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<剣林>剣風組 ~蘭下三天王、決闘大活劇!~

●『偽善偽悪』慙膳、『贋作浪人行』鞭膳、『模倣桃弦郷』苦膳。
 某日AM2:00、黒鴉会事務所。
「ここがどこだかわかってんのかテメコラァ!」
 パンチパーマの男が殴りかかる。彼の腕は丸太の様に屈強で、ボディはコンクリートブロックで殴られても平気な顔をするくらいの頑丈さを兼ね備えていた。そもそも彼は生まれてこの方自分より大きい男など見たことが無く、大抵の相手は一撃のもとに葬り去る実力を自慢にしていたのだ。
 現在の相手は紋付き袴の男。大柄と言うわけでもなく、無駄に刀を逆手に持って、片肌脱ぎにした上半身からはサラシが覗いている。顔は半分以上火傷に覆われていてインパクトがあるが、殴って潰れない身体ではないだろう。そう思って拳を繰り出した……が、しかし。
「邪魔だボケカス」
 紋付き袴の男は、巨漢の手首をがしりと握ると腹にパンチを一発。その勢いのまま担ぎ上げると、近くの壁に頭から叩きつけた。
 頑丈な壁をぶち破り、気を失った巨漢が転がり込む。
 高級な机と革張りの椅子にこしかけていた男が、泡を食って立ち上がった。
「なっ、川崎……お前がやられたのか!?」
「あァ? まるでイイ感じにやり合ったみてぇな言い方するんじゃあねえよ。ほぼワンパンだ馬鹿野郎」
「な、な……」
 がくりと椅子に腰を落とす男。
 紋付き袴の男……蘭下慙膳は悠々とした足取りで近づくと、高級そうな机を目の前で『振り上げて』見せた。
「使い勝手がいいぜェ、こいつぁよ。暴れ放題だ」
「か、金なら――!」
「五月蠅え馬鹿野郎!」
 轟音と共に振り下ろす。
 下敷きになった男は一瞬でこと切れ、そして完全に死亡していた。
「オ、オヤジ……! テンメェ!」
 スーツの男達が流れ込んでくる。先刻の巨漢同様、E能力者達だ。
 が、彼らが部屋に入り切ったかと思われたその時には、全員の首がごろごろと地面に転がり落ちていた。
 シャランと音をたて、セラミックリボンがある男の腰に巻きつく。
 なんと、この目にもとまらぬ所業は男……蘭下鞭膳ひとりによるものだったのだ。
「おい慙膳この野郎、ボス殺すの早すぎんだろうが。順序ってもんを考えろよ。ここはこう……最後の力を振り絞ったボスに対してだな、俺らの必殺技を纏めて叩き込むっつう……」
「馬鹿、それじゃあ俺一人が地味になるじゃねえか」
 巨大な金庫と思しきものを軽々と開錠し、ごとごとと開いていく男。手には巨大な苦無が握られており、大雑把に歩いている筈なのに足音がしない。
 彼の名は蘭下苦膳。ここにいる二人と併せ『蘭下三天王』と呼ばれる男である。語呂の悪さに辟易して四人目を探しているのだが、それは余談である。
「で、この金どうすんだ。燃やすのか」
「燃やしてどうすんだ、撒くんだよ!」
「撒いてどうすんだ! 適当にモノ喋るんじゃねえよ馬鹿野郎!」
 苦膳が叫ぶと、黒づくめの男達が部屋へ素早く駆け込んできて中にあった札束を次々ケースに詰めて持ち出していく。
「ま、使い所はよくわかんねえや。頭使うのは苦手だからよ。あとはお前がやっとけ八兵衛」
「へいっ、承りやした! アッ……うへえ、これ重いっすねえ。荷台ないすか荷台」
 えっちらおっちらアタッシュケースを運ぶ男を、慙膳が平手ではり倒した。
「馬鹿野郎、言ったそばから肉体労働してどうすんだ! 部下使え部下ァ!」
「うへえ、あっしはそういうの苦手で」
「俺も苦手だ馬鹿。いいからさっさとやるんだよ!」
「へいっ、承りやした!」
「返事だけ良くしやがってからに!」
 世闇に消える喧噪。
 この日、一つの組織が消滅した。

●三天王潰し
 皆さん、この男達に見覚えはありますか?
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はモニターに三人の顔写真を表示させた。
「右から蘭下慙膳、蘭下鞭膳、蘭下苦膳。それぞれ剣林剣風組に所属する強力なフィクサードです。アークとも交戦経験があり、その全てで彼等を取り逃してきました……」
 正確は粗野で乱暴。放っておけば人々や世界に害をなすことが分かっている連中である。見つけ次第撃破し、命を絶っておきたい連中だ。
「そんな彼等が一ヶ所に集まる機会を見つけました。つまり――」
 タン、と手書き見取り図のようなものを机に広げる和泉。
「一網打尽にするチャンスです」

 それは蘭下道場と呼ばれる建物で、道場とは名ばかりの『のんべんだらり』とするための場所だという。
 上空から見ると三菱型をしたその建物は、それぞれの先端部分を慙膳、苦膳、鞭膳とで分けて使用している。
 何らかの共同作戦の直後なのか、彼らはここへ集まって休憩をとっているらしい。
 しかも、指定する時間に襲撃をかければ部下は全くおらず、彼等を独りずつ倒すことができるのだ。
 ここに集まっているリベリスタは9人いる。だが欲張って1人につき9人づつ順繰りに当てていこうとすれば、戦いの気配を感じ取った彼らがさっさと逃げてしまうだろう。となれば……。
「チームを3つに分け、それぞれの部屋へ突入。同時に撃破して頂きます」
 彼等は強力なフィクサードだが、けっして三人がかりでも勝てないという程ではない。
「苦戦を強いられるかもしれませんが……皆さんが力を合わせれば、きっと勝てる筈です。どうか、よろしくお願いします」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 9人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年09月24日(月)23:42
八重紅友禅です。
リベンジマッチ×リベンジマッチ×リベンジマッチ!!!!

今回は3人×3チームに分かれ、それぞれの敵を撃破して頂きます。
成功条件は3人全員の撃破(死亡)です。
それでは、各戦力について解説していきましょう。

・蘭下慙膳
 日本刀を武器とし、近接戦闘を得意としています。
 パワープレイが得意なようで、打ち合いを好みます。
 EXスキル『勧善勧悪』を盗んでおり、(ラーニングにより劣化し不死属性が外れていますが)強力な打撃技を放ってくるでしょう。

・蘭下鞭膳
 金属製の鞭を武器とし、中距離戦闘を得意とします。
 プロアデプトらしいということは分かっていますが、それ以前に凄まじいスピード型のフィクサードのようです。
 EXスキル『浪人行』を盗んでおります。過去の情報によれば全体への対集団連続斬りのようです。

・蘭下苦膳
 大苦無と気糸を駆使する暗器使いです。
 やたらフリーダムな変幻戦闘をしてきます。恐らくプロアデプトです。
 EXスキル『桃弦郷』を盗んでおり、鉄心・痛覚遮断・絶対者を付与します。味方全体へのスキルですが、今回は自分しかいないので自己付与と一緒です。
参加NPC
 


■メイン参加者 9人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
クロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
インヤンマスター
依代 椿(BNE000728)
プロアデプト
阿野 弐升(BNE001158)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
デュランダル
蜂須賀 冴(BNE002536)
クロスイージス
ヘクス・ピヨン(BNE002689)
プロアデプト
アルバート・ディーツェル(BNE003460)
   

●『偽善偽悪』蘭下慙膳
 龍の模様が描かれた襖を、羽織袴の男が突き破って転がり出る。
 徒手空拳。
 いかにも行儀悪く片膝を立てると、手近にあった火かき棒を頭上へ翳した。
 重厚な金属音と共に火花が散る。
 エンジン音が巨大な肉食鳥類の如く響だし、火かき棒をばりばりと喰い削る。
「らーんかちゃーん、あっそびーましょー……と」
 チェーンソーの持ち手に足をかける『群体筆頭』阿野 弐升(BNE001158)。
 羽織袴の男、蘭下慙膳は飛び散る火花に顔をしかめた。
「テメェは」
「群体筆頭アノニマスですこんにちは、死ねっ」
 おもむろに全体重をかける弐枡。
 慙膳は某を捨てて後転手元の茶釜をひっつかむと、尋常ではない速度で投擲。
 飛来する茶釜と弐枡。その途中で天井が抜け、巨大な鉄扉が落下してきた。
 両開きの扉である。茶釜が激突し、拉げる所か鉄板のように潰れる。
「流石に痛いですね。中々あることじゃないですよ……」
 鉄扉が開き、中より少女を顔を覗かせる。
 瓶底のような眼鏡の娘だ。
 だが恐ろしいかな、落下してきたこの鉄扉は、彼女……『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)の盾だと言うではないか。
「ふふ」
 唇の端をちょんと上げる。
「さあ、砕いて見せて下さい。ねじ伏せてみせて下さい。この絶対鉄壁を!」
「絶壁ィ? 知らねえなあ。とりあえず茶でも飲んでけや、なあ?」
「茶釜潰れましたよね」
「固いコトいうなや鉄壁ちゃん!」
 素早く飛び退き、壁際のソファを『振り上げる』慙膳。
 まるで手になじんだ武器のように叩きつけてくる。鉄扉の盾でガードするが、ヘクスは凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
 壁をぶち破って隣の部屋へ転がり出る。
「おら、美少女らしくもっとイチャつこうぜ」
 ソファを掴んだまま飛び掛ってくる。
 が、彼のエモノが大上段から振り下ろされた時には、すっぱりと途中から切断されていた。
「……ほう、確かコイツぁ」
「慙膳、お前が生きていて少し安心しました」
 畳を踏む黒い靴。後を靡くセーラー服の後ろ襟。
 鞘を左手に、刀を右手に持ち、『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)はゆっくりと振り向いた。
「お前が生きているなら、善三が死んでいる筈がありません」
「おォい……」
 ギラギラとした目で振り返る慙膳。
 顔に刻まれた火傷跡が獰猛に歪んだ。
「男と女の再開シーンだぞ。他の男の話題なんか出すなや、萎えるぜ、蜂須賀冴」
「そうですね。今は私の正義を為すために――参ります」
 振り向きざま、ソファの残りを直接叩きつけてくるのに対し、冴は刀を逆袈裟にスイング。かくして三分割されたソファを捨て、慙膳は足元の畳をひっくり返すように跳ね上げた。淵を掴んで自分を中心に大回転。
 同時に伏せるヘクスと冴。頭上を畳裏の埃が舞う。
「勧善勧悪。その劣化コピーですか、無様もんですね」
 一足遅れて壁を切り裂きながら突入してくる弐枡。
 大きく踏み込み跳躍。天井をチェーンソーでぶった切りながら飛び掛った。
 納刀した刀で受け止める慙膳。
「声しか聴いてませんがね。筋の通った人でしたよ。確かにコレも楽しいですけど、格が違う」
「だァから、デート中に他の男持ち出すなつってんだろうが馬鹿野郎!」
 弐枡の腕を掴んで反対方向へぶん投げる。素早く身体を反転させて木の柱に着地する弐枡。
「偽善偽悪か、皮肉が効いてるぜ。こんなことなら善三と殴り合って、酒飲んでクダ巻いてたほうがよっぽど楽しかったぜ!」
 柱を蹴って突撃。
 慙膳は先刻の畳を上段から振り下ろすが、盾を重ねたヘクスに受け止められた。
 凄まじい打撃力に脊髄を圧し折られそうになるヘクス。防御の鬼ともいえる彼女ですらこうなのだ。弐枡がくらえば障子紙の如くである。
「ヘクスさん、振り回しますからそこを――」
「ハァ」
 斜めから捻るように見返るヘクス。額から頬へ血が流れ、眼鏡の隙間からどこか熱を帯びた目元が覗いた。
「いいですよ、このまましても」
「頼りになりますね。では遠慮なく――!」
 空中で腰を捻り、チェーンソーを高速で振り回す弐枡。
 慙膳は思わず苦笑した。
「ガチかよ……」
「もう一度言う。死ね」
 戦鬼烈風陣フルチャージ、炸裂。
 ヘクスごと巻き込んだ嵐……そう、嵐流が慙膳のエモノを手首ごと吹き飛ばす。
 床と壁そして天井までもを滅茶苦茶に崩壊させ、停止する弐枡。
 彼の打撃程度普通なら『掠り傷』で済むヘクスでも、流石に当たり所を悪くして膝をついた。防御の体勢もほぼ完全に崩れた所で、慙膳に首根っこを掴まれる。
 凶悪な握力で首を握りしめ、ゆっくりと首を振る。
「面白え、やっぱりお前らは面白え……たまんねえ!」
 思い切り振りまわし、頭から壁に叩きつけた。
 壁を崩壊させて元の部屋に転がるヘクス。
 背後から狙いをつける弐枡に、慙膳は素早く振り向いた。歯に刀を咥え、チェーンソーを受け止める。
 手首までになった腕を全力で叩き付け、弐枡を吹き飛ばした。柱に背中から叩きつけられる弐枡。
「全力ってなぁイイよなあ……生きてるカンジがするぜ畜生」
 刀を逆手に握り直す慙膳。
 彼の前で、冴が立ち止った。
 鞘を地面に落とし、胸に手を当てる。
 重い、鉄の感触があった。
 一度だけ目を瞑り、刀を両手で握る。
「蜂須賀示現流、蜂須賀冴――参ります!」
「ごちゃまぜ他流、蘭下慙膳――行くぜ!」
 踏み込み、一歩。
 剣戟、一合。
 敵に背を向け、膝をつく冴。
 その後ろで、蘭下慙膳は血を吹き上げて絶命した。

●『贋作浪人形』蘭下鞭膳
「止まらんかい、この……!」
 呪印を大量に展開し、次々と発動させる『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)。
 それを蘭下鞭膳は残像を残しながら次々と回避。
「おー温い温い、止まって見えるぜ。って、俺が止まらにゃならんのだっけかァ?」
「因縁纏めて二つ重ね! まっさか纏めて相手できるとは思わんかったわぁ。あの仕打ち、絶対許さへん!」
「何のコトだかわかんねぇなあ。この前酒代踏み倒した店のねーちゃんかい? そういや記憶に新しいカワイコちゃん……」
「べらべらとやかましいわ!」
 自分の眼前にまで接近しかけた鞭膳の額に直接呪印を叩き込む椿。
 その直後、鞭膳の腰にスレッジハンマーの如き蹴りが叩き込まれた。
 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が半歩下がりながらナイフを握り直す。
「戦いの借りだ貸しだと思ってもいまい。戦場であいまみえればどちらかが死ぬ。正々堂々とは言わん。ここで蹴りをつけさせてもらう」
 ウラジミールは熟練した足さばきで距離を詰め直すと、鞭膳の肩の付け根や腰を狙って素早くナイフを繰り出していく。
 一昔前に中高生が流行り持ちした護身ナイフではない。人殺し、それも戦争のために造られた重厚で頑丈なコンバットナイフである。
「おいおいそんなモン振り回して殺す気か? 話し合いで解決しようぜ」
「言葉が理解できんな。そう言う相手は戦争と決まっている」
「お熱いねェっ……とお!」
 呪印を自力で解き、追撃の呪印も転がってかわす鞭膳。
 そこへ『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が思い切り剣を叩きつけた。
「アークのリベリスタ楠神風斗だ。任務によりお前を殺しに来た」
「あの人魚チャンみたいにか?」
「な――」
 眉を僅かに上げる風斗。
 その僅かな間隙をついて鞭膳は腰に巻いた鎖剣をクイック展開した。周囲に爆薬がばら撒かれ、ウラジミール共々吹き飛ばされる。
 その際に胸を盛大に切り裂かれ、片手で抑える風斗。
「隙アリぃ。お兄ちゃんアレかい? 女の誘いは断れないタチかい? ま、あんた有名人だからな」
「ぐ……っ!」
「誘いといやぁアレは良かったなあ。金髪オデコのカワイコちゃんがよ、俺に直接『しない?』つって」
「アンナ・クロストンだ」
「あァ聞こえん」
 耳に手を当てる鞭膳に、風斗はゆっくりと闘志を燃え上がらせる。
 頭の中に血が昇り、目元がちかちかとし始める。
「そのカワ……彼女の名前だ。世話になったようだな。知ってるだろう」
「知ってる知ってるゥ、だまし討ちしてごめんねテヘペロ」
「……ご」
「あとあの子のスカートの中見たわテヘペロ」
「な」
「もっとアブナイことしちゃったかもな。好みのタイプだったからよ、有名人のエンジェルちゃんだし? 写真あるけど見るか?」
 ぶちん、と風斗の中で何かが切れた。
「貴様あああああああああああああ!!!!」
 叫びと共に突撃する風斗。
 鞭膳へと飛び掛る。
 振りかざす剣。
 燃え上がる瞳。
 その首を――細い鎖剣が輪で覆った。
「なんつって嘘だよ!」
「――ッ!」

 少しだけ前の事を思い出す。
 自分の胸を拳で叩く青年の顔。
 『かっこわりい負け方してくんなよ』

 風斗の首はまるでねじ切れたソーセージの如く切断され大量の血を撒いて畳に転が……りは、しなかった。
「感情に捕らわれるな楠神風斗」
 ウラジミールの強防刃グローブが鎖剣を握りしめていた。だが相当な圧力を抑えたのだろう。指からは細かく血が吹き出ていた。
「彼女は君に復讐を頼んだのか」
「…………いや、それは」
「だが悪くはない。依代女史」
「策士策に溺れる、や」
 途端、鞭膳の背後で巨大な呪印が発動。
「うお、こりゃヤベェ!」
 拘束を確認すると、椿が煙草を頭上に翳した。
 上がった煙が大量の餓鬼を呼び、大量の餓鬼がねじ切れて鴉の群と化した。
 一斉に鞭膳へと飛び掛る鴉の大群。
 そのいくらかを食らいつつ、呪印を振り切って鎖剣を大きく展開。
「こうなりゃ実力で斬り抜けるきゃねえや!」
「来るぞ、防御――」
「遅いわ、浪人形!!」
 一瞬の出来事であった。
 鞭膳は部屋中を凄まじい速度で駆け廻り、風斗や椿たちを幾度となく多角的に斬りつける。
 その中にあって、ウラジミールは一瞬の中の一刻を見極めた。
「そこだ」
 ナイフを持った腕を抉り込むように繰り出す。
 重厚なブレードが鞭膳の脇腹から内臓までをざっくりと切り裂く。
 剣を振り上げ、全力で切りつける風斗。
「地べたに這いつくばって死ね、贋作師!」
 斬撃。
 胸を切り裂かれ、鞭膳はごぼりと血を吐き出す。
 そして。
「なぁ、その技どこで手に入れたん?」
「あァ」
 顎をあげた椿の質問に、笑ってこう答えた。
「雑誌の懸賞で……なんつって」
 どしゃりと崩れ落ちる鞭膳。
 椿は片目をつぶり、くしゃくしゃと髪を混ぜた。

●『模倣桃源郷』蘭下苦膳
 めまぐるしい、とはこういう時に使う言葉なのだろうと、『覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は舌打ちしながら思った。
「三体一なんてずるいとか言っちゃう?」
「てやんでテメェ気にしねぇや!」
 夏栖斗は軽く飛び上がると、空中で二連回し蹴りを繰り出した。
 虚空を裂いて飛ぶ斬撃。
 苦膳はそれを跳躍でかわすと、天井をくりぬいて引っ込んだ。
「アークの御厨夏栖斗だ、拐使いの覇界闘士――っていない!」
「御厨様うしろです!」
 壁をわざわざ人型にくりぬいて飛び出してくる男、蘭下苦膳。
「ほれどうだ。暗殺者っぽいか!?」
「どこがだ!」
 投擲してきた苦無を盾で弾くツァイン・ウォーレス(BNE001520)。
「痛みと恐れを知らぬ兵隊を生み出す桃弦郷。それを野放しにするわけには参りません!」
 ツァインの突撃と同時に、『忠義の瞳』アルバート・ディーツェル(BNE003460)は開いた上着の裏側から細ナイフを抜き取ると、五指に挟んで一斉に投擲した。
「なんでェ折角練習したのによう!」
「そうカリカリすんな、この後ゆーっくり休ませてやっからさ!」
 輝く剣を振りかざし、ツァインは正面から斬りかかる。
 対して苦膳は何処からともなく巨大な苦無を取り出すと剣を斜めに撃ち流した。
 そのまま彼の横をするりと通り抜けると、ダーツのフォームで苦無を発射。アルバートに突き立てる。
「――ッ!」
「遊びのつもりかよ」
「戦ってのは遊びだよ。でなきゃ核ボトンで済んじまう。一番上手に遊んだヤツの勝ちってルールさ」
「それなら、もっとやりあおうぜ!」
 夏栖斗が十字に交差する虚空を発射。
 ツァインが振り向きざまに剣を振り込み、アルバートが袖から抜いた食器ナイフを大量に投げつけた。
 三方向からの同時攻撃。しかし苦膳は頭の後ろで両手を組むと、口笛を吹きながら自分の周囲を一斉爆破した。
 ナイフや真空斬撃がはじかれ、ツァインが吹き飛ぶ。
 壁に叩きつけられるツァイン。
「なんて奴だ……でも、この前の口上は格好良かったぜ。あれは痺れたわ」
「あれか? いつも即興だからおんなじコト言えねえんだよ。ええっとチト待て、確か『こちら揉み放題吸い放題』……」
「違います」
 額を抑えるアルバート。
 蘭下苦膳という男。一人になると途端にフリーダムさが跳ねあがる。
 夏栖斗はトンファーをしゃらんと撫で合せた。
「じゃあさ、なんか面白武器とか見せてよ」
「電動鼻毛切りとか」
「いや……」
「そんじゃあ」
 苦膳は敵中堂々と目を瞑り、にやりと笑いながら両腕を広げた。掌を天に向ける。
「さぁさ皆さんお立合い。立てば惨殺座れば毒殺、歩く姿は暗殺部隊。御代は死んでの御帰りだ。さァ――!」
 目を開く。
 赤い赤い、狂乱の目である。
「天下御免、強制暗殺集団・黒影衆! 殺して死ぬまで御覧に入れる!」

 こんなことを思い出す。
 『調子こいて取り逃がしたりするんじゃないぞ』
 自分の拳をこつんと叩き落とした白黒髪の青年がいた。
 彼はうまくやっているだろうか。
 こっちはどうやら……。

「この――ちょこまかすんな!」
 大量に飛来する苦無の弾幕をクロストンファーで防御する夏栖斗。
 その鼻先五センチの所でにんまりと笑う苦膳。
 慌てて業炎撃を繰り出すが、まるで柳の枝で打っているかのようにぐにゃんと苦膳の身体が曲がった。
「イタクナァーイ、コワクナァーイ、もひとつついでにメンボクナァーイ!」
 まるで糸吊り人形を振り回すかのように、脚があり得ない方向に曲がって夏栖斗を蹴り飛ばす。
 零距離虚空で迎撃するが、それすらぐにゃりと乗り越えて連撃を叩き込んでくる。
「桃弦郷!」
「おかけになった痛覚は現在使われておりまセンッ!」
 顔面に直接連続パンチを叩き込んでくる苦膳。
 夏栖斗はたまらず後退。
 入れ替わりにツァインが剣と盾で突撃する。
「これなら――」
「ハイ残念!」
 地面にいつの間にか風呂敷を広げ、ツァインが乗った瞬間引っこ抜く。
 思わず転倒した所へ無駄に塩水を注いだ。
「ほーれ錆びろ錆びろー」
「錆びるか!」
 起き上がりざまに剣を振るが、苦膳はバク転しながら回避。
 軽く空中で捻りをかけつつ、アルバートへと飛び掛って行く。
「そんじゃ行くぜ、執事サンよお!」
「――!」
 目を細めるアルバート。
 彼の腹に巨大な苦無が突き刺さる。
「アルバート!」
「……わたくしめが」
 目を瞑る。
 苦膳を突き飛ばす。
 彼の胸には、ペーパーナイフが突き刺さっていた。
「組み手が不得手といつ申しましたか」
「あ……や、べ……」
 苦膳の目から色が消える。
 振り向くと、ツァインと夏栖斗が同時に飛び掛っていた。
「トンファーキック!」
「桃源郷はいいとこなんだろ、一生そこで沈んどけ!」
 二人の強烈な打撃を受け、苦膳は仰向けにぶっ倒れた。
「あなたは、その技で何を為そうと?」
「決まってらァ……遊びさ」
 苦膳は目を閉じ。
 そして二度と開けなかった。

●『    』路六俵八
「どぉもぉ縞島はん、不義理の清算させてもろおたわ」
『なんのことやろ? わからんなあ、ほな忙しいんで』
 椿の耳元で電話が切れる。
 弐枡や夏栖斗、それに風斗たちが蘭下邸から出てきた。
「邸に金品の類はあまり残っていませんでした」
「運び出されましたか」
 アルバートやヘクスも傷の手当てを終え、彼等は一塊になって邸から離れようとしていた。
 そんな時である。
「おうおうおう、俺らの邸になんか御用かよリベリスタぁ」
 手ぶらの蘭下慙膳が、一同の前に立っていた。
「な――」
「誤魔化すな」
 高速でとびかかり、蹴りを繰り出すウラジミール。慙膳は腰の刀を抜いてガード……しようとした所で手が空振してキックの直撃をうけた。
「うわっひゃああああ!?」
 ごろごろ転がり木の幹にごつんと頭をぶつける蘭下……では、ない。
「八兵衛……」
「うへえ、バレやしたか!」
 頭をかきながら、顔と体型、声まで変える男……八兵衛。
「路六剣八の曾孫。土俵合わせの俵八ですね」
「……ンー、正確には違いやすねえ」
 ぱしぱしと尻をはたく。
「あっしにゃ土俵合わせは相応しくない……ンだそうで」
 瞬きをする。
 動きの度に、彼はぐにゃりと姿を変えた。
 縞島二浪、風紀四条、見知らぬ大男、松戸助六、琴乃琴七弦、初富初音、そして善三。
 最後に見知らぬ老人に変化して、彼は言った。
「全部パクってやったわ」
「…………」
 闇夜から湧き出すように剣林の兵隊たちが姿を覗かせる。
 元の姿に戻り、彼は言う。
「ここでやりますかい?」
「いや、引こう……」
 剣を納めて後じさりするツァイン。
 その時、椿の携帯が鳴った。
『もしもぉし、言い忘れとったわ。そこにいる人ら――』
 椿は目を細めた。通話機と、肉声が重なる。
「九美上興和会直系・剣風組になるんで、ヨロシク」
 樹幹の影から顔を覗かせる男。
 椿は黙って電話を切った。
 途端、周囲の人影が一斉に消えた。

 残ったのは、世闇を抜ける風。
 そして、巨大な戦いの予感だけ。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
もうすぐです。