●フィクサード・W72・エレ 力を求めてきた。 届かないものに手を伸ばそうとした。 方法は無理やりだったにせよ、選んだのだ。 選んだのだから、後悔をしてはいけない。 一切を捨てて強さを求めるだとか、剣に命を賭けるだとか、そんなものは言うのは容易い。 後悔をしたら進めない。求め続けなければ見いだせない。 信じなければ、終わってしまう。…… 「……」 W72は、眼前で哄笑する男をジッと見ていた。 「実に良い」 男は、肉塊となった者を見下ろして、次にくるくると独楽のように回りながら笑った。 「W00君は実に良い、W00君は実に良い、W00君は実に素晴らしい」 「……如月博士」 「コンセプトも目的もまるで違うが、目の付け所が似ている。彼とは気が合いそうだ。ぶっひゃっひゃっひゃっひゃ!」 肉塊となった者達は、巨大な獣に食いちぎられたかの様な咬傷ばかり。 五つの骸は、いずれもW72が処理した者達だった。 「ああああ、W72。ご苦労。ぶっひゃっひゃっひゃ、補充を許可するよ。だが一体だけだ」 W72は、携えた機械剣を握り直して、切っ先を死体へと向けた。 鈍色の金属から削りだされた様な、刀型のアーティファクト。その鍔の辺りで直方体の物体が回転する。 掌から体液や肉が吸われる感覚がして、鍔に肉と金属の入り混じった顎が生じた。 顎が死霊のように躍る。死体をむさぼる。 「……うっ」 他者の肉を咀嚼して、嚥下する感覚が腕から伝わり、脳に味を伝える。 灰色の脂質の味。胃の臭い。腸の臭い。硬い骨の食感。皮下脂肪とチクチクする毛の食感が、じゅるりと喉を下る。 「……くっ」 W72はその味に、強烈な吐き気を催して膝をついた。 「彼に二つ、私が二つ。巡も大忙しだァ。ぶっひゃっひゃっひゃ」 ビルの一角。オフィスフロアにて、小規模のリベリスタ組織が壊滅した。 窓には赤い液体が塗りたくられた様に垂れて滴る。月の光は赤いフィルムを通したように濁る。 デスクや椅子は無造作に転がり、床の絨毯には黒い染みが生じて、肉塊となった革醒者達が転がる。 「……せめてセレだけでも」 ●二冊の報告書 「こちらは、フィクサード・W72の撃破をお願い致します」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタ達に目的を告げた。 端的だが、明瞭な、ただ粛々と倒せというものである。 そしてW72の目的は、リベリスタ組織を抹殺し、死体を持ち帰る事だという。 黄泉ヶ辻らしく、死体を持ち帰る事の意味は何とも理解できない。 「"こちらは"とは?」 「はい。二人一組で行動しているのですが、もう一方は別所で行動中です」 リベリスタ達に二冊の報告書と見取り図が配られる。 作戦領域は、ツインタワーのビルだった。 七階に連絡路があり、タワーの中央から連絡路に向けて縦にエレベーターが伸びている。 作戦は、エレベーターから連絡路に行き、連絡路からフロアに突入する形となる。 到着時には、既に死体だらけの部屋で戦闘となるという。 「Wシリーズは、黄泉ヶ辻のフィクサードによって肉体改造された女性たちです。兵士でもあり、兵器でもあります」 一冊目は、過去にWシリーズという者が起こした事件の概要があった。 「彼女の肉体はアーティファクトで改造されました。定期的に薬を補充しないと死んでしまう代わりに、強力な肉体を得たのです」 報告書からは、Wシリーズとして不可逆に兵器に改造された少女たちと、対するリベリスタ達の胸裏がチラチラ伺えた。 「彼女はソードミラージュタイプです。しかし別の効果が伴うなど、未解明の技を多く用います。その性質はどこかダークナイトの様でもあります」 「二人組の片方だけが目標?」 「そちらはもう一方のビルにいます。そちらに関しては他のブリーフィングルームで検討中です」 前回はWシリーズの二人組に対して、八人で対応している。 一人を倒す為に八人とは、いささか規模が大きい。 「もう一冊の方をご参照ください」 和泉に言われるがまま、もう一枚を逸ると『秘密兵器請負人』というフィクサードに関する報告書となっていた。 良くわからない名称が連なっている。 『88mm大陸弾道ドリルバンカー』『フェニックス放射器』 『八連結連装獄殺チェーンソー』『対空火炎放射器HUGEバーナー』 「Wシリーズとやらの二人が、変態兵器を持っている。つまりそういうことだ」 壁際に片腕を欠いた女がいた。 和泉曰く、変態兵器に詳しい参考人ということらしい。 「変態兵器には別のアーティファクト――"箱"が内蔵されている。単品でも強力で無差別な呪物だ」 過去に、木っ端フィクサード三人が変態兵器の作用で強化され、八人であたった依頼があった。 ならばWシリーズが、変態兵器を持てばどうなるか。想像に難くない。 連絡路があるのならば、あちらとも連携が取れるのだろうか。 「女を改造した兵器が、変態兵器を持つ。何とも馬鹿馬鹿しい話だが、せいぜい頑張るがいい、リベリスタ」 「よろしくお願いします」 和泉と参考人が礼をして退室すると、リベリスタ達は作戦に向けて準備を始めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月23日(日)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●お遊戯会 -Circus- 月光が呑気に射していた。 オフィスフロアに多くある四角の窓から、遠慮なく入ってきて、陽だまりのような長方形を浮かべる。縁は濃い青墨色の空気に溶けている。 空気は、肌に張り付く様にじっとりとして重苦しく暑い。 暑い空気に混ざる内臓の臭いと紙の臭いが、リベリスタ達の鼻孔をくすぐる。…… ――闇の奥から、キラりと月光が反射した。 応じて『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)が飛び出す。携えた二本のナイフを交差させると、その中央に刀が打ち据えられた。 「早速っすか」 「私についてくるとは……驚いたな」 火花による一瞬の明かりに、正体が垣間見える。この場で襲ってくる存在は一人しかいない。 フィクサード・W72。 切りそろえられた前髪は顎ほどに長く、髪の間から覗く眼光が、つかの間の火花でつかの間に光る。 「最初に言っておくっす。うちは、アンタには負けないっす」 感覚が脳へ伝わる誤差コンマ秒の後に、無数の蟻が這って来るような衝撃が両腕に伝わった。 フラウはナイフの片方をそのままに、もう片方のナイフを下から上へ振り抜いた。 「私を知っている様な口ぶりだな。初対面の筈だが」 青墨色に染まるW72は、よろける様な影を映して後退する。 「ああ。初見だが調べはついている。この先にあるのはお終いだけさ」 『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)が小刀をくるりと回して逆手に握り、式の鴉を飛ばした。 風切音が生じる。小烏が放った鴉が裂かれる。 「押し付けられた地獄。その選択すら自らの責とする。そりゃ、後悔したら心も折れよう。戻る術なぞ無いのだから」 小烏が風切音に向けて携帯照明を照らと、光を避けるように動く影。フラウによって傷つけられた出血の痕跡がぽつぽつと斑を描いている。 「ふん、千の言葉よりも万の哀れみよりも、何も考えず斬り結んで貰った方がいくらか楽だ」 闇の奥から、キュィーンと甲高い音が鳴った。 「哀れみ……そうかもな。ただ、終いを少しでもマシにしたいと思っているだけさ」 音は箱が回転する音か。ここから先は呪いの宴。 呪いに対して想う所が脳裏にチラつき、振り払う。 「そら来い、この鴉が相手してやる」 小烏は破邪の祈りを刀に込める。込めた所で小烏の横から紫色の影が抜けた。 「大先生の作品を持ってるから本来なら殺処分だけど、エレちゃんには共感しちゃうな」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の視線が音の鳴る側へ動かす。 「誰だって力は欲しいよね、どんな手段を用いても」 「……似た考えの者が、リベリスタにいるとはな」 エーデルワイスの言葉に、W72は微かに笑い混じりの声を出す。 「もう一人の私みたいな人、今夜は一緒に殺し愛ましょう」 「そうだ、その為に私は――」 魔力銃を抜き打つと同時に、影が疾走る。 フラウへ、小烏へ、エーデルワイスの眼前に多重の残像が浮かぶ。呪いの剣が風を切る。 「辛そう、悲しそう、手に入れた力は本当に欲しかったものだったの?」 『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)が割って入った。 暗視を伴い、正確に実体の一刀を跳ねあげる。跳ねあげた間もなくに、W72は体勢を整えて影時へ振り下ろす。 「より強くは、私の望む所だ」 影時の眼前で光が弾けた、鋏とカッターナイフ状の破界器で鍔迫り合いへ至る。 「後悔してもいいんだよ。そうすれば次は間違えない。最も、エレ、君の次って来世の事かもしれないけれど」 『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)は、眼前に爆ぜる気魄を観察していた。 「いよいよ以て気を引き締めてかからないと、撃退されるでしょう」 星龍の脳裏に掠めるWシリーズ。変態兵器の情報。 ツテで聞き及ぶ二つの事件。その共演。狂宴が気魄の渦となって眼前に生じている。 決して油断はできない。と、煙草に着火する。 「黄泉ヶ辻のイカレお遊戯会か。役者すらもが犠牲者と来てやがる」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)も煙草から紫煙をくゆらせて胸裏を語る。 「悪趣味な事だな」 「同感です。黄泉ヶ辻によるアーティファクトとは」 後衛で二本の銃口が並ぶ。 「境遇自体には些かの同情を抱かんでもないが、こう言う状況に至った以上、感傷など無用だ」 ここへフロア全体の照明が点る。 明かりを点けた『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は、呟きながら三本目の銃口をW72へ向けた。 「さあ、狩りを始めよう」 射撃手達が放つ連続した発砲音。次にギャンッと厚い鉄板を殴りつけた様な音が鳴る。変態兵器の甲高い回転音に混ざり、騒々しき戦場のオーケストラが響いた。 『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)は、騒々しき中、静々とテレパスを行使した。 『エレさん、本望?』 『……』 相互に交信可能なラインながらエレからの応答はない。 『貴方から未練の匂いがするの、まるで腐り落ちる寸前の果実の様な』 『話したい事があれば戦闘中でもその後でも聞くわ』 『お互い後腐れもないでしょ』 『この後、私か貴方は、"おそらく居なくなるのだから"』 応答は無い。無いが、何かを発すべきか迷っているらしき思考の息遣いがちらちら見える。 「――と、……丁度、あっちも始まったらしい」 「その様だな」 烏と龍治は、遠くで窓ガラスが何枚も砕け散る音を拾った。 ●思惑の交錯 -Across The P.Migrate- 刃が跳ぶ。弾丸が飛ぶ。鴉が翔んで、交差する。 斬り結ぶフラウは、W72と同じ世界を共有していた。 周囲の背景が走馬灯のように流れる高速世界の中で、背景に溶け込まず、眼前にW72が存在する。 「アンタ、『何も考えず斬り結んで貰った方がいくらか楽だ』って、それはつまり後悔があるっていう事っすよね」 フラウの一撃が空を切り、残像を切る。実体が横から襲い掛かる。 「うちは後悔なんてしない。うちが求めたのは、速さ。速さって言う"力"だ。選んだのだ、魅せられたのだ。果ての無い、其の道を」 フラウがトップスピードを伴って更に加速する。W72を大きく引き離す程の速さで一刀を見舞う。 「後悔なんてする筈がない。もし後悔してしまったら、ソレは自分自身を否定してしまうから」 「それが、私に負けたくないと言った理由か」 ごきり、ごきりと、W72の腕に変態兵器が融合していく。融合した腕がコート下で別の生き物のように隆起して、隆起したものが肩を昇る。首を昇る。 髪の間から見える僅かな肌色に、赤や青、緑と鈍色の線が走る。 更なる加速。高速の剣劇の渦が苛烈となり、フラウを超える。 目にも映らない速さが、フラウの全身を切り刻んだ。 「あはは♪ エレちゃんの顏を間近で拝見、似たモノ同士仲良くしましょ♪」 ぴらぴら笑いながら、エーデルワイスの銃口が火を噴き、噴いた火はW72の武器に刺さる。 撫でる様に横薙ぎで来る残像の剣。 振り抜かれたら胸から上が切断されるであろう攻撃を、エーデルワイスは銃で受け止める。肩口で止める。 銃と剣の鍔迫り合いに興じる。競合いながら銃口を向けて撃つ。 「確かに速いが――とは、違うな。逃さん」 飛び退くW72の着地地点。予測に対して上に左に1°の補正を加えて、龍治が狙撃する。 龍治のごく身近に速い者がいる。何度も見ている。 見ている為、目は慣れている。慣れている上に、W72の速さはそれと異なっていて、何とも読みやすい。 得物を穿つ事など―― 「容易い」 変態兵器に刺さる。異形化したものが砕け、目に見えるほどに速度が落ちる。 W72は更に実体を曖昧として、残像の一体が次に影時へ向かう。 「……っ。恥かいて、一生底辺で悪食啜るの? これから先のこと、考えてみなよ」 「私には、今この時だけだ」 「弱点は――」 星龍がエネミースキャンを用いて解析した結果には、変態兵器を効率良く壊す方法が含まれていた。 「弱点は"箱"です。情報共有をお願いします」 『共有します』 星龍は情報は、沙希を介して共有され、射手達の視線は箱へと向く。 「箱か」 「どうしました?」 烏の呟きに星龍が疑問を呟き返す。視線はW72から離さずに。 「おじさんの杞憂なら良いがね」 烏は、箱を狙うべきタイミングを見計らっていた。考えが正しければ開放された時が怖い。 「気味わりぃな」 情報の共有を受けた小烏もまた、呟きながらブレイクフィアーを放って呪詛を祓う。 『どうされました?』 「ロクでもないって思っただけさ。漏れた呪いの処理を頼むぜ」 『頼まれました。――ロクでもない、ですか』 沙希はハイテレパスで反芻しながら、W72へと言葉を投げる。 『私はロクデナシだけど義理は通す主義なのよ。想いを打ち明けてみては如何?』 『お前達の言葉など、私には届かん』 『そうですか』 合意の通信が途絶える。無駄だったのか。それは戦いを終えてから分かるはず。 両手に聖なる息吹を収束させて、フラウへと癒しを施した。 「――滑稽だよね」 「何だと」 影時の一言に、W72の残像と実体が視線向ける。 「滑稽だって言った。死んだほうがいいと思う。それでもいいなら、何も言わないけれど」 「黙れ。――私を、嘲るな」 握りこぶし大の球体が、柄の辺りよりぷくぷくと生じる。 この肉の芽は、獰猛な牙を誂え、涎を垂らし、静から動に影時へと襲い掛かった。 腹を穿たれ背中に抜ける。 食道からこみ上げる液体。多くの呪詛が身体の芯から蝕んでいく。 「ごほ……何度でも言う」 影時は肉の芽の束を掴み、鋏で引き裂いた。 「滑稽だよ。馬鹿みたい。正直この戦いはいらない戦いだと思うんだ」 ここでリベリスタ達の背後から、振動が響いた。 「セレ? そうかお前達は、二手に分かれているのか……!」 W72には飛び退いた。 カースハザードの肉の芽の一本が、ガラスの一枚を破り、W72は窓より投身する。 「あいつ、どっかのクモのヒーローっすか」 肉芽を伸ばし、何処かをがちりと掴み、伸ばしたものを引き込んで、外の壁を伝う。 「外です!」 星龍が銃床で窓を砕き、壁を伝いW72を追う。 W72の後ろ姿は、筒状の連絡路の上。戦場は連絡路の上へと移る。 斬城徹甲剣から黒い塊が生じた。分厚く、長く伸びて、巨大な刀身を形成する。 「そう来たか」 何をするかを察した龍治の声と同時に、振るわれる巨剣。 巨剣が向く先は連絡路。ガクンと足場が沈んだ。 ●呪と毒の狂宴 -Duo fur Violine und Viola- 「これは厄介な」 星龍は、思わず咥えた煙草を下へ落とした。新しい煙草を咥える。 「火ぃいるかい」 烏が並んで、星龍に火を差し出す。 「どうも」 不安定な足場。風が吹き抜けて、紫煙を遠くへ運び去る。 輪切りとなり傾いて、宙ぶらりんとなった連絡路で再開される戦闘。 この場にいる者以外の雑踏が足を伝い、ぐらぐらと揺れる連絡路の屋根の上。筒の上。 突如ヘドロの濁流が、筒の両脇から吹き出した。 『落ちる……! 済まない! 聖神の息吹をくれないか』 この場に居る誰か以外からの声がした。 集音装置で耳に拾った烏が、これを沙希へ伝達する。 「ん、すけしゅんか。沙希君、要請だ」 『承知いたしました』 力を込めた神の息吹が、場に居る者も、少しだけ隔てた所にいる者達をも癒す。 W72の心の揺れを垣間見た沙希は、彼女たちの最期に何を問うかを考え始めた。 『助かった。あと照明有難うな』 「礼には及ばん」 龍治は呟きながら発砲する。 「セレ、下か!」 「行かせないっすよ。今度はアンタが糧になる番だ。豪快絶頂拳、要請っす」 フラウがW72を肉薄にする。筒の上でもバランスを失わず、アクセスファンタズムを放って器用に要請する。 集音装置が耳に拾う『いいよ~溜めがいるからまってて~』の声。 「フラウ、了解だそうだ」 最後尾から龍治の声。 あの技が了解ならばフィナーレが近い、とエーデルワイスは感じた。 「遠慮なく受け取ってね心友」 残像の刀を弾き、肉の芽をしらみ潰して、胸に銃口を突きつける。 「問いでも、否定でも、嘲りでも沈黙でもなく、迷いすら肯定してくれたのはお前だけらしい」 「私は貴方の生き様を肯定するわ。結末がデッドエンドでもね」 W72、エレも自分も似たようなもの。自分を重ね、もう一人の自分をエーデルワイスは見た。 「――だが、負けん! セレ!」 「来ます!」 星龍が改めて銃を構え直す。 丹念に解析を続けていた星龍の声は、全員がその意味を察した。 最も油断できない狂宴を意味している。 「決着をつけましょうエレちゃん。いいえ心友。うふhhっはあうははあはhh」 エーデルワイスの攻撃で、変態兵器に亀裂走る。 影時が脇から鋏を突き刺す。 「きっと道が違えば、リベリスタであったかもしれない君に捧げる」 解放の引導。 もう一撃を影時が放ち、W72は武器で受け止める。受け止めた途端に、変態兵器の損耗が限界を迎えた。 転げおちる箱。変態兵器の中枢。 「――女性陣は箱から離れるんだ」 烏の狙撃で弾け飛んだ箱は、ゆっくりと孤を描く。 「仕留めます」 「終わりだ」 烏に続いて、星龍と龍治が箱を貫き、W72を強化していたモノが雲散する。 「――ぐさん登場!」 「バイバイ、コレで最後っすよ」 ピンク色の影を携えて、フラウが駆ける。 変態兵器による強化の伴わないならば、圧倒的にフラウが速く。 振りぬく刃、振りぬかれる刃。 ――疾風が静かに横切った。 ●愛の連鎖 -Curse Hazard- 恐怖ってのはね、得体のしれないモノが一番怖い訳ですよ。楽しい訳ですよ。 説明したら愉快じゃないでしょ、君。 ――――『俳座』巡 三四郎 烏がW72へと駆け寄った。 「これも縁だ本当の名前を教えちゃくれねぇかい、兵器としてではなく人として最期を看取らせて貰いたいんでな」 負傷が積み重なり、もう長くはない。そういう傷だった。 「無用な情けだ」 最後まで頑なに、最後までエレで通そうとする胸裏は何か。 『私はロクデナシだけど"約束は守る"。その技、私達"以外に"喰らわせたい相手とか居る?』 『……2人、いるな』 沙希は、問いかけが無駄ではなかったと安堵した。 『W00と、巡 三四郎。どちらも、黄泉ヶ辻の、呪いの、使い手だ』 この件の黒幕に繋がる情報は僥倖とも言えた。どちらも聞いた名ではない。 無いが、いずれ対峙した際は、彼女の呪詛をもって行ってやろうと考える。 「向こうも終わったそうだ。最期、会いに行きたくはねぇか?」 小烏は、もう一方の班の勝ちを持ってきた。 「……運命か。肩を借りても良いだろうか」 「安い御用さ」 小烏は、呪詛の体液に塗れながらもW72を運ぶ。 終わりだけは良くしたい想いが、自然とそうさせた。苦にもならない。 「お前の望みは、希望は何だったのだ。最後に、聞いてやらんでもない」 龍治が問いかける。それだけが解しかねた。 「自分でも分からないな。ただ力を求めてきた。それが私の全てだった。だが、届かない何かが、見えた様な気がする」 「利用された果ての結末、戦いの中でか」 「それほど悪いものでもない。楽な心持ちだ」 龍治は己の銃を見て、視線を戻す。 「迷って、振り切って、怒って吐き出して、存分に剣を振るい、十分に語り、肯定も否定も飲み込んで――果てる」 「セレも、きっと一緒だよ」 影時が呟く。エレは影時の本心を察しかのように、口角をゆるやかに上げた。 「そうか、礼を言――」 : : : 「この箱は?」 星龍は直方体を回収し、それを烏に見せた。 「これが変態兵器の変態ぱぅわーの源ですか」 エーデルワイスは興味津々に眺めていた。 奇しくも、弾丸は、ほぼ同じ所を貫いて、穴は一箇所に留まる。 箱の中には、まるで無理矢理縮められたような人間のミイラが詰まっている。 ミイラの数は4つ。いずれも革醒者のミイラである。 「おーこわ」 「今は動いていないっすかね?」 フラウも手にとって眺めるが、神秘性は感じられない。 どうやってミイラを箱に詰めたのか。 「ふむ、ではこの事件は」 星龍が考察して組み立てる事件の全容。 小規模なリベリスタ組織の少年少女が殺害された事。 死体を回収しようとしていた事。…… 手を重ねた二つの遺体を、月が照らしていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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