●熱波再び(神秘) その日はとても暑かったので、何人か倒れることは仕方のない事だったといえる。 その二日前に大雨が降ったので、確かに湿気が多かったのも頷けただろう。 不快指数が残暑と言えないほどにガチ上がりしている現状において、陽炎の向こうから「それ」が現れた事態は正直なところ、本当に勘弁して欲しかった。 「残暑! いい言葉じゃないか! まだ暑いんだ! もう少し頑張れるだろう!」 ああ、もっと頑張りたかったよ。お前さえいなきゃな。 そして、熱波が吹き荒れる。 ●スチーム(神秘) 「……なあ」 「……はい」 「あいつ、前撤退したよな? あいつ一度ぶっちめたよな?」 「残念ながら僕のログにはありませんね、『倒した』っていう結論は」 ブリーフィングルームでリベリスタに詰め寄られながら飄々と受け答えをする『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)は、しかし多少声が上ずっているようにも見えた。 一応、予想外だったらしい。 「フィクサード『灼熱魔神』……二ヶ月半程前に姿を現し、ビジネス街に混乱をもたらしたフィクサードです。経歴・ジョブ・その他不明点が非常に多いですが、メタルフレームであろう、ということは仮に判明しています。 腰にタオルを巻いただけの簡素な格好でタオルを振り回す変態ですが、アーティファクトなのでたちが悪い。所持アーティファクトは『籠龍・改(ラオリュウカイ)』、および『ファントムタオル』で」 「いやいやいやいやいや、おかしいだろ!? なんだよその『改』って! 『ブースタオル』じゃねえのかよ!?」 「僕知りませんよそんなん」 ツッコミが入った。 そう、前回のリベリスタとの交戦においては、『籠龍』と『ブースタオル』、だったはずだ。なんでパワーアップしてんだよ。 「まあ……経験って大事ですよね、何事も」 顔を逸らした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月12日(水)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●だからマジ落ち着けって 青天(あお-てん):青天井の略。転じて、アメフト用語で仰向けに倒された状態。最も恥ずべき姿勢とされる。 何が言いたいかというと、『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)は青天になっていた。 彼女に足りなかったものは覚悟とか度胸とかそういったものではなく、アレだ。 多分、紅茶が足りなかったんじゃないだろうか。 紅茶が足りないならしょうがないな。 「はーっ、はっはっはァ! 君達はもっとヤれるのではないかね? もうちょっと! 頑張って! 戦い給えよ!」 ああ、こいつウゼぇな。灼熱魔神っていうか灼熱の変態だろコレ。 「上ッ等ォ……!」 そんな相手に口元を拭いつつ舌打ちし、悪態をつくのは『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)。やや疲弊の色が見られるが、まだ戦えるとばかりの威勢だ。 リベリスタ達の表情は一様に、驚愕と焦りに彩られているが――まあ、取り敢えず。現状を簡単に整理しよう、と思う。 回想とも言う。 「はぁ……素敵な筋肉……あ、いえ、すみません、なんでもないです……」 あれ、回想の場所間違えただろうか。いや、大丈夫だ。これはアレだ、『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)の心の叫びだ。 言い間違いじゃあないだろう。憂いを帯びた声色のどこが戦う姿勢なんだコレ。明らかに眺めに来てるぞ。 「……早めにお帰り願いましょう」 やや憂いを残す声色でチラッチラッと灼熱魔神の現れるであろう地点に視線を向けつつ、彼女が何か脱いでる気がするんだけどこれはどうなの。 え、下は水着? なに、白スク? 透けない? ……そうな。暑いなら仕方ないか。 「みなさんも脱いだほうが……暑いですよ?」 「脱がねえよ! そもそも変態ってなんでどいつも服着てねーんだよ……いや、服着てねーから変態なんだな」 よし、『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)、君はちょっと周囲を見回すんだ。今の一言とか完璧煽ってるぞ。 わかるけどな、君がなんでか唯一男性の参加者であることとか、変態って理屈じゃないよねとか分かってるけど。 「一般人に人死にを出すっていうのはダメだな」 異常に歪な手甲を構え、軽く拳を振るう『そのお見舞い、お断りします』滝沢 美虎(BNE003973)の外見は褌にサラシである。 ……いや論点そこじゃねえよ! 称号! そこまで覚悟決めてこなくていいよ! 何だよ褌って! スタイリッシュお帰り下さいだよ! 倫理機構的に! 「またか……変態フィクサード!」 以前、駆け出しの頃に一度交戦経験のある一ノ瀬 すばる(BNE003641)にとってこの相手はこう、非常に忌々しい相手であろうことは簡単に想像できた。 だが、ちょっと待ってほしい。革醒者であるヘキサには視えているが、すばるってば水着だ。 前回すげえ暑い思いしたから今回はとか、そういうものはないらしい。無いんだな?(確認) いやそれにしたってこれ。目に悪いっていうか。ヘキサ的な意味で。 「……と、とにかく! 目に猛毒すぎだからソッコー来世まで蹴ッ飛ばす!」 ヘキサ、気合を入れなおす。……だが、この時点で数名ほど敵に回した。 「どうして、フィクサードには時折こんな変た……もとい、奇特な趣味の人が居るのでしょうね」 『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)の呆れたような……というか、理解に苦しむ言葉は理解できなくもなかった。 だが、変態だからフィクサードになりうるのか、といえば否であることも事実だ。 何せ、アーク陣営の変態ぶりはフィクサード側にも割と広まりつつある部分がある。フィクサードと同じ土俵に立つ(いろんな意味で)リベリスタが変態じゃないと誰が言えるだろう。 一方、『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)とかはもう突き抜けていた。 メタルフレームの面子を潰されたような気分になるこの相手をして、ここで確実に殺したいなどと思う気持ちも分からなくはない。 何せ、彼女もまた、二度めの交戦だ。何度も邂逅したいような相手ではないことは十分に分かる。 ……だが、そんな願いが叶うかどうかは、その決意に比例する。 「はーっ、はっはァ! いきなりの! 足止めと来たか! リベリスタ!!!」 ああ、やっぱりウザい。 体育会系と呼んだらリアル体育会系にリンチされかねないが、筋肉のボリュームとその爽やかすぎる笑顔は明らかにそんな感じである。 灼熱の領域をその身に纏って現れた彼に、周囲の一般人の発汗量が増え、目からハイライトが消え、コンビニは人口比率がえらいことになる。 だが、そんな中でも筋金入りのイロモノ好きも存在する。 唐突に着衣を抜いだ……筈なのに着ているようにも感じられる少女とか。 水着少女とか。 「あっつ……なぁにィあれェ……?」 「やだ、『アーク』ってAV企業か何かかしら……こんな昼間にあんなコが……?」 「あ、あたしは変態ちゃうからな!」 すばる、もうキミは戻れないところにいるんだ。諦めなさい。 「大人しく撤退するなら良し。さもなくば命を覚悟する事ね」 「なに、命がけの殺仕合か!! 生き急ぎ過ぎではないのか! 少女よ!!」 だのに、そんな状況でも『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)は一切のクールタイムも無く魔曲をぶっ放そうとして……目の前に現れた陽炎、否「かげLAW」に阻まれた。 一瞬にしてぞろぞろと現れたそれらを前に舌打ちをしつつ、彼女は飽くまで冷静に戦いを挑もうとしていた。 ……いろいろなものを無視して。 彼女の冷静さが暑さで跡形もなく溶けきっていたことにリベリスタが気づくのは、概ね二十秒後である。 ●※ギャグシナリオです 「貴方……その肉体、どうやって手に入れたんですか……?」 『はっはっは! 己の鍛錬の賜物に決まっているではないか!!』 かげLAWの捕捉とほぼ同時に、リンシードが駆けた。 ほぼ一瞬、間合いに十分に踏み込んだと思ったところで振り絞った全力の一撃は、しかし本体ではなく、それを庇ったかげLAWに突き刺さる。 だが、それを受け止めて魅了されたから喋った、のではない。 かげLAWには言語能力がない……つまり、これを述べたのは、後方でタオルを構えた『本物の』灼熱魔神だった、ということ。 「コレでも食らっとけよッ!」 ヘキサがすかさずカラーボールを投げつける。陣形の隙を突いたか、はたまたその速度が故か。 この状況にしては奇跡的に、魔神「本人に」いずれかの状態を呼び込んだといえるだろう。 明確な、目印という形で。 だが、それを追うようにして放たれたエーデルワイスの速射は、鈍い音を立ててかげLAWに阻まれる。 かげLAWは、実のところに弱い。 だが、それは飽くまで単体としての考え方だ。 召喚した主、その防衛に動くのは何も人間ばかりではない。 ……要は、彼ら側にミスがあるとすれば何よりも先ず、第一に――『本体がかばわれる』という可能性を考えなかったことだ。 速度に秀でるメンバーの攻撃が辛うじて通るか、否か。 即時に排除しきれるとしても。 本体を確実に攻撃するタイミングは、彼らの想像した以上にシビアだったのだ。 ……まあ、範囲とかぶっこめば容易に崩れる状況ですけどね。 「素敵です……」 ああ、そうなリンシード。 ネタだもんな。分かるわ。 「あたしの顔忘れたとは言わんよなあ? それともなんや、頭のぼせ過ぎて忘れた?」 「…………」 すばるの問いかけに灼熱魔神、無言で顔を背けた。駆け出しであった相手のこと、或いは多くの経験に埋もれた相手だったことが作用したのか……まさかの反応すぎて周囲の空気も凍り付く。暑いのに。 流石にこれはすばるもカチンときたか、叩きつける暗黒の威力も一際であった。 本体には徹らなかったとはいえ、陽炎全てを吹き飛ばすことに成功する。 「というか、混沌を呼び起こすのに『LAW(秩序)』なんて皮肉ですが、単なる親父ギャグですか!!!」 「ははは、慧眼だなキミは! だが! いいじゃあないかそのあたりは!」 おいごまかすなよ。 何か胸元にマジックアロー突き刺さってんぞ。クリティカルじゃねえのか。涼しい顔すんなよ暑苦しいくせに。 で、その表情のまま熱波を吹き飛ばすのだから始末に置けない。 間合いに踏み込んだメンバーは兎も角、熱波にさらされた後衛はひとたまりもない。 返す籠龍・改の挙動が大げさすぎる。ウザい。 「……そもそも、お前はこんなオフィス街のど真ん中で何がしたいのだ?」 『決まってるだろう!』 『私の、否、我々の情熱が為! 細々とした理由など後から付いてくるものなのだよ、少女よ!』 「……器用なのだ」 美虎の問いに対し、かげLAWを用いて答える灼熱魔神。流石に、そこまで腹話術を駆使することの出来るならもうちょっとやりようがあるだろうとか、そんな特技要らねえだろというか。 「歪んだ常識叩き直してやるよ! 歯ぁ食いしばれぇッ!!」 だが、そんな会話ですらもヘキサにとってはまだるっこしいものであったことに違いはない。 かげLAWたちの『かばい合い』を凌駕して一発を叩き込める分、彼の優位は揺るがないだろう。 「筋肉がいっぱい……」 なあ、リンシード。 キミは本当に……ぶれないな。 そういうところは何かもう素晴らしいのでええともっとやれ。白スクとか。 あ、因みにこのタイミングでアル・シャンパーニュがクリティカルでぶっこまれました。 魅了されました。 ……ええ、ええ。 数瞬を置いて、かげLAW達は彼自身の手で消滅させられました。 因みに。 このタイミングの間にあれこれ攻防とかあったんですよ。 当然、ちょいちょいフェイト復活とか絡んだり激しい部分はあったんですよ。 概ね言うところ二ターン。概算三ターンなわけだが……灼熱魔神には、未だ余裕が感じられた。 何なんだろうこの余裕。 ●変態の倫理観なんてそんなもん かげLAWは基本的にウザい。 範囲攻撃に巻き込んで、何とか数を削ることが出来るものだというのは正しい。 ……だが、ちょっと待ってほしい。君達の戦っている場はビジネス街のど真ん中だ。 そりゃあね? 近接攻撃とか、拡大解釈して暗黒辺りはいいと思うよ? 陽炎舞ってる暑さだからアリかなって、思うけど。 流石にさ、恵梨香。 爆炎ぶっこんだらいくら神秘っつってもそればっかりはアウトだと思うんだよ。 五十秒ってレベルじゃねえから、それ。 (炎使いとしてこんな相手に苦戦する事はプライドが許さない) いや、まあ、魔曲に切り替える辺りは堅実だなあと思うけど。 この変態相手にプライド云々言ってたら参加メンバーの大半はへし折られてるから、こう……な。 「腕を上げたようだけどまだまだね、特に腰の動きが! 腰の動きが!」 「むぅ……ッ、その物言いは気にかかるな! 私に! 劣るところがあるとでもいうことか!!」 ええ、ここで腰振ってんですよ。両手を頭の上に載せて。全く吹っ切れた変態も居たもんである。 「ウザいです、物凄く! この場から退場ではなく、いっそこの世から永久退場してください!!!」 「ははは威勢がいいな! 少女よ!! キミならば」 「言わせませんからね!?」 麻衣は絶対者である。 だが、絶対者でも……やりきれない怒りくらい、在ると思うんだ。 「アークの変態の中にはそれ以上の腰振りがいるわよー?」 ざわっ、と微妙にできていたギャラリーがざわついた。 (あれを超える……アークってやっぱり……?) (すげえなあアークって。何か出たらチェックするわ……) どうすんだよエーデルワイス、アークの印象がまた某所向けにすげえ伸びたぞ。 「あんたが暑苦しいのは、ようわかったから! もう、帰れやぁぁぁぁーッ!」 すばる、決死の猛攻(水着)。 「ああ……筋肉がいっぱいで、幸せです……」 ええとリンシードさん? 恍惚としながら刃を振るう貴女の姿、流石に見ていて心配になるですよ? 白スクだし。 白スクだし。もっとやれ。 「テメーだけは、オレが蹴り殺すッ!!」 「はははははっ! 少年、その威勢の良さは!! 買うぞ!!!」 全力で戦っているのにこの扱いである。ヘキサ、そろそろまじめに戦っている自分に疑いを持ちかねない。 ……いい子なんだけどな。 全力対全力、普通に考えればリベリスタ側が凌駕しうる状況すらも対応しうる灼熱魔神。 時間は既に――十秒を切ろうとし、全員の顔に明確な焦りの色が浮かんだ、そのタイミング。 「その力を振るって人殺しがしたいのか? お前がそのつもりがなくっても、こんなに人がいる場所で力を使うっていう事はそういう事だぞ?!」 「……え、いや――耐えない、のか?!」 「「「え?」」」 美虎の何気ない問いかけ、というか説得だった。 彼女としては、よもやそれに気づいていないとは思っていなかった。 リベリスタ達だってそうだ。そんなもん予想外だ。 彼女の言葉に反応して、アーティファクトの発動を止めた彼の目は恐ろしいまでに澄んでいる。 「お前の気持ちはよく分かったから、今日の所はもう帰るのだ。力試しがしたいだけなら、次は人が居ない場所でいくらでも相手になってやるのだ!!」 「……フ。そう言われてしまっては仕方ないな! 諸君、また!! 会おう!!!」 こんなオチでいいんだろうか、とヘキサがふらつく体にムチを打ちつつ立ち去ろうとする。 リベリスタ達にその後シャワールームが供されたのは言うまでもないが、消えない傷(評判的な意味で)が残ったのもまた、言うまでもない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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