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きみに咲く致死量の愛


 いつか、君を盗みに行こう。姫薔薇の君。
 君に永遠を誓おう。
 愛おしい、君に残そう。赤い一輪の薔薇と三つの蕾。
 君に愛していると告げて、困った風に笑うその顔すらも愛おしくて。
 小指の先に口付けて、君に誓おう、愛を結ぼう。
 優しい僕の小さな小さなお姫様。
『さあ、今は忘れておしまい。僕が君を迎えに行ける様になるその時まで』

 約束だよ、僕が君を迎えに行けるようになったら、その時は――


 ブリーフィングルームには一輪の赤い薔薇が飾ってあった。首を傾げたリベリスタに『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は薔薇を眺めてから資料を手に取る。
「赤い薔薇の花言葉ってご存知? 沢山の意味の中から一つを見出すのって、何だか恋愛の様ね」
 謳う様に紡いで、優しい笑みを浮かべたフォーチュナは一つ、お願いがあるの、とリベリスタに向き直る。
「13年前のあの日以降、赤い薔薇をずっと集めていたアザーバイドが居るの。識別名は『花盗人』。
 彼は見たことある花をその手に作り出せるの。ずっと赤い薔薇を集めているわ」
 そのアザーバイドは黒いマントに身を隠し、その顔に仮面をつけた道化。人の形をしているが、その両手からは見た事のある花を作り出せる能力を持っている。
 其れだけで有れば、唯の優しいお話しなのだ。
 フォーチュナが資料を捲くる。次の頁に貼り付けられていたのは20代前半にみられる女性の写真。
「彼女は『花盗人』と知り合いなの。花盗人は彼女に恋をしている。昔、彼女に花盗人は花を渡しているの」
 赤い一輪の薔薇、その薔薇の蕾三つ。意味は『あの事は永遠に秘密』。アザーバイドは花言葉をその女性に授けた。悪い事は忘れてしまおう。『あの日』の事も、自分とのこの恋情も。全て。
 ――そして赤薔薇を99本彼女に授けられる時が来たら彼は彼女にもう一度会いに行くと誓っていた。
「薔薇99本の意味は、ご存じ?」
「さあ……? 意味は?」
「『とこしえに変わらない』よ」
 その愛が永遠に変わらないと、そう告白するためにもう一度やってくる。其れだけなら簡単な恋物語でしかないのだ。本当に単純な、恋の物語。
 ただ、それが優しい物語ではいられない。フォーチュナが目を細める。
「その永遠の愛を伝える事を阻止して欲しいの。彼らの恋は叶ってはいけないわ。彼女は彼が渡した薔薇の花に奇跡的に共鳴している。
 普通の人間である彼女にそれ以上の薔薇を渡したら、人格が壊れてしまう。狂ってしまうのよ」
 私たちにとっては『神秘』は普通だけれど、とフォーチュナは付け足した。
 神秘は常に何かを苛む。もしかするとその彼女が運命の寵愛を持たないまま革醒する可能性もある。
「『花盗人』の渡した薔薇はアーティファクト。……此れについては響希お姉さまが対応して下さってるわ。
 皆にお願いしたいのはね、『花盗人』に花たる『彼女』を盗ませないこと。出会わせないでほしい」
 彼は、ただ愛を伝えに来ただけ。彼女が狂っていく等知る由もない。其れは、彼が愛しているからの行動なのだから。
「愛しい人に会うなと言葉で言っても伝わらない、戦闘は免れないと思う。
 けれど、出会わしてはいけないわ。
 彼の薔薇は彼女にとって致死量。致死量の愛が、彼女を殺してしまうの」
 詩的な言葉、ただ、其れが真実であるというならば。
 フォーチュナは眸を伏せる。
 致死量の愛――彼が薔薇を渡す事は愛を伝えること。ただ、其れによって少女が狂ってしまうなら。
「哀しい物語に終止符を。さあ、目を開けて。悪い夢を醒まして頂戴」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年09月26日(水)23:56
 致死量の愛に溺れて、咲かせましょう。愛の花。
 こんにちは、椿です。さあ、心情致しませう。麻子STと月1心情連動!

●成功条件
 アザーバイド『花盗人』を元の世界に返すor討伐

●アザーバイド『花盗人』
 黒いマントに白い仮面をつけた黒い紳士。姿かたちはボトムの人と変わりはありません。
 その両手からは自身の見たことある花を生み出す事が出来ます。
 昔出会った少女の事を愛し13年越しに彼は愛を伝えに来ようとします。薔薇が少女の手に渡ると彼女は狂ってしまいます。彼は薔薇を手渡す事で少女が狂う事を『知りません』。リベリスタは彼にとって『自身と彼女の愛を阻害する物』でしかないのです。
『元の世界に返す』方法は皆さん次第です。簡単な説得では彼も納得しません。
>攻撃方法
 ・ダークナイトのRank2までのスキルに何処か似た攻撃
 ・薔薇の花弁で切り裂く(物複・BS出血)
 ・紅き花弁の香り(神遠範・BS魅了、ショック)

●散りゆく恋情の花×7
 黄色い薔薇の花。その花弁で切り裂く(物近単)、棘を飛ばす事(物遠複)が攻撃方法です。

●『薔薇』
麻子ST依頼『わたしを沈める永久の花』の保護対象である一般人の女性。20代前半程度。
花盗人が愛した少女の大人になった姿。13年前のあの日に花盗人自身で記憶を封印しています。

●『少女』の薔薇
『赤薔薇一輪と蕾三つ』で少女の頃の記憶を封印しています。強力なアーティファクト。
その封印を解くには花盗人が残り95輪の薔薇を渡し、99本のバラの花束を完成させる必要があります。
ただし、少女の手に薔薇が渡った時点で『薔薇』は気が狂ってしまいます。

 どうか、『溺れ』させて。よろしくお願いいたします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
プロアデプト
氷雨・那雪(BNE000463)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
デュランダル
蘭・羽音(BNE001477)
覇界闘士
浅倉 貴志(BNE002656)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
ダークナイト
若菜・七海(BNE003689)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)

●致死量
 誰かに恋をする事を責めることはできなかった。
 選択肢は無数にあって、どの言葉を拾えばいいのかすらわからなかった。

 好きだよ。薔薇。誰よりも、君を――

●手折る者
 人も、アザーバイドも恋をする。考え方が違ってもその気持ちは一緒で、其れは同じだと信じている。
「羽音、好きだよ」
 呟く言葉に乗せる想い。嗚呼、好きになってしまったからには仕方ない。恋する事がどれだけ辛く悔しいかなんて『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)は痛いほど分かっていた。彼が『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)に恋する気持ちと、『花盗人』が『薔薇』を愛する気持ちには違いなんてなかった。
 送られた視線に羽音は顔を上げる。俊介の頬を擽る彼女の羽。ふわり、ひらり。愛の欠片は静かに揺れる。ぎゅ、と握りしめた腕輪は俊介が羽音に――最初で最後の愛しい人へ、と送った物だった。瑠璃色が彼女の白い指の間で揺らめいた。
「――何が、最良なんだろうな」
 ぽつり、零された言葉。『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)の言葉に『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は首を振る。
 愛も、恋も解らないけれど、其れでも目の前で好きだと想いをぶつけ合う大切な兄貴分や憧れのひとを見ていると羨ましくもなる。嗚呼、大切な人が居るってどんな気持ち?その人との最善の結末って?
「彼女との大切な想い出と、彼女の未来……『彼』はどちらを選ぶのかしら、ね?」
 そんなこと、誰にも解らなかった。
 謳う様に、張り巡らされた強結界。紡ぐのは醒めない夢。
「――哀しい物語は悪い夢と一緒に食べてしまいましょう?」
 哀の歌など奏でない。逢いする事が出来ぬなら、せめて愛だけでも。『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は魔力杖を握りしめる。金糸は彼女の動きに合わせて揺れた。
 ただ、じっと掌を見つめる。私は誰になろう。仮面で隠した奥、『すわんぷまん』若菜・七海(BNE003689)は小指の先を見つめた。指先へのキスは賞賛。その意味は謀れないけれど。
「迎えに行ける様になるまで、ね」
 嗚呼、何て約束なのかしら。そうは想うけれど、何も言えなかった。解ってしまった。『愛情が人を殺すこと』を。説得をしようとも思う、けれど、言葉に詰まってしまう。様子を見よう、とそう思う。
「花盗人、ね」
「花盗人……とは風雅な名前ですね」
 花盗人。稚児に櫻を強請られて手折った罪に問われなかった僧。何て、雅なのだろうかと浅倉 貴志(BNE002656)は想う。花たる『少女』を攫う盗人。その先に待つ未来が決して良いもので無い事を解って居ているからこそ、彼はもう一度呟いた。なんて、風雅なのか、と。
 ふわり、舞う花弁。
 黒いマントをはためかせ、仮面で顔を隠した男が居る。一歩踏み出して、『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)はじっと彼を見つめた。
「ちょいと、付き合って貰うぜ」
 歩み寄る。彼女の両手には常の獲物はない。武器の音は轟かない。浮かべるのは笑み。
「初めまして。あたしは、アークの蘭羽音。貴方に、帰って貰う為に来た」

●届かぬ恋情
「御機嫌よう、赤薔薇の君。貴方が、貴方の大事な姫薔薇の君を今から盗みに行こうとしている事は、分かっているの」
 紡いだ言葉。ミリィの言葉に花盗人は顔を上げる。薔薇の花が、ふわり、ふわりと舞っている。
 語るのは世界の真実。自分達は何なのか、貴方は何なのか。一つ一つ、探る様に、ゆっくりと、羽音は紡いだ。
「落ち着いて、聞いて。全部、全部、本当の話なんだ」
 隣に立つ羽音の背をぽん、と俊介は押す。その言葉の意味をゆっくりと咀嚼するように花盗人は頷いていく。其れがこの世界を構成する物である事に花盗人は何ら疑問を抱かない。
「――其れが何か」
「落ち着いて聞いて欲しい。アンタが薔薇を贈った少女について、重要な話がある」
 エルヴィンから広がったマイナスイオン。アザーバイドの目をじっと見つめた彼の心は花盗人とほど近い所にある。
 少し、聞いてくれないか、と彼は踏み出した。視線が交わる。この世界の成り立ちを、そしてこの世界と彼女が受ける影響についてをゆっくりと紡ぎ出す。
「今のところ、彼女は人でなくなるギリギリって所なんだ。……その最後の一線を崩すのが、今回アンタが渡そうとしている薔薇の花になる」
「僕の薔薇が?」
 ねえ、と七海は踏み出す。仮面の奥で赤い瞳が湛えた色は哀。
「私達は決して貴方達の逢瀬を望まないわ」
 それでも、恋情が溢れだして逢いたい気持ちが止まらないなら――それなら。身体を隠すマントがはためく。外した仮面の内側。花盗人が愛した『彼女』の顔が晒される。
 嗚呼、其れが彼女出ないと分かっているのに。花盗人の望んだ姿。逢えないと、分かっていたのに。
「――『薔薇』」
 そっと呼んだ言葉に七海はゆったりとした笑みを浮かべた。
「彼女ではないけれど、記憶を失くした以降の彼女に『限りなく近い誰か』にその感情を、行為をぶつけない?」
 其れを、一つの区切りにしないか。その言葉に花盗人の眸が見開かれる。ぶわ、と花弁が舞いあがった。
 七海の纏うマントを薔薇の花弁が切り裂く。少女の肌を傷つけて、より深く。癒しの力を行使する俊介に焦りの表情が浮かんだ。
 全て受け入れると、そう言った。区切りになるならと。
「嗚呼、彼女を、『薔薇』を汚さないでくれ」
 其れは一つの侮辱に値したのだろう。区切りになる訳なんかなかった。恋情は溢れだす。『偽物』に受け入れられることなんて花盗人には耐えられなかった。嗚呼、愛しい人の代わりなどいないのに――
「あの子は狂っちまうんだよ……狂うってわかるかい! 忘れるんじゃなくて、壊れちまうんだよッ」
 特殊な結界が薔薇の花を抑え付ける。黒い瞳が、湛えたのは伝えきれない想い。
 フツは癒す。だが、黄色い薔薇は狂気を孕むように七海を襲った。其れが彼の答えなのだろうか。
 その手で薔薇を散らしながらも貴志は眼を伏せる。二人の未来が、恋焦がれたその先が幸せに満ちてないと解っているからこそ恋路を邪魔する『邪魔者』となったリベリスタ。
「嗚呼、この判断が正しいものか」
 解らないけれど、二人の出会いが彼女を壊してしまう事は分かっていた。二人の出会いが幸運に恵まれていないことだって、明白だった。元の彼女からかけ離れてしまう事も、彼女で無くなる事も、逢瀬を重ねるうちに壊れて行くであろうことも予想はついていた。決してほめられた結末ではない。衝撃を孕む掌が薔薇を散らしていく。
「……恋愛とは、斯くも難儀なものなの、か……」
 眼鏡に触れる。到達する集中領域では触れる事の出来ないその気持ち。嗚呼、大切な人が居るのはどんな気持ちなのか。目の前の俊介や羽音の様な幸せな領域。選び取る選択肢は無数。彼女の中でも其れは解る。彼らの間に何があったのかなんて解らなかった。ただ、不幸になる未来は阻止しなければならないと、選び取る選択肢の中で幸せでないエンドなど必要ないのだと。
「壊れたモノは、元には戻らないんだよ……!」
 想いも、彼女も、そして花盗人自身も。フツの言葉に花盗人は首を振る。解っている。其れは分かる。けれど、ならばアレは何か、彼女に逢えないから他の物で満足しろと妥協策を出してきたのかと花盗人は攻撃をやめる事はない。
「貴方の手渡そうとした想いを私は知らない。恋する気持ちを未だ知らない」
 少女が仲間に施したのは護りの効率動作。泣き出しそうなほどに歪めた瞳。戦いなんて望まない、誰かを傷つける結果なんて、望まないのに。
「貴方の優しい想いが、大事な誰かを傷つける結果なんて、いやです」
 俯く、言葉はもう届かないのか。まだ、届く余地があるのではないか。
 暗闇が少女の体を包み込む。癒しが彼女らを激励するが其れも足りずに七海の体がぐらりとゆれた。膝をつく少女の運命が燃え上る。嗚呼、殺し合う為に此処に居る訳ではないのに――
「私達は只、貴方様同様、ひとえに姫薔薇の君の御身の為に」
「私には、貴方の気持ちは、良く理解できない。……けれど、このままじゃ、貴方の愛が彼女を追い詰めるの」
 其れが、予見者の言う『致死量の愛』だから。那雪の紫苑の瞳は無垢なままに澄み渡る。
 感じとりたい、何を思っているか。何を悲しんでいるか。どうして、こうやって武器を構えなければならないか。刹華氷月が鈍く光る。薔薇の中で煌めく少女の夢の様に。
「ねえ、愛しい人に、待ち焦がれた人に、一分でも一秒でも早く、早く逢いに行きたいんですよね?」
 それでも、少女はアスファルトを踏みしめる。その想いは分かる。少女だから、まだ理解できない恋情も、傍から見て居ても解るほどに膨らんだ愛情が破裂して劣情となる前に。
「それでも、少し待って欲しいのです」
 ぎゅ、と拳を固める。胸に手を当てて、辛くて堪らないと眉を寄せて。
「お願い、聞いてください。私達は貴方に伝えないといけないことがある」

「貴方の愛が、大事な薔薇を" "してしまうから!」
 紡いだ言の葉に嘘はなかった。応える言葉は、なかった。

「なあ、何で13年も間を開けないといけなかったん?」
「13年前の『あの日』に彼女に訪れた不幸を受け入れられる様に、大人になって笑えるようにするために」
 それが、花盗人と言うアザーバイドの優しさだと言う事は解った。けれど、それでも。俊介は花染を握りしめる。黒猫の尻尾がゆるりと揺れた。嗚呼、それでも――一度離したらもう抱きしめられないと、そう解るのに。癒し続ける、無駄な血なんて、無駄な傷なんて作りたくない。心を抉られる、癒しの手が届かない、心が、ぐちゅりと音を立てて、抉り続けられる。
「解る、解るんだよっ! 俺だって羽音に会うなとか狂わせたとか言われたら発狂する」
 愛しい気持ちは分かる。解るからこそ引きとめる事がつらくて、苦しい。自分の事の様に胸が痛む。手を伸ばす、痛みに堪える様な顔で俊介は、花盗人を呼んだ。
「一緒に、探そう? ハッピーエンド」
 切り裂く薔薇、流れ出る傷を癒しながらも彼は笑う。ハッピーエンドが良い。彼の手から生まれる95本の薔薇――あいのかたち。渡す事は叶わないけれど、其れでも何か出来るのではないか。逢う事も、言葉を交わす事も、姿を見る事も、少しでも良い『最善』があるならば。
 解って欲しいと、その手を伸ばす、声が枯れても良い。聞いて欲しい、何度だって、何度だって。叫ぶ。嗚呼、逆上した彼へ攻撃を行わずにはいられない、戦わないと、此方が負けてしまう。最悪のエンドが目の前を暗くしていく。
『彼女』を偽ったとアザーバイドは怒っている。唇を噛む。その動きを封じる様にフツは結界を展開させ、花盗人をしかと見つめた。
「想像できるか!? 彼女が壊れる所がっ! お前が、彼女を壊す所が――」
 脆い硝子細工の様な、脆い茎が支える大輪の花の様な――

「花を手折るよりも、簡単にッ!」

 花盗人の動きが止まる。仮面の向こうで見開かれる瞳。フツは手を下す。少女の気持ちは簡単に、壊れてしまう。其れこそ花を手折るより簡単に。其れが人間の心なのだ。人間とアザーバイド。分かり合えなくても心が触れあえたというならば。理解してほしいとその想いをこめてフツは花盗人と、名を呼んだ。
「お願いだよ、話しを聞いてくれ。俺たちは敵じゃないんだっ」
「あなたが狂おしい位に彼女が好きなのは分かった。けれど、其れを渡せば」
 那雪は唇を噛む。戦闘時に澄み渡った意識の中で、思い当った結末に、目を逸らす様にそっとその紫苑の瞳を伏せて。彼女と言う存在に二度と会えなくなると、そう告げて。
「なあ、彼女を一番苦しめてるのは、誰だ? 記憶を消した事だけじゃない。異界の力と触れた所為で、彼女は様々な危険に晒されているんだッ!」
 エルヴィンの怒号が飛ぶ。彼の頬を花盗人の花弁が霞める。花弁は流れ出る血液の色を反射するように赤黒く染まった。
 異界の力、彼自身と触れて、彼女が得たのは危険。嗚呼、其れは誰のせいなのか。誰の所為で傷を負い、誰の所為で壊れかけるのか。そんな物、言わなくたって解るだろう。
「ッ、全て、お前の所為なんだ! どのツラ下げて永遠を誓おうってんだよ!」
 それでも、逢いたいと、記憶のないままの彼女を愛せるならば――薔薇を渡さないでおけるなら、もう止めやしない。彼は両手を下ろす。選択肢は無数。勿論、最期を決めるのは彼らだと解っているから。
 唇を噛み締める。嗚呼、何が最良かなんて、誰も解らない。
 黄色い恋情は散っていった。彼の携えた赤い95本の薔薇は彼の両手の中で咲き誇り愛の象徴だと、其処に存在していた。
「薔薇を預かる事も、二人を出逢わせる事も出来ません。だから、代わりに言葉だけでも、写真だけでも、姫薔薇の君へ」
「ねえ、見せましょうよ。よかったら、どう……?」
 羽音は事前に事件を予見したフォーチュナ二人に確かめていた。映像でもその神秘は及ぶのかと。薄桃の予見者は首を振った。神秘器具での撮影でないなら大丈夫だ、と。それなら、ミリィの言う通りせめてもの『代わり』に『薔薇』の元へと送れないかと、そう思う。
 用意した一眼レフと携帯電話。羽音の優しい笑みに花盗人は首を振った。嗚呼、只、伝えてしまってはもう戻れないと思うから。自身の事は全てなかった事にして欲しいとも思う。全て『秘密』の侭であればいい。
 黒いマントが揺れる。背を向けたアザーバイドにフツは手を伸ばす。
「花盗人、お前に彼女を壊させたくはないんだ」
 フツの言葉に花盗人は呟く、壊れると、花を手折るよりも簡単に壊れてしまうと言うなれば。
「――帰ろう。『薔薇』、永遠の秘密だよ。あの日の哀しい事も、全て。この恋情と共に散らしてしまおう」
 薔薇が、散らばる。背を向けて、ゆっくりと闇に消えて行くように、空を割って逃げ帰る様に。ゆっくりと、ゆっくりと。
「なあ、そっち、どうだよ?」
『―――……』
 彼らに入った連絡は決してハッピーエンドではなかった。まっさらな『薔薇』に与えられたのはいくつかの不幸。救われやしない。足元に散らばった花弁を見つめて、エルヴィンはその花弁と同じくらい赤い瞳を伏せた。嗚呼、幸せを求めれば求めるほどに、届かない悲しみが胸を劈く。
「恋って、愛って、むずかしいの、ね……」
 ぽそりと呟かれる那雪の声にエルヴィンは頷いた。本当に難しい。恋も愛も模範解答はない。定義されないモノだから。拾い上げた花弁から感じる思いにフツは眼を閉ざす。自分達を理解してほしかった、けれど、相手の気持ちを理解できなかったのではないかと、そう思う。

 ――薔薇、秘密だよ
 なぜ?
 ――君が大人になったらまた迎えに来よう。その時まで、辛い事は忘れてしまいなさい

 其処に在るのはただ、愛おしいと思うだけの恋情。好きだから、辛い姿は見たくなかった。彼女の負担をなくそうと、そう思えた。壊してしまうならば、帰ろう。永遠に秘密のままで良い。辛い事は全て、忘れてしまおう。叶わないなら全て、なかったことにしよう。醒めない夢のままで、居よう。
 薔薇は咲かない蕾のままであればいい。
「私が、護るから……」
 そっと膝をついて拾い上げる。赤い赤い薔薇。愛しい人に出会えなかった彼の代わりに護ると、そう誓う。
 彼女の首でルビーのネックレスが揺れる。両親の形見の大切な物。羽音の肩を支えて俊介は俯いた。
「ごめん、な」
 どんな結果でもいい、どんな物でもいい。俯いた羽音の瞳からぽたりと雫が落ちる。湛える金色は揺れる水面。唇をかむ。
 嗚呼――
「愛の告白すら、赦されないなんて」
 なんて、この世界は優しくないんだろう。せめて、自分達だけでも優しくありたかった。

●枯れる恋心
 ――『花』盗人。盗む為に手折る一輪の薔薇の棘。
 胸に深く突き刺さるのは何なのか。致死量の愛が、彼女を蝕んで壊してしまうなら。
「薔薇」
 呼び声は、届かない。恋心が、死んでいく。嗚呼、永遠に秘密だ。
 あの日の君の事も、あの日の苦しい事も。全部全部秘密だ。
 ほら、致死量の愛に飲まれたのは僕だった。

 最初で最後の君だからこそ手向けの花を――『とこしえに変わらない愛』を。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れさまでございました。麻子STとの月一心情連動で御座いました。
切ない心情。
愛しい人と出会えない彼へかけられた優しい言葉の数々、厳しい言葉の数々に本当に心が抉られる想いでした。優しくて、厳しくて、とても、哀しいですね。

お気に召します様。ご参加有難うございました。

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レアドロップ:『amour eternel』
カテゴリ:アクセサリー
取得者:ミリィ・トムソン(BNE003772)