒーローであろうとした彼を見放したように。ちくりと、胸の奥が痛む。
「少し、話をしてもいいかい」
 彼に『(自称)愛と自由の探求者』佐倉 吹雪(BNE003319) が歩み寄る。彼はこくりと頷いた。
「皆のために自分を犠牲にして……か。立派な事だと思うぜ、なかなか出来ることじゃねぇ」
 吹雪の言葉に、彼は少し首を傾げる。
「………ええと」
「ああ、アンタはずっと戦ってきたんだろう?そんなアンタが凄いと思ったのさ」
「……ああ。いえ、そんなことは」
 彼は首を横に振る。それでもどこか嬉しそうに、照れくさそうに微笑んだ。
 そんな彼の姿はどこか寂しげに見えると、『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)は思う。
 英雄とは、こうも孤独なものなのでしょうか。ヒーローとは、自分を殺さなければいけないのでしょうか。
「名前を。名前を教えて頂けますか。尊敬する一人の先輩として。英雄の名を知りたいのです」
 電子辞書を手に何とか意思疎通を図ろうとする姿に、彼が微笑む。学生帽の上に、彼の手がぽんと乗せられた。びくりと身を震わせた壱和から、彼はすぐに手を離して、困ったように笑う。
「………なのるほどの名前なんて、ないです」
「……ホントに、アンタとはもう少し早く会いたかったよ」
「ええ、ボクもです」
 瞳を伏せる。心のどこかで、そう願ってしまう。でも、もう叶うはずも無いことだった。

 姓が彼に問う。
「貴方にとってヒーローってどんな人ですか?
 困ってる人を助ける人? 悪い人をやっつける人? 世界を守る人? 沢山を救う為に何かを無くせる人?
 ………それが自分の命だったとしても?」
 続く姓の問い掛けに、彼はすぐに答えられない。姓は十分に間をおいて、彼をもう一度、見据える。
「私達も、貴方と同じ事をして来ました」
「………そのようですね」
 彼が、リベリスタたちの顔をぐるりと見回す。
 彼らが持っているそれらは、普通に生きているひとたちが持つはずのない物である。
 先ほど自分が倒した獣たちを、リベリスタたちも倒しに来たのだと思ったようだった。
「………けれど私は、ヒーローになりたい訳じゃないんだ」
 準備を、と。姓が呟く。リベリスタたちは彼を取り囲むようにして、武器を構える。
 驚いた彼が剣を引き抜くより先に、リベリスタたちが動いた。
「私達は今から貴方を殺します」


 真っ先に動いたのは吹雪だった。メンバーの中でも抜きんでた速さを誇る吹雪の攻撃が彼を襲う。
 彼が顔を歪めた。それでも、その攻撃を凌いで見せたのは、彼の経験故にだろうか。
 その後方では、『後衛支援型のお姉さん』天ヶ瀬 セリカ(BNE003108)が彼に意識を集中させていた。
 彼と言葉を交わすことはせず、見守っていただけのセリカ。彼とはあまり話をしたくないと思っていた。
 今、ノーフェイスと化した彼も、元々はセリカと同じリベリスタである。フェイトを亡くしてまで戦い続けた彼のことを、セリカは心のどこかで『英雄』と認めていた。
 それでも。例え『英雄』と言えど、討たねばならないのだ。これからもリベリスタと名乗るためには。
「……皮肉な話ね」
 情に流されてはいけない。余計なことは考えないようにと、セリカはもう一度彼を見る。
 彼が、駆ける。剣を振るう。『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843) の身体に強い衝撃が走った。
 横薙ぎに払った剣から、真っ赤な飛沫が飛び散って。自身の血で赤く染まった颯がその場に崩れ落ちる。
 彼女は立ち上がることも無ければ、もう、ぴくりとも動かない。
「疾風怒濤フルメタルセイヴァー、参る!」
 彼の攻撃を目の当たりにしても、怯むことなく『ラプソディダンサー』出田 与作(BNE001111)と、『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594) が彼へと迫っていく。
 日本語があまり達者では無い彼に、言葉は伝わるだろうか。思いは届くだろうか。
 自身は無い。けれど、与作自身がするべきだと、やりたいと望んで彼と対峙しているのだ。
 そう、彼に思いを伝えよう。与作の思いを乗せたナイフ、K-3R“ACONITUM”が彼の腕を切り裂いた。
「ヒーローたるもの、主義主張を挙げるのであれば己が力で示すのみ。
 だから俺は、俺の自慢のこの剣で全てを語る!」
 戦場に響く剛毅の掛け声。闇が剛毅の身体を包み込む。
 戦闘前に少し会話を交えていた剛毅だが、やはり剣で語る方が剛毅の性に合っている。
 思いを伝えるのに言葉は要らない。
 言葉の壁があるのならば、思いを伝えるのは熱い思いであり、交わる剣である。
 きっと、そうなのだろう。彼らが、最初からただの敵として出会っていたのならば。
 だけれど。いきなり攻撃を受けた彼は困惑した表情でリベリスタたちを見る。
 彼は、まだ理解していなかった。
 どうしてこのような状況になっているのかを。どうして自分に剣が向けられているのかを。
 そんな思いを上手く伝える術を持たない彼は、もどかしそうに歯噛みする。
 それでも。理由は分からなくとも、このままでは殺されてしまうであろうことだけは、十分理解していた。
 彼は。
 まだ死ぬつもりなど無かった。こんなところで死ぬなんて御免だった。
 たくさんのものを奪って、たくさんのものを継いで。だから、死ぬわけにはいかなかったのだ。
「……どうして」
 ぽつりと、呟くように絞り出した言葉ひとつ。
 輝が顔を歪めた。伝えるべきだろうか。信じてくれるだろうか。これからもヒーローであろうとする彼が。
 それでも、伝えなければならなかった。意を決して、輝が口を開く。
「……私達は、ノーフェイスになった貴方を討ちに来ました」
 彼の目が見開かれる。彼が何やら口を動かしたが、その言葉は聞き取れない。
「本当は戦いたくない。ヒーローだった貴方を、世界の敵として終わらせたくない。でも。でも、どうか、」
 赤いひとみを潤ませた彼女は、ヒーローである彼に【Freeze Maiden】の切先を向ける。凍てつく乙女の切先は、その名の通り冷たく光っていた。
「どうか、受け入れて下さい。そして、知って下さい。ヒーローは孤独じゃないことを」
 白い翼が羽ばたいて輝が軽やかに舞う。電気の塊が彼に纏わりついて、ばちりばちりと弾ける。
 ふらり、彼がよろめいた。
 ほんとうに衝撃を受けたのは、身体だったのだろうか。こころだったのだろうか。


「ねえ、私達と戦う今の貴方はヒーローなの?」
 問い掛けと共に、姓が彼へ気糸を放つ。返事は無い。放たれた気糸は彼の肩を貫いた。
「……何てね。あは! 私は悪い奴だよ。だからヒーローを殺すんだ」
 彼が、歯を食い縛る。真っ直ぐに姓を見たひとみの奥に、揺らめくいろは怒りのいろ。
 その感情を引き出したのは、姓の言葉に対するものでは無かったけれど。
 もしかしたら、彼が心の奥に秘めた思いを引きずり出すことには、有効かもしれない。
 壱和が畳み掛けるように放ったボールドコンバット。
 また、ふらりとよろめいた彼だったが、それでも膝を着くには至らない。
 彼は、ヒーローだった。
 今だって、弱音のひとつも溢さない。だがしかし、その姿は本当にヒーローなのだろうか。
 傷を負ったヒーローの痛々しい姿。それでも弱音ひとつ溢さない彼。
 彼が、今までもそうして生きてきたことなど、容易に想像できた。
「なあ。誰かを、何かを守りたいってんなら、まず自分を大事にしなきゃならねぇ」
 吹雪が彼に掛ける言葉。それはどこか切なくて、優しくて、悲しさが込もっていて。
「アンタはたくさんの人に愛されてて、倒れたら悲しむ人がたくさんいるんだからな……」
 だからこそ、この手で終わらせなければと吹雪は思う。
 ほんとうにただの化け物と化して、誰にも愛されず討伐されていく、そんな存在にはしたく無かった。
 吹雪が動く前、ひとみに平常のいろを取り戻した彼は吹雪を見やって、笑った。
 攻撃を受けて、傷を負って血を流して、それでも。それでも、笑った。
「やさしい、ですね」
 ぽつり、零れるように口から出た言葉は、きっと彼の本心だろう。でも、本当に聞きたい言葉は、もっともっと心の奥底に隠した言葉。それには、まだまだ届かない。
 剛毅が振るった剣と彼の剣が交わる。キィンと響く、刃と刃がぶつかり合う冷たいおと。
 その音を聞いた剛毅の目が、甲冑の向こうで細く弧を描いたように見えた。
 自身の攻撃を凌いだ彼の。そうして必死に運命に抗う彼のその思いを、剛毅の剣が感じ取る。
「そう、お前はもう誰も救えない。だからもう、休め」
「君はヒーローだった。人を救い続けた、助け続けた。フェイトを喪ったって、無かった事にはならない」
 もう、救いなんてないのだと、信じても無駄なのだと、彼とて分かっていた。
「君自身が此処で終わっても、君の歩んだ道はずっと続いて行くんだ。それは、嘘じゃない」
「………ええ」
 嘘じゃない。そうだろう。そうだといいと思う。でも、彼は与作の言葉にふるりと首を横に振る。
「でも、まだ。すくえると、しんじたい です」
「悪いけど、貴方はもう誰も救えない。だから、あたしたちが此処で終わらせる。
 戦う以上は全力を出させてもらうわ。許しは請わないし、理解してくれとも言わないけれども」
 セリカの言葉にも、ふるりと首を振った。
 それから、真っ直ぐにリベリスタたちを見つめた彼のひとみは迷い無く。彼が纏う空気が変わった。

 何かに覚悟を決めたひとは、どうしてこんなにも、強いのだろうか。
 彼がまだ誰かを救えるのだと信じる気持ちは、リベリスタたちが彼にぶつける思いよりも、すこし強かった。
 彼は抗った。膝を着いても血を吐いてもそれでも。
 彼の身体に刻まれたいくつもの傷も、常人離れした早さで癒えていく。
 精神をかき乱されて一度我を失っても、彼はすぐに我を取り戻した。
 傷口を抑えていた彼は、癒えた傷口からそっと手を離して、剣をきつく握り直した。
 痛み無く、驕り無く、迷い無く躊躇無く欺瞞無く。彼のこころは、意思は、まだ折れない。
 彼は見るからに体力を消耗していたけれど、リベリスタたちの傷も相当なものである。
 フェイトを使い、この場に立っている者も居た。
「セイギノミカタがこんなところで倒れるわけにはいかねぇよな」
 でも、終わらせなければならない。孤独な彼を、戦い続けた彼を、誰かから愛されてきた彼を。
「最後に、名前を教えて下さい。ヒーローの名前を、教えて下さい」
 構えた剣は下ろさず、輝が彼へと問いかけた。
「私は、羽々希・輝、です。貴方のことは、忘れません」
 彼が輝を見やる。やっぱり困ったように笑って、交えた輝の剣を振り払った。
「俺の自慢のフルメタルボディが火を噴くぜ!」
 剛毅が剣を振り被る。彼が剛毅の攻撃に対して、構えたその時。
「そろそろみたいだよ!」
 ばさり、風に靡く団旗。壱和が持つ、いろはの大戦旗がいっぱいに風を受け、ばさりばさりと舞っている。
 怖がりで泣き虫な壱和が、彼を見据えぎゅうと武器を握り直した。
(「泣きそうです。怖いです。それでも、傲慢でもボクは彼の命を断ち、その意志を継ぎたい」)
 彼をヒーローとして終わらせるために、その為に壱和が研ぎ澄ませた刃だった。
「間に合わなくてごめんなさい。今まで、ありがとうございました」
 一撃必殺。いろはの大戦旗が吸い込まれるように、彼の身体を深く深く抉っていく。
 彼の身体から真っ赤な血が噴き出す。壱和の服も顔も、真っ赤に染まって。武器を持つ壱和の手がぬるりとあたたかい熱を帯びた。今にも逃げ出したい気持ちを殺して、団旗を振り切る。
 彼の血で染まった砂浜に、彼が膝を着く。そしてそのまま、ぐらりと崩れた。
 だけれど。
「さよなら、良い人。たとえ正義の味方でなくなっても、良い人だったことは覚えておくわ」
「今までおつかれさん、忘れねぇぜ、世界を守るために戦ったヒーローがいたってことを」
 だけれど。
「……がっ、は!!!」
「!! そん、な……」
「まだ、しんじたい の、です」
 深く深く胸に傷を負って、それでも。彼は立ち上がった。そう、彼は壱和の攻撃を持ち堪えて見せたのだ。
「……I say "I am right, and You are wrong". With it, Are you relieved ?」
 その生き方に、後悔無く。自分を信じることを止めない彼が、リベリスタたちへ最後の攻撃を放つ。
 彼を仕留める為に前へ躍り出たリベリスタたちもいる。それらすべてを巻き込んだ攻撃は、圧倒的な威力を誇って、リベリスタたちの身体を蝕んでいった。
 リベリスタたちが次々と崩れ落ちる。もはや、リベリスタたちの体力は限界だった。
 フェイトを燃やすだけに至った姓と、彼の視線がぶつかる。ふたりの間に言葉は無い。
 やがて、くるりと背を向けた彼が、ぽつりと呟いた言葉はどこの国の言葉だったろうか。
 ひとり、歩き出した『彼』を追うほどの力は、誰ひとりとして残っていなかった。
 霞んだ視界で、彼の背を見送る。どっと襲ってくる疲労感のなか、輝は考える。
 彼のように誰かを一人でも多く救う、それも戦う理由のひとつだろう。けれど、彼女が戦う意味は、彼女だけが生き残った意味は、未だ見出せない。

 ぱちり、砂浜に仰向けに倒れた壱和がひとみを開く。
 口のなかで、血の味がする。じわりと、月が、星が、せかいが滲んだ。
 飛ばされた学生帽を、手を伸ばして掴むと顔の前へと持ってくる。壱和の頬を、つうと透明な液体が伝う。
 寄せては返す波のおとだけの静かなせかい。月も星も煌めいている。まだ、朝は来ない。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 このような結果となりましたが、如何でしたでしょうか。

 認識を揃えておくことは、どんな依頼でもとても重要なことだと思います。
 少しの認識の違いでも、どこかで、狂っていくものです。
 傷ついた方も多いです、ゆっくりご自愛くださいませ。

 お疲れさまでした。ご縁がありましたら、また。