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明日もあなたの手を引いて

●再生、再生、再生、再生
「アーティファクトを、壊して」
 白の少女、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう告げた。
「判別名『エンドレスリピート』現在の所持者は渡部・望。彼女はアークには所属していないけれど、極少数名でエリューションの討伐等を行っていたリベリスタ。今回のアーティファクトも、その最中に手に入れた物と思われる」
 イヴの操作でモニターに映し出されたのは、蓄音機。恐らく最も有名な形状であろう、ラッパ状のホーンが付いたタイプだ。
「過去の一部分を再生するだけで、特に害は無さそうだという事で手元に置いておいたみたい。レトロっぽい雰囲気のインテリアとしては悪くなかっただろうし、ね」
 だが、イヴがここに呼んだという事はそれだけでは済まなかったという事。
 そう問うリベリスタに、イヴは軽く頷いた。
「ええ。彼女は気付かなかった。エンドレスリピートは過去を再生するだけじゃない。再生の際に、その記憶の持ち手から徐々に生気を奪っていく。おまけに、記憶に対する思い入れが強ければ強いほどそれに依存させ、意識を低下させる。再生させなければ落ち着かないように、中毒のように」
 薬のようなもの、と少女は唱う。

「彼女が再生させているのは、亡くした息子の声。エリューション襲撃の際、殺された息子の記憶。何事もなく家族で生きていた時に過ごした、何気ない会話。エンドレスリピートの傍に座って、記憶の中の息子と会話を続けている」
 例えば再生する記憶に似た状況を再び作り出せるのならば、依存は少なくて済むのだろう。
 リベリスタならば異常に気が付いて自身で破壊する事すらできたかも知れない。
 けれど、彼女の息子はもういない。
 記憶の中でしか会話できない。
 だから、理性が警告を発するよりも早く溺れてしまった。
「……彼女の精神状態は、酷く不安定。もう、エンドレスリピートを息子そのものと思い込んでいるような状態。恐らく、まともに説得しても聞いて貰えない。あなた達が壊そうとするならば、全力で敵対してくると思う。――そして、弱ってはいるけれど、あなた達より強い」
 戦う道を選んだのは、恨みだったのか、悲しみを絶つ為だったのか。
 ともかく運命と共に歩み、世界を守る決意をしたはずの彼女はそれを忘れた。
「傷付けないで破壊をするのは、無理。彼女は片時もエンドレスリピートの傍から離れない。仲間のリベリスタとも交流を絶ち、ずっと家に篭もっている。放置しておけば多分、死ぬまでそのまま」

 ――喪った記憶に浸ったままこの世を発つのは、悪い事だろうか。

 無意識の内に誰かが思った事。
 それを読んだかの様に、イヴはそっと頷いた。
「そう。彼女が死ぬまで放置しておけば破壊は容易。けれど、リベリスタの力を蓄えたアーティファクトが周囲の人や物品に大規模な革醒を促さないとも限らない。他の一般人やリベリスタを己に依存させないとも限らない」

「だから、すぐ。壊してきて」


 リベリスタ達は、モニターに映し出された光景を見た。
 アパートと思しき場所で、ダイニングテーブルに一人の女性が座っている。
 その場にいるのは一人だけだが、流れてくる音声は二人分。

『ねえ雄太、夕飯何がいい?』
『何でもいいー』
『もう、お父さんもあんたもそればっかり』
『お父さんはお母さんの作るものならなんでもいいって』
『……全くもう』

 少し機嫌を悪くしたように、それでも口端に隠しきれない笑みを浮かべる女性の指先が愛しげに撫でているのは、冷え切った金属の塊だった。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒歌鳥  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月12日(日)22:17
 今日も世界には旅立った誰かの歌う声が流れています。黒歌鳥です。

●目標
 アーティファクト『エンドレスリピート』の破壊。

●状況
 住居は判明していますが、アパートの3階から望は出てきません。
 日中に仕掛けるならば周辺部屋の住人は仕事や学校の為に不在となります。
 朝方や夜間等に仕掛けた場合、望の声や戦闘音で一般人が訪れる危険性が高いです。
 住人にとっては隣人や自分の住居に関わる事象で優先度が高いので、結界の効果も薄いと考えて下さい。
 8人が散開するには少々狭いので、前衛・後衛の差は殆どありません。

●敵
 ・アーティファクト『エンドレスリピート』
 攻撃方法は持ちません。耐久力はそこそこです。
 記憶の中の息子の声で鼓舞する事によって各種強化・回復を施します。

 ・渡部・望(わたべ・のぞみ)
 三十代半ば、ジーニアス×マグメイガス。
 彼女は立っている限り、エンドレスリピートに対する全ての攻撃をその身に受け止めます。
 特殊スキルは以下の通りです。
 ・許さない(全/怒り)

●備考
 望は他者との交流を絶ち、玄関のチャイムも切っています。
 エンドレスリピートの置いてあるリビングには、人の入れるサイズの窓はありません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
四鏡 ケイ(BNE000068)
マグメイガス
雪白 音羽(BNE000194)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ナイトクリーク
黒部 幸成(BNE002032)
プロアデプト
讀鳴・凛麗(BNE002155)
スターサジタリー
望月 嵐子(BNE002377)
プロアデプト
八雲 蒼夜(BNE002384)
スターサジタリー
中・裕仁(BNE002387)

●明日もあなたと一緒
 ね、雄太、明日はどこ散歩しようか。
 噴水のある公園? いいけど、まだ冷たいから水には入れないからね。
 ダーメ、風邪引くから。注射するよ? イタイイタイするよ?
 
 望は紡ぐ。来ない『明日』の話をする。
 彼女が『息子』をつれて外に出る日は、もう来ない。
 少なくとも、彼女が今会話している『息子』とは。
 
「喪った思い出に逃げた女、か。アークも無体な事を云う」
『チクタクマン』中・裕仁(BNE002387)はそう呟く。まるでそれが儀礼であるかの様に。
 運命という見えないものによって家族と引き裂かれたリベリスタはアークにも多い。だが、過去に囚われた人間に抱く感情は当然ながら様々に異なる。そしてどれが正しいとも言えない。
「ま、やらなきゃならないしね」
『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)はあっさり肩を竦めた。
 喪う事も奪う事も慣れている。そこに差し挟む感情はもう持っていない。
「な、なんとかして正気に戻したいですね……」
 恐らくは人間的な良心から漏れたのであろう言葉は、『コドモドラゴン』四鏡 ケイ(BNE000068)のもの。その隣で『シルバーストーム』楠神 風斗(BNE001434)はじっと考えている。
 子を失った母。母を失った子。立場は逆転すれど、望と彼の置かれた境遇は相似。
 自分が彼女になったらどうするか。どうなるか。仮定と推測しかできない。
『夜より暗い闇』八雲 蒼夜(BNE002384)にも家族はいない。
 だからこそ過去の幻に浸り切る彼女が許せない。現実から目を背け続けては、何より息子が浮かばれない。

 ――渡部殿は玄関を見てないで御座るな。
 ――そうですね。これなら開ける時に気付かれる心配はなさそうです。

 部屋の扉を解錠すべく向かっている『静かなる死の運び手』黒部 幸成(BNE002032)と『A-coupler』讀鳴・凛麗(BNE002155)が『見た』映像を伝え合った。
 凛麗はまだ、過去を振り返り懐かしむ程の年月を重ねていない。
 それでも過去が力と成りえる事は知っている。毒と薬の様に、表裏一体である事も。
 二人の目を通して伝えられた間取りは、他のリベリスタにも仔細逃さず伝達された。

 ――持って行く予定の部屋の鍵も忘れんなよ。
 ――無論で御座る。

 凛麗を中継し、雪白 音羽(BNE000194)の言葉が幸成に伝えられる。
 彼らはエンドレスリピートを引き離し、別の場所で破壊のみを行うつもりであった。
 一部屋開けて、望の住む隣の隣の部屋。
 エンドレスリピートの死に場所に選ばれたそこの扉を、幸成がまず解錠する。
 目だけではなく体も壁を抜けられる彼にとって、中から目撃する相手がいなければ容易い事。
 そう、誰もいなければ。
 次いで向かった、本丸とも言える望の部屋には彼女がいる。
 息を殺して、再び透視で中を見通した。会話に没頭しているのを確認し、手を伸ばす。

 かちゃり、という鍵を開ける音が、大きく聞こえた。

 が、望は振り向かない。
 安堵し仲間に手を振った彼は、そのまま足音を立てず上階へと走り去る。
 幸成の大切な役割はもう一つ。即ち、隙を見てのエンドレスリピートの奪取。
 彼の姿が見えなくなったのを確認し――残ったリベリスタ達は、静かに頷きあった。

●告げるは過去
「よ、よし……行きます……!」
 ケイが扉のノブを勢いよく回し、リビングへと突入する。
 続いて狭い室内に、一気にリベリスタは雪崩れ込んだ。
 目を見開いて望が立ち上がる。
「邪魔をする。貴女の幸せな時間を壊すのは心苦しいが」
 双方に緊張が走る最中も、変わらぬ裕仁の声が告げた。
「そろそろ夢から覚める時間らしいぜ?」 
「その鉄屑を処分しに来た」
 音羽と共に端的に告げた蒼夜の示した『鉄屑』の意味が分からない望は困惑しながらも、『息子』を護るべく睨み付ける。
 唐突に家に踏み込んできた闖入者たちに、望は『息子』を背に守るようにして立ち塞がった。
 目元は色濃い疲労を表していたが、動きは滑らかで隙がない。

 戦闘の気配を察知したのか、エンドレスリピートが望に語り掛けた。
『お母さん、頑張って!』
 子供特有の高さを持つ声。いつの記憶だったのだろう。
 日常の何気ない場所でかけられたはずの声は、今、異能を用いリベリスタと対峙する母を鼓舞する戦歌となっていた。
 望を巡る力が一層高まったのが、リベリスタ達にも伝わる。
「目を覚まして……!」
 両腕を振るい、捕らえるように放たれた可視の気糸。
 難なくかわした望は、リベリスタ達を睥睨する。
「……何の用なの……!」
 威嚇のつもりか、放たれたのは一発の弾丸。
 それは裕仁を撃ち抜き、耐性の弱い彼の体を毒で蝕んだ。それでも膝をつく程ではない。
「先程の通り」
「悪い……まずは吹っ飛ばさせてもらう」
 肩を竦めた裕仁の横から風斗が飛び出し、力を込めた一撃を見舞う。
 想定通り『息子』の前に立ちはだかった望はそれを避け切れなかったが、踏み締めた足は動かなかった。
 音羽の低い声が紡ぐ言葉は神秘を呼び、望と同じく内部の力を増す。嵐子はエンドレスリピートに狙いを定めるが、望がそれを許さない。正確無比の弾丸は、一瞬前までエンドレスリピートがあった所を見事に穿った。
 蒼夜はそんな望の動きを見、彼女の動きを記憶する。一挙手一投足を覚え、次の一撃を確実に当てる為に。裕仁は覚えない。ただ感覚と直感を研ぎ澄ます。信用するのは自身の感覚。獲物を狙う狩人の。
 戦況を窺い凛麗が癒しの光を放つ。裕仁の体を侵食していた悪素が消え、立てる時間を長く伸ばす。
 集中が必要な透視は叶わないが、上階にいる幸成が期を捉える事を願って、彼女は僅かに天井を仰いだ。

●響くは今
 無邪気な子供の声がする。
『お母さん、いけー!』
 頷く望は微かに笑んでいた。
 状況を有利と思っている訳ではなく、恐らくは『息子』を安心させる為の顔。
 一歩踏み出した彼女が、力を集めるその瞬間。
「今です……!」
 ケイの放った強力な糸が、望が振り解くまでの短い間、彼女の動きを止めた。
 それは上階で隙を窺っていた幸成にとって、充分過ぎる時間。
 床を抜け、音もなく階下に降り立った忍は速やかに目標を捕らえた。
 微かに動いた空気に気付き振り返った望が見たのは、幽霊の如く壁へと消える一人の青年と、彼が手に持った『息子』の姿。
 悲鳴と共に糸を振り払い、壁を叩くが彼女が抜けられるはずもなかった。
 扉へと走る音羽と嵐子を見止め続こうとするが、残るリベリスタが許さない。
 投げ捨てるように置かれた嵐子のラジカセが、大音量で軽快なロックを響かせた。

「雄太!」
 子を呼ぶ声は雷撃を呼び、リベリスタ達を打ち据える。
 マトモに食らった風斗は、それでも痺れる手で剣を投げ捨て望の前に立った。
「あれはあんたの息子じゃない、物だ!」
「あなたの子は、死んでるんです、よ……」
「息子さんを亡くした事は気の毒に思うが。愛息と鉄屑の区別も付かないのか?」
 ケイと蒼夜が引き継ぎ告げる。繰り返された蒼夜の鉄屑という言葉に困惑してテーブルへ視線を向けるが、そこにエンドレスリピートはない。
「何を言っているの、あの子は死んでない」
 虚ろな目とは吊り合わない力強さを持って、望は言った。
 相変わらず部屋には音楽が流れている。が、彼女には聞こえるのだろうか。子の声が。
 いや、それはエンドレスリピートが奏でる音ですらない、彼女の過去の音か。
「物に過ぎない、あんたを弱らせるだけのあれを息子の代用品にしていいのか!?」
 縋る様に風斗が叫ぶ。真っ直ぐに。
 だが。
 リベリスタを見据える望の目は、変わらない。
 彼女は笑った。嘲る訳でもなく、皮肉でもなく、ただ笑った。
「生きてるから、あんた達はあの子を連れてったんでしょ?」
「……現実を認めたくないにしても相当だな」
「過去に逃げるのは悪い事ではないが、ね」
 望が見ていたのは、物ではなく息子。先程まで語り掛けていた存在は、息子そのもの。
 幻を取り払う為に離された元凶の姿がこの場にない事は、皮肉にも彼女が現実の『息子』を直視する機会を削いだ。
 そして彼女の、上辺の冷静さも。
「退け。雄太に何かしたら、許さないから」
 顔から笑みが消え、細めた目が殺意を帯びる。
 今の望にとって過去は彼女を、そしてリベリスタを害する毒のまま。
 終わらない戦闘の気配に、凛麗は皆の消耗を減らすべく再度光を放った。

●望むは未来
 カーテンの下ろされた部屋に、幸成はエンドレスリピートを置いた。
『お母さん! お母さん!』
 叫び続ける子供の声が幸成の耳を打つ。
 エンドレスリピートは過去を再生する。再生者が望む限り何度でも。何度でも。何度でも。
 だが、これは本当の子供ですらない。そう知っている青年の表情は動かない。
 冷たく光る刃を振り下ろす。打っても血が出るはずもない、金属の塊。
 吹き飛ぶかと思う程に強く開かれた扉に顔を向ければ、音羽と嵐子が飛び込んできた。
 首を鳴らした音羽がエンドレスリピートを示す。
「よし、さっさと壊しちまおうぜ」
「あ、そういやそれ止められない?」
「駄目みたいで御座るね」
「うーん、これでも……駄目だ。あんま変わった気がしないや」
 嵐子がマフラーをホーンに突っ込むも、母を呼ぶ声は止まらない。
 とはいえ、ある程度想定していた事であったので三人は落胆も見せず速やかな破壊へと思考を切り替える。
 母を呼び続けているという事は、少なくとも現在自分たちが囚われる心配はない。
 憂いは一つ消えた。
 イヤホンを抜いた嵐子が、エンドレスリピートを撃つ。


 イヴは言っていた。望は強いと。それは紛れもない事実であった。
 荒れ狂う雷撃と燃え盛る炎はリベリスタの身を内と外から壊していった。
 狭い室内、散るに散れない状況で炎は複数を焦がす。
 炎に巻かれ蒼夜が倒れ、無数の雷撃に貫かれて幼い少女が床に伏した。
 肉が焼ける臭い。離れない痺れは容赦なく武器を握る手から力を奪っていく。
 凛麗が倒れた今、それを癒す術はなく、破壊に集中する仲間に危機を伝える術もない。
 雷撃は運命を削り立ち上がった裕仁をも、再び床と叩き付けた。
 分割して片手で足りる数となっていた人員を更に減らされ、押し切る力が不足する。
 ケイの一撃はエンドレスリピートの強化を打ち砕いたが、それは少々遅かった。
 守るものがこの部屋になくなった望は、攻撃を避けるのに躊躇いがない。

 部屋で立つ者が望一人になるまで、さして時間はかからなかった。

 酸鼻足る場と化した部屋を突っ切り、嵐子の置いたラジカセを踏み付け音を消し、望は『息子』の呼ぶ声を聞くべく耳を澄ます。
 その足にかかったのは、風斗の手。
「……頼む、あんたの本当の息子の為にも、目を覚ましてくれ」
 他人事と言うには余りに哀切を帯びた声音に、僅かに望の動きが止まる。
 何故か己に剣を向けなかった一人の少年の言葉に、瞳が揺れる。
 が、母を呼ぶ切羽詰った声が、風斗にも聞こえた。聞こえてしまった。
 望は弾けるようにそちらを向き、走り出す。
 弱った手は、彼女を引き留める事ができなかった。
 唇に新しい血を滲ませて、風斗は背を見送るしかない。
「……愛した者、愛してくれる者を喪ったと知った時。……彼女は何を選ぶのだろうね」
 傷口を押さえながら裕仁が絶え絶えに、だが平坦に呟いた言葉は、過去の話か未来の話か。
 どちらにせよ、彼に言う程の興味はないのだろう。
 彼らはその選択を見られない。

 倒れたリベリスタが祈り、或いは信じられるのは、仲間がエンドレスリピートを破壊してくれる事だけであった。

●明日はあなたのいない日を
 異常はすぐに、エンドレスリピートを破壊していた三人にも察せられる。
 先程まで聞こえてきた戦闘の音、そして嵐子が置き去った音楽が消えた。
「説得に耳を傾けてくれた……と信じたいで御座るが」
「……ちっと楽観的かね」
 台座にヒビを入れ、金属部分を大きく曲げながらエンドレスリピートはまだ叫んでいる。
 顔を見合わせた幸成と音羽の間、アーティファクトに嵐子が幾度目かの銃撃を叩き込んだ。
 あちらが終わったならばこちらも壊せば終わり、終わっていないとしてもアーティファクトは破壊しなければならない。
 駆け寄ってくる気配は一つ。それが何か分からない者はいない。
 二人が駆け込んできた時よりも強く、扉がひしゃげる勢いで蹴り開けられた。
 八つの視線が混ざり合う。
 望の視線を受けながら、力に変えた四色の光を音羽がエンドレスリピートへ集約させる。
 鮮やかな光は、エンドレスリピートのひびを広げ、ホーンを飛ばし――原形を留めない形で破壊した。

『おかあさん――!』

 その絶叫は、彼女が実際に聞いたものだったのだろうか。
 今際に子が自分を必死で呼ぶ声を聞いたのだろうか。
 望は目を見開いて、砕け散るエンドレスリピートへ手を伸ばした。
 届かなかった。
 呆けたように立ち尽くす望に、嵐子が警戒は解かないまま声を掛ける。
 もし、彼女が他の仲間の言葉で何かを得ていてくれたら、伝わるかも知れない。
「……ねえ。これはただの物だよ。本当に大切な息子と、こんなのを同一視したら失礼だよ」
「あんたは目の前が見えねーのか」
 壊れたエンドレスリピートに目線を落とし、望は呆然と立っている。
 が、緩やかにその顔が上げられた。

 三人が一斉に攻撃に備えるべく体勢を整える。
 その目は、現実を受け入れ歩き出す者の目ではなかった。
 空虚と憎悪、呪いと恨み。

「殺してやる」

 望の口から零れたのは、それらが混然とした雫。
 幻に囚われたまま、目前で二度目の『息子』の死を聞いた彼女が見たのは現実ではなかった。
 いや、彼女の現実である、『息子』を殺す理不尽な暴漢であった。
「お前ら皆、殺してやる」
 頬に涙を伝わせながら、母の慈しみを全て狂気へと変えた望が憎悪を投げ付ける。
 尋常ではない様子に構える三人を背に彼女は踵を返し、屋外の廊下から飛び降りた。
 覗き込めば、車のルーフを凹ませながらも着地した望が多少頼りない足取りで走り去る所であった。
「ちっ……!」
 音羽は空中から追跡しようと廊下の壁に足をかけ、まだ日が高く外には人目があるのに気付きそれを止める。
 駆けて追うにもここは望の生活圏内。地の利は圧倒的にあちらにあるのは明らかであった。
 分かれて探して、各個撃破などされたら無用な傷を負う。
 何より望がこの部屋に来たという事は、抑えの仲間が身動きの取れない状況に陥っているという事だ。
 会話するまでもなくそれらを読み取ったリベリスタ達は息を吐く。
 今必要なのは、仲間の手当てと事後処理の手続きだ。
 アーティファクトは破壊した。それは間違いない。

「……『母』を道連れて満足で御座るか」
 幸成が既に金属と木の残骸と化したエンドレスリピートに呟いた。

 エンドレスリピートは、もう何も語らない。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 アーティファクト『エンドレスリピート』は破壊されました。依頼成功です。
 説得は場合によっては多少有効でした。
 ただ、彼女の精神状態では『息子』を攫われた上で話を聞く余裕はありませんでした。
 また、回復のない状態で格上の相手に対し多くの戦力を減らすのは少々危険な手だったかと思います。
 ですが、作戦は求められた目標を充分に達成していました。
 彼女の運命の歯車とは、たまたま噛み合わなかっただけです。
 お疲れ様でした。