●専用処刑施設『MirrorHouse Abattoir』 鏡に背をぴたりとつけ、男は銃を構えた。 男は優秀なE能力者である。 ここ狂気に満ちた処刑場に捕らわれた一般人救出の任を帯びており、ついにこの処刑場を発見、突入した。 内部は一見してミラーハウス……鏡だらけの迷路である。いくらか試してみたが、E能力者の力を使っても鏡にさしたるダメージは与えられなかった。視界が信用できず邪魔だが、我慢して進むしかないようだ。 事前に千里眼で覗き見た所、一般人は三ケ所に分けられ、それぞれの位置に強力なシロヌリが配置されていた。額・左目・頬へと流れるメイクから『弦の民』幹部セブンスコードだと分かる。しかし何故そんなビッグネームが三人も……。 男は目の疲れを感じてこめかみを揉む。千里眼で外から内部を測ろうと試みたが、非常に困難だった。何と言っても内部が鏡だらけなのだ。迷路構造を掴むのも至難の業だろう。 それに……恐らく内側から彼女達は、こちらを見ている筈だ。 千里眼を使っているというのに、シロヌリ少女の一人と目が合った。 気味の悪さを覚えて千里眼をやめる。複雑構造の場所なので、肉眼で見ていないと混乱するのだ。 ――とその時、おぞましいまでの殺気を感じた。振り返って銃を構える。 が、そこにあったのは男が銃を構えている図。つまり鏡だった。 肩を落として前へを向き直る。 ……向き直って、はっとした。あんな所に鏡があったか? そう気づいた時にはもう遅かった。鏡だったものは怪盗スキルを解き、背後より襲い掛かってくる。 それだけではない。自らを映していた両側面の鏡が超幻影を解きシロヌリ少女が姿を現す。更に影潜み、物質透過、気配遮断など……ありとあらゆる隠密系スキルを最大活用し、彼女達は男を取り囲んでいたのだ。 男は半狂乱になり銃を乱射したが、その一発たりとも命中しなかった。鏡だらけの場所で視界が不明瞭なのだ。位置座標を正確に把握しなくてはE能力者への射撃をまともに当てることはできない。 彼の悲鳴は反響し、薄暗い通路内を跳ねまわった。 「……あぁぁぁあ、死んじゃった。あの人死んじゃったよお。えへ、えへへ」 とろんとした表情でハスキー犬に頬擦りするシロヌリ。だが犬に生気は無く、歩く死体そのものであった。目や舌は既に腐り落ちている。 だというのに、シロヌリ少女は恍惚な表情を浮かべて犬に縋りついた。 彼女の名はベネット。『弦の民』幹部セブンスコードの一人である。 場所は小部屋の中心。部屋の壁はここまでの通路と違いコンクリートの壁に囲まれていた。 「皆あ、あの人死んじゃったよ。残念だったねえ、誰のところにも行けなくて、残念だったねえ。えへ、えへへ」 同刻。ワイヤレス式イヤホンマイクに耳を当て、シロヌリの少女が目を開けた。名をメグという。 コンクリートの壁に背を当て。人形のように俯いたままだ。 前髪が鼻の辺りまで伸びているが、セブンスコード特有のメイクと、彼女特有の泥水のような目がちらちらと見えていた。腕には大量の注射痕が刻まれており、ノースリーブのシャツでそれをまざまざと見せていた。 「いいんだよ。死んじゃえばいいんだ。みんな死んじゃえばいい。死んじゃえばいいよ。死んじゃえばいい」 また同刻、白髪のシロヌリ少女が小部屋の中心に立ち、歓喜の表情で腕を広げた。名をクダ。 「嗚呼、嗚呼、嗚呼! 魑魅魍魎の肉玉を取り出す人間よ! ヘモグロビンの使者よ! 物言わぬ徘徊者の列よ! 黄泉平坂の小石を舐める未熟児よありがとう! 殺戮に、殺戮に、殺戮に感謝します! 七弦さま!」 クダは壁に立てかけた二本の大型バールを振り上げる。 同じくバイオリン弦の絡みついた指をついっと上げるメグ ベネットはウージー軽機関銃を取り出し、部屋の隅に縛り転がされた男の口へと突っ込んだ。 「「ばいばい」」 全く同時に、殺戮は始まり、そして終わった。 ●アーク・ブリーフィングルーム 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は憂鬱そうな顔で頬杖をついていた。 ある程度の説明を終え、資料を並べてリベリスタ達へと突き出す。 「世の中どこにでもババを引く奴はいる。その後どうなるのかってのは運次第だが、こうなる奴らも居るんだ。まあ、それはさておき……任務だ、頼む」 伸暁が示したのは、黄泉ヶ辻傘下のフィクサード組織にして宗教団体『弦の民』が建造した処刑施設『MirrorHouse Abattoir』の攻略であった。 現在三組の一般人が捉えられており、処刑の準備が進められている。 「ここの扉にはこうある。『扉はそれぞれどれかの部屋に通じています。出口はありません。あなたが部屋に辿りつき、私を止めることができたなら、処刑をやめる権利を差し上げます』だそうだ。意図は分からないが、そういう施設ってことなんだろう」 どの扉がどの部屋に通じているかはなんとか探ることができたので、今回は便宜上『クダの扉』『メグの扉』『ベネットの扉』と呼称しよう。 「扉との部屋の関係は分かったが、部屋をひとつづつ回って居ては仲間に連絡されて処刑、逃走という流れになりかねない。だから、今回は部隊を三つに分けてそれぞれの部屋を攻略してもらうことになる」 それに、と伸暁は一枚の写真をデスクに置く。 「初富ノエル。リベリスタになりかけているとされる強力なフィクサードだ。今回の作戦には利害が一致するという理由で協力してくれる。これまでの経緯からも信用できる相手だ。現地で合流して作戦にあたってくれ」 以上だ、と言って資料の束を纏めて寄越してくる伸暁。 「あとは任せたぜ、リベリスタ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月04日(火)22:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●鏡仕掛けの蟻地獄が開き 行川アイランド。勝浦にかつて存在したレジャースポットである。 閉鎖されたトンネルを抜けた先に広がる朽ちた人口物と草木の融合体の、そのまた奥には奇妙に巨大な建物が存在している。 看板には『MirrorHouse Abattoir』。 廃屋に見せかけたその建物は、内側を知る者から様々な名がつけられている。神秘屠殺場、処刑中継場、復讐城。もしくは単純に、『地獄』とも。 ●屠殺祭の笛よ鳴け 一般人救出及び宗教団体『弦の民』幹部撃破の為、リベリスタたちは三班に分かれ突入。奇襲や隠密を得意とするフィクサード『シロヌリ』たちの待つミラーハウスへと踏み込んだのだった。 「死に体だった宗教狂いが今更調子づきやがって、結局数は暴力じゃねえか」 『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)は『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)と『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)に挟まれつつ、鏡合わせの狭い通路を歩いていた。 ぴたりと鏡に指をつける冥真。 実像と虚像の間にやたら隙間がある。マジックミラーの見分け方として有名だが、今回はもう少し別の意味があった。 「お子様楽しますための建物って感じじゃねえな」 衝撃吸収フィルタや防弾ガラスを用いて相当強固に造られているのだろう。やはりそれだけに鏡としては微妙に映りが悪い。 冥真は超直観でそれらの僅かな違いを確認していた。 福松が前髪に隠れた左目を露出させ、ついでに帽子を上げて見せる。 「幹部クラスのセブンスコードが一度に三人もいる時点で確定してるようなもんだ。ほら、来るぜ」 「禍原福松、アンタはヤバすぎる。死んでもらうから」 鏡に映った福松が女の声で言った。構わず銃を連射する福松。 鏡だったものが消失し、シロヌリが血を吹き上げて倒れる。 その途端、壁や天井をすり抜けてシロヌリ達が背後へ出現。進路上に控えていたであろうシロヌリ達も偽装を完全にやめてゴリ押しに走ってきた。 「やっぱりな、そろそろ俺が幻想殺し持ちってことが広まりつつある。気を付けろよ、救慈」 大量の弾丸が飛び込んでくる。戦力的には要になるであろう冥真が狙いのようだが、アラストールが積極的に盾になって攻撃を防いでいた。今回は調子が奮わないのか防御が上手くできない様子だった。歯を食いしばってフェイト復活するアラストールを横目に、冥真は舌打ちした。 「この調子で続けられるとキツイな、こっちもゴリ押しするぞ」 銃を構え直し、絶望的なまでにぎっしりと詰まったシロヌリの群へと乱射したのだった。 「今頃あいつもやり合ってる頃か、ノエル」 初富ノエル。シロヌリ達と似たような存在でありつつ、リベリスタになりかけているという彼女。 「境目ってのは、何なんだろうな」 同刻。『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)と『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は通路の前後を警戒しながら進んでいた。 ミニミを担いだ初富ノエルが二人に挟まれる形で進んでいる。 「フィクサードって別に悪者とは限らないの。世界ヘーワとか弱者のキューサイとか、いい人らも割とフィクってんの。だってそうじゃん、この力使えば弱い者イジメする子供シメられるし、悪徳な奴等ツブせるじゃん? でもダメなの、そういうことするヤツは世界さまだか神さまだかがフィクサードだって決めんの。だからアタシも別にいいかなって思ってたのね。けどこいつらは駄目。弱者のケンリだのを振り翳して暴れる連中じゃん。そんなに空気読んで生きるのがイヤなら首吊って死ねって思う」 ノエルは絶え間なく喋っていたが、これは天乃が彼女の声をソナー代わりにして通路の構造を測る為だった。最初は足音を使っていたが、似たような足音がそこらじゅうで混ざるので人声の方が判断しやすかったのだ。犬笛でも吹けばもっと違うのかもしれない。 「そうだね。シュミ悪いよ、こいつら」 折り曲げ式の銃に弾を込め、涼子は頭上にバウンティショットを叩き込んだ。 面接着と気配遮断をデュアルブートしていたシロヌリが頭部を欠損させて落ちてくる。 ノエルは非戦スキルにほとんど興味のない女だったので使えなかったが、天乃の臭気センサ・聴音ソナーと涼子のESPセンサによってかなり確実に敵を感知、更に涼子の透視(千里眼程広くしないのがミソだ)によって壁抜けで急に後ろを取られる心配も無かった。それに前方を複数で塞がれてもノエルの圧倒的火力で制圧できる。ほぼ完璧な進行だった。 「もうすぐつくよ。けっこう、ラクな迷路だったね」 天乃は眉を微弱に動かすと、全く迷いのない歩調で最後のドアへと手をかけた。 天乃たちを『完璧』とするなら、こちらは『堅実』だった。 『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)と『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)、そして『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)は早くも遅くもない歩調で鏡の迷路を進んで行く。何度か行きどまりに当たったが、『常に両側面を引っ掻き続ける』という冴の進み方によってしっかりとゴールの扉へと近づいていた。粘菌がそうであるように、確実で堅実な迷宮突破である。 禅次郎が集音装置をソナーではなく鼓動感知に集中させたのも『堅実』たる所以であった。潜んでいるシロヌリは大抵感知できたし、進路上に何人存在するかまで正確に把握できた。 更に九十九の熱感知で視覚的な壁の概念を取り払い、冴と禅次郎の超直観によって偽装鏡を見破って行く。影潜みや物質透過による回り込みもESPで先読みできる。 鏡を不自然に見せかける念写や味方のフリをする怪盗スキルに誤魔化されることもあったが、九十九の回避性能と冴の点火力が凄まじく、シロヌリたちからあまり大きな被害を受けることなく進むことができた。 ちなみに、初めの辺りで九十九がインクを撒いて壁と幻影を見分けようとしていたが無駄に隙を作るだけと察してやめた。スキルでそれ以上の効果が出せる以上、余計な手を咥える必要はない。 「それにしても……悲惨な背景には同情するが、やってることに関しては別だな、ただの逸脱者だ」 銃剣を慎重に構えつつ警戒する禅次郎。九十九が仮面越しのくぐもった声で呻った。 「宗教自体はなんでもいいと思いますが、一般常識は護って欲しい所ですな」 「お前が言うのかそれを」 「おや? 九十九さんは常識人ですよ、恰好と戦い方以外は」 鞘と刀を翼のように広げて歩く冴。この歩き方のお陰で初動が若干遅れるのだが、九十九のフォローで何とかカバーしていた。 さらっと流していたが、このチームの欠点は冴と禅次郎の反動ダメージが時間と共に蓄積していくことにある。二人とも耐久性は高いので大きな問題ではないが、ボス戦前にあまり消耗したくはない。 「それよりこの建物です。Abattoir(屠殺場)と名付けたにしては不可解です。幹部クラスが三人もいるなんて」 「十中八九罠でしょうなあ。構造からして『仲間を助けようとして突入したら死ぬ』のパターンでしょうし?」 「態々危ない連中を集めて事件を起こしてアークを呼び寄せる……か。分かった以上放置はできないしな。イヤらしい手管だ。さて」 タン、と床をしっかり踏みしめる。 彼等の目の前には、『おめでとう! ここがゴールだよ!』と血文字で書かれたドアがあった。 ●さあ、狂気のパレードが来る 「旅人よ足のあることを幸せを知れ。詩人よ口のあることを罪と知れ。死のあることに感謝せよ。終末のラッパは既に吹かれていたのだ。人類は既にこの世に無いのだ。故に唱えよ――」 がりい、がりいと、鋼鉄製の爪がコンクリートを滑る。 赤い2mバールを指揮棒のように振り上げて、シロヌリの少女クダは美しく笑った。 「嗚呼、殺戮に感謝します!」 神秘偽装戦を完全放棄したシロヌリの群を突破するにあたり、アラストールがゴール手前の通路で完全防御態勢で停止。福松達を先に行かせた。 そのためクダの部屋に突入できた時点で、福松と冥真の二人しかいなかった。 まずは『そこから』である。 「なんとか壁になる、救慈は回復に専念してくれ」 福松は周辺の箱や影からぬるりと這い出てくるシロヌリたちへ銃撃を浴びせつつ、突撃する。対してクダはバールを広げ風車のようにぐるんと一回転した。 闘気の塊が叩きつけられる。福松の小さい身体が吹き飛びコンクリートに後頭部をめり込ませた。 しょっぱなからハイメガクラッシュかと毒気づいたその途端、クダがバールの一本を槍のように投擲してきた。 「な――!」 胸を貫通してコンクリート壁に中ほどまでめり込むバール。 磔にされた。そう思った時にはクダは前傾姿勢で『冥真へ』突撃していた。 「『ドリームボックス』ですね? あなたは毒吐きのドリームボックスですね? 嗚呼、嗚呼、お会い出来て光栄です! あなたはどんな気持ちですか!? 死にそびれて、どんな気持ちですか!?」 「チッ――!」 咄嗟にガードするがネイルが腕に突き刺さる。骨が複雑に粉砕されたのを実感した。 「なに、お前ら渾名遊びでも流行ってんの? 別にいいけど、勘違いしてるだろ」 「何がです?」 「後ろ向きな死に様晒したお前らなんか知りたいとも思わねえよ。追い詰められたんじゃない、この迷路みたいに行きどまりに行きどまりにと逃げたんだ。弱者でも敗者でもない、先送りにしたツケで死んだだけだ」 「そうですよ? その通りです! そしてあなたも、『同じもの』でしょう!?」 首を掴んで振り上げられ、地面に後頭部から叩きつけられる冥真。がむしゃらに手を突出しマジックアローを顔面に突き立ててやる。クダの右目を槍が貫通した。 「知るか。俺はお前らの劇薬だ。安心して死ねよ」 「おっしゃる通り、おっしゃる通りですわドリームボックス。私達は狂気を知っている。狂気の民には通じているのです。あなたはむかし、崩界に触れたがった」 「いい加減なこと言うなよ小娘!」 目を貫かれても尚笑うクダ。彼女がバールを振り下ろすその瞬間まで、冥真は目を閉じることは無かった。 肉と骨の砕ける音と共に、アスファルトに血が広がって行く。 それが、崩壊の始まりだった。 「素敵な、お嬢さん。踊って、くれる?」 「あなたが死んだらいいよ」 天乃が大量に発する気糸をぐにゃぐにゃとした動きで避けると、メグは五指を複雑にうねらせた。部屋中の釘に引っかかった弦が天乃の太腿や腕や腰や頬をぶちぶちと裂く。 「もう少し、付き合って?」 天乃は一旦下がると言いバックステップ。 涼子と手を繋いで前後をスイッチングさせる。 涼子はメグの指……から狙いをズラし、胸を狙って発砲。メグは溶けたチーズのように仰向けに折り曲がって回避し、部屋中にかかった弦を引いた。 涼子の身体が独楽回しのように回転し血を吹き上げる。 メグは瞳孔を開いたまま首を90度程傾けた。 「感じないんだけど。もっとないの? なにかないの?」 「気持ち悪」 ノエルは唾を吐き捨て、扉を破って突入してくるシロヌリ達を迎撃していた。ミニミによる面制圧射撃である。 「あんま持たないよ。どうすんの」 「ごめん、もうちょっと耐えて」 天乃と涼子は重なるようにして接近。デッドリーギャロップとバウンティショットを同時に繰り出そうとした、が。 「むり。いけない。へたくそ」 メグは非人間的な速度で二人の間に割り込むと、指を軟体動物のようにくねらせ激しい爆発を起こした。涼子は吹き飛ばされノエルに激突もつれあってドアの残骸の上へ転がった。これ幸いととびかかってくるシロヌリ達。 メグはそこへ大量の弦を発射。二人の首を吊り上げると宙に浮かせた。脚をばたつかせるノエル。涼子は必死に釘を射撃して首つりを逃れたが、直後に跳んできた弦で身体を複雑に引き裂かれた。 「づう……!」 背後からデッドリーギャロップを放つ天乃。メグは軟体動物のように腕を逆関節に曲げ、対抗。 避けきったかに思われたが、メグの足首が複雑に引きちぎれる。 「あ、ちょっと感じる。ねえあなた、感じる。もっともっと」 注射跡だらけの腕をタコの様に天乃の首へ巻きつけた。 そして抑揚のない口調で言った。 「ねえもっと」 天乃の戦闘態勢を強制的に崩す。首に括り付けられる弦。 鮮血が吹き上がる。 意識が遠のく。 その寸前、血塗れの涼子がギリギリのところで踏みとどまり、単発銃を発砲したのが見えた。 スイカ割りのような音と共に、メグの額が砕け散る。 ギリギリだが。 本当にギリギリだが、勝ったのだ。 あとは仲間に連絡を入れるだけ。そう思って涼子は通信機を手に取り……。 「嗚呼、嗚呼――」 ドアの前に立ち、左目を欠落させながら笑うクダの影を見た。 崩壊が近づいてくる。 同刻、九十九は犬に食いつかれていた。 魔力盾でいなしているが、凄まじく機敏に飛び回るアンデッド犬は九十九を、あの九十九を振り回していた。 「こりゃあブロックに骨が折れますなあ、ほいっ」 九十九も負けじと大量の残像と高速スウェーで犬を翻弄し、互いに掠り傷を受け合うと言う余人には全く入り込めない高速戦闘を展開させていた。 禅次郎は時折暗黒でシロヌリの増援を撃ち払いつつベネットへとペインキラーを叩き込んでいた。 しかし前と後ろを注意しながらの戦闘は目が回る。 相談中にハマった穴なのかもしれないが、彼等はベネット達との戦闘中にシロヌリが乱入してこないという前提で作戦を考えていた。 特に今回はベネットと犬の連携さえ断ってしまえばよいとして、背後や頭上、または足元から沸いてくるシロヌリの存在をすっかり忘れていたのだ。幸い犬は九十九が惹きつけているから良いとしても、ベネットとシロヌリの挟み撃ちに目を回すことになってしまった。 「不幸なことに俺らは短期決戦型だ。戦い続けるだけ不利だぞ。こうなったら火力任せにベネットから沈めるしかない」 「そのようですね」 冴は刀を一閃。ベネットの鼻先を通過。素早く突き出されるウージーガン。 それを鞘で打ち上げるが、その反動のまま回し蹴りを繰り出される。 わざと一回転して衝撃を逃がし、冴は刀を構え直した。 「蜂須賀示現流、蜂須賀 冴。参ります!」 踏み込み一歩。 飛来する銃弾を鞘で正確に薙ぎ払い、大きく一回転して間合いを詰める。 斜め上から強烈に叩き込むように。 「チェスオォーッ!」 紫電が走り、コンクリート壁に大きな斜め傷をつける。 そしてベネットは、肩から脇腹にかけてまっすぐに引き裂けていた。 ビクリと身を震わせるアンデッド犬。 50キロの肉塊へと変化したベネットを振り返る。 その一瞬を狙って九十九は銃口を額に叩きつけた。地面とサンドするように振りおろし、弾が出なくなるまでトリガーを引き続ける。 悪夢のようなミシン音が終わった時には、ベネットと犬は動かぬ肉と化していた。 「なんとか、なりましたね。あとは一般人を保護して」 「待て」 通信が入る。 内容は――。 『福松・冥真・アラストール班が全滅した模様。救援求む』 ●崩壊 それからのことを手短に述べよう。 九十九・禅次郎・冴は出口を塞ごうとするシロヌリ達を駆け足で強行突破。 途中で負傷、消耗した禅次郎と冴を置いて福松たちのいる『クダの扉』へと突入。九十九がひとりで大量のシロヌリをかき分けながら奥の部屋へ到達した。 その際集中を重ねた射撃をかなりくらい九十九は激しく消耗したが、ギリギリ息のあった福松を磔状態から解放し、弁慶立ちで気絶したアラストールと地面に横たわる冥真を回収して一目散に撤退。 残った天乃・涼子・ノエルを救出に向かいたかったがこれ以上の突入は死亡もありうるとして断念。九十九もまたギブアップすることになった。 そして……。 「待って、お待ちになって。殺戮をしましょう、もっと私と殺戮をしましょう!」 「一人でやってろアバズレ」 バールを手に追いかけてくるクダにミニミを乱射するノエル。 涼子は気を失った天乃を小脇に抱え、出口に向かって全力で撤退していた。 途中で邪魔をするシロヌリ達も居たが、死なばもろともの精神で強行突破した。立ち止まったが最後クダのバールが二人を串刺しにするだろう。 「あー、ムリ。死んだわ、コレ」 「諦めるなよ」 「だってホラ」 出口が近づく頃、ノエルは反転。背中に担いでいたモーゼルM88を片手で持つと、ミニミと一緒に二丁で構えた。どっしり足を開いてその場に立ち止まる。 「じゃ、皆にヨロシク。先に地獄で待ってんね」 「――ッ」 振り返る暇は無かった。 分かったのは激しい乱射と跳弾の音。鏡に映る、ノエルの心臓部分をバールが貫通する様。二丁の銃を捨て、チェーンで連なった手榴弾のピンを一気に引き抜く様。そして最後の言葉である。 「ハッ……ちょべりば」 涼子は唇を血が出る程に噛みしめ、ドアから外へ転がり出た。 爆発音と破砕音を背に、彼女達は、自らの影が炎で長く伸びたのを見た。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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