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優しくないあいのうた


 君は馬鹿だなぁ、と笑う顔が好きだった。
 どれだけ馬鹿な事をしても、仕方ないと笑ってくれるのが。
 無理はしてはいけない、と心配してくれる声が。
 好きだった。

 いま。

 ボクの死体にしがみ付いて。泣きじゃくるお前を見ている。
 酷い顔だった。ボクの好きな笑顔はなかった。
 嗚呼、でも。この顔も嫌いじゃなかった。
 嗚呼ねえいまさら。本当に今更だけど。
 お前がこんなにも、ボクの為に泣いてくれるというのなら。
 ボクは。

 お前に本当に愛されていたのだと、自惚れてもいいのだろうか。


「どーも。今日の『運命』聞いていって頂戴」
 ぱらぱら捲る資料。椅子に寄りかかって、『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は淡々と、話を始めた。
「戦場には、死体がひとつと、リベリスタ……ううん、元、リベリスタがひとり。まぁ、直にノーフェイスと元リベリスタに変わるんだけどね。
 ……あんたらに頼むのは二つ。ノーフェイスの処理と、元リベリスタへの何らかの対応。討伐、改心、まぁ、好きにすれば良いと思う」
 後者の難易度は相当だけど。
 やってられないと言いたげに首を振って。長い爪がモニターを動かす。現れたのは、2枚の写真だった。
「一枚目。ノーフェイスになる、逢坂・朔。メタルフレーム×デュランダルだった。彼のフェーズ進行は相当早い。即、フェーズ2になると思って良い。
 元々がかなりの実力者だったのもあって、相当強いわ。……序でに言うと、周囲への影響も計り知れない。
 元リベリスタにも、あと、近くの植物なんかにも影響を与えて、世界から爪弾きにしようとしてる。皮肉よねぇ、優秀なリベリスタが、寵愛を失えば害悪だなんて。
 あ。後、このノーフェイス、明確にその意識を保っているんで。その辺も宜しく」
 指が、もう一枚の写真を示す。
 こっちが元リベリスタ。そう告げて、ひとつ溜息。
「……峰月・唯華。フライエンジェ×マグメイガス。優秀な魔術師であり、回復手でもあった。逢坂の恋人であり、パートナーだったのね。
 依頼で寵愛を失った彼を背負って、彼女は逃げたの。死を認められなかった。必死に逃げて、力尽きて、泣き縋ったのね。戻ってきて、って。
 運命は、残酷にもその願いを叶えた。……今、彼女は逢坂の影響で通常以上の力を振るえる。ただ……その先にあるのは、同じく、ノーフェイスになる結末だけだけど」
 資料を、並べる。
 視線が少しだけ下がって、細く、溜息が漏れた。
「周囲の植物…って言っても、木とか草なんだけど。そっちは足場に影響を与えたり、範囲攻撃や、命中撹乱してくる感じかな。
 対象は、互いを互いに護り合ってる。でも、逢坂の意識が何時まで持つものなのかは分からないし、唯華チャンもそれは同じ。
 ……死と隣り合わせ。あたし達、何時大事なものを失うかは分からないわ。でも、それでも、誰にも想いを残さずに居られる人なんて極少数」
 立ち上がって、歩き出す。
「その上で。あんたらが望む結末は、答えは、どんなものなのかしら。……教えてあげたら良いんじゃないの」
 じゃ、後宜しく。その一言を残して、フォーチュナはブリーフィングルームを後にした。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:麻子  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年09月11日(火)23:09
起こりうる未来。
お世話になっております。麻子です。心情強化中かもしれません。
以下詳細。

●成功条件
ノーフェイス討伐・元リベリスタへの対応
(後者は討伐・改心どちらでも構いません)
片方でも逃がせばアウトです。

●場所
森の奥、空き地。
夜です。暗視・もしくは灯りをお勧めします。

●ノーフェイス『逢坂・朔』
メタルフレーム×デュランダルでした。リベリスタ到着前に目覚めます。
デュランダル中級まで(デッドオアアライブ他二つ)使用可能。威力は相当のものです。
また、リベリスタ到着後2Tでフェーズ進行します。
進行後は、『命中・耐久上昇』に加え、攻撃に常時BS:致命が付与されます。
意識を保っている為、常に唯華を護り、時には逃がそうとするでしょう。

●峰月・唯華
フライエンジェ×マグメイガス。
マグメイガス中級スキルまで(葬操曲・黒他二つ所持)
に加え、天使の歌・ブレイクフィアー使用可能。
一般戦闘・非戦スキル所持。
現在、朔の影響で大幅にステータスが上昇しています。
彼女は、リベリスタ到着後6Tでノーフェイスになります。
その場合、高速詠唱強化版(詠唱を必要としません)を得ます。

●E・ビースト『植物』×20
木や草です。炎系BSに非常に弱いです。(WP半減、通りやすいです)
木の葉による撹乱(敵回避が上昇)
足場を悪くする(P:毎Tランダムで行動が阻害されます/飛行や安全靴・ハイバランサーで軽減もしくは無効可能)
枝葉による攻撃(遠範)
を行ってきます。

以上です。
ご縁ありましたら、宜しくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
ナイトクリーク
双海 唯々(BNE002186)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
マグメイガス
小鳥遊・茉莉(BNE002647)
プロアデプト
廬原 碧衣(BNE002820)
プロアデプト
ヤマ・ヤガ(BNE003943)


 リベリスタである以上。
 死とは常に隣にあるものであり。それは、誰もが覚悟している筈のものである。
「……口で言うだけなら、簡単なのですけどね」
 零れ落ちる言葉。『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)は十字掲げる杖を握る。
 覚悟、しているだろう。誰もが戦う以上、起こり得る未来だと。
 けれどその覚悟は、死に直面した時も変わらないのだろうか。万一、別たれる時が来たとして。
 自分は、それを受け入れられるのだろうか。
 それとも彼女の様に、受け入れられぬ侭不条理な運命を望んでしまうのだろうか。
 答えは出なかった。代わりにひとつ、深呼吸。アークの者だ、と目の前の『2人』に告げた。
「今宵とあるマグメイガスがノーフェイスと化すべき運命が見えましたので、それを止めに参りました」
 誰かが動く前に。齎される翼の加護。相対した男と女の顔が、何処か違う色を孕んで、引き攣った。
 互いに互いを庇う様に、武器を構えたのが見えた。言葉も、視線さえも交わさず即座に万全の戦闘体勢を取れるのはきっと、彼らを繋ぐ想いの強さの証明。
 世界から爪弾きにされた者と、死にゆくものに縋り護らんとする者。
『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)はきっとこの場の誰よりも、その恐怖を身近に感じていた。
 交わした想いで結んだ恋。それが何時か、彼らと同じ様に途切れたとして。その時、自分は一体如何するのだろうか。
 想像もしたくなかった。けれど。唇を噛む。銀星のラインを引いて、草木を交わした霧香は肉薄した男を、確りと見据える。
 引き上げるギア。目が合った。とても死人には見えなくて。
「……あたしはね、確かに彼が大事。大好き。誰よりも。でも、でもね」
 もし、もしも彼が、加護を失ったとしたら。世界に爪弾きにされたとしたら。それはもう、彼ではないのだ。
 大斧を構えた瞳を、隣の泣き腫らした瞳から、目を逸らさない。
「だからね、あたしは斬るよ。他の誰でもない、あたし自身の手で」
 覚悟。真っ直ぐに告げられた言葉にしかし、魔女は真っ赤になった目を細めるだけで。
 冷ややかに、その口が開かれる。
「君、本当に、自分がそうなっても同じ事が言える? ごめんなって、愛してるよ、って君をその彼が抱き締めてくれたとして」
 君はそれでも、それが彼ではないと言って殺せるの?
 瞳にあるのは悲しみでも絶望でもなかった。ただ悲壮なまでの、覚悟と愛情。
「もし出来るって言うなら、随分お安い愛なのね。それとも未だお子様なのかしら」
 終わらせてあげるのが愛、だなんて笑ってしまうようなキレイゴトは止めてよね。吐き捨てるような言葉。
 詰まる霧香の後ろから、木の幹を駆け上がり、怒れる草木の只中へ飛び込んだのは、『獣の唄』双海 唯々(BNE002186)。
 全てを踏破する、告死のステップは軽やかに。不規則に蠢く八重の刃の下に邪魔するものを切り伏せて。
 紅に煌く瞳が、2人を見据えた。現実は何時だって残酷で不条理で。唯々はそんなこと、もうとっくに分かって居て。
 けれどだからこそ、生き足掻くのだ。残酷な現実から少しでも最善を掴み取る、その為に。今も、それは変わらない。
「逢坂、イーちゃんはアンタに問う。――アンタは恋人共々狩られるのを望むですか?」
 ぴくりと、男の肩が跳ねた。望まないなら話を聞け。そう告げた彼女の後を引き取ったのは、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)だった。
「貴方の影響で1分後に、唯華も寵愛を失うわ」
 漆黒の日傘がくるりと回る。放たれた灼熱の焔に灰燼と帰した草木も、朔の影響下にあるのだと。予見者の言葉をそのまま告げれば、男は大した驚きも見せずに、目を伏せた。
 彼は知っている。もう、自分に運命の寵愛も、残る時間も無いのだと。斧が下がる。
「貴方が貴方で居られる内に彼女に伝えるべき事があるでしょう?」
 彼の言葉でなければ、きっと彼女の心を変えられない。そんな思惑と、ほんの少しの怒りを込めて、薄氷の瞳が細くなる。
 散々心配かけた末のこの様だ。後ろで支えるしか出来なかった唯華が、どんな想いで冷たい身体を背負ってきたのか、彼は分かっているのだろうか。
 運命の悪戯。残酷で不条理で、今この時も更なる悲劇を齎そうとするそれ。
 けれど。これはある意味で、運命の優しさかもしれないのだ。やさしいさいごに、する為の。
「貴方は彼女をノーフェイス化させる為に蘇った訳では無い筈よ!」
 折れそうな程に、武器を握る手が見えた。言葉も出なかった。時間はあまり、残されていないけれど。
 せめて、一番やさしいおわりを齎す為に。リベリスタの戦いは始まっていた。


 毎度ながら、運命と言うのは実に残酷なものだ。
 諦めに似た溜息ひとつ。『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)は厳然たる閃光で敵を打ち払う。
 やるしかない。普段通りのお仕事だ、そう言い聞かせて。
「ノーフェイスは世界の敵だ」
 端的に。告げた言葉に、空気が張り詰める。世界を壊すもの。それが、ノーフェイスでありエリューション。
 リベリスタなら誰もが知っている。そんなものに、恋人を引きずり込んで良いのか。並べられる言葉は正論で。返す言葉も無い。
 唯華の気持ちと朔の現状も踏まえて、その上で碧衣はあえて、厳しい言葉を紡ぐ。
「唯華が生きていて欲しいのか、それともお前と共に散ってほしいのか、と聞いているんだよ」
 波立ちそうな感情は内に秘めて。放られた言葉に、朔は溜息に似た吐息を漏らした。
 そんなの、前者に決まってる。そんな掠れた声が聞こえる。じゃあ、言い募ろうとした言葉を遮る様に、その瞳が此方を見る。
「頭で理解しても心が拒否するんだよ。泣くんだ。こいつが、ボクが居ないなんて嫌だって」
 例え歪んだ形だったとしても。共に居てやった方がしあわせではないのか。いっそ共に狂って消えてしまった方が。
 正しい答えを導いて、けれど、人は本当にそうすべき事態に直面した時、その答えを出せるのだろうか。
 正論は力強いものだけれど。それが本当に力を持つのは、間違いなく正しいものを選択し続ける事が出来る者の下でだけだ。

「逢坂……お前、意識は保ってんだろ。だったら、俺の言いたい事は解るか?」
 リベリスタとしてではなく、1人の男として。
 正々堂々その名を名乗った『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は、問う。
 遺して逝く身。ならば、朔にしか出来ない事があると、分かっているだろう。分からないだなんて言わせない。
 邪魔な草木を振り払った。手を伸ばした。胸倉を、掴んだ。好きだったなら。愛していたなら。愛されていたなら。どうして奪うのか。
 その笑顔を。その、先を。正し過ぎる程のそれ。それだけだったなら、軽くあしらわれたであろう言葉。
「死んだ人間が、生きてる人間にやってやれる事はンなに多くねぇんだよ……っ」
 本当なら、何も出来ないのだ。死者は生者に。生者は死者に。猛はそれを、知っていた。
 失った。目の前で。自分だけが生き残った。その現実は残酷過ぎて、荒れ狂う感情は如何にも出来なかった。ぶつけるしかなかった。
 けれど。そんな猛を引き戻したのは。支えたのは。紛れも無く、失った大切な人だった。
 遺してくれた、記憶だった。
「遺していくだけだ、何かを。絶対、笑えるかもしれない未来を奪う事じゃねえ!」
 引き寄せる。間近で交わる瞳が揺れていた。本当なら、記憶しか遺せないのだ。それ以上何もしてやれない。
 だけど今なら。運命の悪戯が、それ以上を許してくれる。ほんの僅かだけれど。確かに、遺す事を許してくれるのだ。
 もう一度聞こう。すべき事は何かと。
「……優しくする事だけが、お前のやる事じゃない! 解らないってんなら──」
 此処で、2人共止めるだけだ。覚悟を決めた顔。只管に真っ直ぐなそれに、朔の瞳が揺れた。
 握り締めていた斧が、鈍い音と共に滑り落ちる。
「ねえ、諦めないでよ朔、駄目だよ、運命は変えられるかもしれないんでしょ、ねえ、お願いだから」
 もう一度を、願ってよ。彼の決断を悟ったのだろう。唯華が悲鳴にも似た声を上げる。
 嫌だ。もう一度失うのは、嫌だ。取り縋ろうとするその手が、朔に触れる前に。
「……聞きたい事があります」
 静かに、しかし重く。小鳥遊・茉莉(BNE002647)の声が響く。
 簡単な問いだった。けれど、それは、リベリスタである者なら誰もが、一度は自分に問うた筈のもの。
「貴方たちは何のためにリベリスタとして戦っていたのですか?」
 シンプル過ぎる、けれど簡単に答えるには重過ぎるそれに、唯華の手が止まる。
 何の為に。その答えが紡がれる前に、茉莉は静かに、言葉を続ける。
 愛するものを守る為に、互いに互いを、護ろうとしていたのでは、無いのかと。
「峰月さん、貴女の護りたかった逢坂さんは、貴女生きていく世界を守りたかったのではないのですか?」
 逆も言えるかもしれないけれど。2人で生きる世界を、もし別たれても、相手が笑える世界を。
 守ろうと、していたのではないのかと。静かに問う声に、言葉を失った。
「死が2人が別とうとも。貴方達の心にある愛は死でも別つことの出来ないものでしょう?」
 綺麗事だと笑うのは簡単だった。けれど、積み重ねられた言葉が、それを躊躇わせる。
 時間は、もう殆ど残っていない。
「世界がぬしらに残した時間は多くはない。……ヤマ達が何をせんでもぬしらは狂う」
 示された懐中時計。『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)は静かに、現実を告げる。
 人として話せる内に、2人で話したいことを話せ、と彼女は言う。
 殺す事に不満はないけれど。愚痴なんて零すには今更だけれど。
 不要な殺しは、峰月唯華を殺す事は、胸を張れる仕事ではないから。
「時間が惜しかろ、悔いを残すな」
 必要悪と銘打った、幼い侭の女は言う。
 上手く行くかは分からないけれど。せめて、惨い最期を避けられる様にと。


 決断は、すぐだった。
 向き合う。出来る限りを遺したいのに、時間はもう無くて。だからせめてと、男は手を伸ばした。抱き締めた。
 それ以外に何も出来ないと分かっていた。唇を寄せた。温度差のある、さいごのくちづけ。何も言えなかった。手が、離れた。
「……猛って言ったよな」
 泣き崩れた彼女の手を、彼はもう取らない。視線がぶつかった。言いたい事は、分かっていた。
 爆ぜる、紫電。彼は避けない。叩き込まれた掌。それは、既に執着を諦めた彼には十分な一撃で。
「後は、任せる」
「……任せとけ、ちゃんと、未来を守ってやる」
 満足げに笑った顔が見えた。崩れ落ちる、朔だったもの。一瞬だけ、静寂が落ちて。

 悲鳴にも似た、声が響いた。転びそうになりながら駆け寄って、彼女はその手を取る。冷たかった。もう二度と、動かない温度だった。
「ねえやだ、やだよ朔、如何して、君はまたそうやって、私を置いていくの!」
 皮膚を破るほどにきつく、手を握り締めた。そうして居ないととても、耐えられなかった。
 本当は、どちらも救いたかった。捨てきれない甘さが、霧香の心を苛む。
 でも。世界から見放された者は、救えない。知っていた。分かっていた。だから、斬ると、決めていたのだ。
 堪えた。かける言葉なんてない。目の前で、ふらふらと立ち上がる姿が見える。開かれた魔本が、光を帯びる。
 戦おうというのか。救えない結末に、歯噛みしたくなる。
「貴様の中の逢坂は、それを望むのか。……思い出せ。奴はなんと言うておった」
 止まらない時間を告げた懐中時計を、投げつけた。僅かな暇。最期の時間を、思い出せ、と。
 真っ赤に腫れた目から、また、零れ落ちる涙が見える。泣いても泣いても泣いても、もう、戻っては来なくて。
「如何したら良かったの、世界の敵だからって言って、私が殺せばよかった? ねえ教えてよ、私如何したら良かったのよ!」
 絶叫。応えた魔本が呼んだのは、紅蓮の業火。
 肌を舐める焔は熱くて、けれど表情一つ変えなかったカルナが、少しだけ、前に出る。
 翡翠に映える、真白いフリージア。
 ずっといっしょにいれるように。それは何時途切れるかも知れない、脆すぎる願いだけれど。
「現状を認めず、逃避する。それは朔さんの本意なのでしょうか?」
 祈る様に手を組んだ。仲間全てを癒す、聖なる息吹が吹き荒れる。燻る炎を消していく。
 覚悟を決めるしかないのだ。何時か来るかもしれない別れに。来てしまった別れに。
 耐え抜くだけの、覚悟を。カルナだって、出来るか分からないけれど、でも。
「朔さんの最期の望みを叶えられるのは、貴方だけなのですから」
 ──きっとあの人なら、私に生きろと言うだろうから。
 その願いを叶える為に。きっと自分は、覚悟を決められる。
「何で、何で私じゃなかったの? 何で、残ったの、私なの? 耐えられないの、私、君みたいに強くなれない」
 はらはらと、涙が舞い落ちる。恐怖と後悔と、胸を裂く様な悲しみと。
 それを見て取って。氷璃もまた、彼女へと歩み寄る。もう、草木は静まり返っていた。
「後悔しているのでしょう? もっと強く注意しておけば良かった、と」
 気をつけて、と幾ら言っても聞いてはくれないから、癒しの術を身に付けたのだろう。その言葉に、驚いた様に瞳が揺れた。
 生傷が絶えなかった。何時も生死の境ぎりぎりを歩く彼を、守る術を自分は持たなくて。
 庇う事も、出来なくて。ならせめてと、癒しの術を学んだのだ。失わない様に。
 手に取るように分かった。その上で。もし自分が同じ立場だったらと考えても。氷璃は答えを見出せなかった。
 彼女の様に、泣き縋っただろうか。仕方の無い事だと、諦めただろうか。
 ――それが、たとえ『彼』だったとしても?
「……気をつけて居れば良かった。私が、……私の所為、なの……っ」
 一緒に狂ってしまいたかった。違う。一緒に、其の侭終わってしまいたかった。彼が望まないと分かっていても。
 このまま、1人残されるなんて、嫌だった。涙を流す瞳が言う。殺してくれと。
 抵抗はするから。どうか、此の侭、裏切り者として。途切れ途切れの願い。けれど、唯々は、それを許さなかった。
 その気持ちが分かる、だなんてことは絶対に言えないけれど。
「それでも、アンタまで同じ結末なんて、駄目だ。 イーちゃんが許さない」
 近寄った。震える手。暖かく血の通った手。それが掴むべき、結末の筈なのだ。
 握り締めた。振り払おうとされても、離さない。
「アンタまで死んだら、誰が逢坂の事を、その想いを覚えておいてやれるってーんですか!」
 只管に。死から目を覚ましてしまう程に、愛し続けたその思いは。
 大切な人がしあわせに笑う世界を守り抜こうとし続けた、その軌跡は。
 何より。唯華自身に向けられ続けた、幾つもの言葉は。
 彼女しか覚えておけないものだ。彼女が忘れたら、彼女が死んだら。彼はもう一度、死んでしまう。
「イーちゃんは、そんな寂しい結末は、イヤなんですよ。……イヤなんです」
 最善を掴めるだろうか。分からないけれど。最悪を見るかもしれないけれど。
 唯々は諦めない。生き足掻く。最善の結末を、得る為に。
 瞬く度に、腫れた目から涙が落ちる。肩から力が抜けたのが分かった。震えていた手が、唯々の手を握り返す。
「……ねえ、覚えておいたら、何時かしあわせだったな、って笑えたりするかしら」
 頷いた。頷くしか、出来なかった。

 夜明けの灯りが、朝霧でぼんやりと霞む。
 未だ想い出にするには鮮烈過ぎて、仕舞い込むには鋭利過ぎて。
 けれど、それを抱えて生きていくしかないのだ。遺された、者は。
 震えた泣き声は、何時の間にか止んでいた。
 運命は何時だって優しくなくて。あいのうたさえ残酷なものに変えてしまう。
 けれど。その日リベリスタは確かに、その旋律をやさしいものへと、戻したのだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。

熱い心情プレイングに感動です。
色々迷いましたが、結果はこんな感じで。
説得面はほぼ完璧でした。特に響いたものは、リプレイを読んで貰えれば分かるかな、と思います。
ただ、特にこのような説得、においては『攻撃を行うのか』『どのタイミングから行うのか』をきっちりすり合わせることをお勧めします。
説得の素晴らしさで帳消しされてますが、決裂もありえました。

ご参加、有難う御座いました。また、ご縁がありましたら宜しくお願いいたします。