● 「ごー、よん、さん、にー、いち、ゼロォ」 カウントダウンを一人の男が唱える。 彼の目の前には磔にされ、各所に傷を作った一人の少女。 「ウ……ぁ……」 剣で切り裂かれ、或いはナイフで切り裂かれ、或いは銃弾で穿たれ。 多種多様な傷から流れた血で何所かの制服を汚している少女は虚ろな瞳のまま最早何の意味も為していないうめき声を上げる。 「おーおー、まだ死なないか。頑張るねぇ」 それを聞いた男が皮肉げに笑いながら後ろを振り返る。 「んじゃ、ヤスト、次はお前な。そろそろおっ死んじまいそうだから気をつけろよぉ」 「任せろ、ユウヤもう何ゲームもやったからな。そろそろ加減が掴めてきた……気がする」 「そういってさっきもアンタでゲームセットだったじゃないか」 ユウヤ、ヤストと呼ばれた男の会話に新しく女性の声が割って入る。 「どうして私みたいに上手く活かさず殺さずが出来ないかなぁ」 「ミカは陰湿だからね」 「それは間違いねぇな!」 三人目の少年の様な声にユウヤが笑う。 「ショウゴも負けず劣らずだがな」 ヤストがそう言ってほほ笑みながら自分の獲物である大剣を肩に担ぎながらゆっくりと少女に近付いて行く。 「出血のし過ぎで死んでもらってもつまらないからな、そろそろやるか」 「ヒッ」 武器を構えるヤストを見た少女の瞳に恐怖の色が戻る。だが四肢を固定された彼女に逃亡の道もなくただ体へ迫ってくる刃を見ていることしか出来ない。 そうして少女はありありと迫る死の恐怖と内蔵に火箸押し込まれた様な灼熱感だけを抱えてこの世界を去った。 ● 「至急、皆に向かってほしい場所がある」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がミーティングルームに集まったリベリスタ達に告げる。 「向かってほしい場所?」 疑問を口にするリベリスタに対して一つ頷きを返してイヴが説明を続ける 「其処は黄泉ヶ辻フィクサードが遊び場と称している場所」 黄泉ヶ辻。その一言だけでその場にいた何人かのリベリスタが眉をひそめる。 日本のフィクサード組織主流七派が一つ『気狂い』の黄泉ヶ辻。 そこに所属しているフィクサードが関わっている事件となれば其れだけで警戒するのも仕方のない程黄泉ヶ辻の悪名は高い。 だが、だからと言って此処で事件を見過ごすことはリベリスタ達には出来はしない。 「それで?」 さらに続きを問うてくるリベリスタ達にイヴは自らの見た未来を伝える。 「其処で彼らは捕えた低レベルの革醒者をターゲットにして攻撃を行い、殺した者が負けというゲームを行っている」 その所業は気狂いというに相応しい、常人には理解できないものだとイヴは言う。 「すでに何人かが犠牲となっているのだけれど、まだ生きている人達もいるわ。今回の任務はその囚われた革醒者の救出」 あくまで今回の任務は救出だからフィクサードを倒す必要はないわ、よろしくね」 イヴはそう言って遊び場までの地図と詳細をリベリスタ達に手渡した。 ● 「斬ってはダメだった反省を生かして体を突いてみたんだが……駄目だったか」 刀身に着いた血を払いながらヤストが首を振る。 その様子にたった今人を殺した罪悪感等は一切見受けられない。 其れは後ろで笑いながらその光景を見ていたユウヤ、ミカ、ショウゴの三人も同様だ。 それどころか、ユウヤが指を鳴らせば彼らの部下がターゲットを新しい物に取り換えている。 「ヒャハハ! このゲームはヤストの負ーけ! んじゃ、次のゲーム行ってみようぜぇ! ――箱舟の連中はこのゲームを気に入ってくれるかねぇ」 ユウヤの楽しそうな声に残りの三人も笑い始める。 ゲラゲラゲラと気狂い共の笑い声が何所かの闇の中で響く。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:吉都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月23日(日)23:16 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●Are you ready? 「此処か……?」 「そうみたいですね」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)と『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)の目の前には所々塗装が剥げて地金の見えた扉。 閉ざされたその扉の向こうには気狂いが居て、開けば新しいゲームが始まる。 「竜一くん、聞こえるかい?」 逸る気持ちを抑えながらAFに声を投げる。 「おう、ヤマちゃんと一緒に裏口で待機済みだ。こっちは動きはないな」 すると、表口に待機する六人とは別に『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)と共に裏口突入のタイミングを待つ『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)頼もしい返答。 それを聞いた悠里は一度頷いて扉に手を掛けながら後ろを振り返る。 「皆、準備はいいかな?」 武器を構えて準備を終えた面々が頷き、それを確認した悠里が勢いよく扉が開けた。 ●Game Start 扉を開けた先にあったのは惨たらしさに満ちた『ゲーム会場』だ。 広い店内の中に濃密に漂う血の匂いと腐敗臭。それと――。 「がっ! ぐううう」 一発の銃声と銃弾を腹に撃ち込まれた男の悲鳴。 どうやら扉の前で準備をしている内に丁度新しいゲームが始まっていたようだ。 少し時間をかけ過ぎたかと奥歯を軋ませながら扉を開けた勢いのままに悠里が京一によって付与された翼を羽ばたかせて駆ける、目標は固まっているユウヤ達四人。 「ハッ……!」 電光を纏った白銀の篭手が煌めき、高速ストライドダッシュからの速度を生かした連撃が悠里と四人の間の空間に光のラインを幾本も描く。 四人はそれをそれぞれの武器や防具、自前の身体能力でいなそうとするがどうにか出来たのは大剣の腹を上手く掲げることが出来たシヤストのみ。 何発かの拳打を受けて蹈鞴を踏んだユウヤが顔を上げる。 「どちらさん? 今取り込み中なんでお引き取り願えますかぁ?」 「アークの設楽悠里と焦燥院フツだ! お望みどおりきてやったぜ。覚悟しやがれフィクサード!」 悠里の一撃を受けてまだ余裕のあるユウヤがケタケタと笑いながら吐いたセリフを悠里に続いた『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が打ち消す様に叫ぶ。 同時に経典を開き新たな言葉を乗せて今し方銃弾を撃ち込まれた青年の傷を治療する。 流れるようなその行動を見ていたユウヤが銃口から今だうっすらと立ち上る煙を棚引かせながら肩を竦めて首を振る。 「ちょっと遊んでただけなんだがなぁ、なーんで有名人が二人も来るかなぁ」 多くのフィクサードと何度も渡り合った彼らのネームバリューは相当なものだ。 だがそんな歴戦のリベリスタを前にしての芝居がかったその仕草と言葉は本当に彼らにとってこのゲームが些細なことであると告げるよう。 「最っ低……! アタシの一番嫌いな人達だ」 『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)が五人いるユウヤ達の部下に牽制の通常攻撃を撃ちながら怒りを滲ませて呟く。 「そうじゃの、自らよりも弱い者をゲームの材料にして甚振るなどと許せることじゃないの」 それは十分に抑圧された声量だったが隣に並んでいた『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)には聞こえたようで彼女も弓を握る手により一層力を込めながら返す。 「だからこそ、まだ犠牲になってない者は助けねばならんのじゃ」 与市が引き絞った弦から指を離す。 言葉とは裏腹に与一の内心は飛んだ矢が当たらないだろうと言う不安で一杯だったが、それは良い方向に裏切られ磔になっていた青年の腕の戒めを破壊する。 「何がゲームだ、こんな悪趣味な」 与市に続いて『脆弱者』深町・円(BNE000547)が気糸を飛ばして青年に残った足の戒めを破壊する。 その際狙いがわずかにズレて青年の足に多少傷を作ったが事前にフツの治療も受けていた為動きに支障が出る程でもなく、青年は拘束から解放されて立ち上がる。 「走れ! 逃げろ!」 自分の目の前で乱戦が形成され戸惑う青年に前線にいた悠里が声を上げる。 「お前! 見てるだけじゃなくてかかって来いよ!」 フツは少しでもその手助けをしようとさらに敵を挑発し、引きつけようとする。 だが、青年と扉の間で戦いが起きている以上逃げることは難しい。前衛でフィクサードと相対していたフツや京一もその状況に歯噛みする。 それを見ていたショウゴが眼鏡を軽く押し上げて、開いた手を青年に向ける。 「君達は、こうされるのが嫌だよね?」 その場にいたリベリスタが止める間もなく、ショウゴの掌から漆黒の光線が放たれる。 「ぎっぁああああああっ」 それは音もなく青年に突き刺さり、貫通し。体の内側から鑢を掛けられたような痛みが青年を襲い、走り出しで付いた慣性のみが残り床に青年が倒れる。 「皆も」 ショウゴが言葉少なく部下達に青年への攻撃を促す。 「っ、やめなさい!」 陽菜が闇の世界を展開することで少しでも敵の攻撃を鈍らせようとする。 「させるかあぁっ!!」 闇の中、暗視で状況を把握している悠里が今度は氷を手甲に纏わせ部下の一人を殴りつけて動きを封じる。 だが、行える抵抗は其処までだった。 幾ら前衛が幾人かを抑え、さらにバッドステータスで動きを防ぎ、視界をある程度奪おうとも数の差は大きく闇の中で何かを殴るような音が響き、暗闇を一瞬だけ魔術の炎が退ける。 リベリスタ達の手が僅かに届かぬその先で人の口から出たとは思えぬ甲高く、長い悲鳴が上がった。 ●First Round 「アヒャッヒャッ、死んだ?」 「殺しちゃった」 常人であれば思わず耳を塞ぎたくなる様な断末魔を聞いてユウヤは笑い、ショウゴも眉一つ動かさずに答える 「お前ら”アレ”が助けたかったんだろ? なぁ? なぁ?」 ユウヤが嗤いながら死体となった青年を指さす。 「必死にやってコレなんだから報われないよねぇ」 ミカも自分と相対している京一の前で笑う。 「所詮さぁ、世の中何てこんなもんじゃん? 正義の味方ぶったアークがいくら頑張っても無駄なんだよ」 フツを部下と共に攻撃しているユウヤが嘲笑する。 「いーや、そうでもないぜ?」 だが、そんなユウヤに新しい声が答え、同時に彼の部下の一人が斬撃を喰らって地面に倒れる。 「え?」 そばでその様子を見ていたショウゴが信じられないという顔をする。 何故なら其処には設楽悠里、焦燥院フツと並ぶアークの有名人である結城竜一が居たからだ。 「遅くなったな、皆! 捕まってた人は全員助け出したぜ!」 同時にヤマも戦闘に参加、近くにいたショウゴと部下を巻き込んで攻撃を放つ。 「どういうことだ……!」 悠里と撃ち合いながらも動揺を隠せぬヤストに答えを教えたのは 「お疲れ様です、先輩達」 「おう、円が上手く合図を送ってくれたからな!!」 この状況を作った、円と、竜一だった。 そのきっかけは少し前。 「『竜一先輩、今です、お願いします!」 円は一ターンだけ攻撃も支援も行わず竜一とヤマに合図を送っていた。 普通ならそれでも何人かに気付かれ竜一は攻撃を受けたかも知れないが皮肉にもショウゴが行った嫌がらせが竜一達にとってはさらに決定的なチャンスだった。 青年を嬲ることに集中し始めたその隙に竜一とヤマは素早く裏口から侵入。 ヤマが手早く拘束具を解除し自由を得た囚われの革醒者から竜一が外に送り出した。 最後の方で恐らくは誰かの断末魔が聞こえ竜一は武器を握りしめたが飛び出していきたい気持ちを抑え自らの任務を遂行。 その後は素早く戦闘に参加し全力の一撃を目の前にいた部下の一人に打ち込んだのだ。 これがこの一瞬で動いた戦況の、全てだった。 「さぁ、もう気兼ねはいらねーぜ」 自分が切り倒した部下の隣にいたショウゴに切りかかりながら竜一が言う。 その言葉は、十人の革醒者を気遣っていたリベリスタ達の枷を、外した。 ●Second Round 「行くぜ、フィクサードッ!」 「続いて行くのじゃ」 フツが凍てつく雨を降らせ、与市が業火を纏う矢を落とす。 「まだこの状況で『楽しい』と言えるかの?」 続いたヤマが特に傷の酷い部下を中心に範囲攻撃を放って仲間を回復させていたホーリーメイガスの部下が倒れる。 「あ゛?」 徐々追い詰められているユウヤが憎々しげな表情で円へ弾丸を放つ。 その断罪の弾丸の威力はユウヤの受けていたダメージもあり凄まじく、円の体力を全て吹き飛ばす。 「ひっ」 フェイトを使用して何とか立ち上がる円だがユウヤに一瞬怯む。 「大丈夫ですよ、私達がいますから」 京一が素早く回復を施す。 「そうだよ、私達は負けないよ」 足りない分は更に陽菜が補う。 「なにさ、正義の味方ぶって」 ミカがフツと戦いながら言う。 「オレ達は正義じゃないぜ」 ミカの攻撃を受けて傷を作りながらフツは返す。 「は? わけわかんないし」 竜一がフツの言葉にニヤリとして、剣を振りかぶる。 「つまり、オレ達が正義じゃなく」 言葉は一度区切られ、その隙間で剣を振るい竜一は新しい部下の死体を作る。 「お前達が外道ってことだっ!!」 地面にめり込んだブロードソードから手を離し刀の切っ先を残った敵の方に向ける。 「ぶっ倒すぜ、黄泉ヶ辻」 「あまり調子に乗らないことだ!! アーク!!」 ヤストが気合とともに大剣を目の前の悠里に振り下ろす。 悠里は腕をクロスさせて受けようとするが大きな質量をもったそれはガードでは止まらず悠里に直撃する。 たまらず悠里は膝をつくが、彼の中に燃える灯は此処で倒れることを許さない。 額の傷から流れる血を無視して目の前でクロスさせていた手甲にもう一度雷を纏わせる。 「ちょっと強いからって調子に乗ってるのはお前達だろう?」 ゲームと称して、たくさんの人を甚振って。そして今、自分達が嫌がるからという理由で目の前で一人殺した。 もし自分が神秘を手に入れていなかったら、もっと強い相手が自分達を甚振ったら、などと考えたことなど微塵もないだろう。 それが調子に乗っていると言わずに何と言うのだろう。 「思い知れ、悪党ども!!」 両腕に溜めた力を開放する。 白銀の線を奔らせる。運命を燃料にして立ちあがっただけの悠里の体はまだ傷が残っているが悠里はそんなことに構わない。 攻撃が終わると、そこには大剣を半ばから圧し折られ、崩れ落ちるヤスト。そして不幸にも悠里が起こした雷の嵐に巻き込まれて倒れる二人のフィクサードの姿があった。 「ちぃっ」 形成の不利を悟ったユウヤ、ショウゴ、ミカは周囲を見渡す。目についた窓などもあるにはある。 「逃がしませんよ」 だが、京一が使った翼の加護があり、全員で三人を囲んでいる以上逃げ場など最早ない。 ユウヤには先ほどの仕返しだと言わんばかりに円の蛇腹剣が飛ぶ。 刃一枚一枚がユウヤに毒や火傷を与えていく。 「少しでも自分達がやったことを思い知れ そして後悔して死ね」 彼らが抵抗しようと、京一や陽菜という回復手が居るリベリスタ側に対して勝ち目など無い。 残った三人にとって僅かばかりでも幸運だったのは、彼らの前に現れた自分達より強い者が、彼らより悪趣味でなかったということだろうか。 「自分達が作った死を特別でないと笑ったように、自分達の死もまた特別ではなかったということだの……今さら言うてもしょうがないが」 死は等価なのだから。 ヤマは最後に三人には聞こえぬ言葉を呟いた。 ●Game Clear 断末魔も、惨劇も。 全てが終わり、全てが遠くなった。 「大丈夫かの?」 与市や京一はアークの回収部隊が来るまで救出された覚醒者達に付き添っていた。 幸い、ゲームの標的になる前の彼らはなるべく活きを良くする為だろうか、疲労こそあっても大きな怪我はなかった。 彼らはしばらくせずに日常へと戻ることが出来るだろう。 しかし、もう二度と元の生活へ戻ることが出来ない者も居た。 自分達が来る少し前に殺されていた少女、助けることが叶わなかった青年。 さらに、今までユウヤ達のゲームで殺された人々。 今回戦闘の中で殺された青年はともかく、それ以外のゲームで殺された死体はボロボロで、使われていない外に乱雑に捨てられていた。 フツはその遺体一体一体に経を上げる。 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。と神秘を持つ者の優越によって殺されてしまった者達にせめてもの報いとなるように。 隣では陽菜も手を合わせていた。 その眼が一番捕えていたのはまだ血が乾き切っていない少女の遺体。たった数十分前に死んだ青年の遺体。 たら、ればを語ればキリがないけれど。 「間に合わなくて、ごめんなさい。助けられなくてごめんなさい」 悠里は皆と一緒に遺体を拝んだ後、最初に自らが開けた扉の前に来ていた。 今回は十一人の内、九人を救うことが出来た。 それでも、あと一人に間に合うことは出来なかったのか、もう一人に手は届かなかったのか。 悠里は見詰めた自らの手から砂が零れたような気がした。 「次は、もっと多くを助けて見せるんだ」 悠里は一度頭を振って、開いた扉に手を掛けた。 両開きのドアをゆっくりと閉めていく、これでもう二度とこの場所は開かず、ゲームが起きることももうないだろう。 悠里は閉まっていくドア、その闇の隙間にゲームの終わりを見た。 ―――GAME CLEAR。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|