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わたしを沈める永久の花


 気付いたら、みんなみんな忘れていた。
 気付いたら、もう誰も居なかった。
 ――そもそも、『誰か』が居たのかしら?

 残っていたのは。
 紅い紅い、小さな花束だけだった。

 約束を、した気がした。
 遠い遠い、少し霞んだきおくのむこうがわ。
 漆黒のマントと、結んだゆびさき。
 またかならずくるからね、と、頭に響いた声と、
 そうっと抱き締めさせてくれた、真っ赤な花束。
 そのあと、そのひとは、なんていったっけ。
 溶けていく。においも、おんども、おとも。
 どろり、混ざって。漂白されていくわたしのきおく。

 目を閉じた。
 やっぱり、なにもおもいだせなかったけれど。
 この花束が大事なものであることだけは、確かに覚えていた。


「愛に溺れて死ぬ、なんて。それだけ聞いたら素敵かしら。……どーも、今日の『運命』ね」
 セロファンで包んだ紅い薔薇を一輪。指先で弄びながら、『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は口を開いた。
「薔薇の花で愛を伝えるとか、まぁオンナノコなら一度は憧れた事もあるかなーと思うんだけど。
 13年前のあの日、異界の来訪者に愛を告げられた女性が居る。彼女は極普通の一般人。名前や出生は、一切不明。
 ……覚えていない、って言った方が正しいかな。彼女の記憶は、13年前を境に全て失われたの」
 仮に、薔薇、とでも名付けておきましょうか。そう、小さく呟いて。
 フォーチュナは膝の上の資料を捲った。
「その日。アザーバイド……識別名は『花盗人』って言うんだけど。彼は、彼女に花を贈ったのよ。
 一輪の紅い薔薇と、3つの蕾。――『あの事は永遠に秘密』。その花束には、そんな意味があるんですって。
 彼女を深く傷つけたであろう悪い事も、自分とのこの密かな逢瀬も、一度全て忘れてしまいなさい、って」
 見たことのある花を手から生み出せる来訪者は、彼女の為に、世界中の薔薇を覚えに旅立った。
 99本の薔薇の花束を、彼女の為に。その日また、彼女と会う為に。
「99本の薔薇はね。『とこしえに変わらない』って、意味を持つそうよ。彼は、彼女に変わる事の無い愛を伝えに来る。
 受け取れば、彼女は全てを思い出すわ。傷は深いかもしれないけれど、その愛が癒してくれるでしょうね。
 でも。……そんな、世界に別たれただけの、やさしい恋も、運命って奴は許してくれないのよね」
 そっと漏れた、溜息。手の中にあった薔薇の花びらが、ひらり、と落ちた。
「彼女に渡されてる薔薇はね。この世界に存在しないものなの。異界の薔薇。……特別な力を持っている薔薇。
 要するに、アーティファクト足りうるものなのよ。彼女は奇跡的にそれと同調している。その力を、使いこなせる。愛の奇跡なのかしらね。
 ……でもね。これ以上、は無理なのよ。永久の愛を誓うそれを受け取れば、今は彼女を守っている薔薇の力は暴走する。
 歪んでしまうの。ただの人である彼女に、神秘の力は大きすぎる。その心は壊れるし、――最悪の場合、寵愛を得る事無く革醒するわ」
 だから、それを阻止して欲しい。
 一言。今回の依頼を告げる声に、ブリーフィングルームの空気が重く沈む。
「アザーバイドの対応は、世恋がしてるから気にしないで良い。あんたらに頼むのは、彼女の護衛と保護。
 まぁ、強力な力を持つアーティファクト使えるから、フィクサードにも狙われてんのよ、このひと。……当日、彼女は襲われる。
 だから、それに対処した上で、彼女をアークに連れ帰って欲しい。何にも覚えてないから、危ない状況なら素直に話は聞くと思うわ。
 彼女自身に戦闘能力は無い。ただ、強力な援護能力と、自己防衛の能力は持ってる。その辺の詳細は、資料見て」
 差し出される紙の束。弄ばれていた薔薇の花が、机に置かれる。
「……愛に沈んで、息を止められたほうが、彼女にとってはしあわせなのかしら。あたしにはその答えは見えないけれど」
 どうか、最善を。その一言共に、フォーチュナは静かに部屋を出た。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:麻子  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年09月26日(水)23:55
叶わない恋。
お世話になってます、麻子です。しいなSTとの月1心情連動。
以下詳細。

●成功条件
識別名『薔薇』の保護
(その他は一切成功条件に関わりません)

●場所
小さな花畑内。時間帯は夜。
足場の心配などはしなくても大丈夫です。

●『薔薇』
一般人の女性。20代前半程度。
13年前を境に記憶を全て失っています。名前も何も知りません。
昔交わした『約束』と、自分の手にある薔薇のことだけを何と無く覚えています。

●フィクサード×10
所属不明のフィクサード。
ホーリーメイガス、マグメイガス×2、クロスイージス×2
デュランダル、ソードミラージュ、破界闘士×2、ナイトクリーク

実力は若干ばらつきがあります。Rank2スキルまで使用可能。
『薔薇』をアーティファクトごと確保する事が目的です。
彼女の力が増幅するならば、アザーバイドと会わせる事も視野に入れているでしょう。

●アーティファクト:『少女』の薔薇
『赤薔薇一輪と蕾三つ』で少女の頃の記憶を封印しています。
その封印を解くには花盗人が残り95輪の薔薇を渡し、99本のバラの花束を完成させる必要があります。
ただし、少女の手に薔薇が渡った時点で『薔薇』は気が狂ってしまいます。

現時点で、アーティファクトは『薔薇』と共鳴し、その力を彼女を護る為に発動しています。
具体的な能力は以下。

茨の加護(P:持主への攻撃を高確率で反射します。また、持主が望めば、対象からの接触を拒絶出来ます)
滴る花蜜(持主の望む対象全てに、EP回復中を行った後、リジェネレート中を付与します)
零れる花弁(持主の望む対象全てに、防御・命中上昇の力を付与します)

共鳴している為、彼女は代償無しでアーティファクトを使用出来ていますが、使用し過ぎれば何があるか分かりません。
基本的に、自分を守ってくれる存在であるリベリスタに積極的にその力を行使します。


少女へのアプローチはご自由に。結果的に彼女が保護されるのであれば、方法は問いません。
以上です。ご縁がありましたら、宜しくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
ナイトクリーク
花咲 冬芽(BNE000265)
ソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
レイザータクト
伊呂波 壱和(BNE003773)
覇界闘士
伊藤 サン(BNE004012)
スターサジタリー
ジョバンニ・F・アルカトル(BNE004038)


 足りなかった。恋をするには。恋を、続けるには。
 わたしをつくる幾つもの言葉は抜け落ちて、残っているのはただ只管に胸を満たすいとしいのこえ。
 知っているけど、知らなかった。

 ――嗚呼、私を呼ぶのは、だあれ?


 先手は、完全にリベリスタが取っていた。
 女を護るように、半円。その左翼の1人、『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)が放った淀み無き一撃が魔術師の体を抉る。
 速さとは時に最大の武器。敵が動く前に決まった一撃に、走る動揺。仕返しとばかりに切り込んできたソードミラージュは『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が軽々といなす。
「人の恋路を邪魔するのは私達も同じだが」
 空気を読まぬは無粋よりも尚論外。さっさと片付けてしまうべき存在だ。そう切り捨てて、騎士は少しだけ、その整った面差しを曇らせる。
 世界の法則。世界を隔てた親交の結末は、何時だって悲しみに満ちている。それが、叶う日は来るのだろうか。分からないけれど。
 どうか、優しい決着を。祈りに応じる騎士の、祈り。その横では『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)が震えを押さえ込んで状況を認識する。
 敵の攻撃は、後ろに庇う少女に届く。判断して。挑発。
「闇討ちなんて卑怯な真似するなんて、みみっちい人たちですね!」
 此方に向く怒り。守りを固めた相手を引き寄せる事に成功して。壱和は微かに視線を下げる。
 愛とか恋とか、ピンと来ないけど。すべき事は単純明快。女性を襲う暴漢を、成敗するだけの話。
 そんな彼らを後ろから見つめて。リベリスタ全員に花の加護を授けた女、『薔薇』は少しだけ不安げに、前に立つ『語り手を騙りて』ジョバンニ・F・アルカトル(BNE004038)を見遣る。
 振り向けば、目が合った。微笑んで見せる。保障なんて、何処にも無いけれど。
「大丈夫、きっと上手く行くさ」
 空には美しい天の川。酷く澄んでいて。どんな星だって良く見えた。良く、見えるのに。
 ジョバンニの見つけたい星は、自分の星は、見つからない。嗚呼、でも。今日。彼女は、彼女の星を見つける事が出来るのだろうか。
 彼女自身、と言う名の、見えなくなってしまった、何かを。
「ボクが放つのは、花の似合う手弱女の願いを叶える為の、流れ星」
 放つ弾丸。隊列は崩せない。長さの異なる2刀を握った『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は一歩だけ踏み込んだ。目の前には、怒りにつられ飛び出していたナイトクリーク。
 もう1人巻き込める。判断して、残像すら置き去りにする神速の一撃。鮮血が跳ね飛んだ。
 出来るなら、13年を埋めさせてやりたい。取り戻させたい。けれど。
「……やっぱり無理かねえ」
 それが夢の様なことだ、と、彼はもうとっくに知っているのだ。敵の攻撃が、飛んでくる。それを凌いで、『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)はその指先を伸ばした。
 両腕から飛び出す、無骨な5連砲が閃光の雨を降り注がせる。恋なんて、した事無かった。でもだからこそ。彼女の薔薇を、散らせたくない、と思った。でも。本当は。
「――羨ましいな」
 漏れた声。羨ましいのだ。幸せな人、妬みたくなってしまう。人間だから。それは当然の感情で。でも、邪魔しよう、とは思わなかった。
 恋の幸せを、自分はまだ知らないのだけれど。『しあわせ』である事を、知っている。だから。邪魔はさせない。
「Omnia vincit Amor et nos cedamus Amori!」
 何時か何処かで。偉い人が言ってた事。愛の勝利。愛は、全てを凌駕するのだ。だから、絶対に負けない。
 そんな彼から離れた、半円のほぼ中心部分。『覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が、微かに動く。
 一瞬。振り抜かれた事さえ気づかぬ程の速度が生み出す、全てを貫通する一撃が、前衛ごと敵の魔術師を切り裂く。
 その頬を伝う、紅い色。攻撃されやすい中央の彼の傷を心配したのか、薔薇が祈るように手を組もうとする。
「大丈夫だよ、薔薇ちゃん。僕たち意外とと強いんだぜ?」
 一瞬だけ振り向く。安心したように頷く彼女に笑いかけて、夏栖斗は再び、前を向いた。
 13年の刻を超える恋物語。その響きはまるで御伽噺で。けれど、御伽噺にはなり得なかった。これは、現実だから。
 御伽噺みたいはハッピーエンドは、現実では殆ど起こらない。
 女の想いを、失った記憶を、否定はしたくない。けれど、もう、13年なのだ。13年を、経ているのだ。
「……人の恋路を邪魔するのは本意ではないけど」
 狂って死んで、世界から爪弾きにされる未来も、優しい想いを狂わせる愛も。
 不幸でしかない。彼女は、救われない。そう思うから。夏栖斗は心を決めていた。この恋は。約束は。遂げさせてはいけないものなのだと。
 ふわり、薔薇の香りがした。彼女の為に、と用意したもの。その時に身に纏う事となった香りを感じながら、『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(BNE000265)は道化のカードを投げつける。
 守りにきたのだ、とリベリスタが告げた時。有難う、と控えめに笑う顔は優しくて。
 だからこそ。少しでも優しい結末を。安定を、あげたかった。大鎌を、構え直す。
 この『恋』は、一体何処に辿り着くのだろうか。


 戦況はほぼ、作戦通りだった。誤算と言えば、孝平とアラストールがその運命を削った事だろうか。
 状況は万全。そう判断したジョバンニが、薔薇の手を取る。用意した車に彼女ごと乗り込んで、一気にアクセルを踏み込んだ。
 意図に気付いたフィクサードはしかし、追いすがる事が叶わない。無限機関が唸る。強い鼓動と共に生み出された弾丸が、雨あられと降り注ぐ。
 羨ましくて妬ましくて。その心は、放つ弾丸の中に注ぎ込んだ。八つ当たり? 嗚呼、その通りだ。
「……笑っちゃうよ」
 とんだエゴの傲慢人間。でも、それはある意味何より、人間らしかった。手に入らないから、焦がれるのだ。
 嗚呼羨ましいなあ。去っていく車に、目を細める。それでも追い縋ろうとする敵の視線を引き付けるのは、壱和。
「番拳たるもの。吠えるが務め!」
 何度でも。どれだけ傷付こうと。壱和は敵の怒りを自分に向けることを止めない。
 どれだけ怖いと思ったって。逃がさないと決めたから。臆病な瞳が確りと前を見る。
 庇い護る対象が居なくなった事で、リベリスタの攻撃は一気に苛烈さを増す。
 孝平の斬撃が、遂に拳を振るっていた闘士の膝を折る。過半数は、倒し切った。
「僕らの名前は知ってるだろ? やりあって消耗するのは無駄じゃね?」
 どうせ六道か黄泉ヶ辻だろうけれど。アークの名を。そして、自分の名を知るのなら、さっさと逃げ帰る事が得策だ。
 名乗るまでも無く名の知れた彼に、フィクサードが後退する。
「これ以上は無駄だと思うんだが」
 如何する? 冷ややかに放られた、義衛郎の声。歯噛みする気配がした。躊躇いは一瞬。一気に走り去る後姿を、見送る。
 保護は為された。ならば、後は、結末を決めるだけだった。

 長い永い時間を、過ごして来たのだろうと、ジョバンニは思う。
 自分が誰かも知らないまま。もがいて、けれど何も掴めないまま、生きてきたのだろう。
 それでも。それでも、彼女が羨ましかった。流れる時を、永い、と感じられる事が。
 そして何より。今日、『星』を見つけられるかもしれない彼女が、羨ましかった。
 彼女を車から降ろして、空を見上げる。嗚呼。何て綺麗な、星空だろうか。
「……その薔薇は、アーティファクトです。とある人から贈られた」
 義衛郎が、全てを伝える。花盗人と呼ばれる、彼女の約束の相手を。約束の意味を。
 そして、その上で。
「会いたいですか、彼に」
 尋ねるのは孝平。本当のことを言えば。出来ることなら、出会わせてやりたかった。本人達が望む様な解決方法を取らせてやりたかった。
 自分達は介添え人。彼女の望みを叶える為に、来ているのだから。
 もし。もしも、彼女が全てを知った今でも、会いたいと思うなら。狂っても構わないと言うのなら。
「……貴方が望むのなら、それが最良です」
 ふらふら、と、視線が彷徨う。少しだけ待って、と、小さな声がした。
 きっと、告げた事実に付いて来られていないのだろう。そう思いながら、義衛郎は女を見遣る。
 上手く行けばいい、と、思っていた。互いに納得して。彼らが二人で結末を決められれば良いと。その優しさは、薔薇にも伝わっているのだろう。
「会えるの? ……会っても、良いの?」
 ぎこちなく、尋ねる声。何も知らないから。もし。もしも知れるなら。この胸を満たすいとしいに、意味を、与えられるなら。
 迷う様に瞳が揺れていた。それとそっと、目を合わせて。夏栖斗は首を傾げる。
「まだ分からないんだ。……でも君は、彼と言葉を交わしてみたい?」
 この恋を、遂げさせてはやれない。もう、心に決めているのに。言葉を交わせばその後が辛くなるだけなのに。
 終わらせるべき、恋なのに。それでも、夏栖斗は、非情になり切れない。
 それは優しさと言うべきものだけれど。紙一重で、偽善ともなりうる、ものだった。その言葉がどちらになるのか。今は未だ、分からないけれど。
 恋人を想った。もしも自分と彼女が別たれた時。自分は一体如何するのだろうか? 彼女は、一体。
 答えは見えない。きっとそれは、薔薇も同じで。ならば、自分達に出来るのは、答えを待つ事だけだった。
 沈黙が、落ちる。知らないけれど。いとしいと恋い願う相手。如何したいのか、と自分に尋ねる。答えは未だ、出なかった。


「もし再び出会う事が出来なかったなら……『あの事は永遠に秘密』。多分、これはそういうことなんじゃないかな」
 だから、自分から言う事はないけれど。そう言いながら冬芽が差し出したのは、大きな薔薇の花束。
 女の瞳が、瞬く。95本の薔薇の花束。それは、本当なら約束を果たす日、彼女に送られるはずのものだったけれど。
 その約束は、果たされない。これは、彼からの花ではない。自分には彼の気持ちはわからない。
 けれど。これは彼女の持つ薔薇をを贈った『誰か』が、今日、確かに彼女に渡したかったものなのだ。
 それさえ、分かってもらえたなら。
 これはそれで十分な、とあるひとつの恋の物語、ではないだろうか。
 優しく。自分の思いを吐露した冬芽の瞳を、漸く顔を上げた薔薇が見つめる。
「――違うわ」
 小さく。けれどはっきりと。冬芽の差し出した薔薇を受け取る事無く、女は告げた。
 同じ色の瞳は、怒りにも似たいろを湛えて。
「これは、優しさよ。分かるもの。自分のことさえ忘れられてしまうことを知っていながら、わたしをまもろうとした優しさなの」
 知らなくても。思い出せなくても。わたしを護る薔薇が、何よりの証明。
 誰か、は、わたしのこころごと、わたしを護ろうとしたのだ、と。
「分からないんでしょう? あなたが分かる訳ないのに、そんな事言わないで。わたしのお話の結末を、どうしてあなたが決められるの?」
 こんなのいらない。雑に放られた花弁が散る。紅い紅いはなのいろ。それは、心の傷が流す血にも似て。
 泣き出しそうに。けれど毅然と、女はリベリスタを見据える。
 言葉を飲み込んだ。狂ってしまっても良いなら。会いたいなら。時間をあげる、なんてもう言えなかった。
 冬芽のそれも、優しさだったはずだ。しあわせなおわりを目指す為の。けれど、女にとっては、それは悲しみと、怒りにも似た何かにしかなり得なくて。
 擦れ違っていく。自分たちと、薔薇が。そして。
「……終わったよ」
 幻想纏いから、声がする。現状を簡潔に。そっちは、と尋ねれば、返って来るのは、決別の選択。夏栖斗の唇から、溜息が零れた。
 薔薇と、花盗人も、また。
「――あえないんでしょう?」
 薔薇色の瞳が、夏栖斗を見ていた。泣き出しそうに潤んで揺れて。けれどそれでも彼女はその涙を、零さない。
 会えないんでしょう。繰り返された言葉。それは、正しかった。
「違う所に来ているのね。でも、あえないんでしょう。わたしはもう二度と、あなたたちのいう、わたしがこいしたひとに、あえないんでしょう」
 13年分の記憶しかなくても。それは新しい彼女で。それを壊してまで愛を貫くのは、不幸である、と。
 リベリスタの判断は、善意だった。優しさだった。それは、確かに、彼女を人として留めて。この先の未来を護ったのだけれど。
 その心は、沈んだまま掬えない。救えない。少女の頃を忘れた女が、あどけなく笑う。
「教えてくれたでしょう。約束と、『誰か』のこと。でもね、わたし、それが自分のことだ、って、思えないの」
 まっさらな心に、善意で書き込まれた箇条書きの事実。乖離してしまう。心と、事実が、繋がらなくて。
 もう、それ以上の言葉は無かった。細い手の中。咲き誇っていたそれが散っていく。蕾のまま、溶けていく。
「……ねぇ」
 泣いているようだ、と思って。伊藤は声をかける。目が合った。ねえ。恋って、しあわせ?
 知らなかった。知りたかった。羨ましくて、少し妬ましくて。
 でもしあわせなら、守ってあげたかった。花が、散っていく。少しだけ間が開いて。
「さあ。そうね、でも」
 しあわせ、だったんじゃないかしら。
 覚えていなくても。胸に残る温度が。息が詰まるほどのいとおしいが、その強さを教えてくれる。
 だから、きっと。少しだけ微笑む。干渉はしない。そう、決めていたけれど。
「僕は、二人を、二人の愛信じてるよ。……13年、それ、無駄な時間なんかじゃなかったんだ、って」
 だから。だからどうか。もう少しだけ。一欠けらでも、しあわせなおわりを、と。
 祈っていた。けれどもうそれは、叶わない事も見えていて。言葉は出てこなかった。嗚呼、どうして。どうして人は恋をするのだろうか。
 こんなに悲しいけれど。羨ましいほどに幸せで。嗚呼。何時かは、自分も恋をするのだろうか。
 薔薇、と呼ばれた女は微笑む。たすけてくれてありがとう。その一言だけを残して、その姿はゆっくりと、何処かへと消えていく。
 壱和の瞳が、微かに震えた。名前を、伝えてあげて欲しいのだ、と。花盗人に告げたかった。
 今となっては彼だけが知っている彼女の事を。彼の口から伝えて欲しかった。自分達ではなくて、彼自身で。
「――いつか、」
 言いかけて、でも、もう言えなかった。何時か。もしも彼らが運命と言う名の脆くも強い糸で結ばれていたなら。
 彼らが再び出会える事を。普通に、極当たり前の恋人同士の様に。会える事を、願いたかった。信じたかった。でも。もう叶わないのだ、と、頭の何処かで、わかってしまったから。
 噎せ返るような、花の香りが満ちている。
 優しい、薔薇の香りがした。さようなら、と、手折られた花が笑った気がした。


 もう思い出す事の叶わないあの日。
 漂白されたそれの向こう側、少女は確かに何時かの約束を、望んでいた。
 攫って行って欲しかった。理由も思い出せないけれど。『約束』を果たしたかった。
「――嗚呼」
 吐息と共に、涙が零れた。
 嗚呼。知っているけれど知る事は出来ない。もう二度と。
 誰かの名前も、約束の行方も。あの日のことも、――わたしの、ことも。
 沈んでいく。もううまく名前さえ付けることの出来ないもののなかに。
 息が、止まる。気管を塞ぐいとしいのこえ。
 終わってしまったのだ。永久の花は、枯れてしまった。
 最初で最後のこいと一緒に。
 わたしは、わたしを完全に、失ったのだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
しいなさんとの連動。切なかったです。

色々加味した結果こんな感じです。
優しさとか、気遣いとか。沢山でした。かなり悩んだのですが、こういう結末です。
戦闘面ばっちりでした。ただ、心情や、その後の処遇についてはばらつきがありすぎるように思いました。

有難う御座いました。また、ご縁ありましたら、宜しくお願い致します。