● ――ほら、あれを見てごらんよ。 僕に縁無しの眼鏡を渡し、強引にかけさせた少女は、そう言って一人の男を指差した。 その時までは、単に面倒くさいとだけ思っていたんだ。 僕がその少女と出会ったのは、通っている中学校からの帰り。 周囲には幾つかのグループに分かれて、下校する制服姿があった。その中にぽつりぽつりと、僕と同様に一人で、家路を急ぐでもなくつまらなそうな顔をして歩いている奴等がいる。 別に親近感を抱くでもなかった。というか、関心がなかった。 だからそんな中で、僕だけがいきなり現れた私服姿の女の子に声をかけられても、何で自分が、としか思わなかった。 「ねえ、そこの君。つまらなそうな顔をしてるね」 年恰好は僕と同じくらいだろうか。でも、同級生の女子と比べると格段に垢抜けていた。 所謂女の子らしい格好をしている訳じゃなく、パーカーに迷彩のハーフパンツ、スニーカーという出で立ち。フードから覗く髪の毛もボーイッシュなショートだったけれど。薄化粧でもしてるんだろうか。 とにかく、そんな感じだった。 僕は声には出さなかったけど、大きなお世話だという気持ちを視線に込めて一瞥だけし、彼女の前を通り過ぎようとする。だけど今度は、その子は僕の肩を掴んできた。 「ごめんごめんって。ちょっといきなり失礼だったかなー」 周囲の制服姿から、視線が僕に集まるのを感じる。ひどく居心地が悪い。 「少し面白い物見せてあげようと思ってさ、あんまり時間は取らせないから、ついて来てくれる?」 だから僕は、その場から逃れるためだけに少女の言葉に従った。 それで見せられたのが、半身が機械に覆われた男の姿。 これが面白い? いや、単なる冗談やコスプレなら笑って済ませられたのかもしれないけど。 それは何食わぬ顔をして雑踏に紛れていて、少女から渡された眼鏡をかけないとただの地味なスーツ姿のおっさんにしか見えない。 笑える筈が無いだろう。 「なんだよ……あれ」 やや上擦った声で言う。少女は僕の隣でくすくすと笑っていた。 しかし不意に真剣な顔になって、囁いて来る。 「びっくりした? この世界にはね、ああいうバケモノが沢山紛れ込んでいるんだよ」 「沢山……なんで、何のために」 少女は察しが悪いと言うように笑う。 「何のためにって、決まってるじゃないか。バケモノが人の中に紛れ込んで何をしてるかなんて」 背筋が寒くなる。 「見せてあげてもいい。丁度、あいつは近くで一仕事終えてきた所だからね。 でもそれより前に……きみはなんで、あたしがきみにこんな事を教えるのかって思ってるでしょ」 それは、仲間になって欲しいからだと彼女は言った。 「仲、間……?」 「そう。あいつらを狩り出す仲間に。あたしたちにはそのための武器がある。さっき渡した眼鏡もその一つ。 でも、まだ人数が少ないんだ」 「殺すのか……あいつらを、見つけ出して」 そこまでを言って、僕はそれ以上の言葉が絞り出せなくなっていた。 口の中がからからに乾いている。世界は僕とその女の子二人しか居なくなったかのように、しんと静まり返っていた。 そして、少女はくすりと笑う。 「……そっか。ま、ゆっくり考えてよ。また来るから。……君の近くに危険が及ばないよう、気をつけて」 「待っ――!」 辺りを見回す。車や人の立てる騒音は、いつしか戻って来ていた。 少女の姿は消えていた。そして、僕の手の中には彼女から渡された眼鏡だけが残った。 ● 「さて……依頼よ」 『硝子の城壁』八重垣・泪(nBNE000221)はいつも通りの言葉でリベリスタ達を迎える。 「今回の依頼はアーティファクトの回収。だけど、ちょっと厄介な事になっているわ」 絡んでいるのは黄泉ヶ辻派のフィクサードである。 彼女は一般人に破界器を配り――ここからが重要なのだが、それによるE能力者狩りを促している。 「アーティファクト名は『妖精眼』。使用者に幻想殺しに似た能力を付与し、これを装備している間は隠蔽系の能力がほぼ通用しなくなる。これと『魔女狩り弓』と呼ばれるリピーターボウ型アーティファクトがセットとなっているんだけれど、こちらは正式に仲間になった相手にしか配っていないようね」 「……いかれてやがる」 僅かな沈黙を挟み、リベリスタの一人が吐き捨てた言葉に、泪は苦笑する。 「そうね。この作戦で被害を被るのはリベリスタだけじゃないでしょう。そもそもフィクサードには神秘を秘匿するような意識は薄いとは言え、ね。……混乱さえ起こせれば、後はどうなっても構わないのかしら」 だが、それだけに、これを放置した場合に起こる状況は深刻であった。 迅速な対処をしなければならない。 「さて、今回察知できたのは、フィクサードがある男子中学生に接触する場面。付近には既に彼女の仲間となった少年達が2名伏せられているらしいわ。理想を言えば全員の撃破と破界器回収をお願いしたい所なのだけど、フィクサードにとってこの一般人達は完全に捨てゴマ。故に殲滅は難しいでしょう」 「だが、アーティファクトを所持してるとは言ったって、所詮一般人なんだろう?」 「いいえ。そこそこの……フェーズ2ノーフェイス程度の戦闘力は持っていると思って良い」 泪の言葉にリベリスタ達は言葉を失う。 「このアーティファクト――『魔女狩り弓』はね、一般人にしか使えない。 一般人がエリューションを狩るためだけに作られた破界器なのよ。無名な付与術士が作った量産型とは言え、その身体能力増強効果は常識を越えている……決して、油断をしないで」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:RM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月25日(火)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 路地には未だ、下校途中の制服姿がまばらに存在していた。 空はやや灰色がかる程度の頃合である。駅へと向かう高校制服達の中で、一人だけ。 中学校の制服を着た少年が人の流れに逆らい、そこから離れつつあった。 「さぁて、素直に渡してくれればいいんだけどね」 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)の千里眼は、破界器を渡された少年――相馬・亮の姿を捉える。 亮の足取りは辺りが見えているのかどうか、怪しいものであった。顔を蒼褪めさせ、手の中に握った眼鏡に視線を落としながらゆっくりと歩いている。常時それをかけたままである勇気は無いのか、それとも単に考え付かないだけか。それは後者であるように思えた。 「……フィクサード達の所在はどうでしょうか」 「ああ、そっちも三人とも視えたよ。すぐに接触してくれて良かった」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)の言葉に応える葬識。 黄泉ヶ辻派のフィクサード、尸土・綾香は、亮と別れて後すぐに仲間に引き入れた少年達と一度合流をおこなっていたのだ。 「どう見る?」 「頻繁に手綱を取る必要があるのかもな。ま、扱い辛いだろうってのは分かるさ」 『墓守』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)の応えを聞き、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は表情に浮かぶ不機嫌さを強めていた。 「魔女狩りか……」 葬識はひそかに含み笑う。17世紀の風習を、今このご時世にとは。 「異能があるとわかりゃ排斥される。外見さえも違うなら尚の事。故に俺等は神秘を秘匿しなけりゃならない。アークへ来た時にも真っ先に言われた事だがな」 「やれやれだね、本物の魔女は俺様ちゃんたちなんかよりずっとずっと質悪いのに……」 そう言えば、『その頃』から生きている真正の魔女は、今アークに何食わぬ顔で転がり込んでいるのであったか。今回回収する破界器を作成したのが付与術士――E能力者(こちら)側の人間という事も考え合せ、それで狩られるのは結局のところ魔女ではない、という事なのかもしれない。 「戦える奴が増えるのは悪かない」 影継は吐き捨てるように呟いた。 「けど一般人が革醒した人類を識り、対抗できる力があれば襲うのなら―― そんな連中を守る価値なんて、本当にあるのかよ?」 「待て、それは……」 口を開く『黄昏の魔女・フレイヤ』田中 良子(BNE003555)。 辿り着きかけた思考であった。異形、異能に対する嫉妬や恐怖は分からないではない。 しかし短絡的に、理解出来ないものは壊そうというのは、あまりに。 「……あっしは別に、如何でも構いませんがね」 ぶらりと進み出た『√3』一条・玄弥(BNE003422)はそう告げる。 「こいつぁただの仕事でさ。ご丁寧に生死不問とまで言って下さってる……って事ぁ、そういうこって」 表情には普段と何も変わる所はなかった。玄弥はこの一言で、益体も無い会話は終了したと思っているようであった。そして実際その通りに、言葉は途切れる。 「行きましょう。……彼等を、見失う」 アラストールの促しに従い、リベリスタ達は二手に別れ、それぞれの標的を追った。 ● 少年は目の前に立った老人の姿に、ぶつかりそうになってから初めて気付き、はっとその顔を上げた。 「良いお日和で……少し年寄りの話に付き合って頂けませんかのう……?」 『三高平のモーセ』毛瀬・小五郎(BNE003953)は穏やかな笑みで彼の気持ちが収まるのを待ち、ゆっくりと話しかける。何の用件で自分が呼び止められたのか、何についての話であるのか、小五郎が亮の手にある眼鏡を示さなければ察しがつかなかったというのは、彼としても鈍すぎただろうか。 「ひ――」 咄嗟に選んだのはその場からの逃走。 「はいちょっと待った。まずは落ち着いて話を聞こうよ」 しかし何時の間にか、背後へと回っていた葬識はぽん、とその肩を受け止める。 「その眼鏡はかけた方が安心出来るんじゃないかな。何つっても人間、一番怖いのは自分の想像力だしね」 促され、震える手で妖精眼をかける亮。途端、彼の顔に張り付いていた恐怖は剥がれ、呆然とした表情へと変わっていた。 「そう。俺様ちゃんたち、見て分かるような化け物じゃないワケ」 「そして、お主にそれを渡した者……彼女もまた同じであると言って、信じて頂けますかの」 わけがわからないと亮は答える。 小五郎の眉が伏せられ、さもあろうという響きを乗せて、息が吐き出される。 こんな短時間に、二度も自分の信じた世界を破壊されるというのは哀れであった。 「きっとこれから話す事は、にわかには信じ難い事だと思いますじゃ。……しかし、その眼鏡を持っている事は決してお主の未来に良い物を齎しはしない。これだけは伝えなくてはなりませんのですじゃ」 小五郎ははっきりと少年の目を見て、言葉を続ける。 ――しかしよ、さっきの機械野郎、狩らなくて良かったのかね。 塀に寄りかかるようなぞんざいな身の隠し方で、携帯電話を耳にあてる少年一人。 ――さぁ? アイツがやらなくていいってんなら。 その様子を『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)は遠目に見ていた。何処か懐かしいような気がしてくるのは、彼等の態度が嘗て率いていた族連中のそれと近いものを帯びていたからだろうか。 いや、似た物を感じながらも何処か不快であった。今見ている連中には大義名分と力の優位、そして意地の無さから来る驕りが滲んでいる。 初めは恐れから武器を握ったのだろう。 しかし幾度かの勝利は、彼等をその外見のみは一端の、殺人者へと変貌させていた。 「まぁ……よーもロクでもないもん作ったもんだねぇ」 溜息交じりの呟き。 リベリスタ達は標的である三人を観察しながら距離を詰める。 ほどなくして、彼等も此方に気付いたようだった。 とは言え、人とさして変わらない外見を持つ甚内等は彼等の意識にとまりはしない。 ――おっと、見ろよ。山羊ちゃんがこっち来るぜ。 彼等の視線を一手に集めたのは、当然と言うべきか、ノアノアである。 張られた結界によって周囲から人の姿が急速に消えて行く。 付き纏う気配は素人のそれだ。呆れるような吐息を、ノアノアは吐いた。 監視し、尾行している筈が逆に自分達が包囲されつつある事など少年たちは知らないだろう。 尤もその中に混じっているフィクサードについては分からぬが。 果たして、細道へと踏み入った時、少年たちはノアノアの背後にその姿を現す。 同時に動いたのは影継。物質透過により最短で少年たちの後を追っていた彼は、逆側から動いたアラストールとでまさに敵を挟み込んでいた。 へぇ、と唇を歪める尸土に、さほどの動揺も無い。このような形でリベリスタ達が現れる事を読んでいた訳ではないだろうが、もしそんな事があるとすれば、相手はアーク以外にあるまい、といったところか。 事態を把握しきれずうろたえた顔をみせるのは、二人の少年達ばかりであった。 ● 「……俺様ちゃん特に何もする事がなかったってのは、喜ぶべきなのかなぁ」 未だ付いている左手を振りつつ、葬識。 何の事は無い。亮はそのアーティファクトを使い続ければ自分も異形化すると告げられただけで、それを投げ渡して来たのだ。異形の者が世間に存在すると煽られた直後である彼に対しては、その言葉は覿面であった。 「いえ、そんな事はありませんぞ。充分に役に立って頂いたと思いますのじゃ」 無論、根本的な解決となったとは言い難い。しかしこれ以上の始末は、急を要すまい。 小五郎と葬識は、他方へ向かったリベリスタ達が交戦に入った事を知り、そちらへと急いでいた。 「あっちはどうかな。ま、難しいとは思うけどね」 小五郎の言葉を軽く流し、ぺろりと舌を出して、葬識は唇を歪めてみせる。 「こいつら、ぞろぞろと……!」 少年の持つ弩弓から放たれた矢が火炎を纏った。同時にもう一人が腰溜めに弓を構え、射出された矢を覆うように暴風が吹き荒れる。まずは退路を確保しようという算段か。 影継は壁を背にして吹き飛ばされる事を免れる。同時に得物を抜き、眼前に構えた。 死角から忍び寄るのは玄弥。カラーボールを投げるが、これは直前で回避され道路に弾ける。 気付かれていないと思ったのだが、やはり少年たちの身体能力はそこいらの革醒者を凌駕していた。 そう、身体能力に限っては。 「狩られる覚悟があっての狩りやろなぁ~おぃ」 玄弥の声に少年たちは一瞬、怯んだ様子を見せる。未だその爪が自分達に届かないと知り、すぐにその表情はわずかな余裕を帯びていったが。 「でもよ、綾香……こいつら、バケモノじゃないぜ?」 「俺等と同じか? じゃあ何でこっちに攻撃して来るんだよ……」 尸土はくす、と笑っていた。「さぁ」と無責任な言葉を返し、微笑を深める。 「裏切り者かもね。でも大丈夫、さっきのを見た限り、あたし達の方が強いよ」 「……こっちが一般人に迂闊に手出し出来ないと思って、調子に乗りやがって」 吐き捨てる影継。そして注意深く尸土を警戒しながら、アラストールが前に踏み出す。 しかし、彼女は暫し躊躇した。既に引き金を引いた上で意識的に先手を取られ、この上こちらの言葉が彼等に届くだろうか。真実は真実たりえるだろうか。それに逡巡する。 そこに滑りこむようにして響いた一言に、一瞬辺りは凍りついた。 「矢張り君か。『久しぶりだね』。相変わらず健全な青少年達を誑かしているのかい」 ノアノアは尸土を睨んでいた。 笑みを消し、片眉を上げる尸土と同時に、リベリスタ達までもが彼女の方を振り返り見た。 まさか以前に因縁があった訳でもあるまい。ならば何故こんな台詞を。 「何? あたし、あんたの事なんて知らないんだけど」 言い返しながら、尸土の顔には僅かな焦りが浮かんでいた。 当然の如く取り合わず、ノアノアは前進する。 「私はお前を殺したくて生きてきた……この姿の代償、受け取れ」 ● 「お前達は私の姿を見てこう考えている。『見ろ、悪魔だ。三千世界に仇成す者だ』と」 銃撃が頬をかすめる。それを受け流しながらノアノアは続けた。 接近するリベリスタ達に対し、少年は変わらず矢を撃ち続けている。しかしその顔には動揺が色濃かった。 「おい、綾香。本当にあいつの事知らないのか?」 「知らないって言ってるでしょ」 小さな舌打ち。先に撃ったのは失敗だったか。しかし現在、攻撃の矛先は自分にばかり向いており、反撃を行わない訳には行かない。逃げるにもまだ早すぎる。 そんな思考を甚内は読み、口許に薄い笑みを浮かべた。 「――だがそれはどうだろう。もし私のこの姿が君達と同じように『それ』を使いこうなったと聞いたら、 それでも君達は私を悪と指差すかい?」 少年達の視線は己の手へ落ちた。そして再度、尸土へと向く。 「出鱈目よ」 最早この場の主導権が尸土の手から失われたのは明白である。 それを好機として、アラストールは口を開いた。 「貴方達が狩った異形の者……具体的に彼らが何をしていたのか確認はしたのですか?」 「……あ、当たり前だろッ!」 僅かな沈黙はあったものの、すぐに言い返してくる少年に、アラストールは眉をひそめる。 「そ、そうよ。あたし達は確かに、奴等が何をしてるのか見て狩っている!」 「――貴女に話してはいない、フィクサード」 尸土も若干、勢いづいたようだ。成程、リベリスタばかりが被害に遭う訳では無いとフォーチュナは言っていた。先ず見せる物としては、それなりの物を用意したという事か。 だが―― 「彼らと言いました。本当に、全員に対してその行いを確認したのですか」 「……う、うるせぇっ! 化け物は化け物だろうがっ!」 既に大分接近を果たしていた前衛陣をアシッドショットが襲う。切れ味を鈍らせた刃が尸土の持つ二挺拳銃に弾かれ、銃撃と矢弾が勢いを増した。 アラストールは剣を握り直す。最早容赦はすまいと、剣尖を少年の一人に向ける。 甚内は息を吐いていた。 「やれやれ、正攻法の説得は、こりゃ無理っぽいかねぇ」 例え此方の言う事に肯けるものがあったとしても、少年達は既に数名を殺している。 自分達の行いに理が無かった事を受け入れるのは、騙されて人を殺したのを肯定する事に等しい。 この上、戦意を失わせるには彼らの保身を刺激するより他に無いか。 「でもねぇ、尸土ちゃんにとっては君等、単なる捨て駒。実験対象でしかないんよね。一般人を使って都合の悪い同類を消してゆく。そもそも与える物は自分にゃ使えないんだから失う物は何も無い」 そうだ。不思議には思っていた事だった。 何故彼女は、自分達が手に持つ弓を自ら使用しないのか。 「俺ちゃん達見りゃ分かるっしょ? そこの尸土ちゃんも姿こそ人と同じでも、君等がバケモノと呼んで殺して来た奴等と同類。そしてどちらもきっちりと人間なんさ」 少年達の顔色は蒼白となっていた。 対して、尸土の顔はこれまでの焦りを失い、ふてぶてしさを帯びていた。 「それで……結局貴方達、どちらを信じたいの?」 投げ捨てるような呟きであったが、不思議にその声は良く通った。 「ただの人殺しになりたい? それとも化け物狩りの選ばれし勇者? もう、どちらでも構わないけど」 少年達の手から破界器が離れる。乾いた音を立てて道路に転がるそれを眺め、尸土はなおも笑っていた。 ● 「さあ、これでもう面倒は無い! 貴様には言ってやりたい事があったのだ!」 マジックミサイルを放つ良子。難なくそれを避け、両手から火線を閃かせながら、尸土は鼻を鳴らす。 「我と同じ位の年代であろうに薄化粧をしておるとかなんなのだ!」 微妙な空気が流れた。 瞬時、距離を詰める玄弥。跳び転がりながらの斬撃に舌打ちを漏らし、尸土は壁際に追い込まれていた。 「死んでくれるとあっしが嬉しい!」 「生憎と、こんな所で命まで遣う気は無いのよね……」 す、と彼女の背が壁に溶ける。物質透過による、地形を味方につけた逃亡。 しかし同じく壁をすり抜けた影継の腕が、それを阻んでいた。 尸土の顔が驚愕に歪む。敵にも同じ能力を持っている者がいる事を、無論想定しなかった訳では無い。 だが、こいつは今まで一体何処に居た? 「隠れていたって言うの……この時のために」 「そいつは考えすぎだ。偶然、そんな様な事にはなったがな」 そして、尸土は路地へと引き戻される。 待ち構えていたかのように――いや、事実そうなのだろう。甚内の投擲する気糸を絡めつかせた槍が尸土の腹部を穿った。合流していた葬識が、黒く尾を引く大鋏を真上から突き下ろす。 「冗談……きついわね。何なのよこれ、一体……」 鮮血を吐きながら、尸土。力無く笑ったまま、片腕に握る拳銃を振り上げる。 「たかがお遊びで……こんな」 影継は無言でそれを叩き潰していた。地面に張り付き、フィクサードはその動きを止めていた。 後には悲鳴を上げながら逃げてゆく少年二人の声だけが響く。 「……あいつらは殺さなくていいんで?」 追いたげな素振りで言う玄弥。それなりの後処理はあるだろうが、リベリスタ達は首を横に振る。 「しかし、彼等は結局、己の行動そのものに対して疑問を抱いた訳ではなかった、という事か……」 アラストールは硬い声で呟いていた。彼等の手から武器を奪ったのは己が異形に変わるかもしれないという恐怖と、己に武器を渡した者が化け物であったという裏切りの故。 異形狩り自体について過ちを認めた訳では無い。 「ま、仕方無いんじゃねーかな」 ぽつりと、口を開いたのはノアノア。 そしてそれ以外の言葉を誰も見つけられないまま、彼等は少年達の逃げて行った方向を眺めていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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