● とても良いお付き合いをしてきたつもり。 私は人より寂しがり屋で、人より依存性を持っていました。 大学のサークルで出会った、他人よりカッコいいオーラを出す彼。 催眠されたみたいに一目惚れしてから、スピード婚ならぬ、スピードお付き合いを開始して今に至ります。 いつでも彼の隣に私はいて、いつでも彼は私の隣に居ました。 どんなときもどんなときもどんなときもどんなときもご飯もお風呂も寝るときも起きたときも学校行くときも授業受けているときも帰るときもいつでもいつでもいつでもいつでも。 彼は私のもので、私は彼のものです。 両手を彼の首に回して首輪を作り、きつく締めても大丈夫なくらいに固い絆で繋がっています。 何をしても私は許すし、許される。彼はいつでも笑って、私も笑う。 大好きよ。愛してる。浮気したらその手足にコルクでも穿って張り付けるからね。 でもちょっとした出来心だった。たまには彼の嫉妬した姿が見たい。そう思っただけだった。 「昨日、俺から離れた場所に行くっていうから心配したんだ。誰だよ、おまえと一緒に居た男」 「ああ、見てたんだ。友達だよ?」 「友達?」 これが見たかった。 彼の顔がみるみる内に不機嫌になるのが解ったよ。忘れない、その歪んだ顔。そんな顔でもかっこいいよ、そんな顔が好きだよ。 「友達ね、友達? ていうか男と一緒ってなに? 俺がいてなに? 俺はもう飽きちゃった??」 彼の片腕が私の首を掴んでくれた。嗚呼、触れられた、とっても幸せ。 「悪い子にはお仕置きしないと。愛してるよ」 彼の図太い、五指の爪が私の身体に穴をあける。あーあー、傷ものにされちゃった、結婚してくれないと許さないんだから。あれ、なんだか目の前が見えなくなっていく――。 「君が好きだ、君が好きで、君が好きだから、君が好き過ぎて、君が好きなんだ、君が好きで仕方ない、君が好きで止まらない、君が好きだから……どうして解ってくれないかなぁ、こんなに好きなのに、いつでも君の事考えているのに、君の身体は俺のものなのに、だから俺が傷つけたっていいよね、愛してるよ、返事してよ、ねえ、ねえ、ねえ、殺して埋めれば俺のもの、殺して埋めれば俺だけのもの、殺してそのぬくもりを知るのは俺だけ、殺して君は俺のもの、喋れなくなるのはとても悲しいけれど、君がイケナイんだよ、だって俺の傍から離れて違う男なんかと一緒にいるからね、でもこれで永遠に一緒になれるな、嬉しい、嬉しいよ、愛してる愛してる愛してる、もったいないからその血啜ってあげる、美味しいな、君の味がする、とっても美味しいよ、あは」 動かない女の髪の毛を強引に持ち上げて、男は笑う。 「あ、そうだ、俺と彼女を引き裂いたあの男も殺ってこないと……」 それでも彼は許されるのだろう。 それでも彼女は許すのだろう。 ● 「簡潔に申し上げれば、嫉妬したから嫉妬させた彼女とその友達……ついでに回りの環境から皆殺しだぜヒャッハー☆って事です」 「過激的だね」 「裏野部フィクサードですからね」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は資料を配りながら苦笑いをする。 「裏野部フィクサード、笹崎博は部下を連れて大学に来ます。 皆さんが向かう頃には、大学へ堂々向かっている所……もっと詳しく言えば、大学裏手の通り路で鉢会うはずです。突破され、大量殺戮をされる前に止めて下さい」 時間帯は昼だ。運よく学生は食堂と大学内のコンビニに集中しているようであまりその道を使っている者は少ない。だが完全に居無い訳では無いのは気を付けてもらいたい所だ。 「その通りには横道があって、大きな建物に挟まれていて暗がりなのであんまり人が来ない所があります。そこへ追い込めたら堂々戦闘できますね、一応伝えておきます」 「依頼の内容は博の討伐。この方、これが初犯では無く、これまでも同じ事を繰り返してきています。更生の余地は無いのでしょう……ここでケリを。 配下はあくまでも沢山殺せるから着いて来たくらいの覚悟ですので、彼が命を落としたのなら自動で撤退すると思われます、まあ、倒してしまっても問題はありませんが……ね」 そこまで話をして杏里は深呼吸した。 「そういえばフィクサードの彼女は?」 「ああ……もう既に殺されています。彼女の愛も歪んでましたね。 テンプテーション、魔眼を疑いましたが……違う様です。天然ものです。 杏里には理解はできませんが、殺されても良いくらいの狂愛の持ち主さんでした。おっと、これは余談が過ぎましたね、それではみなさんいってらっしゃいませですよ」 最後にあっ、と杏里は言う。 「皆さんも博さんに愛されないようにお気をつけて……」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月20日(水)01:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 愛のため、愛のため。とは言いつつ、結局は自分のためという事なのだが。 まだ太陽は高い位置にある。春の日差しというものか、温かく、それでいて眩しい。 本来なら旅行でも行きたい気分になるところだが、今日という今日は殺人日。それも大量の、ね。 「ついに俺の目もおかしくなったかな、可愛い子達が目の前に居るんだ」 「ああ、それ多分じゃなくても現実っすよ、博さん。たまには現実見てください」 笹崎博が顎をあげて見つけた人間の数は八。どれも革醒者だ。因みにどうでも良い話を聞いてもらいたい訳だが、博の博は博愛の博である。 工事中という看板を押し倒し、それに人差し指を指して彼は笑いながら言った。 「これ……やったの君達? いいね、良い悪戯だ」 「褒められた! じゃない、変な人達だ! せんせー達に知らせなきゃ!」 『歪』殖 ぐるぐ(BNE004311)の姿は横道へと消えていく。ただ、その姿を見ただけで博は追わなかった。 「博さん、あれ、なんだったんですかね……」 「んー、気にしなくていいでしょ。俺等はほら、大学生を殺しに来たんだから。先生とやらも後で殺せばいいし」 簡潔な理由としてはそれだ。だから再び博は大学へと向かって歩を進める事にした。 上手く敵が釣られなかったのでリベリスタ達は横道から出てくる負えない状況だ。もはや仕方ない。 「ここから先には――行かせないの!!!」 『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)は両手を広げて博の前で仁王立ちをした。背には昼を迎えた大学を置き。 「なんだ、結局邪魔されるのかな……?」 「何回でも邪魔するの。だって、それが私達なの!!」 博が来る少し前の話になるが。 「今日は1日工事やでぇ」 「あっれ……おかしいな、そんな事誰も言ってなかったけどな」 「せや、急に決まった事なんや。仕方ないと思って迂回せい」 『√3』一条・玄弥(BNE003422)を始め、リベリスタ達は大学の裏道を工事と偽り、人の往来を塞いでいたのだ。 赤いコーンに、工事の看板。誰だって仕方ないと足をその先に進めたりしないだろう。 でも、本当に? 「そういうことや」 「成程ね。俺らが来るのが解っているのはいつものアークか。全く、憎たらしい。 つまり、こういう事だ。俺らを止めに来た――って事だろ?」 博は両手に長い爪を出した、瞬時、リベリスタ達に向って走り出した。もはやヤる気というものだろう。 「いやぁ?」 だがしかし、玄弥はにっこり笑って前へと出たのだ。 「人殺しができると聞きやしてねぇ」 ふらり、歩むのは敵へと。何を血迷ったか、くるりと振り向いて武器の先をむけたのは――リベリスタへとだった。 「ちょっと、玄弥さんどうしちゃったの!?」 「こっちのが人殺しできそうやし?」 ルーメリアは目を丸くしていった。そしてその頬に掠る、玄弥の暗黒。 これはなんという裏切り。アークもびっくりの行動だ。 「ふーん、まあいいけど。そういうのも別に嫌いじゃないしね」 博は大してどうとも思っていない様子。玄弥による裏切りは今この時を持って行われた。そして彼の横から走る博の爪。 「勘違いしてんじゃないわ」 はるか頭上。地面から足を離した彼。 速度では圧倒的に博の方が上だ。だが負けじと『逆月ギニョール』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)はDoloresというアタッシュケースを開かずにHaze Rosaliaというナイフを出現させ、手に持つ。 「貴方を狩りに来たのよ」 リベリスタ達に氷像の檻が襲う中――入れ替わりの様にエレオノーラの暗黒がフィクサード達を射抜いていた。 即座にルーメリアが回復の詠唱を開始。その目の前で運良く跳躍して氷像を抜けた『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)が自付を課しながら言う。 「今よ、やっちゃいなさい」 「はぁい」 「了解です!」 反応したのは二人のフュリエだ。『夜行灯篭』リリス・フィーロ(BNE004323)と『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)の両名。 二種類のフィアキィが何処からともなく現れる。ひとつはリリスの右手の上に、ひとつはエフェメラの肩のすぐ横に。 「遠慮はいらないわぁ」 「狙いは、あっち……頼んだわよ!」 それらは火炎を従え、フュリエの言葉に従った。巻き起こす二つの炎龍は渦を起こして博達の身体を包容する。だがフィクサードの身体に火炎を起こす事、そしてその身体を押し返す事までは叶わず。そしてただ、博を含めてフィクサード達は目を丸くした。 ――耳の長い、美しき女性の姿に。 「あは、何それ」 「駄目駄目、おしえてあーげないっ」 興味津々にフュリエを見る取り巻きの彼等に、ぐるぐは容赦なくはっぱ――もとい多重幻影剣を振り落とした。それによって幾何か仲間ごと切り出すフィクサードが発生する。してやったりと笑顔を向けたぐるぐ、欲しいのは、EX。 「面白いな、面白い――こっちにおいでよ。仲良くしよう、エルフ?」 「さーどうでしょう! 教えて欲しい?」 ぐるぐはキャッキャと笑いながらも、何か、彼、笹崎博を取り巻く空気が変わったようなのを感じ取っていた。つまり、それは春の訪れの様な。そんな可愛いものでは無いのだろうが。 『ハンパ者な』街多米 生佐目(BNE004013)はそれにいち早く気付いていたものの、氷像を抜け出すにはいまいち時間というものが必要だろう。氷の中で己の手足をもがく様に動かし、傍から見れば動いてない様に見える訳だが確実にピシリと氷にヒビは入った。 「フュリエの方々、逃げ――ッ」 そう、生佐目が言い終わる直前だったか。その攻撃はまっすぐに。 「え、やだっ!?」 紫色に光った気糸に捕まり、フィアキィを置き去りに引き寄せられたのは紛れもないフュリエ――エフェメラ・ノイン。 ● 「……ん、ぁう」 「本物かぁ、アザーバイドかな。それもフェイトを得た貴重品って所か」 エフェメラの長い耳を引っ張り頷く博に、リリスは再びフィアキィに呼びかけ煉火でフィクサードを燃やした。対象は敵、ホーリーメイガスだがやはりクロスイージスに護られて肝心のそれには攻撃が行かない。 「そのこ、解放してほしいのですが……!!」 生佐目は氷を蹴破り、攻撃は取り巻き達へ暗黒を。 愛ならば、博の行動は仕方ないと思う生佐目。だが、いざ味方が捕らわれてしまうのは見るに堪えない。 それにだ、リリスだ。エフェメラと協力して攻撃を行うと考えていたからか、彼女が捕まっている今、彼女に焦りが襲う。 そして――そのエフェメラ本人がフィアキィに命じたのは同じ炎の攻撃。敵と、主、味方を見回し困惑するフィアキィだが主命令ならばやるしかない。その攻撃はリベリスタを巻き込んで煌々と燃え上がった。 「やめて、そんな……やめて!!」 攻撃したくないと叫ぶエフェメラの心中を察したか、ルーメリアは二回目の聖神の詠唱を行った。 それで彼女の心を救えるなら、何回でも神様とやらに呼びかけよう。それで仲間の傷を癒せるなら、何回でも神様とやらに頼ろう。 だから――届けと願って。 「い、いや」 「あっれ、起きるの早いね。まあいい、今や俺の檻の中かな」 すっと戻ったエフェメラの意識。咄嗟に逃げ出そうと走ったが、そう簡単にヤンデレ主義が逃がすと思ってか。がしっと掴まれた右腕が痛いまでにぎちぎちと締まっていく。 「さっきは俺の言う事素直に聞いてくれたのに、もう逃げるの? ちょっと早くない? もう……俺を捨てるの? 殺しちゃうよ? 殺して埋めれば、そ、俺のもの」 「あ、ひっ!?」 彼女の背中に走った電撃と寒気。 (違う、この人の好きっていう気持ちは違う……怖い、怖いよ!!) じわりと滲んだ涙。だが零さないと必死に抵抗する。 雅は吼えた――。 「ちょっと!! 浮気してんじゃねえよ! あんたの恋人はあんたの手であの世だろ!!」 「そうだけど、男は浮気性。そうだろ? ねえ、耳の長い少女。俺と死ぬ? 一緒に死ぬ? そしたら楽しいよ、あっちの世界で一緒になるんだ、そしたら離れないよね、永遠って本当になるってこと、ね、解る? 解るまで聞かせてあげる」 「い、いやぁ…っ」 「やめろっつってんだよ!!! てめぇだけ死ね!! 恋人の所に逝け!!」 「ま、得てして常人の世界に生きてないんでしょうね」 見かねたエレオノーラのアタッシュケースが二人の間を裂いた。その振り落としの一撃は博の腕をへし折らんと狙ったが直前で避けられてしまったが。だが結果としてエフェメラは解放されリリスの下へ走っていく。 理解不能の敵を目の前に、エレオノーラの瞳は厳しいものに変わっていく。 いいじゃないか、恋愛なんてくっついて離れて、それが青春ってものだろう。それが受け入れられないなら、青春するレベルで無いお子様って奴。 「押し付けの愛じゃ心に響かないし窮屈なだけよ?」 「押し付け? そうだね、だけれどそれが俺の愛の形ってやつ。君も可愛いね、いや、美しい、気に入った」 「いや、あのね……」 男ですけど。 「……」 「……」 「………」 「…………」 「………………」 「……………………」 「マジで!?」 「マジでよ」 何故だ、何故だ神よ。何故神とは不公平をこの世に産み落としたのか。 こんな限りなく女性というかむしろ女性でしかない子が男なんて嘘だ、嘘だろ。今、危うくホモォ…の道に足を踏み入れかけた。流石の裏野部でもそっちの道は、あの砂蛇さんくらいしかちょっと、無理!! と、そこでセルフ混乱していた博の意識は玄弥の暗黒の一撃によって引き戻される。 「ぎゃああ!!」 博が振り向けば、玄弥によるスーパーなぶり殺しタイムが始まっていた。だが、庇っているイージスが身代わりになり、デュランダルが彼を退けようとその剣を落とす。 「なんやぁ、つまらんのお」 ホリメは傷つかず、無事に済ませてしまったが一人のクロスイージスが落ちた。 「騙すなら味方から?」 「せや」 雅のアッパーがホリメを取り巻くフィクサードに向けられた。速度関係がもう少し良ければスーパーホリメぼこぼこタイムは成立していただろう。 雅に向かう、二人のデュラと一人のクロスイージス。それにサジタリーの矢。一人でそれを耐えきるのは正直、そう時間はもたないだろう。だがそれでもいい、仲間がその間にホリメを倒してくれると願って。 「あんたらの相手は、あたしだよ!!!」 底なしの精神。痛むだろう体。それでも、忌むべき敵を討ち果たさんがために。 「ここで、全員終われ――あの世で、後悔しろよ!!」 再び撃たれたアッパーユアハート。その強靭的意志に比例してか、敵の矛先は必ず雅へと向いた。 「……お任せを」 「ええ、きちんとやって頂戴よね!!」 生佐目が言い、雅がこくりと頷く。そして雅は敵フィクサードの群れに消えていく。 その彼女の行動を無駄にせんと、そして生佐目は前に出た。序盤は氷結に彩られて動けなかった今、それの分を返すために。 打ち込む暗黒は漆黒の色。昼には似合わない、それこそ昼の太陽を嘲笑うような黒がホリメの胸を射抜いた。 「楽しい? 殺しって」 ぐるぐもそれに続く。同じように振りかざした幻影の彩るその技。ただの葉っぱと思った? 甘いね! でも葉っぱごときにやられる敵の心中も察してあげてください。 それに続く、フュリエ達。 「お願い、当たれ!!」 「今日はぁお願いばかりだねぇ、頼んだよぉ」 撃ちこまれた、フィアキィが舞う炎。それが止めとなってホリメの身体は燃え上がりながら地に倒れ伏した。 だがその炎をかき消すように再びの気糸が飛ぶ――狙い、それこそルーメリア・ブラン・リュミエール。 咄嗟に雅が庇いに走り出そうともがいた。しかしだ、アッパーによる敵陣営からのブロックと、前衛と後衛という距離がそれをさせてはくれないのだ。 「っく!!」 思わず歯を強く噛んだ雅。 「雅さん!!」 ルーメリアは叫んだ。手を伸ばしたその腕は、博に捕まれて――雅はデュランダルの一撃に意識を闇に落した。 ● 「足りなくなったら補充しろ、じゃないけどさ。これなら回復はそちらも、ね?」 幸いか、ルーメリアは回復系統のスキルしか持ち合わせていなかった。だからといって彼女の攻撃手段が無くなった訳では無い。虚ろな目でルーメリアはクロスで生佐目の頭を叩いた。 「ルーメリアさん、気を確かに!!」 「……う、ん」 頭の中で渦巻く敵味方の秤。傾いてしまったのを治すのは彼女の気力次第だ。 楽しいね、愛しているよ。俺のために戦ってくれるオンナノコ。そう、まだ欲しい。 けど………。ちらり、見たのは奮闘するリベリスタの姿。 「殺すってことは殺される覚悟があるやつだけやひゃっはー!」 「っちい、聞いてねーぞリベリスタが来るなんて!!」 玄弥は今度は取り巻きへと標的を変えた。取り巻きさえ殺せば、残るはその親玉だけ。楽しい時は最後に取っておくもの――!! 回復を失った今だからこそ、取り巻きを抑え込むのにはそう時間はかからない。 「む、ちょっとやばいねぇ」 削れ行く、精神力。リリスは振り絞って、リリスの身体を守護するように舞うフィアキィに攻撃を命じ、炎が舞う。 「でも、もうちょっとだろうから……頑張ろう!!?」 同じくエフェメラも同じく炎を生む。その二つの炎が敵ホリメと同じく、取り巻きを燃やし尽くした。 その炎を抜けるようにしてぐるぐは博へと向かう。 「殺し愛は好き?」 「解らない、試してみても良いさ……あっは、ごめん、でも今日はここまで」 ホリメがいない、取り巻きも消え失せた。ならば彼は撤退を選んだ。 「駄目だよ、もっと遊んで逝くべきかなって思うよ?」 しかしぐるぐは逃がさないと天使のような笑顔で悪魔を吐き出す。指に挟んだ葉っぱを片手に、もっと遊ぼうよと幻影を従えた。 「ううん、そんな俺のこと好きか」 「そういうことにしておこう!」 本来愛していた者のために大学を壊すはず――だったが、今、その恋愛対象が移ったのなら話は別。 「命は惜しい。それは君らも俺も同じだろう?」 「さっきからいってるけど逃がす訳、ないかも??」 「うん、だよね」 ぐるぐとの会話が途切れた。 そのほぼ同時に、目にも止まらぬ速さでエレオノーラは敵陣の後衛へと身を投げナイフを振るう。突っ込めた彼女の力でサジタリーを相手にするのは楽だ。 その喉を切り裂き、容赦なく舞う、舞う、舞う――。だがその背後では博は笑うのだ。 (待ってなさい、こっちを片付けたらすぐに……) と思ったその目線の先だった。 「何かね、この工事のは。聞いておらんぞ」 大学の教授らしく見える一般人が一人、来てしまった。まずい、そう悟ったエレオノーラだったがその勘は当たってしまう。 例え、強結界と言えど通るべき者は通れてしまうのが穴か――。 開始した、博の全力移動。サジタリーを討ったエレオノーラの横を通り、その一般人の少ない髪を掴む。 「な、ななん、なんだね!?」 「五月蠅いなぁ、ちょっと盾になってくれればいいんだ」 長い爪の先端が一般人の首に当てられる。思わず、ああぁっと声を漏らしたのはリリスだ。 「逃してくれるなら、殺さなーい。さ、ギブアンドテイクだよ、どうする?」 「逃がさないから問題あらへん」 「言うと思った」 例え何が壁であっても、玄弥は止まりはしないのだろう。刃を持ち、振りかざす。 「く~けけっ、てめぇのことは好きやでぇ。ぶっころせば金になるかなぁ!」 「金のため? 理解不能だ」 「そっくりそのまま、言葉返しちゃるわあ」 その刃、貫くために狙ったのは博。 だが投げ出された一般人の胴が真っ二つになった――その血飛沫が玄弥の頬を染める頃、博は抵抗とも言えるグラスフォックの氷が前衛の足を飲み込む。 「逃がさない」 それでもだ、エレオノーラだけが氷像にならなかった。 攻撃を見極め、寸前で羽を広げて回避したその勢いのまま彼はナイフを博の首へと――。 「覚悟、しなさい?」 一閃。 「許しますよ、愛なら仕方ないですもんね」 だがその許し、博の命をもって償うことが条件。 生佐目の言葉戦場に響く。彼女もまた、運よく氷を抜けた。二回目までぶちあたって動けないなんて目も当てられない状況になんかしてたまるかと。 それだけで終わらない。放つ、暗黒の瘴気――そしてその対になるようにしてリリスの振り絞った光。エル・レイが白昼の中、輝きを見せつけながら胸を射抜く。 「好きな人になら、殺されても良いって……それはリリスの知ってる好きじゃないと思うぅ」 「う、ぐふ、そ、かな……君も愛しているよ。最後まで、名前、解らないままだったけど……」 そして――。 「……さようなら」 目を瞑ったエフェメラ。尽きかけた精神、だがそれがなんだ。 「キィ、お願い」 こくり、頷いたフィアキィは博の身体へ近づく。そしてその小さな手が博の頬に触れた頃。 「嗚呼、君に殺されるならイイかもね。でもそんな顔しないで欲しい、怖かったのなら、謝るから。 できれば、笑顔が見たかったんだけどな、まあ、いい、喋りすぎた」 愛しているよ。 次は君の全てを貰いたいな。先にあっちで待ってる。 そう、勝手を言い残して。彼の身体は轟と燃え上がり灰と塵になって消えた――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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