●無知の少女、『Voynich-CCC』。 朝日の差し込む廃神社。 崩壊した壁から流れ込む朝露とそよ風に、エメラルドグリーンの髪がさらさらと流れた。 顔の上を流れ、埃っぽい床へ落ちる髪。 少女である。 しかし部屋に少女以外の人間は見当たらない。それどころか、ここは部屋と言うより神社の本殿と言った様子で、本来何かが祀られるべき壇の上で少女が眠っていた。 部屋全体がどこか埃っぽく、廃墟じみている。 壁には複雑怪奇なペイントがなされ、一面をびっしりと埋めていた。 「ン……ン……」 非人間的なまでに白く澄んだ素肌が露わになり、少女はぼろきれを眠たげに引っ張った。 薄目を開け、目を擦る。 いつものような平穏な朝。 その平穏が、破砕音によって文字通り砕かれた。 「邪魔するよ」 扉を無理やり破壊して、一人の男が踏み込んだ。 否、男と呼ぶには幼すぎる。しかし彼は、少年と呼ぶにはあまりに荒々し過ぎた。 「自己紹介ー。よく聞け愚民、俺はエンダー。黄泉ヶ辻所属。W00の依頼で回収……ああっ、面倒臭えなあ!」 少年、男、エンダーはずかずかと祭壇まで駆け登ると、少女のぼろきれをはぎ取った。 一糸纏わぬ素肌が露わになるが、エンダーは気にも留めていない。髪を鷲掴みにすると、そのまま顔の高さまで吊上げた。 「お前がヴィオニッチだな?」 「ア、アウ……ア……」 「チッ、知恵遅れかよ。うぜえなあ!」 髪を掴んだまま引きづって行く。気づけば、彼の部下らしき男達が周囲に立っていた。どれもカタに嵌めたような無表情。 「アッ……アア……イッ……!」 エンダーの手を掴んでもがく少女ヴィオニッチ。 しかしエンダーは、ごくつまらなそうに少女の頭を掲げた。 「五月蠅え、面倒臭え、うぜえ! いや、そうだな……どうせ用があんのはお前の『脳みそ』だけだ。コンパクトにするか」 「アッ……!」 少女の両目が開かれる。 その瞬間、少女は首と胴体を切り離された。 「軽くなったし、静かになったな。やっぱ『道具』ってのはこうじゃねえといけねえよ」 エンダーは機嫌良く少女の首をぶら下げると、悠々とした足取りで神社の境内を出て行った。 この神社の名を、杵築神社という。 ● 「W00(ダブルダブルオー)って名前に聞き覚えは? ううん、いいわ。今日は別に……」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は若干古めの地図に印を付けながら、ここまでの流れを語っていた。 今回の任務はいわゆる『フィクサードからのアーティファクト奪還』である。 フィクサードの強行突入は予知で解っている。 小島南部・杵築神社へ向かい。 そして。 「『アーティファクト』を奪還して頂戴」 イヴはあくまで、そう述べた。 アーティファクト、ヴィオニッチ-CCC。 高質化したタンパク質・科学シナプス塊……つまり『脳』が革醒したもので、使用者にこの世ならざるものの存在を教えるとされている。ただい使用者は発狂し、死に至るとも。 「脳がアーティファクト化したことで、『入れ物』である人間は自律行動しているわ。でも知恵遅れを起こしてるみたいで、黄泉ヶ辻も回収が楽だったんでしょうね……」 素体の人間はいわゆる脳死状態にある。アーティファクトが無くなれば間もなく死亡する肉体だ。 「目的はあくまでアーティファクトの回収。重ねて言うわ、『既に死んでいる人間』の生死は問わない。最悪、彼女の頭部だけでも持ち帰れればいいわ」 表情を変えず、目を細め、イヴはこう告げた。 「目的を、見失わないでね」 交戦するとみられるフィクサードは黄泉ヶ辻所属のエンダーを初めとする10人程度のフィクサードチームである。 エンダー自体はデュランダルと見られ、少年の身にそぐわぬ怪力を持っているという。 「彼等についても、最悪撃破せずに退却して構わないわ。少なからず戦力を削ったり痛手を負わせる必要はあると思うけど……とにかく」 資料の束を机に置いて、イヴは一同の目を見やった。 「この組織にアーティファクトを渡すわけにはいかないわ。皆、お願いね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月18日(火)22:27 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●生物と物体の境界 「道具ってのは静かじゃなきゃいけません」 『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)は愛用のニューナンブを器用に膝の上で点検しながら呟いた。 まるで体の一部を扱うかのようにてきぱきと組み立てていく。 「寡黙で、忠実で、勤仕的であるべきです。コイツとて弾頭を飛ばすためのトリガープル(発砲力)に過ぎません。しかし――」 「人の形をしていると、人に見えてしまう……と?」 自動車のハンドルを握り、『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)が呟いた。 振り向く守る。アルフォンソの向こうの更に向こう、窓の外には海が広がっていた。 「私もですよ。首だけになっても大丈夫とはいえ、流石に抵抗があります。五体満足で確保したいものですね、『それ』は」 ちらりと守の膝に置かれた肖像スケッチを見た。 エメラルドグリーンの髪に、陶磁器のような肌の、それは少女であった。 名を、ヴィオニッチ-CCC。脳死体から生まれたアーティファクトである。 揺れる車の後部座席。 『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)と『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)は沈黙のまま肩を並べていた。 「今回のこととかさ、どんな風に考えてんの」 「忍務でござる」 「いやいやその先だよ。子供にできなくてSHOGOにできることって、あるじゃん?」 「それは『大人にできること』とどう違う?」 「自分を大人だと思ってないトコかな。だから我儘も言うんだよ、大人げないってホントそう言う奴の為にあるコトバだよね。まあ、今回は皆大体似たような気持ちみたいだけど」 「…………」 再び沈黙して目を瞑る幸成。 そんな彼等の会話を聞いて、運転席のアーベル・B・クラッセン(BNE003878)はハンドルを指で叩いた。 ちらりと助手席を見る。 「オレの力が足りないせいで誰かが死ぬ。割り切ってはいたが……くそっ!」 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)が自分の膝を強かに叩く。口の中でキャンディが砕けたことにも気づいていないだろう。 「ねえ君、今回の件はあの事件とは関係ないよ」 「分かってる。これは代償行為だ。自己満足だ。だが……オレの意地でもある」 「ふうん」 それきり何も言わずに運転を続けるアーベル。 福松は銃を両手で握った。 「クリミナルスタアを、俺を舐めるんじゃねえ」 高速で流れていく景色を、『正義を名乗るつもりはないけれど』滝沢 美虎(BNE003973)と『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)はじっと見つめていた。 「アーティファクトを悪用するやつに渡さないっていう大義名分もあるけど」 「僕はそれ以前に、ヴィオニッチ-CCCは生物と認識している。人道的に助けることに決めたのだ」 「……だな」 「……ふむ」 ぬっと二人の間から姿を現す『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)。 「そろそろ到着しますぞ。ささ、支度をして」 彼が言うや否や車が停車し、ドアが開かれた。 眼前には長い階段が見えている。 この先に、アーティファクトの少女はいるのだろう。 頷き合って階段を昇り始める彼等を見つめ、九十九は自分の仮面を撫でた。 「まあ、子供二人の前で首を跳ねるのもなんですし……頑張ってみますかのう」 ●絶望者『ENDER』 時をあのタイミングまで巻き戻す。 浅黒い肌の少年だった。 彼は少女から伸びた長いエメラルドグリーンの髪を掴み、顔の前に吊上げていた。 少女、ヴィオニッチ-CCC。 彼の手を掴んでもがく少女に、少年……エンダーは蟲を見るような目で言った。 「うぜえ……」 手刀を振り上げるエンダー。 両目を開くヴィオニッチ。 彼女の首が予知通りに切断される――その一秒前。 「それでは皆様キャッシュを拝借――からのパニッシュ!」 大量の弾丸があろうことかエンダーの手(髪ではない。手である)に向かって飛来した。 片腕を振り上げていたエンダーは手への銃撃をモロに食らった。しかし反射的に髪を握りしめたため強い力で引っ張られることになり、ヴィオニッチの髪が一房無理矢理引きちぎられた。 「ウ……アアッ!」 「なんだテメェら」 頭を押さえて蹲るヴィオニッチ。 エンダーは千切れた髪を捨てて振り返った。 細身の剣を指揮棒の様につきつける陸駆。 「婦女子の髪を引っ張るとは最近の小学生でもしないいじめだ。エンダーとかいったな、貴様は弱い物いじめで悦に浸るタイプか?」 「ハッ、お前らコレを女だと思ってんのかようぜえなァ! 脳味噌ぶっ壊れてる肉の塊だぜ?」 守もまた銃の狙いをつけつつ撃鉄を上げた。 「その辺は意見の相違ということで。持ち運びに不便という理由だけで道具にはできませんなあ」 「ハァ、じゃあ首から下だけやるよ。好きに使っていいぜ、まだ『あったかい』からよ!」 「ンの野郎ォオオ!!!!」 福松がエンダーに向けて銃を乱射。 黒服にサングラスの男達が間に割り込み弾丸を素手で打ち落とした。 「チッ――!」 「出過ぎるな福松!」 「よっしゃカチ込みだーッ!」 美虎が全速力でとびかかり、黒服へと掌底を叩き込む。 「どっさい!」 「――!」 対抗して拳を叩きつけてくる黒服。二人の攻撃がぶつかり合い、衝撃が周囲にまき散らされる。 「幸成さん」 「アルフォンソ殿、御頼み申す!」 掻き消えんばかりのスピードで駆け出す幸成。アルフォンソは色々と無視してエンダーたちへと閃光手榴弾を投擲した。 激しい光と音に目を瞑るエンダー。 幸成はその中へと飛び込んでいたが、耳と目を塞いだまま非常に正確な動きでヴィオニッチを掠め取っていた。 ハイバランサーが効いていたというよりは、彼の類稀なる回避力がものを言った形だった。 「確保!」 「よくやった!」 小さくガッツポーズをとる美虎。 片目を覆ったエンダーが幸成へと手刀を繰り出す。 ヴィオニッチを庇いながらでは回避もままならない。幸成は自らの肩で彼の手刀を受け止めた。ずぶりと肉を裂いて突き込まれる貫手。 「ぐう……!」 「返せよ。頭だけでいいからよお、オラオラオラッ!」 連続で貫手を繰り出すエンダー。 そこへ九十九と守の銃撃が浴びせられる。 咄嗟に腕を振るエンダー。空中で手刀を叩き込まれた弾頭が片っ端からぐにゃりと潰れていた。 「な――」 「相手してちゃキリがないよ。邪魔者は相手しておくから先に行ってよ」 重火器を担いで黒服へと乱射するアーベル。 「まあ、大体全員邪魔なんだけどね!」 「忝いッ!」 ヴィオニッチを抱えたまま神社を飛び出していく幸成。 「逃がすかアッ!」 彼を追って駆け出そうとするエンダー。 しかし九十九と守が彼の進行を阻んだ。 「少女を追うのは却下ですぞ」 「貴方達にはここに留まって頂きます」 「うぜえ……」 エンダーは大きく跳躍すると、天井に一旦着地してから二人を追い越した。 「待ちなさい!」 「お前らの相手はアッチだ」 ニヤリと笑うエンダー。 次の瞬間、守と九十九は黒服の放つ気糸に絡め取られた。 九十九はするりと糸を抜けたが、エンダーは既に幸成を追って全速力で走り去った後だった。 「部下の頭数が多すぎます。こっちを相手にする必要がありそうですね」 ナイフを握り、サングラスの奥で目を細めるアルフォンソ。 エンダーを除いた敵の数は10名。 こちらが倒されればその分だけ敵を通してしまうことになる。 「ほんの少し、分が悪そうですよ……」 アルフォンソの額に嫌な汗が浮かんだ。 ●少女ヴィオニッチ、死と収束。 「逃げ切るまでは時間稼ぎさせてもらうぞ!」 美虎は両足をがっしりと地に付けると、業炎撃パンチを繰り出した。 拳で相殺をかけてくる黒服。 負けじと美虎は土砕掌を繰り出すが、それも拳で受け止められる。 互いに両腕が塞がったところで相手の手首を掴み取り、零距離で斬風脚を叩き込んだ。 蹴りと共に黒服のスーツが引き裂かれ血が噴き出す。が、男は表情ひとつ変えなかった。 そんな男の首へ素早く気糸が巻き付き、陸駆のタクト捌きと共にスパンと断ち切られる。 「お前達はもう追いつけまい。ここで停戦しないか。黄泉ヶ辻は裏野部ほど戦いに意味を見出さないんだろう。それとも、セリエバなるアザーバイドを彼女で探すつもりか。W00も躍起だな」 「答える義務はない。停戦の必要も感じない。死ね」 まるで機械のように述べると、男達は全く同じ動きで殴りかかってきた。 「さあ私たちも撤退です。全力で走らないと追いつかれますぞー!」 後ろ向きに銃撃を加えながらありえないジグザグ高速移動をする九十九。 「全力で走っても一方的な射撃を受けるだけです。応戦しながら走りますよ!」 盾を構え後ろ向きに走る守。 黒服が尋常ではない勢いでタックルをかけてくるが、なんとか盾で受け止めつつ鉛弾をしこたま叩き込んでやる。 同じく肩越しにフラッシュバンを放り投げながら駆けだすアルフォンソ。 「幸成さんは逃げ切っているでしょうか。そろそろ連絡が来るころですが……」 眉間にしわを寄せるアルフォンソ。 その時、彼のワイヤレスイヤホンに通信が入った。 『アルフォンソ殿、車が――!』 やや時間を巻き戻す。 幸成は片腕から大量の血を流しつつ、無事なほうの手でヴィオニッチをかかていた。 それでも走るスピードはそれほど落ちてはいない。 前傾姿勢のまま上半身を動かさず、目にもとまらぬ程の速度でゆるやかな石階段を駆け下りていた。 ここまではまだ良い。 問題はこの先だ。 「うぜえ、うぜえ、うぜえんだよ! 止まれ忍者野郎! そいつの首置いていけェ!」 「……ア」 エンダーが恐るべき速度で追いついてくるのだ。 少女とは言え重荷を抱えて走る幸成との距離は徐々に縮まっている。 怯えるように縮こまるヴィオニッチ。幸成は彼女の額をそっと撫でた。 「心配召されるな。我らが平穏を取り戻して進ぜよう」 「ァ……」 「石階段を抜ければ福松殿に用意して貰っている車がある。それに乗って逃げるのみ……見えた!」 樹木を突っ切ってショートカットすると、四輪駆動車の上へと出た。 数メートルの高さを迷わず飛び、車の上へと着地。軽く衝撃を吸収しつつ側面へと降り立った……その時である。 「車でトンズラだあ!? 俺様を舐めてんのかテメェらあああああああ!!!!」 隕石の飛来。 そう思える程の光景だった。 頭上から業炎を伴って飛来してきたエンダーが、車を天井から地面の砂利まで拳と己の身で貫いたのだ。直後に四輪駆動車は爆発。 幸成は爆風と破片からからヴィオニッチを守るが、背中にいくらかの金属片が突き刺さった。 歯を食いしばる幸成の側頭部を蹴りつけ、地面に転がすエンダー。 悲鳴をあげて幸成から離れるヴィオニッチを無視して、エンダーは幸成の髪を掴み上げた。 左右非対称に顔をゆがませる。 「手こずらせやがって。人間人間うるせえんだよお前らは。そんなに良い人ゴッコがしてえのか? うぜえ! うぜえうぜえうぜえうぜえ!!!!」 幸成の顔面に先刻の業炎撃を連続で叩き込んでくる。幸成は必死で通信機を起動させると、アルフォンソへと通話をいれた。 「アルフォンソ殿、車が破壊されたでござる。自分も、もう――!」 通信を受けたアルフォンソは青ざめた。 車が破壊された? その場に居るのは少女を庇う幸成のみ。 ここから導き出される答えはたった一つだ。 「任務が……少女を……? 失――」 「まだあきらめんな! アルフォンソ、車を出せ!」 「石階段の上ですよ」 「まあそう言わないで。じゃ、君達へのパニッシュはまた今度ね。さいなら!」 翔護は周辺の樹木や石の塔へ滅茶苦茶に銃撃を加え敵の進行をほんの僅かに止めた。 「アベクラちゃん、SHOGOのダチをよろしく!」 「誰がアベクラちゃん? まあいいか、ちょっと気負い気味みたいだし」 アーベルはAFからバイクを取り出すと、福松の襟首を掴んでシートへと飛び乗った。 「じゃ、行くよ。ラストチャンスだからね?」 ●ラストワンチャンス 「う……ぐ……」 幸成の意識は朦朧としていた。 普段隠していた顔の半分も露出し、代わりに血でべっとりと濡れている。 「ま、こんなもんでいいか。次はお前だ『ヴィオニッチ-CCC』。どうせ上が欲しがってんのはテメェの脳味噌だけだ。それまではたっぷり遊んでやる。来い!」 ぼろきれを引き千切り、首を掴んで吊上げる。 「ア……ウウ……」 苦しげに呻くヴィオニッチ。幸成が薄れゆく意識と閉じ逝く視界の中で手を伸ばす。届く距離にはない。自分の手がなぜこんなにも短いのか。彼はその一瞬だけ自分の人間としての器を呪った。 そして彼の意識がぷつりと切れ――。 「幸成いいいいいいいいい!!!!」 上空。 樹木を突っ切って一台のバイクが飛び出してきた。 運転しているのはアーベルだ。彼はニヤリと笑うと、エンダーへと無理矢理バイクを叩きつけた。 ヴィオニッチを手放して素早く飛び退くエンダー。 宙を舞ったヴィオニッチは手を伸ばし。 バイクの後部シートに跨った福松が手を伸ばす。 指と指。 距離にして5センチ。 「いいね」 アーベルは車体を無理やり傾け、その距離を埋めた。 がしりと掴まれる少女の手。 福松はヴィオニッチをしっかりと抱きとめる。 「待て、そんなクズ鉄ぶっ壊して……」 拳を握って飛び出すエンダー。 そして、視界の端に一台の車を見つけた。 「アルフォンソ」 「はい」 「撥ねろ」 四輪駆動車がエンダーに激突。 完全に不意を突かれたエンダーはきりもみしながら車の上へ跳ね飛び、ルーフを跳ねてアスファルトへと落下した。 急停車する車。 「幸成さん、乗ってください!」 「でもってすぐに出発ですぞ!」 九十九と守が幸成を素早く回収。 アクセルを思い切りふかして走り出す車とバイク。 エンダーが顔を上げた時には、彼らのナンバープレートしか見えなかった。 「……くそっ!」 地面を殴り砕くエンダー。 「ふざけんな、くそがっ! 次に会ったら絶対にぶち殺す!」 ●その少女、禁忌につき――。 ぐったりとした幸成を座席に横たえ、皆はパーキングエリアを訪れていた。 「ここまで来れば安全でしょう。休憩を」 「……忝い」 アルフォンソからコーヒーを受けとり、幸成は身体を起こした。 「皆は」 「今後のことを話し合ってるよ。ほら」 別の車内にて。 「わたしの服貸してやるよ。着かた分からないのか? あーもーしかたないなー、こっち来い」 美虎はヴィオニッチに下着や服を着せてやっていた。 車の外では九十九と守が背を向けて立っている。 「彼女がいて良かったですね」 「私らがやったら犯罪臭いですからのう……所で」 「ええ、『ヴィオニッチ-CCCの人間的保護』は連名で申請する予定です。身体がただの箱だとしても、私達の信用を失ってまで脳摘出を行ったりはしないでしょう」 「私も、経費の負担くらいなら協力できますかな」 「それに、あの人を信じていますし……」 俯く二人。 車のドアが開き、美虎が顔を出した。 「もういいぞ」 とりあえずは椅子とテーブルのある所へ集まって、彼らはヴィオニッチの様子を見ていた。 与えた食べ物を手づかみで食べている。 「えーとおまえ、ヴィオ……ヴィ? 呼びづらいな。おまえ、本当の名前は何て言うんだ?」 ホットドックと一緒に自分の髪まで食べてしまいそうなのでと前髪を払ってやる美虎。 するとヴィオニッチは美虎を見て口を開けた。 「――『知りたい?』」 「ぇ?」 小さなてを伸ばしてくるヴィオニッチ。 美虎は妙な感情を覚えながらも手に触れようとし――手首をがしりとアルフォンソに掴まれた。 「だめです。彼女に『質問』をしたら、だめです。そうですね、福松さん」 「………………ああ」 福松の手には、千切れた襤褸が握られている。 「断片記憶を読んだ。彼女……ヴィオに接触したあらゆる人間が、彼女に何らかの質問をして、その直後に発狂して自殺していた。俺達でも、例外じゃないだろう」 「人と接触することで害を及ぼすアーティファクト、か……」 目を細めるアーベル。陸駆ががたんと立ち上がった。 「それでも彼女は人間だ。生きているし、食べているし、怯えもすれば、苦しみもする」 「そうだね。そして、悪意無く人を発狂させてしまう」 「…………」 「本当はあのまま物体として扱った方が一番楽だったのかもしれない」 「でも、でも……」 指を震わせる美虎。 そんな中、翔護がズズーッとジュースのストローを鳴らした。 「いいんじゃないの、女の子扱いしてあげてよ。ほんとに死んじゃうまでの間でいいからさ」 天井を見上げる翔護。 ヴィオニッチは無邪気に、指についたケチャップを舐めとった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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