● 油を引いた丸い鉄板ひとつひとつに、勢い良く流し込む生地。 休む暇なく、具を放り込んで。固まりきる前にくるくると。 丸い形に変わったら、程好い焦げ目を見極めて、素早く引き上げる。 熱々の内に、たっぷりソースをかけたら、同じくたっぷりの鰹節。 熱でゆらゆら踊るそれに、マヨネーズも添えて。 中身、味付け、バリエーション豊かなそれ。 大人も子供も作る時から楽しめる魅惑の粉もの。 夏の終わり、たこパ、しませんか? ● 「……えーと。たこパ、しない?」 一言。 何時もよりは少し機嫌よさげに、『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は口を開きなおした。 「狩生さんの知り合いのたこ焼き屋さんが、ちょっと材料の注文を間違えちゃって。とても捌き切れない量を入荷しちゃったんですって。 だから、まぁそれの消費をお手伝いする、って事で。あ、因みにアークでやるわよ」 鉄板や、その他諸々全て用意済みだから、とフォーチュナは告げた。 「危なくない様に、小さめのたこ焼き鉄板もあるそうよ。……因みに、たこ焼きの形で作れるなら、ホットケーキだろうと他の何かだろうと構わない。 まぁ、流石にそっちは材料ないからさ、持って来てもらう事になっちゃうけど……如何かしら?」 首を傾ける。そんな彼女の後ろでは、『常闇の端倪』竜牙 狩生 (nBNE000016)が手に取った地図を眺めていた。 「……私と響希君もご一緒するつもりです。飲み物等も用意済み、との事なので、折角ですから」 宜しければ是非。そう薄く微笑んで部屋を出た青年に続くように、フォーチュナも扉を開ける。 「開始は、午後6時から。夏休みは終わっちゃったけど、夏の終わりの息抜きって事で、気が向いたら宜しくね」 それじゃあ。扉の閉まる音を残して、その背も外へと消えていった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月23日(日)22:37 |
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● 食堂のテーブルは殆どが片付けられ、代わりに並べられた幾つもの鉄板。 「かんぱーい!」 その中心辺りで。ビールジョッキを掲げるのは快。 たこ焼きと言えばビール。別に、地ビールだとか、輸入ビールだとか、気取ったものである必要は無い。 何時も飲んでるビールを、きんきんに冷えたジョッキで! その隣では、 「唸れ! 僕のたこやき魂!」 父親に仕込まれた、一子相伝かもしれないたこ焼き術をお見せしよう! 程好く固まった生地を凄まじい勢いでくるくるしていく悠里は仕上がったものから素早く皿の上に乗せていく。 今回は、作成と共に、様々な食べ方をご紹介いたしましょう。 ざっと塗られたソースに、たっぷりのマヨネーズと鰹節。最も親しまれた味のそれが机に乗れば、素早く伸びる手。 焼きたての熱々を食べて。口の中で熱さと味わいを楽しみながら時折、冷えたビールを流し込む。 「ああ、美味い物を楽しむのは良いことですね」 星龍の感嘆の吐息を聞きながら、快もそれに舌鼓を打つ。やっぱり、ビールと言えばこいつだろう。 違う鉄板では、義弘が同じくたこ焼きを焼いていく。 大人同士、酒を楽しみながら美味しくたこ焼きを頂く事。それが今回の仕事だろう。 「しかし、こうしてっと完全に出店のアンチャン状態だよな」 鉢巻でも巻けば完璧だろうか。休憩がてらビールを煽って。これが焼き終わったら、酌に回るもの悪くは無いだろう。 悠里が次のたこ焼き作成に移る隣で、手馴れた様子の彼にその手腕を学ぼうと寄ってきたツァインもまた、何とかたこ焼きを作り始める。 「うぉぉ……やっぱ簡単にはいかねぇな、でも慣れてきたかも……!」 何度も食べては来たけれど、作るのは初めて。折角だし振舞おう、とぎこちないながらも腕を振るう彼は、ふと思いついたようにタコに目をやる。 ぶつ切りのタコ一切れも美味しいけれど。もう少し小さめに刻んで、たっぷり入れても美味しいんじゃないだろうか。 素早く刻んで、ぱぱっと放り込む。作るのも本気だけれど、この後に待っている食べる事こそ、本番。 ちょっとだけ味見、とソースだけ塗ったものをぱくり。美味しい。 ……やっぱり、もう一個。マヨネーズも付けてぱくり。 「うんまぁぁ~~~いっ!! たこ焼き考えた人って天才だよな!」 皆も食いねえ、と言いたげに皿に盛れば、此方もどんどんと皿の中身が消えていく。 続いてテーブルに乗るのは、悠里作・ネギポンたこ焼き。ポン酢とねぎの爽やかさで、何個でも食べられる美味しさである。 「たこ焼きに染み入るポン酢の酸味が、外はカラッ、中はトロッのたこ焼きの味を引き立てるんだよね」 でも、さっぱりネギ塩のたこ焼きも良い。刻んだ九条ネギに、岩塩の塩味は食欲を推進してくれる。 どれから食べたものか。悩む。どれも捨てがたい。 「あ、響希さんどれがいいと思う?」 たまたま通りかかったフォーチュナを呼び止めれば、寄ってきて、逡巡。 えー、どれも捨てがたいんだけど。そんな呟きに少しだけ笑ったツァインも、たこ焼きの串を差し出す。 「響希先生ホント粉物好きだな! 焼く方はどうなんだ?」 広島だと、やった事は無いのだろうか。そんな問いに笑って、あんまり得意じゃないわね、と竦められる肩。 「まぁ、好きだから出来るけどね。……悩んだけど、ネギ塩かな。さっぱりと!」 皿に乗ったたこ焼きをひとつ、つまみ食い。熱いけれど美味しいそれに目を細めれば、ビールの缶を煽ったベルカが隣に座る。 ジョッキにたっぷりと注いだビールも良いけれど、缶から直接飲み干すのも乙なもので。 「すぷふぁーっ!! この一杯のために労働してる!」 シベリア生まれとは言え、たこ焼きに合うのはこっちだと信じている。 手近な中瓶を引き寄せて。ジョッキをひとつ。 「一杯いかがですか。手酌ではナニですから……まあまあまあまあ」 「ありがと、ビール美味しいわよねえ」 酒が駄目ならソフトドリンクでも。そんな提案に全く問題ないと笑ったフォーチュナを労えば、気恥ずかしげな笑みが返った。 そんな会話を交わす前に、差し出される次の皿。香ばしいソースの香りに、食欲が増す。 個人的には中身の無いから焼きもいい、とベルカは思う。たい焼きを皮だけ食べたいとか、何かそんな感じで。 「そして本日のおすすめはこれだ……」 \チーズ入りたこ焼き/ チーズ苦手な人は好きではない、なので、人は選ぶ。けれど、これがまた実に美味い。 何かを付けてもいいが、作者的には敢えて何も付けない事をお勧めしているらしい。 熱々のたこ焼きの中から、とろりとでてくるチーズ。まさに絶品。 「そしてこのビール! 最高だね!」 腕を振るった後の一杯、マジうめえ。全員お腹空け、って声が聞こえた気がしますが、正直私が一番お腹が空きました。 「狩生君はこういうの上手そうよね」 ビール片手にチーズ入りたこ焼きに手を伸ばしながら。エレオノーラが発した問いに、狩生はぱちり、と瞬きした。 タコ嫌いな外国人は多いけれど、こんなに美味しいものを知らないだなんてかわいそうだ。そんな呟きに頷いて、青年は手近な串を手に取る。 「苦手ではありませんね。……折角ですし、今日は貴方の為に腕を振るいましょうか」 手早くくるくる、と回していく姿。作り方さえ覚えれば、全くの初心者でも出来るものなのだろうか。 ジョッキを置いて立ち上がる。狩生の動きに同調して、一回作り方体験。慣れれば、その動きを目指せば良いのだし。 ……とは、思ったものの。 「うーん、難しいわね」 どうも、綺麗に丸くならない。微かに寄った眉に、聞こえるのは微かに楽しげな笑い声。 他人に作って貰うのを食べる方が、自分らしいと言えば自分らしいけれど。仕上がったたこ焼きを皿に移せば、隣に差し出されるまあるいそれ。 「……どうぞ。折角ですし、エレーナのものも頂いて宜しいですか」 責任もって食べよう。ビール美味いし。何て思っていたのに。何時の間に持って来たのか、自分の分のジョッキを、エレオノーラのそれと合わせて。 たこ焼きに手を伸ばす青年は、常より幾分上機嫌なようだった。 ● 「今日のために、たこ焼きの練習をしておいたのです」 「ふふ、気合入っているのね。私も負けてられないわ」 ひとつの鉄板を、2人で分けて。執事として、情けないところは見せられない。 そんな三千に平静を装って返したものの、ミュゼーヌはどうしても自身の料理の腕に自信を持てなかった。 彼以外には殆ど言っていないけれど。ミュゼーヌは料理が苦手なのだ。それも、何て言うか、突っ込み辛い感じに。 その不安はやはり、外れていなくて。 くるくる、手際よく綺麗にたこ焼きの形を作っていく三千に対して、ミュゼーヌのそれは半球だったり、崩れていたり。 何度試しても、どうしても上手くいかなくて。ぶつかった視線をすい、と逸らした。 「し、仕方ないでしょう……これ、作るの初めてなんだし」 照れ隠し。そんな表情にも優しく微笑み返して、三千はそっとその手を伸ばす。 少しだけ、お手伝いをしよう。2人で協力して作れば、もっと美味しい筈だから。 「ひっくり返すタイミングが、少し早いかもです……」 円を描くように、くるりと。その言葉に従って、ぎこちないながらもミュゼーヌの手元でたこ焼きが回る。 出来た、と少し嬉しそうな表情を浮かべれば、返る優しい笑顔。 「ミュゼーヌさんが作ったたこやきは、とってもおいしいです。あふあふ……」 「美味しい? 本当に?」 もぐもぐ。熱々のそれをあっと言う間に平らげて行く姿。 お世辞なんて言える相手ではないから。覚えていた不安もすぐに拭われて。 自分にも、と強請れば、笑顔で差し出されるたこ焼き。 「はい、あーんっ」 「はふっ……ん。流石は三千さん、結構なお点前だわ」 愛と言う名の調味料も加えたそれは、何よりのご馳走かもしれない。 唸れ、無敵のラヴィアン・アイ!(注:熱感知です) 温度管理はばっちり。この魔眼(熱感知です)と、黄金の右腕で、最高のたこ焼きを作って見せる。 そう意気込むラヴィアンが、まだ固まりきっていない生地に放り込んだのは、チーズ。そして、餅。 外国人である彼女にとって、タコはやはり、あまり好ましくないものらしい。噛み応えはいい感じだけれど。別のものでもいけると思う。 そう、例えばチーズとか。お餅とか。 けれど! 彼女の家の近所には、売っていないのだ。あんなに美味しいのに。需要絶対あるのに。 だからこそ。今日、彼女は本気を出す。右腕が唸る。くるくる、回って、こんがり焼けたらもう出来上がり。 一口噛めばとろけるチーズと伸びる餅。うん、最高! 「1年間分のチーズタコヤキを食いだめするぜ! うめえ!」 一頻り食べたらもう一度。一年分のチーズたこ焼きの為、ラヴィアンの戦いはまだまだ続く。 和服に割烹着。大人の女性の魅力たっぷりの凛子が作るのは、やはり普通より味わい深いたこ焼き。 鰹出汁と、昆布出汁を7:3。丁寧に、まん丸に焼き上げたそれを皿に載せて振舞っていた彼女が次に取り出すのは、甘辛く煮込んだすじ肉。 めずらし焼き、に分類される、ラジヲ焼きだ。 「すじ肉です。こんにゃくで作ったものもありますからどうぞ」 水と一緒に差し出されたそれ。先程のたこ焼きに続いて受け取ったアルフォンソは、あまり見慣れぬそれに興味深げに目を細める。 日本のファーストフードのひとつ、たこ焼き。全国的に食べられているだけではなく、楽に食べられ、製作のハードルも高くは無い、と聞いた。 まぁ、書物の受け売りでは食は語れない。実際に食そう、と、串を刺す。 食べ方も独特。教わったままに食しながら、とりあえずは緑茶を合わせて。 「ビールとの組み合わせも試したいですね」 確りと味がついたそれに舌鼓を打つ。そんな彼に、凛子が提案するのは、外からタレを付ける事だった。 「醤油タレ、ソースタレ、ポン酢辺りが美味しいですね。……七味や柚子胡椒、無難な青海苔などのトッピングもお勧めです」 豊富に用意したそれを並べる。ひとつずつ、試してみるのも悪くは無いかもしれない。 漂う甘辛い匂いに惹かれたのだろう。ふらふら、と寄ってきたフォーチュナにも、差し出す一舟。 「月隠さんは粉ものお好きみたいですから一舟如何です?」 「ありがとー。食べた事無いから嬉しい」 中々美味しいわね。新しい味に、浮かぶのは笑顔。 ● 「僕さ、子供のころ関西に住んでたんだよ」 だから、たこ焼き焼くのとか、それなりに上手い。夏栖斗がくるくるとたこ焼きを回すのを、ぐるぐはぼんやりと眺める。 意外や意外、こんな特技が。とは思ったものの、案外彼は家事とか器用にこなしそうである。バレンタインも本格的だったし。 「ぐるぐ、マヨネーズとかつける? ネギは?」 至れり尽くせり極まれり。紳士的なエスコート。それに生返事しながら、ぐるぐは熱々たこ焼きを突く。 たこやき。美味しいから好き。でも、冷えてからじゃないと食べられない。熱々じゃあ、味が分からなくなってしまう。 なので。 しゅしゅっと。気付かれないうちに、ぐるぐの手が夏栖斗のたこ焼きからタコを抜き取る。 熱くて食べられないなら、他のもの食べればいいじゃない。 そんな事は露知らず。漸く手を合わせてたこ焼きを食べ始めた夏栖斗はすぐに、その重大な異変に気付く。 タコが、無い。 「あれ? 僕ちゃんとタコ入れた……」 もぐもぐ。隣のぐるぐが食べているのは、明らかにタコ。タコだ。しかもタコだけ。 まさか。 「タコないとかっ逆に当たりじゃない?」 語尾に(笑)とか付きそうである。当たりな訳あるか!! と言う夏栖斗の声も何処吹く風。 もぐもぐ。只管タコ食べるよ。タコ。冷めたらたこ焼きだよ。 「ねえ? ぐるぐさん、それ、誰のタコ?」 さらっと返る、ぐるぐさんのです! と言う声。ですよねー。奪っちゃったらそれ自分のですもんねー。 しゅっ。伸びる串。狙うはぐるぐのタコ……の筈なのだが。これが、避ける避ける。 「ぐるぐさんのはあげないし!」 「何この人なんでこんなに避けるの?! 気がついたらすべてのタコが奪われてる?!」 凄まじいタコ取り合戦は、ぐるぐの圧勝だったらしい。 フォーチュナに誘いのお礼を告げてから。狩生の姿を探していた五月は、目立つ漆黒にじいじ、と声をかけた。 「ゲートボールはありがとうだ、素敵なお友達と友達になれて幸せなのだ」 今度があるのなら、是非自分も。またあの黄金☆ポジションとか見たい。 そんな彼女の言葉に、青年の表情が少しだけ緩む。 「ええ、勿論。……五月君、たこ焼きは食べましたか」 鉄板の前。もし食べていないなら、と生地を流す狩生の横で、自分もやると五月は手を伸ばす。 チーズとか、入れても美味しいんじゃないだろうか。それとも、ホットケーキ系の生地で果物入り? 「響希、どうかな? ……オレがくるくるしたの、食べてくれるか?」 「甘いのも美味しいと思うわ、あたしも食べたい」 だから頂戴、と、微笑む顔は少しだけ何時もより優しくて。狩生と一緒に、甘いそれも仕上げていく。 頑張っただろう、と胸を張れば、良く出来た、と言わんばかりに頭に乗せられる、青年の手。 「皆仲良く頂きます、だ!」 手を合わせて。二人の間に座った五月は、目を輝かせながらたこ焼きを口に運ぶ。うん、美味しい。 五月の作ったものを食べる二人の顔も、美味しい、と優しい表情。 「……熱いし流石にあーんって出来ないのだ」 折角しあわせなのだから、もっとしあわせになりたい。けれど、危ないから出来ない。 しゅん、と下がる耳に、色の違う二対の瞳がぱちり、と瞬く。 「え、なに、あたしらにあーんしてくれるつもりだったの?」 「ん? 仲良しだとあーんする聞いたのだが違うのかな?」 それはかなり、偏った知識である。驚いた様に瞳が瞬いて。けれど、すぐに微笑ましげに表情が緩む。 今度、もっと熱くないものがあったらしてみましょうか。そんな小さな約束を交わしながら、食べるたこ焼きはやはり、美味しい。 今日は美味しいひとりたこ焼き! るんるん気分でくるくるすれば、いい感じに焼き上がるたこ焼き。 「よーし、いっただきますっ!」 楊枝に刺して食べよう、と思ったそのとき。気付いたら消えたそれ、え、なんd…… 「今日も今日とて、うっかり羽柴ちゃん見つけちゃった~」 「あーホンマやねー羽柴ちゃんボッチたこ焼きだー」 がっちり、2人で隣にチャージ☆ たこ焼きも美味しい。楊枝から奪ったそれを食べながら、葬識と甚内はすげえ悪い笑みを浮かべる。 「お、熾喜多さんと阿久津さんだぁコンニチワァ……」 うわああああああでたああああああなんていう悲鳴は飲み込んで。 ぎこちなく挨拶を口にした壱也に笑顔を向けながら、次に2人の目が行くのは、目の前のベビーカステラ。 「あらやだベビーカステラとか可愛いねー」 「えー、なに? ベビーカステラとかたこ焼きに謝りなよねぇ~」 縁日でしか齧った事無い、と突く甚内に、中身チョコとかなんでしょ? と笑顔で悪態をつく殺人鬼。怖いです。 「まぁ、いっぱいあるし食べてよ」 今日は食べるだけだし、きっと何も起こらない。そう踏んで諦めた壱也の前で、すげえ悪い2人組はにやりと、笑う。 「あ、そう? 食べていいの? 優しいねぇ~羽柴ちゃんは☆」 じゃ、サービスしようか! 目配せ。差し出されるあまーいベビーカステラ。 「あ~んv」 「殺人鬼ちゃんの気持ちみたいに甘甘だーっ★」 自分達ノンケですけど。折角だしサービス。いちゃいちゃ☆ホモサービス! 自分を挟んで繰り広げられる唐突なそれに、壱也はぽかん、と口を開けたまま。う、うわ、めめめめのまえでやっちゃう、のか! カメラが無い事を悔やむ間も無く。 「はっはっはー埴輪みたいだなはっしばー」 2人で焼いておいた、あつ☆あつのたこ焼きを口の中に押し込めちゃおう。たくさん詰めると、ほら、ハムスターみたいで可愛いでしょ? じたばた、もがいても、流石に2人ががりには叶わない。熱い。美味しいとかの前にとにかく、熱い。 「や、やめ、み、みず。てはなしてあついうううわああああああああ」 「「叫び声ここちいーね☆」」 壱也の悲劇を救ってくれる勇者は残念ながら、居ない。 ● 頭にがっちりねじり鉢巻。これは定番。 ぶつ切り大きめタコを入れて、華麗にくるんくるん。素晴らしい腕前を見せる御龍が、次に作るのはもんじゃ焼きである。 江戸っ子としては譲れない。小さな鉄板で、丁寧に勝つ迅速に。土手を作って仕上げたそれに、興味を示したフォーチュナに差し出すのはビール。 「響希さんはもんじゃとたこ焼きどっちが好きかなぁ?」 「んー、あたしはたこ焼きかな。御龍ちゃん器用ねえ」 折角だから、ともんじゃも口にしてみながら返る言葉を聞きながら。〆は焼きそばにしよう、なんて思案して。 これだけ出来ても、振舞う男性なんてものが居ないんだけどね、と笑えば、現れた時に困らないでしょ、と笑う声。 その横では、亘が鼻歌を奏でながら業務用の鉄板の前に立つ。 普段は小さい家庭用でやっていたから、今日は折角の機会。大きな業務用で一杯作って食べるのだ。 生地をさっと流して、じゅーじゅー。広がる、美味しそうな匂い。 続いてたこをひょいひょいっと入れて、少し待って。 くるっくるっ。鼻歌交じりに回していたら、気付けば作りすぎてしまった事に気がついて。 嗚呼、これ、如何したものだろうかと思ったけれど、すぐ隣に居る響希の姿。 「響希さーん宜しければ一緒にたこ焼きを食べませんか?」 「え、あ、うん。お邪魔して良いの?」 雑談でもしながら、と言う誘いに笑顔で応じた彼女に差し出すのは、愛情たっぷり、自分の作ったとっておき。 串を刺して、一口。ドキドキしつつその様子を眺めていれば、美味しい、と緩む顔に安堵の吐息を漏らした。 「……ん、美味しい。これ全部食べていいの?」 「お褒め頂き光栄です」 それでもまだまだ、たこ焼きは余ってしまうけど。持って帰って、仲間と食べるのも良いかも知れない。 2人で囲む鉄板。手早く、随分と慣れた手つきでたこ焼きを作っていく腕鍛を横目に、リリは酷く緊張した表情で自分の目の前の生地を見つめる。 見た目より、全然難しい。彼はとても器用だなぁ、と改めて感じて。折角だから、とその作業を見つめる。 リリが食べられなかった時の為に、タコだけではなくホタテの貝柱や、チーズを入れたものを作ってみて。 「これで大丈夫でござるな」 やりきった、と言いたげな顔。彼女の尊敬の眼差しが、少しだけ擽ったい。 実は、こっそり前日の夜に練習したのだ。大好きな彼女に、格好悪いところなんて見せられないから。 出来るようになるまで頑張ったせいで、少しだけ眠いけれど。リリの笑顔が見られたなら、その苦労も何処へやら。 出来上がったそれを、熱さに苦戦しながら少しずつ。タコも、貝柱やチーズもすごく、美味しくて。 すごい、と褒めれば気恥ずかしげに返る声。それに少しだけ笑って。 「私のは……すごく申し訳ない出来ですが、ど、どうぞ」 「うん、リリ殿が作ったからおいしいでござるな」 満面の笑みに、ふわり、温かくなる心。有難う御座います、と囁くように返して。リリは胸元を押さえる。 今度何か作る事があったなら。今度こそ、しっかりとしたものを食べて貰いたい。 頑張ろう、と胸に誓った。もっと喜ぶ顔を見る、その為に。 「……それでは作ってみるか」 身支度を整えて。たこ焼き作りに望まん、とするのは拓真。 その横に並ぶ悠月は、興味深げにその鉄板を眺める。 そう言えば、見た事はあるけれど、食べた事は無かったような気がする。 「そういえば、悠月はたこ焼きを作った事はあったのか?」 油を敷いた鉄板に種を注いで。手早くたこやネギなどの具を投入した拓真がちらりと振り向く。 悠月にも、美味しい物をご馳走してやりたいからこそ。少しだけ真剣に手元を見つめる彼へ、微かに首を傾けた悠月は見よう見真似で種を流していく。 「たこ焼きは……無いですね、作った事は」 時折、自分に指南する声は的確で。彼自身は、一体誰からこの作り方を教わったのだろうか。 程なく、出来あがるたこ焼き。綺麗に出来たのは拓真のお陰だ、と悠月が微笑めば、満足げに頷く拓真。 「それでは、いただきます」 2人で手を合わせて。ゆっくりと味わってみる。 香ばしいソースの香り。悠月の顔が、ふわりと綻ぶ。 「……ん、美味しいな。悠月はどうだ?」 「これは……とても美味しいです」 微笑みを交わす。これなら、何時か家で作るのも良いかも知れない。そんな、先の話を少しだけ考えて。 穏やかな食事の時間は、流れていく。 ● あつあつのたこ焼きは、とても美味しい。 漂う香ばしい香りに目を細めながら、那雪はアボカドとチーズを程よい大きさに刻んでいく。 タコ以外も入れて良いのなら、この組み合わせはきっと美味しい筈だ。 くるくる、回して。とろけるチーズを閉じ込めたそれを、皿に取る。 「お試しに少し、作ってみたの……味見、してみない?」 本当なら、自分で味見してからが良いのだろうけど。こういうのは熱い内が良いだろうから。 そう、控えめに差し出した皿を受け取った狩生は、礼と共に口に運ぶ。 「……良い組み合わせですね、濃厚で、非常に美味しい」 君の料理の腕は流石ですね。そんな微笑みに、冷ましながら食べていた那雪の表情が少しだけ緩む。 「チーズ溶けて、とろとろで、美味しいの……あ、冷たいお水いる……?」 やけどは危ないから。と、差し出すグラスを受け取る。 誰かと食事を楽しむ、と言うのは、とてもいいものだ。食べる、と言う事が楽しい事に変わってくれる。 「……狩生さんは、普段は一人でご飯が、おおいのかしら……?」 自分は普段面倒、では無く、うっかり抜いてしまう事が多いのだけれど。そう付け加えれば、少しだけ考えるように視線が下がって。 「そうですね、1人が多いですし、……君と同じで、うっかりも多い」 困ったものですね。くすり、笑う声。楽しげに談笑する2人の少し前。 始めてのたこ焼き作成、コツを掴む為にも、と皆の腕前を眺めていたよもぎは、青年の姿に踵を返しかけ、けれど足を止める。 「……やあ、狩生君」 思わず踵を返しかけたのは、何時かの会話で思い当たる事があったからこそ。マイナスなものでは、無いのだけれど。 どうも、と返った挨拶。視線を合わせて、首を傾ける。 「なぜか逃げ腰になってしまったけれど、そうだね、座りながらたこ焼きの話でもしないかい?」 「ええ、宜しければ君も作ってみませんか」 そんな誘いのまま、生地を流す。狩生は得意なのか、と尋ねれば、人並みですよ、と声が返る。 くるり、回そうとするけれど。何故だか回ってくれなくて。どんどん、崩れていく形。 一瞬、沈黙。いや、難解なものだ、と聞いては居たけれど、まさか此処までとは。 「前に出先で絵を描いた時もそうだったけれど、もしかして私は不器用なんだろうか……」 少し深刻な声。目の前には、スクランブルエッグ状態のたこ焼きだったもの。 「得手不得手は誰にでもあるものですしね、……気にする事は無いでしょう」 す、と串を伸ばして、何とか形を整えたそれを、青年は皿に乗せる。たこ焼きも中々難しいものだ。 今日は、仮面を外して。付けているのは包帯だけ。 少しだけ緊張したけれど、深呼吸で飲み込んだ。大丈夫、周りに居るのは他人ではなくて、同じアークの仲間なのだ。 紅麗がフォーチュナに声をかければ、返るのは笑顔。 「また遊びに来てくれてありがと、たこ焼きは得意?」 また一緒の時間を過ごしたい、なんて想いはそっと胸に仕舞って置く。迷惑をかけるのは、怖いから。 あまり得意ではない、と首を振りながらも、とりあえずは順序良く。生地を流して、具を入れて。 くるり、と回そうとするのだけれど。 「はは……見よう見まねじゃやっぱりダメ……か」 上手に出来なかったそれを、苦笑交じりに何とか形にしていく。仕上がったものは、面白そうに眺めていたフォーチュナの前。 ぱちり、と驚いた様に瞬く瞳。それからぎこちなく、目を逸らして。 「どうぞ……。チーズ入りのたこ焼き……」 「え、良いの? ……美味しいわよねえ、チーズ入り。あたし結構好きなの」 自分の一番好きなたこ焼きの中身だ、と言いながら添えられたマヨネーズを珍しげに見つめて。 一口。美味しい、と浮かぶ笑顔。その笑顔に微笑み返して、紅麗もそっと皿に取ったたこ焼きを口に運ぶ。 「今日も楽しい時間を有難う……美味しく食べてもらえたなら、俺も嬉しい……」 こっちこそ有難う。そんな声は、油の跳ねる美味しそうな音に消えていく。 小さい鉄板を一つ。猛に誘われてやってきたリセリアは、食べた事の無いそれに興味深げに目を向ける。 「……結構綺麗に丸くするのが難しいって聞くが、どうなんだろうな?」 流した生地と、たっぷりの具。それをじっと見つめる猛と同じく、リセリアも首を捻るばかり。 丸く、と言うことはひっくり返すのが難しいのだろうか。経験していないと全く分からない事ばかりである。 「そろそろ、かな? あ、リセリアはそっち半分頼む」 「判りました。それじゃあ……ええと……あ」 くるり。合図に従って2人一緒に回したたこ焼きはしかし、上手く行かずに崩れてしまう。 なら、こんな感じなのだろうか。試行錯誤を重ねて、何度も何度も。 それはやっぱり中々上手くいかなかったけれど。何とか、たこ焼きの形にしていく。 「味は悪くないな。あ、リセリアの作った奴も食べて良いか?」 「美味しいですけど、うまくできたらもっと美味しいのかな……あ、いいですよ」 出来上がったそれは、形は悪かったけれど。頼まれるまま差し出されたそれを、ぱくり。 漏れたのは、幸せそうな笑み。 「……ん、こっちのがやっぱ美味しいな。リセリアが作った事がポイントが高い」 本当に美味しい、と言わんばかりの笑顔に、思わずつられてしまう。 こんなに喜んでくれるなら、次は、もうちょっとだけ上手く作れるように頑張ろうか。 「えっと……ありがとう」 そんな、目標を持ちつつ。二人で作ったたこ焼きは、あっと言う間に空になっていく。 ● イカ、タコ、エビ、カニ、イソギンチャクとナマコ、そしてメイド。 和気藹々としつつも何かもう明らかに可笑しい空気が漂うそこでは、何故か火花が散っていた。 タコヤケルノミコト(竜一)は、激怒した。 イカしたイカの格好全体に怒りを漲らせていた。 たこ焼きパーティ。それはイカんと思い立ってやってきた訳だった。 何かイカん? そんな事は字面で分かって欲しい。 タコなのだ。 そう。 タ コ な の だ ! 大事な事なので二回言った。 タコヤケルノミコトと言う名のイカは、タコがこれ以上大きな面をするのがイカんとイカりに震えていたのであった。 しかし、それを遮るように現れるのは、タコヤブヤケタ(フツ)。 べっ別に、反対から読もうなんて思ってないんだからね! ちょっと惜しいとか思ってないんだからね!!(棒) 目の前のイカを睨み据える。 タコの名を冠しながらイカの格好をするだけでも筆舌尽くしがたいのだが、更にイカしている。まさにイカんの意である。 此の侭では、後ろのイソギンチャクやカニ、エビさえもイカしたイカになってしまう。 それが何よりこまっタコとなのだ! 火花が散る。今日のタコヤ(以下:イカ)のミッションはただひとつ。たこ焼きを全ていや焼きにすることなのだ! 「イカれてるって? ゲーソゲソゲソっ! 褒め言葉さ」 ぽいぽいっ、一生懸命焼いているたこ焼きに、放り込まれるイカ。嗚呼、なんということでしょう! 匠の華麗なイカ裁きで、たこ焼きは、イカたこ焼きへと変わったのです! ぐぐ、と詰まるタコヤ(イカ:タコ)。こうなれば武力行使…… 「タコさんもイカさんも、仲良くですよ」 其処に響く天の声。カニオーウェンと仲良くたこ焼きを焼いていたエビミリィが仲裁に入る。 タコの代わりにエビ焼き作ってる彼女も、タコからしたら粛清の対象じゃないのだろうか。そうでもないらしい。 って言うか、何か自分達のところだけ可笑しな空気漂ってないだろうか。具体的に言うと海。海の空気。磯の香りだぜ。 一体誰がこんな格好でたこ焼きパーティしようとか言い出したのか! ……はい、自分達でした。 仲良く、と言われてしまった事だし、平和的な解決をしようじゃあないか。 「カ焼きを尽く食らってくれる! ハムハフフフ!!」 これは、タコとは違ったイカの歯ごたえが、実に良いアクセントになっている。 ばくばく。食べまくる。それを見てどや顔のイカ。自分こそ海産物界の頂点。キングオブ海産物。 「イイ感じにイカが焼ければ、イカに名物たこ焼きといえど俺の前に屈するであろう」 「……ふぅ、それ見タコとか! イカなどこの程度!」 一歩も譲らない名勝負と言う名のただのたこ焼きつまみ食いはしかし、遂に終わりを迎える。 そう、後ろから伸びてきた…… 「――その様な事をするより、たこ焼きを食べてはどうかね」 カニオーウェンのハサミマジックハンドによって! さすが策士。ばっちり改造済みで手も自在に動かせる着ぐるみの、堂々たる風格。其処に痺れる憧れる! そんな策士カニが示す先にあるのは、美味しそうに焼けたたこ焼き、に見せかけたトラップ焼き。 ネギ+チョコ、ぱんぱんのタバスコ、サワークリーム+レモン汁。 今日のお勧めラインナップ、こんな感じです。 端の方でこっそり作ったつまみ食い撃退用のそれで、イカもタコも仲良く悶絶したのはこの後の話である。 うねうねうねうねうねうね。全力で身体をくねくねさせて触手を動かすのはイソギンチャクミーノ。 いいにおい。いっぱいがんばったし、美味しいたこ焼き食べたいのに、残念ながらこの衣装では食事も満足に取れないのだ。 ならば、仕方ない。 \たこやきさんたこやきさんミーノのくちまでとんできてっ/ ぽかり、開ける口。誰かが食べさせてくれるのを待っている。只管待っている。 「あ、ミーノさん、あーんしてあげるのです」 熱いから気をつけて。そうやって渡されたそれをもぐもぐ。表情が緩む。 おいしい! おかかとまよたっぷりだと尚美味しい。 舌鼓を打つ彼女へと、次に差し出されるのはリュミエールのたこ焼き。 見た目こそ一緒だけれど、一味唐辛子がたっぷり盛られているそれを口にして、吃驚。 「ひゃああからいのっ、これからいの~」 うねうねうね。激しく動くそれに笑って、今度は普通のたこ焼きを渡す。 美味しいし、お腹一杯。眠たくなった彼女を支えながら、リュミエールもたこ焼きを摘む。 「しかしたこ焼き以外のって微妙に詐欺ダヨナ」 ラジヲ焼きとかもその部類かもしれない。そう言えばそんなのあったなぁ、何て思い返す。 ナマコ禅次郎は常々疑問に思っていた。 ロシアンたこ焼きって、何で辛いのしかないのだろうか。 別に辛いだけではなく、激酸っぱいとか激甘とか激苦とかあっても良いんじゃなかろうか。 と、言うわけで。 ブート・ジョロキアとか。カカオ100%チョコとか。あんこ+サッカリンとか。梅干とか。あ、最後は美味しそう。 そんな感じのを仕込んで置く。 「勿論、俺は普通のタコ焼きを食べる……ん!?」 少々お花畑の映像でお送りいたします。ご愁傷様です。 そんな感じで、作るものが居れば当然、食べるものも居る。 作っている人や、食べる人たちの様子をデジカメで収めながら。エリスも普通のたこ焼きの味を楽しんでいた。 美味しい物を食べたら、皆笑顔になるだろうから。その笑顔を撮りたいと望む彼女もまた、少しだけ表情が緩む。 「いつか……その写真を……見て……楽しい……思い出を……再び……感じられるように」 幾つも、残して行けたらと思うのだ。 その横ではアルトリアが、食べる専門で座っていた。焼かないのか? 上手く焼けた試しが無いのだ。無理だ。 焼いてくれる人はたくさん居るのだから。それに感謝しながら食べようじゃないか。 「……うむ、美味い。小麦粉を用いたこういう食事は日本ならでは、だな」 こういうものを甘く作らないところが実によいのだ。甘く作ってしまえば菓子だが、これなら立派な食事になる。 その間にもどんどん、その手は皿を空にしていく。どんどん、焼いてくれれば良い。どんどん食べよう。 「何、食材が尽きるまではしっかり頂くぞ?」 この胃袋、やっぱり底無しである。 タコ怖いタコ恐いタコ怖いタコ恐いタコ怖いタコ恐いタコタコ怖いタコ恐いタコ怖いタコ恐い怖いタコ恐い(ry) メイド魅零は、恐怖していた。だって骨無いじゃん。中身は骨と肉じゃないじゃん。寧ろ肉(?)だけじゃん。 もういっそ斬ってやる。串を叩き付ける。むにり。 「ああああああああ変なもん斬っちゃったあああああああ」 「魅零さんも食べてますかー? ……って分解されてます!?」 まじメイド服が台無しです。そもそも海じゃありませんね。そんな彼女を気遣ったのは、冷たい麦茶片手に熱いたこ焼きを楽しんでいた流だった。 皆のコスプレ、と言うかフツのコスプレが見れて大満足の彼女的に、タコを食べないのは非常に勿体無いのだ。 残った方は何て呼べばいいんだ。焼きか。焼きなのか。でも、まぁ、そんな楽しみ方もあり、なのかも知れない。 「ふふっ、じゃあ、うちの「焼き」と魅零さんのタコを交換しましょうか」 ちょっと行儀が悪いけれど、今日くらいは。そう言って差し出された焼きの代わりに、タコを貰う。 ありがと、とお礼を告げた魅零はしかし、生地に残った赤色に眉を寄せた。うう、気持ち悪い……。 「黄桜にとっては精神的にくるイベントだね」 まあ悪くは無いけどね。そんな呟きは小さく。 大変賑やかな海産物パーティーは、まだまだ終わらない。 あ、でもとりあえずタコなんて滅べ。 ● そんな楽しげな海産物集団から、割と離れた位置。 お兄ちゃんへの愛のまなざしと言う名のイーグルアイでしっかり見つめながら。虎美は、たこ焼きを焼こうとしていた。 「すごく楽しそうだけど私といるから楽しそうなんだよね、お兄ちゃん?」 怖いです。ヤンデレブラコンまじ、怖いです。 たこ焼きやった事あるのかって? お兄ちゃんへの愛があれば出来るよ! 最高のスパイスとも言うし! ……ほら、一応ちゃんとは出来たよ。味もそこそこ、かな? はい、あーん……え、虎美の方が食べたいって? 駄目だよ、こんなところでお兄ちゃん……そう言うのはお家に帰ってから、ね? いつもみたいに一緒にお風呂入ってから、かな。 そしたら思う存分イチャイチャしようね ――エロ同人みたいに! そう、エロ同人みたいに! お兄ちゃん、好きだもんね 私、わかってる。だから……いいよ。 凄まじい脳内ワールドに勝てなかったのでほぼ原文ママ採用させて頂きました。 誰も居ない空間に微笑む虎美。勿論、ブレインインラヴァーはばっちりです。 誰かが焼いてくれたたこ焼き片手に、伊藤がやってきたのは、漆黒の青年の下。 「隣座って良い?」 「ええ、どうぞ」 短く交わされた言葉。黙々と食べ続ける伊藤と、それを眺める青年。 少しだけ、落ちる沈黙を破ったのは、やはり伊藤で。 「タコヤキは紀元前700年の印度で王への供物として作られたのが始まりなんだよ」 嘘だけど。 そんな付け足しに、驚いた様に瞬きした青年はしかし、すぐに面白そうに目を細める。 面白いですね、と呟けば、伊藤の瞳が真っ直ぐに青年を見上げた。 「ねぇ凄い長生きってホント?」 ええ、と頷かれれば、何だかとても不思議な感覚に陥る。自分の3倍以上も生きている、なんて言われても、とても想像がつかなかった。 だって、見た目は殆ど変わらない。でも、長生きだって言うのなら。 「あのね、今まで食べたモノで一番美味しかったのなに?」 「……そうですね、思い返すには少々遠いですが……やはり、この様に親しい方とした食事、だったでしょうか」 君は? 問いかける言葉。 今まさに記録更新中なのだ。みんなで食べるご飯は、本当に美味しい。そんな答えを返して、伊藤は手の中に収めたたこ焼きの皿を差し出す。 「一つ食べる? 僕にとって今まで食べたモノで一番美味しかったモノ」 頂きましょう、と笑う顔。熱いから冷まそう、と息を吹きかけたら、一気に吹き上がる青海苔。目が、目が! 何て巧妙な罠なんだろうか。慌てて目を洗いにいこうとして、ふと、立ち止まる。 「あ、言い忘れてた。僕伊藤」 友達になってくれたら、嬉しい。そんな声と共に差し出される手。青年は少しだけ微笑んで。 「……よろしくお願いします、……伊藤さん、とお呼びするべきだったでしょうか」 そんな事を本部で聞いた様な。そんな問いに頷いて、交わされる握手。 また遊ぼう。そんな声に返るのは勿論、是非と言う肯定だ。 ● 小さめの鉄板をはさんで向かい合い。ガーネット兄妹は、2人でたこパを楽しんでいた。 たこ焼きとはお店で買うものであって、自分で作るものなんて認識は無かったから。 こんな風に皆で作りながら食べると言う光景は、レイチェルにとっては少し不思議なものだった。 「確かに関西圏の人間じゃないと馴染みの薄いモノだよな……ここをこうやって、くるっとな」 随分手馴れた様子のエルヴィンの手元で、くるり。たこ焼きが回る。 見よう見真似でつんつん、くるり。中々上手くいったそれを見つめながら、レイチェルは首を傾ける。 「あれ、意外と兄さんは手馴れてるんだね?」 「ああ、昔教えてもらったんだよ。……元カノにな」 そんな事だろうと思った。溜息交じりの声。少しだけ沈黙が、落ちる。 ぱちぱち、油の跳ねる音を聞きながら。ぎこちなく、口を開いたのはレイチェルだった。 「あのさ、ちょっと変なこと聞いてみるんだけど」 「なんだ、俺に答えられる事なら?」 お茶を飲みながら、問い返す。また、落ちる沈黙。 言おうとして、けれどどうしても出て来なくて。仕上がったたこ焼きの上で踊る鰹節を、じっと見つめて。 「男の人を落とす方法って、知ってる? ……って、そんなに動揺しなくても!」 げほごほ。文字通り変な質問に、力一杯お茶をのどに詰まらせたエルヴィンは、必死に息を整える。 うん。ちょっと待とう。ちょっとだけ。うん。 「OK、どうしてソレを俺に聞こうと思ったんだ……?」 百戦錬磨のお兄ちゃんでも、流石に妹の衝撃発言のダメージは中々だったようで。 ぎこちなく、片思い中なんだけど、と紡がれた言葉に、嗚呼、と納得する。 「どうも女の子として意識してもらえてない感じで。そこを変えるには、どうすればいいかな、って……」 自信なさげに、小さくなっていく声。それに少しだけ微笑ましげに表情を変えて。 エルヴィンの串が、たこ焼きを突く。 「要は恋愛相談だろ。……自覚無いようだが、じわじわと関係は進んでるだろ」 今はちょっとずつ、変化していくところだ。焦るところではない。ゆっくり、いけばいい。 そんな言葉に頷くレイチェルに、エルヴィンは仕方ないな、と笑う。 まあ、ひとつアドバイスをするとするなら。 「好きだって、はっきりと伝える事だ。想いと覚悟を、言葉にして」 そうしなければ、何一つ変わらないのだ。変わらない事は優しいけれど、それ以上の先も無い。 がんばれよ、と言う優しい声。なんて言えば良いか、分からなくて。 「……うん、ありがと」 がんばってみる。小さく呟いた言葉は、兄にだけ聞こえていた。 たまにはフランクなものも良いだろう。そんな誘いと共に雷音は雷慈慟をたこパへと連れてきていた。 やった事の無いらしい彼の為に、雷音は腕を振るう。折角だ、一緒にやるのも楽しいかもしれない。 その提案を了承して。2人で作り始めるたこ焼き。 ふつふつ、あわ立つ表面。これは、転がせば良いのだろうか。そう問えば、こうしてくるっと、と見せてくれる手本。 「調理はした事が無いので中々……むっ、崩れてしまった……」 硬い表情が少しだけ、残念そうに見えて。実は不器用さんなのか、と、可愛らしい新たな一面に少しだけ、笑ってしまった。 その間にも、雷音の手は止まらない。外はカリッ、中はトロッ。見事に焼き上げたそれを雷慈慟へ。 「あついのでふーふーして食べるのだぞ!」 やけどをしないように。そんな気遣いも頷けるほどそれは熱そうで。 しっかり冷まして、一口。じーっと見つめる視線に気付きながらも、黙々と口にする。非常に熱い……! 「ハフ……ッなるほど グ……ッ! 食感にこれ程差が出るモノとは……!」 「よかったです……っとよかったのだ! うむ」 他にも、ネギを乗せたり、塩ポン酢で食べるのも美味しいのだ、と教えていく。 その様子に、雷慈慟の心を過ぎるのは、少しの懐かしさ。 1人ではなく2人。多人数で食卓を囲むと言うのは、こうも食事を美味しく変えるものなのだろうか。 そして、自分の調理不手際に比べて、雷音は流石に女性。 「うん 美味いモノだな」 少し優しい声に、緩む表情。 もっと色んな味を楽しんでもらえると嬉しい。そう思って次々に差し出しながら、ふと。雷音は手を止める。 「一緒に来てくれて嬉しいのだ。いつもありがとうだぞ」 「此方こそ 感謝する」 互いに交わす礼。またこんな風に食卓を囲むのも、悪くは無いかもしれない。 ● 「それにしても、本当に粉モノ好きね」 焼くのも得意なのかしら、とティアリアが尋ねれば、たこ焼きはそんなに、と笑う声。 焼けるのなら焼いて欲しいけれど、駄目なら自分が焼こう。何時もとは違って少し自信なさげな様子に、誘われた響希は面白そうに笑った。 「大丈夫大丈夫、今日はほら、あたしにやらせてよ」 タコ以外のも作りましょうか、そんな事を言いながら、それなりに悪くはない手つきでくるくる。 特別綺麗ではないけれど、まあるく仕上げていくそれを眺めながら、ティアリアは興味深げに首を捻った。 「にしても、たこパなんて良く考えたわね」 こういうのは焼いてからゆっくり食べるのが主じゃないだろうか。焼きながら食べる粉モノは、ティアリアにとって初めてで。 これもまた悪くは無い、と頬杖をついた。 差し出されたたこ焼きには、たっぷりのソースとマヨネーズ、鰹節に青海苔。 「どーぞ。……お口に合えばいいけど」 二人並んで、いただきます。美味しい物を食べる時に、難しい事は要らない。 舌鼓を打ちながら雑談。楽しげに笑い交わして。 「お誘いありがとう、響希。折角だから目一杯楽しみましょうね」 まだまだいけるでしょう? そんな問いに、勿論! と弾んだ声。 2人の話はまだまだ、終わらない。 祖母の家に行く度に焼いていたから。お好み焼きの時のアレを挽回する為に、今回こそ美味しく焼いてみせる。 そう、心を決めた木蓮は、龍治の目の前で手早く生地を流し込む。 「具は……そうだ、食うまで何が入ってるかわからない感じにしようか」 蛸メインに、チーズ、桜海老、ベーコン、コンニャク、天かす、イカ。各自別々に放り込んでいく。 そういえば、明太子やキムチも美味しいらしい。自分未体験だけれど、折角だから。 生き生きと調理を進める彼女の前。 全く迂闊な商売主も居たものだ。木蓮に作成を一任した龍治は、ぼんやりと思う。 まあ、こうやって消費出来ているから結果オーライと言う奴ではあるのだろうが。 くるり、回るたこ焼き。お好み焼きの時は何とも言えない腕前を披露していたが、此方は心得がある、と言うのも頷ける。 ロシアンたこ焼きらしいが、まぁ旨ければ無問題である。 「……ふむ、期待は出来そうだな」 並ぶ食材的にも、木蓮の腕前的にも。そんな事を考えているうちに、差し出される第一号。 「ほら、完成! 第一号は龍治にあげるぞ、出来立ては熱いから気をつけてな?」 「む、そんなものなのか……っ」 話半分。ぱくり、と口にした瞬間。あまりの熱さに、ぶわっと逆立つ尻尾。無言で悶絶。熱い。これは熱すぎる。 痛む口の中を何とかしようと酒に手を伸ばして一気に。漸く通り過ぎた熱さに、深々と息をついた。 「……う、うむ、気を付けるとする」 そんな様子に、くすりと笑って。木蓮も仕上がった一個を口に運ぶ。 熱さと一緒に広がる、辛味。キムチだ! 「へへー、たまにゃこういう変わり種も楽しいな!」 ぴりっと辛い味も、中々いいアクセントだ。上機嫌な彼女に、龍治も少しだけ、笑みを浮かべる。 普通のものも勿論旨いが、これもまた、良いものだ。 今度は家でも作らせよう、そんな事を思いながら、流し込む酒の味も何時もよりずっと、いいものに思えた。 大量にあった材料も気付けば底をついていた。 お腹一杯。満足行くまで食べ切ったリベリスタ達も、ばらばらと帰路についていく。 外は完全に夜の気配。これから、飲みなおす者も居るのだろうか。 一日限りのたこパは、大盛況の内に終わりを迎えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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