● 液晶の向こうで手を振るアイドルに一度は誰もが憧れたことがあるものだ。幼い女の子から大きなお友達果ては御老人までアイドルは等しく魅了する。誰にでも分け隔てなく笑顔お振りまく様はまるで天使のようにも見える。 そして商業的ないやらしい話をすると、その笑顔の下には大人の欲望とお金がひしめいている。そうして世の中は回っていくのだ。 そして今回もアイドルが与える夢ではなくお金の方に魅了された者がいた。それは可愛らしい女の子だった。しかし彼女が一般のアイドルを志す女子と違う点がある。彼女はフィクサードだった。偶然に覚醒した彼女はフライエンジュとなり、まるで天使を具現化したような存在となった。鏡でその姿を見たとき、彼女は喜んだ。 まるで天使みたいじゃないか。 しかしフィクサードである以上おおっぴらに活動は出来ない。彼女は地下に潜り、自分の野望を決行した。その可愛らしい外見とその腹黒さを生かし、アイドルとして活動し始めたのだった。 ● 「あなたたち、ミラクル★エンジェルって知ってる?」 集まった集まったリベリスタ達を見渡しながら、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はその名前を口にした。 きょとんとした顔で互いに顔を見合わせるリベリスタ達の反応を確認すると、うんうんと頷く。 「知らないのね。今ちょっと問題になってる地下アイドルなんだけど、今回相手して貰うのはこいつ。フィクサードでフライエンジュ。私利私欲のために能力を使ってる。別にアイドル活動するならいいんだけど、やり方が気に食わないのよね」 イヴが言うにはフィクサードの能力を悪用し、自分に夢中にさせて、金を山ほど貢がせるらしい。金がなくなっても借金してまでそれを持ってこさせるからそれで人生や家庭が崩壊したり、中には命を絶ったものさえ出てきているという。 「ミラクル★エンジェルなんて可愛らしい名前で活動してるけど、本質はただの金の亡者よ。しかしファンは彼女たちのことを本物の天使のように思ってる。しかもそのファンは増え続けているの。このままじゃそれに比例して犠牲者も増えるでしょうね。彼女のやっていることはまるで悪徳な宗教だわ」 不快そうに顔を歪めたイヴがリベリスタ達の顔を見詰めた。つまりそのアイドルを倒せばいいんだなとの言葉にこくりと頷く。 「敵は二人。ミラクル★エンジェルはグループ名なの。もともと一人だったんだけど最近グループになったんですって白い服の衣装を着ているのが渚。黒い服が翼。彼女たちだけじゃなくて、取り巻きにもフィクサードがいるらしいから気をつけて。詳しいことはこれにまとめたわ。」 資料を手渡しながらイヴは顔を上げた。 「ちょっと見過ごせないからお灸を据えてきてちょうだい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あじさい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月26日(水)23:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●潜入 リベリスタ達は『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)から渡された地図を辿り、礼のアイドル達のライブハウスへと向かっていた。薄暗い路地には結構な人がいて、どうやら向かう先は同じのようだ。会社帰りと思われるサラリーマン、典型的なTシャツを纏ったアイドルファン、中には少しだが女性もいるようだ。 『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)は呟いた。 「おう、結構客はいるみたいだな……。こりゃあ被害者が増えるのも納得だぜ」 一人頷く藤倉の横で、津布理はハイテンションで辺りを見回していた。 「いやー、アイドルのコンサート見るのなんて滅多にないからねー! もしかわいかったらファンになっちゃうかも!」 そう笑いながら『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)は能天気に笑って見せた。『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)はそれに戸惑っている。その様子を見た津布理は腕を肩に回しながら応える。 「やだなー、ジョークだよ」 悪びれる様子がない津布理を見ながら『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)は苦笑した。 「お話もいいけどそろそろ心構えの方は大丈夫かしら?」 穏やかな口調でたしなめながら『メカニカルオネエ』ジャン・シュアード(BNE001681)が確認する。 一行はミラクル★エンジェルがコンサートを行っているライブハウスに潜入した。小さいながらに設備は充実しているようだ。コンサート開始の合図とともに、上空から二人の天使が舞い降りてくる。彼女達はゆるやかに着地し、観客席に手を振った 「みんなー! 来てくれてありがとう! 翼と渚、みんなのためにがんばっちゃうね!!」 声を揃えてあいさつをし、バックミュージシャンが音楽を演奏し始める。歌い始めた二人の声は少しあどけなさがあるものの、充分上手かった。 『KAMINARIギタリスト』阪上 竜一(BNE000335)は関心したように頷いた。 「へー、結構うまいね。まあオレには負けるかもしれないけど」 歌だけでなく、ダンスもキレがある。 「お金の為だけにここまで出来ないぜ。彼女達はミュージシャンなんだろうな」 音楽をたしなむものにはどうしても親近感を覚えてしまう阪上を『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)が一瞥する。 「彼女達の事情なんかどうでもいいわ。殴って再起不能にすればそれで済むんだし」 そう言い放つ日下禰に、『刹那たる護人』ラシャ・セシリア・アーノルド(BNE000576)が頷く。 「まあ説得に応じなければそれも止むを得んな」 そんなことを話している内に、ライブは佳境になった。ミラクル★エンジェルは自ら発光しつつ、飛びまわりながら歌う。その幻想的な光景は、彼女達の本性をしらないものたちから見るとまさに天使だろう。フィクサードに馴染みの薄い一般人から見れば、心酔してしまうのもしかたないかもしれない。事実隣に席を取っていたサラリーマンなどはほとんど絶叫に近い声で二人の名前を呼んでいた。 そうしてコンサートは終わりをつげ、グッズの販売の時間が取られた。 「へー、やっぱりグッズとか販売するんだな。せっかくだから見てくるぜ」 少し楽しそうな阪上に藤倉が少し冷たい視線を向ける。 「おいおい、阪上さんまで信者にならないでくれよ?」 「別に楽しむために買うんじゃないぜ? ちょっとどんな商売してるのか気になるだけだし!」 いそいそと列に並んでいった阪上の背中を見送りながら石動は首を傾げた。 「あれ? あそこの列だけすごく短いです……。なんででしょう?」 日野宮が石動のさし示した方向を見ると、どうやら握手の列のようだった。しかしその割には人が少ない。グッズを買ってから並ぶのだろうかと思っていても、その列が少し増えることあっても大幅に増えるはなかった。疑問に思いながら眺めているとグッズ列から帰って来た阪上が帰って来た。ただし何も持たずにである。 「あれ? なにも買わなかったの?」 津布理がそう聞くと、阪上は憤った表情で答えた。 「列の途中で聞いた話によると、相当なお金を貢がないと握手させてもらえないんだとさ。オレはそういうやり方は好きじゃないから途中で抜けてきた。音楽性以前の問題だぜ」 その話を聞いて改めて津布理が握手列を見てみると、随分粗末な格好をしている。おそらく貢ぎすぎて自分達の生活が破たんしているかのような、精気のない顔だった。そうなれば社会で浮いてしまうだろうし、その孤独からますますのめりこんでしまうだろう。 実によく出来たシステムだった。 「これは、おしおきが必要ね……」 ジャンはそう言い、人目のない場所に隠れる。自身の能力を充分に発揮するために。 ●説得 グッズ販売を終え、徐々に客足が引いていく。リベリスタ達の外には誰もいなくなった。取り巻きと思われるスーツに身を包んだ男が話しかけてくる。 「すいません、もう終わりなんですよ」 穏やかな物腰の男達に阪上は自慢のエレキギターの弦をはじいた。 「オレの演奏、聞いていかないか? もっと熱くなれるぜ?」 挑発するようにリズムを刻む横で津布理が単刀直入に話を切り出す。 「ミラクル★エンジェルと話をさせてくれないかなー? 腹黒アイドルなんて辞めちゃえってさ! アークから来たって言えばわかるかな?」 明るい口調で穏やかでないことを言う津布理の横でラシャがこほんと咳払いをする。 「つまり、私達はアイドルをやめさせに来たんだ。あまり褒められた商売をしていないようだしな。何、説得に応じてくれれば戦うつもりはない」 未だ舞台上に居た渚と翼の二人はマイクを取って取り巻きに話しかけた。 「えーなんですかそれ、こわーい」 「私達、何にも悪いことなんてしてないのにねー」 「ねー」 無邪気な笑い声を立てながら、降伏する意思がないことを示す。くすくす漏れる笑い声は明らかな敵意を含んでいた。 「みなさん、こーわいひとたちを追い返しちゃってくださいな」 そこ言葉をきっかけとして、その取り巻きたちがリベリスタを取り囲む。鈍い光を受けて光る刀が敵を捉えんとしている。 「全員ソードミラージュか……!」 藤倉がそう叫んだ。 「ふふふ、だってみなさん私達を守るナイトなんですもの。お姫様には騎士がつきものでしょ?」 「ねー」 顔を見合わせて笑う翼と渚は、高みの見物をしゃれこんでいる。ラシャはおもしろくなさそうにその男達を見詰めた。 「偽りのアイドルの奴隷とは哀れだな……。そいつらが愛しておるのは金だぞ?」 気だるそうに日下禰も呟いた。 「どうでもいいから早くやっつけちゃいましょう、目ざわりよ」 二人が敵の能力を透視する。 「速度強化系の能力を持っている。気をつけろ!」 「連撃にも気をつけてね……。でもこれで対策がしやすいでしょう?」 日下禰とラシャのアドバイスを受け、前衛に陣取っていた阪上がギターを鳴らす。 「OK! さあリズムを奏でるか!」 「お相手するよ!」 津布理はそう意気込み、取り巻きの前に躍り出る。剣撃を受け流しながら、チャンスを窺う。同じく前衛で相手をする阪上は戦いながら説得を試みていた。 「あんたらは彼女達の音楽に惚れたんだろ? だったら彼女達を正しい道に進ませてやるのが本当のファンってもんじゃないかい?」 一瞬顔が強張る取り巻きを見逃さず、ギガクラッシュを叩きこむ。よろけた取り巻きに追撃するように藤倉が拳を撃ち込んだ。 「阪上さん、さっさと倒しちまおうぜ。元気な間は言うことなんか聞きやしねえよ。子供の頭を殴るようなもんだ」 戦闘の経験がないのか、それとも自分達のアイドルに少ない疑念があるのか。あまり戦況が芳しくないことを悟った二人のアイドルは、自分の取り巻きに檄を飛ばす。自分たちも日野宮と日下禰の相手にてこずってはいるものの、まだ生意気に負けるつもりはない。 「こらー! がんばりなさい!」 崩れた体勢を一気にその声援で立てなおす。アイドルのファンはやっかいだなと津布理が内心で溜息を吐いたところで、聞こえるもう一人の翼の声。 「ごめんなさい! やっぱり私いけないことしてたわ。その人たちを離してあげて!」 ジャンがどうやら翼に変装したようだ。真実をしらない取り巻きはどちらの声を信じていいかわからず総崩れになる。未だ倒れてはいないものの、圧倒的に不利な状況を確信したのか、二人の少女はお互いに頷き合い、さっさと逃げようとしたが抑え役となっている日野宮と日下禰が眼前に立ちふさがる。思わず後退したが、逃げられるほど甘くはない。 「逃がなさいぞ。あんたらはアイドルの責任を取らなきゃいけない。」 取り巻きを片づけて、渚の腕を掴んだのは阪上だった。 「ちょっとやだ、離してよ!!」 構わず逃げようとする翼も津布理が確保する。 「えへへ、逃がさないよー!」 取り巻きたちは倒れている。追い詰められた翼と渚はどうにか振り払おうとするが、取り囲まれてはそうすることも出来ない。 「さあ、そろそろ観念したらどうだ? 殴られても金にならんよ」 ラシャが説得を試みるが、二人は未だ反発的な瞳でにらみ返してくる。どうしたものかという空気が流れるなか、口を開いたのは日下禰だった。 「もう再起不能にしちゃわない? 人殺しに何を言っても無理よ」 人殺しの顔に弾かれるように顔を上げると、翼は意味が分からないという顔をした。 「は? なんのこと? 別に私人殺しなんてしてないわよ?」 その発言にリベリスタ達は目を見開く。どうやら彼女達は自分のしでかしたことを充分に理解していなかったようだ。日下禰が冷静な声に憤りを垣間見せながら語ると彼女達は一言も発することが出来ずにその話を聞いていた。 ●アイドル達の序曲 「あなたたち、どうしてこんなことをしたんですか?」 石動がそう尋ねると、翼はぽつぽつと語り始めた。 金に執着するようになったのは、彼女人生からすれば至極当然なのかもしれない。翼とて小さい頃は無垢な子供だった。ブラウン管のテレビに振る無垢なアイドルの笑顔、等しく与えられるその眩しい笑顔に小さな手を振り返す。そんな少女だった。 そして彼女はアイドルを志す。初めはただただ純粋な動機だった。 しかし翼にはかわいい容姿があったものの、それだけでのし上がれるほど甘くはない。養成スクールは実力別に教室が設けられているものの、翼が一番上のクラスに上がることはなかった。いくら努力しても、その分だけ回りも先に進む。その歯痒さが、次第に彼女の心を歪ませていった。そして年頃の少女にとって衝撃的なことが起こる。 少女は、アイドル養成所を止めなければならなくなった。理由は至極簡単、金銭的な問題だった。 「もう通わせてあげられるだけのお金がないのよ、ごめんね」 ごく一般的な家庭にはその負担は重すぎた。かわいい娘の為に無理をして通わせてくれていることを承知していた翼に、これ以上の我儘を通すという選択はおのずと消えて行った。 しかし母の「お金がないのよ」と言った表情だけが、心から離れなかった。 夢を打ち砕かれ、暫く無気力で過ごして来た翼は友人とたまたま遊ぶ約束を交わした。どこか適当な店に入り、そこで流れるテレビを見た。 「あ、翼! 見てあれ! すごいねー、私達と同い年なのにアイドルだってよ」 「あれ、あの子……」 画面に移るのはとあるアイドルグループのオークション結果だった。そこには以前同じ養成所に通っていた、自分達と大きな実力差がない女の子が写っていた。あの後上のクラスに行けたのだろうか。そのアイドルグループを売り出している会社とその養成所にはパイプがあり、養成所が勧める女の子をデビューさせた経歴がいくつもあった。 「お金があったら、続けられてたのに……」 翼は思わず呟いた。大きな瞳に陰りが見える。その様子に無神経な発言をしてしまったことを悟った友人は慌てて謝るが、もう翼の耳には届いていなかった。 「そうよ、所詮お金だもんね。私もお金があったら……」 彼女はせっかく注文した甘いお菓子に舌鼓を打つこともなく、早々に消化して店を後にした。残された友人は大変なことをしでかしてしまったという思いでしばらく動けないでいた。 この些細な出来事によって、お金という概念は翼に大きく染みついた。しかしある日運命のいたずらが起こる。翼は偶然に覚醒し、天使のような白い翼を得た。 そうして彼女の頭によからぬ企みが湧く。この姿なら人々を魅了できる。そうしてお金をむしり取ってやろう。お金がない惨めさを、もう二度と味わいたくない。 彼女は自分の考えに従い、地下アイドルとして活動し始めた。後に同じような境遇の渚をメンバーに加え、二人はずっとその黒い考えを実行していたのだ。 ●再出発 彼女達の身の上話を聞かされたジャンは呆れたようにためいきを吐いた。 「あんたたちそれでこんな大掛かりなことをしたっていうの? ばかねえ……」 その呟きにリベリスタの大半が心の中で同意する。お金がない結果アイドルの座を逃したと思い込み、まるで悪徳宗教の様な手法でファンからお金を巻き上げる。思いついただけでなかなか出来ることではない。自分達のしでかしたことの重大さを思い知った彼女達はあいかわらず俯いている。 「その実行力があれば、今からでも充分本物のアイドルを目指せるんじゃないの? 罪滅ぼしするのはそれからでもいいんじゃない? 今度は正々堂々とね」 ジャンが肩を叩いてやると、彼女達は顔を上げた。涙を浮かべた顔の二人を阪上が引き上げる。 「さあ、再出発だ! 今度は正々堂々とメロディを奏でようぜ」 ミラクル★エンジェルの二人は本当の天使になることを決意し、ステージに上がった。阪上のギターに合わせ思い思いに口ずさむ。ジャンがそれにつられて歌うが、大きくずれた音に笑い声が漏れた。その楽しげな声は、夜の闇に溶けていった。 数ヵ月後、アーク本部に手紙が届いた。同封された写真には路上で歌う彼女達の姿が写っていた。取り巻きたちも二人の天使を見捨てずにいてくれたようだ。観客は少なかったが、彼女達の顔は輝いていた。 『いずれ罪を償うつもりです』 少し滲んだその文字が、彼女達の決意を物語っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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