●幕張爆破事件。その一般的認識。 千葉県海浜幕張海側の高層ホテルの最上階が爆発し、大量の瓦礫や現金が降ってきたという事件が発生。 原因不明。被害者不明。加害者不明。 これほど大規模な出来事にも関わらず、現場を目撃した人間は空から金と瓦礫が降ってきたこと以外は何も覚えていないという怪事件である。 だが現場周辺は様々な形で混乱。これ以上の混乱は犯罪の頻発を招くとして近隣区域は封鎖された。 元々居住区の少なかったこの土地は、一時の平穏を迎えた……かに、思われていた。 この影にフィクサード達の力があったことなど、一般人たちは知る由もない。 ●風紀委員会、条霊執行。 いくつかの船舶が某製鉄工場西地区の輸送ポートを出港。千葉湾を迂回して美浜区の砂浜を目指していた。 巨大なコンテナ輸送船である。通常さまざまな工業的用途で使用される船で、今も大量のコンテナが積み込まれている。 だが、そのコンテナに内包されているのは大量の人間。それもフィクサードの軍団であった。 そしてコンテナの脇にはこうだ。 『我等正義の信仰者也 風紀委員会』 そう、これは輸送船に見せかけた風紀委員会の強襲船なのである。 「委員長、見えました。あれが例のビルです」 「……そう」 眼鏡に三つ編み。一見大人しそうな外見の少女。 彼女は名を風紀四条。一般人・E能力者問わず悪に鉄槌を下し続けてきた風紀委員会の委員長である。 四条は書類の束を風になびかせつつ、隣の男を横目に見た。 「いいわ、始めて」 「ハッ!」 きびきびとした敬礼をし、男はインカムのネジを捻る。 タブレット端末にいくつかの情報を表示した。 「我等はこれより幕張ベイ攻略を行う。敵は中国マフィア組織と手を組みこの土地を拠点にし始めたフィクサード組織『南錠会』! 彼らはあろうことか人々の憩いの場であるホテルと周辺ショッピング施設を事故に見せかけ占拠! 無数の罪無き一般人を虐殺しただけでなく、一帯を何らかの拠点に作り替えようとしている! これは社会の崩壊にして悪の所業である! 各隊、彼らを許せるか!?」 「エリーズ隊、赦せません」 「トーラス隊、同じく。奴等に死の贖罪を」 「ジェミニ隊、私刑を望みます」 「キャンサー隊、彼等の首を残らず切り取ってやりましょう!」 「四隊中四隊の私刑承認を得ました。委員長……!」 男に視線をなげかけられ、風紀四条はゆっくりと頷いた。 紙束を投げ捨て、海へと散らす。 「群衆の意思を受け、委員会の活動と認めます。執行準備」 四条は目を瞑り、耳に手を当てた。 男が声を張り上げる。 「兵隊の頭数は我々には及ばないが、個々の戦力は恐らく我等を束で薙ぎ払う程だろう……。 だが恐れるな! 我等は正義の信仰者にして弱者の群衆。数の力を思い知らせてやれ! 各隊、発進!」 「「条霊執行!!」」 ●アーク・ブリーフィングルーム。 ここまでが、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)からの説明である。 和泉はタブレット端末を人数分に配り、資料を表示させた。 「現在、逆凪傘下組織『風紀委員会』が海浜幕張へと進撃。大量の人員を率いて強襲作戦を行おうとしています」 それだけなら、悪を倒す正義の味方で済む話だ……だがしかし。 「このまま風紀委員会と南錠会が戦争状態に陥れば、近隣に取り残された一般人やビル内で人質にとられた一般人が確実に被害者となるでしょう。原因は様々でしょうが、戦争そのものが崩界を招く可能性も否定できません」 どうやら南錠会は一定のラインを越えて来ない限りは抗争は起こさない方針らしく、そこに至る前に風紀委員会を退かせることができれば戦争状態を未然に防ぐことができると言う。 つまり今回の任務は……そう。 「風紀委員会を迎撃、撤退させて下さい」 弱者の群にして群衆による制裁者。風紀委員会。 この軍勢は海浜公園の浜辺へ船を乗り上げ、飛行によって展開。陸側のビル街へと進軍を始めている。 現在『名もなきリベリスタの集い』が彼等の進軍を抑制・妨害し公園エリアから先には出さないよう留めている。 だがそれも時間の問題だ。 彼等のリーダー風紀四条が出て行けば、防衛線などすぐに突破されてしまうだろう。 「皆さんの役目は、風紀四条率いるエリーズ隊20名強を公園内で迎撃することです」 エリーズ隊は様々なジョブ構成のフィクサードが集まっており、当然ながら風紀四条の全体強化スキル『条霊執行』も加わるだろう。 この部隊を退かせることができなければ、防衛チームは即時撤退。任務は失敗となる。 「以上です。南錠会との抗争が勃発すれば、付近一帯は完全な戦争の場へと発展してしまうでしょう……そうなる前に、皆さんの手を貸してください」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月08日(土)23:05 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●大衆派のエゴイズム 「風紀委員会、ね……」 『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は咥え煙草を足元に捨てると、爪先で踏みにじった。 「口うるさい連中ってイメージはあるが……現実はどうだかね。人の風紀を正す間に自分を正しておけ」 防風林から漏れる海風がややぼさついた彼の髪を撫でる。 「しかし、彼等もまた信仰者なのでしょう? なら侮る訳には参りません」 自らの髪を抑え、『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)は目を伏せた。 「侵攻は時に恐怖や痛みを忘れさせます」 「何にせよ、ある種の正義を掲げた人間は大変ですよ。相容れぬ者には敵対的ですからね」 襟を正して背筋を伸ばす『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)。 『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)が白衣の下からごてごてと武器を取り出す。 「まあ心意気と行動は是認するんじゃがな。とりま、南錠会はアークの得物、退いてもらう」 「そんな御大層なものですかね」 首をこきりと鳴らす『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)。 「自分たちの目的に固執して弱者にまで意識が行かないんですから。あんな技に頼って強くなった気でいられると腹が立ってしょうがないです」 「まあそういうな! 悪を倒すのも正義なら、人を守るもの正義だぜ。俺の憧れたヒーローは犠牲何て出さずに人を守ってた」 ばしばしと拳を打ちあわせる『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)。 武装準備を整えた『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が彼女達を一瞥して、海側へと意識を向けた。 「もうじききますね」 「アークのリベリスタに対抗するための戦術があるって聞いてましたけど、何なんでしょう。カレイドシステムでしょうか」 七布施・三千(BNE000346)が手の中でサイコロを転がした。 こつこつと踵で地を打つ『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)。 「私にはわかんないな。いつも通りやったらいいんだよ?」 遠くの空が黒く染まり始める。 ボディスーツとヘルメットの群集が、光の翼に乗って押し寄せる。 シャルロッテは胡乱に笑うと、弓を強く引いた。 「悪い人は、自分たちがやられる覚悟が無いとだめなんだよ」 ●少数派のエゴイズム 風紀委員会四隊の襲撃に対し、地味な妨害や抑制を図る味方リベリスタ達。彼等が時間を稼ぐ間に本隊とみられるエリーズ隊を迎撃、最終的には退却させることが彼等アーク・リベリスタに課せられた任務であった。 「どうせいると思ったわ……」 正面突入ルートを阻む九名のリベリスタを双眼鏡越しに見つけた風紀四条は、ため息と共に隊に着陸命令を出した。 「全員集中。振り切っても挟み撃ちにされるだけよ、ご退場願いましょう」 「強襲!」 隊のリーダーらしき男が腕を振り、20人のフィクサード達は一斉に銃を構えた。 翼の加護を用いた低空飛行からの襲撃である。 全身鎧に用いるような手甲を握りしめ、ギラリと五月が上を向く。 「落として下さいと言っているようなものですよ」 五月は僅かに膝を曲げると群体へと突撃。両腕から焔を吹き出し隊員二名の首をすれ違いざまに掴んだ。 強制的に墜落。後頭部から砂利道へと叩きつけられる。 「飛び込んできたぞ! 囲い込んで潰せ、10人ずつ交代して集中を挟め、並の精度じゃ掠りもせんぞ!」 五月の頭上を囲んで銃を構える風紀委員会。完璧な集中砲火だ……だがしかし! 「……」 五月は両手を大きく開くと、飛来する弾丸を片っ端から打ち弾いて見せた。 「か、固い!」 「反射持ちか。さけろ、手傷を負うだけだ! 作戦通りにいけ!」 頭上を通過して後方のチームへ襲い掛かる風紀委員会。 メアリは神気閃光でそれらを迎撃した。 「四条とやら! 戦いは確かに数。じゃが外道の南錠会の情報も知らず突っ走ると痛い目に会うのじゃ。貴重な戦力を無駄にするぞ。その力、アークに入って存分にふつうつもりはないか!」 「はァ? 逆でしょう、貴方たちがこっちの下に入りなさいよ。もしくは南錠会の戦力と武装と罠の類を教えて帰りなさい」 「交渉決裂というわけですか」 大量の弾丸が『それぞれのメンバーへ均等に』浴びせられる。 カウンターで聖神の息吹を転回する三千。 「ん、どういうつもりです?」 「考えてる時間はなさそうだよ」 シャルロッテは自分の手首を矢の先で切り裂くと、自分の周囲に血液をまき散らした。 「私の傷は全部あなたにあげるの、でもね。もっと痛いよ?」 ペインキラーが空を裂き、風紀委員会を次々撃墜していく。 その様子を確認しながら、京一は翼の加護や戦闘指揮を初めとする支援スキルでフォローを続けていた。 「まずは敵の数を減らしましょう。頭数がこちらより多いですからね」 「よっし任せろ。行くぜ大和!」 「タイミングはお任せします」 魔方陣を展開して葬操曲を連射するラヴィアン。その勢いに乗って大和はバッドムーンフォークロアを展開した。 「悪を倒すって目標は俺も良く分かるぜ。ただそのためならどんな犠牲も気にしないってのがよくねーな。マトモなやり方なら手伝っても良かったのに、残念だぜ」 「そっくりそのままお返しするわ。エリーズ隊、盾槍矢の三層で攻めて。相手はアークだから、奇襲だの奇策だのは通用しないわ。粘って、押して、潰すのよ」 戦闘不能になった仲間を下がらせつつ陣形を整えていく風紀委員会。 ラヴィアンは舌打ちした葬操曲を打ち込んだ。 「お前らが切り捨てようとしてる弱者のために、俺はお前らを倒す! 行くぜ悪党、本当の正義をみせてやる! 大和!」 「はいっ」 三人程の隊員を鎖で縛った上で、大和はオーラを解放。激しい呪殺で隊員たちを苛んだ。 対する風紀委員会も慎重にブレイクフィアーを二重がけにして類焼を防いでいた。 「何と言うか……地味な連中だな」 近寄ってくる敵をダガーの投擲で牽制しつつ、鉅は眉を寄せた。 風紀委員会の戦い方は基本『沢山守ってたまに突く』のスタイルだった。消耗を抑えるためか回復とチャージはほぼセットになっているし、攻撃のタイミングも数ターンに一度、集中を三回は挟んで撃ってくる。その間ワンターンキルをかけられないように数人同志で庇い合って壁を作り、後方から回復や支援を浴びせて粘るといスタイルである。頭数があって初めてできる作戦だが、地味過ぎてかえって崩しずらかった。 「放っておいたら『みんなーやれーころせー』になるんでしょうね。指揮が取られてると随分違うものですが……ま、いいしょう。ちょっと伏せててください」 弾丸装填を漸く終えたモニカが、微妙な位置で人間バリケードを組んでいる隊員達めがけてハニーコムガトリングをばら撒いた。 その威力たるや凄まじく、体力の半分以上を削られた隊員がそのまま別の味方にトドメを刺されて落ちるという状態が起こり始めた。 持久戦を予想していた三千は額を拭って聖神の息吹をかけなおした。 「相手がこちらの戦力を読み始めてます。脆い所から攻撃されます。気を付けて!」 「いざとなったら庇いますから。本当に持久戦になった場合先にガス欠を起こすのは向うの筈ですからね」 数ターンおきに浴びせられる麻痺や混乱といった攻撃手段は、全て京一のブレイクイービルで解除していた。風紀委員会も意味が無いと判断したのか徐々に単純ダメージに頼るようになってきている。 このままお互いに牽制し合う状況が続くか……そう思われた時だった。 「そろそろかしらね」 パチン、と風紀四条が指を鳴らした。 ●条霊執行 「来る……っ!」 三千と京一は目を開き、完全防御の姿勢をとった。 見た目で分かるのだ。風紀委員会全員の瞳孔が赤く光り、まるで全体がひとりの人間であるかようにピッタリと動きを合わせ始めたのである。 ベクターの激しい銃撃がシャルロッテへと襲い掛かる。 「させません!」 三千が割り込んで弾を受けるが、まるで違う威力に奥歯がぎりりと鳴った。 命中精度と威力の単純な上昇だと見て間違いない。時間が限定されている所から見るに、恐らくかなりの強化だろう。 「大丈夫?」 「まだ平気です、撃って!」 シャルロッテは三千の後ろからペインキラーを発射した。 だが今までとは大きく違う。 彼女を中心に大量の闇が沸き上がり、まるで雨のように矢を降らせたのである。 「ぐっ、あああああっ!」 矢をくらった隊員が全身から血を吹いて墜落。地面にびしゃりと落下した。 「あれ? 脆くなってる……?」 「みたいですね」 冷や汗を流しながら状況を見守る京一。 回復や防御については文句の無いメンバーだが、気を抜いた途端ひとりずつ潰される可能性がある。向うは低レベルとはいえ手段の種類は多い。フレキシブルな対応は得意なはずだ。 そして恐らく。 「つっ……!」 五月の胸に隊員のコンバットナイフが突き刺さった。敵はすぐさま飛び退くが、五月の棘からダメージを受けないわけには行けない。腕から血を流してはいたが……。 「メアリさん、避けて!」 「え、うおおお!?」 棘の生えた手甲で豪速の裏拳を繰り出され、メアリは全力で仰け反った。続いて焔をあげたもう一本の手甲がメアリの腹に直撃する。 「混乱か!」 「すみません」 「……構わん、ブレイクフィアーくらい用意してある!」 五月の額に手を翳すメアリ。 が、その腕を軽機関銃の弾が貫通した。そのまま腹にめり込む。 その瞬間、五月とメアリは敵の狙いを悟った。 現在三人もいる回復担当の一人、つまりメアリは防御の鬼ともいえる五月に庇われている。 その五月を一時的に混乱させてガードを外し、回復に手番を裂いたメアリを集中的に狙い落とす作戦なのだ。 「狙いははなからそっちか……!」 フェイトを削って凌ぐメアリ。 が、本当の恐怖多分ここからだった。 「大御堂すまん、避けろ!」 「無理です」 鉅のダンシングリッパーによってモニカのメイド服が無惨に破り去られていく。無論、下の白肌からも血が噴き出した。 が、狙いは勿論そこではない。 「『物理破壊』のモニカ。利用させてもらうぞ!」 ナイフを握った隊員がモニカへソードエアリアルを叩き込んできた。 モニカの視界が盛大にブレる。 「ラッキーだったぞ。お前が敵味方問わず乱射すればたとえアークのリベリスタといえど」 「緊縛ロリメイド」 「えっ」 「緊縛ロリメイドですが何か」 振り向くと、モニカは手足やその他色々を縛られてポテンと倒れていた。 切り裂かれた衣服と相まってあふれ出る犯罪臭。 それら(切り裂いたのも含めて)全てを手掛けたのは鉅だった。 「き、ききき貴様この変質者め!」 「いや同意のうえだ」 「変質者は皆そう言うんだ!」 「おいおい落ち着け」 両手を上げる鉅。 いつの間にか咥え直していた煙草から煙が昇った。 「狙われてるぜ」 「は……?」 ごう、と風が鳴った。 激しいうねりを伴い、血色の鎖が隊員の身体を縛り付けた。どさりと顔から落下する隊員。 更にバッドムーンフォークロアが吹き荒れ、風紀委員会の勢いを盛大に低下させた。 条霊執行から20秒のことである。 「ち、手ごわい!」 「潰せるだけ潰せ! 時間が無いぞ!」 混乱によるガード解除と集中攻撃の組み合わせで削り取りにくる風紀委員会。対してリベリスタ達は庇いと全力防御の組み合わせで物理的にダメージを凌ぐ作戦に出た。 無論力押しで潰されるのは仕方なかいが……執行から40秒。メアリ、シャルロッテ、鉅、モニカを戦闘不能にするだけで済んでいた。 「まだだ、ここで倒れたら何人殺されるんだか……」 額に弾丸をくらって仰け反りつつも、ラヴィアンは気合で踏ん張っていた。 「負けられねえよ。これでも俺は、正義の味方なんだからなあ!」 「セイギノミカタ、セイギノミカタね……」 パチン、四条の指が鳴った。 条霊執行が解かれる。まだ20秒は残っているのにだ。 「……どういうつもりです」 隊員の一人を足蹴にしつつ身構える五月。 突然のエンチャント解除に、風紀委員会の隊員もどこか困惑した様子を見せていた。 眼鏡を手で覆うように直す四条。 「あのねえ、貴方達……そう貴方達九人でいいわ。それぞれ市内に散って一日中練り歩いて見なさいよ。強盗とかひったくりとか万引きとか、そういうのを見つけて痛めつけて適当に逃がしてっていうのを三ヶ月続けるとする。そうしたら軽犯罪くらいは完全撲滅できるわよ」 「……は?」 剣呑な眼差しで、四条は言をついだ。 「この街には怖くて口うるさい超能力者みたいな化物がうろついているから犯罪を起こすのはやめよう。そう言う印象を国中に広めることができるのよ、貴方達がその気になればね。何なら警察機構に介入してフィクサードの摘発逃れを撲滅してもいいし、医療に介入して高価なワクチンを大量生産して配ってもいいわ。財政界に乱入して国家予算を十倍にできるし、人権保護も戦争回避も思うが儘よ。そこの……三島五月と『物理破壊』、二人をアフガニスタンの紛争地帯にでも放り込めば何十万人の命が助かるか」 「確かにそうかもしれませんが」 構えを解かずに、五月はじりじりと仲間を守る位置へ移動していく。 「そんなことをすれば崩界を過剰に促進することになります」 「だから何よ。世の中全員E能力者かノーフェイスになるならそれはそれで新しい統治の仕方に切り替えればいいだけじゃない。何をそんなに後生大事に守ってるの?」 「……」 隊員達を割るように歩み出て、風紀四条は両手を開く。 「ねえ分かる? 貴方達はそういう社会平和をサボってるのよ? 世界崩壊だか何だか知らないけど、そんなどうとでもなりそうなもののために何万人死んでも知らん顔してるのよ。見えてる範囲で『可哀そうな人』を出さずに済ませて正義ごっこ? ご高説吐いてくれるわね。イライラするわ。所詮は大組織のお零れで強くなっただけでしょうに」 「それは主張の違いですよ、風紀四条さん」 ネクタイをぎゅっと引き直し、京一が前へ出た。 同じく足を踏み出すラヴィアン。 出たとは言っても、いつでも交戦状態に入れる立ち位置だが。 「とにかく我々としては、ここを通してしまうわけにはいきません」 「犠牲者が山ほど出るって分かってるからな」 「お得意のカレイドシステムで?」 「……そうだ」 「チッ」 四条は心からいやそうに舌打ちすると、踵を返して堂々と背中を向けた。 「委員長?」 「撤収するわよ。被害を最小限に抑えて退却。装備は捨ててもいいからD地点で合流」 「……は、はい」 慌てて他の部隊に通達を入れる小隊長。 意識を取り戻したメアリやシャルロッテたちを庇うように立つ三千。 「引いてくれるんですか」 「どうせこのまま続けても泥仕合でしょう? 突入用に使うはずだった切り札も消耗したし、今日はもうやめるわ」 「じゃあ……」 「ただし」 銃を抜いて三千の方へ向けてくる四条。 モニカが目の奥を光らせた。 「十日以内に南錠会を壊滅させて頂戴。それで手打ちとしましょう。できなかったら、残り全隊投入して一帯の街ごと爆撃するわ。それでどう?」 「正直蹴りたいが……まあ、受けるしかなさそうだな」 血塗れになった鉅がしけった煙草を投げ捨てる。 「成立ね。あと煙草をポイ捨てしないで、殺すわよ」 「あの……」 てきぱきと退却を始める風紀委員会達。 大和は胸に手を当てて四条へ呼びかけた。 「貴方の定義する『悪』とは、何ですか?」 「少数派のエゴよ。それじゃあ、さよなら」 仲間に翼の加護を受けて飛び立とうとするその間際。四条は小声で呟いた。 「何でこんな連中なんかを『ホワイトマン』様が」 防風林がいくらか破壊されたのだろう。強い海風が吹いて大和の髪をなびかせる。 一斉に引いていく群衆の影を、彼女は無言で見つめていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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