●探り合い 「さて、実際どうなるか?」 どちらに転んでも、其々対処法は考えている。 出来ればうまくいってほしいが、中々難しいかも知れない。 全ては、アークのリベリスタ次第。 そもそも彼女たちとて利用されているという事は充分に理解しているだろう。 此方に従うフリをして、色々と探っているに違いない。 この国での、自分たちの立ち位置というのを。 現状はこちらに雇われるしかないが、それがどれだけ危険なのか承知しているからこそ選択肢を増やそうとする。 その行動を、こちらは利用しようというのだ。 「……全く、面倒だ」 だが、直接戦うのに比べれば幾分もマシと言えるだろう。 アークと対峙して勝つ自信があるかと言われれば……自分には無い。 冷静にパーセンテージで考えれば、分の悪過ぎる賭けだ。 しかも勝った処で、どれだけのメリットがあるというのか? 「……如何考えてもビジネスにはならないよな」 まったくもって、面倒なことだ。 好きで争う奴等の気が知れない。 「……まあ、バケモノかドMのどっちかってトコだろうな……」 男はうんざりという態度で溜め息をつくと、少し歪んだ紙箱から煙草を一本取り出した。 火を付けようとして……この場所が禁煙だったことを思い出す。 やれやれ、生きにくい世の中になってきたものだ。 男は小さく呟いて、煙草を銜えたまま立ち上がった。 ●お茶会のお誘いメール 「ソレッレというフィクサード集団からコンタクトがありました」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう説明して、ファイルのひとつをデスクの上に置いた。 全員がメタルフレームの女性で構成されたその小集団組織は、幾つかの事件でアークと対峙した事がある。 以前はイタリアで活動していた組織らしいのだが、何故日本で活動しているのか? 今の処は判明していない。 「実際は短いメールみたいな形で届いたんですが、メールそのものは自動消滅しました。あ、ウィルスとかそういう類も考え厳重に調査しましたが、問題は無かったそうです」 紙に書かれているのは、メールを確認した調査員が目視で文字を読みキーボードを叩いて複写したものなのだそうである。 「要約すると、代金は自分たち持ちなので一緒にお茶しませんか……って事みたいなんですけど……」 困惑した表情でフォーチュナの少女は肩を竦めた。 互いに犠牲者が出なかったとはいえ殺し合いをした相手に行う提案としては、異質と言えるかもしれない。 「何か話したい事があるか探りを入れてこようとしているのでは、というのが現時点での見解です」 待ち合せに指定してきた喫茶店の場所は市街地ではあるが、来なかったからといって周囲に被害が出るという事はなさそうである。 「ただ、折角の機会とも言えますし……」 もしもやってみても構わないという者がいるならアプローチを掛けてみるべき。 そんな結論になったらしい。 「今後もアークでそういう任務があるかも知れませんし、実戦訓練も兼ね、という感じです」 とはいえ、少なくとも今回は何らかの情報を入手しなければならないという訳ではない。 「周囲に被害が出ない事を第一に考えて頂ければ、後は皆さんにお任せします」 他、アークの現状等を洩らさないように注意してもらえれば問題ないと言って、マルガレーテはソレッレのメンバー等、確認できた情報を説明し始めた。 喫茶店の方は、30人ほどの人数が入れるそこそこの大きさの店である事。 恐山の勢力圏で、気付いたエージェントたちが監視を行う事。ただ、荒事にでもならない限りは監視に留まる事。 店内には他の客が居なさそうなこと。店員は一般人である事。 現れるソレッレのメンバーは8人である事。 相手側は基本、荒事にする気は無さそうな事……等々。 「現れる8人は……ケントニス、ドロッスス、メディチーナ、シルト、パルラーレ、ワンダー、ラスール、ヴィヴリオスィキ、以上……やっぱり名前だけなんですが……」 ただ、前者4名は以前に遭遇したのと同一人物という事で間違いない。 「何事もないとは思いますが……充分にお気を付け下さい」 マルガレーテはそう言って、リベリスタたちを見回した。 ●リベリスタとフィクサード ワンダー「やー楽しみだな~」 シルト「しかし来ないという可能性もあるのでは」 パルラーレ「フィクサードと話す事など何もない、と?」 ワンダー「え? アークってそんな原理主義の集団なの? 逢えないの? カワイコちゃんに?」 ヴィヴリオスィキ「カワイコちゃんは相当の死語に分類されるのではと思われますが……ああ、ですが現在でも使用例は検索できますね」 ドロッスス「様々な者達がいる。そういう者もいるじゃろ。主義主張で統一された集団ではないからな」 ケントニス「人数の数だけ思想があるを体現している組織ですからね」 ドロッスス「まあ、来るにしても来ないにしても、待つ。今回はそれが私らのする事だ」 来たら来たで、来なかったら来なかったで、構わない。 「……ですが、来るという方も……いると思います」 そう言ったのは、口を閉じていた癒し手の少女だった。 「馬鹿げていると思われる方もいるでしょう。フィクサードなんかと、等と仰る方もいるでしょう」 ですが、それでもという方も居ると思います。 その言葉に、全く喋らなかった褐色の肌をした少女が心話で同意を示す。 「……つまりは、フィクサードもリベリスタも大して変わらんという事か」 「たったひとつを除いてね」 「そのたった1つを互いに違えられないからこそ、でしょう」 「まあまあ、そういう話は取っておきましょうよ? 皆さんが来てくれた時の為に」 「雑談をなさる気ですか?」 「面と向かっては言わないんでしょ? こっちも探りを入れながら、匂わせたり含ませたり。そういうのは語りに交ぜるのが一番楽だと思うよ?」 ま、私は期待して待つよ。 彼女は言った。 「アークのリベリスタさんたちが、この馬鹿げたお誘いに渋々ながらも応じてくれる事を、さ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月12日(水)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●戦場から、喫茶店へ 「ソレッレの皆さんとお会いするのも、これで三度目でしょうか」 『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)は呟いた。 (これからも敵対することはあるでしょう) けれど、前回は殺気を感じなかった。 叶うなら、歩み寄れれば……そう思う。 『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)は、先ずはと自身の考えを整理した。 (日本にきた以上、相応の目的がある……ただ、日本で活動するための足場が無く、 恐山を寄る辺とせざる得なかった?) そう仮定すると……今回の目的は── 「アークの値踏と言った所でしょうか……」 とはいえ思い込みは禁物と、自分に言い聞かせる。 「ふむ。態々自動消滅するメールで誘っておいて、待ち合わせの場所は恐山のテリトリーなのじゃな」 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は小声で呟いた。 同じフィクサード組織とは言え、ソレッレは余所者。 (ソレッレの都合と雇い主の都合が同じとは限らぬ) 「まぁ、良い機会じゃから親睦を深めるとするかのぅ」 感情探査には好奇心的な何かが複数感じられる。 「ソレッレの皆さんからのお誘いか」 四条・理央(BNE000319)も確認するように、その名を口にした。 現状、必要以上に警戒する理由はない。 「情報は二の次で良いみたいだし、少しばかり羽を伸ばすのに丁度良いよね」 筆記具とメモ帳やスケッチブックを鞄に入れ、落ち着いた感じの私服で、彼女は目的の喫茶店へと入っていく。 対象的に、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)の表情には、いつもの任務と変わらぬものが漂っていた。 「……茶会を開きたいフィクサードか」 言葉の方も、任務であるという重みのようなものを感じさせる。 フィクサードも欲望に忠実というだけの人間だ。 (故に茶会を無事に終らせるのはこちらの仕事という事だ) 喫茶店の中へと足を踏み入れながら、彼はいつもと変わらぬ様子で呟いた。 「任務を開始する」 ●再会 「しっかし、何でこんな事になってんだろうねえ」 店内へと入りながら『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)は小さく呟いた。 (ついこの間戦った相手に、茶に誘われるってのは) 「ま、精々仲良くやるとするさ」 肩をすくめるような仕草をしつつ、再び小さく呟いて。 一方、壱和と理央は初めて入った喫茶店の中を眺めるという感じで店内を見回した。 情報にあった監視しているであろう恐山のフィクサードについての目星を付ける為である。 もちろん好奇心的なものも少しはあるが。 奥の大きめ長テーブルが並ぶ位置に、理央は見覚えのある数人を確認した。 店内には事前情報通り、他の客はいないようである。 大きな窓が幾つかあるが、奥のテーブルを確認できる位置となると……2ヶ所か? リベリスタたちを確認した8人は、すっと起立して礼をした。 「うぃーっす、待たせたかぇ?」 瑠琵の言葉と態度に、8人は其々の表情を浮かべる。 もっとも、それが本心なのか作ったものなのかは分からないが。 「本日はお招き頂きありがとうございます」 席へと近付いたカルナは、8人に丁寧に挨拶した。 「いいえ、此方こそ」 突然の不躾なお誘いであったにも関わらずと穏やかな表情で老女の一人、以前にケントニスと名乗った女性がお礼を述べる。 「美しい女性達とのお茶会は断れないですよ」 『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は満面の笑みで丁寧に名乗り、恭しく挨拶した。 「御機嫌よう、麗しきソレッソの皆様。お誘いありがとうございます」 「あ、いえ、そのような……」 「あらあら、御上手な方が」 少女の一人、メディチーナが恥かしそうに呟き、ケントニスが微笑した。 「自分はウラジミール・ヴォロシロフだ」 対象的という感じでウラジミールが短く挨拶し、手を差し出す。 気質が合うという処か生真面目そうな少女、シルトが、同じように挨拶した。 ●硝煙ではなく、紅茶と珈琲の香りを 「さて、久しぶりなのと初めましてなのと両方居るね」 金色の鎧着てたって言った方が分かるかね? 自己紹介した後に付喪がそう言えば、ケントニスとシルトが頷いてみせる。 「ま、中身はこんな奴だったって話だよ。カワイコちゃんじゃ無くて悪かったね」 ……外見じゃないよ、中身の話だよ。還暦超えに『子』はないだろう? そんな言葉に、いやいやと。ワンダーと名乗った背の高いにこやかな女性が首を振って、笑顔で答えた。 「大切なのは魂ですから。寧ろ、こんな年寄りをからかって……みたいに言う人の方が」 「すみません。この変態の言うことは、言葉に似た何かだと思って耳を素通りさせて下さい」 スーツ姿でフレームレスの眼鏡を掛けた、パルラーレと名乗った女性が申し訳なさそうに口にする。 気にしてない事を言葉と態度で示し、付喪は苦笑した。 (争いもせずに、平和に済ませられるってのは素晴らしいね) 何時もこんな仕事ばっかりだと助かるんだけど。 「……見合いでは無いのじゃから席順混ぜぬかぇ?」 さらりと。何気ないという風に、席を見た瑠琵が提案した。 (アーク側、ソレッレ側で座るより監視し辛いじゃろうし、ソレッレの都合を聞き出すにも都合が良さそうなのじゃ) 幾人かは隙が全く見えないが、逆に幾人かは見た目通りというか精神的に幼なそうな者もいる。 提案にケントニスともう一人の老女、ドロッススは驚いたような表情を浮かべてみせた。 もっとも、瞳の方は興味深げに……感心したという色を浮かべて瑠琵に向けられている。 「さすが瑠琵にゃん、イイこと言う。それは楽しそ……」 「貴女は黙ってなさい、ホントに。初対面の人に、にゃんとか付けて……申し訳ありません」 「まあ、スナリャートを怒らせるのは大抵ワンダーさんかエスカさんですし平常運転と呼ぶべきですか」 「まあそれは置いておいて。で、どうじゃ?」 「ま、互いに知らん方が良いこともあるじゃろ。未熟者共が迷惑を掛けるといかん」 ドロッススがそう言って、シルトやメディチーナ辺りに視線を向ける。 ふむと頷き、瑠琵はその話を終わらせた。 壱和が自己紹介を再開し、理央もお茶会に呼んでもらったお礼を言ってから着席する。 (こちらとしてはお茶会に来たのはしょうがなくって気は一切してないしね) 皆が腰を降ろす中、亘はヴィヴリオスィキの対面の席へと付いた。 「辞書も持ってきたので、日本語にし難い部分はこちらで書いてもらえれば、頑張って翻訳しますよ?」 そう言って壱和は広げたノートに自分の名を書いて見せながら、恐山の監視があることも一緒に短く記した。 「ああ、推測はしておりましたが……やはりそうでしたか」 ケントニスが頷きながら口にした。おそらくは両方の意味で、だろう。 付喪は内心で溜め息をもらした。 茶会を無事に終了させる。これはまあ、問題なさそうとして…… ソレッレの情報を引きだす。こちらが、どうなるか? ●威嚇ではなく、交流を 1! けが人を出さない! 味方にもソレッレにも! 2! お店とか一般人に迷惑をかけない! 3! セクハラしすぎない! 「あとは自由でいいよね!」 (小難しい事柄は、そういうのが得意とか好きとかな人たちがやるっしょ!) 俺には俺にしか出来ないことがある! それが『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)の指針方針である。 「お誘いでも、男として譲れません」 御代の方は自分が払うと、亘はソレッレの8人に告げた。 彼の言葉に8人は、微笑や苦笑、申し訳なさそう等、それぞれの表情で礼を述べる。 「この宵咲瑠琵、人の奢りとあらば遠慮も遠慮もせぬ」 そう言って瑠琵がパフェを全種類注文した。 「この程度の雑用は自分が行おう」 ウラジミールはメモ等を行い、速やかにオーダーが出来るように、トラブルの無いようにと気を配る。 (仲良くなるために腹を割って話したいです) 壱和は早速、色々と話をふってみた。 理央も雑談するような雰囲気を心掛け、一般人がするような他愛のない話題を出してみる。 日本に来てからの事やイタリアでの事を聞き、絵にした方が分りやすそうな物事はメモ帳やスケッチブックに描いて貰えないかとお願いして。 (さて、腹の探り合いは任せて駄弁るとするかのぅ) 瑠琵も無防備であることを示しながら、心話使いらしき人物へと視線を向けた。 自分では喋らずにラスールと紹介されていた褐色の少女はドロッススが頷くのを確認し、礼をする。 「ソレッレはその名の通り、女しか居らぬようじゃが、全員血の繋がった姉妹と言う訳では無いのじゃろう?」 「ああ、色々さ。犯罪者、フリー、身寄り無し、元リベリスタ……アーク程じゃないがの」 成程と瑠琵は頷いた。 ついでに起源も聞いてみれば、ドロッススの言葉と同時にラスールの心話が頭に響く。 「ま、所詮は身寄り無しが集まって食い物にされんように……自然発生じゃよ」 (シチリア含め南イタリアでは、警察よりマフィアの方が頼りになる等の言葉もあります。全てが事実ではありませんが、真実の一部は示しています) そんな話が交わされる傍らで、付喪はワンダーに尋ねてみた。 「しかし、あんた達は随分姉や妹が多いんだね。一体何人姉妹なんだい?」 尋ねた以上はと、まずは自分の方を説明する。 「あんまり仲は良くなかったんで、少しそっちが羨ましくはあるよ」 「まあ、逆に血が繋がってないからだとは思うけど」 肩を竦めた後、無理矢理冗談めかして彼女は続けた。 「他ではゴミ、或いは多少価値ある財産……どっちにしても人間ではない」 そんな扱いをされていても、血の掟を結べば一人の人間として扱われる。 「それは意外と嬉しい事だから、ね」 ●銃声ではなく、クラシックを 「お近づきの印にどうぞ」 くるりと右手を回し青色の造花を出すマジックを決めると、亘は微笑んで花をヴィヴリオスィキに差し出した。 少女は丁寧に礼を言い、花を受け取る。 銀髪の少女は、落ち着いているというよりは表情を露わにしないという印象だった。 瞳に時折文字のような何かが浮かび流れていくのが、彼女がメタルフレームとして体の一部を改造している事を示している。 「すみません、網膜をディスプレイとして使用する事がありますので……御気分を害したのでしたら申し訳ありません」 「いえ、そんな事はありません」 自分は不快になど思っていない。 謝罪する少女にそう言ってから、亘は私の方こそ不躾ですが、と。尋ねてみた。 貴方の嫌いなものはなんでしょう? 「自分は貴方を知りたい。その上で不快にさせたくないから教えて欲しいんです」 熱を込め、優しく微笑んで。 勿論、無理やりは聞かない。相手が嫌そうな表情を浮かべるなら…… 「やあやあ、シルトたん! 元気してた? またもこうして会えるとは運命すら感じずにはいられないよね! 今回はエスカたんはいないのかな?」 「はい、今回は……」 「ああ、ああ! いい、いい!」 シルトの言葉を竜一は、わかってると言って遮った。 「本当はエスカたんも俺に会いたくて仕方なかったのはよくわかってる。帰ったらエスカたんにもよろしくいっといておくれ」 「分かりました、伝言しておき……」 「ああ、そうだ、花束買ってきたんだ! 君たちとの出会いに! デイジーの花を!」 「……程々にね」 あまり効果は無いだろうなと思いつつ、理央は釘を刺してみた。 ぬかに釘とは、こういう感じを言うのだろうか? 「私は一応イタリア人らしいのですが、正直どういう所かよく知らないので」 カルナも最初は雑談をと、イタリアについて尋ねてみた。 アークがどういう組織で私達はどういう者か、ソレッレはどういう組織で皆様はどういう方々か。 互いに認識し合えるように。 そう考えたカルナは、特定の誰ではなく皆との会話を心掛ける。 ウラジミールも相手の態度を見て、会話に合わせて、相手が聞いてくる事に正直に受け答えを行った。 落ち着いた態度を崩さず、平静を保ち、質問や疑問も混ぜながら。 「そういう風な考えか……この極東は仕事のために来たのかね?」 さらりと混ぜたその質問にシルトは頷いてから、ちらとケントニスの方を見……頷きに息をもらすと、詳細はお答えできませんがと付け加えた。 自分が嫌なのは理不尽な不幸、大切なのは皆と自分の幸せ。 そう告げた亘は、銀の少女に大切なものを尋ねてみる。 彼女も間を置かず、姉妹だと即答した。 「メディチーナたんもどうだい? ほら、雇い主的な? つらかったら、俺の元へ来てくれていいんだよ? つらくなくてももちろん来ていいけど!」 「あ、いえ、その……」 「ああ御免。この子、男の人苦手でね?」 ワンダーがそう言って間に入る。竜一は頷いてシルトの方に向き直った。 「シルトたんもね!」 ペラペラと雑談を担当する。各々の個人的な思想や思考や感情を知るためにと、竜一はとめどなく言葉を紡ぎ続ける。 賑やかに過ぎるかも知れないが、恐らくは……大丈夫だろう。 ウラジミールと理央は顔を見合わせ、静かに頷き合った。 ●価値に、意味を 「日本に来た理由を聞きたかったんだけど……んー、まあ『ソレッレ』の為なんだろ?」 頼んだパフェをつつきつつ付喪は尋ねてみた。 (それが金か人か技術のどれを必要としているのかは分からないけど、人道を踏み外しても良い位には優先度が高いって所かね?) (崩界を進めなければ絶対に果たせぬ目的なら兎も角、フィクサードの目的の大半は別の方法でも達成出来る) 「――と思うのじゃがのぅ」 彼女の言葉に続ける様にして瑠琵が考え、一部を言葉にする。 その間も彼女の視線は相手方の瞳や口元から動かない。 「神秘に依る被害を防ぐ為の組織、掲げるのはこの一点のみですね」 アークについてカルナは話しつつソレッレの事を、活動等に話題をふってみた。 「お互い立場は異なりますが、仲間を大切にするところには通ずる所がありそうですね」 知れ渡っている事にはウラジミールも答えつつ、機密事項には答えられないと応答する。 「こちらも何かと面倒でな」 「いえ、当然でしょう。お気になさらずに」 笑顔でそう述べられ、理央も安堵した。 誤魔化したりお茶を濁したりというのは出来れば避けたい。 「幸せが大切と言いましたが、自分は誰かの屍を踏んで幸せに生きてます」 真っ直ぐな瞳で、亘は口にした。 (彼女達は大切な目的、信念の基に動いててそれが悪かは分かりません) でも大事にし、歩み寄りたい。 「……では、選択肢が現れた時……貴方は如何しますか?」 少女は真っ直ぐに見返して、尋ねた。 たったひとつしか守れない時があったら…… 「いつか機会がありましたら、聞かせて下さい」 少し空気が張り詰めた中で、壱和はノートの紙で鶴を折って見せた。 「日本では千匹束ねて、長寿や病気快復を願ったりします」 年下の3人ほどが興味を引かれたように壱和の手元に視線を送る。 「皆さんは何か願い事はありますか? ボクは、友達や仲間の無事です」 折り方を説明しながら、壱和は呟いた。 「漢字だと折る、祈るって似ているんですよ」 ●敵ではなく、味方を……或いは味方ではなく、敵を お礼のお茶会をするなら、いつが良いかを考える目安として。 理央はそう言って、日本に滞在する期間を尋ねてみた。 終わりに近付いたと察した竜一は、こっそり合図する。 (さりげなく席を立って会計を済ませておくのがスマートな大人の男のマナーさ) ここまでは良い。寧ろカッコいい。 天風に支払わせるぜ! ←ココ 「自費でも構わないがこの程度なら経費で良いだろう」 ウラジミールが小声で口にする。 カルナは自分の代金分の紙幣をドロッススに差し出した。 2枚目の端に連絡先が書いてあるのを、一瞬だけ見せる。 「また、お会い出来る事を祈っておりますね」 「……若いのに感心な子だね。出来過ぎて心配じゃあるが」 そう言って老女は紙幣を受け取った。 「雇われなら次ぎ会う時はどうなっているからはわからないが、ウダーチ」 壮年に静かに返礼して。 「いつか、皆さんと友達になれたら嬉しいです」 壱和はそう言って、クッキーの詰め合わせと折り鶴を手渡した。 折鶴の内には携帯のメルアドが忍ばせてある。 「前にも言ったけど、家族持ちに怪我とかはさせたくないんでね」 ぶつからない様に願ってるよと、付喪は最後に口にする。 「私もその方が楽で良いよ」 笑顔で言うワンダーをドロッススが睨み、ケントニスが頷いて見せた。 「七派の一部には、アークと直接の争いを望んでいない者もいるのでしょう」 (我々を雇う、人物の様に) 曖昧に、そして後半は口には出さない。ただ、僅かに窓の外へと視線を向けて。 もちろん、利用する為にその方が都合良いというだけである。 警察がいた方が都合の良い犯罪者もいる。 それだけの事だ。 損得が、欲望が、或いは一片の義理が絡み合って生れた、偶然の平穏。 けれど、世界には穢れのない純粋な平和等無いのかも知れない。 綺麗なだけの理想は、夢物語でしかないだろう。 未来は、カレイドシステムを以てしても絶対には推し量れないのだ。 リベリスタたちの投げたものが、どのような波紋を齎すのか…… 分かる者は、いまは未だ……誰一人として、いなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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