● 君は馬鹿だなぁ、と笑う顔が好きだった。 どれだけ馬鹿な事をしても、仕方ないと笑ってくれるのが。 無理はしてはいけない、と心配してくれる声が。 好きだった。 いま。 ボクの死体にしがみ付いて。泣きじゃくるお前を見ている。 酷い顔だった。ボクの好きな笑顔はなかった。 嗚呼、でも。この顔も嫌いじゃなかった。 嗚呼ねえいまさら。本当に今更だけど。 お前がこんなにも、ボクの為に泣いてくれるというのなら。 ボクは。 お前に本当に愛されていたのだと、自惚れてもいいのだろうか。 ● 「どーも。今日の『運命』聞いていって頂戴」 ぱらぱら捲る資料。椅子に寄りかかって、『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は淡々と、話を始めた。 「戦場には、死体がひとつと、リベリスタ……ううん、元、リベリスタがひとり。まぁ、直にノーフェイスと元リベリスタに変わるんだけどね。 ……あんたらに頼むのは二つ。ノーフェイスの処理と、元リベリスタへの何らかの対応。討伐、改心、まぁ、好きにすれば良いと思う」 後者の難易度は相当だけど。 やってられないと言いたげに首を振って。長い爪がモニターを動かす。現れたのは、2枚の写真だった。 「一枚目。ノーフェイスになる、逢坂・朔。メタルフレーム×デュランダルだった。彼のフェーズ進行は相当早い。即、フェーズ2になると思って良い。 元々がかなりの実力者だったのもあって、相当強いわ。……序でに言うと、周囲への影響も計り知れない。 元リベリスタにも、あと、近くの植物なんかにも影響を与えて、世界から爪弾きにしようとしてる。皮肉よねぇ、優秀なリベリスタが、寵愛を失えば害悪だなんて。 あ。後、このノーフェイス、明確にその意識を保っているんで。その辺も宜しく」 指が、もう一枚の写真を示す。 こっちが元リベリスタ。そう告げて、ひとつ溜息。 「……峰月・唯華。フライエンジェ×マグメイガス。優秀な魔術師であり、回復手でもあった。逢坂の恋人であり、パートナーだったのね。 依頼で寵愛を失った彼を背負って、彼女は逃げたの。死を認められなかった。必死に逃げて、力尽きて、泣き縋ったのね。戻ってきて、って。 運命は、残酷にもその願いを叶えた。……今、彼女は逢坂の影響で通常以上の力を振るえる。ただ……その先にあるのは、同じく、ノーフェイスになる結末だけだけど」 資料を、並べる。 視線が少しだけ下がって、細く、溜息が漏れた。 「周囲の植物…って言っても、木とか草なんだけど。そっちは足場に影響を与えたり、範囲攻撃や、命中撹乱してくる感じかな。 対象は、互いを互いに護り合ってる。でも、逢坂の意識が何時まで持つものなのかは分からないし、唯華チャンもそれは同じ。 ……死と隣り合わせ。あたし達、何時大事なものを失うかは分からないわ。でも、それでも、誰にも想いを残さずに居られる人なんて極少数」 立ち上がって、歩き出す。 「その上で。あんたらが望む結末は、答えは、どんなものなのかしら。……教えてあげたら良いんじゃないの」 じゃ、後宜しく。その一言を残して、フォーチュナはブリーフィングルームを後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月11日(火)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● リベリスタである以上。 死とは常に隣にあるものであり。それは、誰もが覚悟している筈のものである。 「……口で言うだけなら、簡単なのですけどね」 零れ落ちる言葉。『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)は十字掲げる杖を握る。 覚悟、しているだろう。誰もが戦う以上、起こり得る未来だと。 けれどその覚悟は、死に直面した時も変わらないのだろうか。万一、別たれる時が来たとして。 自分は、それを受け入れられるのだろうか。 それとも彼女の様に、受け入れられぬ侭不条理な運命を望んでしまうのだろうか。 答えは出なかった。代わりにひとつ、深呼吸。アークの者だ、と目の前の『2人』に告げた。 「今宵とあるマグメイガスがノーフェイスと化すべき運命が見えましたので、それを止めに参りました」 誰かが動く前に。齎される翼の加護。相対した男と女の顔が、何処か違う色を孕んで、引き攣った。 互いに互いを庇う様に、武器を構えたのが見えた。言葉も、視線さえも交わさず即座に万全の戦闘体勢を取れるのはきっと、彼らを繋ぐ想いの強さの証明。 世界から爪弾きにされた者と、死にゆくものに縋り護らんとする者。 『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)はきっとこの場の誰よりも、その恐怖を身近に感じていた。 交わした想いで結んだ恋。それが何時か、彼らと同じ様に途切れたとして。その時、自分は一体如何するのだろうか。 想像もしたくなかった。けれど。唇を噛む。銀星のラインを引いて、草木を交わした霧香は肉薄した男を、確りと見据える。 引き上げるギア。目が合った。とても死人には見えなくて。 「……あたしはね、確かに彼が大事。大好き。誰よりも。でも、でもね」 もし、もしも彼が、加護を失ったとしたら。世界に爪弾きにされたとしたら。それはもう、彼ではないのだ。 大斧を構えた瞳を、隣の泣き腫らした瞳から、目を逸らさない。 「だからね、あたしは斬るよ。他の誰でもない、あたし自身の手で」 覚悟。真っ直ぐに告げられた言葉にしかし、魔女は真っ赤になった目を細めるだけで。 冷ややかに、その口が開かれる。 「君、本当に、自分がそうなっても同じ事が言える? ごめんなって、愛してるよ、って君をその彼が抱き締めてくれたとして」 君はそれでも、それが彼ではないと言って殺せるの? 瞳にあるのは悲しみでも絶望でもなかった。ただ悲壮なまでの、覚悟と愛情。 「もし出来るって言うなら、随分お安い愛なのね。それとも未だお子様なのかしら」 終わらせてあげるのが愛、だなんて笑ってしまうようなキレイゴトは止めてよね。吐き捨てるような言葉。 詰まる霧香の後ろから、木の幹を駆け上がり、怒れる草木の只中へ飛び込んだのは、『獣の唄』双海 唯々(BNE002186)。 全てを踏破する、告死のステップは軽やかに。不規則に蠢く八重の刃の下に邪魔するものを切り伏せて。 紅に煌く瞳が、2人を見据えた。現実は何時だって残酷で不条理で。唯々はそんなこと、もうとっくに分かって居て。 けれどだからこそ、生き足掻くのだ。残酷な現実から少しでも最善を掴み取る、その為に。今も、それは変わらない。 「逢坂、イーちゃんはアンタに問う。――アンタは恋人共々狩られるのを望むですか?」 ぴくりと、男の肩が跳ねた。望まないなら話を聞け。そう告げた彼女の後を引き取ったのは、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)だった。 「貴方の影響で1分後に、唯華も寵愛を失うわ」 漆黒の日傘がくるりと回る。放たれた灼熱の焔に灰燼と帰した草木も、朔の影響下にあるのだと。予見者の言葉をそのまま告げれば、男は大した驚きも見せずに、目を伏せた。 彼は知っている。もう、自分に運命の寵愛も、残る時間も無いのだと。斧が下がる。 「貴方が貴方で居られる内に彼女に伝えるべき事があるでしょう?」 彼の言葉でなければ、きっと彼女の心を変えられない。そんな思惑と、ほんの少しの怒りを込めて、薄氷の瞳が細くなる。 散々心配かけた末のこの様だ。後ろで支えるしか出来なかった唯華が、どんな想いで冷たい身体を背負ってきたのか、彼は分かっているのだろうか。 運命の悪戯。残酷で不条理で、今この時も更なる悲劇を齎そうとするそれ。 けれど。これはある意味で、運命の優しさかもしれないのだ。やさしいさいごに、する為の。 「貴方は彼女をノーフェイス化させる為に蘇った訳では無い筈よ!」 折れそうな程に、武器を握る手が見えた。言葉も出なかった。時間はあまり、残されていないけれど。 せめて、一番やさしいおわりを齎す為に。リベリスタの戦いは始まっていた。 ● 毎度ながら、運命と言うのは実に残酷なものだ。 諦めに似た溜息ひとつ。『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)は厳然たる閃光で敵を打ち払う。 やるしかない。普段通りのお仕事だ、そう言い聞かせて。 「ノーフェイスは世界の敵だ」 端的に。告げた言葉に、空気が張り詰める。世界を壊すもの。それが、ノーフェイスでありエリューション。 リベリスタなら誰もが知っている。そんなものに、恋人を引きずり込んで良いのか。並べられる言葉は正論で。返す言葉も無い。 唯華の気持ちと朔の現状も踏まえて、その上で碧衣はあえて、厳しい言葉を紡ぐ。 「唯華が生きていて欲しいのか、それともお前と共に散ってほしいのか、と聞いているんだよ」 波立ちそうな感情は内に秘めて。放られた言葉に、朔は溜息に似た吐息を漏らした。 そんなの、前者に決まってる。そんな掠れた声が聞こえる。じゃあ、言い募ろうとした言葉を遮る様に、その瞳が此方を見る。 「頭で理解しても心が拒否するんだよ。泣くんだ。こいつが、ボクが居ないなんて嫌だって」 例え歪んだ形だったとしても。共に居てやった方がしあわせではないのか。いっそ共に狂って消えてしまった方が。 正しい答えを導いて、けれど、人は本当にそうすべき事態に直面した時、その答えを出せるのだろうか。 正論は力強いものだけれど。それが本当に力を持つのは、間違いなく正しいものを選択し続ける事が出来る者の下でだけだ。 「逢坂……お前、意識は保ってんだろ。だったら、俺の言いたい事は解るか?」 リベリスタとしてではなく、1人の男として。 正々堂々その名を名乗った『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は、問う。 遺して逝く身。ならば、朔にしか出来ない事があると、分かっているだろう。分からないだなんて言わせない。 邪魔な草木を振り払った。手を伸ばした。胸倉を、掴んだ。好きだったなら。愛していたなら。愛されていたなら。どうして奪うのか。 その笑顔を。その、先を。正し過ぎる程のそれ。それだけだったなら、軽くあしらわれたであろう言葉。 「死んだ人間が、生きてる人間にやってやれる事はンなに多くねぇんだよ……っ」 本当なら、何も出来ないのだ。死者は生者に。生者は死者に。猛はそれを、知っていた。 失った。目の前で。自分だけが生き残った。その現実は残酷過ぎて、荒れ狂う感情は如何にも出来なかった。ぶつけるしかなかった。 けれど。そんな猛を引き戻したのは。支えたのは。紛れも無く、失った大切な人だった。 遺してくれた、記憶だった。 「遺していくだけだ、何かを。絶対、笑えるかもしれない未来を奪う事じゃねえ!」 引き寄せる。間近で交わる瞳が揺れていた。本当なら、記憶しか遺せないのだ。それ以上何もしてやれない。 だけど今なら。運命の悪戯が、それ以上を許してくれる。ほんの僅かだけれど。確かに、遺す事を許してくれるのだ。 もう一度聞こう。すべき事は何かと。 「……優しくする事だけが、お前のやる事じゃない! 解らないってんなら──」 此処で、2人共止めるだけだ。覚悟を決めた顔。只管に真っ直ぐなそれに、朔の瞳が揺れた。 握り締めていた斧が、鈍い音と共に滑り落ちる。 「ねえ、諦めないでよ朔、駄目だよ、運命は変えられるかもしれないんでしょ、ねえ、お願いだから」 もう一度を、願ってよ。彼の決断を悟ったのだろう。唯華が悲鳴にも似た声を上げる。 嫌だ。もう一度失うのは、嫌だ。取り縋ろうとするその手が、朔に触れる前に。 「……聞きたい事があります」 静かに、しかし重く。小鳥遊・茉莉(BNE002647)の声が響く。 簡単な問いだった。けれど、それは、リベリスタである者なら誰もが、一度は自分に問うた筈のもの。 「貴方たちは何のためにリベリスタとして戦っていたのですか?」 シンプル過ぎる、けれど簡単に答えるには重過ぎるそれに、唯華の手が止まる。 何の為に。その答えが紡がれる前に、茉莉は静かに、言葉を続ける。 愛するものを守る為に、互いに互いを、護ろうとしていたのでは、無いのかと。 「峰月さん、貴女の護りたかった逢坂さんは、貴女生きていく世界を守りたかったのではないのですか?」 逆も言えるかもしれないけれど。2人で生きる世界を、もし別たれても、相手が笑える世界を。 守ろうと、していたのではないのかと。静かに問う声に、言葉を失った。 「死が2人が別とうとも。貴方達の心にある愛は死でも別つことの出来ないものでしょう?」 綺麗事だと笑うのは簡単だった。けれど、積み重ねられた言葉が、それを躊躇わせる。 時間は、もう殆ど残っていない。 「世界がぬしらに残した時間は多くはない。……ヤマ達が何をせんでもぬしらは狂う」 示された懐中時計。『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)は静かに、現実を告げる。 人として話せる内に、2人で話したいことを話せ、と彼女は言う。 殺す事に不満はないけれど。愚痴なんて零すには今更だけれど。 不要な殺しは、峰月唯華を殺す事は、胸を張れる仕事ではないから。 「時間が惜しかろ、悔いを残すな」 必要悪と銘打った、幼い侭の女は言う。 上手く行くかは分からないけれど。せめて、惨い最期を避けられる様にと。 ● 決断は、すぐだった。 向き合う。出来る限りを遺したいのに、時間はもう無くて。だからせめてと、男は手を伸ばした。抱き締めた。 それ以外に何も出来ないと分かっていた。唇を寄せた。温度差のある、さいごのくちづけ。何も言えなかった。手が、離れた。 「……猛って言ったよな」 泣き崩れた彼女の手を、彼はもう取らない。視線がぶつかった。言いたい事は、分かっていた。 爆ぜる、紫電。彼は避けない。叩き込まれた掌。それは、既に執着を諦めた彼には十分な一撃で。 「後は、任せる」 「……任せとけ、ちゃんと、未来を守ってやる」 満足げに笑った顔が見えた。崩れ落ちる、朔だったもの。一瞬だけ、静寂が落ちて。 悲鳴にも似た、声が響いた。転びそうになりながら駆け寄って、彼女はその手を取る。冷たかった。もう二度と、動かない温度だった。 「ねえやだ、やだよ朔、如何して、君はまたそうやって、私を置いていくの!」 皮膚を破るほどにきつく、手を握り締めた。そうして居ないととても、耐えられなかった。 本当は、どちらも救いたかった。捨てきれない甘さが、霧香の心を苛む。 でも。世界から見放された者は、救えない。知っていた。分かっていた。だから、斬ると、決めていたのだ。 堪えた。かける言葉なんてない。目の前で、ふらふらと立ち上がる姿が見える。開かれた魔本が、光を帯びる。 戦おうというのか。救えない結末に、歯噛みしたくなる。 「貴様の中の逢坂は、それを望むのか。……思い出せ。奴はなんと言うておった」 止まらない時間を告げた懐中時計を、投げつけた。僅かな暇。最期の時間を、思い出せ、と。 真っ赤に腫れた目から、また、零れ落ちる涙が見える。泣いても泣いても泣いても、もう、戻っては来なくて。 「如何したら良かったの、世界の敵だからって言って、私が殺せばよかった? ねえ教えてよ、私如何したら良かったのよ!」 絶叫。応えた魔本が呼んだのは、紅蓮の業火。 肌を舐める焔は熱くて、けれど表情一つ変えなかったカルナが、少しだけ、前に出る。 翡翠に映える、真白いフリージア。 ずっといっしょにいれるように。それは何時途切れるかも知れない、脆すぎる願いだけれど。 「現状を認めず、逃避する。それは朔さんの本意なのでしょうか?」 祈る様に手を組んだ。仲間全てを癒す、聖なる息吹が吹き荒れる。燻る炎を消していく。 覚悟を決めるしかないのだ。何時か来るかもしれない別れに。来てしまった別れに。 耐え抜くだけの、覚悟を。カルナだって、出来るか分からないけれど、でも。 「朔さんの最期の望みを叶えられるのは、貴方だけなのですから」 ──きっとあの人なら、私に生きろと言うだろうから。 その願いを叶える為に。きっと自分は、覚悟を決められる。 「何で、何で私じゃなかったの? 何で、残ったの、私なの? 耐えられないの、私、君みたいに強くなれない」 はらはらと、涙が舞い落ちる。恐怖と後悔と、胸を裂く様な悲しみと。 それを見て取って。氷璃もまた、彼女へと歩み寄る。もう、草木は静まり返っていた。 「後悔しているのでしょう? もっと強く注意しておけば良かった、と」 気をつけて、と幾ら言っても聞いてはくれないから、癒しの術を身に付けたのだろう。その言葉に、驚いた様に瞳が揺れた。 生傷が絶えなかった。何時も生死の境ぎりぎりを歩く彼を、守る術を自分は持たなくて。 庇う事も、出来なくて。ならせめてと、癒しの術を学んだのだ。失わない様に。 手に取るように分かった。その上で。もし自分が同じ立場だったらと考えても。氷璃は答えを見出せなかった。 彼女の様に、泣き縋っただろうか。仕方の無い事だと、諦めただろうか。 ――それが、たとえ『彼』だったとしても? 「……気をつけて居れば良かった。私が、……私の所為、なの……っ」 一緒に狂ってしまいたかった。違う。一緒に、其の侭終わってしまいたかった。彼が望まないと分かっていても。 このまま、1人残されるなんて、嫌だった。涙を流す瞳が言う。殺してくれと。 抵抗はするから。どうか、此の侭、裏切り者として。途切れ途切れの願い。けれど、唯々は、それを許さなかった。 その気持ちが分かる、だなんてことは絶対に言えないけれど。 「それでも、アンタまで同じ結末なんて、駄目だ。 イーちゃんが許さない」 近寄った。震える手。暖かく血の通った手。それが掴むべき、結末の筈なのだ。 握り締めた。振り払おうとされても、離さない。 「アンタまで死んだら、誰が逢坂の事を、その想いを覚えておいてやれるってーんですか!」 只管に。死から目を覚ましてしまう程に、愛し続けたその思いは。 大切な人がしあわせに笑う世界を守り抜こうとし続けた、その軌跡は。 何より。唯華自身に向けられ続けた、幾つもの言葉は。 彼女しか覚えておけないものだ。彼女が忘れたら、彼女が死んだら。彼はもう一度、死んでしまう。 「イーちゃんは、そんな寂しい結末は、イヤなんですよ。……イヤなんです」 最善を掴めるだろうか。分からないけれど。最悪を見るかもしれないけれど。 唯々は諦めない。生き足掻く。最善の結末を、得る為に。 瞬く度に、腫れた目から涙が落ちる。肩から力が抜けたのが分かった。震えていた手が、唯々の手を握り返す。 「……ねえ、覚えておいたら、何時かしあわせだったな、って笑えたりするかしら」 頷いた。頷くしか、出来なかった。 夜明けの灯りが、朝霧でぼんやりと霞む。 未だ想い出にするには鮮烈過ぎて、仕舞い込むには鋭利過ぎて。 けれど、それを抱えて生きていくしかないのだ。遺された、者は。 震えた泣き声は、何時の間にか止んでいた。 運命は何時だって優しくなくて。あいのうたさえ残酷なものに変えてしまう。 けれど。その日リベリスタは確かに、その旋律をやさしいものへと、戻したのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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