●残暑の涼を求めて 「秋田のとある湿原でまりもを売りにしてる場所があるんだけどさ、そこにまりも型のエリューションが紛れ込んだらしいんだよね」 『黒い突風』天神・朔弥(nBNE000235)が長い銀髪の枝毛を探しながら口を開く。 「数は八体、大きさはそれぞれ違うけど小さいので両手に抱えられる位、大きいのだと一メートル半位、かな。あ、直径ね。 湿原は道舗装されてる場所の方が少なくて山歩きを想定した格好で行った方がいいかも。 岩だらけの道とか越えていかなきゃいけないらしいからね。 後、ブナだったかな。確か木が有名。 平日なら人も少ないだろうしまりもがいる水場は最奥部で人気が少ないから結界張れば多分大丈夫。 でも普通のまりも含めて自然物の破損には注意してね」 どうやら枝毛は見つからなかったらしい(飽きただけかもしれないが)朔弥はメモ帳を開くともう一度口を開く。 「攻撃方法は…タックルだね。水気多いから気になるんだったら合羽用意した方がいいかも知れない。 わりともふもふしてるよ。それ以上に水気が気になるだろうけど。 タックル一辺倒だけど口元に長時間張り付かれると口の中にまりもの一部が入ってくるだろうし息が続かないだろうから注意して。 一般人に被害が出る前に退治、頼んだよ」 歩くと汗はかくだろうし湿度も高そうだけど緑を楽しんで繰れば? とフォーチュナは気楽に笑った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:秋月雅哉 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月10日(月)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●清流と緑の湿原にて あきたこまちから作られるきりたんぽが地元一般家庭の鍋の花形として出回るにはまだ少し早い季節。 夏と秋の境目、九月のある日。 八人のリベリスタが秋田県側の鳥海山付近にある湿原へと向かっていた。 折りよく秋晴れで風があるため暑くはない。 むしろ日本の中でも北側にあるせいか涼しいといっていい気候だ。 湿原の前の無料駐車場の先には早くも木々が生い茂っている。 入り口付近は一応木の板で通り道が作られているが途中舗装されていない岩場を歩く場所もある、と事前情報があったため何処までこの木の板が続いてくれるのかは未知数である。 奇形ブナや多種多様なコケ類、世界最大のマリモが売りのこの湿原ではあるがあいにく八人の用事は観光ではなかった。 アークを通じての依頼で、マリモ型エリューション退治である。 マリモの生息地はほぼ最奥部、悪路に慣れていない人の足で片道約一時間から一時間半。 繰り返すが途中舗装のない岩場を通る。 そして熊が出る程度には緑が深い。 ……ある意味戦闘開始前までにどれだけ体力を使うかの方が恐ろしいかもしれない仕事なのかもしれない。 そして戦闘が終わったら同じ道を辿って帰ってこなければいけない。 もちろん、自力で。 「まりもかぁ……実物は見たことないですけど、なんだか和みます。 環境が荒れて減っちゃったら悲しいので……傷つけないように頑張りましょう。 まりも見る時間あると良いなぁ」 雪待 辜月(BNE003382)がほわわんとした口調で呟く。 まだ湿原に入って五分も経っていないので当然ながら全員元気だった。 現場に勢い良く乗り込んだのは『白い方』霧里 びゃくや(BNE003667)だ。 お嬢さん、お嬢さん、ペース配分考えないと帰り道疲れますよ。 「ふう……何と心地よい風であることか……。 暑さが苦手な私には、実に嬉しいな」 これで湿度さえなければ、と残念そうにため息をつく『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)と並んで歩く『黒い方』霧里 くろは(BNE003668)には景色を楽しむよりも戦闘に備えるよりもある意味大事で気を配らなければならないことがあった。 それは姉、びゃくやのお守り。 参加理由がそれなのだから彼女のほうが姉のように思えてくるが実際には姉はびゃくやであり妹はくろはである。 「びゃくや、あんまりはしゃぎすぎないで下さい。帰り道歩けなくなっても知りませんよ」 一応忠告はするものの届く確率が低いことはくろはが一番承知していた。 「巨大なマリモですか、運動会の大玉ころがしとかで使うと面白そうですね」 『混沌を愛する黒翼指揮官』波多野 のぞみ(BNE003834)は霧里姉妹を眺めながらそんな感想。 「マリモ、か。知識としては知っているが見るのは初めてだな。 マリモは暑さに弱い。人の体温ほどで死滅するからな。 生態を乱さないよう注意しよう。 動くとは言え、マリモを観察するには勝手が良いな」 全身をすっぽり覆うレインコートを着込んだ『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)が歩を進めるたびレインコートがこすれる音が微かに響く。 『雪待が無駄に用意がいいのは何時ものことだ』と主張して足りないものは辜月に借りる腹積もりの彼女。 これも一つの信頼の形……なのだろうか。 「まりもといえば北海道のお土産が定番だと思いますけれど、お土産で売っているマリモは内職をしているおば様がひとつひとつ丁寧に藻を丸めていると知ったときはさすがの私もショックをうけましたわ」 シェリーの言葉に思い出したようにナターリャ・ヴェジェルニコフ(BNE003972)が豆知識を披露する。 「ま! り! も! まりもだぞ! まりもってなんだー? なんか響きが良かったから叫んでみただけだぞ? まーなんか食えそうじゃないしなー」 びゃくやに負けず劣らず元気なのは『変態を滅すもの』ミャウニャ・テニャニィゼ(BNE004034)だ。 近くにいたシェリーとナターリャがマリモの生態について簡単に説明する。 他に観光客はいないようだがもしいたとしてもこの八人がこれから戦闘を控えているとはまず思わないだろう。 ノリが完全に観光客である。 道中徐々に木の板で作られた道が少なくなり始め、岩場も混ざってくると女性ならではの気にかかることがでてくる。 「目的地までまだつきませんの? 足が疲れましたわ。 私のすらっとした脹脛や太ももがぱんぱんに腫れてしまったらどうしますの! 山に行く格好じゃない? そんなの知りませんわ。 大きな岩場は翼の加護で乗り越えればいいんですのよっ」 お洒落着で合羽は見目が悪いから、と着てこなかったナターリャが湿気を帯びてきた髪をかきあげる。 その台詞を聞いたシェリーが陰でにんまりと笑った。 足を止めたり疲れた表情を見せて辜月に無言のアピール。 その実単に景色を見ながら歩くことに飽きただけなのだがなかなかの演技力でそうとは気付かせない。 「シェリーさんがお疲れなら、おんぶしましょう。 体力心配ですし」 二人の身長差的に自然と辜月がシェリーを見下ろす形になるのだがシェリーはそれが不服の様子。 「雪待、これからは妾と顔を合わせて話す時は、こうして視線を合わせて話せ。良いな?」 辜月の服を軽く掴んで引き寄せるとそんな一言。 辜月は素直に謝罪して視線を合わせた後シェリーをおんぶした。 それで機嫌を直したシェリーは周りの草花について色々と説明を始める。 「仲がいいのは微笑ましいことだな」 安全靴に軍服という出で立ちのベルカが僅かに笑って二人のやり取りを見ている。 彼女自身は悪路を楽しんでいるようで、口には出さないが尻尾が揺れていた。 「びゃくや、先ほどから気になっていたのですがその水鉄砲はなんですか?」 「人に向けて撃つ。その心はただの悪戯」 「……人様に迷惑をかける行動は控えてくださいといつも言っているでしょう」 「そうだ、現場に着いたらマリモで遊ぼう。 でかいのもあるみたいだし上に乗ってバランスボールごっことか、ぎゅーって押しつぶしてみたり、とりゃーって蹴っ飛ばしたり、うりゃーって誰かに……主に女の子に投げつけてみたり」 「全部却下ですっ」 くろはの言葉を恐らく聞いていないびゃくやはまだまだマリモで遊ぶ計画を立てているようだ。 「地図を見る限り……そろそろだと思うのですが」 のぞみが湿気てヘロヘロになった地図を改めて注視し、一同に注意を促す。 「ようやくですの? 帰り道は更に疲れているのかと思うとうんざりしますわね」 「マリモとのご対面だな!」 水辺に八人が辿り付くと水面が揺らいだ。 両手に抱えられるサイズから人の身長クラスまで大きさも多様なマリモ型エリューションが次々と飛び出す。 「バランスボールッ♪」 「却下ですといったでしょう! あれでも一応敵なんですよ!?」 「おーこれがまりもか! なんかもふもふって感じだな? でもびちょびちょって感じでもあるな。 もふもふでびちゃびちゃ! なんかおもしろいな!」 テンションを上げるびゃくやとミャウニャ。 くろははびゃくやをその場に引き止めることに必死だ。 「それにしても随分とどでかく成長したまりもですわね。 水分を含んでいると言う事はタックルされるとその重みでかなりのダメージをうけそうですわね。 特に1.5メートルもある馬鹿でかいまりも! 私の方へ転がってきたら許しませんわよ!」 冷静に戦闘力を測りながら後衛に回るナターリャ。 「タックルでびしょぬれかー。 ま、ぬれてもあんまきにしないしな。 雨合羽なんてもってないしなー。 びちゃびちゃ! びちゃびちゃたのしいぞ! はじらい? はじらいってなんだ?」 ナターリャとは対照的にミャウニャはむしろマリモの攻撃を期待しているようにも見える。 「雪待さん、強結界と翼の加護をお願いしますね」 のぞみの言葉に辜月が頷いてシェリーを背中から降ろす。 強結界を展開し仲間に翼の加護を与えた後合羽を羽織る。 「輪切り千切りみじん切りだよ、ゴリ押し最高」 すばやく距離をつめて第一撃を飾るのはびゃくや。 どうやら遊ぶことは諦めたようだ。 くろははびゃくやの隣に位置しているがどちらかというとマリモを攻撃するより姉の暴走阻止の意図のほうが強そうな雰囲気がこれまでの流れからしなくもない。 ベルカとのぞみはタイミングをあわせてフラッシュバンを投げつけた。 「はてさて、こんな植物の集合体に閃光弾が効くといいのですが」 ふよふよと浮かびながら接近してきていたマリモが心持ち後退する。 このマリモ型エリューション、見たところ目も鼻も耳も口もないが五感はあるのだろうか。 一番大きなマリモが空中でギュルギュルと回り出す。 それに呼応するように他のマリモたちも何かをためるように空中での回転を始めた。 「……もしかしてタックル来るんじゃないですか、これ」 「雪待、良い読みじゃな。確かにきそうじゃ」 辜月とシェリーがどこかのんきな会話をしているうちにも回転速度は増していく。 そして一人につき一体の割合で猛烈に突っ込んできた。 「私の方へ転がってきたら許さないと言ったはずですわよ!」 一番大きなマリモが自分に向かって一直線に飛んできたので思わず、といった調子でナターリャが叫ぶ。 小柄な彼女はともすればマリモに押しつぶされそうだ。 「おおきいのからやっつけるんだったな! ナターリャちゃんに突っ込んでいった奴が一番大きいからゴリ押しでやっつけるぞ」 自分のところへ来たのはスピードこそそこそこだったが大きさは一番小さかったためバトルアックスを握り締めた腕で吹き飛ばしたミャウニャが巨大マリモに接近する。 マリモの一斉攻撃で一度崩れた陣形を立て直すとリベリスタたちの反撃が始まった。 マジックミサイルで狙い打つシェリー。 ベルカと受け持ちを決めてディフェンサードクトリンで仲間を援護するのぞみ。 ディフェンサードクトリン付与後、ベルカはカースブリットを放つ。 くろはがブラックジャック、びゃくやはソニックエッジを使って着実に巨大マリモの勢いを削いでいく。 「みなさん、頑張りましょう」 辜月の歌声が響き渡り傷が癒えた。 「これは先ほどのお返しですわ。お釣りは結構でしてよ!」 怒りが威力を増していそうなナターリャのマジックアローで直径一メートル半の巨大マリモは藻屑と化す。 「まずは一匹、じゃのう。次に大きいのは……そこのマリモか?」 シェリーが示したのは直径五十センチ程のマリモ。 通常のマリモに比べると十分巨大なのだが先刻倒したマリモの後だと可愛く見えるのは視覚の錯覚だろうか。 「さあマリモちゃん、私たちの戦術でやられちゃってね」 空を飛んでマリモに近づくのぞみが優しさすら感じる声でマリモの死を告げる。 小太刀が球体を切り裂くと緑の飛沫を残して二番目に大きなマリモもこの世を去った。 「びゃくや、近くのマリモが弱っているようだ。次はそいつに止めを刺そう」 全体を視野に入れていたベルカが弱っているマリモの一番近くにいたびゃくやに声をかける。 「りょーかい。くらえーっ!」 テンションの高さを維持したままびゃくやがナイフを突き刺す。 「こちらもこれがとどめになりそうですね」 自分に向かってタックルの事前運動を開始していた小型マリモにブラックジャックを食らわせて撃退するくろは。 「一体崩れると意外に脆いのぅ。大きさと耐久力は比例するのか?」 最初に比べると的は小さくなっているので慎重に狙いを定めてマジックミサイルを放ちながらシェリーが疑問を口にする。 「そうかもしれませんね。有難いことです」 辜月が同意しながら放ったマジックアローがマリモを屠る。 「妾の活躍の機会を盗りおったな、雪待……!」 「ま、まだ残ってますからっ」 示された六体目のマリモをシェリーが杖でマリモを叩き潰す。 「ゴリ押し作戦素敵だな! わかりやすくていいぞ!」 ミャウニャが力いっぱい斧で殴りつけると小さなマリモがパッと弾けた。 残りは一体。 「じゃあ、一人一体ずつ倒しているから私が……」 皆に視線で促されベルカが最後の一体にカースブリットで止めを刺す。 八体全てのマリモが倒され、辺りに静寂が戻った。 「少し休憩したら帰りましょうか」 「戦闘より移動の方が疲れますわね……」 「スポーツドリンクを飲みやすい濃さに薄めてきたものがあるが、喉が渇いている人はいるか?」 辜月が防水対策をしていないメンバーにタオルを配って回り、ベルカは用意してきたスポーツドリンクを紙コップに注いで希望者に渡していく。 「バランスボールしたかった……」 「敵で遊ぼうとしないで下さい」 ため息をつきつつ受け取ったタオルで水気を拭うくろは。 「うすいほんがあつくなりそうな展開は御免です、乙女的にありえません」 「全くですわ。……着替えが濡れてしまいましたわね」 一番巨大なマリモの保有する水分はかなりの量だったようだ。 「お疲れ様でした。後は帰り道、転ばないように気をつけるだけですね」 のぞみの言葉に苦労を思い出したのか何人かがため息をついた。 「此処はブナが有名なのだったな、雪待、妾とおぬしに翼を」 「? はい、分かりました」 二人で一番高いブナを探して飛行する。 「奇形ブナっていろんな形があるんですね」 上から奇形ブナの林を見下ろすのはなかなか出来ない体験だ。 地上ではミャウニャがエリューションの潜んでいた水辺を興味深げに眺めている。 「さて、そろそろ帰り支度をしないと日が暮れてしまうな」 「手持ちの明かりだけではあの足場の悪い道で怪我をしてしまうかもしれませんわ。夜になる前に戻りたいところですわね」 上空探索していたシェリーと辜月が戻ってきて全員が来た道を引き返す。 「お土産を売ってそうな店はなかったなー。記念品が欲しかったぞ」 「お土産……すっかり湿気た地図ならありますけれど……」 「湿原の湿度って凄いんだな」 「晴れていてこの湿度ですから雨の後とか来たら凄いことになりそうですね」 「靴が汚れそうですわね」 「泥遊びができるなっ」 「シェリーさん、素敵なお誘いありがとうございました」 「負ぶって貰ったからな」 噛み合っている様な噛み合っていない様な会話を繰り広げながら歩を進める一同。 疲れた顔、充実したと言いたげな顔、遊び足りなそうな顔、それぞれに様々な表情を浮かべて。 妖精の腰掛と名前がついたブナの木などの新しい発見もあり、一度通った道でもあるので帰り道は行きに比べればあっという間だった。 戦闘が終わったので余力を帰ることに集中させることができるというのも大きかったかもしれない。 「そういえば……本物のマリモ、じっくり見ました?」 七人分の「あ」が重なったとか重ならなかったとか。 世界最大のマリモはどうやら目に留まらなかったようだ。 「……気付くのがちょっと遅かったみたいですね」 入り口に来て全員が湿原を振り返る。 名物を見逃したがそれはそれで思い出の一ページを飾ってくれることだろう。 空中で回転するマリモ、という普通は見られない光景とともに。 誰ともなく笑い始めて八人は空を見上げた。 秋の日は短く、暮れようとしている。 「星が綺麗でしょうね、余計な明かりがないから」 「でも帰らないと」 「そうだな。報告もしなくてはいけないし」 交通機関の整った場所につくまでまだ歩く必要がある。 日が完全に落ちる前に、と全員が足早に歩き出した。 緑を冠する木々たちが、平和を取り戻した湿原を去っていく背中を見送る。 葉のさざめきを夕闇に響かせて。 やがて背中は遠のいていき逸話どおり妖精が現れそうな静けさが、辺りを包んだのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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