●リアル決戦系 テーブルの上は、一面のライトグリーンだった。 と言っても。 昨年のように料理が並べられているわけではない。ただ、レタスがより分けられて結構な量、そんざいするだけだ。 「ああ、来ましたか。早速ですが、そこの分けられてるレタスをちょっと食べ比べてください」 広めのブリーフィングルームで待っていた『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は、リベリスタ達にそんな要求をした。 唐突といえば唐突だが、日常でもあったのでリベリスタ達は迷わずレタスに手を伸ばし…… 「甘……いや苦っ、なんだこれ!?」 「順繰りに食べると味覚が変になりそうだ……」 とまあ、極甘なレタスとマジ苦なレタスとの往復という謎の苦行を課せられたわけだ。 「今、皆さんに食べてもらったのは『蜜色ラプンツェル』と『ビターライフ』。善性アザーバイド『種蒔く人』からアークが供与を受けた畑から収穫された、フェイトを持つ異界のレタスです。 といっても、種子は同じもので。収穫の際、充実した気持ちで収穫したか否かで、その味が大きく変わるものとされています」 異世界のレタスってすげえな。 そんなリベリスタのしみじみとした声が聞こえた気もする。 「皆さんには、今回これらのレタスの収穫に携わってもらうのですが……」 ふう、とため息を吐き、あらぬ方向を見る夜倉。 「今年は『どっち』が多く流通するんでしょうねえ……」 あ、ぶん投げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月28日(金)23:29 |
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■メイン参加者 16人■ | |||||
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●瑞々しい想い 「鎌と槌! 立てよ万国の労働者(りべりすた)!」 青々と茂るレタス畑に立ち、拳を突き上げたのは『夢見る農夫じゃいられない』ベルカ(略)である。 彼女は敢えて苦難の道を選んだ。寧ろ、己の中の血がその修羅へと身を向けさせたのだろう。 その道は茨である。苦行である。それでも彼女は往くのだろう。 「あ、始業前にタイムカード押しとこっと☆」 いや待て、そのタイムカードどっから出した。 「……よし」 青々と広がる畑を見渡し、タダで手に入るならばと赴いた牡丹は、口元を決心したように引き締めた。 彼の目的は『キャベツの収穫』である。キャベツロールを作れば、彼の居候先の相手も喜ぶのではないか、と考えたが為だ。 少し葉の広がりが大きかったり、瑞々しさが違ったり、いろいろ感じるが、多分キャベツなのだろう。 キャベツに違いない。目元は見えないが、みなぎっている気はした。 「あらまぁ……なんていうか、面白いレタスさん、なの……ね」 ふわふわした雰囲気をそのままに周囲を見渡す那雪は、レタスについて聞きはしたものの、その実どうすればいいのか判断に困っていた。 つまりは、普通に収穫してしまってもいいのだろうかと。 気持ち次第で変わるのなら、一人でもいいのだろうか、と。 だが、それより何より―― 「俺はレタスを摘みに来た!」 この一言の前にあらゆるセリフが入るのだがさておくとして。 神の与えたコレジャナイリア充の代表、竜一と。 「一つ、実験をしたい」 普段の戦闘に勝るとも劣らない強い意志を感じさせる佇まいの快。 奇しくも、というべきか。俗に『3DT』などと揶揄されるうちの二人が揃い、しかも二人ともリア充の状態で、果てはやる事も実のところ大差ないときた。 互いが互いの目的に気付き、ほくそ笑む姿はなんていうかすげぇウザい。 だが、それに気づいてしまった彼らはやる以外の運命など残されては居なかったのだ。 ので、二人の酌み交わした視線は複雑だが、互いが理解できるものだ。 ……いや本当こいつら爆発しねーかなあ。 「さて、収穫でござるな。でも、その前に」 腕鍛が、握りこんだ手を眺め小さく笑う。連れ立って来た相手にちらりと視線を向け、知らず笑みが溢れる自身を認識した。 まあ、この青年にしてみればなかなかの思案であり冒険だ。 尤も、彼を信頼しきっている彼女――リリはきょとんとした表情で彼の動向を見ているようで、詳しくは気づいていなかったが。 「充実……楽しく収穫できれば、甘くなるのですよね」 「そうそう、楽しく収穫できれば充実って事だよ。充実は何もああいうのに限った事じゃなし……」 ハーフパンツにTシャツと、少年的な格好に身を包んだ壱和に、ロアンは柔らかい笑みを返す。 兄離れを果たした妹に対し、ちらりと視線を向けたロアンもまた、優しげに壱和に語りかける。 兄のように感じている壱和と、弟か、或いは妹ができたように感じるロアンとの双方の思いのシンクロ具合が、なんというか凄い。 「大丈夫、今日はいける気がする……!」 「蜜色ラプンツェルとやらはせんせが名前をつけたのだろう?」 蜜色ラプンツェルの命名者である終にとって、この収穫は他のメンバーよりも重い意味があった。 それというのも、名付親が苦い方を持って帰るなどとあってはならないだろう、という信念からだ。 同時に、幸せならば甘くなる――と聞いて、「しあわせ」に殊に敏感な五月が興味を示さないわけもなし。 常に世話になっている相手の望みとあればなおのこと。 ハッピーエンドを求める少年の幸せを拾い上げるためならば、少女は全力をつくすのだろう。 ……シリアスに感じますけど、これはただのイベントシナリオです。 ところで。 「どうも、川越勝也でーす! ボンジョルノー!」 唐突に出現した勝也……否、略式で『川越シェフ』と呼ぼう。まあ、そんな彼が何でかカメラ目線である。 どうやら料理番組の撮え、いやオイ。 「このレタスは裏世界では人気で、収穫するときに、幸せかどうかで味が変わるんですよ~! ファンタスティックですねー!」 はいカット。 命名される以前は普通に珍しいレタスとして流通していたそれを裏社会扱いされたら、天下の時村財閥が黙っちゃいません。 何としても表の事情。そんなわけで、テレビクルーはごついおにいちゃんに連れて行かれましたとさ。 「それじゃあ皆が幸せなレタスを取れるように、幸せ~な料理を作っちゃいますから待っててくださいね~……アレ?」 そんなわけで、彼の一人の戦いが始まる。多分。 「あら、夜倉お兄さん本物と話すのは久しぶり♪」 「……本物?」 本物じゃなかったら何と話していたというのか。いや、分かってるけど何だか理解したくない気持ちでいっぱいではある。 とらの目的はスパークリングワインの製造らしい。製作キットを買ってきたらしいが、随分手のこんだことするなこの子。 あとお酒って大丈夫なのかしら。いや、作るのが。 「というわけだから、リア充どもからレタスを強奪してきてよ☆」 「自分で摘んで下さいよ!?」 (やっぱりあのほうたいのしたがきになるの~) 一方、その陰で夜倉ととらを視界に収めていたのはミーノである。 過去、幾度と無く徒党を組んで彼の包帯を奪いにかかった彼女である。 隙を見つけて……と考えているらしいが、実のところ彼女自身に隙だらけという側面がある以上これって大丈夫なのだろうか。 ともあれ。 やっぱりこういう展開になるんですよねえ。 ●収穫戦線異常ナシ 「楽しく収穫……と言ってもどうしましょう。どちらが早く収穫できるか、競争してみます?」 「よし、いいよ。その競争乗った!」 僅かな悪戯心を口元に浮かべた壱和に対し、ロアンの笑顔は心から溢れたものとわかるそれであった。 収穫用のナイフ(アーク支給)を構えた二人は、それぞれの方向へと散ってレタスの採取に取り掛かった。笑顔で。とてもいい、笑顔で。 その収穫がどう帰結するのかは聞けない。 いや、何となく読める。だが、彼らにとっての今は割と楽しいのでどうでもいいのかもしれない。 (なんかレタスにまで馬鹿にされてるような気がして無性に腹立つわぁ) 御龍はひたすらにレタスを刈っていた。独り身である苛立ちをレタスに込めまくっているせいで、きっとレタスはクッソ苦いに違いない。 というか、収穫の途上でちょっとキズモノになってる割合が多すぎやしませんかね。 (世の中、不思議いっぱいだから、聞いちゃだめなの……) そんな鬼気迫る様子に素朴な疑問を抱く那雪であるが、聞こうにも聞けない。 不思議ならば聞いてはいけないだろう、と割り切った彼女は、取り敢えずレタスの陰で観察することにした、らしい。 「リリ殿そっち持って、拙者こっちを持つでござるから、いっせーので持ちあげるでござるよ?」 「一緒の作業は初めてですね」 何か企んでいる様に見えなくもない腕鍛だったが、純真なリリにはその様子は窺い知れない。 彼の合図でレタスを持ち上げた拍子に、ちらりと銀色に光るものをリリは視界に捉えた。 ……そう、腕鍛の用意したシルバーリングである。 「こ、これ……は……」 顔を真っ赤にしてしどろもどろになるリリに、しかし腕鍛は笑顔のまま。 「本当の共同作業は結婚式の方がいいでござろう?」 結婚するとしたら、と問う彼に、リリの緊張は増すばかりであったわけで。 「めいちゃん、鎌の遣い方には注意だよ☆」 「せんせの名付けたレタスを取れるように頑張るぞっ」 終の笑顔に応じる五月は、彼が楽しそうであることが嬉しくて仕方がない。 沢山取って仲間に分け与えることを第一に考える彼女が甘いものを収穫できないわけもないのだ。 で、まあ当の名付け親はというと。 「苦い……人生って苦い……」 謎の惨敗を続けていた。精一杯の幸せを手に収穫した(と本人は思っている)はずなのだが、何故か収穫できなかったという。 絶望感に打ちひしがれる終に、しかし五月は笑顔で彼へ蜜色ラプンツェルを差し出していた。 「せんせが名前を付けたレタスだぞ! とってもとっても素敵なのだ」 「めいちゃん、とってもいい子……」 頬をつたう涙を拭いながら受け取り、その流れで最後に一つ収穫……で、甘いものが収穫できたかどうかは、終のみぞ知るところだろうか。 (なんだかこいつらは、先生に拾われる前の俺みたいだ) 声もなく選別作業を続ける牡丹は、ひとつひとつを慎重に選びながらも自らのことを考えていた。 自らを捨て置かずその場へ置いてくれた相手。それが居なければ、自分は無価値だったのではと考えることもままある彼だ。 居場所を手に入れなければただ朽ちるだけの存在であるこれと、そんな自分とは何が違うというのだろう。 だからこそ、その感謝は誰よりも尊くなによりも篤いのだろう。 「拾ってくれてありがとう。先生」 拾い上げたそれに向けて言葉を紡いだ彼は、楽しげですらあった。 ……まあ、それでもレタスなんですけど。 「ただ、恩恵を傍受するのではなく、先へ! もっと先へ!」 竜一は何だか色々最低だった。 一人で収穫に来た寂しさを胸に秘めつつ、仲睦まじく、あるいは一人で収穫を続ける女性陣を眺めるにつけ視線がエロい。 寂しさを享受しつつ考えることはピンク色だ。 彼の主義主張は正しいくせにこんなところだけ全力でぶん投げてやがる。 どうすんだよ。どうすんだよこの人。 まあ、彼が収穫したものがどんな複雑さを得たのかは、本人に語ってもらうとしよう。 「それぞれに都合ってものもあるしね」 軽く肩をすくめ、ぼっちで来たのは織り込み済みだよと笑う快。まったくこのリア充アピールは本当にもうね、もうね。 一応、彼の目的もそれなりに崇高なのだ。出荷するにあたって味がどうなるのかをしっかり確認しておく必要があるのだ。 だが、快よ。その実験の結果なら―― 「うん、甘いな……」 ――『種蒔く人』が御自ら五十余年かけて証明し、いや何でもない。 「ああ、なんだか……アレだ……トキが見える的な……?」 ジョインジョインするものは見えてはいけません。 案の定、ベルカは色々と限界突破していた。 いのちはなげすてるものとすら言い切った。 カオスな状況を楽しんでいる彼女ってば、やっぱりドMなんじゃねえかしらね。 逆に気持ちいいとかもうやばすぎだろ。 (なんだかちょっとがんばって収穫したから、ご褒美……) そんなベルカの傍らで甘いレタスに手を伸ばすのは那雪である。 自分にご褒美的なアレである。 観察したりちゃっかり収穫したり自分にご褒美とか楽しそうだなこの子。 ときに。 そんな仕分け後のレタスに手を伸ばしたのは……川越シェフも同じであった。 「まずはこのあま~いレタスを使ってレタスとラプンツェル、モッツァレラチーズとトマトでサラダを作ります! そして仕上げはオリーブオーイル!!」 おい。 「そして次、このにが~いレタスと千切りにした人参を添えたパスタにマヨネーズをかけて、そして仕上げはオリーブオーイル!!」 おいこら。 シェフの芸風じゃねえからやめろよ。あぶねーって。 (でも割と出来がいいので困る) 「秋になって、こないだまで必死に鳴いてた蝉もすっかり静かになって、神社の石畳にぽとぽと死骸が落ちてるけど……ねえ、夜倉お兄さんはどう思う?」 「何をどう思えばいいんですか!?」 手順に沿ってワイン用のキットを操るとらの質問に、夜倉は思わず声を荒げるのだった。 因みに。 「見えてますからねミーノ君」 「はわわっ、みーののかんぺきないんぺいこうさくをみやぶるなんてっ」 ミーノ、既に三回は失敗したけど懲りてなかったらしい。 結局、彼女は収穫に戻ったりなんだり。いや、本当可愛いなこの子は。 「命名者特典って何も無いの?」 え、あるよ?(断言 「あ! 終業のタイムカード押し忘れてた!」 リベリスタの任務は成功報酬です。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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