●青鵺淀助 古いオレンジ灯の明滅する小トンネルを、スーツの男が血相を変えて走っている。化物か何かに追われている顔だったが、実際彼を追いかけているのは一人の人間だった。 青いアロハシャツを着たアフロヘアの男である。コワモテで喧嘩慣れした風貌だったが、化物と言う程ではない。 だが足の速さは大したもので、トンネルの中ほどでスーツ男の後ろ襟を掴むと、強制的に振り返らせた。 「逃げられっと思ってンのかテメェコラァ!」 「ス、スミマセン! スミマセン! あと一日だけ待って……!」 「待てるかボケカスゥ!」 拳を振り上げる。 ヒッと叫んで身を竦める男。 しかしいつまで堪えても予想したような暴力は訪れず、男はうっすらと目を開けた。 青アロハの男は上げた拳をゆっくりと下げ、スーツの男を睨みつける。 「……事務所来いや」 彼の名は青鵺淀助(あおぬえ・でんすけ)。 『暴力を振るえない金貸し』『腰抜け金融』『なまくらアロハ』と蔑まれる男。 最近フィクサードとリベリスタの間をしている中途半端な男。 通称青アロハである。 青鵺には二人の同僚がいる。赤城と黄林だ。 赤青黄色で丁度良いと言って、兄貴分の男からアロハシャツをプレゼントされた彼らは、彼への敬意の表れとして毎日欠かさず同じ色のアロハを着ることにしていた。 集金途中、赤城が手帳を開きながら言った。 「青鵺ェ、ひまわりソリューションの社長居なくなったみたいだぜ。イヒヒ!」 「回収しきってスッカラカンになったから吊ったンだろがい」 「いやそれがよう、違うんだってよう」 チョコバーを齧りつつ、小太りな黄林が口を挟んできた。 「拉致られた……らしいぜえ」 「らしいってオマエ」 「ヘンな人体実験にでも使われてんだぜ、きっと! ヒヒッ。それにな、最近そう言う事件増えてんだ。返済で首回らなくなったヤツにアホみたいな大金握らせて、その辺の奴ラチらせんだよ。この街にゃ、居なくなっても気づかないようなヤツごろごろしてっからなあーッ! ヒッヒヒ!」 「あぁもう黙ってろい。テメェは笑い方がいやらしいんだよ!」 などと言いながら、彼らは集金のためにあるビルへと入って行った。 そこからの流れはいつも通りだ。 ブザーを鳴らす。返事がない。 ピッキングマンで鍵を外して中へ踏み込む。 すると。 「……あ」 中学生程度の少女に猿轡を噛ませ、後ろ手に縛り、床に寝転がし、どこかへ電話をかけようとする男がいた。 「テメェなにやってんだ」 「いや、これは……親戚の子と遊んでて、今日はちょっと帰って貰えませんかね」 「中学生にさせるプレイじゃねえだろがよ。何やっちゃうつもりだテメェコラァ!」 凄む青鵺。 しかし相手の男はニタリと笑うと、棚の裏へと声をかけた。 「帰ってくれないみたいです。しょうがないんで、あの……やっちゃってください」 男が姿を現す。 身の丈2mは超えるだろうか。ボロボロのシャツに汚れたジーパン。髪はぼさつき、全身からはきついアルコールの臭いがする。そして何より、目つきが常人のそれではなかった。 『コロス、イイカ』 「はい、お願いします」 『コロス』 巨漢はそう言うと、赤木の顔面を片手で鷲掴みにした。軽々と振り上げ、窓から投げ捨てる。 「な――うあああああああああ!?」 ガラスをぶち破って転げ落ちていく赤木。 黄林はあわをくってナイフを取り出す……が、それを青鵺が抑えた。 「やめろ、集金中だ。暴力は使えねえ」 「でもよう!? どど、どうすんだ!?」 「バッカヤロウ、逃げるに決まってんだろ!」 青鵺たちは一目散に窓から飛び出すと、悶絶していた赤木を間違えて踏みつつ、二人で抱えて全速力で逃げ出したのだった。 ●ノーフェイス、乱堂泥酔。 フォーチュナからの説明を要約するとこうだ。 昨今ノーフェイスによる拉致事件が起きている。 彼等はチームを組み、一般人を年齢に関わらず拉致してどこかへ売り払っているというのだ。 今も中学生の少女が拉致され、まさに売り飛ばされる直前であるという。 現場へ急行し、ノーフェイスを撃破。 少女を救出し、これ以上の拉致被害を食い止めて欲しい。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月12日(水)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 社会が人間のものである限り、掃溜めのような場所は必ず存在する。 決して綺麗とは言えないアスファルトの上を、『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)は黙々と歩いていた。 「……拉致ですか。面倒ですね」 「どうせ後ろは七派か何かでしょう。面倒くさい」 煙草を摘み上げる『群体筆頭』阿野 弐升(BNE001158)。 ヘクスが眼鏡の隙間から弐枡の横顔を見やった。 「なら何故来たんです」 「そちらこそ」 「……大体あなたと同じですよ」 「こちらこそ。タバコ吸います?」 未成年に何言ってるんですかと呟いて路地を曲がる。 別の道を歩いていた『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)と沈黙のまま合流した。 「仮に後ろに何らかのフィクサード組織があったとして、組織外のノーフェイスを使う理由は大きく分けて二つ。人手不足か尻尾切りでしょう」 「それにノーフェイスならヤマの仕事だ」 「どのみち、拉致なんて見過ごせません」 冴の両脇を歩きつつ、グローブを嵌め直す風見 七花(BNE003013)と『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)。 「できれば、攫われてしまった人達の情報も欲しいですね」 「誰に納めているかもな。聞き出せればええが……」 ビルとビルの細い隙間を通り過ぎ、コンクリート壁に覆われた迷路のような裏路地を進んで行く。 錆かけたスチール階段を下りてくる『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)。 チェーンソーのエンジンをかけた。 「こういう悪い人達なら、遠慮なく戦えるよ」 「そうだな、分かりやすい相手だ。やる気も出るってもんだぜ」 首を左右にこきりと鳴らす『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)。 そして彼等の足は、あるビルの前で止まった。 ひまわりビル。 『Save The World』アルフレッド・ナイツ(BNE004007)は剣の柄に手を添え、じっとビルの割れ窓を見上げた。 「我が劍が届く場所では、見過ごすわけにはいかない」 ● 薄暗い部屋に八人程のノーフェイス。ぼろきれ同然の服を着た巨漢のノーフェイスは地面に胡坐をかいてじっとしていた。 そんな彼の目が僅かに開かれる。 かりりという音だった。ドアの鍵穴に何かが入り込む音だ。 その直後、金属を無理矢理引きちぎったのうな炸裂音が響く。 ノーフェイスたちが泡を食って立ち上がった。 「誰……だ!?」 そして、ドア上部から突き出したチェーンソーのブレードに目を丸くした。 けたたましい唸りと破砕音を響かせて縦一文字に切り裂かれるドア。 直後、アルフレッドと隆之の足がドアを両方から蹴り飛ばした。 入り口近くにいたノーフェイスがドアに押し倒されて倒れ込む。 「な……!」 「よう、取り立てに来たぞ。ノーフェイスの支払いは命と相場が決まっとるがな」 気糸のトラップを仕掛けて倒れたノーフェイスをそのまま拘束しにかかるヤマ。 「どうやらお引き取り願える様子じゃなさそうですね。……全員窓から捨てろ」 スチールデスクに腰掛けていた男や壁際で煙草を吸っていた男が手近な武器を持って並んだ。 「で……よろしければお名前とご用件をお聞かせ願えませんかね」 「アーク。斬られて?」 羽音は倒れた扉を力強く踏みつけると、身体ごと回転させてチェーンソーを叩きつけた。 咄嗟にバールを掲げるノーフェイス。 激しく飛び散る火花。 火花を潜ってアルフレッドと隆明がそれぞれ別の男へと殴りかかった。 「世界の平穏のため、私はお前たちを討ちます!」 「応える義理はねえなあ!」 「おっと、てめぇの相手は俺だぜ」 男の背後に回って首と肩をロックする隆明。 同じくアルフレッドも男を壁際まで押しやって剣を喉に突きつけていた。 「今の内に」 「分かりました、ちょっとだけ目を瞑っててくださいね!」 七花は剣を水平に構えると、剣の腹を機械化した指ですらりとなぞった。 刻まれた文字が擦れて独特の音を響かせる。 刻印をなぞることは術をなぞることに通じる。共感呪術の基礎原理に則って七花の剣が激しいスパークを起こした。 部屋中に飛び散る雷。 それに乗じて、七花と弐枡は部屋の奥へと突撃した。 「ち、そうそう簡単に通してやるか!」 ナイフを構えて襲い掛かる二人のノーフェイス。 「ハロー、群体筆頭罷り通る……御代は見ての御帰りだぜ!」 チェーンソーを独特のリズムで唸らせる弐枡。相手の懐に突っ込んで素早く振り回した。 腕と指が纏めてはじけ飛ぶ。 「あ、ぐあ……!?」 「抑えきれん、あいつをだぜ! 早く!」 悲鳴のように叫ぶノーフェイス。 すると、部屋の隅に腰を下ろしていた巨漢がむくりと立ち上がった。 『コロス』 「残念ですが」 巨漢は拳を振り上げ、弐枡たちに振り下ろした。 しかし攻撃を受けたのは、途中から割り込んできたヘクスだった。 大気を穿つように噴き上がる周囲の粉塵。ヘクスの足元が奇妙に凹む。 まるで工作機械のプレスを受けたかのような衝撃だったが、ヘクスは盾を重ねて翳したまま微動だにしていなかった。 「良い攻撃です。重くて激しくてとても痛そうです。丁度いいので、言わせて頂きますね」 『コロス』 ヘクスを無視して再び拳を叩き込んでくる巨漢。 右脇からのパンチを、ヘクスは盾で受け止める。手甲から肘のラインに密着した縦は、丁度ボクシング練習に使うガードクッションと同じような役割を持っていたが、ヘクスの場合これが民家のドアを同等の大きさなのだ。 しかも彼女は11の歳少女らしい小柄さにも関わらず、巨漢のパンチで微動だにしていない。 きらり、とメガネが光った。 「砕いて見せて下さい――」 左脇からのパンチを受け止める。 「ねじ伏せて見せて下さい――」 再び右脇からのパンチを受け止める。 『コロス』 巨漢が両手を組み合わせ、ハンマーのように掲げ、振り下ろす。 ヘクスは額の上でシャットアウト。強烈な衝撃波が流れ出し、両脇のスチールデスクが吹き飛んだ。 しかしヘクスは微動だにせず。 「――この絶対防壁を!」 にやりとだけ笑った。 「滅茶苦茶だ……くそっ!」 携帯電話をポケットに入れるノーフェイス。 そこへ、冴が素早く飛び掛った。 「ひっ――!?」 慌てて飛び退くノーフェイス。スーツの肩口が斬れ、素肌が覗いた。 「蜂須賀示現流、蜂須賀冴」 ピリ、と音がした。服だけが切れたと思っていた腕が、まるで最初からそう言う風に出来ていたかのようにすっぽりと肩から抜け落ちた。 「な、な――!?」 「参ります」 鼻先に刀を突きつけられ、男は全身から脂汗を噴出させた。 ● 「ううおおおおおおおお!!」 男の翳した鉄パイプをかるくかわし、アルフレッドと冴は相手の右腕を左脚をそれぞれぶった切った。 転倒する男の股間と顔面を思い切り踏みつける。 部屋の端からチェーンソーを持ち出し、エンジンを引っ張る男。 しかし彼がチェーンソーを振り上げたと思った時には、羽音と弐枡がスチールデスクを飛び越えて彼の眼前まで迫っていた。 煙草の煙が複雑な尾を引き、空中でたまたま切り裂いた本がジグザグの紙ふぶきになって散った。 斜めにチェーンソーを振り込む弐枡。同じく羽音。 二人が男の両脇に着地した時には、男は胸を中心にX字に分解。頭、両肩、下半身の四パーツに分かれて地面に転がった。 そして彼等の視線が一斉に巨漢のノーフェイスへと集まった。 『コロス――コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!!』 彼は壁際に並んだ一升瓶を振り上げると、頭上に掲げ文字通り浴びるように飲んだ。 そして、ヘクスへと豪快に叩きつける。 砕け散る瓶。 しかしヘクスはその場から一歩たりとも動いていなかった。 それどころか掠り傷ひとつ負っていない。 片眉をあげるヘクス。 「つまらないですね。今の私に傷を負わせられるのは……そうですね、せいぜい全盛期の富船士郎くらいでしょうか? アークにも数える程しか居ませんし。そこへ来るとあなたは何です、最終兵器のような顔をして出てきたくせにだらしない」 『コロスウウウウウウウウ!!!!』 巨漢が猛烈なラッシュを仕掛けた。 それでも微動だにしないヘクス。 どころか、巨漢の拳がみるみる血塗れになって行くではないか。 「そろそろ飽きましたね。あなたは会話すら通じませんし。皆さん宜しくお願いします」 「いいのかよ? じゃあお言葉に甘えて」 隆明が巨漢の脛にバウンティショットを叩き込んだ。 がくんとバランスを崩す巨漢。 更に弐枡が煙草を吹いて飛ばし、巨漢の顔面に当てる。 思わず顔を覆った巨漢めがけ、七花が剣を突き立てる。 巨大な腹に突き刺さった剣を中心に魔方陣が展開。巨大な魔力弾が巨漢の腹に風穴を開けた。 よろめいて壁に背を付ける巨漢。 『コロス、コロ……ス……』 羽音が壁際まで飛び掛り、チェーンソーを両手で振り上げた。 振り下ろす。 反射的に丸太のような両腕を頭上に翳す巨漢。 だがしかし。 「思い切り、いくよ……っ!」 羽音のチェーンソーブレードは床をがこんと噛んで停まった。 目の前で固まる巨漢。 腕の先がぼたぼたと地面に落ち、やや遅れて巨漢が左右二分割されて羽音の両脇に倒れてきた。 鮮血を全身に浴びながら立ち上がる羽音。 振り向くと、アルフレッドとヤマが最後の一人を追い詰めている所だった。 片腕を失ったノーフェイスである。 尻もちをつき、手元にある本や工具を投げながらじたじたと後じさりする。 しかし彼の後頭部がスチールデスクにぶち当たった所で、悪あがきも止まった。 喉元に剣の先をつきつけるアルフレッド。 「奥の娘をどこに売り飛ばすつもりですか。言いなさい」 「い、言う。言うから……!」 手を(と言っても片方しかないが)を上げて首を小さく振るノーフェイス。 アルフレッドは頷いて剣をどけてやった。 と、その瞬間! 男は懐から銃を取り出しアルフレッドの額目がけて狙いをつけ――。 「そんなことだろうよ」 木製杖の先端が男の口に突っ込まれた。再びデスクに叩きつけられる後頭部。 銃の狙いがそれ、天井を穿つ。 目を見開くアルフレッド。その脇で、小柄なヤマはぐりぐりと男の喉に杖を捻じ込んで行く。 「仕事は仕事。ヤマは殺すだけだ。なに、差別はしない。安心して死ね」 杖を伝うように伸びた気糸が蔦のように杖に絡まり、そして最後には男の喉を食い破ってスチールデスクにまで貫通した。 べたんと床に落ちる男の手。 「これで終わりですか」 彼のポケットに刀の切先を突っ込み、冴が何かを釣り上げた。 刀の先にはバンド式のストラップが引っかかっておりするすると刀身をつたって鍔の部分で止まった。ストラップのさきにはやけに古い携帯電話が一台。 引きちぎるように手に取る冴。 昨今一部の中古雑貨屋で販売されているようなごく古い携帯電話機である。シムカードを操作して別の電話プロバイダを経由させる『とばし携帯』と呼ばれるものに違いなかった。 履歴が7セグメント方式(電卓のような文字表記)で表示されているが、これもアテにならないだろう。ダミーダイヤルの可能性が高い。試しにダイヤルしてみる。 3コールで繋がった。 『僕だけど?』 目を細める冴。 「新しいのを調達した。どこで渡せばいい?」 『はあ? 忘れたの? いいよ、丁度変えるつもりだったから……あ、ねえ、ところでさ』 「何」 『そこにいる人達、アークの人だよね。見えてるよ』 周囲の空気が急激に重苦しくなった。 勤めて沈黙で返す冴。 『アークでも別にいいよ、元気のよさそうな人間とかいたら回してよ。一人二千万で買い取ってあげる。じゃあね、切るよ』 ぷつんと途切れる通話。 もう一度ディスプレイを見直すと、消えかけの液晶画面にはカマガヤと表示されていた。 ● 「お酒の臭いがつきました」 ヘクスは仏頂面でビルを出た。 蝉の声がやけに遠くに聞こえる。 「胸糞悪い事件だが、一つはとめられた。こではいいこと、なんだよな」 「……ええ」 短く答えて視線を外す。 弐枡や羽音たちが少女をビルから外へ連れ出していた。 「連中から何か聞いてます?」 「何、て……何も」 「分かった、怪我はない? 変な薬とか飲まされてない?」 「わからないけど、水、のまされて……」 見た目に分かりにくいが、どうやらぼうっとしているらしい。休ませればよくなる程度の症状だったので、七花とアルフレッドは彼女に手を貸してゆっくりと階段を下りさせていた。 そんな中、冴がビルの前で立ち止まり、やや離れた電柱へと視線を向ける。 「もう出てきてもいいですよ、青鵺淀助」 「アッ、え、気づいてやがってか……!」 慌てて電柱から飛び出してくる青アロハの男。 冴には超直観でちらちらと見えていたのだが、これまであえて放って置いたのだ。 「やんのかテメェコラァ! 俺はやらねぇぞコラァ! 悪いが逃げさせてもら――うおおっと!」 二階の窓から鞄が放り投げられ、青アロハの足元に落ちてきた。鞄の口が開いており、中にはぎっしりと札束が詰まっている。 「こりゃ……」 「お前の仕事はそれを回収することだろう?」 ワンテンポ遅れて窓から飛び降りてくるヤマ。 「律儀に約束はまもっとるし、あくまで一般人の枠内で仕事をする分には何も言わん。場合によっては手を貸してもいい」 「そりゃあ、義理が立たねえだろ……」 「義理、ですか。善三の教育ですか?」 「……」 冴が善三の名前を出した途端、青アロハは悔しげに俯いた。 「善三は、何故フィクサードを?」 「そんなファンタジックな話はねえよ。『フィクサードやってること』なんかに理由はねえ。あの人が信念貫いた結果、そう決めつけられてるだけさ」 「……」 「例えば俺達だ。金貸しは金持ちじゃねえ。デカい資産家から莫大な借金して、その利息を払い続けられなきゃ今度は俺達が骨の髄まで金に変えられちまう。だから命がけで客の利息を回収するんだ。神秘の力にだって頼る。殺しちゃ金にならねえから、脅かしたり、魔眼利かせたりさ。でも力づくで打ち負かされたり法に泣きついたりされりゃオシマイだ。あの人は……若は俺達を守ってくれてる。クズみたいな俺達でも、這ってでも生きていたいなら、生きる道くらいは作ってやるって」 「そうですか」 「あんた、善三さんとは……」 「敵です」 刀の柄に手を添えたまま、冴は胸に手を当てた。 懐の奥で『撃たないことに意味がある銃』が重みを増した気がした。 「再び会うことがあれば、斬るでしょう。でも……」 目を瞑り、踵を返す。 鞄を抱えて深々と頭を下げる青アロハに背を向け、冴とヤマは歩き出した。 どんよりと曇った空が、コンクリート壁と交わってまるで牢獄のように見える。 『再び会うことがあれば』……。 雨の気配を感じて、冴は目を閉じた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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