● 墜ちてゆく、人道から外れて。楽園を喪失するように、人は人でなくなる。 息をする音がする。空気が、咽喉から漏れだすような音。 当たりに広がるのは黒く濁った血溜まり。ぱしゃ、と血だまりを踏み抜いた。 死は誰にでも平等に訪れる。生と死。静と止。 脈動と続ける胸の鼓動がこれほどまでに煩わしいと思った事はなかった。 力ない者達を甚振るゲーム。 ルールは只一つ、楽しむこと。 「なあ、おもろいけど、そろそろ死んでまうで」 「ああ、癒してあげる。よっちゃんはせっかちだなあ」 馬鹿だなあ、と少女は小さく笑った。癒しの吐息が、優しく包み込む。其処に来るのは安穏ではない。 只の、痛み。繰り返す様に、抉る様に。 与えられる痛みは死には至らない。倒れた一般人がこのゲームのゲスト。ならばキャストたる黄泉ヶ辻の『あたし』達は楽しめばいい。 嗚呼、嗚呼、人間がこうやって苦しむ顔って、面白い! 癒して、傷つけて、癒して、傷つけて、繰り返して繰り返して。恐怖に歪む顔。血と汗、泥、砂ぼこりにまみれた人間がもがく。 汚らしくも、面白い。ゲームは、こうでなくっちゃ。 「ねえ、ヨリハ。珍しいね、こうやって遊んでるのって」 「え? 『あの人』の縁者が――『あの子』が遊ぶって言うんなら、あたしも遊ぼって思うやろ」 「嗚呼、そうね。おねーちゃんやおにーちゃん達が楽しむならリウも楽しまなくっちゃ!」 ● 「直ぐに向かっていただきたい所があるの」 ブリーフィングルームに入るなり『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は口を開く。 「皆にお願いしたいのは食中り――主流七派のひとつ、黄泉ヶ辻のフィクサードの対応よ」 モニターに映し出されたのは廃倉庫。中には一般人が負傷した状態で存在している。只、死者はあまり見受けられない――否、と言うよりも倉庫内には存在していない。異様な光景である。血が水溜まりの様に広がり、辺りには咽かえるほどの血の匂いがするであろうそ場所。誰も死んでいない。 「不思議でしょう。趣味が悪くってね。殺さないの。お察しの通り、不殺スキルってやつよ」 不殺――殺サズ。死ねない。痛みのみを与え続ける。黄泉ヶ辻のフィクサードは癒し手が数人いる。癒し手が死にそうになったものを癒し、そして甚振る。何度も、何度も。 「全員一般人よ。中には革醒してる人もいる。運命に愛される事がこれほどまでに残酷だとはね……」 死なないなら、更に甚振ればいい。よい玩具だった。気を使わなくたって中々死なないし、死ねない。死を熱望する事はないだろうが、これほどまでに生を恨んだことはなかっただろう。 『甚振るだけの簡単なお仕事』――彼女らはゲームと呼んで楽しんでいる。残虐な行いにフォーチュナの瞳は揺れた。唯、複雑そうな色を残して。 「動機も目的も不明。彼女達はただ、ゲームをしているだけ。そこに意味はないかもしれないし、あるかもしれない。解らないわ。 たったひとつだけ分かっている事があるの。私達――アークのリベリスタの反応を伺っている様ね。リベリスタがゲームに介入することを望んでいる」 「介入……」 「ええ、皆はただ一般人を保護して来てほしいの。最低でも過半数の人間を。ゲームのルールは、彼女達が教えてくれるでしょうね」 私達が行かなかったら全員皆殺し。行ったら、ゲームに使われてしまう命。行けば助かる可能性があるならば、行かない訳にはいかない。 「――さあ、目を開けて。この悪夢を醒まして頂戴」 どうぞよろしくね、とフォーチュナは頭を下げた。 ● さあ、ゲームをはじめよう。制限時間は3分間。 あたしらは『君ら』が来たら目の前の玩具を癒しもせずに殺すだけ。たっぷり甚振ったから、もう飽きた。3分間、『君ら』があたしらの『玩具』を護り切れたら勝ち。守り切れなかったら負け。 簡単やろ? ああ、一つだけ良い事教えてあげる。此処であたしらと戦うと被害はただ、大きくなるだけ。人数が多い倉庫なんやから、理由なんて言わんでも――分かるやろ? さあ、『楽しも』か! この狂ったゲームってやつを! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月11日(火)23:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 叫び声が響き渡る。荒い呼吸音が響く。赤黒く濁った水溜まり。それが血である事はこの状況から一目瞭然であった。 十字が体を撃ち抜く。堪える事の出来ない痛みが、唇から漏れ出した。 「チタルぅ、さっきからヨリちゃんが玩具で遊ばなくなったぁ」 甘い声を出しながら癒しの歌を謳う少女は唇を尖らす。小さく欠伸を漏らし、何かを待つような銀髪の少女がすっと蒼い瞳を天井に向ける。その視線がゆっくりと二階部位に設置されている窓へと向いた。 「マオト、見てみ。お客さんが窓からこっちを見てはるよ」 その言葉にフィクサードらは一般人を苛める事をやめた。ただ『ゲーム』の始まりを予感して高鳴る胸を押さえる。まるで片思いの少女の様に紅潮しにやける頬を押さえながら。 ヨリハの蒼い瞳が自身の視線とかち合った事を感じた『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)は小さく舌打ちを漏らす。視線を動かす。ヨリハの目も動く。幻想纏いを通して結唯は囁いた。フィクサードと一般人の間。倉庫中央部分しか開けられないと。彼女らの目的は倉庫に壁に穴をあけ一般人を逃がす事。 『了解しました。其方に向かいます』 ● ぎぃ、と重たい倉庫の扉が開いた事に黄泉ヶ辻のフィクサードたる少年少女は瞳を輝かせた。 「はーい! かわいこちゃんたちゴキゲンうるわしゅー。ご希望お望みオーダーのアークでーす!」 手を上げてからからと笑いながら登場した『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)にヨリハは嬉しそうに笑う。まるで旧知の友人と久しぶりに在ったとでも言う様に。 「君、アークの御厨クンやろ? 知ってるよー!」 凄いなあ、アークやで、などと楽しげな様子は今まで一般人を甚振っていた様には思えない。やや拍子抜けしながらも『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は彼女らに歩み寄る。彼女の手に握られた十字架はこの場に居ないメンバーへとヨリハらの声を届けていた。 「お誘い有難う。と、言うべきか?」 「嫌やなあ、来てくれただけで嬉しいよ」 けたけたと笑うヨリハに緊張感はない。突出して体格が良い訳でも外見的な特徴があるわけではない。唇から覗くヴァンパイアの牙、痩身に似合わない男物のコート。みずぼらしさすらも感じるような格好をした少女に夏栖斗はヨリハちゃん?と聞いた。 「君がヨリハちゃんだよね。君みたいな子、タイプだよ」 「有難う。あからさまに時間稼がんでもええよ。さっき上で何かしてる子居ったけど」 何をするの?その言葉に夏栖斗の笑顔が凍る。此処で力押しをしてしまっては作戦に差し支える事は幾度も戦いを経験してきた彼だからこそ分かった。ルールの説明をと促す『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)にヨリハは唇を尖らせる。 「ルール説明はゲームする上では重要でしょ?」 夏栖斗の言葉に彼女は熊の尻尾を持つ少年へと説明を促した。ルールは簡単だ。フォーチュナから説明されたものと同じ。3分間一般人を護り切れ、という物。倉庫の中に入って見て彼らが実感したのは活動範囲の狭さであった。其れなりに広さはある者の一般人が居る為に自由な戦闘行動があまり取れそうにない。 その説明に『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は唇を噛み締める。残虐な行い。到底認められるはずもないその行いに、認められないと零れかける言葉を呑み込んで魔力杖を握りしめた。強く、想いをこらえる様に。 説明が終わった所で話しを続けようとした禅次郎をヨリハが制した。浮かぶ笑顔は幼い少女のもの。 「さ、ルール説明は終わったで。お兄さん。始めよか」 数が、少ないみたいだけど。彼女が笑う。結唯の姿を確認しているヨリハらは別所から飛び込んでくる事に備えるように慎重に動いている。頭上から飛び込む彼女の事も予測済みなのだろう。 ぱりん、と窓ガラスが割れる。結唯が飛び込んだ事に視線を上げた少女が居た。そのタイミングで轟音を立て、倉庫の壁が崩れる。『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)の強烈な一撃を受けて崩れた壁。その音に紛れる様に夏栖斗はヨリハへと近づく。 「よそ見なんてしないでよ、傷つくじゃん」 「ッ――!?」 轟音に紛れて近づいた夏栖斗はヨリハの腹へと破壊的な気を流しこむ。寸での所で腹に直撃するその一撃を交わしたものの脇腹に当たった攻撃に彼女はふらつく。 「貴方達はこの行いを、確かにゲームと告げた」 静かに、彼女の目は少女らに向けられていた。瞳の先に居るのはマオトというホーリーメイガスの少女だ。ぎゅっと杖を握りしめ、少女は彼女らの行いに対する強い憎悪が湛えられている。 「ならば、そのゲームに勝たせていただきます」 常なれば司令官として言葉を操り、冷静に戦場を把握するミリィであるが、その非道な行為に対しては敵意を露わにしていた。まだ年若い少女は誰かの為に、と誰かの笑顔の為に戦うと決めているから。広がる閃光に少女らは目を細める。 「ここから……出ていけぇぇぇぇぇぇ!!!」 叫び声とともに一番幼い少女の体が浮き上がる。『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が叫びと共に放った一撃である事に気付いた時にはもう遅い。『ナルシス天使』平等 愛(BNE003951)の隣をすり抜けて倉庫の外へと弾き飛ばされ、隣の倉庫へと背をぶつけてしまう。 吹き飛ばされたリウが咳き込む所に風斗は立ちはだかる。室内に戻ろうとする幼い少女に折れない剣――デュランダルを突き付けて笑った。 「ゲームがしたいのだろう? 付き合ってやるとも。ただし、ルールは俺が決める!」 「それってどんなルール?」 淡い桃色の瞳が風斗に向けられる。付きつけられた剣に少女の指先が触れた。 「貴様かオレ、どちらが先に死ぬかの勝負だ! ここから先、一瞬の余所見も赦さんぞ!」 少女は無垢な瞳を向けて笑った。自分は殺す事が何よりの生業である『裏野部』でも戦いにその意味を求める『剣林』でもないけれど、望むなら。生きる、意味があるならば、と。 「ふふ、リウは強いよ? リウは黄泉ヶ辻の理得。おにーちゃん、名前は?」 「――楠神。アークのリベリスタ、楠神・風斗だッ!」 少女は鋼線を振るう。青年は只、目の前の敵へと剣を振るった。一般人には手を触れさせないと、彼女を戻らせはしないと。一人の犠牲も出すことなく護り切るために。それが折れない剣たる風斗なのだ。彼は折れない。例え運命を削っても、その身に何が起ころうと。 「――救わずして、何のための力か!」 フィンガーバレッドで銃弾を繰り出す結唯は白けた瞳をフィクサードへと向けていた。命在る者は何れ死ぬ。其れは常識であった。その常識がある故に彼女は一般人や革醒者がどうなろうと知った事ではなかった。但し、依頼だと言うならば其れは違う。 彼女の目の前に少年が現れる。彼らにとっては正義であるのだろうか。重い一撃が結唯へと繰り出された。 「ッ――」 体が吹っ飛ぶ。意識がぐらついた。窓から飛び込んできた彼女を狙った攻撃は続く。ふら付きながらも慣れた様に軽やかなステップを踏むヨリハが彼女の腹を裂く。溢れ出る血を懸命に愛は癒していた。上位の者を呼びその癒しの息吹を与え続ける。何度も、何度だって。 「ねえ、貴女、狂ってるの?」 静かに少年は問うた。その言葉に結唯は眼を伏せる。 「そんなことよりさ、ボクを怒らせたいって事は分かったんだ。ボクの可愛さを褒め称える為の人を勝手に殺さないでね?」 可愛らしい笑顔を浮かべた愛が少年へと手を振る。ゲームなんでしょう?と笑う彼は詠唱を続けた。微笑みを浮かべているものの彼の心中は荒れている。冗談めかした口調で言う彼は一つ決意している。 誰も殺させない。犠牲者を出すわけにはいかない。たった一人でも、誰だって殺させない。その為に彼は体内で循環する魔力を消費し続ける。 「助けに来たぜ!!僕らは味方だ、安心して」 振り向き、安心させる様に笑った夏栖斗をも怯える様に一般人は見つめる。其れほどまでに傷ついてしまったのか、と夏栖斗は唇をかみしめた。非道な行為は心を切り裂いていく。何と、痛ましい事なのだろうか。 「大丈夫、この穴から逃げてください。気をつけて」 指示を出すノエルは余力のある者が居れば助けてやってくれと声を掛ける。だが恐怖によって支配されていた一般人たちは逃げれる穴があると慌てて飛び出して行ってしまう。動けやしない一般人に気を使いながらも彼女はConvictioを振るった。 狙うのはヨリハだ。その剣を振り上げて、彼女はヨリハの体を飛ばそうと一閃する。だがしかし、少女は寸での所で踏みとどまりその爪をノエルへと向ける。 「派手に、動きますね」 「黄泉ヶ辻らしくないって? 嗚呼、あたしも思ってる」 閉鎖的な黄泉ヶ辻のフィクサード達による一般人への暴力。其れが他の外道――フィクサード達で在れば納得できただろう。直接手を下す裏野部の様な行為にノエルは疑問を感じていた。 彼女の頬を裂いた爪先。少女の腕を掴み、其の隙に剣を振り下ろす事でヨリハは倉庫の壁へとぶち当たる。唇から血が一筋垂れる。赤い血を見て少女は狂った様に笑い始めた。嗚呼、血だ、血だわ、と。 「さて、我らに何のご用ですか?」 壁際へと歩いていくノエルにヨリハは立ち上がり、痩身には似合わない男物のコートの裾を叩く。 「派手に動けば、アークが「アークに来てほしかった、此れじゃあかん? ――ゲームの後に、教えたる」 意味の通らぬ応えにノエルは視線を逸らす。元から解答など期待はしていなかった。何れにしても彼女が行うのは全て穿ち滅ぼすのみ。 ノエルが攻撃を行っている事を確認し、フリーになっていたホーリーメイガスの腹へと夏栖斗は拳を叩きこむ。 「黄泉ヶ辻殺しのノエルちゃんもゴキゲンだからね。諦めておうちに帰りなよ? なんなら、おうちまで送るよ?」 「あら、嬉しい」 笑みを漏らしながらも彼女は耐えず周囲を聖なる光で焼き払う。其れに苦しんだ一般人に夏栖斗の瞳は揺れた。如何足掻いたって、この攻撃を使われてしまっては一般人を苦しめる事になる。その痛みを癒す様に愛が歌っても、痛みを感じる事には違いないのだ。 再度放たれる聖なる光に杏樹は眼を狙った。視線がずれる。不発となった其れにきっとヨリハは杏樹を見つめた。アストライアから放たれる銃弾は穿つ矢となる。 「私は飛び抜けた命中も力もないけど、中ボスには十分だろう?」 「もし、あたしが中ボスどころの騒ぎじゃなかったら?」 杏樹とヨリハの視線がかち合う。彼女はあの子について知りたかった、けれどこの行いに対して説教をおこなうのが先だと決めていた。少女らの非道な行い。例え、幼い彼女ら出会っても赦さざる其れ。 「説教をくれてやる」 ヨリハを見つめる彼女の瞳は爛々と燃えている。 「なあ、ゲームって人の命をなんだと思っているんだ」 「――さあ、なんだろう」 禅次郎の問いに少女は笑う。彼は言葉によって少女を引きつけていた。狙いのリウは外へと飛ばされ、中心で仲間達に攻撃を受けているヨリハの回避能力は高い。彼はホーリーメイガスへと銃剣を振るう。何度だって。このゲームを終わらすために。 「彼らが受けた痛みです。貴方達自身で受けてみてください」 体を焼くような痛みにマオトとシヅがのたうち回る。だが、彼らも革醒者として、黄泉ヶ辻のフィクサードとしての経験がある。その痛みにも耐え、攻撃を続けていた。ふるりとミリィの膝が震える。挫けそうになる。けれど、倒れてなんて遣らない、怖い、苦しい。そう思う。 けれど、目の前の、護るべき人たちが居るから。穴から這い出していく人々を見送りながらも少女は唇を噛み締めて倒れる事を耐える。 「私は、私たちは、貴方達になんて負けない!」 どさり、と音がする。結唯が倒れた音だと気づき、愛は唇を噛み締める。彼の中で魔力はもう循環してなかった。ハイ・グリモアールを抱きしめる手に力が籠る。 「――いらない」 もうマナサイクルなんていらない。自分が頑張れば救えるから。もうすぐゲームだって終わりだ。彼は歌い続ける。誰の為か、其れは護るべき者の為。誰だって殺させない、何だって殺させない。それが彼が、愛が此処に居る理由。 「当然、狩られる側に回る覚悟もあるのだろう?」 彼の言葉に吸い寄せられるのはクロスイージスの少年だった。消耗している彼へと自身の痛みを叩きつける。少年は膝をつく。例え、幼い子供であったって、逸脱者であるならば生かすつもりはない。 ふと、其処でノエルは想う。目の前の少女は唯の『フィクサード』ではないのではないか、と。彼女と対等に渡り歩く少女。その掌の内をまだ見せないかのような行動。 「貴女、何を知っているのですか」 「――君があたしを穿つなら、分かるんじゃないの」 その言葉とともにヨリハの体は穴から吹っ飛ばされる。外壁にもたれ込むリウの隣に肩をぶつけ、ヨリハは自身から流れる血を見て、にたりと笑った。 戦場を奏でる少女は悪しき夢への終焉を送る。何度も何度も痛めつけてきたであろうその少年らの体を彼女は燃やす。 「――最初に行ったでしょう、勝たせてもらうと」 少年の膝がぐらりと揺れる。一般人らは誰も減っていない。肩で息をしながら杏樹は周囲を見回す。立っているフィクサードは倉庫内にはいない。外に飛び出し、倉庫の中へとは居れない、と彼女はアストライアを構えたままじっとヨリハを見つめた。 かち、かちと時計の針が音を刻む。膝を押さえながらも少女は笑った。 「チェックメイトや。三分やで」 ● 膝をついたヨリハが肩で息をしている。倒れ込み、浅い息を吐くリウに剣を振り被った風斗の所へと愛は慌てて駆け寄った。 「――駄目だよ」 手で制し、彼は歌う。其れに合わせ黄泉ヶ辻のフィクサードである少年も歌った。ノエルが目を見開く。何故、敵を助けるのか、と赦さざる行為を行っていた敵を。 「言ったでしょ? ボクは今回1人だって死なせないって」 死なれたら、困るんだよ。俯いたまま愛はハイ・グリモアールを抱きしめる。溜め息をつきながらも愛の肩を叩き夏栖斗は√666を握りしめたままにヨリハへと視線を向ける。 「自分が痛い目見るのはもう、嫌だろ? 諦めておうちに帰っちゃっても良いんだぜ?」 「……これで三分や。ゲームは終了。君らの勝ち」 少女は両手を上げた。降参だと言う様に。まだ敵意を剥き出しにしている風斗の手を愛はぎゅっと握る。これ以上はいけないとでもいうように。そっとミリィは一歩歩踏み出す。聞きたい事がある、と。 「……貴方達の計ったような、同種事件の多発。裏に居るのは、誰ですか?」 その言葉に杏樹も頷いた。ヨリハが口にしていたという『あの人の縁者』『あの子』については彼女も気になっていた。先ほどノエルが問うた際はゲームが終わったら、と笑った彼女。ゲームが終了した今ならば、明確な答えが返ってくるかもしれないとミリィは期待していた。 「一つだけ、教えといたる。あんた等のだぁい好きな『あの人』には『妹』が居るんやで」 あたしは唯の一般人ですなんて茶化す様にヨリハは笑う。彼女の蒼い瞳が楽しげに歪められた。その足はゆっくりと後ずさる。この好機を逃さぬように。ゆっくりと、ゆっくりと話しながら。茶化す様に。 あの人、その言葉にピンときた禅次郎は黄泉ヶ辻京介と呟いた。黄泉の狂介と呼ばれる男の妹など今まで聞いた事がないと夏栖斗は首を振る。 「それじゃ、あの子って……」 「その妹の事や。 ――『あの子』もこうやって何かしてるんよ。あたしは面白いから『あの子』の遊びに付きあうだけ。どーせ、女は狂いきれへん。狂って狂って狂っても力が足りへん、憧れは常に真実を遠ざけるんや」 彼女の憧れ、狂いきれないという事実。何かを含んだ様に言う少女にじっとミリィは目を向けた。その隠された『妹』たる存在を知っているヨリハが一般人であるわけがない、と疑う様な視線を向けて。 「分かり合えへんのも美徳やで。 さあ、またお会いしましょう! あんたらのこと覚えとく。あたし、あんたらみたいな子好き!」 リベリスタを見回したヨリハが両手を広げる。癒された傷口。男の物のコートを脱ぎ棄てて、焼け爛れた痩身を露わにした少女は愛おしげにリベリスタを見つめた。 「だから、あんたらもあたしの事を――黄泉ヶ辻の『樂落奏者』仇野・縁破をどうぞよろしゅう!」 樂落奏者は歌う様に、楽しげに、自身の名を告げて夜の闇へと紛れた。 舞台の幕開けを告げるかのように奏者は笑う。ファンファーレを奏でる様に、踊りながら。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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