● 少年は、元気に公園を駆ける。 日曜の朝に放送されている、仮面をつけたヒーローになった自分を想像し、想像の敵を持っている銃で撃ち、倒していく。 「悪党どもめ! 貴様の運命はオレが決めるんだぞー!!」 少年は、高速の蹴り(だと思っている)を放つ。 その脚を、そっと掴んだものがいた。 真っ白な長いドレスに、真っ白なヴェール。 たおやかな微笑みに、甘く香る芳香。 「……貴方を探していました。伝説の勇者よ……」 蹴りを止めた脚をそっと離し、見目麗しい女は少年へと微笑みかける。 「めがみさま……?」 少年は、女の美しさに眼を丸くしたままじっと見詰める。 少年の問いに、女は声を出しては応えず、ただ緩やかに笑みを浮かべた。 「この世界には、恐ろしい敵が潜んでいます。 貴方は、それを倒すことが出来る伝説の勇者なのです。 ……世界の為に、戦ってくれませんか……?」 「おれが、伝説のゆーしゃ?」 「そうです。貴方が、この世界を救うのです。 ですが、今持っている武器で敵を倒すことは出来ません……。 私が、悪者を倒す力を差し上げます……。 そうすれば、その武器で敵を倒すことが出来るようになるでしょう」 「ほんとにっ!?」 少年は、嬉々とした声を上げた。 女神の言葉に、自分は伝説の勇者である事を知った少年は、世界を救わなければならないのだ。 その為には、誰にも負けない力を手に入れなければ。 少年は、差し伸べられた女の手に自分の手を重ねる。 「……その紅い爪は、選ばれし伝説の勇者の証。 貴方と共に戦う仲間はすぐ其処に居ます。 仲間と共に戦い、そして世界を救ってください」 ● 「子供を騙して一般人殺害を行わせるアザーバイドが視えたわ。 既に被害は拡大中よ、急いで現場に向かって頂戴」 『もう一つの未来を視る為に』宝井院 美媛(nBNE000229)は、おっとりとした物腰を出来るだけ早く動かすと、リベリスタ達に資料を配り、スクリーンに画像を映し出した。 「アザーバイドは1体。真っ白なドレスに真っ白なヴェール。顔はよく見えないけれど、相当に美しい容貌をしているようね。 そのアザーバイドは、少年や少女に声をかけては、『貴方は伝説の勇者』と伝え、超常の能力を与え、人や動物、生きとし生けるモノを殺させて、その生命力を奪っているわ」 「少年、少女……。何で幼い子供ばかり?」 「アザーバイドの甘言に取り込まれた少年少女には共通点があるわ。 『ヒーロー・ヒロインに憧れている』という、ね……。 悪者を救い、世界を救うヒーローやヒロインになりたい彼等は、『女神』のような美しい女性に力を与えられ、自分こそは世界を救う『伝説の勇者』だと思い込んでしまっている……」 スクリーンに写されたのは、10人程の少年・少女。これが全て、『伝説の勇者』である。 「アザーバイドから与えられた能力は、彼らの爪に侵食したアザーバイドの組織を媒介に、供給されているわ。爪を剥がしたり、指を切断すれば、その供給は抑えられる……。 アザーバイドは、その爪を媒介に、少年少女が殺した獲物の生命力を奪っているの。それも、爪を失えばストップされるわ。 でも……それを実行するかどうかは、皆次第よ」 「てかさ……、それをしなくても子供と戦うのは必須なんだよな? なんでアザーバイド自身が殺しを行わねぇんだよ」 「アザーバイドは……、今現在はまったく戦闘能力がないらしいわ。 その為、子供に力を与え生命力を供給させることで自身を強大化して、ゆくゆくは凄まじい攻撃力の下、この世界を手中に収めたいようね……」 リベリスタ達は、説明を聞くと押し黙ってしまった。 まだ年端も行かぬ子供と戦わなければいけないのか。できる事なら戦わぬことはできないのか。 その思考を打ち消す言葉。 「少年・少女達は、爪の力でこの世界の生き物全てが怪物に見えているの。 だから、なんの躊躇もなく命を奪っているわ。 皆の姿も彼等からは怪物に見える。対峙した瞬間に戦いは始まるわ。 そして、アザーバイドを攻撃しようとすれば、『女神様』を守る為に全力で庇いにかかる。 つまり――、彼等と戦わずして、この仕事を解決することは不可能よ」 「……なるほど。覚悟を決めろって事だな」 「えぇ……。怪物と認識している相手が何を言おうと『伝説の勇者』には通じない。戦うしかないわ。 アザーバイドを倒せば、彼等を侵食していた組織も消える筈よ。 もし、彼等を助けるなら、先にアザーバイドを倒すしかない」 「でも、アザーバイドの前には10人の子供たちが居るって事か」 「そう……そして、子供たちと戦っている間に、アザーバイドをフリーにすれば、 新たなる『伝説の勇者』が生まれる可能性もあるわ。 とても、難しい事になるけど、よろしくね……」 美媛の言葉が静かに消えると、ブリーフィングルームを静寂が包んでいった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:叢雲 秀人 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月18日(火)22:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 深夜の公園。 街灯の明かりに照らされているとは言え、子供が出歩く時間ではない。 その時間、その公園に、子供たちの声と姿が見えた。 彼等に対峙するは、この世のものとは思えぬ醜悪な姿をした怪物――否、リベリスタ! バトルスーツに身を包んだ『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は、些かの会釈を。 「勇者諸君、御機嫌よう。 俺の姿はどんな姿に見えているのかな? ……まぁ其れは如何でもいいか」 自分達の姿を見止めた子供達――勇者達は、既に戦闘態勢に入っている。 説得の類いは効かないと聞いていたが、それでも敢えて。 「都合がいいだけの展開に酔うのは構わないが、少しだけ思い返してみようか。 そこに居る女神が語った怪物が何か悪事を成した事は? そもそも怪物って何なの?」 安直に『女神』の言葉を信じた事。アザーバイドの能力の為だとしても、しでかしてしまった事は小事ではない。 「だまれ、かいぶつめ! にんげんのことばでだまそうとしたってムダだぜ!」 勇者の中でも年長と思われる子供が叫ぶ。 『そうです、勇者ヒデトよ……。騙されてはなりません……』 勇者後方に位置取った女神は、美しく儚げで、どこか安堵感を誘う雰囲気を漂わせている。 唯一違和感があるとすれば、その体の巨大さだろう。 おおよそ、この世界には存在しないサイズをしている。 いや、だからこそ子供達も『女神』だと信じたのかも知れないが。 女神の言葉に、勇者達は「はい!」と元気よく返事をする。 その姿に、喜平は眉根を寄せ、「SUICIDAL/echo」を構える。 「……『本物の怪物』は何時だって狡猾、物事を信じるには先ず疑う事が重要だよ」 言葉が終えると同時に銃声が響き、無数の弾丸が女神に降り注ぐ。 「「「女神様!!」」」 勇者達が、散弾目掛け走り込み、身を挺して女神を庇った。 喜平の散弾によって勇者達に発生した隙を突いて、リベリスタ達は己の強化を図る。 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)も、その一人であった。 彼女はまた別の思いをも抱えて、この戦いに参戦していた。 「ふふふふふふ。 私の前で女神だなんて不遜極まりないわ。 この世界に女神は唯一人、我が主『桃子・エインズワース』様のみ。 偽女神はグチャグチャのミンチにして下水に流してあげる♪」 刻み込まれる血の掟。それは、唯一無二して、尊き御方の為。 「我が心の女神『桃子』様。 今宵貴方様への贄を捧げますよ」 エーデルワイスの声が一際高く。 「レッツ・ジェノサイド!!」 長い黒髪が風に揺らめく。 揺らめく髪筋に沿うように、広がるは無数の生糸。 「……動く、な」 『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)のデッドリーギャロップが女神を庇う勇者の一人を絡め取る。 「ヒカル!!」 5人組の戦隊ヒーローの武器を持った少年が、操り人形と化す寸前の勇者に手を伸ばす。 「おれにかまうな! タダシ、やつらをたおすんだっ」 生糸に絡め取られ飲み込まれるヒカルは、どこかで聞いた事のあるような名言を言い放つと、天乃の操り人形となった。 「くそお、よくもヒカルを!!」 タダシは○○ブラスターとか言いそうな武器を構える。 狙いは仲間を奪った天乃。パワーを充填してブラスターの引き金を引いた。 「これ以上被害は出させない! 愛を以て救いましょう! LOVE!」 『愛の一文字』一万吉・愛音(BNE003975)の守護結界が一瞬にしてリベリスタ達を包む。 その力は、天乃を直撃した閃光から、その命を守りきった。 右目につけたモノクルに月光が映る。 『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)は女神を見遣った。 (女神と称し、子供たちを誤った道に誘惑する者) その視線は、彼女を守ろうとする勇者達に移動する。 (子供たちは常に果て無き空想の翼で冒険を好むものです) 女神の甘言に囚われ、惑わされた『純粋な子供達』。 それが罪であるとは、彼には断言出来なかった。 己の能力を駆使して、勇者達の行動から立ち位置を判断すると、仲間達に告げる。 「前衛は7人。後衛は3人の布陣です。こちらと同数ならば、いけるでしょう」 頷きを返した仲間達を確認すると、ジョンは不殺(ころさず)の意志を以て、神気閃光を放った。 初手で自らの能力を強化した『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)は、仲間達の攻撃力の底上げを図る。 体に満ち溢れる力を癒やしの力へと変えると、『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)が天乃を回復する。 「あいつをねらえ!」 仲間を回復する力を有する麻衣が居ると厄介だぞ、と、ヒデトは彼女へ向かって駆ける。 その前に立ちはだかったのは、『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガー(BNE003922)。 彼の反応速度は、強化によって高められ、ヒデトの突進はそこで阻まれた。 「10人もいたら伝説の勇者とは言えないのではないか? 君達の中で本当の勇者は誰だ?」 その声に、ヒデトは返答を返さない。 やはり言葉は通じないと認識したエルヴィンは、音速の刃を放った。 後方に居る女神には、喜平が散弾を浴びせ続けている。 その弾丸の雨から女神を守ろうとする勇者(後衛)、アヤコは美少女ヒロインの持つタクトを振り上げる。 「あいのかみよ、なかまたちをいやしたまえ!」 声と同時に天から光の雨が降り注ぎ、勇者達の傷を瞬く間に消していく。 その傍らで、ミドリが色違いのタクトを振る。 「かぜのかべよ、なかまたちをまもりたまえ!」 すると旋風が巻き起こった。その風は愛音の結界と同じ力を勇者と女神にもたらしていく。 力を取り戻した前衛、アサヒは眼前のリベリスタに腕に取り付けたロケットを叩きつけた。 しかし、その手はぶかぶかなローブに飲み込まれていく。 「あ、あれ……?」 怪物の胴にぶつかる衝撃を期待していたアサヒは、ぼふっという感触に驚いた声を上げる。 「ヒーロー・ヒロインになれる…そんな夢を叶えてくれるなんて、何て素敵なのかしらん! ……でも、ちょーっとオイタが過ぎるわよぉ?」 ローブに打ち込んだ拳を袖口から覗くクローが掴み取った。 『精神的ブラクラ』ルートウィヒ・プリン(BNE001643)の、男とも女ともとれぬ声が笑ったようにも聞こえる。 「悪い子には、オシオキが必要よねぇん?」 クローがまばゆいオーラを纏い、片手をとられたままのタダシの腹を打ち抜いていった。 ● ヒデトの剣を腕で受け、己の血に染まる刃を持つ少年を見つめる。 その後方には女神の姿。 『勇者キョウよ、こちらへ……』 女神は、傍らに居た勇者を呼ぶと、己の前に立たせる。少しでも喜平の狙いを惑わせようと考えた上の行動。 「……何が女神だ」 エルヴィンは、忌々しげに呟く。 自らは手を下さず、子供達を使い、その手を汚す。 そして、その子らを盾にするというのか。 「貴様は女神でも何でもない! その醜い化けの皮、剥がしてやる!」 今すぐにでも女神に接敵し、その胸ぐらに掴み掛かりたい衝動を抑え、勇者の数を減らすべく、ヒデトに音速の刃を放った。 「あぅ……ぁ……っ」 涼子のバウンティショットを受け、爪を剥がれた勇者ユカリは苦痛の呻きをあげる。 「みんな! 怪物がまたふえたぞ!」 勇者の一人が叫んだ。 リベリスタ達が推測した通り、爪を剥がされた勇者は、女神の呪縛から逃れると同時に、怪物へと変貌を遂げてしまった。 そしてそれは、ユカリが勇者から『普通の子供』へと戻った事をも意味する。 つまり、勇者やリベリスタから一撃でも攻撃を受ければ、死を意味するということだ。 生まれたての怪物を滅する為、勇者達は女神を庇うものを最低限として集中攻撃を放った。 血に染まった手を抑え、その場に蹲る『勇者だった少女』。 かつての仲間達の手によって死の淵へ送られる寸前、飛び出した影。 その身に、勇者達の攻撃を全て受け、全身から血を流し倒れたのは、愛音。 その命の灯火は瞬く間に消え入りそうとなっていく。しかし、愛音は消えそうな灯火を運命を代償に再び燃え上がらせた。 「子供は愛の結晶。愛を護るのが愛音でございます!」 愛音が身を挺して庇ったユカリ。その命を失くさぬ為に、アルフォンソは彼女を抱き駆けだした。 天乃の操り人形となった勇者ヒカル。彼の勇者としての寿命はもう残りわずかだと、状況に気づいた仲間から告げられた。 しかし、天乃はその手を緩める事はしなかった。 相手を殺しにかかるという事は、殺される覚悟を持たなければならないという事。 「積極的に、殺しはしない、けど手加減も、しない」 全力を以て攻撃して、それで命を落とすなら宿命だったということだ。 それだけの覚悟を以て、勇者になったのだろうと思う。 だからこそ――、天乃はその手の中生み出した爆弾を、ヒカルの胸に埋め込む。 それは、相手の命を蝕むと同時に、己の命をも蝕むもの。 「……爆ぜろ」 炸裂した光球は、ヒカルと天乃を飲み込んでいき。 光が消えた後に、残っていたのは、天乃だけだった。 一瞬の静寂を突き破るように響くは高き嘲笑。 「あははっ、あははっ、あははははははは!!!」 この戦い、幾度目かとなるB-SSは、前衛を務める勇者達の指元に炸裂していく。 「今後の人生で使えなくなるかもだけど、自分で勇者を選んだから結末は自己責任だよね♪」 エーデルワイスの考えは、天乃のそれと少し似ているのだろうか。 無理に殺す気はないが、死んでしまえば仕方がないし、そういう選択をしたのは、他でもない勇者達である。 魔力銃の引き金を引き、打ち出される弾丸の響きを心底楽しむように。 エーデルワイスは勇者の爪を狙い撃ちにした。 その弾丸は、涼子の前に居たアサヒと、ルートウィヒと刃を交わしていたタダシの爪を砕き、2人の勇者が『普通の少年』に戻る。 同時に正気を取り戻した2人。しかし、その後に待つ結末は対極に近いものだった。 「わたしらは敵じゃない。……見た目でいくと、あやしいけど」 言うと同時に涼子はアサヒを持ち上げ、ユカリを安全な場所へと避難させたアルフォンソの方へと投げ飛ばした。 一方。 「あらぁん。正気に戻ったのねぇ」 ルートウィヒは、タダシの手の怪我に気づくと、彼の両足を束ねるように掴み逆さづりのような状態になるように持ち上げた。 「あ゛っ、あ゛ぁぁぁぁぁーーーー」 怪物に見られているなら怪物らしく、正気に戻った子供を人質として勇者を脅したかったルートウィヒ。 しかし、正気に戻った子供は自分達同様怪物に見える事を知った今、残る手は正気に戻った子供を鈍器として使用することに決定したのだった。 「安心しなさい、殺しはしないわよぉ」 怪物が怪物を持ち、振り回すその姿は、勇者達の目にはどのように映ったのだろうか――。 ● 残るは前衛3人、後衛3人。そして、女神。 リベリスタ達が決めた勇者の残数が5人を下回ったら女神に近接、というところまで後一歩。 ここで、勇者達の隙を見いだした者が2人居た。 ブロックするものがなくなった天乃と涼子が、女神へ向かい全力で駆ける。 「女神をまもれ!」 どてっぱらにエルヴィンのソニックエッジを受けたヒデトが叫ぶ。 「くそっ、まてぇ!!」 ヒロシは、涼子と天乃を追いかけようと身を翻す。しかし、そこへ回り込んだのは愛音。 「行かせないでございますよ!」 「「「とうときかみよ。あしきかいぶつにてっついを!!」」」 戦場に響く声、後衛に陣取っていた、アヤコ、ミドリ、キョウが魔法のタクトを合わせ、天へと差し上げた。 すると、上空に雲が渦巻き、そこから生まれるのは無数の光の矢。 それはリベリスタ達全てに降り注ぎ、ルートウィヒと、その武器とされていたタダシを戦闘不能へと追いやった。 「く……っ」 勇者とは言っていても、それは女神に操られた子供。 一人でも多くの命を救うため不殺を貫いていたジョンは、目の前で失われていく命に苦しげに息をつくと、何度目かの神気閃光を撃った。 その攻撃に、ヒデトが倒れる。勿論、命は取り留めた。 これで、勇者は残り5人。 「さぁて……」 今まで女神の逃亡を阻止する為だけに徹していた男が動く。 喜平は、地を蹴り跳躍すると、ジャングルジムを駆け、アヤコ、ミドリ、キョウの頭上を飛び越えた。 「「「あ――」」」 女神へと降り注がれる弾丸。3人の勇者は喜平が駆ける宙を見上げたが、手を打つ前に涼子と天乃に続き、女神への近接を図った残るリベリスタ達に取り囲まれた。 「殺しはしません。女神の手から逃れましょう」 ジョンは丁寧に囁くと、アヤコの手に息づく紅い爪を撃ち砕いた。 「ア、アヤコがかいぶつに……!」 キョウは目の前で怪物に変貌したアヤコに驚愕の叫びを上げる。 『アヤコは……怪物の手にかかり、怪物へと変貌してしまったのです……。一刻も早く怪物を倒さないと……貴方たちも怪物となってしまいます……』 女神が、悲しげに呟く。そして、逃亡を図るべく後方へと下がろうとしたその足を止めようと、エルヴィンが駆ける。 「貴様を逃がす訳には行かない、必ず、ここで仕留める!」 女神の後方に回り込んだエルヴィンのソニックエッジが炸裂した。 バササササ……ッ!! 愛音が呼び出した鴉が、女神の視界を遮るように羽ばたき、ヴェールの上から啄む。 「女神? いいえでございます。逃がさないでございますよ……下郎!」 エルヴィンと愛音、そして喜平が女神の逃走の足を止める中、涼子と天乃の攻撃がミドリとキョウに炸裂する。 涼子のバウンティショットは、キョウの爪を剥がし、天乃の生糸がミドリの体を絡め取り、拘束する。 ジョンとアルフォンソがアヤコとキョウを抱き抱え戦場の外へと運び出すと同時に、喜平の光降り注ぐかのようなアル・シャンパーニュが女神を撃つ。 そしてエーデルワイスのB-SSが、女神とミドリに炸裂した。 女神の頬に、一筋の傷がつき、女神はその美貌に似合わぬ深い皺を眉間に刻んだ。 「その顔、グチャグチャにしてあげる。それが貴方が受けるペナルティ~」 紫色の瞳を煌めかせると、エーデルワイスは楽しそうに嗤う。 天乃は呪縛の手に落としたミドリの体に爆弾を埋め込む。先ほど、ヒカルにしたのと同じように。 そして、同じように呟く。 「……爆ぜろ」 炸裂した光が失せた後、倒れているのはミドリだけ。 けれど、その指先から紅い爪が消え失せ、ミドリの体がぴくりと動いたのを、麻衣は見逃さなかった。 「戦闘区域外に、運びます」 麻衣はミドリを抱き上げると、戦場を脱出すべく駆けだした。 ● そして、戦場に残るは女神と、9人のリベリスタ。 どうなったかは語るまでもないだろう。 止めの一撃は、大きな体に潜り込み、下から放たれた蒼穹の拳。 それを放ったのは、華奢な体躯に常に激情を忍ばせた少女――涼子。 「ヒーローなんて、わたしにはいなかった」 そして、そんなものになる気もないし、なれる気もしない。 何故ならば、涼子には己の心と拳以外に必要なものはないからだ。 何が善で何が悪であるかは関係ない。 ただ、己の心のままに、女神の体を砕いた。 そこに至るまで、リベリスタ達から受けた傷は数百。 涼子の拳に討たれた女神の顔に、女神と見紛う程の美貌は残されていなかった。 砕け散った女神の体を見送り、愛音が呟く。 「下郎を滅すも愛。 来世に期待でございますよ下郎」 戦い済んで――。 リベリスタ達は公園の思い思いの場所に立っていた。 エルヴィンは、救えなかった命を思い、子供達の顔を見つめる。 「忘れはしない……」 一人一人の顔をしっかりと見つめる。 ほんの少し前までは、手にしたおもちゃの武器で遊んでいた子供達。 「……せめて、一人でも多く、この子達の生きた証になる為にも……」 生き延びた少年少女達の前には、喜平の姿。 未だ、自分達に起きた出来事が現実なのか夢なのかすら判断できない子供達は、呆然とした表情のまま、ただ啜り泣いていた。 その姿を見て、腕を組み、軽くため息をつく。 (半ば操られた様なもので行いを責めたりはしないがな) せめて葬った人を悼む気持ちは忘れないで居てほしいと、彼は思う。 天乃がアークに連絡しているし、彼等にどのような処遇が施されるかは判らない。 けれど、もし記憶を消されたとしても、心の片隅に、断片としてでも悔いる気持ちが残れば、彼等はまた違った道を歩む事ができるかもしれない。 「アークに連絡、した」 撤収を促す天乃の声に、リベリスタ達はその場を後にする。 程なく処理班が来るだろうし、かつての勇者達はおとなしく待っているだろう。 天乃は、最後に公園を見遣る。 あの女神は、本当はどのぐらいの力を持っていたのだろう。 攻撃手段を全く持たず、己を守る力だけで生き続けていた女神。 本来の攻撃力を持っていたら、倒せたのか、否か。 女神を倒す事が任務だったのだから、それを完遂せねばならなかった。 それでも。 「全力の女神、を見てみたかった、ね」 それはもう、叶わぬ事。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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