●鏡のような……。 夏も終わったとはいえ、まだまだ吹く風には熱気が籠っている。そんな暑い風が吹きすさぶ穏やかな午後。城跡に作られた公園に、突如としてディメンションホールが開いた。 そこから現れたソイツは、鏡のような体表のスライム状の生命体だ。所謂、アザ―バイドと呼ばれる生き物である。うねうねと体を波打たせ、それは芝生の上を這う。 周りの景色を反射させ、映し出すその体表のおかげだろう。公園内を歩く数人の人間は、ソイツの存在に未だ気付いてはいない。 そんなソイツの傍を、1人の青年が通りかかる。 青年は、ソイツの前を通って、そのまま公園から出て行ってしまう。 青年の姿が、ソイツの鏡のような体表に映り込んだ。 次の瞬間……。 『………』 ソイツの体は、たった今目の前を過ぎたばかりの青年と、まったく同じ姿に変化していた。 ●変幻自在 「アザ―バイド(ミラーフェイス)を、元の世界に送り返して欲しい」 モニターを見つめながら『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がそう言った。 モニターに映っているのは、穏やかな午後の時間を、思い思いに過ごす十数人の男女の姿だった。広場の大きさは、野球場程度だろうか。パッと見た所、アザ―バイドらしきものの姿は見当たらない。 「ミラーフェイスは、鏡のような体表を持ったスライム状の生命体。体に映った物や人の姿をコピーし変身する能力を持っている。コピーした対象の知識も得ることが出来るけど、元々頭のいい生命体ではないから、その知識をどこまで理解できているのかは不明」 一度、人の姿をとっている以上、人間としての知識は持っている筈だ。 「さっきまでは、青年の姿だったけれど、今はどんな姿をしているのか分からない」 一度隠れられてしまうと、再び発見することは困難になるだろう。 しかし、見つける方法が無いではない。 「人や動物に変化している間は、目が鏡のようになっている。物や木の場合は、どこかに鏡のような部分がある筈」 ミラーフェイスは、その鏡に対象を映すことで、その姿形をコピーする。 「今のところ、攻撃手段は持っていない筈。ただし、死ぬと爆発して協力な毒を撒き散らすようなので、生きたまま元の世界に送り返して欲しい」 よろしく、とイヴは言う。 「なお、どうやらミラーフェイスは植物が好きみたいなので、今のところ公園から出るつもりはないと思う」 一般人とミラーフェイスを、確実に区別して対処することが重要になるだろう。 「行ってらっしゃい。ディメンションホールの破壊も忘れずにね」 そう言ってイヴは、リベリスタ達を送り出す。 これは、穏やかな午後の公園に紛れ込んだ、1匹のモノマネアザ―バイドの話……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月27日(木)22:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ミラーフェイス、捜索開始! 夏の名残りを僅かに残した穏やかな風が吹き抜ける。ここは、かつて城だった場所を改修して作られた芝生公園。十数人の男女が、思い思いの時間を過ごしている中に、異世界からの迷子が1体。ミラーフェイスという名の、他者の姿を自在にコピーするアザ―バイドである。 そんなミラーフェイスを見つける為、公園に踏みこんだ女性が8人。 さらり、と吹いた風が草木を揺らす。 ●鏡のような生物。 「モノマネスライム! 変幻自在なんて面白いよね。どんな子かなー?」 爆弾処理班の姿に変身した『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)が、楽しそうにそう言った。手近に生えていた木の裏を覗きこみ、確認する。 ミラーフェイスは、人や物に姿を変えるアザ―バイドである。しかし人に変じた場合はその目が、物に変じた場合はどこか一部が、鏡のようになるという特性があるのだ。 「面白いアザ―バイドだが、死ぬと毒を撒き散らすとか、凄まじく潔くない死に様だな……」 爆弾処理班に変じたぐるぐの隣を歩くのは、同じように処理班の制服を身に纏った『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)である。傍を通りかかった大学生の顔を、横目でチラと確認して、それがミラーフェイスでないことを確認する。 木蓮は、そうしながら服の胸元を摘まんで、頬を引きつらせた。 「……ま、マジでぴったりサイズだ……!」 「サイズを知ってるのなんて気にしちゃいけない」 ぐるぐと木蓮のチーム同様、残りのメンバーも2人1組に分かれミラーフェイスを探している。 「遊びのつもり、なのかしら。敵意はそう感じられないし……穏便に解決出来たら良いわね」 そこらの物や、行き交う人を熱感知で観察しながらスーツ姿の『鋼脚のマスケティア』ミュゼ―ヌ・三条寺(BNE000589)がそう呟いた。 「手荒な事は避けたいものですね……」 困ったように頬笑みながら『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が答える。真上に輝く太陽を見上げ、眩しそうに目を細める。 そのまま、太陽光を反射している物等がないか、確認する。どうやら、2人の周囲にそれらしいものは存在しないようだ。 彼女の張った結界の作用か、少しずつ公園から外に出ていく者が増えていく。 「早く見つかると良いのですが……何処でしょう」 「この辺りには見当たらないわね」 捜索開始から数十分、ミラーフェイスの捜索は難航している。 「擬態性のスライムですか。なかなか珍しい種族ですね」 「相手のスキルを覚えるタイプのリベリスタならいますが、覚えられる側に回るのは新鮮ですよね」 堂々とした足取りで芝生の上を闊歩する『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)と、それに付き従うメイド服の女性『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が言葉を交わす。 軽快に言葉を交わしつつも、2人はしっかりと周囲の様子を確認しながら歩いている。もっとも、現在に至るまでそれらしいものを見つけることは叶わず、また2人とも目を引く容姿であることから、不要に人の視線を集めてしまっているようだ。 「戦闘になったら、私自身は勿論、ミュゼ―ヌさんやシエルさんに化けられるとやり辛そうですね……」 「殺すのはまずいみたいですしね」 なんて、会話を交わしながらも2人のミラーフェイス捜索は進む。 ミラーフェイスの捜索開始から、1時間が経過した。未だミラーフェイスらしきものは見当たらない。 『厄介な異世界の隣人もいたものね』 公園の風景をスケッチしながら『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)がそう呟く。呟く、といっても、彼女の口は一切動いていない。ハイテレパスによる念話だ。彼女の声は、直接の脳裏に響き渡る。 「モノマネ好きなスライムですか。面白そうですよね」 と、沙希の隣に腰かけた『混沌を愛する黒翼指揮官』波多野 のぞみ(BNE003834)が笑顔で答える。芝生の上にシートを敷いて座る2人の背後には、ディメンションホールが開いている。ミラーフェイスは、それを通ってこの世界にやって来たのだ。 広い視野を持つのぞみと、絵を描きながら自然な動作で人や物を確認する沙希。じっとその場から動かないまま捜索を続ける2人だが、決して捜索範囲に劣るようなことはない。 『あら……?』 鉛筆を握る沙希の手が、ピタリと止まる。物や人に目を凝らし、首を傾げる。 「どうかしました?」 のぞみが首を傾げ、問いかける。つい、と沙希の指が公園の端、桜の木の方を指さした。そこに居たのは、腰の曲がった老婆だった。 『あの人、ついさっき出ていったような……』 なんていって、首を傾げる。スケッチを捲って、自身の記憶と照らし合わせる。 「見つけたっぽいですね。他の人に連絡しますね」 髪を描き上げながら、のぞみはスーツのポケットからAFを取り出した。 「間違いないみたいだ。一般人には公園から出て貰おう」 木蓮の言葉を受けて、ぐるぐが拡声器を構える。すでに、彩花とモニカが現場へ行って、老婆の正体がミラーフェイスであることは確認済みである。 『えー。皆さん、この公園内に爆発物をしかけたとの情報が入り、現在調査中です。お楽しみの所申しわけありませんが、念の為一時ここから離れていただけませんか』 爆弾処理班に化けたぐるぐが、拡声器をつかってそう告げる。 公園の利用客の視線が、ぐるぐと木蓮に集まる。なにを言っているのか、理解に苦しんでいるのだろう。一瞬の静寂の後、ざわざわという喧騒。 「死ぬと毒を撒き散らすか。ある意味爆弾だよな」 木蓮は、困ったようにそう呟いた。 『繰り返します。念の為一時ここから離れていただけませんか』 公園中にぐるぐの声が響き渡る。静寂の後、にわかに利用客達が騒ぎ始めた。 客の数は、10数人程度。とはいえ、このまま騒ぎになるのは良い展開とは言い難い。 そんな中、真っ先に声を上げたのはミュゼ―ヌだった。 「落ち着いて。今は素早くこの場から離れましょう」 そう言って、傍にいる人達を先導し、公園からの退出を促す。ミュゼ―ヌに促され、真っ先に公園の出口へ向かったのはサラリーマン風の男性だった。他の客たちも、それに続き、急ぎ足で公園の出口へと向かう。 それを確認し、ぐるぐと木蓮は、公園の外周に沿って老婆の元へと移動を開始した。 「皆様、慌てずに公園から退出してください」 ミュゼ―ヌに続き、シエルも客に避難を促す。爆発物という単語に興味を引かれ、非難勧告に従おうとしない者も多数いるのだが、それでも周りに流されて少しづつだが出口の方へと移動しているようだ。 2人とは別の場所では、沙希やのぞみが同じように客を避難させていく。 公園から人が完全にいなくなるまで、この調子なら後10分もかからないだろう。 「すぐに、避難、してください」 途切れがちの発音ではあるが、沙希もまた傍にいた老夫婦を公園外へと誘導している。 老夫婦が公園から出たのを確認すると、のぞみはよしと頷いて、視線を桜の木の方へと向ける。 スケッチブックを閉じて、沙希もまた視線をそちらへ。 「さあ、レイザータクトとしての本領発揮ですよ」 どことなく楽しそうな様子ののぞみは、沙希の手を引きながら急ぎ足で移動を開始したのだった。 「そこ! もたついてないで、素早く避難してください」 高校生らしきカップルを彩花が追い払う。一方、モニカはミラーフェイスの変じた老婆の傍に立ち、逃亡されるのを阻止している。 と、言ってもただ視線を外さないように注視しているだけのようだが。 カップルと入れ違いに、ぐるぐと木蓮、それから沙希、のぞみペアがやってくる。ミュゼ―ヌとシエルは、まだ避難誘導を続けているようだ。 「間違いないみたいだな」 老婆の目が鏡のようになっていることを確認して、木蓮がそう言った。 「みたいねー」 するすると、爆弾処理班の姿から元の姿へと変身しながら、ぐるぐが答える。それを見て、老婆、もといミラーフェイスが驚いたような顔をした。 それから、ミラーフェイスはにこりと笑う。 次の瞬間。 老婆の体はスライムのように溶けた。鏡のような肌をしたスライムだ。グネグネと、うねるように蠢き、またなにかの形をとっていく。 「これは……」 驚嘆の声を漏らしたのは、モニカだった。リベリスタ達が見つめる中、ミラーフェイスの姿が、ぐるぐへと変じる。 「あれ? ぐるぐさんを捕まえに来たの?」 と、ミラーフェイスは言う。ぐるぐの姿と知識をコピーし、現状をあらかた理解したのだ。とはいえ、元々がスライムである。完全に理解したとは、言い難いのだが。 「此処あぶないよー。おうち帰ろー? あと、君はぐるぐさんじゃないよ」 自分と同様の姿をしたミラーフェイスに、本物のぐるぐが声をかける。 『植物、好き? シロツメグサの冠とか一緒に作らない?』 と、沙希が念話で声をかける。なにが面白いのか、ミラーフェイスはニコニコと笑っているままで、なにも答えない。 「私達は殺戮が目的じゃないですからね」 「おう。帰りたいなた、俺達が手を貸すぞ!」 のぞみと木蓮がそれに続く。あくまで穏便に、事を荒立てずにミラーフェイスを元の世界に送り返したのである。しかし……。 「やだ!」 そう叫ぶと、ミラーフェイスはぐるぐの姿をしたまま走り出す。細かく足を動かし、素早く駆けるミラーフェイス。咄嗟に反応したぐるぐがそれを追いかける。 「なんてやり辛い……」 2人に増えたぐるぐを見て、彩花がそう呟いた。 ●元の世界へ帰ろう 「え……! 2人?」 「これは……ミラーフェイスのコピーですか?」 避難誘導から戻って来たミュゼ―ヌとシエルが驚きの声を上げる。2人の見ている前で繰り広げられるのは、2人のぐるぐによる追いかけっこであった。 前を走っているぐるぐが、素早く連撃を放つ。それを慌てて回避する、後ろのぐるぐ。どうやら前を走っている方がミラーフェイスらしい。 ミラーフェイスぐるぐが繰り出したのは、ノックダウン・コンボと呼ばれる技である。ぐるぐをコピーしたことにより、本来ぐるぐしか使用できない特殊な技もマスターしたらしい。 ぐるぐ(本物)も、同様の技をもってそれに対応。しかし、ミラーフェイスは困惑したまま動けないでいるシエルの背後に回り込み、それを避ける。 「うわ。避けられた」 「全く、その姿をされていたら戦いにくいけど……」 マスケット銃を取り出し、ミラーフェイスに向けるミュゼ―ヌ。ぐるぐの姿を見て、一瞬躊躇うものの、引き金を引く。放たれた弾丸は、寸分のずれもなく、シエルの脇をすり抜け、ミラーフェイスへとヒット。 パン、という渇いた音と共に、ミラーフェイスの体がスライム状に変化し飛び散った。自分の同じ姿をした者が、溶けて飛び散るのを見て、ぐるぐの足が止まる。 「うわ」 スライムは、地面に散らばったまま動かない。 「これ、大丈夫なの?」 と、心配そうなミュゼ―ヌ。おそるおそると言った様子で、シエルがスライムに近づく。 「あの、かぼちゃのタルトでお茶でもしませんか?」 なんて言いながらも、ミラーフェイスがこのまま死んでしまわないよう回復を試みる。淡い光がミラーフェイスを包み、傷を癒していく。 「びっくりしました」 なんて言いながら、ミラーフェイスが起きあがった。今度の姿はぐるぐではなく、モニカだ。外見年齢、12歳ほどの銀髪の少女の姿だ。 「私の姿ですね」 「あぁ、馬鹿メイドなら思いっきりぶん殴れそうですね」 ほぉ、と感心したようなモニカと、そんな彼女の隣を駆け抜けていく彩花。大きく振りあげた彩花の拳が冷気を纏う。 危機感を感じたのだろう。ミラーフェイスが手にした対戦車ライフルを彩花に向ける。どうやら、持ち物もコピー可能らしい。銃口を向けられ、彩花の顔が強張った。 「避けさせて! 危ないです!」 のぞみが叫ぶ。後衛から戦場を見守っていた彼女による、戦闘指揮。鞭を振り回し、銃口を逸らそうとするが間に合わない。ちっ、と小さく舌打ちの音。のぞみの頬を冷や汗が伝う。 『仲間の技で倒されるとか、嫌過ぎるもの』 のぞみの声に反応し、真っ先に動いたのは汐崎だった。勢いのまま駆ける彩花に抱きついて、地面に押し倒す。水色の髪が大きく跳ねた。地面に伏した2人の真上を、銃弾が通過していく。コピーしたのは銃弾の形だけらしく、火薬の臭いはしない。しかし、その威力は本物と同様らしい。背後の桜の木が、大きな音をたててへし折れた。 「避けられましたか」 と、ミラーフェイスが呟く。直後、ミラーフェイスの姿はスライム状へ変化、それから今度はのぞみの姿をに変化する。のぞみの姿をコピーしたことにより手に入れた、黒い翼をはためかせ、ミラーフェイスは宙に舞い上がる。 「私の姿!? いい加減、大人しくしてくださいな」 のぞみがミラーフェイスを追って、宙へと舞い上がる。それを見て、ミラーフェイスは楽しそうに笑って、逃げる。 「遊んでるのか? 説得は、無理か」 木蓮が2人を追いかける。時折、銃弾を放ち、ミラーフェイスの行動を阻害する。とはいえ、のぞみの姿をコピーし素早い動きが可能になったミラーフェイスには当たらないでいた。 「元の世界にお帰りいただこう」 銃弾を放つ。しかし、こちらも走りながらの狙撃である。元より狙いはさほど正確ではない。当てる必要はないのだ。ただ、妨害さえできればそれでいい。 「追いこむわよ!」 「了解だ」 ミュゼ―ヌも援護射撃に加わる。ミラーフェイスに当てるのではなく、進路を塞ぐよう、銃弾を撃ちこんでいく。2人分の銃弾をかわしながら、のぞみの鞭を避けるのはきついのだろう。 ミラーフェイスとのぞみの距離は、確実に狭まっていく。 「通しません」 ミラーフェイスの正面に、シエルが回り込んで手を広げた。ミラーフェイスの表情が引きつるのが見える。 「せっかく楽しいのに……」 進路を塞がれたミラーフェイスは急降下し、その姿をトカゲへと変化させていく。小さくなって、そのまま逃げるつもりなのだろう。しかし……。 『捕まえて』 「分かっています!」 「逃がさないよ」 地面に向かって冷気を纏った拳を叩きつける彩花と、ミラーフェイスへ向けて連撃を叩き込むぐるぐ。地面が凍って、トカゲと化したミラーフェイスの動きを止めた。 次の瞬間、ミラーフェイスの姿が、瞬時にぐるぐへと変化。足元を拘束していた氷を砕き宙に飛び上がった。ぐるぐの攻撃を回避し、擦れ違い様にぐるぐの胴へ拳を叩き込んでいく。 「うっ!」 呻き声を上げ、地面を転がっていくぐるぐ。しかし、その顔は笑っていた。 「よし!」 「ひっかかりましたね」 同じく、笑顔を浮かべるのぞみと彩花。困惑の表情を浮かべるミラーフェイスの背後から、すっと、小さな手が伸びた。 「う、えっ!?」 「殺すのはまずいみたいなので、ここはアレの出番ですね」 そう言って、モニカはミラーフェイスにそっと顔を寄せる。どことなく、冷たい、人を見下したような目でミラーフェイスを見やる。 「私自身どういう経緯で習得したかよく分かっていないこのスキル。幼女の毒舌メイド仕様」 なんて、呟いて。 モニカが、ミラーフェイスの耳元で何事か囁いた。 次の瞬間、ミラーフェイスの体が大きく跳ね、その動きを完全に停止させたのだった。 ●さらばミラーフェイス 「これ、貴女にあげる。向こうの皆にこれを見せてあげればいいわ」 植物が好きなミラーフェイスに、ブリザードフラワーを手渡すミュゼ―ヌ。ミラーフェイスは、嬉しそうにそれを受け取ると、ディメンションホールを潜って、元の世界へと帰っていく。 『さようなら。元気でね?』 小さく手を振ってミラーフェイスを見送る汐崎。彼女が小脇に抱えたスケッチブックには、ミラーフェイスの絵が何枚も描かれている。 「これでよし、と。如何わしいスキルをコピーさせて帰してしまいましたが」 一抹の不安を感じます、とモニカが呟く。 魅了を使って行動を阻害した上で、拘束し、説得し、ミラーフェイスを元の世界に送り返す。そこまで終わらせた頃には、すでに日が傾きかけていた。 「それにしても、疲れました」 「えぇ、全くだわ」 帰っていくミラーフェイスを脇目に、芝生の上に座り込んで大きなため息を吐くのは、彩花とのぞみである。拘束後も、なにかと騒がしいミラーフェイスの相手をしていたせいで、疲労しているのだ。 「いやー。楽しかったね」 「まぁ、面白い奴ではあったけど……」 拘束後、ミラーフェイスと一緒に他者へと変化して遊んでいたぐるぐは、満足そうな笑みを浮かべている。 一方、木蓮は疲れた顔で苦笑い。ディメンションホールを破壊しながら、溜め息を吐いた。 なにはともあれ、これにて一件落着である。他者に変化するアザ―バイドは、無事元の世界へと帰っていった。 涼しい風が、芝生を揺らす。近頃は、日が落ちると急に寒くなることが多い。目的を達成した彼女達も、そろそろ帰路につく頃合いだろう。 「ミラーフェイス様……。なんとも、不思議な生き物でございました」 すでに元の世界へと帰っていったアザ―バイドに想いを馳せながら、シエルはそっと、そう呟いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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