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独り虚ろに


「今回の依頼はエリューション5体の討伐です」
 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)はそう言って、正面モニターの表示を切り替える。仲睦まじく団らんする家族の姿が見えた。そこだけに焦点を当てるならば、平凡な日常を切り取った一風景に過ぎないだろう。
 だが彼らがいるのは草が茫茫と生えた夜の空き地であった。街灯によって照らし出される彼らの様子は、とてもその場所に似つかわしいものではなかった。それは通常民家の居間や、昼の公園で行われるものに違いない。彼らの中心に位置する女性の壊れた笑顔が、その状況の異常性を増幅する。
「ノーフェイス『千原 彩芽』。つい最近この場所に住み着いたノーフェイスです。彼女は、自身の家族だった4人の人間を、自分の思念からエリューション・フォースとして生み出しました。そうして彼らは、ここに住み着いているのです」
「仲睦まじい家族だったんだろうな。ノーフェイスになっても、一緒にいたいと願うなんてさ」
 リベリスタが言った言葉に、和泉は黙って首を横に振る。
「逆、なのです」
「逆?」
「千原彩芽は、家族全員に嫌われていた」
 どういう事情がその家族にあったのかは定かではない。しかしただひたすらに、彩芽が家族全員の嫌悪の対象となっていたのは、紛れもない事実であった。彼女には罵詈雑言が日常的に浴びせられ、暴力が平然と振るわれた。彼女はそれに耐えた。出来うる限りに平気を装って耐えた。その時は、その環境が彼女の世界の全てであったから。だがそれを受け入れ続けることは、着実に彼女の心を壊していった。その崩壊が、彼女が理性を保ちうる極限を超えた時、彼女はふとこう思った。
 こんなものが家族であっていいはずがない。
 そう思った時、彼女はノーフェイスとなった。そうして得た力で、家族であったはずのものを全て、壊した。壊し尽くした。もう家族でなくなったものの肉片だけを残して彼女は消えた。
 そして場所を移し、彼女は思念する。私の望んでいた家族、それがどんなものであるべきか。どんなものであって欲しかったか。それは彼女が強く思念したが故に、彼女が世界に与え得る影響を以て実現された。
 新しい場所で、理想の家族を得たのだ。彼女がもはや人ではないことは、彼女に何の関係もなかったのだ。
「エリューションというだけで彼らを倒す十分な理由となります。彼女の力は徐々に強くなりつつあります。手早い対処をどうか、よろしくお願いします」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:天夜 薄  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年09月14日(金)23:24
 天夜薄です。

●依頼達成条件
・エリューション5体の討伐

●エリューション
 いずれもフェーズ2で、人間の形をしています。

ノーフェイス『千原 彩芽』
 ヒステリック :神遠全・BS石化・呪い
 我慢 :神自・付与・リジェネレート・反
 慈悲 :神近味全・回復スキル

エリューション・フォース
『敏行』
 彩芽の夫。
 前衛で殴打(物近単・ノックバック・BS隙)を主体として攻撃する。

『要』
 彩芽の息子。
 前衛で蹴撃(物遠単・ブレイク)を主体として攻撃する。

『梓』
 彩芽の娘。
 後衛で神秘の波動による攻撃(神遠範・BS雷陣・不吉)を主体とする。

『透』
 彩芽の息子。
 後衛で神秘の矢による攻撃(神遠複・BSショック)を主体とする。

●状況
 とある空き地。夜間。街灯により、戦闘に支障のない程度には灯りがあります。それほど人通りの多い場所ではありません。
 戦闘スペースは十分にあり、また行動を阻害する物質はありません。エリューションは空き地の中央におり、リベリスタ・エリューション共々、攻撃の射程範囲外で双方の存在を認識することが出来ます。

 では、よろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
インヤンマスター
風宮 紫月(BNE003411)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)
プロアデプト
御厨 麻奈(BNE003642)
ホーリーメイガス
石動 麻衣(BNE003692)
レイザータクト
神葬 陸駆(BNE004022)


 黒い。黒い。夜に染まる空。点在する街灯の照らさぬ地表。吐き気を催すような人外のママゴト。黒い。だが、白い。彼女は、彩芽は、白い。彼女の目に映るは紛れなき幸福。現実を虐殺して得た虚偽でありながら。実物を破壊して創造した妄想でありながら。それはもはや真実としてそこにある。新しい家族。幻想の家族。
 けれども、堪え難い現実を壊してまで家族の存在を貫く意義は、果たして何処にあるだろう。ならばいっそ、と『√3』一条・玄弥(BNE003422)は歪んだ笑みを零す。血の繋がり。家族の絆。キレイゴトなどという幻想は、叩き潰してしまえばよかったのではないか。全ての人間が、それを容易にできるわけではないことを知りながらも。
「ほな、ごっこ遊びの片付けをしやすかねぇ」
 壊して、作り直して。子供の遊びに似たそれをして成した幸せに、彼女は満足しているのだろうか。『祈りの弾丸』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)に答えはない。それは彼女の考える理想の体現だ。偽りであっても、きっと生前からの救いにはなっているのだろう。けれどその偽りは、世界を汚すものだ。偽りを正すことが彼女の幸せを奪う行為だとしても、世界のためにそれを成さねばなるまい。『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)も彼女に同情すれど、決してそれを許容することはない。作り上げられた都合のいい現実は、彼女の最後の希望、逃げ道である。それが世界に仇なすものでなければ、きっと彼女は幸せであり続けられただろうに。
「理想的な家族という幻想ごと、なくしてあげます」
 そもそもは彼女が生前不幸であったことに端を発する。暴力。暴言。振りかけられる圧力が彼女を壊した。家族に必要とされないことは哀しいものだ。『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は己が身を鑑みて、思う。一方で『他力本願』御厨 麻奈(BNE003642)は母親を傷つけるということが、理解できない。それはきっと彼女に取って残忍極まりない行為であるに違いない。
 けれど、どんな境遇であったとして、こうなった以上は止めなければならない。麻奈は気持ちを引き締める。影継の刃に迷いはない。リリは真っすぐに、言う。
「──さあ、『お祈り』を始めましょう」


 それらは空き地の中央にいた。夜中、行われている家族の団らんは、場所と役者の異常など気にならぬ程ありふれた光景のようでもある。
 彩芽は家族の顔を微笑みつつ見回す。狂気を孕んだ微笑みながら、その視線は至極優しい。家族の身体から光の粒が溢れていることは気にする範疇にはない。彼らがもはや何であろうと、彼女にとっては何よりも愛おしいものとなっている。
 遠くの闇に何かが映る。彩芽は気付くと、そこをぼうっと見ていた。車か、或いは酔っぱらいの集団か。だが、彼らは明らかに彩芽に向かってきていた。彼女はやがて街灯に照らされた、八人の姿を見る。
 彩芽の意識が即座に他の家族へも伝わる。自分たちに集まる視線を余所に、『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)は問いかける。
「……あなたが、千原 彩芽に間違いありませんね?」
 静かな夜に相応しい冷静な口調だった。彩芽はゆっくりと立ち上がり、だが表情をやや険しくしながら、答えた。
「ええ。あなたたちは、何しにきたのかしら?」
 普通の者が自分たちに話しかけてくるわけのないことを、彩芽は理解している。彼女は人外でありながら、その程度の思考能力は維持していた。何らかの目的があるに違いない。その推察は、外れてはいなかった。
「倒させて頂きます、せめて貴女の望む家族と」
 紫月は彩芽の顔を見る。僅か、彼女の表情が曇る。家族を崩壊させ、新しい家族も壊されようとしている今、彼女に対し、不幸だったと言って終わらせることは簡単なことだろう。修復するには全てが遅すぎる。ならばせめてリベリスタとしての責務を果たす。それは揺らがない。決して。
「……壊させない」
 表情の陰りは消えていた。敵意と狂気に満ちた眼差しが、リベリスタたちを刺した。だが平静であった。誰よりも。何よりも。
「ノーフェイス、世界に綻びを齎す存在だ。生かしておくわけにはいかない」
 『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)は心臓から飛び出しそうな感情を飲み込んだ。それは人の形をしている。だがそれは人ではない。世界の運命から愛されずはみ出したものだ。可能性を全て叩き潰した狂者だ。人の姿をしているからといって、絆されてはならない。彼女の壊した不幸も、偽った幸福も、須く解き放つべきだ。
 僕は天才だ。できる。言い聞かせて、彼は前に出る。同時、麻奈が快活な声で言う。
「さ、きばっていこか。あんじょうよろしゅうしたってや!」


「一気に詰めるぞ」
 『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が陸駆と共に駆ける。陸駆は前に出てきた敏行と要の動きを遮るように立ちはだかった。険しい表情の敏行が大きく振りかぶって拳を振り下ろす。陸駆はそれを上手に受け流し、すかさず反撃に転ずる。間もなく敏行の身体に無数の傷が現れた。一切の気配なく自らの身体を切り裂いた不可視の何かを、敏行は目で探すが理解することは出来なかった。
 思考の追いつかぬまま攻撃を続けようとする敏行の背後から、鋭い波動が飛んだ。殺意にも憎悪にも感じるそれは、今まさに要と相対しようとしていた影継の周囲を悪意で包み込んだ。痛みに声が漏れる。しかしそれでもなお彼の銃口は狙いを逸らさなかった。巻き起こる銃弾の嵐は周囲の悪意を吹き飛ばすかのごとく舞い踊り、彩芽とその家族を容赦なく傷つけた。苦しそうに家族の姿を見やる彩芽に、影継は非情にも告げる。
「大事な家族がケガしてるぜ。治してやれよ?」
 白々しく、言い放ったれた言葉に、彩芽は思わず唇を噛む。瞳は今まさに、狂気に揺れ動こうとしていた。
「どうして、傷つけるの?」
 どうして、と彼女は小さく続けた。それは、彼女が過去から今にかけて、言葉にし続けてきた疑問であった。決して、誰も答えてくれなかった、問い。
「アハハ。何、デ?」
 その一瞬、影継は彩芽の瞳からハイライトが消えたように見えた。次には彼女は片手で目を覆いながら奇声のような叫び声をあげた。耳を劈く悲鳴は、まさに狂いを象徴するかのごとく、響き渡った。
「ぼっちが家族殺して家族ごっこたぁ片腹いたいのぉ」
 耳に走る痛みに顔をしかめながらも、玄弥の表情は崩れない。嫌らしくニヤニヤと笑いながら、奇声から意識を逸らしつつ鉅の影から飛び出して振るった得物から黒色の瘴気が吹き出した。波状に彩芽を飲み込んだそれはしかし、彼女の声を掻き消すには至らない。
 アハハハハハハハハッハハハハハッハハハハッハハ。
 機械のように笑い続ける。耳を貫き、脳を冒した叫喚は、まもなく狂気となって精神を侵食し始める。手先、足先、あるいは頭頂から、身体の石化をもって動くことを困難にした。頭を支配しつつある異常は、理性があるものにとっては呪いに近しいものであるように思えた。
「天より来たれ、浄化の炎よ」
 狂気に苛まれながらもリリが放った魔力の矢は、中途透の放った矢と交錯する。リリの矢が敵をそれの孕んだ烈火で焼くと、透の矢は怯みを覚える程の激痛を伴って突き刺さった。矢が過ぎ去った静寂を割って、麻奈は彩芽を攻めようとしたが、その脳内を既に、狂気が侵食しつつあった。
 その中で紫月は、もがくように頭を振るってその狂気を振り払った。表情は強張っていながらも、思考は真っすぐにすべきことを捉えている。注いだ光は幾らかの狂気を払っていく。彩芽は未だ笑っている。それはガンガンと脳内に木霊するも、意思を持ちうる程度には、弱まっていた。
「流石に人間止めた奴は一味違うな!」
 無数の射撃を行いながら、影継は彩芽に向け叫ぶ。彩芽は壊れかけの笑みを向けながら、するすると傷ついた家族の元へと近付いていく。
「化け物、とでもいいたいの?」
 彼女は語尾を上げるが、それは問いではなく確認に似ていた。
「ハッ、常人がホイホイ他人の傷を治せるわけねーだろ?」
 落ち着いた様子の彩芽を、影継は挑発する。けれども彩芽は激昂することもなく、むしろ哀れみに似た目で、影継を見ていた。
「人でも、人じゃなくても、関係ないことよ。どうでもいい。ただ、今が続けばいいの」
「それが、偽りでも?」
 リリの放った業火の矢が、彩芽を焼いた。けれど、彼女は狼狽えない。
「偽りでも、そこにあるならもう、真実よ」
 彩芽はリリに笑いかける。同時、彩芽は近くにいた家族をまとめて、その優しさで癒した。それは愛情であった。それは憎悪と相反する感情だった。彼女が自身の理想を維持するための術。
「……私達はこれから貴女を殺しますが、どうか我慢なさらないで、辛いなら辛いと声を上げてください。もう耐える必要はありません」
 リリの言葉に、彩芽はキョトンとしている。今彼女にはきっと辛いという感情はない。自身の生んだ偽りが、彼女の苦痛を覆っているからだ。彼女は殻に閉じこもって、痩せ我慢しているに過ぎない。人を止め、運命に愛されなかった彼女が、そこから解放される道は、もう一つしか残されていない。
「どうか、ご自分まで自分を苦しめないで、ご自分だけは自分の味方でいて下さい。あなたは、いても良いのですから」
 リリの言葉は彩芽に向けたものであり、また自分に向けたものだ。自分にとって全てである世界で、心を壊す仕打ちを受けたのなら。逃れる術もなく、逃れる宛もない場所で、例えば彼女の育った箱庭で、彼女がそれを受けたのなら。想像するだけで、彼女の心は痛む。胸が潰れそうになるのを抑えて彼女は祈る。
「安らかなれ、哀れなる魂よ」
 リベリスタを安らかにする福音を響かせながら、麻衣は静かに言った。
「体を壊し、心を壊した彼女から家族すらも奪い去る私たちの「エゴ」を許してください」
 彩芽は再び狂気を表情に浮かべながら、呟いた。
「奪わせない、絶対ニ」


「うらうら、大切な家族が怪我だらけやでぇ~。」
 玄弥は暗黒を放ち、殊更に彩芽を煽る。彩芽は自分に集中する攻撃に体力を着々と削られながらも、戦場を奔走して家族を守ることに徹していた。それは不幸をかなぐり捨て、ついに得た幸せを壊されたくないという意思の表れであった。痛みに打震えている暇は、彼女にはなかった。
 けれどその動きもまた、彼女の周囲に張り巡らされた気糸により、絡めとられた。
「人形の家族を作ったんだ、自分が繰糸に縛られても文句は言えまい?」
「人形じゃない、あの子たちは──」
 ハッとして、彩芽は横を見る。彩芽を助けようと波動を飛ばした梓が、麻奈に絡めとられていた。
「無駄無駄。余計な事はさせへんで」
 彩芽は視線を移す。透の矢が戦場を余すところなく埋め尽くす。しかしその僅かな隙間を、玄弥は軽々と避けていく。
「おー、痛い遺体、家族は死体、くっけけけっ~」
 煽るようにいいながら何度となく彩芽に向けて瘴気を向けてきた。
 再び視線を移す。敏行は大きく拳を振り下ろすが、直撃には至らない。周到に距離を取った陸駆は、周囲を確認すると、ニッと笑って調子よく叫んだ。
「天才ファントムレイザー!」
 瞬間、敏行と、近くにいた要の身体は強烈に斬り付けられた。敏行は倒れこそしなかったが、膝をつく程にダメージは大きかった。一方要は踏ん張り、思い切りよく跳ぶと、鋭く影継に蹴り込んだ。強烈な一撃に表情を歪めながらも、影継は怯むことなく標的へ銃口を突きつける。その目でしっかりと、彩芽を見据えながら。
「ママゴト遊びは、終わりにしようぜ」
 蜂の巣のような連続射撃。その一つが、彩芽の肩を貫いた。激痛に、彼女の意識が揺らぐ。

 どうして。どうして。
 殴られて。蹴られて。罵られて。物を投げられて。
 それは必然だっただろうか。正当だっただろうか。彼女は、そうされるに値する人間だっただろうか。
 どうして。どうして。
 誰も彼もがきっと悪かった。
 それだから。
 いつからか、彼女は何も受け入れなくなってしまっていたのだ。
 どうして。ドウシテ。
 ワタシハナニモワルクナイノニ。

 鼓膜を破りかねない悲痛な叫びが轟いた。単純な悲鳴であった。リリは異常を覚悟しながら、それを受け止めた。そこに最早狂気の色はなかったけれど、その叫びはリリの心に直接響くものだった。彩芽の耐えて、耐えて、抑圧してきた感情の爆発を、今の彼女には受け止めることしか出来なかった。けれど、それで僅かでも彼女が安らかでいられるのなら、と彼女は痛みを受け入れた。
 陸駆が一心に、彩芽を狙う。
「千原彩芽!」
 声に引き寄せられた彼女の視線は最早、死んでいる。
「貴様の家族ごっこは終わったのだ。貴様が思い描いた家族は、この天才の心を打つよいものであった。
 願わくば次の人生が思い描くそのままだといいのだ」
 鋭く撃たれた気糸が、彼女を貫いた。その身体には最早戦うための力は残されていない。身体が崩れていく。心が閉じていく。意識が薄れていく。微か、聞こえる音と動く情景を意識する。
 壊れていく。彼女の思い描いた理想像が、跡形もなく壊されていく。要が、敏行が、透が、梓が、順に倒れて消えていく。彼らは倒れるとすぐに中空に霧散していった。それを見る度に、彼女の心はまた一つ壊れていった。
 それが偽りであったとしても、そうでありたいと願った嫌われ者の末路。
「結局、家族が欲しいんやのうて、ただ自分のことを好いてくれるもんが欲しかっただけやろが、そうはいかん嫌われものってな」
 彩芽の耳に玄弥の声が届く。声の調子は楽しむようであった。
「ほな、自分なぜたすけるんやめたんやぁ?」
 くけけと笑い、玄弥の身体がゆるりと動く。ほぼ同時、切り刻まれた彩芽の意識は、完全に途切れた。


 嫌われているのは本人に理由がある。それが事実であったとしても、虚構であったとしても、実際に言葉にするのは野暮であり、ある意味での侮辱だと鉅は思う。家族だから、どれだけ傷つけられても、それを破壊するその時まで確かに愛していたからこそ、耐えるしか道が取れなかったのということもあるだろう。
「……下らん人形劇よりは、まだ不仲の家族の方が見ていられたろうな」
「ま、来世かあの世か知らんけど、今度はちゃんとした家族を持てるとえぇね」
「そうであって欲しいです」
 麻奈の言葉に、麻衣はささやかな希望を口にする。
 最中、リリと紫月は祈りを捧げる。
 紫月は彩芽が、次は人並みの幸福を得られる事を。
 リリは此度倒した魂と、彩芽が殺した家族の魂が全て、安らかであるようにと。
 紫月は同時に、自分たちに今与えられている幸福に感謝した。彼女の不幸は、いずれ自分にも降り掛かるやも知れないのだから。
「貴女の命と、偽りとはいえ幸せを奪った罪は、ずっと背負っていきます」
 リリは自分だけに聞こえる程微かな声で、呟いた。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。
 家族は大切にしましょうね。
 ではまたどこかでお会いできたら嬉しいです。
 ありがとうございました。