●剣鬼 闇夜の中、二人の戦士が相対している。 一人は大柄で全身を鎧で覆った騎士、対するは細身で漆黒の衣を纏った剣士だった。 「貴様の悪行もここまでだ!」 「くくっ……その命、我が糧にしてやろう」 二つの銀閃が交差する。音も無く騎士は倒れ、物言わぬ塊りと化した。 「足りぬ、この程度の有象無象では一人二人斬ったとて足しにならぬか」 路傍に立つ漆黒の男の手には一振りの刀。物足りぬと言わんばかりに、刃が血を滴らせる。 「ふむ、ならば数を呼べばよいか……」 妙案が浮かんだと、男の顔に狂気が宿る。 倒れた騎士から両手剣を拾い上げると、刀をかざす。刀身が青く妖しく輝くと、先ほど息絶えた騎士の霊が両手剣を手に立ち上がっていた。 「あの程度では大した霊にならぬか、だが使いようよ」 男はすぐ隣にあるビルを見上げる。 「まだ人がいるようだな、よし往け。手始めに中にいる者を皆殺しにしろ」 騎士の霊は一礼すると、命を順守するべくビルへ駆け出した。 「さあ、派手に狼煙を上げてやろう。俺を倒しに来るがいい、来なくばこの町にいる者全てを皆殺しにしようぞ」 男が暗く笑う、惨劇の夜が始まった。 ● 「男の名は清水仁。かつて剣林に所属していたフィクサードだよ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)が淡々と資料を読み上げる。 「剣林にいた頃は、真面目で面倒見のいい人だったみたい」 剣を教えるのも上手く、幾人もの弟子の面倒を見ていたという。だが一振りの刀を手に入れてから人が変わったのだと。 「その刀で仲間を殺めて、そのまま出奔したそうなの」 今では敵も味方も無く、強さを求めて戦い続け、付いた二つ名が『剣鬼』。幾つかの組織から賞金がかかり、今回倒された騎士もどこかの組織の刺客だと。 「今回の貴方達の役割は清水仁の撃退だよ」 撃退? 討伐じゃないのか。撃退だとまた同じような事件を起こすんじゃないか。リベリスタ達の疑問の声。 「出来ることなら討伐が望ましい、だけど被害もあまり広げたくないの」 イヴの説明では、全員で清水仁一人なら倒す事が出来るだろうと言う、だが騎士の霊を一緒にとなると難しい。 「今から現場に急行すれば騎士がビルを襲う前に到着できるわ。そうなると両方を相手にしないといけない」 もし、清水仁を倒すのであれば何かしらの作戦が必要になる。そう説明を締め括るとイヴはリベリスタ達の顔を見渡した。 「後は貴方達の判断に任せるわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天木一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月20日(木)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夜に鬼は現われる 夜の帳が覆う、人通りの少ない路地をリベリスタ達が駆ける。大きなビルの前、そこに黒い衣の剣士と騎士の霊を見つけた。 「見つけたぜ!」 先頭を駆けるのは『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)。飛び跳ねるように距離を縮める度に頭のウサミミが揺れる。 「まだビルには入っていません、このまま行きましょう!」 すぐ後ろに続く『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)が皆に声を掛ける。 「私達は騎士を止めましょう」 『朧蛇』アンリエッタ・アン・アナン(BNE001934)が孝平と共に、ビルへと動きだした騎士霊の間に駆け込み押し留める。 「ほう、思ったより早かったな」 清水仁が現われたリベリスタ達を見て口元を綻ばす。 「戻れ、俺の背後について戦え」 騎士霊に向かい新たな命を下す。 「……間に合う、分断する!」 距離、速度、合流のタイミングを一瞬で演算した『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)は、清水と騎士霊を分断するチャンスと仲間に伝え、騎士の意識を逸らす為に頭部、兜の隙間から覗く目を狙い気糸を放つ。 「了解でござるです!」 「分かった!」 頭部に当たった攻撃に一瞬足が止まった騎士の前に、『サムライガール』一番合戦 姫乃(BNE002163)と『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)が清水の下へは行かせぬと行く手を塞ぐ。 『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は広範囲に結界を張ると、堂々と清水の目の前に立ち不適な笑みを浮かべる。 「おう喜べ 有象無象が数揃えて来てやったぞ?」 「蹴ッ飛ばして目ぇ覚まさせてやるよ!」 電柱を蹴り、ヘキサが清水の頭上を飛び越え背後に回り込む。 刀に魅入られ、狂ったか、或いは……。頭を振り雑念を払うと、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は清水の側面に回り刀の柄に手を掛け名乗る。 「……リベリスタ、新城拓真。『剣鬼』清水仁、俺達と仕合って貰おう」 「くっくっく……よかろう、思ったよりも楽しめそうだ」 清水は狂気の混じった笑みを浮かべると、水が滴るように刃紋が青白く光る打刀を上段に運ぶ、刃長は2尺8寸はあるだろうか、見せ付けるように顔の横で垂直に構えると名乗りを挙げた。 「貴様らも剣の糧にしてやる。『剣鬼』清水仁、参る!」 「蜻蛉……示現流かっ」 拓真がその構えから流派を推測する。 「初撃に気をつけ……」 忠告の声が終わるよりも速く、それは瞬きする間もあっただろうか、正面にいた火車は刀の間合いの外にいたはずだった。だが、まるで飛ぶように清水が踏み込み、裂帛の気合と共に刃を振り下ろしていた。 「キエェェェェェェィ!」 「クソ、が!」 咄嗟に左腕が持ち上がり、手甲が刃と交差する。ほんの僅かの間、刃の速度が緩んだ。それが生死を分ける一瞬だった。火車は押し切ろうとする刃の力に身を任せ、吹き飛ばされるように地に転がり攻撃を受け流した。 「ほほう、やりおる。俺の一の太刀から逃れるとはな」 清水の笑みが深くなる。歯ごたえのある敵と出会え歓喜する剣鬼の顔だった。 「剣鬼と呼ばれる男の力…見定めさせて貰う!」 鞘に収めた刀の柄に手を掛けたまま、居合いの構えで拓真が前に出る。清水の剣の間合いへと後一足……踏み出した。 ●騎士への鎮魂 騎士霊は清水と合流しようと歩みを進める。碧衣が気糸で足を封じ、動きを鈍らせているが騎士霊は歩みを止める様子はない。 「守りが堅いですね」 だが、と孝平は強固な鎧に身を包む相手に、素早く着実にダメージを与える。 「どんな守りにも隙はあるものです」 奇しくもお互いの剣は両手持ちの西洋剣、しかし戦い方は対極にあった。力ずくで主への道を拓こうと薙ぎ払う騎士霊に対し、孝平はスピードと幻影により翻弄すると、鎧の隙間に剣を刺し入れる。 「あのような卑劣漢を守る必要などないでござるです!」 姫乃が騎士霊を止めようと正面に立つ。相対するとまるで大人と子供。だがその小さな体は手に持つランスで邪魔者を両断しようとする両手剣を受け止めた。 「魂まで縛るとは許せないでござるです!」 虚ろな目をした騎士霊を前にやるせない怒りを覚える。全身の力をランスに籠めて体当たりのように騎士霊を弾き飛ばす。 「その魂、必ず開放して差し上げるでござるです……」 攻撃が効いているのかいないのか、兜の下の表情は変わらぬように見える。傷ついた箇所も少しずつだが回復しているようだ。 「足止めは効果が薄いか、なら次の行動に移行する」 碧衣は冷静に足止めの効果が低いと判断すると、すぐさま攻撃を切り替える。聖なる光が周囲を覆う。 『オオオオオォォォ』 光に焼かれ騎士霊が苦悶の声を始めてあげた。 「効いてます、なら私も……」 速度を上げたアンリエッタは騎士霊の正面に回り、十字の光で騎士霊を撃ち抜く。 『ギィィオオォォ』 鎧の軋むような叫び。アンリエッタは命のままに動くしかない騎士霊を不憫に思った。だが人々を、仲間を護る為、その手を休めることはない。 「ごめんなさい、でも私にはこれしかできないから……」 騎士霊の振るう剣を盾で弾きながら光を放ち、アンリエッタは呟いた。 「長引かせると厄介だ、一気に畳み掛ける!」 碧衣は怯んだ騎士の様子を観察して決断する。 「無念だったでしょう、今楽にしてあげます」 騎士霊の背後から最大戦速で孝平が襲い掛かる。三つの閃きが奔る。一撃を膝裏に、一撃を腰の隙間に、一撃を首筋へと突き入れた。 騎士霊の姿がぼやける。だがそれでも騎士は歩みを止めない。それを止めたのは真正面からのランスの突撃。その渾身の一撃は受けようとした両手剣ごと騎士の胴体を貫いた。 「これで救えたでござりましょうか……」 騎士霊が消え逝く。砕けた剣を見て姫乃は悲しげに呟いた。消え逝く騎士の目が優しげに閉じたのは願望が描いた幻だっただろうか。 「まだ終わりじゃないよ。『剣鬼』を倒さないと」 これからが本番だ、碧衣の声に皆が頷いた。 ●剣士 二人の剣士はお互いの間合いに入ったまま睨み合う。居合いにより後の先を狙う拓真と、蜻蛉から一撃必殺の先の先を狙う清水。互いが相手の動きを見極めんと動きを止める、先に動いた方が不利となる。その均衡を破ったのは第三者だった。 「一対一じゃないんだっ、ぜ!」 清水の後方からヘキサが跳び上がり回し蹴りを放つ。 「シッ」 一瞬、清水の意識が後方に向けられた僅かな隙、拓真が動く。鋭い呼気と共に抜刀、胴を狙い抜き打つ。 「チィエェェィ!」 清水の垂直に構えていた剣を水平に倒す。気合一閃、大きく弧を描くように振るう。その軌道にはヘキサと拓真が同時に捉えられていた。 「うわっ」 「くっ」 ヘキサは宙で踊るように、蹴りの遠心力を利用して自らバランスを崩し剣の軌道を避ける。 拓真は既に攻撃態勢に移っている、今から避ける事は出来ない。このままでは相打ち……否、相手が一寸速い。抜き打つ刃の軌道を胴から僅かに上げる。そこには首筋を狙う凶刃があった。鈍い金属のぶつかる音。互いの刃は軌道を変えて通り過ぎる。 ニタリと清水が嗤う。弾いた刃が切っ先を返し、もう一度拓真を狙う。無理に抜刀の軌道を変えた為に、体勢を崩した拓真には刀を戻す間が無い。ならばと左手で自動拳銃を抜いた。銃身で刃を受ける、だが勢いを殺しきれない、このままでは首に届く……。拓真は覚悟を決めた。血飛沫が舞い滴り落ちる。 「新城さん!」 ジースの悲痛な声。拓真の左腕に刃が食い込んでいる。防ぎきれないと判断し、腕を犠牲にする事を選んだのだ。清水がさらに刃に力を込めようとした時。弾丸のように火の玉が清水に襲い掛かる。 「オイ、オレのことを忘れてんじゃねぇだろうな!」 それは手甲に炎を宿した火車だった。右の拳が清水の顔を捉える。 「ぬうぅ」 清水は衝撃を受け流すように後ろに下がると、血の混じった唾を吐き捨てた。 「やりおるわ、だが先の一撃で片腕が動かぬのではないか? それで戦う気か」 火車のだらりと下がった左腕を見て清水が指摘する。 「大丈夫か!? こっちに来い回復するぞ」 「いらねぇ、この程度怪我でもなんでもねえぜっ」 癒しの符を貼り付け、拓真の傷を治療しながら呼びかけるジースの声を無視して清水に向かう火車。左腕は痺れ、握力が戻らない。骨が折れているのだろう。 「だが、それがどうしたぁ!」 清水の下に飛び込み右腕のストレートを放つ。だがそれを清水は見切ったように僅かな動きで避けた。 「右しか来ないと分かっていれば、避けるは容易い」 「へっ、言ったろそれがどうしたってなぁ!」 折れた左腕を振り抜く。炎を宿したその一撃は清水の腹を抉った。 「ぐっ、何だと!? ……くっはっはっは、その意気や良し!」 思いもよらぬ攻撃に笑みを浮かべた清水は、一振りで火車を吹き飛ばし間合いを開ける。 「面白い、面白いぞ! 良かろう、ここからは本気で行かせてもらうぞ」 清水の気が高まる。先ほどとは違う、傍に居るだけで刃を突きつけられるような殺気に背筋が凍る。 「本気ってマジかよ、当たったら死ぬんじゃねーか?」 先ほどの攻撃でも十分脅威だったんだけどと、ヘキサが額の汗を拭いながら呟く。 「まあでも……当たらなきゃいいんだよな!」 全速力で飛び込む。清水がこちらを向き、頭上から一刀両断にせんとばかりに刃が迫る。それを勢いを殺さぬまま姿勢を低くしてスライディングで避けると、背後へ回る。倒れた体勢から右手を地に付け支えにすると、清水の足へ蹴りを放ち体勢を崩す。頭の位置が下がった、そこを突き上げるように蹴り上げる。重い手ごたえ、清水の体が一瞬浮く、更に追撃しようとした時、脚に痛みを感じた。 「えっ?」 先に蹴り上げた脚に綺麗な真っ直ぐの赤い線が走っていた。何だと思っていると血が溢れてくる。蹴り上げた時に反撃により斬られていたのだ。その間に、清水は着地し刀を構えた。 「ヤバイ!」 すぐさまヘキサは身を翻し距離を開ける。裂帛と共に振り下ろされる刃。ヘキサのスピードを持ってすれば避けられたはずだった、だが足の痛みの所為だろうか、僅かだが動きに滞りが出来た。地を転がりながら距離を保つ、背中からは赤いものが滲み出ていた。 「素早い相手ならば、まず動きを封じればよい」 剣の講義でもするかのように、清水はゆったりとヘキサに向かい歩きながら語る。 「助かった、礼を言う」 「任せてください! 新城さんの傷は全部癒してみせます、だから安心して戦ってください!」 頼もしい弟子の言葉に一瞬笑みを浮かべ、清水へ向かい歩み寄る。左腕にまだ痛みは残るが傷口は塞がっていた。剣を持てるならば問題はない。再び拓真は『剣鬼』と対決する。 「新庄さん……」 敵は強い、新庄さんと一緒に自分も戦いたい、ジースの心にそんな気持ちが溢れる。だが自分には自分の役割がある、それが師匠の背中を護ることになる。それに、師匠は決して負けない。あの人はどんな困難も打ち破ってきたのだから。 「だから俺は俺に出来る最良の戦いをするだけだ!」 信頼する大きな背中につかの間目をやり、すぐさま踵を返してヘキサの治療に向かうのだった。 「先の立ち合いで敵わぬと分かっただろう、それでも向かってくるか」 「『剣鬼』清水仁、お前は強い。だが、俺は勝たねばならん……俺は誰よりも強くなる!」 それに、と拓真は周囲に目をやる。その目には騎士霊が消滅した姿が映る。 「役者も揃った、ここからが本番だ」 ●鬼は哂う 「アンリエッタはジースの前で援護を、孝平と姫乃は拓真のフォローを」 碧衣が状況を判断し指示を出す。 「分かりました」 「行くで御座るです!」 孝平と姫乃が清水の左右へと展開する。それを見た清水は悪態をつく。 「もう少しは持つと思うたが、やはり役に立たぬ二流品よ」 その言葉に姫乃が激昂する。 「魂を縛り、利用し、あまつさえ役に立たぬとは! 愚弄するにも程があるでござるです!」 「騎士の無念を晴らしてあげましょう」 姫乃は刀の射程の外からランスを鋭く突くと真空刃が清水を襲う。同時に孝平が反対側から仕掛ける。 「キィィエェェェィ!」 それはまるで先ほどの戦いの焼き直しだった。清水は刀を水平に倒し弧を描いて振り抜く。その軌道には真空の刃と孝平が重なる。青白く光る刃は真空刃を打ち消し、迫り来る孝平の首筋へと襲い掛かる。だが違う点が一つあった、この場には三人目が居るのだ。 「シィッ!」 静かな気合と共に放たれた剣閃は清水の首を狙う。 「ぬうぅ」 清水は体を捻り、体勢を泳がせながらもその一撃を避けた。その為、攻撃を免れた孝平の一撃が胴体へと届く。更に飛び込んで来た火車の一撃が叩き込まれる。だがどちらも紙一重で致命傷にならないように狙いをずらされた。 「それだけの腕を持っていながら、何故このような真似をする。その剣の所為なのか」 「武器を使いこなすならともかく、使われてるなら話にならねぇ」 拓真の疑問と火車の揶揄に清水は答える。 「剣術とは何か、ずっと疑問に思っておった。守る為であろうが、恨みであろうが、人を斬れば殺人。剣は凶器でしかない」 刀を振るう、濡れたように青く輝く刃紋が残像のように残る。刃に映った顔は鬼のもの。 「どう言い訳しようとも人殺しの業を磨くのが剣士。この村正を手にした時に悟ったのよ、ならば目的などどうでもよいとな! ただ剣の道を究めんとする為に振るえばよいのだ」 鬼の形相のまま刃を振り下ろす、だが目の前には誰も居ない。しかし、その先にはヘキサを治療しているジースの姿があった。見えない風の刃が巻き起こり襲い掛かる。 「させません」 アンリエッタがその射線上に立ち塞がる。盾を構えてかまいたちを受け止める。まるで車が衝突したような衝撃、思わず膝をつきかける。だが護る対象が後ろにいるのに負けるわけにはいかないと、歯を食いしばり持ちこたえた。 「それがテメェの意思だってんなら、オレがぶっ潰してやらぁ!」 刃と拳が交差する。拳は胸を強く打ち抜き、刃は肩深くまで斬り裂いた。清水は内臓を痛めたのか血が口から流れる。だがそれを気にすることなく深手を負った火車に更に一撃を加える、火車も負けじと渾身の力を振り絞り拳を叩き込む。骨を砕く音が聞こえた、だがその結果を確認することなく火車は倒れた。 呼吸が浅い、清水は折れた肋骨が胸を圧迫するのを感じる。だがそれを気力で押さえ込むと、次の標的、姫乃に駆け寄る。その背後から孝平が追う。姫乃を援護せんと碧衣の気糸が清水に放たれる、姫乃も迫り来る清水にランスを突き出す。清水は左足を一歩斜めに踏み出す、その一歩で二つの攻撃を避けると、そのまま左から逆袈裟に斬り上げる。そのまま勢いを殺さぬままに上段に構えると反転、迫り来る孝平に振り下ろした。 ほんの一息の間だった、姫乃と孝平が攻撃を受けて吹き飛ばされる。 「元々は何のために強くなろうとした? 結局はカタナに使われてるってことだろ!」 治療を済ませたヘキサが仲間を庇うように前に出る。拓真も清水の正面へと歩み寄った。 「剣は己の為の力ではない、それを教えてやる」 「ならば剣で語ってみせよ!」 口から流れる血を拭うと、清水は蜻蛉の構え。拓真は正眼に剣を構える。対峙する一瞬の間、二人には長い間だったかもしれない。それは閃光のような速度だった、清水が必殺の一撃を振り下ろす。だがその一撃はまるで自ら避けるように道筋を外す。 「何だと!?」 「どれだけ速くとも、太刀筋は覚えた。なら防ぎようはある」 拓真は相手の力に反発することなく剣筋を流し、自らの剣を振り抜いた。骨を絶つ手応え。清水の左腕が赤く染まり地に転がった。 「……見事だ、まさか雲耀を凌ぐとはな」 そう言うや素早く飛び退き、血の流れる腕を押さえながら後退する。 「流石に分が悪い、今日のところはこれで引こう」 「逃げるのかよ!」 「然り、俺の剣の道もまだまだということよ。再びまみえる時を楽しみにしているぞ」 素早く身を翻し、夜の闇へと消えていく。手傷を負ったリベリスタ達はそれを追う気力もなく、息を吐いた。ジースが皆の治療に慌しく駆け回る。 「逃してしまいましたか、ですがあの哀れな騎士の仇をいつか討ってあげなくてはいけませんね」 孝平が騎士へ黙祷する。その通りでござるですと姫乃も目を閉じた。 何とか撃退には成功した。だが、またまみえる時が来る。そんな予感が皆の胸に過ぎる。鬼は手負いとなって野に放たれたのだ、決してその時は遠くないだろう。 遠く、どこかで鬼が哂う声が聞こえた気がした……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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