●人形の話 友達は0。敵はきっとこの世の全て。 そう思っていた少女(糸目 操)の悩みを、唯一聞いてくれてのは彼女の祖母が作った5体の球体関節人形だけだった。 フリル満載のドレスを着て、真白い顔に、蒼い瞳、銀や金、赤毛の人形達。大きさはどれも1メートル程度だろうか。どこを見ても精巧かつ緻密な作りであることが窺える。 そんな人形達だけが、操の悩みを聞いてくれた。 聞いてくれたのに、操は人形達を守ってやれなかった。 操を傷つけてきたクラスメートの魔の手は、ある日ついに祖母の人形にまで伸びたのだ。 学校のトイレに閉じ込められた操が、やっと解放され家にもどるとそこにはボロボロになった人形達の姿があった。泣いて、泣いて、泣き喚いて、なんとか修復しようとしたが、操には出来なかった。 その日、彼女は人形の残骸を抱いて眠った。 夢の中で人形は、彼女に優しく語りかける。心配はいらない。一人じゃ無い。苦しみはもう終わる。 なんて、優しい声で。 そう言ったのは、本当に人形だっただろうか? もしかしたら、ずっと彼女が抑え込んできた寂しいという想いだったかもしれない。 どちらでもいい。 彼女が目を覚ました時、ベッドの周りには5体の球体関節人形が浮かんでいた。まるで、見えない糸で宙に釣られているかのようだった。 「あれ……?」 なんで? なんて、疑問もすぐにどこかへ消えてしまった。彼女の意識は、寝起きで朦朧としたまま、それ以上覚醒しない。ぼんやりとした頭で操が考えたのは、自分を苛めてきたクラスメートへの復讐だった。 つい、と動かしたつもりのない腕が上に上がる。 いつの間にかその手には、1本の短剣が握られている。 「あぁ、これで」 これで、復讐出来る。そう呟いた操に同調するように、人形達が声なく笑う。 1人の少女と、5体の人形。 そして、それらを気糸で操る半透明の少女は月のない夜の町へと繰り出していく。 ●少女の話 「少女(糸目 操)の心が生み出したE・フォース(人形師)と、人形師の生み出したE・ゴーレムが5体。それから、操られている少女が1人。人を傷つけてしまう前に、止めてきて」 両手の指をわきわきと動かしながら、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がそう告げる。指の動作はきっと、人形を操る動きなのだろう。 「フェーズ2のE・フォース(人形師)は、人の形をしているものを操る能力を持っている」 生きている人間だろうと、人形だろうと、服屋のマネキンだろうと、気糸で操ることが可能なのである。 「無機物を操る場合、その対象はフェーズ1のE・ゴーレムと化すみたい。人形師を倒せば、元通りの人形に戻るようだけど」 壊した方が、たぶん早い。 と、イヴは告げる。 「人形師は、操るだけじゃなくて気糸を使った攻撃も仕掛けてくるみたい。それと、人形や少女はかなり身体能力があがっている。糸で操られるとそうなるみたい」 もっとも、生身の身体ではその無茶な出力にどこまで耐えられるか分からないが。 万が一にも、少女(操)の身体を壊してしまうわけにはいかない。 「現在、彼女達は河川敷を移動中。月明かりがないから、気を付けて」 行ってらっしゃい。 そう言って、イヴはリベリスタ達を送りだす。 「絶対、助けてあげて。人を傷つけて平気でいられるほど、この少女は強くないから」 なんて、悲しそうにイヴは言うのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月22日(土)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夜を歩く……。 河川敷。厚い雲と、その向こうには月が隠れているのだろう。暗闇の中、ゆらゆらと歩く影が6つ。 人形が5体と、少女(糸目 操)が1人。そして背後に、少女達を操るまるで幽霊かなにかのような半透明の少女。仮面のような顔には、感情の色は見えない。 「例えお人形であっても貴女にとっては大切なお友達。それらを壊された悲しみ、わからないわけではありませんけれど……」 河川敷の砂利を踏み分けて。少女と人形の前に8つの人影が立ち塞がる。 ナターリャ・ヴェジェルニコフ(BNE003972)が、銀の長髪をなびかせながら少女を見やる。 「復讐は負の連鎖しか生みませんわよ。貴女の気持ちがおさまらないかもしれませんが、私達は貴女を全力で止めて差し上げますわ」 ナターリャの周りに淡い燐光が舞う。その光は、他の仲間達の背に集まり、小さな翼を作りだした。 『……邪魔、しないでよ』 半透明の少女がそう呟く。同時に、彼女の操る人形達が一斉に宙へ飛び跳ねた。 ●夜闇に舞う……。 人形と操が飛び込んできたのと同時に、リベリスタ達は河川敷に散開する。キラリと、ナターリャが手にしたランプの光をが糸に反射する。その糸の繋がった先には人形と操。 彼女達は、その糸により半透明の少女(人形師)に使役されているのである。 「同じ気糸使い、としては……面白い相手、だね。盗めるとは、思わない……けど、楽しませて、もらう」 ステップを踏むような動作で『無軌道の戦鬼(ゼログラビティ』星川・天乃(BNE000016)が、人形の間を縫うように移動。ランプを反射する糸ごと人形を切りつける。 けれど、人形は何かに引っ張られるように後ろへ下がる。攻撃の気配を察した人形師が、糸を操って後退させたのだ。 「ボクにも大切な人がいるから、人形を傷つけられた操さんの気持ち、解るよ」 人形の振り下ろした腕を、紙一重で回避しながら『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)がそう囁いた。憂いの籠った瞳で、人形を見る。 黒い糸を繰るアンジェリカの背後に、不気味に輝く赤い月の影が浮かぶ。アンジェリカの糸は、人形を操る糸に巻き付き、それを切り裂いた。 ガクン、と人形がその場に倒れる。フリル満載のスカートを風になびかせ、崩れるように地に伏した。 先ほどまでの迫力が、嘘だったように、元の人形へと戻る。 「復讐が悪いとは言わねぇがな。餓鬼の喧嘩に使うにはちぃっと過ぎた力だな」 力任せに振り下ろされる人形の腕を回避する『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)の腕が、人形目がけ伸ばされる。空振った人形の腕が地面を砕き、砂利が飛び散る。飛び散った砂利がモノマの頬を掠め、血が流れるが、気にせずそのまま人形の胴を掴んだ。 「お前らも恩知らずだな。持ち主のことも考えずに復讐ってか」 肩の上に人形を担ぎあげ、放り投げる。人形はまっすぐ宙を飛び、操の元へ。 『甘い……。それくらいでは、足りない』 人形師の指先が素早く動く。それに連動し、空中を飛ぶ人形がピタリとその動きを止めた。 「まず行うべきは糸目嬢の救出だね。攻撃に巻き込まれて死んだとなれば、白髪の未来視さんの心象も悪くなるだろうし、僕としても夢見が悪くなっちゃうからさ」 スーツ姿を着込んだ『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)がヘビーボウを使い矢を放つ。矢はまっすぐに操を操る糸目がけ宙を駆ける。 「1本の糸を狙うなんて、こんな小さな標的を狙うことはそうそうないよ。腕の見せ所って奴かな?」 なんて嘯いて見せるが、その狙いは正確かつ迅速なものだった。寸分違わず、糸へと迫る。 けれど、矢の射線上に何かが割り込む。先ほどモノマの投げた人形である。人形は腕を振って、矢を叩き落した。人形師にとっても、自身を生み出した少女は大切らしい。 「いじめとか―。なにぶん無縁でしたのであまり分かったような口はきけませんがねぇ。見て見ぬふり以外にできることあるでしょう」 背後から伸びる黒い爪を操る少女『ブラックアッシュ』鳳 黎子(BNE003921)が、そう呟く。狙う先は、操を操る糸である。 けれど……。 『邪魔をするな……と。言っている』 人形師が指を操る。同時に、黎子目がけ、操が駆け寄る。完全に予想外な操の行動に、黎子が身を捻ってその場から離脱を図る。しかし……。 「うっそ……」 いつの間にか、黎子の足には極細の気糸が巻き付いていた。人形師が無表情のままこちらを見つめている。どうやら、彼女の仕業のようだ。黎子の顔が引きつる。迫る操。腕を振りあげ、突っ込んでくる。 肉薄し、振り抜かれた操の拳が黎子のボディを捕らえた。ギシ、と骨の軋む音。それは黎子の胴から聞こえたものか、それとも操の腕から聞こえたものか。 口の端から血を流し、黎子がその場に膝を付いた。 さらに、傍にいた人形が黎子に追撃を加えようと迫る。 「泣きっ面に蜂とはこのことか」 無数の光弾が人形と操を遠ざける。放ったのは『絶望と傍観のサキュバス』アリシア・ミスティ・リターナ(BNE004031)である。人形と少女を糸で引いて回収する人形師。その隙に、黎子を庇うようにアリシアが前へ出る。 どうやら人形師は、操も、自身の操る人形も傷つけたくはないらしい。 リベリスタ達の猛攻に耐えきれず、人形師は一度、全ての人形を後退させた。もちろん、先ほどアンジェリカが切断した人形も、忘れず回収されている。一度は糸を切って無効化したものの、再び糸を括り直されてしまったようだ。 「たった一人でさびしくて、ボクも友達は少ない。だけれども、一人じゃない!」 人形達が引いていくのと同時に『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が、弾かれたように飛び出した。白い翼を羽ばたかせ、地面すれすれを這うようにして飛行する。 彼女の周囲には、スキルにより生み出された刀が複数旋回していた。風を切り、砂利を巻き上げ、雷音は人形師に迫る。 「君を助けに来た!」 雷音が叫ぶ。彼女の周囲に陣が敷かれ、氷の雨が降り注ぐ。雨は、一か所に集まる人形達の身動きを封じていく。 「君は人形じゃない!」 氷に視界を塞がれた人形師と、人形達の間を縫って飛び、雷音は操の元に辿り着いた。その細い両腕を目一杯に広げ、雷音が操を抱きしめる。生み出した氷が、操に繋がった気糸を切断した。 操を腕に抱え、雷音が飛ぶ。人形師の手前で急旋回。元来た道を引き返す。懸念材料の1つだった操の身柄は確保した。けれど、ここまでの行動による負担が大きかったのか、操の腕は赤く腫れている。 腫れているが、生きている。命に別状はない。それだけでも、上出来だ。無事、救出は果たしたのだから。しかし……。 『渡さない……』 人形師の指が蠢いた。雷音の進路を塞ぐように、2体の人形が前へ出る。人形の攻撃を避け、上空へと進路を変える雷音。 けれど、そこにも1体、人形が待ち構えていた。腕を振りあげ、雷音目がけ叩きつける。 「あうっ!!」 操を抱いた雷音の背に、人形の腕が食い込んだ。 苦痛と衝撃で、操の体を放しそうになるが、ギリギリの所で留まる。代わりに、操の体を思いっきり放り投げた。操の体が宙を舞う。一方、雷音の体はそのまま地面に落下し、砂利を巻き上げる。 「支えるのはお任せくださいませ!」 操の体を受け止めたのは、黎子の治療を終えたばかりのナターリャだ。操を受け止めた衝撃で地面に倒れ込むが、強気に笑って見せる。 「全力で守りますわ。彼女自身が人を傷つけるような事はして欲しくありませんもの!」 傷ついた操の治療の為、ナターリャは身を起こし、そのまま後ろへ下がる。 入れ替わるように、残りの仲間達が前へ。 そんなリベリスタ達と向かい合うのは、人形師と5体の人形。 それから、苦悶の表情を浮かべる雷音だった。 「誰かを傷つけたら後悔する。僕も傷つけたことがないとは言わないし、辛い。人を恨むな! 君はそこに付け込まれているだけだ!」 雷音の叫びは誰に向けられたものだったろうか。人形師本体か、或いは操か。 どちらにせよ、彼女の悲痛な叫びは、どこにも届かない。操は気を失っているし、人形師にはそもそも憎悪以外の感情はないに等しい。 「まとめて、斬り捨てる」 迫りくる人形目がけ、天乃が腕を振るう。指先から伸びた気糸が、人形を斬りつける。出来ることならば、人形師諸共攻撃したいところだが通らない。 天乃の攻撃を抜けた人形が1体、操を取り戻しに駆ける。ナターリャが操を庇う為に両手を広げ、立ち塞がった。迎撃の為に光弾を放つが、気糸に阻まれ、人形を止めることはできない。 「きっと操さんを守ってみせる。どんな手を使っても!」 光弾の影からアンジェリカが飛び出す。その手に握られているのは、爆弾だろうか? 禍々しいオーラを振りまく爆弾を、人形目がけ叩き込んだ。 爆弾が爆ぜ、人形の右腕ごと気糸を切断することに成功。人形は、力を失い地面に伏した。 「……呪いあれ!」 遠距離から、リィンが呪いを込めた矢を撃ち出す。矢は、人形達の間をすり抜け、人形師へと迫る。しかし、射線に飛び込んできた雷音によって、それは叩き落された。雷音が苦悶の呻き声をあげる。強制的に操られることで、肉体へ負荷がかかっているのだ。 雷音の背後、人形師の表情は相変わらず無表情。 「ふうん、本当に仮面みたいな顔なんだね」 もっと感情豊かな方が好みだけれど、と苦笑い。 そんなリィンの横を、黎子が駆け抜けていった。禍々しい大鎌を肩に乗せ、紅い衣をなびかせ地を蹴る。手近な人形の攻撃を正面から受け止め、気糸へと攻撃を加える。 「できる限り壊さずに終わらせたい所ですが……」 あくまで、優先すべきは操の安全。それは分かってるが、どうしても攻撃の手に躊躇いが生まれる。更に、人形師によって操られる雷音の存在も……。 『返してもらう』 雷音と、更に1体の人形が操奪還の為に前へ。 その2体の進撃をモノマが受け止める。完全には止められなかったのだろう、ギシ、と肩の骨が軋む音。 「友達じゃねぇかもしれねぇが、危なそうなら助けるだろ普通」 それは、操の同級生達に向けられた言葉だろうか。受け止めた相手を、弾き飛ばしモノマが駆ける。雷を纏い、駆ける姿はまさに電光石火。 「とっととカタつけてやるよっ!」 雷光を纏った拳を振るい、気糸を切りにかかる。 「あっ」 雷音に繋がれていた気糸は切断することに成功したが、もう1体の人形は取り逃がした。追いかけようとするモノマの足に、気糸が絡みつく。咄嗟に跳ねて、それを逃れるが……。 『一々鬱陶しい……。邪魔しないでよ』 4体の人形が、ふわりと宙に浮き上がる。瞬間、一気に辺りの気温が下がった。 「下がって!」 ナターリャが叫ぶが、間に合わない。人形は人形師の操るままに宙を舞い、飛び跳ね、腕を振り回す。 「うおっ!」 「冷たいっ!」 「……っ」 前線に居たモノマと黎子、天乃の足元を冷気が被いつくす。人形に繋がる糸に触れ、肌が切れたのだろう、周囲に鮮血が飛び散るが、それも直ぐ、冷気に冷やされ凍ってしまう。 なんとか攻撃範囲から外れていたアンジェリカとリィンだったが、踊り狂う人形達に近寄れないでいる。 糸に襲われる仲間たちを助けに行くことは叶わないでいた。 「確実に、当てる」 地に膝を付き、アリシアが銃を構えた。ジッと見つめる先には踊る人形と人形師の姿。よほど意識を高め集中しているのか、その頬を汗が伝う。 10秒、20秒と時間が流れていった。仲間達も、そんなアリシアの様子を、じっと見つめている。 やがて。 そっと、羽毛でも掴むかのような優しさで、アリシアの指が引き金を引いた。一拍遅れて破裂音。火薬の臭いが辺りに飛び散り、銃弾が放たれる。 銃弾は、人形達の中を進む。冷気と糸、踊る人形、それから仲間達の間をすり抜け、銃弾は人形師の眉間に当たった。 ピタリ、と人形師の指が止まる。 同時に、崩れ落ちる人形達。血に濡れたモノマや黎子、天乃が肩で息をしながら、人形師を見つめている。人形師の仮面のような無表情にヒビが入った。 パラパラと、人形師の顔が崩れる。 そこにあったのは、ボロボロと涙を零し続ける操の顔だ。 「彼女を……助けないと」 地面に膝を付き、瞳に涙を浮かべた雷音がそう呟いた。 ●夜に泣く……。 『来ないでよ』 人形師の伸ばした糸が、地面を這う。無差別に、そこらにあるもの全てに巻き付き、人形師の前に糸によるバリケードを形作っていく。操られた人形も、そこへ加わっていく。 「助けないと……。操さんを」 そう呟く雷音が、スッと腕を前に伸ばす。限界が近いのかその腕は小さく震えていた。 「貴女はお友達を復讐の道具にしたいのかしら? 貴女はそれでいいのかしら? 私は大切な友達にそういうことをしてほしくはありませんわよ」 意識のない操の体を抱きしめ、ナターリャがそう語りかける。けれども、操はピクリとも動かない。意識のないまま、眠り続けている。 きっと、彼女の心は人形師に囚われたままなのだ。だから、声が届かない。或いは、届いていても聴こえないふりをしているのだろう。 「起こして、あげるのだ」 雷音の袖から、一羽の鴉が飛び立った。呪符により生み出されたものだ。真っすぐ、人形師目がけ、飛んでいく。けれど、その鴉の進路を阻むように、人形が前へ出る。 届かない。誰もがそう思った。その時、急に人形の動きが鈍った。 「操れはしない、けど……縛る、くらいならできる、よ」 人形の動きを止めたのは、傷だらけの天乃だった。 「……爆ぜろ」 なんて、呟くがすでに彼女にそこまでの力は残っていない。全身から血を流し、寒さに身を震わせながらも、伸ばす気糸からはポタポタと血が滴る。けれど、力が足りないのか、人形達の動きは止まらない。 「人形劇は終わりです、そろそろ幕を降ろさせてもらいますよぅ……」 動き出した人形の前に、黎子が躍り出る。彼女の周囲を舞うカードの嵐が、人形達を切り裂いていく。けれど、そんな死の嵐を逃れた人形が1体。迫りくる鴉を止めるため、拳を振りあげる。 「寂しさ、辛さ以外の感情がねぇなんざ、やってらんねぇな」 人形の拳を受け止めたのは、モノマだった。炎を纏ったモノマの拳が、人形の拳を正面から受け止める。人形とモノマの頭上を鴉が通り抜けていく。 『来ないでよ……。怖いよ』 感情のない声。けれど、涙を零しながら人形師が呟いた。指が素早く動き、バリケードを更に強固なものへと変えていく。 「君も人形を手繰ってばかりいないで踊りなよ」 「私はいじめられっ子による復讐容認派だよ」 リィンが複数の光弾を放ち、気糸によるバリケードを撃ち消していく。彼が射ち漏らした分の気糸は、アリシアによる精密射撃で切断する。バリケードが消えて、完全に姿を現した人形師へ鴉が迫る。鴉と並走するように、アンジェリカが飛びこんでいった。 「傷つけられたから傷つける。そんなことしちゃ駄目だ! 人は誰かを傷つけられるたびに自分の心も殺していくんだよ」 す、っとアンジェリカの指先に漆黒のオーラが燈った。素早く宙を走る彼女の指先が、人形師の胸に死の刻印を刻みつけていく。 「辛いなら、逃げたっていいんだ。例えそれが弱さだとしても、あんな連中の為に操さんが自分の心を殺す事はない。そんな価値、あいつらにはないんだから!」 刻印から、人形師の全身へ黒いヒビが広がっていく。ピシピシと音をたてながら、人形師の体が崩れ始める。 『やだよ……!』 泣きながら、人形師が叫んだ。消えるのは嫌だ。苛められるのは嫌だ。 悲痛な想いが籠った叫び声。 人形師の額を、雷音の放った鴉が撃ち抜いた。ピシ、と音がして、人形師の体が崩れ落ちる。端から、溶けるようにして、人形師の体が消えていく。役目を終えた鴉は、そのまま呪符に戻って消えた。 そして、役目を終えた人形師もまた……。 「……私は、悪くないもの」 そう言い残して、完全に消え去っていった。 ●夜と復讐の終わり……。 いつの間にか、遠くの空が白くなっている。厚い雲も消え去り、何処かへ消えていた。 河川敷に転がる5体の人形。どれも、無傷とは言い難い状態。焼け焦げ、傷つき、地面に転がっている。 「私は……。私が、やったの」 ボロボロになった人形を抱きしめ、操が涙を流す。 そっと歩み寄った雷音がボロボロの人形に手を触れ、それを操の額へ当てる。雷音が伝えたのは、サイレントメモリーで読み取った人形の想い。 「「状況とは言え君の人形を壊したボク達が言えることじゃないかもしれないが、もし、よければ、ボクと友達になってもらえると嬉しい。人形のことを教えて欲しい。こんどは君が思うこの人形のことを、人形の思い出を」 雷音が告げる。操は泣きながら、雷音の胸に抱きついた。それを見届け、アンジェリカは河川敷を立ち去っていく。 「どこ、いくの?」 天乃がそう問いかけた。アンジェリカはにや、っと笑ってポケットから手紙を取り出す。 「ちょっと、苛めっ子の所に。はは、ボクも悪い子だね」 心に溜まっていた想いを、操は全て吐き出した。けれど、彼女の現状はなにも変わっていない。 けれど、これから、少しずつ変わって欲しい。 そう願わずには、いられない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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