●ふたつの好奇心 友人たちを肝試しに誘ったマコト少年は、昼下がり、有名な肝試しスポットである古ぼけた神社の参道に下見として一人で訪れた。自転車で来られる距離だが、車通りはほとんどない山の中である。 肝試しコースは、駐車場兼駐輪場から100m程度の一直線の参道を歩き、鳥居で折り返して再び駐車場まで戻ってくるというものだ。 ――日が沈んでなくても、これだけ木が茂ってたら結構暗いもんだなぁ。 そんなことを考え、セミの声を聞きつつ鳥居まで歩を進めるマコトの視界に、奇妙な生き物が映った。 ――仔猫? 全身が真っ白い毛で覆われた仔猫に見えた。しかしマコトをまっすぐに見つめながら歩み寄ってくるその生き物は、猫と呼ぶにはあまりにも小さかった。ハムスターのような手のひらサイズ。それにその尾は通常の猫と形こそ同じものの、本数にして8本がうねうねと動いていた。 「お前、なんだ?」 マコトは、未知のものに対する恐怖心よりも興味関心の方が勝るほどの、大変に好奇心の強い少年だった。屈んだマコトに対してもまったく動じることなくちょこまかと近寄ってきたその生き物も同じようで、おもむろにマコトの膝に飛び乗った。 「人懐っこい猫だな、お前……」 マコトの言葉は遮られた。膝に乗った時と同じようにおもむろに、小さい身体からは考えられないほどの力で、猫がマコトの差し出した右手の親指付け根に深々と牙を突き刺したからだった。 ●残るは6本 「……それから、どうなった?」 撃破目標となるエリューションビーストの説明を一旦区切った『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)に、リベリスタの一人が質問を投げかける。イヴは少し間をおいて、簡潔に言った。 「噛まれて反射的に振ったマコトの腕が当たって、死んだ」 一同は顔を見合わせた。既に死んだ対象を殲滅しろと依頼してくるのはどういうことか。死んだ、という表現には語弊があるかもしれない。そう返しイヴが説明を再開した。 「マコトが鳥居を回って戻る時、猫の死体が消えて……代わりに、先の猫よりも一回り大きい、7本の尻尾を持った白猫が」 マコトに襲いかかった。命からがら逃げたが、ふくらはぎの肉を一部食いちぎられてしまった。それでもまだ通常の猫よりも身体の小さい存在であり……その後すぐ、野犬によって噛み殺されたという。 「でもその野犬はすぐ後に、逆に狩られた」 普通の猫よりも少し小さい程度の、6本の尻尾を持った白猫によって。体格的には野犬の方が断然大きかったにも関わらず。 「死んだ、殺されたという言い方は正しくないかも。このエリューションにとってはそれらはあくまでも疑似的なもの……要するに、本当に『死んだ』『滅んだ』わけじゃないみたい」 マコトに襲いかかった2種類の猫、そして野犬を狩った猫はすべて同一のE.ビーストである。最初の姿は小さく弱かったが、致死ダメージを受けるたび、強化され復活する特性をもつ。反射神経に優れた敏捷な身体能力と、鋭い爪と牙。特筆するべき能力はないが単純な、それゆえに強力な戦闘能力を持つ。 「復活するたびに尻尾の数が減っているのは……何か関係があるはず」 肝試しは中止になったようで、一般人の介入を気にすることなく戦闘に集中できる。今はE.ビーストには参道付近の林から出ようとする動きはないが、このような存在を町に出すわけにはいかない。これの完全な撃破が目的となる。 「気をつけて。好奇心が強い半面学習能力が高いから……同じ攻撃は通じにくくなると思う」 リベリスタ達は、力強く頷いて立ち上がった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:クロミツ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月19日(水)22:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●猫をも殺す、好奇心 8月末日のまだ明るい時間帯。山中の古びた神社の駐車場に人影が集まる光景は、普段は見られない。住宅街から離れた古ぼけた小さな神社だ。近隣に何の施設も存在しないばかりか、街灯設備すらまともに整備されていないことが、より一層人を遠ざけるらしい。ここへ参拝に訪れる者は少なく、むしろ学生をはじめとした若者たちから「肝試しスポット」として認知されている始末だった。 しかし今駐車場に集う8人は、化け猫を退治するべく集結したリベリスタ達である。各々周囲に視線を巡らせ、撃破目標となる白猫を探していた。 「何回蘇るのかはっきり分からないのが気にかかりますね」 落ち着いた語り口で小鳥遊・茉莉(BNE002647)が発した言葉に、一同は顔をしかめて頷いた。致死ダメージを受けても復活し、そのたびに減る尻尾の数。おそらく「尻尾の本数が残りの復活回数を示している」ことが、リベリスタ達共通の認識。 「猫に九生あり、って言葉はありますけど」 『羊系男子』綿谷 光介(BNE003658)は言いながら、もこもことした髪を揺らしながら周囲を見渡す。猫には沢山の命があり、9回も生まれ変われるという迷信がある。 「最初に姿を見せた8本尻尾の段階で、一度致死ダメージを受けているかどうかが分かれ目になるか」 ガスマスクのせいでくぐもりがちな声で『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)が腕組みして言った。 「やっぱり、ちょっと心苦しい物があるわね」 木々に光が遮られ薄暗い周囲を水色の瞳で見渡しながら言うのは『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)。愛猫と暮らしている彼女としては、エリューションとはいえ猫の姿をした敵を倒すのに抵抗が無いわけではない。無論、だからといって容赦はしないが。 「ねーこさんこーちら、っと」 光介がお守りの鈴を鳴らす。旺盛な好奇心に訴えかけ、誘い出す計画だ。そしてミュゼーヌは取り出した猫じゃらしを垂らして軽く揺らす。猫を誘い出す役目を請け負っているのは、この二人のほかに。 「ピ~ヨコロピ~ヨコロ……イケメンなインコが来たゾ~」 独特な声で呼びかけつつ『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)が自らのカラフルな羽を飛ばす。オレンジ色の羽は、深緑の中では抜群の存在感を放ちながら風に乗ってくるくると舞う。 「茂みの中に隠れていても、舞っているカイさんの羽が目に付けば出てくる可能性は大きいですね」 風見 七花(BNE003013)は羽の行方を目で追いつつも、白い影を探していた。白毛の猫が食いつくのは光介の鈴か、ミュゼーヌの猫じゃらしか、それともカイの羽か。雑木林、参道、そして今まさに一同が立っている駐車場……全員の視線が、網のように隙間なく周囲へと張り巡らされ……。 「にゃー」 ミュゼーヌの足元から、聞こえた。視線を落とした彼女の目に映ったのは、紛れも無い、6本尻尾の白猫だった。身体の小ささも手伝って、見事に全員の視線をかいくぐってたどり着き、ミュゼーヌがゆらゆらと揺らしている猫じゃらしを叩こうとピョコピョコ飛び跳ねていたのである。 愛らしいその姿に、リベリスタたちの気は一瞬緩みかけたが、飛び上がった白猫が右前足の爪を「ひゅん」と風切り音が鳴るほどの速度で振るうと同時にプラスチックでできた猫じゃらしの柄を真っ二つに切り落としたことでその気分も吹き飛んだ。 猫が着地する瞬間に、何発もの弾丸がその小さな身体を正確に無慈悲に貫く。隆明のフィンガーバレットによって、猫はその場に崩れ落ち消滅した。あっけないほど簡単に倒れたが、すぐに復活してくる。リベリスタたちは10秒の間に素早く陣形を整えた。 「手間のかかりそうな敵ですが、捨て置くわけにもいきません。アークの剣として、全力で当たらせていただきます」 『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)が愛用する長剣「白鳥乃羽々」を抜剣して呟いた。駐車場で接敵できたため、戦闘のための空間は十分に確保できた。参道の側へ進み出るミュゼーヌ、七花、隆明、佳恋。反対方向、つまり彼らがやってきた方向を警戒するカイ、茉莉、光介。7人が円系に外側を向き陣取り、どの方向に再出現しても対応できる陣形を整えた。そして、中央にはもう1人。 「出ました!ボクの正面ですっ」 通常の成猫よりも一回りほど大きいサイズになった5本尻尾の白猫が、虚空から現れ音もなく着地し、リベリスタたちを凝視していた。集音装置でいち早く察知した光介の声に、皆が素早く反応する。中でも最も迅速に動くのは、中央に陣取っていた御巫装束姿の少女。 「オイタが過ぎるのでございますよ化け猫殿。一万吉愛音、愛を持って参るでございます!」 光介をブロックするように飛び出しながら『愛の一文字』一万吉・愛音(BNE003975)が猫に言い放つ。猫もリベリスタを敵だと認識したらしく、毛を逆立ててフーッと唸る。かくして、戦いの火蓋は切って落とされた。 ●進歩の条件、好奇心 肉をあっさりと食いちぎる鋭い牙をむき、プラスチックも切断できる爪を前足から出し、一直線に突っ込んでくる白猫。 「来ます!」 「準備は万端、任せてくださいでございます!」 七花の声に力強く応えた愛音は、自身の正面に大きな盾を構えた。十分に加速したことで制動がきかなかったためか、はたまた金色の『愛』の字が大きく描かれたその派手な盾に興味を惹かれて他の行動がおろそかになったせいか、エリューションは正面から思い切り盾にぶち当たった。「がぃん」と大きな衝撃音が響くとともに白猫の身体が後方に跳ね返されたが、既に侮れない力。 「もう一回、食らっとくか!」 空中でくるりと回転して体勢を整え滑りながら着地した猫に隆明が銃口を向ける。火薬の炸裂する音とともに一直線に飛来した銃弾は、素早く大きく後方に跳んだエリューションを捉えられなかった。しかし、フィンガーバレットの銃弾を回避するため宙に跳び上がっていた彼の身体を、すぐさま一条の光弾、スターライトシュートが貫いた。 「無闇矢鱈に跳んだら、却って隙になるわよ?化け猫さん」 ミュゼーヌが愛用のリボルバーマスケットをくるりと回す間に、猫は更に後方へと跳ね飛ばされた。光弾に貫かれたその身体は、リベリスタたちから離れたところに落下し、飛ばされた勢いのままごろごろと地面を転がり、やがて動かなくなった。 「距離が離れた以上、次の復活ポイントは私達から一番離れたところ……と考えるのが妥当ですね!」 煙のように猫の姿が消滅したのを見届けた七花はそう言うと、素早く駆けた。エリューションの落下地点は、彼らがやってきた道路の側。万が一にも街の方へ向かわせるわけにはいかないため、進路を塞がなければならない。ミュゼーヌ、カイ、佳恋、隆明が七花に続き、光介と茉莉、愛音が更に後方で体勢を整える。敵の能力は強化されてゆく。こちらもそろそろ自分たちを強化する必要があった。 駐車場の出入口近くに猫が再出現した。尻尾を4本に減らした彼は、体つきは猫そのものながら、今度は中型犬並の大きさになっていた。 復活した猫は即座に回れ右し、道路へと一目散にかけ出した。離脱する算段だったようだが、先読みした七花の行動の方がわずかに早かった。立ち塞がる七花を睨み、爪で引き裂こうと飛びかかったが、その爪が届く前に、魔力を纏った刃の一閃を肩口に受け弾かれた。 傷口から血を溢れさせながらもしっかと着地したエリューションが体勢を整える間もなく、魔力弾が連続で襲いかかって炸裂し、土煙を巻き上げた。後方から茉莉が放ったマジックミサイルであった。一瞬、白猫の姿が完全に隠れる。 「生命力も、強化されるようですね」 佳恋が目を曇らせ言った通り、土煙が収まり姿を見せたエリューションは、まだ倒れていなかった。当初の可愛らしい容貌はすでに影をひそめ、目を殺意で満たし、ギラギラと光らせている。ダメージは確実に蓄積したようで、間合いを詰めた彼女が上段から振り下ろした長剣の一撃でその場に伏し、またしても消滅した。 リベリスタたちは再度集まり、短い時間の中で最大限の準備を整える。駐車場から出られる心配はなくなったものの、今度は不意打ちを受けないように注意しなければ。 「光介さん、そっちよ!」 「またボクの正面です!」 3本尻尾になって復活したエリューションの位置を、ミュゼーヌと光介がいち早く把握した。大型犬を思わせる大きさにまでなった彼は、もはや猫のそれではない唸り声をあげまたしても飛びかかってきた。標的は、光介であった。 「通さないのでございます! 愛音の目が黒いうちは……!?」 光介の前に躍り出た愛音が再び構えた盾を、猫は一直線の突撃から急制動で避けた。するりと盾の右を通り過ぎざま、左前足を「ひゅっ」と振った。次の瞬間、愛音の左腕にぱっくりと深い切り傷が刻まれた。エリューションの爪が一瞬、長剣のような長さに伸びたのである。愛音があらかじめ守護結界を発動していなければ、それ以上に、一瞬の判断で彼女が身体を捻って回避行動をとっていなければ、左腕そのものを持っていかれたかもしれなかった。 愛音との攻防の一瞬の隙に、カイと隆明も進み出ていた。至近距離から眉間を狙って放たれた隆明の弾丸は、エリューションが頭をひねることで直撃は避けたものの首の付根に命中した。致死ダメージにはまだまだ届かず、痛みにも動きを止めようとしないエリューションだったが、隆明と同時に飛び出したカイに視線を向けたところで、一瞬動きが鈍った。 「イケメンインコの一撃なのダ」 それはカイの身体……とりわけ、魔力杖を持った腕の筋肉が肥大化していたことに起因し、同時にそれが命取りになった。次の瞬間、ヘビースマッシュの一撃が完全にエリューションの背を捉え、その背骨をへし折ったのである。 「世界を護るLOVE! 受けてみるのでございます!」 左腕をかばいながらも、まったく気力を落とさない愛音の力強い叫びとともに、道力を纏った剣が次々と倒れたエリューションに突き刺さった。 ●過ぎたるは、及ばざるが如し 「敵は、攻撃の性質より武器そのものの形状を警戒の判断基準にしています」 エリューションが消滅したインターバルの間に、七花がエネミースキャンの結果を一同に伝えた。最初にフィンガーバレットを警戒するようになったエリューションだったが、同じ弾丸を発射する武器でも、形状がまったく異るリボルバーマスケットに対しては、撃たれるまでまったく警戒をしていなかったことからも頷ける。そして佳恋が口にした言葉は、リベリスタ全員の気持ちでもあった。 「これ以上色々と覚えられると対処が面倒です、手数少なく、一気に倒しましょう」 尻尾が2本になった白猫、いや既に「猫」と表現できるものではない、トラのような獣が現れた。猫らしいプロポーションすら無くなり、胸、肩、前脚にかけての筋肉が一回り以上膨れ上がった異形の姿になっていた。逃げるという選択肢はないようで、ゆっくり品定めするようにリベリスタたち一人ひとりに視線を向けた。そして、左腕を負傷した愛音を見たところで、視線を固定した。意図を察知した前衛の5人が壁になるように進み出たのと、のし、のし、とエリューションが歩き出したのは、ほぼ同時。 隆明とミュゼーヌが同時に放った銃弾を先までと同様に回避しようとしたエリューションだったが、一瞬出遅れたのか回避に至らず、両肩にまともに銃弾を受けることとなった。弾丸は確かに彼の悪を突き破り体内に深々とめり込んだが、まるで意に介さない。改めて悠然と向かってきた。 カイが再び間合いを詰め再びヘビースマッシュを繰り出すが、振り上げた右前脚にガードされたかと思うと次の瞬間、丸太のような前足が、鋭い爪ごとカイの腹にめりめりと食い込み、肉が裂け骨の砕ける音が鈍く響いた。恐ろしい勢いで繰り出された擬似ヘビースマッシュによって、為す術なくはるか後方に吹き飛ばされてしまった。その身体が地面に叩きつけられ無残に転がった。 ゆっくりと下ろされるエリューションの右前足に、佳恋の全闘気を込めた長剣の一撃が振り下ろされた。一刀両断。頑丈な前脚がエリューションの身体から離れ、音を立てて地面に落ちた。次の一撃を繰り出さんとした佳恋だったが、怒りに任せて振り上げたエリューションの左前足が運悪く横腹を捉えた。身体が真っ二つにされそうな程の力に、佳恋はカイと同様軽々と吹き飛ばされ、硬い地面に叩きつけられた。 二人を倒しながらも痛みに怒り狂うエリューション。しかしその怒りを発散する機会には恵まれなかった。足下から突如発生した魔炎に飲み込まれたからである。初めて味わう炎の熱に悶え苦しみながら抜けだそうと試みた彼の眉間に、寸分の狂いなく飛来した魔力の矢が突き刺さった。前衛陣が注意を引きつけたおかげで、茉莉のフレアバーストと光介のマジックアローが、的確に、致命的なダメージを与えたのである。 倒れて消滅したエリューションを尻目に、すぐさま光介が聖神の息吹の詠唱を開始した。愛音は腕を庇いながらも立ち上がり、ブロードソードを握りしめる。茉莉は自身の周囲に複数の魔方陣を展開する。ミュゼーヌ、七花、隆明は来るべき戦いに向け、今一度体勢を整えた。 地響きを立て、真っ白な、1本の尻尾を持った巨大な化け猫が6人の前に現れた。そのサイズは既に見上げるほど。顔かたちこそ猫の面影を残すが、体つきはまったくの別物だった。ただでさえ上半身の筋肉が異常発達したトラのようだった先程の姿から、更に倍以上に腹から上を肥大化させた、正真正銘の怪物。血のように赤い目を見開き、リベリスタたちを見下ろしていた。 隆明とミュゼーヌが即座に銃口を向けた。前脚を狙ったバウンティショットと、額を狙った1$シュート。それは当てることは目的としない、あくまでも相手に回避運動を取らせて隙を作る牽制目的の攻撃であった。自分たちでもそう認識していただけに、その結果は驚くべきものとなった。 直撃したのである。 さほどのダメージになっているようには見えない。しかし、弾丸は回避されることなく、二人が狙った通りの部位に命中した。エリューションは回避行動を取らなかった。攻撃を完全に把握していたにもかかわらず。 「避けるまでもないということですか? それとも……」 敵の行動に引っかかるものを覚えた茉莉が、マジックミサイルを相手の顔面めがけて放った。これまでの行動パターンから考察するに、一度受けた攻撃である以上、回避行動を取るはずであった。しかし、当たった。前脚でガードすることで顔面直撃を防御したものの、その場を動いて回避しようとしなかった。 「もしかして、まともに動けなくなったのでございますか?」 愛音の言葉が、まさにエリューションの状態を表していた。頭部、肩、胸、前脚の異常発達。その一方で、腹から後脚、臀部は、並のトラどころかヒョウのような細さ。そう、彼は身体のバランスを完全に崩していた。これまでに彼が模倣した攻撃は、剣での攻撃をはじめ、ヘビースマッシュなどいずれも腕部を介して繰り出されるものばかり。好奇心のまま、学習本能の囁くままにそれらを模倣・進化し続けた結果、彼は動物としての生存に必要な、正常な体機能を失っていた。 「これなら、前脚と噛み付きのリーチに入らなければ!」 七花と茉莉が同時に、頭上に巨大な黒い魔力の大鎌を呼び出した。危険を察知したのかのろのろと動こうとしたエリューションだったが、そうする間に隆明のバウンティショットによって後脚を撃ちぬかれ、移動手段を失ったも同然の状態に陥った。 「神秘の技こそマグメイガスの華。その身にとくと味わってください」 2つのマグスメッシスが回転しながら飛び、エリューションの脚を、肩を、胸を、首を、容赦なく蹂躙した。体中から血を噴き出してふらつくエリューションは、もはや隙だらけ。 「何も知らなければ、幸せに暮らせたかもしれないのにナ……!」 ボロボロになりながらも精神力を振り絞って立ち上がったカイが、がら空きのボディに会心のヘビースマッシュを叩き込んだ。崩れ落ちるエリューションに潰されないよう、駆け寄った愛音がカイを引っ張り離れる。そして倒れたエリューションの額に、大上段に振り上げられたミュゼーヌの機械の足が落とされた。 「化猫の怪談は……これでおしまいよ!」 これだけの攻撃を受けて無事でいられるはずもない。血の混じった泡を吐き、虫の息となった彼のもとに歩み寄り、よろめきながらも長剣にすべての闘気を込める佳恋。全身全霊の一撃は、化け猫の息の根を完全に止めた。 白い仔猫だった巨大なものはその後、消滅も、復活も、しなかった。 エリューションの死体の処理はアークに任せ、リベリスタたちは帰路についた。 「光介さん、回復をありがとうございました」 「おかげで、最後に一撃くれてやれたヨ」 「それでもまだ怪我は残ってますし、お二人とも、ゆっくり休んでくださいね」 「お腹すいたでございます~!」 カイたちの会話に割り込んだ、それまでの緊迫感が一気に解かれるような愛音の言葉に思わず声を出して笑いながら、リベリスタたちは激しい戦闘の傷跡も生々しい戦場から、日常へと戻っていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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