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強運のギャンブラー。或いは、ラッキーorアンラッキー……。

●強運のギャンブラー
 煙草の煙と、漂うアルコールの臭い。怒鳴り声とザワザワという喧騒。サイコロの転がる音、ルーレットの回る音、カードを切る音に、チップを叩きつける音。
 それら全てを照らして包む、橙色の裸電球。籠った熱気と、人いきれでその薄暗い部屋の中は、酷く蒸し暑かった。
 明らかに、ならず者と分かる容姿の男共がテーブルを囲んで興じているのは賭けごと、ギャンブルの類である。それも現金をかけ、時には自身の命や身体までベットするような、危険なものだ。
 負けた者は怒鳴り、或いは泣き叫ぶ。逆に勝者はこの世の春とばかりに喜声をあげ、諸手をあげて飛び跳ねる。酒と煙草で程よく感覚の麻痺した頭には、多少の危険も娯楽の一部と認識されるのだろう。
 そんな、無法地帯に女が一人。背中の大きく開いた紅いドレスを着こみ、優雅な手つきでテーブルに転がしたのは3つのサイコロであった。
 小さな椀の中で回転を止めたサイコロを見て、女の対面に座る男が悲鳴をあげた。
 脂汗のびっしり滲んだ額と、瞳孔の開き切った眼。半開きの口から漏れるのはひゅーひゅーと頼りない吐息と、歯の鳴るガチガチという音。
「また、私の勝ちね。今のでいくらかしら?」
 なんて、女が笑う。次の瞬間、男の眼球がグルリと回って、白目を剥いた。
 椅子から崩れ落ち、床に転がった男は小さく痙攣を繰り返す。彼の前には、数枚の紙幣。女はそれを手にとって、ニヤリと笑う。
「足りないわ。全然足りない」
 しかし、男にはもう一銭も財産は残っていないのだ。それを知っていて、女はそう言ったのである。
 この後、男がどのような末路を辿るのか、想像に難くないだろう。
「また……。またあの女の独り勝ちだ」
「ここんとこずっとだぜ。なんでも、ここ2日ほど他の店でもああやって荒稼ぎをしているらしい」
「おっかないな。勝負を吹っ掛けた奴らは、馬鹿ばっかだぜ」
 などと、遠巻きにヒソヒソ言葉を交わすのは、これまたいかにもな小悪党面をした男たちであった。女に挑むだけの度胸も、財産も持たない彼らに出来るのは、こうして敗者を肴に噂話を交わすことだけ。
 今し方、女に大敗を喫した男は、もともとこの店でも1、2を争うギャンブラーだった。今日も今日とて、順調に稼ぎを増やしていた所に、件の女が現れたと言うわけだ。
 紅いドレスの女ギャンブラー。
 曰く、あり得ないほどの強運を持った女が、最近荒稼ぎをしている、と賭場ではもっぱらの噂であった。腕に覚えのあった男は、彼女に勝負を挑みたいと常々思っていた。
 だから、女が賭場に姿を現して早々、彼は息まいて勝負を吹っ掛けたのだ。
 結果、惨敗。財産の全てを失い、それでもまだ、支払いは残っている現状。耐えきれなくなり、失神した男を見て、女は笑う。
「まぁ、いいわ。貸しにしといてあげる。今日はもう帰るわ、挑戦者もいないみたいだし」
 なんて、荒事になれた男達を見回して、女はそんなことを言う。
 明らかな侮蔑を込めた視線を振りまいて、席を立った。
 その時……。
「調子にのりやがって!」
 そんな女に向かって、1人の男が酒瓶を投げつけたではないか。瓶は、真っすぐに宙を走り、女の後頭部目がけ飛んでいく。そして、いよいよ女に命中、誰しもが女の頭が割れる所を想像した、次の瞬間。
 ガツン、と天井から落ちて来た裸電球が酒瓶に当たって、その進路を変える。酒瓶は女に当たらず、そのまま床に落ちて砕け散った。
 それだけではない。砕けた酒瓶の欠片が、大きく跳ねて、酒瓶を放った男の額に突き刺さったのだ。
 悲鳴と、どよめき。賭場に集った全員が、女の強運に目を剥いた。
「私には、ギャンブルの神が付いているのよ」
 そう言って笑う女の背後に、スーツ姿の青年が立っている。もっとも、その姿は半透明に透けて、今にも消えてしまいそうだったのだが……。
『まったく君は運がいい。そして俺も、運がいい』
 クック、と笑ってスーツの青年は再びその姿を消した。
 紅いドレスの女と、スーツ姿の青年は、そのままふらりと夜の街へと繰り出していった。

●強運からの挑戦
「E・フォースと化した強運のギャンブラーと、1人の女が今回のターゲット」
コロン、と台の上にサイコロを転がして『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がそう言った。モニターに映っているのは、どこかの地下室かなにかだろうか。ぼんやりとした照明に照らされて、件の紅いドレスの女が椅子に腰かけている。
「場所は、彼女の隠れ家。その地下室。それなりに大きいみたい」
 モニターに移っている女は、見た目、何の変哲もない美しい女性である。
 それもその筈、彼女は単に人より少し運がいいだけの、ただのギャンブラーだ。
「問題は、彼女を半ば操っているE・フォース(ジャック・ポット)の存在。フェーズは2。周囲の運を自在に上下させる能力を持っている」
 元より強運の女に、この能力が付与されたのだ。
「もしかしたら、周りの運を吸いとっているのかもしれない……。それくらいに、相手は強運。そして、恐らくこちらは不運に見舞われることになる」
 それが今回の任務、最大の問題点である。
「正直、ジャック・ポット自体はさほど強くはない。女も、運がいいだけで、戦闘能力は皆無でしょうし。ただ、こちらの攻撃や行動が、いかほど成功するのか、それが問題」
 そう言ってイヴは、手にしたサイコロを3つ、いっぺんに転がす。出た目は1、2、4とバラけている。
「相手はこれを1回で1のゾロ目に揃えるような、強運を持っている」
 加えて、とイヴはモニターの映像を拡大させる。拡大された映像に映ったのは、地下室の床だ。何やら、マス目状に区切られ1~6までの数字が書き込まれているのが見える。
「これは、この地下室に仕掛けられたトラップのスイッチ。上で止まると、ランダムでトラップが発動したり、しなかったりするみたい。どうやら、女の作った悪趣味なゲーム盤のようね」
 恐らく、飛行状態でも上に止まればトラップは発動するのだろう。
 無論、一般人の作ったトラップ程度、リベリスタならばさほど苦労せずに回避も可能だろうが。
「気を付けて。こちらの運は、極端に悪くなっているから」
 それと、とイヴは更に付けくわえる。
「ジャック・ポットの能力は運の上下だけじゃない。小さなサイコロ形の爆弾を作りだす能力と、刃のトランプを作りだす能力も持っているから。気を付けて」
 相手は極端に強運、幸運を。
 こちらは、極端な不運、悪運を。
 ただし……。
「100パーセント成功、なんてことは、あり得ない。逆もまたしかり。諦めないでね」
 そう言って、イヴはリベリスタ達を送りだすのだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年09月15日(土)23:46
こんにちは、病み月です。

今回は、ギャンブラーとの試合になります。
以下、詳細。


●場所
女の隠れ家の地下にある遊技場。直線距離40メートル程度。横幅、15メートル程度。
マス目状にラインが引かれており、それぞれ1~6まで数字が書かれている。
マス目の上に誰かが止まると、トラップが一定確率で発動するようになっている。トラップ【1】と【6】は発動確立がかなり低く、マスも少ない。残りのナンバーの発動確立はニ分の一程度。

トラップ【1】→ラッキーカード
 バッドステータスを回復させ、更に次の行動の成功率を上げる。
トラップ【2】→蔦[呪縛]
 蔦がその身を捕らえ身動きを封じる。
トラップ【3】→コールドミスト[氷結]
 絶対零度の霧を吹きかける。
トラップ【4】→槍の雨[出血]
 上方から槍の雨が降ってくる。
トラップ【5】→スタンショット[雷陣]
 マスの上にいる相手に、高圧電流を流す。
トラップ【6】→黒い手[凶運]
 床から伸びる黒い手が、運を奪い去る。

●ターゲット
紅いドレスの女(ギャンブラー)
生まれつき人並み外れた強運を持つ女。
戦闘には参加せずに、部屋の最奥で座って、ジャック・ポットと挑戦者の試合を眺めているつもりのようだ。

E・フォース(ジャック・ポット)
フェーズ2。
ギャンブラーの思念から生まれたE・フォース。運を上下させる能力を持つ。
スーツ姿の青年の姿をしている。

【ラッキーorアンラッキー】
 運を操る能力。
自身の運を上昇させ、周囲の対象には[不運]効果が付与される。

【ダイス・ボム】→神遠範[火炎]
 サイコロの形をした爆弾。

【カード・ナイフ】→物遠単[出血]
 カードの形をした刃。

 
以上になります。
リベリスタ側は常に不運の効果を受けている状態になるので、気をつけてください。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
覇界闘士
李 腕鍛(BNE002775)
ナイトクリーク
七院 凍(BNE003030)
クリミナルスタア
ジルベルト・ディ・ヴィスコンティ(BNE003227)
ナイトクリーク
不知火 有紗(BNE003805)
レイザータクト
朱鴉・詩人(BNE003814)

●地下賭博場
 薄暗い地下室に、灯りが灯る。灯りに照らされた床は、チェス盤のようなラインが引かれ、マスの中には1から6までの番号が並んでいる。
 階段を降りて、地下室へと降りたリベリスタ達を出迎えたのは、地下室最奥の椅子に腰かけた、紅いドレスの女だった。妖艶な笑みを浮かべ、パチパチと手を叩く。
「いらっしゃい。ゲームに参加してくれるのかしら?」
 なんて、まるで彼らが来ることは予定調和だったかのように、女は言う。その表情は余裕に満ちている。自身の勝利を微塵も疑っていないものの顔だ。
『隠れ家に入った所から、君達の来訪には気付いていた。ここまで来たからには、私のゲームに参加してくれるのだろう?』
 女の背後に、紳士然とした男の姿が浮かび上がる。
 と、同時に床に描かれた数字が淡く光りはじめた。
「それじゃあ、ギャンブルといきましょう」
『ゲームスタート、だ。よろしく、諸君』
 床を滑るようにして、スーツの青年(ジャック・ポット)が、盤の上に飛び乗った。

●運命ゲーム
「他人の力で勝つ勝負に価値はないわ。それは単なる効率のいい金稼ぎ」
 咥え煙草に火を付けて『鉄火打』不知火 有紗(BNE003805)がそう告げた。運を大事にする彼女は、このゲームになにか思う所があるらしい。
「さ、運だめしといきましょう」
 手近にあった【1】のマスに飛び乗りながら『薄明』東雲 未明(BNE000340)が言う。バスターソードを肩に担いで、まっ直ぐにジャック・ポットを睨みつけた。
【1】のマスはラッキーカード。バッドステータスを回復させ、次のターンの行動成功率をあげる効果だ。しかし、なにも起こらない。
『ふむ。効果は不発のようだ』
 そう言いながら、ジャック・ポットは歩を進める。踏み込んだのは【5】のマス。発動すれば、対象者に強い電流が流れることになる。しかし、またしても何も起こらなかった。幸運を引き寄せ、不運を遠ざける。それが彼、ジャック・ポットの能力である。
「さて、チップは己。勝てば貴女を頂く、ってね。割に合わねーよ。それでもやるんですけどね」
 アハ、なんて皮肉気に笑って『バトルアジテーター』朱鴉・詩人(BNE003814)は、盤の上に飛び乗った。素早く移動し、ジャック・ポットに攻撃が届く範囲まで駆ける。メスを振るい、魔弾を放つ。
『おっと。危ない』
 ジャック・ポットは首を傾げる動作だけで、それを回避する。不運が付与されているせいで、こちらの行動が失敗しやすくなっているらしい。
 代わりに……。
「いってぇ……」
 上方から降って来た槍の雨が、朱時の体を貫いた。血が飛び散って、床を濡らす。
「運が良い、悪いだけで勝敗を決めようとするなんてギャンブラーだね」 
  ジャック・ポットが手を振ってカードを投げたのを見て『最弱者』七院 凍(BNE003030)が前に飛び出す。巧みに【4】【5】のマスを踏まないよう移動し、朱時を庇う位置に移動する。赤い大斧を振るって、カードを叩き落とす。
「オタクかギャンブラー、比べたら絶対オタクの方がもてるって。ギャンブラーなんて自己破滅型でしょ」
 なんて、呆れたように呟いた。
 次の瞬間、七院の体に真白い霧が吹きつけられた。ピシ、と音がして一瞬で彼の体に氷が纏わりついた。もっとも、スキルの効果で、彼が氷に閉じ込められるということはない。
『これくらいの攻撃では、通用しませんか。もっとも、不運は存分に味わっているようだが』
「運とは基本的に不確定要素ですが、こうまで運を能力化されると『運も実力の内』だと認めざるを得ませんね」
 象牙色の手甲を打ち鳴らし『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)が全力で駆けだす。そんな大御堂を心配そうな顔で見送ったのは、双眼鏡を手にした幼い少女だった。七院の作りだしたシノと呼ばれる式神である。
 長い黒髪と、豊かな胸を揺らし大御堂が駆ける。一気にジャック・ポットとの距離を縮めようとマス目など関係なしだ。しかし届かない。
 ふい、と揺れるように動いたジャック・ポットは、大御堂から距離をとり、サイコロを放った。地面を転がるサイコロが、大御堂の足元へ。
 強い閃光と共に、大御堂の足元でサイコロが爆ぜた。熱波と爆風、飛び散る火の子。大御堂の肌が焦げる。
『今度は成功。けど、幸いなことにそこは【1】のマスか』
 大御堂がマスによる追撃を受けることはない。しかし幸運の効果も発動しなかったようだ。
 はぁ、とため息を吐いて『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)が前へ出る。
『ロクデナシでも、回復手は必要でしょう?』
 脳裏に直接、涼やかな声が響く。発語を嫌う彼女のコミュニケーションは、基本的に念話によって行われる。
 着物を崩さぬよう楚々とした足取りで、しかし素早く空いていた【1】のマスへ。全体に効果が届く位置ではないが、ここまで負傷した3名は効果範囲に入っている。
 呟くように口の中で唱えたのは、歌だろうか。淡い光が朱時、七院、大御堂を包みこんだ。
「そうでなくちゃ、面白くないものね。昔から運がよくて、負けというものを経験したことがないの、私。今回はちょっとだけ、楽しめそう」
 椅子に腰かけ、高笑いをあげる紅いドレスの女。ニヤニヤとした笑みを浮かべたまま、ジャック・ポットとリベリスタ達のゲームを観戦している。
「ふむ。ドレスの似合う女性でござるか。いいでござるね。にははは」
 人懐こい笑みを浮かべ、床を蹴ったのは『女好き』李 腕鍛(BNE002775)だ。敢えてジャック・ポットを無視し、女目がけて駆け抜ける。
『ディーラーに攻撃するのは、ルール違反だ』
 ジャック・ポットがカードを投げる。照明を反射し、怪しく光る刃物のカードは、李の進路を塞ぐ。思わず、足を止める李の足元から蔦が伸びる。
「き、危険な賭けでもしたかったでござるかな?」
動きを止めた李の頬を冷や汗が伝う。彼が蔦による拘束を受けることはないが、動きは止まった。そこへ刃のカードが飛んでくる。
「偶には危険もいいじゃない? 運だめし、よ。ただの」
 なんて、女は笑う。釣られたように、ジャック・ポットも。
 そして。
「俺様に運だめしを挑むなんざ、いい度胸してんじゃねぇか!」
 二丁拳銃でカードを撃ち落としながら『LUCKY TRIGGER』ジルベルト・ディ・ヴィスコンティ(BNE003227)も、高らかに笑う。自身の運に絶対的な自身があるのだろう。止まったマスは【6】番。全部で6種類あるマスの中で、最も運の悪いマスだ。
 マスから黒い腕が伸びて、ジルベルトの体に巻きついた。彼の身に、黒い霧が纏わりつく。しかし、ジルベルトは、不敵に笑うとジャック・ポットに視線と、銃口を向けた。
「格の違いってもんを教えてやるよ。本物ってやつをなぁ!」
 左右の手に握った銃から、弾丸が放たれる。元から付いている不運に咥え、凶運まで付与された彼の攻撃は、当然のようにジャック・ポットから大きく逸れて床を削った。
『面白い! 面白いな、青年』
「活きのいいギャンブラーだこと」
 なんて、女とジャック・ポットは楽しげな笑い声をあげる。今まで、ジルベルトのような輩は何度も見てきた。そんな奴らを女は片っ端から、ギャンブルで潰してきたのだ。
 そうこうしているうちに、いつの間にか彼女のギャンブルに対する執着はE・フォースを生み出していた。それがジャック・ポットだ。2人とも、ギャンブルが好きで好きで堪らないのだ。
『足を引っ張らないよう、人事を尽くすわ』
 なんて、ジルベルトの脳裏に汐崎の声が木霊する。淡い光が彼の周りを舞う。汐崎の大天使の吐息によるものだ。光が黒霧を包みこんだ。しかし霧は晴れない。不運による行動の失敗である。
「流石にそう何度も治療されては、無粋だわ」
『うん。少し大人しくしていてもらいたいな』
 女とジャック・ポットの視線が汐崎に向く。笑顔に、若干の意地の悪さが窺える。スイ、とジャック・ポットが移動し汐崎との距離を詰めた。
 腕が振るわれ、宙を舞う刃のカード。それを阻もうと朱鴉がメスを投げるが、当たらない。
「クソ面倒な仕掛けしやがってからに……」
 忌々しげに床を蹴って、舌を打つ。
『っ!』
 汐崎目がけ、カードが迫る。ギラリと鋭く光を反射し、風を切って飛ぶ。汐崎が身を捻ってそれを回避しようとするが、間に合わない。
 避けられないと見てとると、汐崎は口元を小さく綻ばせた。冷たい目で、カードを睨む。
『これってギャンブルなんでしょ? 命くらいはチップにしてもよくてよ』
 なんて、甘んじてカードを受ける覚悟を決めた。そんな汐崎の前に、影が飛びこむ。紫煙をなびかせ、汐崎とカードの間に割って入ったのは不知火だった。
「今回のキーは間違いなく沙希ちゃんだからね。それに、私の運は誰かに左右されるもんじゃないの」
 余裕の表情を浮かべる不知火。しかし、武器も戦闘スキルも持たない彼女に出来るのは、その身を犠牲にして汐崎を庇うことだけだ。顔の前で腕を交差させ、致命傷を防ぐ。カードは容赦なく不知火の体に突き刺さった。血が飛び散り、汐崎の頬を濡らす。
「っつぅ」
 床に地面を付く不知火。描かれたナンバーは【5】。効果が発動すれば協力な電流の流れる床だ。けれど、幸い、なにも起こらない。不知火の運が、不運に打ち勝ったのだろう。
「私が勝ったら抵抗せずに付いてきてもらうわ」
 と、不知火は勝ち誇った笑みを浮かべ、女に視線を向ける。それを受け、女の表情が強張った。額からも血を流しながら、壮絶な笑みを浮かべる不知火に恐怖を感じたのか。ここに来て初めて女の顔から余裕が消える。
 ジャック・ポットの動きも目に見えて鈍る。彼が止まったのは【2】のマス。当然のごとくマスの効果は発動しない。しかし、視線は不知火に固定されたまま。
「敵の左右に【1】と【6】のマス! いけるわよ!」
 煙草を吐き捨て、不知火が叫ぶ。弾かれたように、大御堂と李が床を蹴った。
「ジャック!!」
 女が警告の声をあげるが、遅い。その時にはすでに2人との距離は、縮まっていた。
「出来れば女性と話したいのでござるが……!」
 這うようにして、下段から冷気を纏った拳を突き出す李。それに続いて、上段からは大きく飛んだ大御堂の両腕が振り下ろされる。雪崩のような勢いで、重力任せの渾身の一撃だ。手甲に照明の灯りが反射し、鈍く光る。
「この閉鎖空間、追い詰められれば逃げ道は皆無!」
 そして、前進するだけなら運の良し悪しは関係ない。事実、ここまで肉薄されれば、攻撃を回避することも難しいだろう。大御堂の手がジャック・ポットに迫り、掴みかかる。
けれど、ここでジャック・ポットは賭けに出た。
 そう。ギャンブル、だ。自身の幸運を信じての行動。彼の袖から、いくつかのサイコロが床に落ちた。瞬間、閃光が走る。サイコロが爆ぜた。空気がかき混ぜられ、熱風と爆風が吹き荒れる。
「うわっ!」
「きゃぁ!」
『くっ、おぉ!』
 3人分の悲鳴が上がる。大御堂の体が大きく背後に弾き飛ばされる。一方、李は姿勢を低く保っていたため、吹き飛ばされることは回避できたようだ。拳を振るうが、ジャック・ポットに当たらない。ジャック・ポットの体も、爆風によって背後に吹き飛ばされていたからだ。
 これが、彼の賭け。ギャンブルだ。自身の攻撃による戦線の離脱。近距離での爆発により、それなりのダメージは負うが、賭けには勝った。2人分の攻撃を受けるよりはマシだ。
 攻撃を空振り、床に倒れた李の体に黒霧が巻き付く。【6】のマスの効果によるものだ。
『危ない危ない。初めて、ひやひやしたよ!』
 と、嬉しそうにジャック・ポットが告げた。
 しかし……。
「まだ、終わっていないのよ」
 彼の背後に、いつの間に迫ったのか東雲の姿。バスタードソードを上段に振りかぶり、気合い一閃、力任せに振り下ろす。
 ジャック・ポットの足元には【1】のマス。しかし、効果が発動する前に、その場から飛び退くジャック・ポット。
「その幸運、横取りはできずとも邪魔は出来るのよ」
 振り下ろされた大剣が、ジャック・ポットの腕を切り裂く。
「絶対じゃない限り過信は禁物。そうでしょ?」
 なんて、不敵に笑う東雲目がけ、槍の雨が降り注ぐ。それを受けながらも、東雲は笑う。
 彼女の視線の先には、逃げるジャック・ポットに迫る七院の姿があった。その後ろ、遥か遠くには彼の式神の幼女が、双眼鏡を手に腕を振りまわしている。どうやら、七院に進路を指示しているようだ。複数の状態異常無効化スキルを身につけた彼は、比較的安全にこのゲーム盤の上を移動できる。
「キミは自分の運をあまりに信じているようだが、戦意に対してあまりに警戒が無さ過ぎる」
 そんな覚悟ではボクらに勝つことはできない、なんて、言いながら振り抜かれる大斧。赤い軌跡を描き、鋭く磨かれた刃がジャック・ポットに迫る。
 回避することは不可能だと判断したのだろう。ジャック・ポットはカードを取り出し、七院に向けて投げつける。七院の大斧は、ちゃちなカードなど易々と討ち砕き、ジャックに迫る。
『う、うぉぉぉぉ!!』
 ジャック・ポットが悲鳴を上げる。空気を切り裂きながら、黒いオーラを纏った大斧がジャック・ポットの迫る。その巨大な刃が、彼の首をはねようとした、その時……。
「……なに!?」
 空から降り注いだ槍が、斧の進路を阻み、その動きを止める。先ほど、ジャック・ポットが投げたカードは単なる目くらましだった。七院の足を、その場に縫いとめる為の牽制だ。
 踏んだマスは【4】番。槍の振るマスである。
『止まらないよう避けていたみたいだがね。運が無かった』
 最後の最後で、七院がそのマスの傍を通過したのが、ジャック・ポットの命を救ったのだ。けれど、ジャック・ポットの危機は未だ去ってはいない。
「追撃!」
『怪我は気にせず。治します』
 不知火と汐崎の声が響く。そんな彼女たちの傍には、戦線に復帰しようとする大御堂の姿もある。このまま時間が経過すれば、さらに攻撃の手が増えることになるだろう。
「不条理に身を委ねるとか、ふざけんな。乱数より固定値だよな。現実で乱数調整なんかできっかコノヤロー!」
 悪態を吐きながらも、朱鴉が前へ出る。手には使い古されたメスを握り、白衣を翻して走る。逃げ道を塞ぐように、魔弾を放ち、ジャック・ポットを追いたてる。投げつけられるカードも、地面を転がるサイコロも、無視し、或いは払いのけ、駆ける。
「jackpot! ってか。可能性が那由他の彼方でもあれば引き寄せてやんよ! 貴様はそこで朽ちて行け!」
 メスとカードが衝突し、両方とも床に落ちる。しかし、朱鴉は構わず、腕を振って、光弾を放った。光弾は、ジャック・ポットの眼前で弾け、閃光を撒き散らす。
『ぐっ……。目くらましか!』
 ジャック・ポットの動きが止まる。そして……。
「……チェックメイト」
 と、ジルベルトは告げた。
 閃光に眩んだ目を開け、ジャック・ポットが見たものは、彼の額に向けられた銃口であった。眼前に立つのは、眼帯で片目を覆った野狼のような男の姿。未だ、ジルベルトの体には黒霧が巻き付いている。不運に凶運の上乗せ。行動の成功率は極端に低い筈だ。
 だが、彼は不敵な笑みを崩さない。
「あんたと俺様の運、どっちがより幸運か、運だめしといこーぜ。命を賭けてなぁ!」
 そう言ってジルベルトが踏み出した先にあるのは【1】のマス。幸運を運ぶ、ラッキーカード。今まで一度たりともその効果を発することのなかったマスに、ジルベルトは踏み込んだ。
 次の瞬間、ジルベルトの足元から強い光が立ち上った。カランコロンと、どこからか鐘の音も聞こえてくる。その音に追われるように、ジルベルトの身に巻き付いていた黒霧が晴れる。
『………。運のいい奴だ』
「さすが俺様。ジャック・ポット。あんたの来世がラッキーでありますように――ciao」
 引き金が引かれ、空気の弾ける音がした。
 傷ついたジャック・ポットを終わらせたのは、たった1発の弾丸。
ジャック・ポットの姿は煙のように消えていく。ギャンブルを愛したE・フォースが、最後にどんな顔をしていたのか。
 知っているのは、ジルベルトただ1人……。

●紅いドレスの女
「私の負け、ね。面白いゲームだったわ」
 両手を上に上げ、女は笑う。椅子に座ったまま、動こうともしない。
 結局、彼女にとってはこれもゲームの延長でしかなかったのだろう。いつかは負けることもあると、割りきったゲーム。景品は自分自身だ。
 負けたとはいえ、彼女は満足気に笑ってさえいる。
 よほど面白いゲームだったのか。或いは、負けることを望んでいたのかもしれない。常勝のギャンブルなんて、面白くもなんともないから。
 そんな彼女を眺めながら、東雲が溜め息を吐いた。
「貴女は知らないでしょうけどね、彼みたいなのと一緒にいると、化け物になっちゃうのよ」
 幸い、今回はそうならずに済んだようだが。
 負けて、捕縛されることになって。しかし結局、全て女の思い通りの展開だったのかもしれない。そう思うと、やはり彼女は『運』がいい。
「言ったでしょ。割に合わねーって」
 なんて、朱鴉が吐き捨てるようにそう呟いた……。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れさまでした。地下賭博場でのゲーム、リベリスタ陣の勝利です。
ジャック・ポットは消え去り、女は無事捕縛されました。
いかがでしたでしょうか? 
お楽しみいただけたなら幸いです。

それでは、そろそろ失礼します。
縁がありましたら、また別の依頼でお会いしましょう。
では。