● 突き刺すような寒さ。息をすれば喉の奥まで凍えきってしまいそうだ。冷気に抱かれながらも、男は独り、仕事をしている最中だ。それにしても、観光地だと言うのに人が誰もいないのが気になる。それに、明かりが壊されているのかと思うほどに暗い。 手に持つ、直線に広がる人工的な光。それが、暗闇を照らす。 見える砂利、石畳、そして。 とん、とん、とん、とん。 「うわっ」 最初は幽霊かと思った。 大きな境内で一人、着物姿の女の子が手毬をついて遊んでいた。 だが、頭上には満天の星々。遊ぶには遅い時間のはずだ。 警察という職務と、己の常識的な思考は彼女に声をかける選択肢を弾き出す。当たり前で、決まりきった行動と言えよう。 それが、悲運に泣く事になる落とし穴だと知らず――。 「君、何処の子だい?」 声が聞こえて、女の子は手毬をつくのを止めた。それ両手で愛らしく持ち、男を見上げた。 顔から全身まで。まるで、市松人形の様。 「何処……? 黄泉ヶ辻……に、お世話になっています……けど」 「よみ……?」 不気味な名前だ。苗字だろうか。こんな名前の人物がこの日本に居るというのか。 「よみがつじさんだね、おまわりさんと一緒に帰ろうか?」 「うん……え? 私の名前はそ……ぅじゃ……ぶつぶつ」 女の子は素直であった。手を差し伸べれば、繋いできた。 何処の子であろうと、こんな時間に見逃せない。出会ったのが、たまたま巡回をしていた警察官で良かった。もし、他の怖いおじさんだったらどうなっていた事か。 親の顔が見てみたい。親に会ったらきつく注意をせねばならない。 男は眉間に皺を寄せて、強張った表情で少女の手を優しく握った。 「おまわりさん。胡蝶知りたいの、答えて?」 ふと、女の子は言う。 「ん? なんだい?」 「おまわりさんが、危なくなったら誰が助けてくれるのかな」 問いだ。 男は思考した。思考しながら、女の子の握る腕が強くなっていくのを感じた。 正直、痛い程だ。その力は止まる事を知らない。林檎なんて容易く握りつぶせるのではないだろうか!? 「百獣の王が負けるとき、何が助けてくれるのかな」 また問いだ。 だが男はそれ所では無い。骨が軋み、肉が押しつぶされ、柘榴が弾ける時の様に血が漏れ出す。 「神様が殺されそうになったら何が助けてくれるのかな」 またまた問いだ。 問いが重なる程に手が形を失っていく。何故だ、何故こんな女の子が。 悪い夢なら覚めてくれ。 「ヒーローがピンチになったら何が助けるのかな」 またまたまた問いだ。 ついに手が取れた。引きちぎられて取られた。 腕に気を取られて周りを見ていなかったが、気が付けば既にそこは――。 「なんだおまえら!!? 人間じゃ、人間じゃないのかあああ!!? くるなあああああ!!!!」 恐怖に耐えかね、男は拳銃を抜いた。銃声が響いて、女の子の脳天に風穴が空いても彼女は立っていて――。 「この、化け物オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」 「リベリスタが――」 ゴシャッ その先を、男は聞く事はできなかった。 「……命までは取らない、たぶん、今は」 転がった男を見つめながら、そして、少女はまた手毬をつく。 「此処は、よく人が来るのね……次は誰が来るのかな、あと何人集めればいいかな」 それにしても、頭が痛い。 「もう、準備はできているのに」 ● 「皆さんこんにちは。今回は黄泉ヶ辻のフィクサードが行っている儀式をぶっこわしてください!」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は集まったリベリスタを見回してから言った。 黄泉ヶ辻が行っている儀式とは、最近よく耳にもするだろう。一般人が、大量にノーフェイスと化す儀式である。 「黄泉ヶ辻フィクサード『柊 胡蝶』は、一般人を集めている最中です。『カオマニー』と、『ハッピードール』を携えて、です」 その二つの文字は、資料以上の事は解らないと杏里は言う。 「場所は神奈川県鎌倉市のとある神社の境内で……大がかりに攫う事はせず、その場に来た一般人が『問いに答えられなかったら』気絶させ、社の中に詰め込んでいる模様です。 まあ……未だに正解者はいないみたいですが……」 わざわざ回りくどい方法を。 「ですね、胡蝶の趣味でしょうか。幼くして知を欲する……とでも言いましょうか。いえ……幼いからこその好奇心?」 ともあれ事態は急を要する。何故なら儀式は『あと、発動させるのみ』だからだ。 モニターに映ったのは無数の札が張り付けられた社の姿。その中に、詰め込まれた人々。 「札は儀式を効率良く行うための媒体でしょうか? 無数あるのは、札が壊され尽くさないよう……ですね。 そこまで準備されていて、何故。 「発動させないのは彼女が正解者を待っているからでしょう。 ですが、流石にリベリスタが行って、戦闘をし、切羽詰まれば発動を無理にでもすると思います」 彼女は、儀式を行う事が最終的な目的であり、解答者を待つのは次いでの遊びだから――。 「発動には、社に核となる、後、一つの……札を張る事です。胡蝶が持っているでしょう……鍵となる『宝石のついた札』を持って。 勿論、彼女には護衛が居るようですが……隠れている様ですね」 しかし、戦闘=出陣である事には間違いない。不意打ちに気を付け、初動は動くべきだろう。 「それでは、宜しくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月29日(火)22:41 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●小さき悪 とん、とん、とん、とん。 ぴたり。 毬をつく音が止まる。 「アーク、ですね……お待ちしておりました。狙いは儀式……でしょう?」 柊 胡蝶は『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)を見て、アークが来た事を知る。その髪、その目、噂に聞くアークを代表せしレイザータクトの御身。 「御機嫌よう、胡蝶。先ずは大人数で押し寄せて失礼を」 礼儀正しく、帽子を取り一礼したミリィ。それとほぼ同時に探知の力を周辺に撒く。 これが正解を望む黄泉ヶ辻の少女かと、相対してミリィは理解した。胡蝶の眼の奥にある『空っぽ』を。 そして胡蝶は無表情でこう言った。 「皆々様、胡蝶は智を欲します。どうぞ、お答えください」 問答の開始である。 本当に正解はあるのだろうか。それを当てなければ死とは、まるでスフィンクスの様だと『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)は思う。 目を閉じ、体内の魔力を循環させると共に――。 「参りましょう」 その一言にリベリスタ達は頷くいた。 ミリィの背の影から『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)と『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が飛び出した。 二人は真っ先に胡蝶の下へと向かう。絶対に行かせる訳にはいかない、社の下へは。 「やあお嬢さん、君はどうしてそんな所にいるんだい?」 エルヴィンは簡単に接近できた胡蝶の小さな肩に手を置き、その背後にさりげなく回る。その立ち位置、エルヴィンの背には社があるのだ。それは、よりリベリスタが有利な方へと誘う布石。 「そんな所……? 今この場所ですか……?」 何故此処に居るのか、それは儀式のためと言うが、他は秘密だと彼女は黙る。どうやら目的は複数ありそうだ。 「俺はエルヴィン、アークの護り手のひとりさ」 胡蝶と同じく、護る事を得意とした青年。 そんな共通項があるのなら、もしかしたら問に対して的確な答えをあげられるかもしれないと、エルヴィンは強気な声で言う。 その言葉が、今の彼女にとってどれほど期待できる言葉であっただろう。 彼の手に胡蝶の手が重なり、胡蝶の問は容赦なく一つ目が開始された。 「儀式の阻止よりも、お答え願いましょう……」 ――百獣の王が負けるとき、何が助けてくれるのかな? 来た、一つ目の問い。 しかしだ、その瞬間ミリィと『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)が何かを探知して、同じ方向を向いた。 「近いっていうか、すぐ真下!! 危ないです!!」 『お前のすぐ真下だ、気をつけろ!!』 ミリィは叫んだ。プレインフェザーも同じくテレパスを使って呼びかけた。 狙われたのは。 「し、下っ!?」 『Fool believer』名護・玲(BNE004229)だ。 大鎌を持ったナイトクリーク、そして銃とナイフを持ったクリミナルスタアが飛び出してきた。まさに不意打ちの状態。 物質透過と気配遮断を利用して、地面を辿って接近してきたのだ。 つまり玲との距離は近接の状態。例え、『(自称)愛と自由の探求者』佐倉 N♂H 吹雪(BNE003319)とプレインフェザーが二人のフィクサードをブロックしたとしても攻撃は通る位置なのだ。 玲に植えつけられた爆弾が弾け、そしてその首の半分が掻っ切られた。瞬時、漏れ出したのは運命(フェイト)の加護。 「こんな早く、戦闘になるとは……」 咄嗟にカルナと『花縡の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)が回復の詠唱を紡いだ。あまりの激痛に倒れかけた玲は間一髪で、倒れまいと足でふんばる。 そして、吹雪が玲とナイトクリークとの間に身を置いた。 「ちっと沸点低いんじゃないか?」 「うるさい!! 胡蝶様に近づくな!! いや、社に近づくな!!」 おそらくだが、敵は護衛の対象である社と胡蝶に近づいたエルヴィンとななせを『戦闘行動をした』と見なしたのだろう。護衛とはそういうもの。 「あ……ありがとうございます、先輩」 「いや、いい。それより答えてきな。俺はどうも頭が固くて難しい事は考えられねえ」 吹雪の背をあとに、玲は胡蝶を向く。 そう、忘れていけないのは。 「答えられない……ですか?」 見上げた胡蝶の瞳。 「日野宮ななせです、よろしくお願いします。王は……何も助けてくれやしませんよ」 「……それが貴女の答え」 ななせの言葉に胡蝶は『うんうん』と頷いた。何か納得しているような、そんな素振り。それをカルナは見逃さない。 「百獣の王が負ける時、同じ百獣の王が助けてくれるはずです」 玲は言う。強気で。 「……同じ? 王とは、唯一無二ではありませんか?」 違うのですかと首を傾げた胡蝶。それでもそれは玲の答え。まだ問は続く――。 ● 戦闘開始が切られた事でハッピードールとホーリーメイガスが姿を現した。 それに釣られるようにして、リベリスタも各々が担当の敵へとブロックに着く。 「見た目は可愛らしいのに」 ブロックした一体。見れば綺麗な顔をしたハッピードールだと遥紀は思う。これもまた、誰かの愛し子であったに違いないと感じながら。 せめて、眠るときくらいは静かに。そう祈りを捧げながら遥紀は零距離で光の陣から矢を放ちながら、攻撃を交換するようにブレインキラーの犠牲になっていく。 「大丈夫ですか?」 「うん……まだまだ、平気だよ。ありがとうね」 それでもまだ、倒れはしない。タイミング良く、歴戦を超えてきたカルナの回復が遥紀を救うその中。 ――神様が殺されそうになったら何が助けてくれるのかな。 唐突に二回目の質問が放たれた。 胡蝶は仕掛けてこない。だからこそ背中合わせで戦うエルヴィンとななせ。そのななせは再び。 「何も」 と答えた。 「何も……そうですか」 そしてまた、デジャヴの様に「うんうん」と胡蝶は頷いていたのだ。 「彼女……もしかして」 カルナは思う。何故そう反応するのか――心当たりがあった。だが今は……ブレインショック改がカルナを射抜く。 瞬時、放たれた神気たる光は二つ――緑の光(カルナ)と、黄色い光(ミリィ)のだ。 一方は敵を射抜くが、もう一方は味方に被害を与える。運よくカルナの命中は低かった故、大事には至らないが―― 「う、ぅう」 ――玲は別だ。少なき体力でよくぞ耐えていると言える。 「大丈夫か?」 プレインフェザーが幾重の気糸を生み出し手当たり次第の敵に攻撃しながら、ふらふらと立つ玲に言う。 「ありがとうございます……先輩、これが戦闘ですね」 「まあそういうことだな。頑張りな」 「……はいっ」 ――ヒーローがピンチになったら何が助けるのかな。 「ヒーローがピンチになった時。それは新しいヒーローさんの出番なのです」 「……そう」 玲は言う。軋む身体を置き去りに、必死に組み上げたマジックアローをホーリーメイガスへと投げながら。それを喰らったホーリーメイガスもまた、フェイトの加護に包まれるのであった。 「なんだかんだで窮地を脱出して、敵をしっかりやっつけるだろ」 ぼそりとプレインフェザーが胡蝶を向いて言う。 お話の中のヒーローはいつも、ハッピーエンドを約束されているのだと。それはそのお話を作った人が考え、与えられる勝利。 だが、リベリスタにはそのような力は一切無い。 お話じゃない。 奇跡なんて起こせない。 「だから結局、泣かないように、自分の身は必死こいて自分で守らなきゃいけねえんじゃねえかな」 そしてまた気糸を紡ぐために敵(ハッピードール)を向いた。その言葉は胡蝶にとってとても興味深いものだった。 「凄い……貴女、お名前は?」 「プレインフェザー・アガダ・オッフェンバッハ・フジワラ・ピトゥトゥンケ・ベルジュラックだ、気に入ってねえよ」 「ぷれ……」 胡蝶には覚えられないほど長い名前であった。 その対話の横で、ななせは「誰も」と答えを返す。その手に持つ武器を握りしめ、破壊する、木端へと――バトラーズアバランチはハッピードールの胴を貫いた。 しかしだ、戦況的にはリベリスタが不利であった。胡蝶が参戦していないにも関わらず、混乱に苛まれるカルナ、遥紀、玲の回復手たち。確かに回復は厚いものの、攻撃の手が足りていないのだ。 ならば、戦闘を止めさせる手はたった一つ。 黄泉ヶ辻のやることに、まともな事というのは含まれてはいないはず。なら此処で止めなければ何になる――!! 「頼んだぜ」 吹雪は魔力のナイフを持ち、俊足でホーリーメイガスへと飛び込んだ。その刃はホーリーメイガスの喉を切り裂き――今度こそ、その運命を途切れさせたのである。 ●幼すぎた善 問いも最後の一つを迎えた。 ――リベリスタが泣いたら誰が助けてくれるのかな? 「……友達」 「……え?」 初めて、ななせが違う回答を起こした。 王も、神も、ヒーローだって―― 「――一人で戦う人は、負けたらそこで終わり。 でも、リベリスタには仲間が、友達がいる。みんなが、助けてくれるわ」 今日、リベリスタは一人で戦いに来た訳では無い。それは今までだって、主に八人で乗り越える依頼達。そこにはいつだって、頼れる仲間が背中を護ってくれいていたから。 答えは簡単だ。 「リベリスタだろうがヒーローだろうが関係ない。泣いてるヤツを助けられるのは、そいつの事を大切に思う者だけだ」 エルヴィンは言う。仲間を大切に思うからこそ、生きて皆で帰るからこそ、護る職を全うしてきたのだと。 「ま。自分の身を守るついでに、ピンチの誰かを守るくらい、やっても良いけどな」 プレインフェザーは意識の落ちかけた玲の腕を持つ。今こそ玲のピンチの時か。荒くあがった玲の息が、これを危ない状況と見据えたプレインフェザー。 だがもう一方の腕では多重の気糸を幾度も織り成し、クリミナルスタアを突き抜けて、ハッピードールの身体に穴を空ける。 「だから、リベリスタさんが泣いた時は、同じ僕達が助けに行くのです……!!」 神の眼を舐めてはいけない。どんな神秘事件を見逃さず、今までそれを止めてきたアーク。 その礎になるために、玲はもっともっと強くなるのだろう。 だが何も、リベリスタの助ける対象とは一般人や同業者には留まらないものであり。 「助けを求めるのならば私が手を差し伸べる」 それは胡蝶も例外では無いのだ。 ミリィは己が人の生死を左右するその行動を、傲慢だと言う。自身のちっぽけな手は天にさえ届かない程短いというのに、それでも多くの命を救いたいと足掻く。 今も、目の前で小さな命が真っ暗な道を歩んでいる。なら、その路を照らす燈火と成ろう。 「それが私のリベリスタとしての、ミリィ・トムソンが選んだ道です」 「……っ」 揺れる、胡蝶の心。 もしその路に誰も側に居ないのなら、俺が手を伸ばそう。遥紀は優しい瞳で胡蝶を見た。 孤独というのはとても辛いもの。誰だって耐えかねておかしくなってしまいそうになる程に。 「それは、とても寂しいから、一人では抱えきれないものも、多いから」 「一人で、大丈夫ですから……!!」 遥紀の言葉に胡蝶は反抗した。振り向き、向かうのは社――だがななせが胡蝶の腕を掴み、エルヴィンがその行く先を塞ぐ。 「それでは、貴方が泣いていた時は誰が助けてくれたのですか?」 問は散々答えてきた。ならば、次は此方の質問に答える時。カルナは胡蝶に問う。 「誰も……! 胡蝶はずっと一人です……」 一人というキーワードに幾度となく胡蝶が反応を示したのをカルナは知っている。なら、もしかして。 「もしかして、元リベリスタだったのでは無いのですか?」 「……へ?!」 明らかに動揺した小さな身体。カルナはそうだったのですねとまた優しい声で言った。 「私が泣いていた時は、運命が助けてくれましたよ」 「運命は、嫌いです……胡蝶にいつも意地悪ばっかりするのです……」 しいん、と、胡蝶を囲む雰囲気は冷たくなる。 しばらくは静かな時間が流れた。胡蝶がななせの手を振り払おうとする動作は無く。ハッピードールでさえ、ぴたりと動くのを止めたほどに。 「……仲間」 胡蝶は言う。忘れかけていた、何かを思い出した様に。 咄嗟に後方に居たホーリメイガスの方を向いた。倒れ、伏し、もはや息の根は途切れている。 「……撤退、します」 「何言ってるんですか!? 儀式はまだ……」 ナイトクリークが、ぎょっとしながら叫んだ。 あと、完成させるだけじゃあないか。そうすればあの妹様も喜ぶだろうに――。 「駄目!!」 叫んだ胡蝶。その声の音量に肌が振動した。 びくりと肩を揺らしたのは部下達だけでなく、リベリスタ達も同様。今までただただ静かだった少女が、大きく行動に出たのだ。 「ごめんなさい、一般人はお返しします。気絶させただけなので誰一人死んではおりません。 ですから、どうか、仲間を殺さないで下さい」 「胡蝶……」 ななせは手を離した。胡蝶の行動に敵意を感じないから――彼女は足を折り、手を地面に着け、頭を地面に着け、土下座をしたのだ。 更に、差し出したのは『カオマニー』。煌めく宝石のそれ。もはや、儀式の意志は無いと言う。 エルヴィンはそんな胡蝶の後頭部を見ながら、足を折り、再び彼女の小さな肩に手を当てた。顔をあげてと、伝えたい事はまだあるのだ。 「え……」 エルヴィンの差し伸べた手。胡蝶は、躊躇いがちにその指先を見ていた。 何故、どうして、何を。疑問に満ちた目がエルヴィンに向けられる。まだ、彼女には公正の余地があると信じて。 「……君は、何の為にその護りの力を手に入れた?」 「護りたい者が、居りました。ですが、胡蝶だけが生き残りました……」 「そして今、その力で何をやっている?」 「……あ」 気づけば、護るとは逆の事をしていた様な気もする。はっとした胡蝶の目から視線を外さすエルヴィンの問は続く。 「君はどうしてそんな所にいる? ……誰かを助ける側になる気はないのか?」 揺れる瞳。市松人形に様に綺麗な頬から涙が流れた。 「……駄目です」 けれど、そっちには行けないのだと言う。 「妹様が……お気の毒で、護らないと……」 そう簡単に寝返る事、叶わず。ミリィはふらふらと歩く胡蝶の背にひとつだけ釘を刺した。 「貴女達が止まらぬ限り、何度でも阻み続けるよ」 「……心得ました」 胡蝶は振り返り、一礼した。そして、彼女の晦冥の道へ帰っていくのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|