● 見た目はただの青い壺の中に、その奇妙な世界は広がっている。 青年の作った夢のお屋敷。 廃墟と化したかのような古い洋館の中は、異様な冷気が漂い、寒い。 青い瞳の青年は、その奥深くで王様として鎮座している。 誰にも触れられず、誰にも束縛されない自分。 そんな歪んだ妄想を抱きながら。 ● 「今回もまたアーティファクトの破壊をお願いしたい」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がリベリスタの皆に向け、言う。 「ものは壺。青い壺だ」 そして資料をめくり、テーブルの上に滑らせた。 「以前に赤い壺の破壊をお願いしたんだが、今回はそれの青い壺バージョンでね。これもまた一見すればただの青い壺なんだけれども、実はアーティファクトでその能力もまた同じ。すなわち、持つ者の邪念を吸い取り、その内部にバーチャル世界を作り出してしまうという能力を持っている。早急に破壊をお願いしたい所なんだけれども、この壺の中にも既に、アーティファクトに取り込まれノーフェイス化してしまった青年が存在する。そしてこの青年が存在し続ける限り、外部から破壊することは出来ない。つまり皆には、壺の中に入ってノーフェイスを討伐し、壺を破壊して貰わないといけない、というわけなんだ」 で、だ。 と、彼は話を続ける。 「壺の内部は、今回は古い洋館になっていてね。どういうわけか、精巧に作られた人形が沢山飾られているんだ。そして、異様に寒い。構造としては二階建で、青年ノーフェイスは二階の何処かの部屋に閉じこもってる。その部屋は鍵がないと開かない。そして鍵は、宝箱の中に入ってる。つまりは、鍵を探して宝箱を開けていかないといけないんだけど、フェイクなのか何なのか、幾つも宝箱が落ちてるらしいんだよね。鍵はその内の一つにしか入ってなくて、あとの残りからは、他の物が出てくる。何が出てくるかは開ける人次第ってことらしいんで、まあいろいろ頑張って。ただ、何が出て来たとしても、持ち帰ることは出来ないからね。それだけは忘れないで」 で、次に敵の情報だけどね。 伸暁はそう続け、資料のページを繰る。 「敵は青年ノーフェイスが一体だ。「青い魔王」と自ら名乗ってるらしいんで、今回もそう呼ばせて貰おう。青い魔王のフェーズは2だ。彼は自らの周りにある人形を操って攻撃してくる。人形のフェーズは1で、それが4体ほど出現する。どれも、手が伸びたり髪が伸びたりして、巻きついてきたり、目が飛び出してぶつかってきたりする。そうして青い魔王は人形に相手をさせておいて、自らは逃亡を図るんだ。だからそちらも注意しながら人形を倒さないといけない。でも青い魔王は、「人がいちゃいちゃしている光景」とかにだいぶ弱くてね。これは男女でも男子同士でも女子同士でもいいんだけど、とにかく人がいちゃいちゃしている光景を見ると、凄いダメージを受けるらしいんだよね。逃亡する気力も失っちゃう。しかも物理的に攻撃するよりも、そちらの方がダメージの効きが良いらしいから、そっちで何か作戦を考えてもいいかもね。まあ別に普通に倒してもいいけどさ。で、倒せば普通にバーチャル世界から戻って来られるからね。あとは壺を壊して終わり、というわけ」 と、そこまで言って伸暁は、「あ」とか何かを思い出したかのように、声を上げた。 「そうそうそれから、バーチャル世界の中では、服装とかがわりと自分の想像次第らしい。コスプレもご自由に、ってことかな」 そして何を考えてるのかは全く分からないけれど、どういうわけか、そこに居るリベリスタの皆をぼーっと眺めた。 「じゃあまあそういう感じで。後は任せたよ。よろしくね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月13日(木)23:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 目を開くとそこに、宝箱があった。 見るからにこれがああそうだよね、宝箱だよね、とでもいうような大きな箱が二つ、目の前にある。 アーベル・B・クラッセン(BNE003878)は、状況を整理するため、辺りを見回した。同時に、フォーチュナの言っていた言葉を思い出す。人形の飾られた古い洋館。そこにある人形と、廃墟と化した洋館の風情。なるほどどうやらここはもうバーチャル世界の中らしい、と検討がついた。 けれど、他の仲間の姿が見当たらない。 本来ならばここにはあと7人の仲間の姿があるはずで、それがないということはもしかしたら、自分は若干間違ってバーチャルっちゃったんじゃないか、という気がしなでもなかった。 また、目の前の宝箱を見る。 何が出てくるかはその人次第の宝箱。確か、そんな風にフォーチュナは言っていたはずで、けれど、その人次第って何だろーとか、そこはわりと引っ掛かった。その人にとって欲しいものが出てくるということなのか、あるいは欲しくない物が出てきちゃうとかなのか、むしろそういう事は全然関係なくて運次第って意味なのか。でもまーそれは何でもいいとしても、大体俺ってプレゼントとかで何か欲しいものあるかって聞かれてもすぐにぱっとは思い浮かべられなくて、ってゆーか時間かけてたとしても全然思いつかなくて、最終的には「何でも嬉しいよ」とか返して相手にめんどくせえなこいつって顔されるのが殆どだから、だから、だからって別にどーということもない。 まーいいや開けちゃえ。 そしたらその途端、内側から何かがにょきーっと生えてくるみたいにして、宝箱の中から飛び出してくる。 えー人形出てきたー。どーいうことー。 とか思って、良く良く見ると、それはあと7人居るはずの仲間の一人、『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)だった。 宝箱から出て来たわりに彼女は、びっくりするくらいうすーいリアクションで、はーそうですかーみたいに、ちょっとだけ辺りを見回し、それからぼーっとアーベルを見た。そんな何か見られたからには、じゃあ何か見るね、みたいにぼーっと見つめ返したけれど、良く良く見れば彼女の透き通るような茶色の恬淡な瞳は、こちらを見ているようでずっと遠くを見ているようでもあって、じゃあ一体何処を見ているのかと言えばあんまり分からない。 とにかく一つ言えることがあるとすれば、あれ何なのこの空気、ということだった。 とか思ってたら突然沙希が、ふらふらーっていうかそそそそーっと何か、まだ開いていない方の宝箱に歩み寄った。 そして内心ではこっそりと、可愛い男の子や女の子の膝骸骨が出て来ないかしらーとか思いながら、蓋を開くと、その中から突然。 「ここは、魔法使いが魔法について学ぶための魔法学園」 とか、ナレーションっぽい女性の声が突然、聞こえた。 いやどう考えても違うでしょう。と、沙希は覇気なく思った。どう考えても魔法学園ではないでしょう、むしろ青い魔王の居る洋館とかいうのでしょう、と。 その間にもぶわーっと何か良く分からないけれど虹のような帯がそこから伸び出し、壁にぶつかり、透明のモニター画面のように広がった。 映像が映し出される。 ●劇場版「とある魔法学園の一日」 その日、魔法学園の中にある寮のキッチンで、『ちょっとガサツな後輩』滝沢 美虎(BNE003973)は、先輩、『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)に渡すためのクッキーを作っていた。 辺りをぐっちゃぐちゃに散らかしつつも、鼻歌と共にはしゃいだ感じでくるん、と一回転。 次の材料を取り出そうと、大きな冷蔵庫をガッと勢い良く開いた。 中には、読書中の『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)が居た。 「あ、アルフォンソ先生……どうしてこんな所に居るのだ」 と、美虎は思わず、茫然と呟く。 「落ち着くんですよね、ここ」 賢者を想わせるローブ姿のアルフォンソ先生は、物凄いアンニュイな目でこちらを見つめて来た。「というわけで先生は、勉強中です。また後で出直して貰えますか」 凄い当然の事みたいに言われて、すっかり美虎は気押された。 魔法学園には、アッパーな人が多いのだった。 でもとりあえず、これは見なかったことにしてあげた方がいいかな、とか思って、美虎そのまま静かに冷蔵庫を閉めた。 「とにもかくにもクッキー作りなのだ! 先輩、喜んでくれるかなー」 「そう、ありがとう。とても、嬉しいわ」 って廊下で受け取った恵梨香は、全然嬉しさの伝わってこない棒読みで、言った。 けれどそんなぶっきらぼうな先輩には慣れっこの美虎は、俄然押せ押せで張り切るように声を上げた。 「後で一緒に食べるのだー!」 そんな二人の横を、『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)(魔法剣士科)が、金ラインが入った赤いコートの裾をばさ、とはためかせながら、通りかかる。通り過ぎ様、ちら、と二人の事を見た。 目が合うと若干追いつめられたようにぐ、と詰まった壱也が、 「他人のいちゃいちゃなんて全然羨ましくないよ!」 って何も言っていないのに、すかさず、言った。 そして。 「ね? 行きましょう! 先輩」 って満面の笑顔を浮かべ言った隣にはもちろん、誰も居ない。 つまりは、エアなのだった。 やっぱり魔法学園には、アッパーな人が多い。 その頃学園の保健室では、アークビショップ姿の保険医の先生、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が、黒と赤の燕尾服姿の『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)(魔法ネズミ科)の傷に包帯を巻いている所だった。 「はい、これで治療は終わりです。いくら授業と言ってももう無茶をしてはいけませんよ」 「はいッス。ありがとうッス」 リルはこくん、と手に巻かれた包帯を撫でながら頷いた。 「本当に分かってるんでしょうかね」 呆れているのか面白がっているのか、凛子先生は唇に薄っすらと笑みを浮かべる。 「ここのところは毎日ですよ? 良くもまあそんなに毎日怪我が出来るもんだと、先生は呆れます」 そしてそっと手を伸ばし、彼の頬の辺りに生えたネズミのヒゲをピッと引っ張った。 「あ、ヒゲは駄目ッス」 その手から逃れるように顔を逸らしたリルは、慌てたように机の上を指さす。むしろ、話題を変えられるなら何でもいいのだ、とでもいうように、「あ、あれはなにッスか! お弁当ッスか!」とか、言った。 興味もなさそうにそれを振り返った凛子は「そうですね」と小首を傾げる。 「今日はおにぎりを作ってみました。梅干し、鮭、おかかです。何ならご一緒にどうですか」 「あ、じゃあ折角ッスから鮭を貰っておくッス。腹が減ってはなんとやらッスしね」 ●インターバル 「という設定、ということです?」 宝箱からそこに出現し、映っていた映像の一部始終を眺めていた凛子が、患者の画像を眺める医師のような風情で、言った。そして、何をどう勘違いしたか、「最近のゲームは凄いんですね」とか何か呟き、「けれど保険医の先生ということならば、いつも通りスーツと白衣でも良さそうな気はしますね」と冷静に、むしろ冷静過ぎて逆に変なおかしみすら漂うような感想を、述べた。 「あと、セーブポイントは何処ですか」 「いやセーブポイントはきっとないッス」 見るに見かねたらしいリルがすかさず指摘をした。 「でもそういう意外と適応力の高い凛子さんは嫌いじゃないッス。あと、リルは魔法ネズミ科っていうのが何なのか凄い気になるッス」 「それを言うなら私などは冷蔵庫の中で本を読んでましたよ」 アルフォンソが、理解出来ない古代の人の生活習慣を見つけた学者みたいな風情で言った。「だいたい、冷蔵庫の中から出てくる、というのはどういうことなんでしょうか」 「んーな、どうせバーチャル世界のやる事なんだから、細かいことは気にしない気にしない!」 その背中を壱也が快濶にポン、と叩く。「わたしなんかエア恋人だよ、エア恋人、あははははは!」 「わー凄い笑ってるのに何でこんなに悲しそうなんだ……」 美虎が思わず、みたいに言った。 「ねえねえ」 そこでアーベルがのんびりと話に割り込んで来た。 「盛り上がってるところ申し訳ないんだけど、彼女が鍵を見つけたようだよ」 そして、無言で鍵を差し出している沙希を振り返る。 「確かこれで扉が開くんだったわよね」 恵梨香が注意深く鍵を観察しながら、呟いた。 「じゃあ、青い魔王とご対面と行こうか」 アーベルがまた、のんびりと言う。 ●青い魔王が現れた! 「またここは一段と廃墟感が半端ないなぁ」 魔王の部屋に入ると、感心するようにアーベルは辺りを見回した。 隅っこの方で蹲っていたノーフェイス「青い魔王」は、その声に、あるいはそれに続いて入って来た7人の足音に気付き、ハッとしたように立ち上がった。 「デテイケ……デテイケ……デテイケ……!」 仄暗い声で呻きながら両手を突き出すと、それに招かれるようにして人形達がぞろぞろと登場してくる。 「おっと」 すかさずコートの背中から重火器を取り出したアーベルは、それをぞろぞろと立ち向かってくる人形へと向ける。 標準を搾り引き金を引いた。 だだだだだ、と凄まじい音を立て、6砲身回転機関砲から、勢い良く弾丸が飛び出して行く。それが四体居る人形の内の二体を足止めしている間にも、「何かお買い物行ってきますー」くらいの勢いでふわーっと歩み出て来た沙希が、片方の着物の袖を押さえつつ覇気のない感じでマジックアローを発動する。 とか、わりと見た感じはやる気なさそーなのだけれど、よくよく見ればその唇は微かに微笑んでおり、内心では「可愛いお人形、魔矢でぶすっと穿ちましょー」とかわりと酷薄な事とか考えていたりして、「可愛いお人形の膝骸骨を穿ちましょー」ってやっぱり何処までも膝骸骨にこだわって考えていたりして、でも全く表には出さないので誰にもばれない。 「人形のブロック完了! しかし魔王が逃亡を図ろうとしています!」 更にその後方から、アルフォンソがチェイスカッターを放ちながら、戦況をアナウンスした。 「逃がさないぞー!」 はしばぶれーどを構えた壱也が魔王の前に立ち塞がる。「見よ! 壱也奥義! 脳内先輩とエアーいちゃこら」 とか何か言ったかと思うと、深く、一礼。 次に顔を上げた時には、そこには満面の笑顔を浮かべている。 「ふふ、せーんぱいっ! 今日はデートですねっ」 エア先輩の腕に、自らの腕をからめ、彼女はにこにことツインテールを揺らす。 「わあ、何だか凄く雰囲気のある洋館ですね! ……やだ先輩、急にそんな真面目な顔して、きょわいですよォ。え? 今日の服ですか。え? 可愛い? そ、そうですか……う、嬉しいです……えへへ。え? あ、足? ちょっと短かったかなあ……や、やだ先輩、恥ずかしいですっ」 彼女は両手で頬を押さえ、ふるふる、と首を振る。それに合わせてツインテールがふるふる、と揺れる。 「先輩、このあとは2人でゆっくりできるところ行きましょうね。カフェとか……先輩だいすきーえへへ」 「ぐあああ!」 「これは……これは凄い。何て虚しくも切ない光景なのでしょうか。楽しげにすればするほど、残念感が増します。私もきちんと直視できませんでした。しかし、青い魔王には確実にダメージを与えたようです。いろんな意味でいろんなダメージを与えたようです!」 と、一連の動向を観察していたアルフォンソが、状況をアナウンスした。 「えー何それ何それ面白そー。じゃあわたし解説やるね」 いそいそと出番を終えた壱也が、平然とした顔でアルフォンソの隣に並んだ。 そんな彼女をアルフォンソは、新種の生物に出遭ったような目で見る。 「何、その目。言っとくけど、これは必要だから、やったんだからね」 「それにしたって、凄いですね」 「くそー! 見えない奴が悪いんだー! 先輩はここにんだもん! 脳内嫁すら居ない魔王より、わたしの方がよっぽどまっしだもん! ほら、さっさと次の人! 次の人出てこいやー!」 「じゃあ次は美虎と恵梨香が行くのだ!」 先輩早く早くー! と凄い無の表情をした恵梨香を引っ張り出しながら、美虎が魔王の前に立ち塞がった。 そして、深く一礼。 「恵梨香と美虎のいちゃこら劇場」 次に顔を上げた瞬間には最早既に顔を真っ赤にした美虎が叫んだ。 「こういうのは恥ずかしがったら折れる! 退かず、惑わず大胆に行くぞ!」 恵梨香はこくん、と凄い真顔で従容と頷いた。 「よ、よし。じゃあ、せ、先輩! ちょっと魔法の手作りクッキーを作ってきたので食べろ!」 意外と可愛くラッピングされたクッキーの包みを、美虎はぶっきらぼうに突き出した。 「分かったわ。ありがとう」 ってそんな棒読みでいいんですか大丈夫ですか、くらいの棒読みで恵梨香が言い、もぐもぐ、と食べた。 で? みたいな顔で美虎を振り返る。 「む、そ、そんなちょっとぶっきらぼうな先輩が好きだぞ!」 「そう、ありがとう。アタシも貴女が好きよ」 「わーーーー! ど、どうだ、おいしいかー!」 「美味しいわね」 で? 「えっ、そ、そうか。それなら良かった。じゃ、じゃあ、あ、あーんとか」 ってそこで声を裏返らせ、こほん、と咳払いし、「あ、ああああ、あーんとか、やってみるかー!」って、明らか不自然なくらい勢い良く、言った。 あ、そうなの、くらいの感じでこくん、と恵梨香が頷く。 「えー!」 「えーって、え?」 「い、いや、それじゃあ。あの……先輩、あ、あーんして……」 「あー」 と素直すぎるくらいに素直に開いた口に、クッキーを意外とそっと、乗せる。 「ど、どうだ」 「そうね、美味しいわ」 で? 「ええええええ!」 「ええって、え?」 「だってこ、これ以上どうしろと!」 「見て、この攻撃は有効だわ。もう少しいけば、更に魔王にダメージを与えられる。大丈夫よ。アタシは逃亡阻止、任務成功の為であればいちゃつく内容は問わないわ」 ガーン。 「そ、そうか。そうだな。これも全て任務成功のためだな! 美虎、頑張れ! ファイトだ、自分!」 とか何か自分を励ました美虎は、クッキーの端をそっと咥えた。そして真っ赤な顔を突き出し、「ん、ん~~っ」 無表情にそれを見つめた恵梨香が、なるほどそのパターンね、くらいの調子でそっとその端を咥えた。 「わーーーーー!」 って目を開いた美虎は慌てふためき、凄い勢いで自分から距離を置く。 「え、恵梨香……なんかすっごいごめん……何か、ごめん。何だろう、ごめん。もう何かどうしたらいいか……ごめん」 そしてどんどんむしろ自分がダメージを受けたように落ち込んだ。 「ぐわあああああ! やめろやめろーーーー!!!」 そこに響く、魔王の悲鳴。 「なるほど。身を呈しての攻撃、魔王に相当のダメージを与えたようです」 すかさずアルフォンソが状況をアナウンスした。 「それにしてもまあ何というか……目の前でイチャイチャを見るというのは眼福というか目の毒というか、何ともはや。人目を気にせずイチャイチャ出来ることは、やはり若いということなのでしょうか? どうです、解説の羽柴さん」 「んーそうだねー。でもいちゃいちゃすると弱っちゃう魔王なんてあれだよねー。リア充爆発しろってやつかな。あっはっは、それもちょっとは分かる気もするけど。でもそんな引きこもってちゃ、いちゃいちゃなんてできないよ! って感じだよね」 「なるほど。人形の方も、アーベルさんと沙希さんが着実に倒していますが。そろそろ次はトドメになるでしょうか」 「では、ここは私達が行く感じです?」 凛子が場の空気を察知したように、リルを振り返る。 「いちゃつきに弱い魔王ッスか。メンタルの弱さがそのまま弱点なんスかね……」 「まあ、よくよく考えるとよくわかりませんけどね。ゲームですから仕方ないですかね」 「うんいやゲーム違うッスけどね。じゃあ、はい行くッス」 リルがパンと手を叩き、凛子が深く一礼。 次に顔を上げた時には、薄っすらと冷たい笑みを浮かべて。 「ふふっ、先ほど食べたご飯の粒が突いてますよ」 「あ、ほんとッスか。何処ッスか」 「とってあげますよ」 「あ、ヒゲは触っちゃ駄目ッス」 「さてリルさん。いちゃいちゃということですけど、どうしたものでしょうね?」 くるんとした大きな瞳を切れ長の瞳で見つめた凛子は、意味深に微笑む。 「リルさんが好きななでなでをしてあげるといいのでしょうか?」 「いいッスねー。なでられたりしたら、リルはゴロゴロと甘えるッスよー。なでられるのは好きッスし」 「そうですか。では、なでなで」 「いやー凛子さんはいい匂いがするッスねー」 と言いつつ、リルは物凄いドヤ顔で魔王をチラ見。 「ぐわあああああ! やめろやめろ、やめてくれーーーー!!!」 「あー確かに最後にこんな「これぞ」というような男女のいちゃつきを見せられては、魔王もひとたまりもないでしょうね。どうです、解説の羽柴さん」 「いやーこれは何だろ。ちょっと魔王に同情するよ」 「ですね」 そう頷くアルフォンソの隣では、沙希がそっと手を合わせ、そんな孤独な男「青い魔王」の魂の救いを祈っていた。 妄想の桃源郷、乙――と。 そうして青い魔王を成敗し現実世界に戻ったリベリスタ達は、青い壺を破壊し、任務を完了した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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