●ふぁいあー! はぁー はぁー はぁー。 「ぎゃあぁああっ」 はぁー はぁー はぁー。 「あァああアアアああああああ!!」 はぁー はぁー はぁー。 「熱い熱い熱いぃいいギァあァア」 はぁー はぁー はぁー。 パチパチと火が爆ぜる。喚き散らしてのた打ち回る。肉が焼ける臭い。 はぁー。はぁー。はぁー。 二酸化炭素が恋しくて、フロギストンが愛らしくって、何より何よりのた打つそれらに絶頂すら覚えるのだ。 「ヤダぁ、超、 い き て る ……♪」 くやしいかんじちゃうびくんびくん。 箱舟が来たら見られちゃう? アハハノハ。 『あの子』が見たら何て思うかしら? ウフフノフ。 ●119 「なんとも奇妙な……それでいて不気味な事件を察知致しましたぞ」 常の様に事務椅子をくるんと回し振り返った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が眉根を寄せて皆を見る。 「フィクサード組織『黄泉ヶ辻』はご存知ですか?」 黄泉ヶ辻――日本において活動するフィクサード集団の内、最も大きな七つの組織『主流七派』の閉鎖主義集団。主義も思想も謎、それ故に気味が悪い『気狂い集団』で名を馳せている異色であるが故に何処からも腫れ物扱いされている組織である。 「その黄泉ヶ辻に属するフィクサードが、一般人15名を……これは何と形容すべきなのでしょうか」 言下、モニターに映し出されたのは――吐き気を催す光景。 火達磨になって地面をのた打ち回る一般人達。音声こそ聞こえないが、大きく開かれた口からは凄まじい悲鳴が迸っている事が容易に想像出来た。 その上、よく見れば一般人達は足首と手首から先が切断されている。まるで意図的に『逃がさない』と表すかのように。 「犯人のフィクサード『パイロさん』阿国・シュタールが所持するアーティファクト『プロメテウスの不腐骨』、これは火を操る力を持つモノなのですが、この炎には『殺す力』がございません。つまり、彼等は生きながらに焼かれ続ける苦しみを味わい続けているのです……逃げる事も出来ずに、延々と」 一体、何の為に。 「その目的が……不明なのですよ。『あの子』――関係者らしき人物はいる様なのですが、それも不明。 一際不気味なのが、どうやら『アークの反応を窺っている』ようなのです」 不気味な組織の不気味な行為。 何かしら、何かしらぞっと、首筋の裏に嫌なモノが伝う。 「兎角、この蛮行を阻止せねばなりません。皆々様に課せられたオーダーは『一般人半数以上の救出』でございますぞ。 フィクサードの実力は厄介なレベルだと思われます。そのアーティファクトの能力も相まって、一筋縄ではいかないでしょうな」 お気を付け下さいとメルクリィは言う。頷きを返した。 「それでは――皆々様のご健闘をお祈り致します。どうか、お気を付けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月18日(火)22:25 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●ふろぎすとんとん 然し静まり返った夜だった。 「黄泉ヶ辻か……」 黄泉。同じ黄泉を名に持つ『黄泉比良坂』逢坂 黄泉路(BNE003449)は廃ビルの階段の彼方を片方だけの目で見遣りつ、ほんの小さく呟いた。此度の任務ではフィクサードの討伐は問われていない。逃したところでまた繰り返されるのであればここで仕留めておきたいが――あくまでも目標は一般人の救出だ。既に手足を失っていると聞くが、時村財閥がなんとかしてくれるのだろう。そう信じる他に無い。希望的観測と共に無形の闇をその身に纏う。 「趣味が悪いなんてものじゃないですね」と応える『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)と『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)も同意見だ。だがそれは個人的な感想に過ぎず、やるべき事をやるだけ。ただそれだけ。アルフォンソは攻撃教義を、京一は守護結界を展開しつつ。 カン、カンと階段を上る。 微か、僅かに火の気配。 「火で人を傷つけますか、手足切ったりしますか」 溜息の様に、集中を重ねる『ブラックアッシュ』鳳 黎子(BNE003921)は言葉を吐く。あー。あーあー。懐に仕舞い込んだ朱い炎。ちょっと嫌な事を思い出してきた。 「嫌ですねえ嫌ですねえ。殺してしまいましょうねえ」 浅く顰めた顔で物騒台詞をサラリ。最上階から吹き下りる熱い風に闇色の黒髪を靡かせ、その手に持つは双頭鎌:双子の月。 「人が苦しむ姿を見るのが好き……ね」 僕も大好きだよと口元に薄い笑みを浮かべる神父の名は『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)。されどその紅い目は何一つ笑っちゃいなかった。苦しむ姿が好きだ。アレみたいな蛆虫野郎が同じように苦しんで、こっ酷く死んでいく所を見るのがね。 それにしても黄泉ヶ辻と裏野部連中は気違いばかりだ。手心なんて不要だろう。 さあ。 階段を上りきった先、めらめら炎が一面に。 「……報いを受ける時間だよ。言い残す事は?」 問うた、視線の先。炎と悲鳴の向こう側。異様なニタニタ笑いがあった。口角を吊り上げたままべろぉと舌を出した。黄泉ヶ辻フィクサード、阿国・シュタール。言わせたいなら言わせてみろ、そう言わんばかりに。 それを射抜くのは白衣を纏った蒼い瞳。手術用手袋を深く填めて。 「この非道を許せるほど出来た人間ではありません。これ以上の非道を許さないために、ここで終わりにします」 一歩、仲間へと翼の加護を授けた『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は戦地へと。炎の赤の中、翻る白衣の白。前を見据える蒼い双眸。そしてその唇が、紡いで曰く。 ――水でも被って、反省しなさい。 ●火火火! アォーン、とルー・ガルー(BNE003931)の狼を思わせる遠吠えがフロアに響いた。それに誘われる様にメラメラが火の粉を弾けさせながら突進してくる。白狼の毛皮を靡かせる狼少女はそれに真っ向から踏み込み、アイスネイルに氷点下を乗せてひょんと振るった。手応え。直後にメラメラが動きを止めずに火を吹いた。ごう。熱い。赤い視界。 「ウー、」 然し、ぶるると体を振るって火を振り払う。獲物に牙を剥く。 「ルー、メラメラ、キカナイ」 タタカウ、タノシイ。轟と吼えた。 さて、動き始めた戦場。阿国の放った殺さぬ炎の奔流を構えた腕で防ぎつつ、焼かれつつ、制限を外した膂力を以て『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)はフィクサードへと駆ける。体に燃え移った赤い火。肌を肉を焼く火。痛み。肉の焼ける匂いが鼻を刺す。出来れば嗅ぎたくないものだ、自分が焼ける匂いなんて。 「さて……一般人をこんな目にしたのでござるから覚悟はもうとうにできてるでござるな?」 橙の隻眼で鋭く見据え、踏み込むや気を込めた居合一閃。黒の剣閃。悍ましい程の切れ味を誇るその刃の名は、鬼影兼久。ぶつかり合った。阿国の大振りなソードブレイカー。拮抗し合う。そんな二人を炎が包む。文字通りの灼熱。ギリギリと刃同士が力同士が擦れ合う。 「ハァはははは。何の覚悟? ドンナ覚悟? 君もメラメラ燃えてくれるのかい?」 「趣味悪いでござるなぁ。火遊びが楽しいなんて、あんた幾つでござるか?」 「33! おじさんハ?」 「33……同い年じゃないでござるか、最悪でござる!」 顔を顰めつ、さぁ気張り時だ。 自分がコンガリ肉にされるのが先か、相手がナマス切りになるのが先か。 おぉおッと吼える同時に薙ぎ払う。刃を構え、虎鐡は不敵に笑んだ。 「お前は、拙者が相手をするでござるよ?」 かかって来い。黒い刃に映るは、敵を射抜く橙の瞳に燃え盛る炎。 そんな虎鐡を、或いはあちらこちらで悲鳴と共にのた打ち回る人々を包み苛む炎を掻き消したのは、京一が放った魔を砕く聖光に凛子が呼び出した聖神の慈愛。忌まわしい炎が消え、気の狂った悲鳴は啜り泣く様な呻き声へとシフトする。殺さぬ火。だが一般人達の全身の火傷は放っておけば命に関わるものだろう。痛い、痛い、助けてくれ、とか細い声。 「本当は真っ直ぐ行って、阿国をこの手でブチ殺してやりたい所なんだけど……」 そうボヤくロアンの役割はフィクサードの相手ではなく、一般人の救助。何の罪も無い者が理不尽に殺されていい筈は無い。神を信じぬ不敬なる神父であるが、悪魔を崇拝する外道になった覚えは無い。予定も無い。この先も。 全員で15人――3人で全力で救出活動を行うとしても、時間がかかるだろう。戦況を見渡すアルフォンソは一般人を救わんと手を伸ばした、その目の前に立ちはだかるメラメラ。弾ける炎。彼の目の前で一般人の呻き声が途絶えた。死を以て。 「くッ――」 5体のメラメラをブロックするのは京一、黄泉路、黎子、ルーの『4人』。どうしても、人手が足らない。迫る炎と共にメラメラに行く手を阻まれアルフォンソは狼狽する。噴き出される火が彼の肌を焼く。 刹那、黒い瘴気の矢が横合いからメラメラを穿った。黄泉路が輪廻より放った暗黒。彼の生命力そのものを矢に変えた一撃。 「急げ、エリューションが増やされる前に」 生命力が削れる感触というものはいつやってもあんまり心地良いものではない。僅かに眉根を寄せて言い放った黄泉路は得物を構えて飛び来る炎を防御した。阿国が放つ炎は周囲の黄泉路達をも巻き込む。更にメラメラが放つ火。また一人と命が消える。 これ以上、殺させるものか。助けられるだけ助けてやる。 「彼らは僕達に任せて、君達は安心して戦っておいで」 どうか奴に報いを。思いを胸に、ロアンは近くに居た者を抱え上げるや影の従者に己と一般人の身を護らせながら走り出す。安全圏へ。このフロアの外へ。呻く声。酷い火傷だが、生きている。だがその手首と足首から先は無い。悪趣味にも程がある。湧き上がる赤黒い感情を奥歯を噛んで押し殺し、フロア外へ移動した神父が浮かべるは優しい笑顔。そっと一般人を下ろしつつ。 「よく頑張ったね。もう少しの辛抱だよ、必ず助けるから」 神様とやらのご加護が、きっと。 ――尤も、神なんて信じていないのだけれど。それでも言った。安心させる為に。 走る炎が凛子を掠める。肌に文字通り燃える様な痛み。酷い熱。大量の汗が戦女医の額を伝う。ふ、とマスクの下で息を吐き肩を弾ませ。 「大丈夫ですか? 今助けます、もう少し頑張って下さい」 抱え上げるは京一のブレイクイービルによって炎から解放された一般人。凛子が救出を試みんとしているのは阿国に近い者達から。だが、己の近くで『何かしている』彼女をフィクサードが放っておく筈も無く――況してや気狂いで有名な黄泉ヶ辻だ――炎の渦で虎鐡を閉じ込め呪縛した阿国が笑いながら一直線に炎を放った。 「!」 迫りくる高熱。赤に飲まれる、白。 然し、凛子は抱きあげた『患者』を護り通した。その為に背中が真っ赤に焼け爛れる事になっても、悲鳴一つ洩らさない。倒れる事は無い。それがどうした。この程度。助ける為なら。それが医者というものだ。具に睨み据える。 「……この程度の火で、私の気持ちを消す事などできはしない」 生と死の狭間で、出来ることを為すだけ。言下に白衣の内より取り出すは火炎瓶、阿国の足元へ投げ付けた。火。火だ。とんだ火フェチの変態はついついそれに視線を奪われる。その一瞬、一瞬だけで良かった。 「たとえこの身炎に包まれようともこの太刀筋は変わらないでござる!」 呪縛を振り解いた虎鐡が阿国の背後を強襲した。振り抜いた渾身の一打がフィクサードをブッ飛ばす。壁に叩き付けられた阿国のくぐもった悲鳴。肩を弾ませ刃を構える虎鐡。強敵を一人で食い止めているが故に彼の消耗は激しい。咳き込む咽まで火で焼かれているのか、喋り辛そうだ。 直後に「大丈夫か」という言葉が同時に放たれる。そして苦笑。どっちもどっちだ。だが泣き事を言っている暇は無い。 駆ける。 救う為。 そして安全圏にまで運んだ彼等に医師はペットボトル入りの清涼飲料を手渡した。本当なら一人一人治療したいが、往かねばならぬ。再びあの炎の中へ。まだ患者が待っているのだ。それを助けねばならぬのだ。一人でも、多く。少しでも、多く。 「あぁ、もう、暑くてイライラしてきました」 飄々とボヤく黎子の体には朱い炎が纏われていた。フィクサードやエリューションの炎をも焼き尽くす消えない炎。そして彼女自身すら焼き焦がす劫火。嫌われているのだ、きっと。『彼女』に。思いつつ、そして八つ当たる様に一帯へ舞わせるは告死のカードの嵐だった。メラメラを真正面から見据えた死神が微笑む。何度も。何度も。死に絶えるまで何度でも。 さぁ次だ。斯くして黎子は一歩踏み出そうとしたが―― 「! メラメラが召喚されますよー!」 横目で動向を窺っていた阿国が、新たに炎を召喚している。虎鐡を倒したのか、されど虎鐡の奮戦の証としてフィクサードの体には決して少なくは無い傷が刻まれている。舌打ち。一般人の救助はまだ完遂していない。救うべき彼等を護る様に黎子は踏み出し、その手に持った赤と黒の月を振るった。切り裂く舞踏。炎の中。 プロメテウスの不腐骨による劫火が奔り、メラメラの炎が弾ける。 また一人と救われる。また一つと運命が燃える。 阿国は点けても点けても炎を消す京一が気に喰わなかったのか。文字通り喰った。ホムラグヒ。その傷を大きく癒す。頽れた京一を見、そして敵を見、黄泉路は己の痛みを悍ましき呪いへと変えて撃ち放った。その威力に押し遣られた阿国が彼へ意識を向ける。目が合った。 「あんたの火、その程度か?」 小学生の火遊びじゃあるまい、放つのは皮肉気な笑みに挑発の言葉。 「あんたの技で、俺を燃え上がらせてみろよ」 知らない技が見たい。欲しい。火之迦具土神の名を冠するその技を。 意地悪い者なら敢えてもう一つの独自技を繰り出しただろう。冷静な者なら一笑しただろう。だが阿国はそのどちらでもなかった。イイヨ、と歯を剥いて笑って、そして。黄泉路とルーを巻き込み吹き上がったのは劫火の渦。カグツチフリーズ。その焔に閉じ込める。 「火への愛が! あれば使える! なけりゃ無理だよ! タラナイヨ!」 笑う、その横っ面を。氷の爪が切り裂いたのは直後。 「メラメラ、ダメ、ヒエヒエ、アテル」 ルーには炎も呪縛も効かない。先を消費し、倒れる事を拒絶した狼少女は再度氷爪を振るった。それを防ぎつ、跳び下がった阿国がメラメラを召喚する。 「またですか。全く――」 黎子は新たな標的へ踏み込もうとした、が、転倒。一撃必殺の代償。振り下ろされたメラメラの火を構えた鎌で受け止める。嗚呼、私の様な人間には、不運と悪運がお似合いだ。皮肉を浮かべつ、振り払って踊る。躍る。纏めて切り裂く。邪魔だ、退け。 「ケタケタ」 フィクサードは笑っていた。興奮。恍惚。次は何を燃やそう。あの地面に転がる真っ赤に焼け爛れた奴でいいか。そう思った視界の隅。火が――メラリ。 「!」 振り返ったそこには、凛子。己が手袋に火を点け、凛然とした眼差しで奇人の意識を惹き付ける。 「どちらを向いているのです?」 静かな、それでいて響く低いハスキーボイス。 「余所見をしていると、貴方の火……私が全て消してしまいますよ?」 刹那、戦場を吹き抜けたのは死を奪う聖なる風。清らなる者の手が優しく撫でれば、火も、傷も、痛みも、立ち所に消えてしまう。その様子に阿国が露骨な嫌悪感を示した。火を消しやがった。赦せない。骨の髄まで火達磨にしてやる。 一歩――だが、その直後。 「キミを、裁く」 阿国の死角を狙って繰り出された殺意の猛打。ロアンのブラックジャック。肉薄する。薙がれる炎の一撃を腕で凌ぎつつ。 「神が裁かないのなら、この僕が裁こう。もう一度訊くよ……何か言い残す事はあるかい?」 「燃えろォ~~♪」 「ああ、そうかいそうかい。安心して、ちゃんと燃えてきた……この力でお前を捻り潰せるのかと思うとね!」 煌めかせる鋼糸クレッセント。冷たく無慈悲な月の光に黒い殺意が籠る。 その間に、凛子は倒れた一般人を抱え上げる。阿国を視線で射抜く。 「……快楽のために他者を苦しめる事しかできないなら解らない。 他者にあたるしかできないならば見つける事ができない。 人は足がなくても腕がなくても、生きる事の尊さが解れば――幸せになれるという事を」 厳しく、鋭い物言い。『医術とは延命に他ならず、命あるものはいずれ消える運命にある。だからこそ命に対して真摯に接する』――そんな行動理念を抱く彼女にとっては、徒に他者の命を玩ぶ存在が赦せなかった。 殺すなら生かす。傷付けるなら治す。それが凛子の、戦い方。『最後の一人』を抱えて走る。安全圏まで運搬する。救った数は、10。「もう大丈夫です」と声を駆けつつ凛子は息を吐く。助けられなかった者が居るのも事実だが、それでも目標以上の命を救う事は出来た。 どっと押し寄せる疲労感。それを押し殺し、凛子は振り返る。フィクサードはどうなったのか。 薄笑い。 黄泉路のペインキラーに肩を穿たれ阿国は飛び下がる。もう一般人はリベリスタに連れていかれたか死んだかの二つしか居ない。となればもうこれ以上ここに居る必要は無い。目的は果たした。『あの子』の為に。 ケケッと笑う、それに嫌なモノを覚えた黎子が皆へ注意を呼び掛けた――メラメラ召喚?否、違う、その為の集中では無かった――阿国が『落ちる』。まるで床なんて無いみたいに。消える。下へ。 物質透過か! 「氷河さん、翼の加護を!」 思った瞬間には声を張り上げ、窓の外へと飛び立っていた。与えられた翼を翻し、黎子は下を目指す。空を切る音。追いかけてやる。追い付いてやる。 「あー嫌ですねえ! ほんっと嫌ですねえ!!」 噛み締める唇。己を急かす様に燃える朱焔。まるで。まるで。 (絶対に殺せって朱子に言われてるみたいじゃないですか……!) 苛立ちを押し殺す。降り立った。見渡した。されど、そこには誰もいない。逃げられたか。ああ、あー。舌打ち。嗚呼。苛々するこの気持ちは誰にぶつければいいんだろう? ●イチイチキュー そして静まり返った夜だった。 助けた一般人達は財閥と本部の方で上手く対応してくれるだろう。 気が付いた虎鐡は壁に凭れつつ、大きく安堵の息を吐く。だが、拭いきれぬは一抹の不安。 「あの子ってのが気になるでござるが……」 あの子。黄泉ヶ辻フィクサードによる似通った一連の事件。 彼等は一体何が目的だったのだろうか。あの事は一体誰なのだろうか。考えれど、頭を振る。今は所詮、全て推測にしか過ぎないのだから。何れ分かる日が来るのか――何となく嫌な予感だった。 兎角、今回の任務は完了である。火傷だらけのロアンも一つ深呼吸を。 「助かる者と助からない者、やっぱり神様の愛は不平等だよ……」 握り締める手。フィクサードはこの手で殺す。必ず殺す。今の自分にはそれが出来る力がある。 罪無き者には救いを、悪には相応の報いを、この手で…… 全てを見下ろす夜は、ただ、静かに微睡んでいた。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|