●妖刀『斬界』 山奥の廃神社へ続く道を、巨漢が歩いていた。 もはや階段と呼ぶにもおこがましい石の段をずんずんと登ってゆく。 しばし進むと、広い場所へ出た。 広いと言っても、木々が無造作に生い茂り、地は雑草が占め。天井は大木の枝に覆われている。見る者によっては狭苦しい場所であったかもしれない。 巨漢は首を巡らせると、目的のものを見つけて再びずんずんと歩き出す。 目的のものとは、小さな御社であった。サイズとしては、人がひとり漸く入れる程度だろうか。この巨漢では無理な程度だ。 扉を開き、目を細める。 そこには、ギラリと光る剥き出しの刀があった。 御社の中とは言え完全な野ざらし。しかもあろうことか石の床に直接刃が突き立っていた。 巨漢は刀の柄をがしりと掴むと、力技で引っこ抜く。 「これが妖刀『斬界』……ワームホールを拓けるという刀でござるか」 「あいや待たれい!」 だん、と背後で足踏みの音がする。 巨漢が振り返ると、榊を持った老人が息を切らせて立っていた。 「それがしは旧大和神社が神主、リベリスタである! その妖刀を持ち出すこと断じて許せぬ! 名を名乗れ!」 「『黒入道』の等々力雲厳である。十文字兄貴が娘のため、この刀を暫し借りたい」 「罷りならぬ……命を取られる覚悟をせよ!」 老人は式神を顕現させると、巨漢へと殴りかかった。 巨漢は反射的に持っていた刀を振った、その時。 大気が豪快に切り裂かれ、ジグザグの真空が生まれた。 破裂音が響き、老人の身体が一瞬にして切り裂かれる。 悲鳴をあげ、地面に転がる老人。彼は既にこときれていた。 「む、これは……空間そのものを切り裂ける刀であったか。ご老人よ済まぬ。これも兄貴のため……否、拙者の我儘がため。御免!」 かくして巨漢・黒入道は、廃神社を後にするのであった。 ●妖刀奪還作戦 「今回の任務はアーティファクトの奪還だ。刀の形をしていて、既にフィクサードの手に渡っている。現段階ではまだ大きなことは起きていないが、道具の性質上何か世界にとってよからぬことが起きるのは間違いないだろう」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は手短に経緯を説明すると、モニターにそれぞれの資料を表示させた。 「まずはアーティファクト、妖刀『斬界』だ。普通に使えば空間ごと切り裂く強力な破壊兵器だが、特定の状態で使えばワームホールを切り広げる効果をもっている。今現在はその『特殊な状態』になる心配はないが……この強力な武器をもったフィクサードを倒す必要があるっていうのが、今一番キツいポイントだな」 『黒入道』等々力・雲厳(とどろき・うんげん)。 2mをゆうに超える巨漢にして、強力なフィクサードである。 剣術全般を得意とし、パワーとスタミナに優れている。無論全体的なスペックも高めだろう。 しかも彼は今現在、妖刀『斬界』によってかなりのパワーアップがされている。 「全員で力を合わせて、なんとしてもこの刀を取り返してくれ。頼む」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月27日(木)22:58 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●死神の行列はもの語らず地を這わん 欠けた石段を登る。 『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)。 前髪が風に靡き、木々が葉を擦らせて鳴いた。 「…………」 12歳の彼女は、他者の死を飽きる程見てきた。今日もまた、誰かが死ぬのだろう。 だがその考え方で納得できるほど、彼女は乾いても、無感情でもいられなかった。 脳裏をよぎるクエスチョン。何故殺すのか。 他者の死を、彼女は今日も想っている。 剣林。武闘派のフィクサードで構成され、主流七派に数えられる程の大型組織である。 「その剣林が武術とは無関係の道具を求めて動く事件が多発しています。今回もその一つ……」 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は調査報告書を片手になびく横髪を抑えた。 目だけを動かす『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)。 「セリバエを召喚するに適した時期を調べる裏天占星儀。そしてワームホールを切り開く妖刀斬界。そしてフィクサード『達磨』……」 「あいつとは以前やり合ったことがある。確か、『娘を助けたい』と言っていたな……」 『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)は顎に手を当て、ここではないどこかを見た。 俯く『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)。 「大切な人を守りたいという気持ちは素敵ですし、尊いと思います。だが何であれ理不尽な不幸を押し付けていい筈はないですよ」 「こっちの正義に反する、ってことなのね? 『こっち側』として、止めなくちゃいけない」 「そうです」 腰の後ろで手を組む『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)に、浅倉 貴志(BNE002656)は頷いた。 「どのみち、理由を聞くにしても軽々と語ってくれる人とは思えません。義に厚いからこその行動でしょうし」 拳を鳴らす『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)。 「相手にとって不足は無しか。好みのシチュエーションだぜ。こっちも手加減なんざできそうにねえ。例のアーティファクトは置いてってもらおうか」 「そして私が貰ってイイノカ?」 ちらりと振り返る『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)。 「いいわけないだろ。第一、それ以上手に入れてどうするんだ。歯に咥えるのか?」 「イヤ……」 「やめとけって。悪いこと言わないから」 「ウム……」 無表情で口を閉じるリュミエール。 石段の最後を踏む。 人間の倒れる音を聞き、顔を上げた。 「神主さん……」 「E能力者……いや、リベリスタか。望まぬ殺生を見せてしまった。すまぬ」 「いや、知ってた。アークのリベリスタ葛木猛だ。剣林の黒入道、等々力雲厳と見受けるぜ」 「いかにも。予知予見を得意とするアークならば説明はいるまい。用を述べよ」 雲厳はそう言った。 妖刀『斬界』を足元に突き立てて。 ●『黒入道』等々力・雲厳 身の丈3m以上はあろうかという巨漢である。 黒い羽織りものをし、黒袴を履いている。一見喪服のように見えるが、その実ほんとうに喪服であった。 彼はあろうことか斬界を地面に突き立て、その場にどっしりとあぐらをかいた。 無論刀を地面に刺すことの乱暴さを述べているのではない。 九人もの相手を前に大事な道具を手放し、場合によっては奪い取れそうな位置に立てておく潔さ。 雲厳はそのまま両手を膝の上に置くと口を引き結んで黙った。 「話を聞くつもり、と見ていいんだな?」 「…………」 「そのアーティファクトを使って何をする心算だ」 「……」 「それを求めてるのは六道か?」 「……」 「義理の為に動いてるみてぇだが、俺達も見逃せねえ。置いてってもらいたい」 「……」 じっと黙りこくる雲厳に、猛は少し毒気を抜かれた。 『言葉は無粋だ押し通れ!』か『貴様に語る口は無い!』のどちらかと思ったが、これでは判断がつかない。 その考えはアリステアも同じだったようで、じっと様子を見ている貴志の腰を突いた。 「どうしたらいい?」 「分かりません。ただ、刀を奪い取るにはちょっと隙が無さ過ぎますね、この雲厳という人は」 ひとしきり流れる沈黙。 リュミエールが剣に手をかけながら爪先を鳴らした。 「達磨は娘を助けたい。それにはワームホールが必要。つまりDホールに呑みこまれでもしたか」 「……」 「反応しないな……オイ?」 「アークとて、全知ではないか」 ゆっくりと息を吸う雲厳。 「拙者の略奪及び強盗は我儘が為。それゆえ申し開きはない。妖刀斬界があれば達磨兄貴にって良いということの他、語れることはない」 「それなら」 亘は眼鏡を押し上げて言った。 「アーク……いや、自分たちが協力するというのはどうですか。同じような事件を起こさず、投降してくれれば」 「否」 不動のまま、亘の言葉を遮る。 「それはできない。お互いに」 「その刀がどのように使われるか分かった上で、ですか?」 剣に手をかけるリセリア。 「…………」 「仮に知らないとしても、予想はつきますよね」 「…………」 沈黙する雲厳。 ミリーが両手を開く。 「事情は……ううん、立場は分かったわ。それ以上はいいから、あんたが『何故そうしたいのか』を教えて」 「何故」 「知っていれば、闘いの質が違ってくるの」 「…………質か」 雲厳はどこか緩慢な動きで立ち上がる。 未だ剣はとらない。 「人はみな、水槽で生きている」 「ん?」 「水が濁ろうとも、澄んでいようとも、生きることに不自由は少ない。槽の外のことなど、揺れ倒されるようなことでもない限り仔細は要らぬ。しかし水に入るものには生命を賭してでも頓着せねばなるまい。それが自らの毒害であれば尚のこと、槽が壊れるとも零し流さねばならぬ。つまり――」 「「つまり――」」 雲厳の声と、ある二人の声が重なった。 剣を握る零児。 「我儘ゆえに、何が何でもやらねばならぬ!」 「それを、俺達は許すわけにはいかない!」 「なればこそ!」 両手を開いてどっしりと構える雲厳。 冴は刀を握り、空を裂いて駆けた。 「――斬る!」 ●義 蜂須賀冴の刀は強力である。 振り上げてから振り下ろすまでにかけて遮られることを許さず、まして得物を持たぬ者に遮られたことは許しがたい。 それが今、目の前で破られていた。 「…………」 等々力雲厳。 彼は冴の振り下ろした剣を、羽虫を潰すかのように眼前で手を合わせ、腕力のみで押し留めていた。 真剣白羽鳥。噂に聞く技である。 だが驚くべきはその腕力。まるで万力に捕らわれたかのように冴の刀は微動だにしなかった。 咄嗟に鞘を翳し、逆手に突くように相手の手首へ打ち込む。まるで鉄板を撃つが如く反動に冴は顔をしかめた。 「金剛陣ッ」 「否」 刀を引く力を利用して冴を吊上げ、脚の浮いた所を蹴り飛ばす。 「鍛錬でござる」 激しく吹き飛ばされた冴をギリギリでキャッチするアリステア。 「気を付けて、まだ刀を使ってないけどすごく強い」 「それでも倒せない程じゃネーンだろ?」 リュミエールは地を這う蛇が如く、もしくは丘を登る風の如く高速で飛び出した。 顎が地に擦るかと言う程の低姿勢で雲厳へ急接近。 脛や踵を中心に剣で切りつける。 無論一度ではない。数秒の内に何往復も行きかい、無数の傷を刻んで行く。 その間雲厳は直立不動のままゆっくりと呼吸していた。 音以上の速度で土を削り、バックスウェーで戻ってくるリュミエール。 「やばいナ、固すぎる」 「なら崩してやればいいだけです」 「囲んで、削り尽くします!」 亘とリセリアが大きな弧を描きながら両サイドより接近。 どっしりと両手を開く雲厳へ撫で切る様な斬撃を全く同時に叩き込む。 両サイドからの剣を翳した両手で掴み取る雲厳。 だがその剣は残像であった。 二人は雲厳を軸に入れ替わり、アル・シャンパーニュを繰り出した。 掴み取ることも叶わぬ連続刺突。 だが。 だがだが。 雲厳はあろうことか二人の刺突で掌を貫かせると、そのまま柄を握り込んだのだ。 「この精度で魅了が通用しない」 「ということは……」 「そのまま抑えていてくれ、正面から叩く!」 大剣。もとい鉄塊を構えて突撃してくる零児。 亘とリセリアは頷き合って雲厳の腕を掴んで固定。 「堅牢で頑丈なら、これでどうだ……!」 裂帛の気合と共に大上段より叩き込まれる鉄塊。 雲厳は歯が見えるほど食いしばると、頭突きによって斬撃を迎え撃った。 冴を上回るパワーをもつ零児の両手持ち上段打ち下しが、頭一つの打撃で押されるはずはない。 しかし零児は腕が痺れんばかりの衝撃にたたらを踏んだ。 「な――!」 「どけ零児、いつまでもそこ居るのは危ない!」 「亘さんたちも。代わります!」 猛が大跳躍から拳を振り上げる。彼の腕を電撃が奔った。 素早く雲厳の周囲から飛び退く三人。 「手加減はなしだ。全力出さねえと勝てない相手だろうからなぁ!」 気合一発。脳天に打ち下されたパンチと共に壱式迅雷が迸った。 僅かに曲がる雲厳の胴体。 そこへ貴志が前屈みの姿勢で突撃。腰の捻りをくわえ全力の土砕掌を繰り出した。 雲厳の腹へと正確に命中。いくら頑丈な巨漢であろうともただでは済まない衝撃である。 「効いたか!」 「もういっぱつ!」 土を抉る程に爆走するミリーが雲厳の直前で跳躍。頭部めがけて足を揃え、業炎と共にドロップキックを叩き込んだ。 「これだけ打ちこめば流石に堪えるだろ、等々力雲厳」 「…………」 ゆっくりと息を吐く雲厳。 「仔細無し」 掌にぽっかりと開いた穴は瞬時に塞がり、代わりに彼の腕には激しい炎が灯った。 「あぶない、離れて!」 アリステアは咄嗟に聖神の息吹を発動。 炎に塗れ一斉に弾き飛ばされる猛たちをカウンター気味に治癒した。 「滅茶苦茶な固さだ、どういう鍛え方したんだ」 「…………」 雲厳は腕の炎を消すと、ゆっくりと斬界へと振り返る。 「拙者は、達磨兄貴に『何かをされた』ことも『何かを貰った』こともない」 柄に手をかけ、小指から順に握り込む。 腕に血管が浮かび上がり、僅かに歯を食いしばる。 「元より痛みの多い生涯であった。人型の藁であった拙者は、それを当然だと思っていた。だが、あそこにはあるのだ。拙者が死ぬ意味が。藁束に、死して意味が生まれるのだ。そのためならば――!」 刀を地面より引っこ抜き、両手で握って上段に構える。 「何も要らぬ」 ●業 ぴくりと片眉を動かす冴。アリステアが僅かに振り返る。 「何か分かったの?」 「いいえ。ただ、直感が」 あの人間はもしや、死のうとしているのか。 だとしたら、あの妖刀の性質とは。 「その刀は空間ごと切り裂く。なら武器でうけるのは意味がないな!」 零児は剣を下げ、腰の後ろに置くように構えた。 身を捻り、上段から叩き込む。 雲厳は刀を返して防御。拳で刃を押し上げるようにして零児の剣を撃ち返す。 よろめけば空間斬撃が入る筈だ。零児は膂力を駆使して体勢を維持すると、返す刀で側面から打撃を咥える。 即座に反応して剣ごと打ち払おうとする雲厳。 しかし彼の背後にはいつのまにかリセリアの影があった。 上下左右に剣の残像を作りながら撃ちこんでくる。 避けること叶わずと察したか背中を僅かに丸めて痛みをこらえる。 その隙に零児は全力で剣をスイング。 雲厳の動きを防御に固定させた。 「貴志!」 「分かっています!」 スイングに力を使い過ぎたのか転がるように離れる零児。彼と入れ替わりに貴志が雲厳の正面に立ちはだかった。 流れるような構えから土砕掌を連発。 胴体を圧し折らんばかりの連続掌底に雲厳が眉をゆがめる。 すると亘が攻撃に参加。雲厳の頭部スレスレの位置を高速飛行で飛び交いながら連続でナイフを打ち込んで行く。 雲厳は集中攻撃に耐えかねたか刀を持って一回転。周囲が空間ごと切断され、バックドラフトにも似た物理運動によって貴志たちが吹き飛ばされる。 が、それで攻撃の手がとまるわけではなかった。 足元に浮かぶ影を見て天を見る雲厳。頭上にはいつの間にかリュミエールがおり、自由落下と同時に銃撃。接触の瞬間に機構刀を棍型に変形。打撃をくわえつつ剣型に変形させ着地と共に斬撃を入れた。 姿を追おうとした雲厳に素早く反応してバク転。身体を小さく丸めて飛び退く彼女をスライディングで抜く猛。 彼は地面に手をついて反転キックを繰り出す。雲厳の顎を激しく打ち据え、余った衝撃が鎌鼬と化し羽織りものを引き裂いた。 「離れて、燃え移るわよ!」 仲間の肩を借りて俊敏に跳躍したミリーが、両手をハンマー状に組み合わせた。 ギリギリで転がって退いた猛とスイッチングし、激しい焔と共に雲厳へ叩き込むミリー。 炎に包まれる雲厳。彼は羽織りものを炎ごと脱ぎ捨てた。身に残った炎は気合で跳ね除ける。 「う――」 目を見開くミリー。 彼の頑丈さにか。 否、雲厳の身体は無数の傷で覆われていたからだ。 刀傷は勿論のこと、無数の火傷跡やパッチワークのように高質化した肌。ただ戦乱に身を置いただけとは考えられない有様であった。 雲厳は雄叫びと共に刀を振りおろし、空間を盛大に切断。連鎖的に引き裂けた空間がミリーはおろか猛やリュミエール、ある程度離れていたアリステアにまで攻撃が及んだ。 「アリステアっ!」 「大丈夫、大丈夫だから!」 激しいダメージではあったが、即座に聖神の息吹で回復にかかるアリステア。 「雲厳さん。その刀はあなたが持っていいものじゃないんだよ!」 「誰ならば良い」 「え……」 「誰ならば、持っていていることを許せる」 「それは」 何かを言おうとして、口を閉じるアリステア。 「誰も持っているできではないのだ。それ故の封印。それ故の守護」 「なら捨てるべきです。もしくは命を捨てなさい」 素早く飛び込んだ冴がまず鞘の打撃を繰り出す。 刀で受け止めた雲厳に、思い切り刀を突き刺す。 肩を貫き背中から現れる刀身。 冴は無表情のまま刀を捻った。 「ぐうお……!」 「生き残り、投降する気はありますか」 「無い」 「ならば斬ります」 撫で切るように刀を抜く。 咄嗟に構えようとした雲厳に、零児が大きく飛び掛った。 腰を捻り、腕と共に剣を振り上げ、全身全霊を込めた斬撃を繰り出す。 「残念だが、殺してでも――!」 「待って!」 小柄な影が割り込んだ。 雲厳を踏み台にして、腕をクロスした少女が零児の攻撃射程に――。 「ミリーッ!?」 全力だった零児は途中制御が効かず、ミリーの身体に凄まじい膂力を叩き込んでしまった。 激しく回転しながら地面を跳ね、仰向けに転がるミリー。 「が……ふ……」 雲厳は目を剥き、冴もぴたりと動きを止めた。 「どうして割り込んだ!」 「理由とか、わかんないけど」 激しくせき込み、血を吐き出す。 「殺すのは嫌よ」 「…………ぁ」 指を僅かに振るわせるアリステア。 雲厳は唐突に腕を振った。 反射的に刀を繰り出した冴だったが、斬界の刀身に当たって止まる。 いや。 地面に突き立った『斬界』を見て、冴が攻撃をやめたのだ。 「拙者、等々力雲厳。少女。名前を問うても良いか」 「……ミリー……ミリー・ゴールド」 薄目を開けて雲厳を見るミリー。 雲厳は頷くと、斬界から手を離した。 「忝い」 雲厳は地響きと思い違うまでの雄叫びをあげ、地面を殴りつける。 その勢いのまま大きく飛び退き、山中に消えた。 「ム――」 目を細くして構えるリュミエール。 それを亘が腕を翳してとめる。 「任務は達成しました。帰りましょう」 ●妖刀『斬界』 結果を述べるなら、等々力雲厳は生きたまま逃走。 アーティファクト斬界は無事回収できた。 「これが斬界か……一度、素振りしてみてもいいか」 「ずるいナ」 「ああたがそれを」 「次私ナ」 「よかったブレてない」 うんうんと頷き合う猛と貴志。 「いや、振るだけだ。振るだけ」 零児は一度咳払いしてから刀の柄を握り……そして目を剥いた。 「ぐうあ!?」 腕に無数の穴があき、大量の血が噴き出す。 内臓がいくらか損傷したのかみるみる顔色を悪くし、口に手を当て嘔吐をギリギリで抑えたが代わりに大量の血を吐いた。 「なんだ……これ……」 「やはり」 神社から出てきた冴は朽ちかけた巻物を手に言った。 「その刀は持っている限り死に近づきます。生命を糧に空間を斬る剣です」 「そんなものを、彼は……」 刀から後じさりするリセリア。 「ミリーさん……」 気絶したミリーを抱きお越し、亘は顔をしかめた。 神主の供養を終えたアリステアが戻ってくる。 「殺したくない、か。わたしは」 目を閉じる。 まぶたの裏には、暗闇しかない。 |
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