●迷子さん ここはどこ。ぜんぜんしらない。こわいよこわいよ、みんなどこ? その子は山の中、泣きじゃくりながら走っていた。 怖くて、怖くて、心細くて。 ――そして、山の中に響く泣き声を聞きつけて。 暗闇に光る不気味な目が、その子を捉える。 ●でっかいちっちゃい子 「子供のアザーバイドが迷子になっとります」 と、『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は事務椅子をくるんと回して皆を見遣った。 その背後モニター。 パッ、と映ったのは――要塞。主砲にキャタピラーに装甲にサーチライトにズララッと並んだ砲門、メカニカルな外見。なんていうか浪漫の固まり。 それが、ぴーぴーと悲しげな声で泣いている。いや、涙は流れてないんだけど、なんていうか泣いている。要塞が。 「この子は上位チャンネル『要塞の世界』から迷い込んでしまった要塞型アザーバイドの幼体ですぞ。人間でいうと六歳児ぐらいですな」 子供……このちょっとした民家ぐらいの大きさをした要塞が六歳児……。 「なんでも、大人になるとそりゃーもう大きくなるとか。 それはさておき、暫くすると付近にバグホールが出現しますので、そこからこの子を帰してあげればOK……なのですがっ。 この子、カラスのE・ビースト三体に襲われております。フェーズは1でそこまで危険性は高くない上にアザーバイドの耐久性能が文字通り『要塞』なので、この子の身の危険はぶっちゃけゼロなんですが」 ズームアウト。迷子がいるのは山間の空き地。 「パニックになったこの子が『ありったけの武装を展開』したら……まぁ……辺り一帯が焼け野原になりますね……」 つまりこういう事だ。 今回の任務は、ほっとくと山を焼け野原にしちゃう迷子のアザーバイドをヨシヨシイイコイイコ可愛い可愛いして宥めつつE・ビーストを早急にやっつけてアザーバイドをヨシヨシもふもふ可愛いきゅんきゅんきゅいした後に名残惜しいけどバグホールから帰してあげるという納得の感動だ! 「お分かり頂けましたでしょうかっ!」 はい、存分に。 そう言えばこの子に父親や母親はいるのだろうか? 「えぇと、この子……というか彼ら要塞は、年老いた要塞がバラバラになって、そこから新たな要塞が生まれるそうで。でも、保護者的な存在はいるらしいですよ」 まぁなんにしても迷子はちゃんとお家に帰してあげませんとね。と、締めくくり。 「それでは皆々様、お気を付けて行ってらっしゃいませ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月29日(土)22:29 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●邂逅、迷子さん 気温は秋だが、日差しは夏。緑の山に蒼い空。一見して平和だが――見遣る彼方には、『走る巨大な何か』に盛大に木々が揺れ薙ぎ倒されているという光景。 その理由を、原因を、リベリスタ達は知っている。 「鉄壁要塞。なんかゴツい名前じゃな……」 中身は子供なんじゃし、要塞ちゃんとでも呼ぶとするかのう。ゴシックドレスから覗く尻尾をくねらせ『巻き戻りし残像』レイライン・エレアニック(BNE002137)が言う。泣いている子供を守るのは大人の役目だ。この世界に居る間は自分達が保護者になってあげなくっては。 「迷子の迷子の要塞君、か」 呟いたのは『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)。応える様に『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)は頷き、仲間と共に『走る巨大な何か』――要塞型アザーバイドの子供が居る方へと向かう。 何でもそれは、中空を舞い自立稼動しあらゆる武装をしているらしい。そして要塞におけるソレは確かに現代社会に於いても要足りうる要素が多く、雷慈慟にとって彼(彼女かもしれないが)は研究対象としてもその内容に余念は無い。一概に言えば興味深い。 (とは言え……) 件の要塞の精神は幼子のそれと聞き及ぶ。それにこの世界を害する存在でないのであれば、無事故郷へと帰してやるに限るだろう。 「……誰もが己の居場所を持っているモノだ」 自分の様に、共に歩む仲間達の様に。その通りだ、賛同する様にエルヴィンは近付いてくる大音の方を具に見澄まし。 ――この気紛れな一時を、素敵な思い出にできるように。 「ひとつ、気合を入れて子守と行こう!」 そして茂る木々を派手に薙ぎ倒し――ぴーぴーとパニックに泣きじゃくっているのであろう大要塞<小さな子ども>が出現する! ●袖触れ合うも他生の縁 「迷子の迷子の要塞さん、あなたのお家はどこですか♪」 「わ、大きな子供ネ! OK、ワタシ子供大好きダヨ!」 先ずは一旦停止して貰わなくては。『眼鏡っ虎』岩月 虎吾郎(BNE000686)と『継戦装置』艶蕗 伊丹(BNE003976)、そしてエルヴィンが要塞の進路上へと立ちはだかった。伊丹はぴょんと跳ね手を叩き、大きな声で挨拶を。 「ハロー、ハロー! 元気な子ダネ! デモちょっとストップダヨー!」 ガートルワンドをぐるぐる回し、ぴーっと泣く子へ注意を促す。言葉?そんなモノは大丈夫、コミュニケーションは表情とノリとジェスチャーだ。眩い笑顔でアピール。尤も伊丹はいつも笑顔だけれど。 が、車は急に止まれない。要塞も然り。 やっぱりそうなるよな――なんてエルヴィンが思った直後。ドズンッと生半可じゃない衝撃が3人に伝わる。ハイディフェンサーで防御を固めたエルヴィンでさえ意識がぶっ飛びそうになった。虎吾郎も思わず呻き声が漏れそうになったが、それを押し殺し広げた両手でしっかりその子を受け止めていた。誰一人吹っ飛ばされた者はいない、踏み締めた足が地面にめり込み抉り引き摺り2本の線を付けてはいるけれども。 急に目の前に跳び出してきた見知らぬ生命体が自分を受け止めた事に要塞は狼狽しているのか、怯え驚いたかの様にボボボッと機関が呻る音がした。そんなその子を、虎吾郎はその大きな腕でぎゅっと抱き締め撫でてやる。優しい声と一緒に。 「よしよし、もう泣かなくてもいいんじゃよ。怖くない怖くない」 発するマイナスイオンに少しだけ落ち着いたのか、要塞はそれ以上前進する事はなかった。彼の言葉はバベルの力を持つエルヴィンが訳し、異界共有の力と共に話しかける。 「こんにちは、痛いところはないか? ひとりで怖かったな、寂しかったよな」 もう大丈夫だ、俺達が側に付いてるから。優しく身体を撫でながらの言葉に、返って来たのは『ぴきー』という幼さを感じさせる電子音だが――バベルの力を持つ者にはこう聞こえた。 『あっちからへんなのがくるよぉ! こわいよこわいよー!』 どうやらリベリスタ達は味方と見てくれたのか、ゴッツいメカアームで受け止めた3人をぎゅむっと抱き締め泣きじゃくる。そんな様子に、『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)は溜息一つ。「あぁほら、泣かないの」と仲間が蒼い顔をする程に力を込めて抱きしめている機械腕をぽんと叩き。 「大丈夫、君を苛める悪い子は、俺たちが何とかするし。君は安心してみてなよ」 そこまで言って。あぁ、自分の言葉は通じてないんだっけ。まぁ恥ずかしいし通じなくていいんだけれど。要塞は分からぬ言葉にキョトンとしている。 「とにかく、安心して待っててよね」 なんだか照れてちょっと視線を外しつつ。吐き捨てる言葉だが、それは彼が素直じゃないだけで。自分より適任の人が上手く宥めてくれるだろうし、この子も安心するだろう。知り合いのところのチビちゃんしか相手をしたことないし。 「まぁ、母性(?)とかよくわからないけれど……」 ぽそり、呟いき視線を逸らしたそこには。 「おやおや、随分と大きな迷子さんじゃのう。もう大丈夫じゃ、正義の味方が助けに来たぞよ!」 優しい笑顔とゆっくりな言葉、武器等は持たずにレイラインがバベルを駆使して要塞に話しかける。 「あの『へんなの』はわらわの仲間がすぐにやっつけてくれるからのう、怖がらなくても大丈夫じゃよ」 じゃから暴れるのはだめじゃよ?と。頭を――頭どこじゃろ――取り敢えず背伸びして届く一番高い所をなでなで。よしよし、もう大丈夫だからとその声にようやっと腕の力を緩め、泣きじゃくるのは止まったようだ。虎吾郎も優しい声でその子を撫でつつ、 「怖いものが来たらお爺ちゃん達が守ってやるからのう・帰り道ももう少ししたら出てくるから、少しの辛抱じゃよ」 『ほんと? ほんとに?』 「ほんとじゃよー。所で、坊やは名前は何と言うんじゃ?」 『ぼく……7313Φ吽』 ナナサンイチサンファイウン。ううむ、長い。ナナと呼ぼう。そう思いつつ。 「わしは岩月虎吾郎というものじゃよ。虎お爺ちゃんと呼んでもらって構わんよ」 『とらじーじ!』 人間だったなら、差し詰めその虎姿に目を輝かせていると言ったところか。 先ずは一安心。一段落ついた所でエルヴィンは鉄壁要塞を少しでも落ち着かせられるよう、そしてその猛突進を受けた味方の回復をする為に詠唱を始めた。伊丹も同じ呪文を唱え、そして。 「疲れモなんでもバッチリ回復してアゲルヨ! ソレー」 キラキラなエフェクト大増量でお届け!柔らかな福音、輝く奇跡が皆を包む。すごいすごいと要塞は感激している。 そして、そんな輝きの中だった。 雨雫のマジカルステッキ:レイン・ベル・メイガスが掲げられると共にリンと鳴る。 「ジャスティスシャァァァァイン!」 張りあげる声と共に輝く光。シャランラーとピンク色のフリフリドレスが纏われ―― 「魔法少女ジャスティスレイン、推参!」 現れたのは魔法少女服(25歳男性)。体内魔力を活性化させる『彼』の名は『超重型魔法少女』黒金 豪蔵(BNE003106)。筋骨隆々の元プロレスラーだけどまぁそこは突っ込んじゃいけない所かな!けど性別や服の概念がない要塞には良く分からなかったらしいが。 だが、そんな概念や言葉など彼には不要。向ける背中を以て、同じ『鋼鉄の衣装』を纏う者として、親の様に『力ある者の責務』を示すべく。 「男には、その背に守る物のため、譲れぬ事もあるのですぞ。……その身に鋼鉄の鎧を纏うのでしたら、尚更ですな」 力があるからと言って、無闇にそれを振るっては滅びを呼ぶだけですぞ、と。踏み出す一歩。 直後、けたたましい鳴き声が。羽音が。飛び出してきた。ガァと鳴いた。エリューション3匹。ヒッと悲鳴を上げた要塞を、安心させる様に伊丹は目前でニコッと笑う。 「大丈夫ダヨ、あの怖いのはあのお兄サン達がやっつけてくれるカラネ」 向けた視線の先――襲い来るカラスを、真っ向からリベリスタ達が迎撃する! 「順次対応! 要塞君への攻撃を我々に向ける」 張りあげる雷慈慟の声。翳す掌で二十二の思考盾ARMS-弩-バインダーを展開し、戦況を開始する。 「先ずは懸念の排除に勤める」 胸元に収めた外道の書の力を指先へ、放つのは一直線の鋭い気糸。彼が一羽のカラスを穿ち意識を引き付けるその同時進行、綾兎は己が身体のギアを上げる。 「もっと早くなりたいんだけれどね、全く……飛べるからっていい気にならないでよね」 ふっと息吐くその傍ら。『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)は「やべーすげーかっけー」と視線を要塞へ向けつつ。嗚呼、浪漫が溢れてやがる。だが彼を助ける為にも、先ずはあのカラスだ。 「カッコよく決めたいとこだぜ」 光を反射する程に磨き上げた二丁拳銃GANGSTERを構え、撃つ。弾丸。それを掠めたカラスが真っ直ぐ飛んでくるが――それは豪蔵が真正面から受け止めた。カラスの嘴が彼の筋肉に突き刺さっているが、魔法少女は微動だにしない。 「例えそこに恐怖があろうと……例えそこに痛みがあろうと。譲れぬ物はあるのですからな」 そのままベアバックの要領で受け止め、そして。 「この筋肉の光……受けてもらいますぞ!」 零距離の白光、ジャスティスキャノン。 はわ、と要塞が息を飲んだ。目の前の戦い。ちょっとでも彼らの助けになりたくって。 『ぼ、ぼくもてつだうっ』 「大丈夫じゃ、ナナや。お爺ちゃん達がいるから安心してそこで構えておけ」 「心配しなくていいぞよ、奴らの羽一本触れさせんからのう!」 訪問を展開しかけた要塞を虎吾郎とレイラインが宥める。大丈夫だ、と要塞の前でライオットシールドを構えるエルヴィンが軽く振り返って微笑を浮かべた。 「心配すんな、君はぜったい俺達が護るから。怖いと思うけど、ちょっとだけ我慢してな?」 『うん……わかった! おにいちゃんたち、がんばってっ』 わぁっと腕を掲げるその子。に、伊丹は「チョット失礼スルよーヨイショ」とよじ登り。 「やっぱり同じ目線デお話したいなッテ思ったんだケド……」 所で顔は何処だろう。まぁこの辺でいっか! 「ハロー! 改めましてコンニチワ! 伊丹デス! 伊丹!」 『?』 「あは、伝わってないカナ?」 でもコミュニケーションとは言葉だけではないのだ。要塞も『いたみ』という言葉が彼女の名前なのだと何となく理解はしてくれたらしい。 「アナタ機械なのネ、ミテ! ワタシも機械! エヘヘ、同じダネ!」 指差したのは己の足。機械の足。わぁっと興味を持つ様子は言葉が通じずとも分かった。おそろい。そう言うかの様に、機械の腕が伊丹の足をぺたぺた触る。それにニッコリ笑い、少女はカラスへとガートルワンドを突き付けた。 「そーれ伊丹★ビーム!!!」 いつもより派手な魔法陣と共に繰り出されたのはいつもよりド派手なマジックアロー。ビームだけどアロー。でも要塞には心擽られる光景だったみたい。わぁいとハシャいでいる。 リベリスタ達が上手く立ち回っているお陰で、カラスの嘴が要塞に届く事は無く。戦況はリベリスタの一方的優位。 「崩界は避けなければならない。徹する」 雷慈慟の気糸によって意識を引き付けられ、突っ込んで来るカラス達を多数の思考盾で受け止めて。翳す掌。巡らせる思考。ニューロンを駆け巡る脳波は、『襲い来る壁』と成ってカラス達を真正面から叩きつけて砕いて吹っ飛ばした。粉々。されど、未だ一匹。拉げた翼で逃げ出そうともがくが。 「これでラストっと」 ぴょんと跳ねたのは兎。短剣Imitation judgementによる赤の鋭い剣閃が、リベリスタの勝利という終幕を齎した。 ●良い子は外で遊びましょう 「あ~あ~こんな埃まみれになってよ……」 「自らの装備は、大事に致しませぬとな」 隆明と豪蔵が要塞を洗う最中、伊丹は要塞の上でずっとよしよしモフモフと。 「ウフフ、だって何だかカワイイ!」 要塞も何だか嬉しそう。メカアームで力加減を考えてぎゅっと伊丹を抱き締める。 そしてピカピカになったなら。 「もう少ししたら帰り道が開くから、それまでみんなで遊んでいようか」 「ただ待ってるだけでも暇じゃしのう……わらわが遊んであげるのじゃ!」 『あそんでくれるの?』 虎吾郎とレイラインの提案に要塞は期待の視線をじっと向ける。 でも、一緒に出来る事?うーんと綾兎は考え込み。 「ちょっとレイラインさん訊いてみてくれる?」 「む、そうじゃな……のう、どんな遊びがいいかのう?」 『おにごっこ!』 「よし、せっかくだし皆で遊ぼうぜ」 帰り道ができるまで一緒に居るよ。と、エルヴィンが要塞を軽く撫で。 「木々を破壊しない程度にの? で、誰が鬼をやるんじゃ?」 「じゃあ、」 綾兎がレイラインの肩をポンとタッチ。瞬間、一斉に皆が走り始める!全力で! (……真剣に逃げないと、危険……!) 猛ダッシュ要塞の体当たりは、できれば喰らいたくないリベリスタなのでした。 息が上がりきるほど鬼ごっこを堪能して、草の上に座り込んだ要塞。その隣にエルヴィンは腰をおろし、ゆっくり丁寧な物言いで話をしていた――日本の有名な昔話だ。臨場感たっぷり、楽しく愉快に。めでたしめでたし、そう締めくくればメカアームで服をちょいちょい引っ張られながら『それからどうなったの?』と訊ねられる。そうだなぁ……なんて考えていると要塞の傍らに雷慈慟が立ち、エルヴィンに通訳を請うた。彼が快諾すれば、要塞と同じく機械の身体を持つ男はその子へと向き。 「今から、先程君を攻撃していたモノに良く似たモノを呼ぶ」 『…… えっ!?』 「しかし安心して欲しい。本来彼等は攻撃的なモノではない」 見慣れぬ土地で見慣れぬモノに攻撃されれば、良き思い出にはならないだろう。と。想い出の中にトラウマなどは残して欲しくない彼なりの思いやりである。ある種のセラピー。要塞がおずおずと頷けば、雷慈慟はファミリアーの力を用いて――響く羽音。メカアームを雷慈慟にしがみつかせる要塞の視線の先には、一羽の立派な鷹が。 『うわ、わ』 「大丈夫だ」 傷付かぬようにと雷慈慟が要塞のメカアームに巻き物をすれば、鋭い声で鳴いた鷹はそこに止まり。要塞はビビリながらもその鋭い瞳をじっと見ている。 「何か命令してみるといい、そのように飛ぶ」 『え、ええと。回って!』 キョーンと高い声がそれに応える。飛び上がり、要塞の頭上で旋回を始めた。空に弧を描く大きな翼、その力強さと美しさに要塞はすっかり魅入っているようだ。 「一つ良い思い出となれば幸いだ」 雷慈慟もそれを見上げ、呟いた。「見事なものじゃのう」と同じく見上げている虎吾郎は、その子の傍にて一つ訊ねてみた。 「ところでナナの世界には植物はあるんじゃろうか」 『しょくぶつ?』 「ああ、今周りにある緑色や茶色の物じゃよ。怖い物ではないから安心していいぞ」 『うん、ふわふわですごい! あのねぇ、ぼくのところはキカイがたーくさんあるんだよ』 とらじーじもふわふわ、と虎吾郎をメカアームでモフる。好きなようにさせつつ、虎吾郎の手には松ぼっくりとどんぐりと紐が。 「この季節なら松ぼっくりとどんぐりと葉っぱとこの紐を使ってと……ほーれ首飾りが出来たぞ」 『わ、すごい!』 「一緒にやってみるかの?」 『うん!』 自然と触れ合うのはいいものだ。出来上がったそれらを、虎吾郎は要塞に手渡してやる。 「これは出会いの記念に坊やにあげよう。こっちはお友達の分。大切にするんじゃよ」 『だいじにする! ありがとうじーじ!』 しかし楽しい時間は直ぐに過ぎるもので、何事にも終わりがある。 出現したバグホールの前。帰りたい気持ちは山々だけど、彼らと別れるのも寂しくて。また泣き出しそうになった要塞を、レイラインが優しく宥める。最後にワックスでピカピカに磨いてやりながら。 「……うん、ぴかぴかなのじゃ!」 『ありがとう……また会える?』 「勿論じゃ! それじゃ、元気でのう……立派な要塞になるんじゃぞ!」 「もう迷子にならないようにネ! えへ、デモまた会えるとイイナ!」 レイラインの言葉と、要塞からぴょんと降りた伊丹の微笑み。涙を堪えて頷くその子に、虎吾郎は優しく語りかける。 「今はまだ理解出来ないかもしれんが、男の涙は自分の為だけではなく……大切な人・大切な瞬間の為に流すものという事を覚えておいて欲しいのう」 うん、うんと要塞は応える。あんまり喋るとまた泣いてしまいそうで。これ以上ここに留まっては本当に帰る事を躊躇してしまいそうで。要塞は一歩、世界の穴へと踏み出した。 「ばいばい、元気でな」 「向こうでも達者でのう、ばいばい!」 エルヴィンとレイラインを始め、温かく送り出すリベリスタ達の声。最後に振り返った要塞は――やっぱり泣いてしまいながらも、元気一杯にこう答えた。 「またね!!」 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|