● トマト食べられない。レタス好きじゃない。グリンピースは丸呑みする。 アスパラガス苦いです。ねぎとかにらもあんまり。きゅうり水っぽい。にんにくやだ。しょうが嫌い。 でも水菜すごくすき。キャベツもにんじんも食べれる。大根とほうれん草も大丈夫。私マジ偉い。 あと、おなすも食べれる。ばっちり。 お魚? 食べられない事もないけど、嫌い。海だから。大事な事なのでもう一回。海だから。 生魚とか無理。海だから。煮魚焼き魚はまぁ。貝はあんまり好きじゃない。何か海だから。 あとー、レバーもあんまり。お肉は食べれるけど部位によってはやっぱ駄目。 大好物? じゃがいも!!! ――そんな、幼女の話。 ● 「好き嫌いって奴はまぁ、あたしも一概に否定は出来ないんだけど。このままだと危ないから、あんたらにお願いがある」 ブリーフィングルームではなく、アーク食堂にて。 集まったリベリスタを確認した『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は、そんな言葉と共に資料と、何かの本を差し出した。 美味しい☆お料理レシピ なんて書いてある気がする。あれ、これ依頼じゃないの? 「雪小国・椎チャンって子が居る。小学校3年生。すっごい好き嫌い多いの。トマトの皮剥いて中身残したり、魚介類海嫌い! とか言ったり。 まぁ、それだけならあたしらには関係ないんだけど。何か、運命も気まぐれなのかしら。来週、この子は嫌い! って言って捨てた魚類に襲われるの。 因みに刺身ね。真赤なマグロに往復びんたされる。それを避けても、きゅうりとか、レタスとか、そういうのにも襲われる運命が見えるのよ。だから、まぁ、手っ取り早く克服を目指そうと思って」 そっちの資料が、嫌いなものリストね。そんな言葉と共に、フォーチュナは適当な椅子へ座る。 「戦闘無いし、手早く片付ければいいんだけど……竜牙サンは忙しいし、あたしはまぁ、料理が出来ないので。あんたらにお願いしようかなって。 当日は、椎ちゃんと、あと7人くらい、お友達が来るわ。あたしは料理以外のお手伝いでもしておくんで。 全員好き嫌いある子だし、まあ一緒に料理でもしながら、話したりしてみたら良いんじゃないかと思う」 まぁそんな感じで宜しく。そんな言葉と共に、フォーチュナは食堂を後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月18日(火)00:00 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
● 机に並ぶ大量の野菜、魚、肉。 子供達を待ち受けていたリベリスタは、緊張と、少しの不服さが入り混じるまだ幼い顔をやさしく出迎えた。 「こんにちは。俺は紅麗……宜しく」 すらり、高い背を屈めて、視線を合わせる。少しでも怯えさせない様に、と己を隠す仮面を外して、『闇を駆ける銀狼』闇影 紅麗(BNE003968)は微笑む。 好き嫌いの克服は、容易い事ではない。出来る限りの手助けをしてやろう、と決めて来た彼の後ろでは、同じく尽力を決めてきた『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)が挨拶を交わしている。 「野菜だって子供達に嫌われたいわけがないじゃないか」 ぽつり、と。みずみずしい紅のトマトを指先で撫でながら、『三高平の肝っ玉母さん』丸田 富子(BNE001946)は呟く。 皆が笑顔で美味しい、と言いながら食べて欲しい。そんな野菜の声が聞こえるようだ。 そして、自分も。同じ気持ちを持っているのだ。美味しい、と言うしあわせな笑顔を見られたら。 それは何よりの喜びだ。 今日もその笑顔が見られるよう。その素晴らしい料理の腕を振るってくれそうな富子の笑顔。 少し緊張が解れたらしい子供達の中。何時かの少年と似た顔を見つけた『鷹蜘蛛』座敷・よもぎ(BNE003020)は、偶然もあるものだ、と笑う。 「他の子も今日は宜しくね。響希くんも一緒に頑張ろう」 ぐ、と拳を握る。ああ、岡山で似たような子居たわねぇ、と呟いた響希は、少し緊張気味に笑った。 すぐに伸びてしまう爪だけは切ってきたけれど。 「……あの、ほんと、あんまり期待しないでね」 あたしピーラー要員で。消え入りそうな声。家庭を持ったら、とか今後の為に、とか、中々ぐさっと来る指摘でした。頑張ります。 思い思いに挨拶をかわして。子供達とリベリスタ、あわせて19人の筈なのだが。 ……何だか、1人足りない気がする。あれ、2人? 誰かが疑問を口にしようとした、その瞬間だった。 しゃんしゃんしゃんしゃん。なんか聞こえる三味線の音。力一杯開く扉。あ、一瞬三味線止んでね? まず、見えたのは真っ赤な長い髪。しかも若干振り乱してる感が。次に、角。 つぶらなお目目にまあるいお顔。可愛いお口から、生えた牙。 でかでかと書かれた『天』と『殺』。そして何で其処だけ其の侭なのって感じだけど、仕立てのいいスーツに、白衣。 もうどっから突っ込めばいいか分かりません。素顔は見せないまま横顔だけアピールで登場したそれは、いっそう激しく三味線を掻き鳴らして。 「ドウモ……オコ=サン。テングスレイヤーです」 じゃじゃんっ。止んだ演奏。少年少女たちと相対した。なんか、何て言うか、許されざる角度で。それ以外に何て言えば良いかわからない。 そんなテングスレイヤー、否、『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)は堂々と子供達に迫る。そう。許されざる角度で。何かすげえ苛々する角度で。 そして、一言。 「――好き嫌い、死すべし」 あ、恥じらいは運命を削っても消し飛びません。社会的なアレとかソレは、自分の心のフェイトを削って背負ってね☆ 好き嫌いは良くない。言うだけなら簡単だけれど、それだけで克服出来るものではない。 それをばっちり理解(実体験含む)しているリベリスタ達の作戦は実に素晴らしいものだった。 「みんなで料理と食事を楽しむぞー! 楽しく作った料理はおいしいものだ!」 好き嫌いはいけない。両親がそう教えてくれたから、『変態を滅すもの』ミャウニャ・テニャニィゼ(BNE004034)は少しだけ年下の彼らにも、克服して欲しい、と思う。 それに料理得意だし。日本に来る前に全治一ヶ月の怪我を負う程の料理の修業(?)を行った彼女の包丁捌きは恐らくとんでもなく素晴らしいのだろう。色んな意味で。 お手軽に作れて、尚且つ沢山の食材を使えるもの。絞ったメニューを説明した彼女の横では、『一文無』斑 玄吾(BNE004030)が水道前でタオルを構えていた。 「さて、手は洗いましたかな?」 肘まで丁寧に。様子を確認しながら、玄吾は比較的素直な姿に目を細める。 勿体無いお化け、とでも言えばいいだろうか。着の身着のままで度を続けるからこそ、彼は食物の重みを重々理解していた。 食べる事は、命を頂く事だ。そして、料理とは作り手の想いが詰まったもの。 粗末にするのは少々、悲しくなってしまう。全員の手を拭いてやりながら、思案する彼と同じく、リベリスタ達も手早く用意を進めていく。 そんな感じで。 好き嫌い克服、お料理教室はっじまーるよー! ● 「ところで、お前らは何が嫌いなんだ? 昆布? いや今回作るのはポト……いや、いいか」 面は上に上げて。鍋片手に子供達を招き寄せた冥真が作る事になったのは、まさかの和風ポトフ。 折角だから、と鍋を二つに分けたものの。昆布入りポトフ、それなんておでん? そんな疑問を飲み込む彼が材料を並べてやれば、子供達は各々ぎこちなく、包丁を握った。 「野菜を切る時は猫の手といってね、こういう形の手で食材を押さえておくんだよ」 調理は子供達に。指導側に回ったよもぎが、手本と言う様にひとつ、人参を切って見せる。 レシピもばっちりメモ済みだ。時折不安そうな顔をする子供達に、丁寧に作り方を教えていく。 「こ、これ、ぼくやってもいいの?」 おどおど、と。不安げな少年の声に、同じくポトフ班の紅麗は薄く微笑んで頷いてやる。 まな板に載せたのは、湯剥きしたトマト。 「失敗しても大丈夫だから、思い切って……」 怪我をしないように。目を配りながら声をかけてやれば、その顔が少しだけ安心したように緩む。 とん、とん。ぎこちなく鳴る包丁の音。乱切りにした野菜と、小さめに切った肉。あと、細切れ昆布。 「テキトーに切った方が面多くなって火が通るんだぞ、覚えて帰れよー」 「はーい! ね、ね、おにくいっぱいいれないの?」 とてもいい返事。これで食べてくれるなら、全く心配ないのだが。 味が濁るんだ、と教えてやりながら、冥真は手早く鍋に材料を放り込んでいく。ローリエを添えるのも忘れない。 手馴れた様子。若きお料理教室の先生と言ったところだろうか。非常にほのぼのとしている空気を、ぶち破るように。 「レタス嫌いを克服するためにベーコンレタスサラダを作ったんだぜ!」 ばばーん。本日二度目。力一杯開けられたドアから登場したのは『いい男♂』阿部・高和(BNE002103)。 ノンケだって構わず食っちまうがちh……そういうご趣味の彼の登場に、主に貞操の危険を感じた冥真の表情が引きつる。 いや別に、出てけとか言ってないし、言われてないし。折角だしサラダ作っただけで、其処に他意とか無いし。 「あれ、お兄ちゃんベーコンレタスサラダきらいなの? すききらいしちゃ駄目だよー」 椎ちゃんの声が響く。どっちかって言うと其処に含まれてるなんて言うかそこはかとないウホッな気配が、怖いだけです。 じっくり煮込む間、お次に作り始めるのは手巻き寿司である。 今回予知されている生魚は、せめて。そんな希望を込めつつ、並べた材料。それを確認して即座に、椎はいやいやと首を振った。 「椎、魚やだ。海じゃん。すめしといっしょにしたらもっと海じゃん!」 要するに生の味がどうしても嫌らしい。そもそも、魚の味が嫌らしい。序でに言うと、甘くないから酢も嫌いらしい。 如何したものか、と交わす視線。酢は仕方ないから抜くとして。 「炙りガツオも駄目ですかな? タタキ風味にいたしましょう」 妥協案。ぎりぎり生? なそれを玄吾が示せば、いっぱいやいてね、と下りる許可。とりあえず胸を撫で下ろして。 「皆さん、包丁はキチンと持ちましたか?」 「下ごしらえは大事だってかあちゃんいってた! ほら、気をつけろよ!」 調理開始。怪我が無いように、と手を添え持ち方を教える大和と、自信たっぷりに手本を見せるミャウニャ。 力一杯持たなくても、大丈夫。親指と人差し指、中指で確り持って。残りはそっと添えて。 優しく教えていけば、抜けていく肩の力。思わず笑みが漏れた。 「そうそう、その調子。上手ですよ」 褒めてやれば、嬉しそうに笑う気配。なんだか、微笑ましい。目を細めて、ふ、と。頭を過ぎる、同じ様な記憶。嗚呼、これは何処で見たんだっただろうか。 少しだけ、考えて。思い出す。初めて、自分が台所に立った日のこと。 緊張して、包丁を握り締めて。もっと力を抜いて良いのよ、と優しく教えてくれた母の声。 仄かに胸が温かくなったけれど。母も、こんな気持ちで自分のことを見ていてくれたのだろうか。 戻らない、優しい過去。少しだけ寂しくて、けれど暖かいそれにそっと吐息を漏らせば、腕の中の少女が如何? とばかりに首を傾げる。 上手く出来ている。そう褒める大和の横では、玄吾が切り分けた材料を手早く皿に移していた。 「……さて、詰まらぬ話かもしれませぬが」 巻き簾を並べて、炊き立てご飯を出しながら。語られるのは、玄吾の旅の話。 現代っ子にはとても想像出来ないだろうけれど。着の身着のまま、小さな飯ごうをかたこと揺らして、あちこちを旅していたのだ。 旅の僧だから、お金も無い。食べ物もない。水もない。 好きだ嫌いだ以前に、食べる事さえ出来ない生活だって送ったのだ。 「時には道ばたの草で飢えを凌ぐ事もございました。……けれど、そんな折に」 道行く先。優しい人と言うのは居るもので、何度も、その厚意に救われたのだ。 丹精込めて育てられたキュウリやトマトの、美味しかった事。 有り難くて、嬉しくて。美味しさと共にそれらを確りと、噛み締めたのだ。 「身に沁みて美味しゅうございましたなあ……」 包丁を止めて。うっ、と涙ぐむその姿に、子供達も思うところあったのだろう。嫌い嫌い、と拒否していたレタスを、見つめる少年が、そうっとそれを自分のご飯の上に乗せる。 違う少女も、きゅうりを入れたりして。ちょっと前進だろうか。 彼らに混じって、ミャウニャも広げたご飯の上に好き勝手食材を並べていく。 勿論、生魚も忘れない。だってそもそも、これが今回の目的だ。あ、でも、炙り……ほぼ焼きカツオのたたきにしておこう。 「まきまきだまきまき! まきまきするぞ! 楽しいなー!」 「椎、手巻き寿司巻くのすきー!」 ご飯がはみ出たり、のりがずれたり。そんなのはご愛嬌。とりあえず巻ければ良いのだ。 思い思いに巻いたそれ。けれど楽しみは、此処からだ。もう一度、包丁を握って。 「ほら、綺麗だぞ! いろんなものいれたからカラフルだ……お、それもいいな!」 切り口を見るのが楽しい。そう言って切った巻き寿司を並べるミャウニャの言葉に、子供達も思い思いに包丁を入れていく。 やっぱり少し、形は歪だけれど。随分と色とりどりに仕上がったそれは、中々に美味しそうだった。 ● ぱちぱち、火の爆ぜる音。『三高平のモーセ』毛瀬・小五郎(BNE003953)の指導の下、七輪の炭を仰いで。 漸く上手く炭に火が熾せた少女は、満足げに頷いた。 「鮭とホタテを焼きますじゃ……いい鮭じゃから、脂のノリが違いますのう……」 網に乗せるしゃけは、普通の鮭ではない。永遠の切り身。神の魚と呼ばれちゃう鮭の中で一番美味しい、トキシラズなのだ。 滴る脂が、じゅっと音を立てる。漂う香ばしい香り。もう少しで貝も口を開くだろう、と教えてやれば、子供達は興味津々とそれを見つめる。 食は、五感で楽しむもの。未だ若いと言うよりは幼い彼女達にも、出来ればそれを教えてやりたかった。 「どうだろうか。子供が嫌がらない味付けになっているかな……?」 「オレは少し濃い味が好みだが、女子ならもう少し薄めでもいいかもな」 ポトフの鍋の前。味見を頼むよもぎの声に答えたのは『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)。 白いスーツのジャケットと帽子は脱いで。代わりにエプロンと三角巾。椎たちとほぼ同年代の彼は、てきぱきと片付け等の雑務まで片付けている。流石と言うべきだろうか。 調整してもう一度。良いと思う、と頷いた彼の横。海鮮焼きを見つめる輪に入りきれて居なかった少年にも、福松は迷わず声をかける。 「どうした? やろうぜ、一緒によ」 その辺入れてくれ、と言えばすぐに輪の一部が開く。嬉しそうに輪に入っていく後姿を見ながら、次に福松が手伝うのは富子の作業だった。 うまい、と言って貰える様に。今日もご馳走様、と言って貰える様に。何時もその腕を振るっている富子は、今日も全く変わらぬ気持ちで作業に望んでいた。 この子達にも、本当の美味しさと言う奴を教えてやりたい。 「出来る限り甘さを引き立てて、見た目で連想させないような工夫が必要だねぇ」 ほんのりオレンジのケーキの次にオーブンに入れるのは、色鮮やかなスイートポテト。 冷蔵庫には、綺麗な赤のゼリーも用意してある。準備は、万端だ。 机には、人数分の食器。器一杯のポトフに、色とりどりの手巻き寿司。 真ん中には、そろそろ食べごろの海鮮焼き。食欲をそそるいい香りに包まれながら、全員で手を合わせる。 「いただきまーすなのだ! 挨拶は大事だぞ!」 「噛めばなんでも甘いんだからしっかり噛めよ、世界変わるぞ」 ミャウニャの元気な声に続くように、子供達のいただきます、が聞こえる。その隣では、噛まなきゃ歯を……じゃなくめっ、するなんていうちょっと怖い冥真さんのお言葉。 大和が平行作業で作った、花や動物の絵柄の太巻きは非常に好評で。子供達の箸は思いの他すんなりと進んでいた。 「娘さん達は料理を作るのは初めてじゃったかのう……?」 楽しめただろうか。そっと箸の持ち方を直してくれる小五郎の問いに、子供達は大きく頷く。 そうか、と優しく笑った小五郎は、けれど、と言葉を続ける。 「これを毎日するとなると大変じゃよ……? けど、娘さん達の健康の事を考えて毎日お母さんは作ってくれているのじゃ」 食材も同じだ。農家の人たちは暑い日も寒い日も、休まずに畑仕事を、管理を続ける。 漁師は時に荒波に肝を冷やしながらも、海に出ているのだ。 それは、皆に美味しい食材を届ける為の努力だ。自分達が知らないところで、今食べているものは誰かの努力のお陰で此処に届いているのだ。 「いただきます、ごちそうさま……いつも使うこの言葉は食べ物やそれを作ってくれた人への感謝の気持ちじゃよ……」 当たり前の様に、挨拶として教わる言葉だけれど。ただの習慣にしてしまうべき言葉ではないのだ。 其処に感謝が伴わないのなら、挨拶をしている意味が無い。毎日、口にする度にそれを思い出して欲しい、と言えば神妙な顔で頷く。 けれどそれでも、苦手、と言うのは根強いもので。ポトフのトマトを突く少年に、紅麗は自分の皿のトマトを示して見せる。 「俺も昔苦手だった。……でも、美味しいから食べてみな、って言われて、料理されたトマトを食べたんだ」 そしたら不思議と、嫌いな味はしなかった。そう言いながら、彼のフォークはトマトを掬う。 嘘じゃない、と示すように口に入れて。美味しそうに飲み込んだ姿に意を決したのだろう。恐る恐る、その口にトマトが放り込まれる。 動く口。驚いた様に目が開いて、美味しい! と上がった声に、思わず全員の顔が緩んだ。 その隣では、ミャウニャもポトフに挑戦している。祖母の遺言でトマト食うなって言われたけど。あ、祖母生きてますけど。 「……意外とうまいなこれ」 どうやらトマトは敵ではなかったらしい。満足行くまで食べた後は、お待ちかねのデザートだ。 「どれも甘くて絶品だよ、ほら、食べてごらん!」 何が入っている、とは言わずに。富子が並べたお菓子はそれは見事なものだった。 甘いものが好きなのだろう、椎の手がスイートポテトに伸びる。口に入れた。すごく甘くて、匂いだけでも蕩けてしまいそう。 ケーキも、甘くていいにおい。ほんのりオレンジはなんだろう? ゼリー、何だか甘酸っぱくてさっぱり美味しい! 「おいしいかい?」 「おいしい! これなんやろ……」 思わず漏れる声。笑顔でお菓子に舌鼓を打つ姿に、富子の表情が満面の笑みへと変わる。ネタばらし、しておこうか。 ケーキはキャロットケーキ。スイートポテトは、裏ごしグリンピース入り。ゼリーは、フルーツトマトだ。 どうだい? 尋ねてやれば、ぽかん、とした顔。間は一瞬。上がったのは、感動の声。えー、おいしい! そんな笑顔に、胸が暖かくなる。 「そうかい、そうかい。それは良かったねぇ」 そう。この笑顔を見る為に、富子は料理を作り続けているのだ。 勿論、後片付けも全員で。来た時より何処か確りした印象の子供たちと共に、手早く食器を片していく。 多分、運命は変わったのだろう。椎自身の好き嫌いは根強いもののようだけれど、今日は随分と色々なものに手を出してみたようだった。 小五郎の持たせたお土産片手に、子供達は大きく手を振って帰って行く。今日は楽しかった、と笑う顔はちょっとだけ、大人になった感じもして。 好き嫌い克服作戦は、大成功を収めたのかもしれない。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|