●夜闇に光る赤い瞳 「おっと……遅くなっちまったな。わははは」 酒に酔ったサラリーマン。おそらくは40代くらいだろうか。頭が少し禿げ上がってきたおじさんだ。ネクタイを緩ませた彼は、顔を赤らめつつ、千鳥足で歩いていく。 「お、どうした犬っころ達~」 そのサラリーマンは、家に帰る途中、路地裏で犬の群れを発見する。 「犬をハッ『ケン』であります。わははは!」 くだらない親父ギャグを自身で言って笑うサラリーマン。彼は気づいていなかった。その犬達の瞳の輝きが尋常ではないほど赤く染まっていたことに……。 「へ……ぐあっ!」 サラリーマンは笑っている最中、1匹の犬に首元を噛み付かれる。そして、もう1匹には腰を、そして、次の1匹には足を……。 「ぐああああっ!」 痛みで酔いが醒めるサラリーマン。噛み付かれた場所からは、おびただしいほどに血が流れ出ている。 怯える彼の前に、一際大きいブルドッグが彼の頭目掛けて大きな口を開く。彼は叫び声を上げたが……。それもすぐに止んでしまったのである……。 「……依頼を、お願いしたい」 どうやら、エリューションが現れたようだ。『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)が、リベリスタ達を集めて説明を始める。 「街にエリューションとなった野良犬達が現れたの」 彼女の説明はそっけない口調で続けられる。現れる野良犬は10匹。その中で1匹だけ大きなブルドッグが現れる。 「このブルドッグはフェーズ2。注意が必要」 ブルドッグには首輪がついている。おそらくはペットだったものが野良になったのだろうが……。そのブルドッグは人間を憎んでいるようで、自分達に近づく人間を片っ端からかみ殺しているのだそうだ。 その他の野良犬達はフェーズ1ではあるが、その牙で噛み付かれると、体に異常が出るようだ。できるだけ早めに倒しておきたい。 「皆の安心のために、駆除をお願い」 イヴは改めてリベリスタ達へと依頼する。リベリスタ達はこくりと頷いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:なちゅい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月27日(木)22:53 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●街を徘徊するエリューションビーストの捜索 静寂――。 日が暮れて夜闇に包まれると、騒がしい街並も静寂に支配される。 その夜闇の中で、エリューションビーストと化してしまった犬達を探し、彷徨う人影があった。依頼を遂行すべく街中を歩く、リベリスタ達である。 「……事情があるかもしれないとはいえ、動物が人を憎む姿を見るは忍びないのぅ」 『嘘つきピーターパン』冷泉・咲夜(BNE003164)は、今回ターゲットとなっている野良犬を不憫に思っていた。犬達は何か理由があって、エリューションビーストとなってしまったはずなのだ。 「人を襲うバケモノはいずれ退治される……世の中、そんなモンだぜ」 道端へと落ちている犬の痕跡を探す、『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)。彼はふと、野良犬達の境遇を考える。捨てた人間を恨む気持ちは分からなくもない……が。 「いずれにしても放っておくわけにはいきません。狩りをしましょう」 『下策士』門真 螢衣(BNE001036) は仲間に貰った地図を片手に、使い魔へと指示を飛ばす。そして、彼女は改めて意気込んだ。人に被害を及ぼすとあらば、リベリスタとして見逃すわけにはいかない。 3人は道中に残された犬の痕跡を探して、街中で怪しい場所の捜索を1つずつ行っていくのだった。 住宅街に当たりをつけて歩いているのは、『足らずの』晦 烏(BNE002858)と『フェイトストラーダ』ユイト・ウィン・オルランド(BNE003784)のペアだ。闇の中、視覚に頼ることができない二人は、懐中電灯で先を照らしながら歩いていく。 戦闘がほぼ間違いなく予想される今回の依頼。ユイトはこの手の依頼が久々だった。烏に貰った地図を握る手が少し強まる。 「うむ、気合入れて挑むでござる」 「それにしても、野良ブルドックなぁ……」 烏は煙草に火をつけ、煙をふかす。その上で、彼はしばし物思いに耽る。飼い犬が捨てられた末路が今回の野犬。身勝手に飼っていた犬を捨てる人間は、業深く始末に負えない生き物……。 「そう言う輩は噛み殺されても……って、こいつは失言だったか」 「……烏殿、そちらはどうだ?」 彼の独り言はユイトには聞こえていないようである。別方向を探していたユイトが、烏へと駆け寄ってきた。 「いや……」 烏は集音装置を使い、出来る限り周囲で起こる物音へと聞き耳を立てる。今のところ、それらしい物音を聞き取ることはできなかった。 もう1つの班もまた、野良犬の捜索を行う。『chalybs』神城・涼(BNE001343) がぼそりと呟く。 「野良犬のエリューションな」 彼は歩きながら、出来る限り物音を聞き逃さないように歩く。静まり返るその場所で、彼ら以外が立てる物音はほとんど聞こえてこない。 「野犬は飼い犬を捨てたことが原因の一つでもあるので、そのことに対しての恨みもあるかも知れませんね」 『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)は暗視を使い、闇の中で動くものを見逃さないように注意を払う。走り回るネズミや、飛び回るハエすら、彼の目は逃さない。 「ほんとはペットを捨てる飼い主が一番悪いし、可哀想だけど……。このまま放っておく事は出来ないよね」 『』羽柴 双葉(BNE003837) は懐中電灯を使い、ゴミ捨て場やゴミ箱の周りを丹念に調べていく。路地裏を重点的に調べる案は彼女が出したものだ。そして、双葉は電柱に見つけたマーキングの跡を発見する。 「これ……」 その跡はまだ新しい。この近辺を縄張りとする犬の存在があるということだ。その跡を調べようとしたその時、涼が自分達を取り囲む殺気に気づく。 「来たな……!」 孝平も双葉も同じく、それらに気づいたようだ。自分達の周りに赤い瞳が爛々と輝くのが分かる。3人はすでに目的の野良犬達の縄張りへと侵入してしまっていたらしい。孝平が周囲を見回すと、柴犬、秋田犬、そして、パグの姿が自分達の周りに散開していた。 「囲まれてしまったようですね……」 ゆっくりと歩み寄ってくる犬達。唸り声を上げるその顔は既に正気を失っている。そして、長く、鋭く伸びた牙が、一層野良犬達の狂気をあらわしていた。最後にどっしりとした体格のブルドッグが現れる。他の犬たちを従えるブルドッグはガウウと低い唸り声を上げた。 「皆に連絡を……!」 双葉は急いで、アクセス・ファンタズムを使って他の班のメンバーを呼び寄せる。しかしながら、ブルドッグの声を合図に駆け出した野良犬達は、敵を見定めたリベリスタ達へ向けて一斉に牙を向く! ●人に捨てられた者達 できるだけ全員集まってから戦いに臨みたいリベリスタ達。ただ、野良犬達はその到着を待つことはなく、こちらへと食らいついてくる。仕方なく、彼らは野良犬達へと応戦することにした。 「流石に舐めて痛い目を見るのは情けないからな!」 涼が自身の刀で、秋田犬の噛み付きを受け止めつつ叫ぶ。できるだけ防戦に回りつつ、呼び寄せた味方の到着を待つ。 「縛っちゃうよー!」 後ろに立つ双葉は自身の血液を鎖と化し、まっすぐに伸ばしていく! 直線状にいたパグ2体を黒鎖で縛り付けた。パグ達は鎖から逃れようともがくが、簡単には逃れられない。 トップスピードで戦闘準備を整えた孝平も、攻撃へと移る。彼は手前にいる野良犬達目掛け、残像を伴って攻撃を仕掛けた。高速で振るわれる彼の斬撃に、犬達は傷口から血を噴き出して身悶える。 だが、野良犬の数は圧倒的に多い。ブルドッグはにやりと微笑んでから唸るように吠えた。それに応じた秋田犬と柴犬が駆け出す。犬達は大口を開けて牙をむき出し、眼前のリベリスタへと思いっきり噛み付く。犬達の噛み付きを食らった涼が、激しく流血してしまう。 「野郎……!」 涼も反撃とばかりに、野良犬達に残像を伴うほどの速さで刀を振るい、斬りかかる。個々の犬達はさほど強さを感じはしない。すでに弱った犬も出始めていた。 そこへ、烏、ユイト組が合流する。ユイトは早速タクティクスアイで戦場を見渡し、状況の確認に努める。烏は暗視ゴーグルをつけ、煙草を吹かしたままで閃光を放った。神気による光が、近場にいるパグを焼いていく。パグ達も新手の存在を認識したようで、唸り声を上げて威嚇してくる。 「助かるよー」 双葉が仲間の到着を喜ぶも、前線を持たせてくれている2人を考えれば、悠長に出迎えるわけにもいかない。彼女は仲間達の立ち位置を確認し、4、5匹の犬の中心へと魔炎を召還する……! 「たーまやー!」 弾ける炎。それで爆発に巻き込まれ、意識を失う犬達。しかしながら、うまく着地したパグが、大きく口を開いて飛び掛ってきた。パグはユイトの腕へと思いっきり噛みつく。神経毒が彼の体を侵してしまう。 「く……」 見境がなくなったユイトは、閃光弾を投げつける。強烈な光が犬達の目をくらませた。しかしながら、それは近場の烏をも巻き込む。烏はそれに呻きながらも、抜き打ちの連射でパグの急所を狙い打つ。パグはがっくりと地へ伏せた。 「すまぬ、遅れたのじゃ」 そこへ到着した螢衣、咲夜、ヘキサ。咲夜は懐中電灯で戦場を照らす。その光は、ブルドッグを含め、野良犬達には少し眩しいようだ。 戦闘がすでに始まり、犬と戦う仲間の援護を図る。 「ウサギの牙だぜッ!」 遠目で、先ほどユイトが放ったフラッシュバンを確認していたヘキサ。彼は早速、少し距離の開いたパグ目掛け、鋭い蹴撃を放つ。巻き起こる竜巻が、パグの体を引き裂いてしまった。 すでに3匹のパグは地へと果てている。螢衣は次なる目標を秋田犬へと定めた。 「我が符より、一つ出て抉れ鴉」 螢衣の創り出した式神の鴉。それは一直線に秋田犬へと飛んでいく。すでに弱っていた秋田犬は、式神の鴉に体を貫かれてばったりと倒れてしまった。 グルルル……。 のっそりとしながらも、自分達の劣勢を感じて唸るブルドッグ。そいつは大きな口を開き、緑色に光る毒を牙から注入しようとしてくる。 「くっ……!」 孝平が食らいつかれまいとするのだが、力負けしてついにブルドッグに噛みつかれてしまう。彼の顔は見る見るうちに青ざめていった。 そこで、咲夜が呪印を何重にも展開していく。それは、ブルドッグを包みこむ。 「これで抑えられればいいのじゃが……」 しかしながら、ブルドッグは一声吠え、その束縛から逃れてしまう。さすがに、エリューションビースト達は。一筋縄では行く相手ではないようだった。 ●さまよう野良犬達の最後 さほど広くはない路地裏。この場所は、狭い場所で敵を個別に狙い打つことができるリベリスタ達へと有利に働く。 混乱を引き起こしていたユイト、そして、流血を起こす涼に毒に侵された孝平。彼らの姿を認めた咲夜は、彼らに向けて神々しい光を放つ。3人の体を蝕んでいた穢れを振り払い、その体を癒していく。 「敵はまだおる。頼むのじゃ」 咲夜は味方の援護へと回る。すでに傷が深くなる者も出始めていた。とりわけ、最初から前線で戦う孝平、涼の傷は深い。 「おん・ころころせんだり・まとげいに・そわか」 螢衣は1人1人、自身の傷癒術で回復を図る。多目に持ってきていた呪符はまだまだ残っていた。彼女は枚数を気にせず、次の傷つくメンバーの傷を癒す。 ただ、残る秋田犬も柴犬も、気性荒くリベリスタ達へと食らいつく。その波状攻撃は激しい。 しかしながら、リベリスタ達は各敵へと狙いを集中させ、1匹ずつ倒していく。秋田犬はすでに倒れ、柴犬も1匹、2匹と倒れていった。 「喰い千切られろォッ!」 3度目のヘキサが繰り出したかまいたち。それを食らった柴犬が体を真っ二つにされて息絶えた。これで残っている野良犬は……ブルドッグのみ。 ガルルルル……! 全力で威嚇するブルドッグ。狂気の目は、すでに犬のそれではない。目の前のリベリスタ達は、自分達の縄張りを侵す者、侵ス者、オカスモノ……! ブルドッグは全力でリベリスタを排除すべく、跳躍する。落下した場所にはユイトの姿があった。 「ぐっ!」 ブルドッグにのしかかられるユイト。体から嫌な音がする。あばら骨が何本か折れたのではないか。ディフェンサードクトリンを使っていたとはいえ、そのダメージは大きい。 そこへ、烏がブルドッグへと聖なる光を放つ! アオウゥゥ! その光は、ブルドッグの目を焼いた。ショックを受けたブルドッグはリベリスタ達の動きに対応できなくなってしまう。 その間に、咲夜がユイトの傷を癒す。 「助かるよ。ありがとう」 「うむ、もう一息じゃ」 ユイトはこくりと頷いてから、ブルドッグの至近距離へと迫る。そして、ライフルを構えて思いっきりブルドッグの眉間へとぶっ放す! 夜の街に鳴り響く銃声。しかし、ブルドッグは眉間から血を流しながらも、まだ倒れはしない。 「参ります。……覚悟を」 「これ以上は人を襲わせはしないぜ!」 孝平、涼が残る力を振り絞り、斬撃での連続攻撃を叩き込んでいくが、それでもブルドッグは倒れない。いまだこちらを食らいつこうと、攻撃の手を止めようとしなかった。 少し離れた双葉が構える。彼女は集中し、複数の魔方陣を展開する。それで自身の力を強めた双葉は、さらに自身の血液から創り出した鎖を伸ばす。それでブルドッグをがっちりと捕らえた! なんとか縛られた鎖から逃れようと抵抗を試みるブルドッグへ、ヘキサが迫る。 「ラッキーチャーム、ウサギの足1ダースってなぁ!!」 彼は出し惜しみなしに精一杯の力で、連続蹴りを繰り出していく。腹を幾度も蹴られ、血を吐き出すブルドッグ。ただ、トドメにはやや浅い。 「犬に星占いの結果を告知しても仕方がないのですが……。計都星と羅喉星のもたらす運命から、お前は逃れられません」 螢衣の取り出す札。それには、ブルドッグの行く末が占われていた。それの行く末は……。 「せめて楽に冥土へ逝きなさい」 ブルドッグの周囲を薄暗い影が覆う。影はブルドッグを飲み込む。影がゆっくりと消え去った後、そこには動かなくなったブルドッグの死体だけが残されていたのだった。 ●捨てられた者達に安らかな眠りを 再び、静寂を取り戻した夜の住宅街。 エリューションビースト達の殲滅には成功したものの、リベリスタ達も楽勝とはいかないようだった。傷つくメンバー達……。とりわけ前線で野良犬達に噛み付かれ続けた孝平、涼、ユイトの傷は深かった。螢衣、咲夜がその手当てにかかる。 「『弱い犬ほどよく吠える』っては良く言うが、こいつらが吠えるのは、助けを求める悲痛の声だったのだろうなぁ」 烏は新しく取り出した煙草へと火を点け、路地裏に転がる沢山の野良犬の死体を見下ろして言う。 双葉はそんな死体にむけ、手を合わせた。 「人間の勝手ばっかり押しつけちゃってごめん」 犬達は何を思い、死んでいったのか。犬達は、人間達に嫌気が差していたのかもしれない。縄張りを侵す人間達を排除しようとして、リベリスタ達へと襲い掛かってきたのだ。結果、返り討ちに合ってしまったわけだが……、それは犬達にとって望んだ死ではなかっただろう。 しばらくして、ヘキサが犬達についていた首輪を回収する。近くの寺へと持っていって、遺品の焚き上げを行いたいと言うのだ。 「せめて、そこでキチンと供養してやりてーよ」 彼の提案を皆了承する。皆もまた、エリューションビーストと化した可愛そうな犬達に同情していたのだ。 改めて、リベリスタ達は犬達の死を悼む。 恨み辛みを忘れ、安らかな眠りへとつかんことを――。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|