● 人の喧騒や文明の利器の全くない山の奥にまで来ると、まだ残暑の厳しい夏の終わりといえども涼しさを感じることが出来る。 肌に触れるそよ風は心地よく、耳に届く小川のせせらぎに気持ちも落ち着くというものだ。 「やはり山は良いものだな」 そんな場所で、釣竿を片手に川面を見つめ呟く、1人の男。 彼の傍らにある二振りの刀を見ると、剣士なのだろうか。 ヒュン! 不意に、男が釣竿を引いた。 釣糸の先を見れば、1匹の岩魚が水の中へ戻ろうと必死にもがいている。 「昼飯は確保できたか……。さて、次は……」 その岩魚を釣針から外し、男はふと空を見上げた。 彼の名は、高原征士郎。 エリューションを斬るほどに切れ味を増す妖刀『鬼狩』を振り、恋人を殺した宿敵を追い、フィクサードを何人も屠ったフィクサードである。 アークとも2度ほど共闘した事もあるが、その直後に行方をくらませ――今、彼はこの山奥でただ1人、生活を営んでいた。 「――加奈。仇はきっと取るからな」 しかし彼は復讐を捨てたわけではないようだ。 ただひたすらに仇を追いフィクサードを屠っても、未だにその尻尾を掴む事すら出来ていない。 そして『鬼狩』は振れば振るほどに彼のフェイトを吸収し、ノーフェイスへの道を歩ませていく。 『仇を討つ前に、身を滅ぼすな』 2度目の共闘の後にアークに背を向けた彼ではあるが、リベリスタ達にかけられた言葉はしっかりと胸に刻みつけられていた。 ならば、まずは自身が強くならなければならない。 そう考えた高原は、しばらくの間ずっとこの地で修行に明け暮れていたのだ。 自然に囲まれて、復讐に逸る気持ちを落ち着かせ、視野を広げる。 鬼狩ではない普通の刀を手に、剣の腕を磨く。 そして過去住んでいた家から持ってきた鬼狩についての書物に目を通し、鬼狩の事を知る。 もう1ヶ月ほど、この生活を続けてきた。 釣り上げた岩魚が焼けるのを待つ間すらも、彼にとってはその書物に目を通す絶好の時間なのだ。 「鏡と玉を持てば、鬼狩も使い勝手の良い武器になる……か。興味はないがな」 中でも一際目を引いたのは、鏡と玉と記された2つのアーティファクトを持てば、鬼狩の使い勝手が格段に増すという事だろうか。 他にも幾つか目を引く文面はあるものの、鬼狩は仇と付け狙う男を斬る時に振る、ただその時だけで良いと彼は決めた。 その目的を前にしてしまえば、鬼狩の『How to』は自身の武器を知るためだけの行為でしかないのである。 「そんな物を探す時間も惜しい……む?」 ふと、書物から高原が視線を移す。 耳に聞こえるのは、がさがさと何かが草木を掻き分け歩く音。 しかし、気配は普通の獣から感じるソレではない。 「晩飯には……なりそうもないな」 剣を構え、敵が現れるのを高原はただ、静かに待つ――。 ● 「えっと、高原さんは山篭りをしていたようですね」 見えたビジョンからは、どう頑張ってもそうとしか説明がつかず、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はそう口にするしかなかった。 かといって、今回はその高原に『仇の男が見つかった』と告げて連れて来れば良いだけの話ではない。 「探している人の足取りが掴めた、と告げる前に、今回はエリューションと戦う必要があります」 そう告げた和泉によれば、高原が相対しようとしているのはフェーズ2のエリューションのようだ。 本来ならばリベリスタが数人がかりでやっと倒せる相手ではあるのだが、高原はその辺の知識には明るくない。 「格好の修行相手だと突っかかるのは良いのですが、そのままいけば返り討ちにあうのは目に見えてますね……」 もし妖刀とされる鬼狩を振ったとしても、敗北するのは間違いないだろう。 「という事で、まずは彼を援護して話を聞いてくれやすい状態にしましょう」 ならば、この状況を利用するべきだ――と和泉は言う。 高原は先日、共闘するリベリスタと反目し、袂を分かったままの状態である。 このため『探している男を見つけた』と告げようにも、普通に接近しただけでは突っぱねられるか、察知されてその場を離れる可能性も高い。 しかし戦闘中ならば、話は別だ。 援護する事で共闘を続ける意思があると態度で示す事が出来る。 後は、『鬼狩りをよこせ』と言ったり、強引に奪おうとしたりしなければ、話を聞いてはくれるだろう。 「そして、エリューションのデータですが……」 彼女がさっと纏めたメモによれば、エリューションはフェーズ2のビーストが2体。 「虎はスピードと攻撃に。熊は防御と攻撃に特化しています。攻撃に関しては相当なものを持っているので、油断すれば危ないですよ」 俊敏に動き、鋭い一撃で攻める虎。そして、防御を固め耐えつつ、爪牙で引き裂く熊。 両方とも近距離に特化していそうではあるものの、遠距離を攻める術がないわけではない。 「虎の彷徨は大気を震わせ真空の刃となり、熊のほうは背中に出来た突起物が、砲弾のように飛びます」 近距離では最大火力を誇り、遠距離でも周囲を一気になぎ払う強烈な一撃を持つエリューション達。 山の中であるために身を隠す事もしやすいが、エリューションの攻撃を受ければ木々など簡単に折れてしまう事は言うまでもない。 「どう戦うかは皆さん次第ですが……高原さんはこちらの指示を受け付けません。彼が倒される前に、勝負を決める必要があります」 和泉はそういうが、高原の無事さえどうにか確保すれば時間をかけても問題はない。 どう、立ち向かうのか。それは、戦場に赴くリベリスタ次第だ――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月14日(金)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●修行をするなら…… こう尋ねられれば、大半の人は『海』ではなく『山』と答えるだろう。 高原もその『山』と答える側の人間だったようだが、彼が修行を行っているのは人里からは遥か遠くに離れた山の奥。 「まったく……なんと辺鄙な場所だ。高原を無事補足できたので良しとするが……」 などと『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561) が思った事を素直に口に出してしまうほどに、そこはもう、秘境だとか言われてもおかしくはない場所だった。 「確かに修行をする、という雰囲気は出ていますけどね……」 そう呟きながらも全速力で突き進む『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105) が足場として蹴るうっそうと生い茂る木々や岩は、人の手がこの場には及んでいない自然の姿のまま。 だからこそ、修行をするには最適のロケーションだと高原は感じたのだろうか。 「まずはその高原さんを早く見つけなければ」 常人ならばおよそ迷うだろうこの場所で、高原を見つけなければ何も始まらないと言うのは、『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)だ。 しかしリベリスタは常人ではなく――こんな所であっても、人を探すくらいの術は持っている。 「地図はもう役に立ちそうもないですね……」 「戦闘の音は聞こえないね、始まってないのかな」 ここまで来てしまえば、『下策士』門真 螢衣(BNE001036) の言うように地図は意味をなさない。が、確実に近づいている事は間違いない。 間違いはないが、『ブレイブハート』高町 翔子(BNE003629) がまだ戦闘が始まっていないのではと思う程、周囲から聞こえるのは草木が風に揺れる音ばかり。 ――否。 翔子が感じたことが、事実だった。 「2匹か」 虎と熊。2体のエリューションを前に、高原は剣を構え何時でも斬りかかれる態勢をとっていた。 目の前にいる敵は、アークのリベリスタが束になってやっと相手の出来る強敵。だが、高原はそんな知識を持ち合わせてはいない。 「相対するだけで分かる。強いと。だが……格好の修行相手だ、ここで負けるなら復讐など無理だろうよ」 それでも、肌で感じる事は出来ている。 と同時に引く事が出来ない事も理解していた。 (相手は獣。引けばその瞬間が命取りか) 戦意を失い逃走すれば、それは獣達にとって格好の餌となる事を意味する。食われるだけの餌と違う点は、自身には刀と言う牙があり、戦える事。 相手は引かせてくれる相手ではない。どれほど強さに差があるかは完全にはわからないが、この戦いに勝つ事も修行と高原は割り切った。 それも、『鬼狩』を使わぬままで――である。 「こんな所に居たのですね、高原さん」 その様子は少し離れた所に到着した『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)の目にも映っていた。 コンテナバースでの戦いから久々に見た高原に、見た目はともかく雰囲気は少し変わったような印象を受けるリセリア。 「あの時ほど、ギラついてはいないようだな」 隣に立った優希も同じ意見のようだが、それはリセリアが過去、高原に投げかけた言葉が届いたのだと彼は理解している。 『仇に辿り着く前に破滅しては意味がない』 その言葉が届いているからこそ、彼は今、鬼狩を振るってはいないのだ。 「それが今のこいつの心境、か」 高原の姿と2人の言葉に自身の知り合いを思い出し、比べる『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は『なるほどな』と言ったような顔を浮かべ、軽く頷く。 が、会話をしている間にも、2匹の獣と高原の戦いはいつ始まってもおかしくはない気配を見せていた。 「それより、早く行かないと!」 ここからが本番だと『骸』黄桜 魅零(BNE003845)に促され、進むリベリスタ達。 ヒュン! そんな彼等の耳に届いたのは、飛び掛った虎の風を切るような音。そして虎に一太刀浴びせようと、刀を振りきった高原の姿。 まさしく、一瞬のやり取りだった。 「……なるほどな」 腕に出来た傷と流れる血を気にする事もなく、再び構えなおす高原と、無傷のままの虎を見れば、実力差はかなりあるのだろう。 果たしてリベリスタ達は、高原を倒されずにこの戦いを終えることが出来るのだろうか――。 ●風の虎、山の熊 「一度信頼を失っている相手に、再び信頼していただけるまでは道程は厳しそうですね」 前へと進む仲間達の背と、そして高原の姿を交互に視線に映した星龍は、高原と共闘するまでが難しいだろうという見解を示していた。 彼がこう考えたのも、無理はない。 『アークは長岡を探し出す。高原は長岡を倒す事に協力する』 過去に彼と接触した時の報告書には、確かこんな形の協力体制を取ったという報告があった。 後は上手くコトが運べば、高原の手にする鬼狩を回収する事も出来ていただろう。 しかしアーク側が情報をまともに得られぬまま、『鬼狩を渡せ』と自ら協力体制に泥を塗り、高原を反目させた経緯がある。 「やるしかないですよ。自分は言葉ではなく、戦いの中で彼の信頼を得てみせます!」 それでも共闘を成立させたいと思う亘は、並々ならぬ決意を持って前へと進む。 ――が。 「一人で相手にするのは、流石に無茶が過ぎますよ。――勝手ながら、援護させていただきます」 「アークか……」 半ば強引に割り込む形で最初に援護に入ったのが、知った顔であるリセリアだったのが幸いしたのだろうか。 高原は『勝手にしろ』という態度を見せはしたものの、拒否するような素振りはない。 「復讐の放浪者よ。貴方独りで何ができるっていうの? 復讐は一人で成し遂げたいだろうけど、この戦闘、復讐とは関係無いから」 「潔さなど自己満足に過ぎません。あなたは意地や誇りを理由に、その先の戦いで救うであろう方々の命を見捨てるのですか?」 加えて一人で戦うなという魅零や螢衣の言葉を受ければ、 「俺はお前達の尺で言うならばフィクサードというヤツだ……リベリスタとやらとは違う」 と螢衣には軽く反論を入れたものの、半ば押し切られる形でそういう会話もある程度できる状態にまでにはなったようだ。 この後に本題に入れるかどうかは、先程亘が言ったように戦いの中で信頼を勝ち取るしかない。 「速攻でクリアかよ」 「女ってすごいな」 だが、そこに至るまでのステップをいとも簡単にクリアした彼女達に、猛と優希が舌を巻く。 こういう状況では返答する間も与えず押し切る事も必要だ――という事なのだろう。 「気をつけて、攻撃が来るよ!」 そんな折、高原にオートキュアーを施していた翔子の一言がリベリスタ達の意識を一気に戦闘へと引き戻した。 一気に膨れ上がった敵の数に、一々構ってはいられないと判断したのだろう。熊の撃ち出した砲弾が木々を薙ぎ払い、リベリスタ達へと降り注いでいく。 『なぜ、そこまでして俺を助ける?』 本来ならば、放っておいても良いはずだ。なのに、現れた8人のリベリスタは自分の援護をしようとやってきている。 「人を救いたいのって、普通のことじゃないかな? 仇が取れなくなるとか別にして、ただ単純に救いたいと思う」 高原の表情を察したのか、ふと翔子がそう言った。 (俺が見誤った。……そういう事か?) 軽く翔子に視線を向け、再び虎へと剣を構える高原。山に篭って心身を鍛えなおした今だからこそ、彼にはわかる。 リベリスタの本質は、こうなのだと――。 そうこうしている間にも、戦いはなだれ込んだリベリスタの助成によりパワーバランスを大きく変化させていた。 「あっちはひとまずの目的を成した。葛木、とっととカタを付けるぞ!」 「あぁ、派手に暴れてやろうぜ……焔!」 熊に張り付いた優希と猛がほぼ同時に放った土砕掌が、その体内にまで影響を及ぼし熊の動きを止める。 「やっぱりね。どんなに違っても中身は同じものがつまってる、故に、斬れない訳が無い!!」 いかに強力なエリューションとはいえ、生物ベースならば構成物は違えど、構成自体はさほど変化がない。 そう判断し、直前に放たれた虎の咆哮に大きな傷を負いながらも、果敢に暗黒の瘴気に変えた己の生命力を叩き込んでいく魅零。 「あまり無理をしないでくださいね! 自分には、いえ、自分達には信頼出来る仲間がいるんですから!」 亘がそんな声を飛ばすほど、咆哮によって彼女や周囲の仲間が受けた傷は大きく、攻撃に特化した2匹のエリューションの火力は並大抵のものではない事をリベリスタ達は改めて認識する。。 「おん・きりきり・ばさら・ばさり・ぶりつ・まんだまんだ・うんぱった……」 リベリスタ達に対抗する手段があるとするならば、螢衣の展開した守護結界で、わずかでも防御力を上げる事くらいのものであろう。 「長期戦は不利ですね。ならば、速攻です」 「……まずはこれを倒す!」 星龍の言うように長期戦は不利でしかなく、勝機を見出すなら、速攻で戦いに決着をつけるしかない。 後方からの星龍の援護射撃にタイミングを合わせ、翔子の強烈な一撃が熊の脳天に叩き込まれると、 「フラフラじゃないか、そろそろ倒れろよ!」 「もう1度だ、いくぞ!」 猛と優希が再び土砕掌を放って翔子に続く。 見るからにボロボロなその姿は、最早倒れてもおかしくないだろうと誰もが思ったはずだ。 「気をつけてください!」 だが熊の目に込められた殺気がより一層強みを増した事に気付いたリセリアの注意が飛ぶのと、その爪牙が翔子を薙ぎ払ったのはほぼ同時だった。 「うぁっ……く、ぅ……! まだまだ、戦えるよ……!」 実力の差を見せ付けられるかのような一撃に、倒れこみながらも気迫で立ち上がる翔子。 「精神が肉体を凌駕する、か。良い気迫だ」 彼女の姿に、高原はそう言いながらもリベリスタの戦いに対する心構えを感じとったらしい。 (俺に真似できるか? いや、出来ずとも学ぶ事は出来る) 過去の自分を思い返せば、復讐心だけが戦いの原動力だった。しかし、今は違う。 「さぁ、残るは虎だけですよ!」 アル・シャンパーニュを放ち熊にトドメを刺したリセリアや、リベリスタ達の戦い方を学ぼうと思うほど、視野は広くなっている。 「やってみせるさ……!」 強き想いを剣に乗せ、高原の斬撃が虎を斬る。 『グルル……ガァァ!』 手傷を負い、怒りに任せて高原を睨むものの、速度に自信のある亘も獣にとっては目障りでもあった。 「残念ですが自分を喰い殺さない限り、そのスピードでは自分を越えられませんから」 獣に言葉が通じたのかはわからないが、獣は亘の挑発に乗り、その爪と牙を持って彼に襲い掛かっていく。 しかしすでに片割れを倒され、9対1となった戦況を覆す事は、いかにフェーズ2といえども難しい。 「おん・ころころせんだり・まとげいに・そわか」 「ありがとう、これでもっと戦えるよ!」 さらには倒れかけていた翔子も、螢衣に施された傷癒術で戦えるまでに傷を癒しているのだ。 「この銃にかけて必ず打ち抜くのみ。いきますよ」 星龍が放った弾丸が先駆けとなり、一斉攻撃で虎を攻め立てるリベリスタ達。 対する虎も優希の壱式迅雷を避けてその素早さを見せ付けるが、全てを回避しきれるほど、彼等は甘くはない。 「……チッ、予想以上に早ぇ……! けどなぁ、こっちもただ戦いを何個も潜り抜ける訳じゃ、ねぇんだよぉっ!」 「外さないように……正確に!」 優希とほぼ同時に攻撃を仕掛けていた猛とリセリアの苛烈な攻撃はついに虎を捕捉し、翔子が、魅零が、高原が続く。 「高原さんもそのようでしたが、自分にも退くという選択肢はない。だから、これで……決める!」 全ては、高原を救うために。 気迫と共に放たれた亘の刺突は、見事に虎の心臓を貫いていた――。 ●剣と鏡、そして玉 「やれやれ、相当な強さでしたね」 倒れた2体のE・ビーストにまだ動きがないか警戒をしつつ、仲間達の方へと近づく螢衣の口から、そんな言葉が漏れ出る。 猛や優希もまだ構えを解いてはいないが、虎も熊ももう動き出す気配はない。 しかしリベリスタ達の大半も、そして高原も、誰もが決して無傷で済んだ戦いではなかった。 「援護がなければ、もっと被害があったかもしれません。ありがとう。さすがはフェーズ2……ですか」 そんな戦いに勝利する事が出来たのは、星龍が礼を述べる通り、やはり螢衣が援護に徹した点が大きいだろう。 「力押しでは、辛い相手でしたしね。さて……あちらはお話が始まったようですよ」 そして2人に合流した亘が視線を移した先では、いよいよ仲間達と高原の会話が始まろうとしていた。 「んじゃ、本題に入らせてもらおうか」 「鬼狩ならば、渡さんぞ」 本題――猛の言ったその言葉を、高原はやはり別の意味で受け取ってしまったらしい。 コンテナバースでの戦いにおける経緯と、そこからまったく接触が無かった事を考えれば、これは仕方のない話でもあった。 「いえ、鬼狩に手を出す事は絶対にやりません」 「復讐をしたいならば止めはせんし、鬼狩も奪わん」 対するリセリアと優希が同時に否定する様子が、高原にとっては少し面白く映ったのだろう。 「ふ……ははは、じゃあどんな話なのだろうな? ヤツでも見つかったか?」 恐らく婚約者を失ってから初めて浮かべたであろう笑顔で、彼はリベリスタ達の本題の片側を当ててみせた。 しかしこれは偶然や勘で当てたものでは決してない。 (コイツ等が俺に用事があるとするなら、鬼狩かヤツの話以外にはあるまいよ) そう高原が考えるとおり、リベリスタと高原の接点はこの2つしか存在してはいない。であるが故に、その言葉が出たのは当然だった。 「ああ、捜している男が姿を現した。別人に姿を変えるだけじゃなく、殺されても死なないらしいがな」 優希は言う。 婚約者の仇として高原が狙う男――即ち長岡についての情報を。 「お前さんの復讐者の情報を教えてやる代わりに、鏡と玉だとかそういう鬼狩り関連情報を教えろ。……こっちも適当に気に留めといてやるからよ」 そして猛が続く。 情報のギブアンドテイクをしようと。 「鏡と玉があれば、その鬼狩って剣をもっと安全に使えるんだよね」 リベリスタ達とて、ある程度の事は万華鏡から得た情報によってわかっている。魅零の言葉はそれを端的に表していた。 「そうらしいな。俺にはそんな物は必要ないが……これを読め。その方が早いだろう」 それでもその情報を得たいと言うリベリスタ側に対し、高原は考える素振りすら見せずに、鬼狩の書を手渡して応える。 (信頼は得られたのでしょうか) その姿に、リセリアはそう感じずにはいられなかった。 猛が手渡された書物に目を通し、素早く情報を拾い集めていく間、リベリスタ達は代価として持ち出した情報を高原に伝えていく。 姿を現した長岡が、龍玉というアーティファクトを狙い、ルーナという少女を連れ去った事。 彼女の姉のサニアをアークが無事に保護し、それ以上は問題を拡大させなかった事。 「なるほどな。俺のような人間を、また増やしたのか」 「あぁ。こちらもルーナという人質を奪還せねばならなくなった。ここは利害の一致ということで、共闘することはできないか?」 端的ではあるが、これまでの顛末を伝え聞いた高原に、優希が言う。 「私達と一緒に来た方が、長岡って人と戦うには一番手っ取り早いと思うんだけど、どうかな?」 「遠回りか近道か、選ぶのは貴方だけどね」 続いた翔子と魅零は、『成し遂げて欲しい』という素直な気持ちを込めて高原へと言葉をかける。 彼女達の気持ちが、届いたのだろうか。 「ふ、良いだろう」 再び笑みを零した高原の答は、それに応えるものだった。 ただ復讐だけを誓い鬼狩を振るった過去と、共闘を受け入れた今とでは、その気持ちには変化が生じていたらしい。 (以前の俺なら、それでも1人で動いていた……だろうな) そう思うほどに、昔の自分はそれ自身が全てを拒絶する刃のようであり、今の自分は仲間という鞘を得ようと思うだけの余裕がある。 「今の俺があるのは、お前達のおかげかもしれんな」 「これから、よろしくお願いしますね」 高原とそんな会話を交わしたリセリアは、今度こそ付け焼刃の協力体制ではないことを実感した。 もう、彼はカテゴリー的にはフィクサードではない。長岡という悪を倒す、リベリスタと分類できるだろうと――。 「ところで、何かわかりましたか?」 「それなりにはな。纏めると……」 そんな会話の向こうで、亘の問いかけに猛は知った情報を次々に流し始めた。 剣と鏡は相反する存在であり、同時に使うには玉が必要だという事。 相反する存在の鏡とぶつかれば、どちらも壊れてしまう可能性が高く、注意が必要だという事。 玉さえあれば、剣と鏡、どちらか単体であっても使い勝手が増す事。 「鏡については、詳しくはわからないな」 「だが、先日長岡が奪った龍玉というのがその書物にある『玉』を意味しているならば、長岡が次に狙うは『鏡』だろう」 猛の言葉を遠巻きに耳にし、次の長岡の行動を推測する優希。 その推測が当たっていれば、その時こそが長岡を討つチャンスだと言えよう。 「それじゃ、帰ろうよ。下山も相当時間がかかっちゃうしね」 「待て、せっかく岩魚が釣れているんだ、食っていけ」 ならば帰ろうと言う魅零の言葉を遮り、釣り上げた岩魚を見せる高原。 これが彼なりの、リベリスタ達に対しての礼なのだろう――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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