●食べるのはこっちであってそっちではない 「なんかさぁ、食べられる花を集めた花畑があるらしいんだけど……エリューションが住み着いちゃったらしいんだよね」 『黒い突風』天神・朔弥(nBNE000235)がしゃくしゃくとかき氷とシロップを混ぜ合わせながら口を開いた。 「で、自分を摘もうとした人間をガブっと」 かき氷を食べながらメモ帳を開く。 どうでもいいが行儀が悪い。 「敵は一体。フェーズは1だな。見かけは……アイスプラント? とかいう品種のエディブルフラワーだ。 群れをなしてて全部で四体見えた。 そのうち三体は配下エリューションで指揮取ってるのは一番大きいのだな。 あぁ、後近くに食用菊があるからそれが目印になるんじゃないかな」 一旦喋るのをやめてしゃくしゃくとかき氷を食べる。 「うぉ、頭痛くなってきた」 いいから話を続けなさい。 「言葉は通じない。丸ごと食われた奴は今のところ辛うじていないけど摘もうとした弾みで指が切れた、で誤魔化すのもそろそろ限界っぽいな。 実際は噛み付かれてるんだが。 戦闘が始まると奴らは巨大化してお前らを飲み込もうとしてくる。 攻撃方法はそれだけ。 平日はそこそこ空いてるし、閉園間際にこっそり忍び込むのがいいかもしれないな。 入り方は任せる。 ただしエディブルフラワーの花畑で植物が人を食おうとしてる、なんて噂が広まったら経営に大打撃だ。 あんまり大暴れして他の植物に被害がでないようにするのも忘れないでくれよ。 その辺は十分注意してやってくれ。 んじゃ、吉報待ってるぜ」 朔弥はそういうとすっかり溶けてしまったかき氷を飲み干してまた「頭いてぇ」と呟いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:秋月雅哉 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月08日(土)22:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●何度でも言おう、お前たちは『食べられる側だ』と 夕方のエディブルフラワー畑。 そろそろ閉園が近くなってきて人影がまばらだ。 活躍する出番の少なくなった太陽が夕焼け色に辺りを染める。 「エディブルフラワー、ね。 まぁ料理は趣味でそこそこするから使ったことあるけれど……まぁ、エリューション化するとは思わないよね。 ましてや、巨大化してこっちを丸呑みって…やっぱり食べられるのに抵抗あるってこと? まぁ、どっちにしても倒すだけだけれど。 これ……倒したあとの、食べられたりするの? いや、やらないけれどね」 『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)が入園のタイミングを計りながら独り言のように呟いた。 「靫蔓みたいに食虫植物じゃないんだから、ちゃーんと食べられる側として身の程を教えてア・ゲ・ル♪」 どこか楽しげに言うのはぶかぶかのローブと仮面、中性的な声から性別が判断しにくいヴァンパイアの『精神的ブラクラ』ルートウィヒ・プリン(BNE001643)だ。 「犠牲者が出るのを食い止めたいしね」 真面目な顔で台詞を続ける『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が立ち上がる。 そろそろ中に入ったほうがよさそうだ。 「そろそろ閉園ですからあまりゆっくりは見られませんよ? 店もしまってますし……」 「構いません。今日以外はいつ来られるか分からなくて……八人、お願いします」 疾風が代表して管理人にぺこりと頭を下げる。 「分かりました。では、中へどうぞ」 中に入った八人はまず目印となる食用菊を探し始めた。 もう少し先になるだろうがパンジーが植えられていた。 噂ではレタスのような味がするとかしないとか。 だが探すのは食用菊である。 スィートバイオレットや食用ほおずきなどもあった。 「巨大化した花を倒すなんて特撮みたいだな。 怪獣対決でそんなのなかったっけ? まぁどんだけデカくてもオレが刈り取っておいしく料理してやるぜ!」 食べない、と言った綾兎とは対照的に食べる気満々なのは『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)だ。 「ぇと、ちゃんと食べられるか確認してからじゃないと……」 その台詞に「冗談だったらいいなぁ」という表情と冷や汗を僅かに覗かせながら雪待 辜月(BNE003382)が窘める。 そういう間に熱感知を行ってまだ残っている人がいないかチェックするのも忘れない。 「……大丈夫みたいです。私たち以外に花畑の中に人はいません。 念のため強結界を張っておきますね」 「逆にこちらに噛み付いてくる花ですか。 最近の植物はずいぶんと積極的になってたんですね~」 どこかのんびりとした調子で言ったのは『混沌を愛する黒翼指揮官』波多野 のぞみ(BNE003834)だがそういう問題なのだろうか? 言っていることは間違っていない(多分)だがエリューションと普通のエディブルフラワーを同列に扱うのは双方困りそうである。 「人食花、面白い! 自然の力を以てすれば、いずれはそのような植物も生まれるかもしないな。 だが、自然に生まれたものでないエリューションならば、討ち滅ぼすのみだ」 食用菊を探して歩きながら声高に言ってのけたのは『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862) 「昔はよく山篭りをして山菜を食べたものだ。 食用の花というぐらいだからな、食えるのだろうな。 よし、ここは一つ妾が、人食い花を食らって味見をしてやろう」 ……此処にもいました、食べる気満々の方。 「エディブルフラワーのサラダやピッツア、スイーツを出して下さるお店に行く事はあっても育てているところへ出向くのは初めてですわね。 この季節ですとコスモスやナデシコ辺りかと思いましたけれど アイスプラント……食用リーフとは意外なチョイスですわね」 ナターリャ・ヴェジェルニコフ(BNE003972)が呟くと同時に夜目に浮かぶ食用菊が全員の目に留まる。 「確か食用菊の隣であったな。アイスプラントとやらはどれだ?」 シェリーが一番詳しそうなナターリャに尋ねる。 「すぐ隣のがそうですわ」 グラスビーズを散らしたような葉は普通だったら美しいと思えるものだろう。 ――巨大化していつの間にか出来た大きな口を見なければ。 「多少は焦げ目をつけたほうが食べやすいか? そもそも、多少荒れた所で自然の力ならば、放っておいても何れ元に戻るだろうに」 「ダメです! 管理人さんに怪しまれるじゃないですか、焦げ後なんてついていたら。 経営にも大打撃ですよ! それに……ぇと、料理はちゃんと下ごしらえしてからじゃないと……っ」 早くも人食い花を逆に食べようとするシェリーとそれを必死で止める辜月。 エリューションは四株いるようだ。 ガッチンガッチンと歯を鳴らして赤い舌をうごめかせる様は確かに特撮っぽい。 「まずはボス的なの……とりあえずあの一番でかいのからいくか。 他の花も動かなくなることを期待して」 牙緑が周りの花を踏まないように気をつけながら距離をつめる。 放つのはデッドオアアライブ。 お返しとばかりにガッチンと噛み付いてきたので超反射神経で避ける。 「飲まれたらどこで消化されるんだろう?」 「根元にいって養分になるんじゃないかな」 幻想纏いを起動し、装備品を身に着けて同じくボスと思われるエリューションに攻撃しながら疾風が答える。 通路まで誘導できないか試したがどうやら通路に出てくることは出来ないようだ。 簡易飛行で低空からの攻撃に切り替える。 ルートウィヒはコンセントレーションで命中率を上げてからオーララッシュで攻撃した。 「植物の味ってどんなのかしらねぇ?」 「だから妾が味見を……」 「ダメですってば……」 翼の加護を受け、一メートルほどの高さで低空飛行する綾兎はそんなやり取りに少々脱力気味。 ハイスピードを使った後残影剣を使用する。 立て続けの攻撃にボスエリューションは倒れ、敵の指揮が乱れた。 「さすがに捕まるほど、のんびりスピードじゃないよ」 「こんだけデカいと細かいとこまでよく見えて、ちょっとグロいな。 オマエほどほどにしとけよー、みんな気味悪がって食べてくれなくなるぜ?」 余計なお世話だ、と言わんばかりに残りの三体が牙緑に噛み付こうとする。 「おっと、危ない危ない」 危ない、と言いつつ難なく避ける牙緑。 戦闘指揮を生かして後方から支援しつつ射程ぎりぎりの位置で攻撃するのは辜月。 隙あらばエリューションを食べようとするシェリーを止めるのは彼だけなので精神的疲労は恐らく一番大きいだろう。 ディフェンサードクトリンを使用した後上空から遠距離射撃を行うのぞみ。 射撃の精度は高くエリューションを確実に追い詰めていく。 「何が起こるかわかりませんし、噛まれると痛そうですからね」 ついでと言わんばかりにフラッシュバンを投げつける。 「過ぎる明かりをプレゼントですよ♪」 後衛ではシェリーが集中を重ねて狙いを研ぎ澄ませてから敵全体にチェインライトニングを放つ。 「雪待が五月蝿いからな、被害はできるだけ少なく敵を射抜いてやろう」 「大口で私に迫ってこようなんて下品ですわね。 私、がっつくようなタイプは好みませんのよ?」 何だかんだで丸呑みはされていないものの噛み付かれた仲間が複数いたので天使の歌で傷を癒した後、ナターリャがマジックアローで攻撃する。 同じくマジックアローを使っていた辜月の一撃で一体が倒れ、残りは二株。 前衛と後衛の息がぴたりと合っていたためそれ以上の深手を負うことなく戦いは終結した。 後に残ったのはアイスプラントの数枚の葉のみ。 エリューション化していない部分だったのだろうか、大きさも普通で動き出すこともない。 周りの植物にも被害は出ていないようだった。 「片付いたな」 「ゆーきーまーちー……何故食べるのを邪魔をした! 人食い花をくろうてやろうと思っていたのに!!」 「おなか壊したら大変だと思って……」 「人食い花ごときで壊れるほど妾の腹は脆弱ではないっ」 「ふ、普通のエディブルフラワーじゃダメですか? てんぷらを作ってあげますから! ……ね?」 「……ふむ。絶対だぞ。約束だぞ?」 念を押し続けるシェリーに辜月は急いでてんぷら向きのエディブルフラワーを探して摘む。 「このアイスプラントはアークに持ち帰って調べて貰おうか」 「そうだな。それが無難だろ」 シェリーに聞こえないように、そして見えないように疾風と牙緑が囁きあってアイスプラントを回収する。 強結界を解除すると管理人がやってきた。 「お客さーん、そろそろ明かり落としますよ。閉園時間過ぎてますからねー」 「あぁ、すみません。今出ます」 「あの、このお花持ち帰ってもいいですか? 摘んじゃった後に聞いてごめんなさい」 「構いませんよ。入場料には自分で料理したい人がエディブルフラワー摘む料金も入ってますから。 今日は遅かったから閉まってましたけど、採れたてのエディブルフラワーを使った料理を提供する店もやってるんです。 次はもう少し早く来て、目も口も楽しませてあげてくださいね」 愛想のいい管理人を先頭に入り口へと戻る八人。 「本日はご来園誠にありがとうございました」 エディブルフラワー畑を出て十分距離を取った後牙緑が疾風に尋ねる。 「入場料、どうするんだ? 今回収するか?」 「……経費で落ちないかな」 「それはアークに帰ってから相談いたしましょう。 それより私おすすめのカフェに行きません事? 季節のエディブルフラワーを使ったケーキやお茶が美味しいお店ですのよ」 ナターリャが微笑みながら提案する。 「妾は空腹だ。行くぞ」 「じゃあ私も……」 「せっかくだからみんなでいきましょうかぁ」 「季節のエディブルフラワーを使ったケーキやお茶ってことは今日見たエディブルフラワーを食べることも出来るのかな。 色々あったけれど」 「いくつかはあると思いますわ。 さぁ、行きましょう?」 ナターリャの先導で歩き出す。 「運動した後はお腹がすきますね~」 「あらぁ、牙緑ちゃん、いつの間にそんなに摘んだのぉ? お土産かしら」 ルートウィヒが牙緑の持つスーパーの袋を見て尋ねる。 色とりどりのエディブルフラワーがいつの間にか入っていた。 「帰り道にサラダに使えそうなのを摘んできたんだ。 折角入場料払ったのにじっくり見れなかったからな。 帰ったらサラダかおひたしにして皆で食べようぜ。 かき氷ばっか食ってたフォーチュナにも差し入れるか。 ビタミン入ってるから夏バテ予防だな」 「優しいのねぇ」 「お二人とも、置いていってしまいますわよ」 「そりゃ困るな。……行くか」 「えぇ、いきましょぉ」 紅色がかった紫色や黄色が目に鮮やかな食用菊。 香り高いスィートバイオレット(匂いスミレ) 淡い青色が美しいトレニア。 秋の定番、コスモスやキキョウ。 ひっそり咲くヒルガオに美しく咲くキボウシ。 秋の七草の一つ、ナデシコなどなど。 エディブルフラワーは意外と身近にある花が多かったことを訪れたカフェでリベリスタたちは知る事になる。 美しい見た目、不思議な味わい。 普段観賞用として、或いは町を歩く時の景色の一部としてしか認識していなかった花々を、八人はゆっくりと楽しんだ。 「あのエディブルフラワー畑、料理店のほかに調理スペースと飲食スペース……そちらは芝生が主みたいですけれど……あるんだそうですよ」 「へぇ、繁盛するといいな」 「せっかくエリューションを退治したのだし、にぎわって欲しいね」 「雪待。てんぷら、忘れるでないぞ」 「分かってますよ、シェリーさん」 「エディブルフラワー、もっと知られてもいいと思うのですけれど。 食卓が華やかになりますもの」 「食える花ってのは意外とあるんだな……」 「見た目が綺麗な料理って好きよぉ~」 その後アークに提出されたアイスプラントは研究資料として保管されることになった。 シェリーが人食い花を食べ損なったことを思い出したかどうかは……定かではない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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