●巨獣ファイヤード、変異。 周辺警戒中の事である。 バイクのエンジン音。その後部シートに跨ったあなたは、双眼鏡を手渡された。 「肉眼でも見えてるだろ。あれだ」 言われた通りに指差された方向をみやる。 赤い鳥のようなものがぐるぐると旋回を続けている……のだが。 「多分、仲間が前に戦った鳥型の巨獣だと思う。だが動きが変だと思わないか。それに……」 双眼鏡をあて、倍率を上げる。 確かにそれは鳥型巨獣ファイヤード――炎の翼を持ち、炎を吐く空戦タイプのモンスターだ――だったが、どうもフォルムがごてごてとしていた。 翼には炎でできた筒のような物がいくつか連なり、外殻のようなもので頭から胴体までをぴったり覆っている。 それだけではない、外敵(?)とみられる飛行タイプの巨獣に巧みなインメルマンターンで回り込み、翼の筒から炎の弾を連続発射(後で気づいたことだが、炎の塊を分離・炸裂させて飛ばしているようだった)し、相手を撃墜。甲高い声をあげて旋回を続けている。 「……変だな」 ●変異巨獣 「巨獣の様子が……そうですか。もしかしたら、単純原初に近いが故に何かを感じ取っているのかもしれません」 フュリエの族長シェルンは、口元に指を当ててそう述べた。 「どの道、このまま放っておけば以前のように襲撃をしかけてくる可能性もあります。今の内に撃退してしまうべきでしょうね」 ファイヤード・コンバット。 それが今回つけられた俗称である。 まるで外敵から身を守らんとするかのように武装と装甲を増やしたファイヤード、と考えればよい。 自らを包む外殻を厚くして身を守り、炎の翼も擲弾仕様に変わっている。 数は6体と少な目だが、以前よりも強力だと見て間違いない。油断はできないだろう。 「危険な任務ではありますが、どうかお気をつけて……よろしくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月20日(木)22:59 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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● 「焼き鳥ぃぃぃぃぃぃい!」 緋塚・陽子(BNE003359)は大鎌を片翼のように広げ、高速回転を持って突撃。 巨獣ファイヤード・コンバットの右翼付け根部分へと叩き込んだ。 激しい火花が散り、互いの身体が交差。 ファイヤードは一度翼を丸めると急速ターン。炎筒から大量の炎を発射した。 「うおっ!」 腕を交差しつつ火炎弾を防御。しかし勢いは止まらず軽く風に流される。 翼を羽ばたかせて制動をかける陽子に、ファイヤードは更なる連射を試みるが、そこへ――。 髪を大きくふり乱した『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が乱入。 外殻装甲に包まれた頭部に掌を叩きつけると、目を大きく見開いた。 「唸れ雷鳴、轟け閃光!」 自分を中心にチェインライトニングの雷をまき散らした。 大空に広がる雷の網。 ファイヤードも負けじと全ての炎筒をシルフィアの顔面へと向けてくる。 歯を食いしばるシルフィア。 だが、火炎弾が放たれるその寸前、頭上から陽子が直降落下してきた。 「おっといけねぇ、肉の美味しさ思い出してたら油断しちまった――ゼッ!」 急降下のエネルギーをそのまま大鎌に乗せ、引っ掻けるように首を切断。 果実を握り潰したかのような勢いで吹き出る鮮血。そして火炎弾の暴発により爆発するファイヤード。 陽子は余った回転を翼で制御し空中停止。空を仰ぎ見る。 「こりゃ、食いでがありそうだな」 ラ・ル・カーナの空。 五体のファイヤードが甲高い声をあげて旋回していた。 「随分な食欲だな。まあいい」 直刀と大剣をそれぞれ抜き放つ『罪ト罰』安羅上・廻斗(BNE003739)。 「空中戦は不慣れだが、戦いは慣れている。殺し合うぞ焼き鳥共」 黒い直刀を薙ぎの構えで振り上げる。 身体から吹き出た闇が纏わりつき、直刀そのものをフランベルジュのように変幻させる。 彼の殺気を感じ取ったのか、ファイヤードたちが一斉に此方を向いた。 構うことはない。 「纏めて堕ちろッ!」 素早い薙ぎ払いと共に瘴気が一斉に放たれる。 対抗して大量の火炎弾を発射してくるファイヤード。 瘴気を貫き飛来する火炎弾を、『フォートプリンセス』セルマ・アルメイア(BNE003886)の盾が受け止めた。 「よーしあっしに任せな! へなちょこ火炎弾なんて全部はじいてやんよ!」 セルマが難攻不落を主張しているのは、彼女に施されている三つのアンチマジックに由来している。麻痺無効。呪い無効。そして、火炎無効だ。 「今回はなんとオーブン機能までついてるっぽいねえ! 今から丸焼きが楽しみだよどうしよう! というわけでラケシアよろしく!」 「何をよろしくされたのよ」 大量の火炎弾が飛来しているというのに、『プリムラの花』ラケシア・プリムローズ(BNE003965)は優雅に肩にかかる髪を払った。 ウェーブがかった金髪が風に靡き、尾を引く煌めきが大空へと広がって行く。 「『ディフェンサードクリトン』」 「からの、ボク」 パチンを指を鳴らす『ナルシス天使』平等 愛(BNE003951)。 「空でボクより目立つとか、誰に断わってるのかな? 腹立たしいねェ、すっごく腹立たしいよ!」 腕を組み、両足をやや広めにとり、光翼と白翼を二重に広げると、聖神の息吹を発動。 回復弾幕が展開され、火炎弾が着弾した所から即座に傷をかき消していった。 「というわけで皆やっちゃってね、ボクは回復してあげるから。ふぁいとー、超ふぁいとー!」 「優雅なものだな」 白い仮面を撫でる『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガー(BNE003922)。 そのまま一度だけ目元を覆うと、身体のギアを最大限まで引き上げる。 「しかし、こんな物まで現れるとは、進化と言ってもいい」 エルヴィンは直接突っ込んでくるファイヤードを紙一重で回避。相手の背に向けて魔力銃を連射した。 「とりあえずは、目を回さないようにしないとな。愛、俺の後ろに下がっていろ」 「庇いながら戦闘はできないよ、大丈夫?」 「惹きつけるくらいはできる。いざとなったら庇うまでだ」 「じゃ、よろしく。ボクは後ろ見ててあげるから」 「後ろも何も……」 ラケシアが髪の先を指でつまみながら呟いた。 「囲まれてるじゃない」 そう。ファイヤードは火炎弾の一斉射撃に乗じて彼等の前後左右を囲んでいたのだ。 全方位から一斉に突撃をかけてくるファイヤード。 強固な嘴を半抜きした刀で受け止める『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)。 あまりの衝撃に身体を持っていかれるが、相手の首を蹴っ飛ばすことで離脱。 空中を激しく回転しながらも体勢を立て直した。 改めて抜刀。びしりと切っ先をつきつける。 「貴方達は狩られる側! この世界の巨獣には勝てても私達には勝てないよ。だって――!」 まるでそこに地があるように、セラフィーナは急速発進した。 ジェットを吹くファイヤードの後ろをとり、並ぶように飛行。 「貴方達は遅そうだもの。そんなにゴテゴテくっつけちゃって!」 不利を感じたファイヤードはインメルマンターンを開始。 だがセラフィーナにとってはこれこそ待ちに待ったチャンスであった。 「そのターンは直上で速度が落ちるの。加速機構なんかつけてたら尚更だよ!」 またも無い壁を蹴るかのような直角カーブをかけるセラフィーナ。ターンの途中に割り込むように突っ切り、刀の一撃を叩き込む。 バキンと音を立ててはじける外殻装甲。 しかしファイヤードは翼を丸めて上下反転。火炎放射でもって彼女を襲った。 羽を炎に覆われるセラフィーナ。 片目をつぶって熱に耐える。 と、そこへ。 「そうか、ターンにはそういう弱点があったんだな」 ジャスティスキャノンが飛来。ファイヤードの背を強かに撃ち、外殻装甲を破壊させた。 不意を突いたのがよかったのだろう。ジャストヒットした砲撃に怒ったファイヤードが方向転換。火炎弾を連射しながら『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)へと突っ込んでくる。 「最近こういうフォローばっかりだな俺は!」 ファイヤードの嘴が晃の腕に食いつく。ジェットの勢いで身体ごと高高度まで運ばれる。何とか相手の首を押さえつけて引き千切れることは防いでいるが、これが一体どれだけ保つか。 「一か八かだ!」 晃はガントレットを振りかさずと手刀の構えをとった。そのまま抉り込むようにファイヤードの眼球に貫手を突っ込む。 悲鳴と共に炎を吐き散らすファイヤード。 なんとか身体は離れたが身体を覆う炎と腕の傷がままならない。 ちょっとヤバそうだ……と思った所で、ぽんと肩に手を置かれた。 「お、晃ちゃんやるじゃーん。ボクのハーレム入らない?」 「愛、今日は真面目にだな……ん?」 気付くと身体から炎が消えている。腕を圧し折らんばかりだったあの痛みも含めて雲集霧散していた。 「誰が不真面目だって?」 「いや、すまん。お前も真面目になることがあるのかと……」 「惚れた?」 「いや」 真顔で首を振る晃であった。 ● 大きく羽ばたく巨獣ファイヤード・コンバット。 十数メートルの距離を挟み、シルフィアもまた大きく翼を広げて身構えた。 魔方陣がシルフィアの肩の周りにスライドしながら並列展開。 対してファイヤードは炎筒を全てシルフィアへと向け、炎を極度に圧縮し始める。 「久々の空中戦だ、どちらが覇者か決めようではないか!」 魔方陣群に直接手を突っ込むようにして両腕を突き出すと、シルフィアは壮絶に笑った。 マジックミサイル全力発射。 火炎弾全力発射。 大量の魔弾が交差し、お互いの身体に次々と着弾。 「温いッ!」 シルフィアは魔方陣を収束。高速で四種の型へと組み替えると魔曲四重奏を発動。魔光を連続発射した。 悲鳴をあげて仰け反るファイヤード。 と、その時。シルフィアの後ろから闇を纏った廻斗が出現。大剣を大上段に掲げ暗黒魔力を集中すると、豪速と共にファイヤードに斬りかかった。 「貴様の相手はこちらだ、魂ごと切り裂いてやる」 「――ッ!」 咄嗟に翼を丸め、外殻装甲での防御を固めるファイヤード……だったが、装甲をメリメリと砕き、廻斗の剣はファイヤードの肉へとめり込んだ。 それだけではない。魔力によって強化された刃が肉を次々食い散らかし、まるでチェーンソーで木を切るかのようにファイヤードの翼をぶった切った。 目を見開き、螺旋軌道を描きながら墜落して行くファイヤード。 大粒の汗と共に息を吐き出す廻斗に、聖神の息吹が浴びせられる。 見上げると、愛が鼻歌を歌いながら空中を優雅に歩いていた。 「お疲れ様。さてと、そろそろボクも狙われちゃう頃合いかな?」 ちらりと上を見やる愛。 すると、二体のファイヤードが愛めがけて突撃を開始していた。 飛来する火炎弾を本で打ち弾き、廻斗たちに小さく手を振る。 「じゃ、ちょっと行ってくるね」 そう言うと愛は、翼を止め大地に背を向けて自由落下を開始した。 今が好機とばかりに火炎弾を乱射しながら急降下を始めるファイヤード。 「愛ッ!」 「くそ、またフォロー役か!」 エルヴィンと晃が急降下をかけて愛の所へ加速をかける。 が、その途中であろうことか翼の加護が解除。 光の翼が霧消し、エルヴィンたちは一気に重力に引っ張られることになった。 自由を失った二人にファイヤードがクロスアタックを仕掛けてくる。 外殻装甲に守られた翼に打たれ、激しく回転するエルヴィン達。 「くっ、厄介な攻撃をしてくる……!」 魔力銃を撃ってみるが狙いがろくに定まらない。 そうこうしているうちにファイヤードはターンし、再びクロスアタックを仕掛けてきた。 「まずい――!」 糸目をほんの僅かに開く晃。 と、その時。 二人の間にふわりとした風が割り込んだ。 否、風ではない。 両手を広げ、ハイグリモアールを宙に浮かべたラケシアであった。 周囲の大気がぶわりと音を立てて渦巻き、光の翼を顕現する。 目を開くラケシア。 「お待たせ」 「「助かった!!」」 晃とエルヴィンは同時に叫ぶと、飛来するファイヤードへと腕を振るった。 エルヴィンのナイフが相手のの眼孔へと。 晃の拳が相手の頭蓋骨へと。 それぞれ全力で叩き込まれる。 ばぎゃん、という途轍もない音が響き、二体のファイヤードが痙攣、そして動きをとめて墜落を始めた。 「んふー、二人ならやってくれると思ってたよ。やっぱり愛様ハーレム入らない?」 聖神の息吹をキラキラとまき散らしながらゆっくりと浮上してくる愛。 エルヴィンは仮面を抑え、晃はヘッドホンを抑え、それぞれ異口同音にこう言った。 「お断りだ」 残るファイヤードは一体。 セルマは青く透明な盾振りかざすと、飛来する火炎弾を片っ端から撃ち弾いていた。 「何度来ても無駄無駄無駄ァ! あちきの対価ボディはそんな熱量なんともないのサ! って痛ァ!?」 最終的には盾に直接激突してくるファイヤード。さすがのセルマもくるくる回転しながら吹っ飛ばされる。 「畜生フルアーマー焼き鳥のくせにこしゃくな! お前なんかえーっとえーっとあのえーっと皆さん宜しくお願いします!」 「分かったから下がってろ!」 途中から割り込んで襲撃をかける陽子。 自らを独楽のように回転させると、非常にトリッキーな軌道を描いてファイヤードへと急接近。回転鋸さながらの連撃で翼を削りにかかった。 正面から交差する陽子とファイヤード。 ファイヤードは翼後部のジェットを器用に使って螺旋飛行からのターンをかける。 陽子は負けじと身体を丸める。 「セルマ!」 「え、何カバーリングかナ!?」 「壁になれェ!」 陽子はセルマの盾を思いっきり蹴っ飛ばし180度ターンを敢行。 ターンしてきたファイヤードより先手を打って激しい斬撃を叩き込んでやった。 若干のブレを見せるがなんとか飛行を続行するファイヤード。 そこへセラフィーナが後ろから追いつく。 「空では負けない、絶対に!」 「……!」 ファイヤードは後ろをちらりと見ると、翼を丸めて螺旋回転。ジェットを一時的に止めるとストンと目の前から消えた。 否、消えたのではない。自由落下を利用してセラフィーナの下へと潜り込んだのだ。 すぐさま翼を開いて急上昇。 彼女の胸目がけて火炎弾を大量に叩き込んでくる。 スピンをかけながら横方向に回避するセラフィーナ。 真横を突っ切って上昇していくファイヤードを追って自分も上昇。 丁度横並びになった所で幾度とない撃ち合いを仕掛け合う。 二人は上昇しながら死のシザーズ飛行を繰り広げた。 火花が大量に散る中、背後をとるためターンをかけるファイヤード。セラフィーナは対抗して捻じり込みを仕掛ける。 背後の取り合いは小回りの利くセラフィーナに軍配が上がった。 「私だって、今日までずっと飛んできたんだから!」 ターン途中に、無理矢理合流し。腹から喉にかけてを大胆に切り裂く。 悲鳴と共に爆発を起こすファイヤード。 セラフィーナは、大量の血を浴びながら刀を鞘に納めたのだった。 ● どしゃりと地面に激突するファイヤードの死骸。 シルフィア達は身なりを整えつつ、その場所へと降り立った。 「なるほど、上手に焼けたあとってワケね……」 「焼き鳥パーティーだー! ヒャッハー!」 欠食児童さながらの勢いでファイヤードへ飛びつく陽子。 鎌で装甲をベキベキ剥ぎ取ると、懐から取り出した塩を大胆に振りかける。 そして豪快に、かぶりつく! 「んめー!」 「アメリカ開拓民ですかあなたは……」 などと言いつつ、丁寧に肉を切り分けつついただいてみるセラフィーナ。 「あ、本当。美味しい」 「だろー! 肉が引き締まってるだろー! あとでアークに持って行ってやろうな! 売りさばこうな!」 「全力でやめろ」 晃は提出資料にすべくファイヤードの装甲や炎筒の残骸をそっと回収していた。 その様子をぼーっと見つめる愛。 「うん、今日はボク仕事した気がする」 「普段仕事してないみたいな言いぐさね」 大きめの岩に腰掛けて休むラケシア。 愛は肩をすくめて微笑んで見せた。 その一方、セルマが装甲焼きじみたことをしながらもも肉を解体。 皿代わりの外殻装甲にもりもり載せていく。 「ほーれほれ食べ放題だよォー、今食べないとダメになっちゃうからね!」 「本当に食えるんだろうな、これ」 「固そうなんだが……」 仏頂面(仮面の上からでも分かるレベル)でそれを見下ろす廻斗とエルヴィン。 「いーからほれほれ、一口ぃー」 セルマがあーんと言いながら突き出してくる。 口の部分だけ外してとりあえず頂いて見るエルヴィン。 同じく無表情で頬張ってみる廻斗。 それを、セルマはニコニコしながら見ていた。 「炎筒の所は珍味だよー! 噛み砕くのちょっと苦労するけど」 「……埋めるか」 「手伝おう」 「チョットマッテー!!」 無言でセルマごと埋めようとする廻斗とエルヴィン。 ……などと。 リベリスタ達は戦後の空気を満喫していた。 岩に腰掛け、空を見上げる愛とラケシア。 静かな空だ。 だが何故か、嵐の前の静けさを感じさせていた。 「何かが、起ころうとしてるのね」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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