●七色は死を捧げる 「『姫』を救わねばならない」 緑色の帽子を被った小人は、その体躯に相応しい甲高い声を上げ、告げた。 「そのためには命を狩る必要がある」 ピンクの帽子を被った小人は、拳を握りしめて力説する。 「命を器に捧げよ」 赤い帽子を被った小人は、重ねるように言い添える。 「凍れる死、熱き死、不遇なる死、刻限を待たぬ死、精神の死、流れる死。幾度も集めよ」 青い帽子を被った小人は、恍惚とした表情で天を仰ぐ。 「器を満たす為に」 黄色い帽子を被った小人は、静かに口元を歪め、 「苦難も罪も被り尽くさん」 黒い帽子を被った小人は、厳かに。 「全ては、栄光への参画の為に」 紫の小人の一言を皮切りに、七人の小人は姿を消した。 林檎型をしたガラス細工を手に。 ●死の七重奏 「七人の小人が、この世界に舞い降りるわ」 リベリスタ達が『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉を理解するまで、数秒の時間を要した。彼女は敢えて言い添えず、彼らの理解を促すだけだ。 ――アザーバイド。異世界からの来訪者のことを指し、その文明体系は世界の数だけ存在する。彼らに対する意思疎通が成功した事例も少数ながら存在するが、多くの場合は決裂に終わるのが世の常だ。 古来から言い伝えられる伝承・伝奇の類には、彼らの所業と思われる事例も多少ながら存在するのだ。 「彼らの目的は、より多くの死を蒐集して彼らの所有するアーティファクトを活性化させ、ある目的に使おうとしているみたい。でも、その目的までは分からない……難解すぎたの」 つまり、彼女を介してアーク本部で分析しても、その言語体系・思考体系はボトム・チャンネルたるこの世界とは大きく異なった、ということなのだろう。同時に、そのアーティファクトの危険性も示唆されることとなる。 「でも、私達の世界に害意を以て降り立った、それだけは事実。彼らを倒して、一人残さず」 彼女の声は固い。夢物語を夢枕に語る日々とは、決別したと言わんばかりに。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月04日(土)21:25 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
●夢を棄てて魔に売る魂 童話は本当は怖い物である、という風潮が、嘗てあった。 綺麗事のみでは人に教訓を植えつけることなど出来はしない。過剰な苦痛、精神の侵略を以て「罪と罰」を植えつける。それが世に言う「寓話」の真実である、と。成程、それは確かに正鵠を射た意見である。 但し――恐ろしいのは、意図したわけではなく。 『――――、っ!?』 ボトム・チャンネルに降り立った小人達を迎えたのは、夜に似合わぬ閃光であった。敢えて夜に降り立ち、内密に死の蒐集をせんと意図していた彼らにとって、それを先読みする世界の守護など予想外だったのだろう。 「小人どもよ。ゼルマ・フォン・ハルトマンとその他大勢が相手してやるぞえ?」 増して、ジャングルジムの頂上から不遜にも戦いを挑む『傲然たる癒し』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)のような手合いが居るとは、考えが及ばなかったのは当然であろう。世界を超えての侵食、それに対処せぬまま唯々諾々と死を献上するほど、ボトム・チャンネルの生命は悠長ではないのだ。 「姫を救うのは、小人じゃなくて王子だろ。役者じゃないぜ?」 「なかなか厄介そうではありますが……まあ、何とかなるでしょうな」 ゼルマの台詞に呼応するように、『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(ID:BNE001406)、『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(ID:BNE000681)が相次いで姿を現す。回復の要であるゼルマを護るようにして前にでる彼らであったが、その視線は油断なく小人へと向けられ、どの個体がアーティファクトを所有しているのかの判断に余念がない。小人達の機先を制した光源は、アウラールの準備したスクーターによるものだ。光源としては十分で、周辺住民へ不信感を与えるにはやや控えめな光量を確保できたことは、夜間戦闘において大きなアドバンテージとなりうる。 「残念だけど小人さんを主役にはさせてあげないよ!」 ゼルマとは別の方向から声を張るのは、『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)だ。彼女の露払いを担当するのは、大型の散弾銃『打撃系大型散弾銃/スーサイダルエコー』を携えた『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)。結界を常に展開している彼の存在により、この場において神秘の暴露の可能性は極減されたと言ってもいい。 次々と姿を現す敵性勢力を前にして、小人達が状況を理解出来ないわけがない。もとより数は十対七。多少リベリスタを下に見ている節はあれど、単純にひっくり返せる数差である、と考えるのは必然。 緑色の帽子を被った小人(ツヴァーク)は、静かに左腕を掲げ、 「シ――ィイイッ!!」 鬨の声を以て、開戦を告げた。 ●林檎が赤く染まる頃 小人達の編成は、酷く前のめりなものであった。出現時の位置というのもあるが、七体中黄と黒を残して前進してくるその様子は、なかなかに圧力を感じるものだ。先んじて全身のギアを一段階上げた喜平へと、赤と青が次々と大ぶりのナタを振り上げ、次々と斬りかかる。ズァーベル・タンツ――剣の舞と呼ぶには荒削りすぎるそれが喜平に触れられる筈も無く、次々と空を切り、蹈鞴を踏む。 他方、ゼルマ達へと向かったのは緑、ピンク、紫の三体。小さく息を吸い、緑が呪いの歌を吐く。ピンクと紫も相次いでナタを振るい、更に後方の二体は各陣営にたいして気を絞り込んだ無形の針を投擲する。……だが、一見連携のとれたそれぞれの攻撃は尽く外れ、或いは僅かに掠った程度で脅威と取るには未だ足らない。身長差による命中精度の低さ、だけでは説明がつかないその状況には、確かな裏付けがあるものだ。 「神よ! 奇跡を!」 小人たちは、先んじて用意された光源と錯覚しており――ウェスティアより更に後方、『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)の放った玩具の矢を狙って放たれた奇跡の光跡によるショックであった、とは戦闘終了まで気付くことができなかった。偏に、矢に気をとらせたウルザの巧妙な罠、ともいえる。 (……なんつって) かく言う本人は、柄にもない台詞だと感じていたようだが、そこは彼の外見からくる『らしさ』もあり、違和感は無い。 《かるた君、得物を振り抜いた今がチャンスなのだよ。一気に畳み掛けてしまえ》 「はい、……参ります!」 また、戦闘を指揮するに足る技能を持つ『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)、『カムパネルラ』堡刀・得伍(BNE002087)の二人の存在も、作戦行動に大きなプラスとして働いた。予め針を危惧してジャングルジムへと足を向けていた得伍がゼルマ側に居たのも必然であり、紫の小人と直接対峙できる機会を得られたのも、僥倖とのみ言い切れるものではない。その気糸の乱舞は、悠然と紫帽の小人を締め上げ、動きを止める。 卯月のテレパスを受け止めるが早いか、動き出していた蘭堂・かるた(BNE001675)の牙が赤の小人の首筋へと突き立てられる。低い姿勢から放たれたそれは、不安定ながらも確実に牙の跡を残し、赤帽子の小人に出血を促すに十分すぎた。返り血が僅かにかるたの唇を濡らし、純朴な少女に艶然たる紅を引く。 「じゃあ、こちらは任せてもらおう!」 かるたが赤帽の小人へと狙いを定めるのとほぼ同時に、『しゅううううううううううううう』後鳥羽 咲逢子(BNE002453)の拳が炎を纏って青の小人の胴を撃ちぬく。掬い上げるように放たれたそれは小人に着火させるには十分すぎる熱量を持っていたらしく、堪らず叫び声を上げて後退する。 「……他所の世界で好き勝手とは関心しない!」 後方で次の行動へと動き出していた黒帽の小人へ、喜平は激しい殺気を散らして跳躍する。立体的な行動から、散弾銃で殴りつけるという暴挙は小人の予測の範囲を越え、思考を乱すことに成功する。ぐらりとよろけた黒帽の小人、その帽子から僅かに光が揺れ動き―― 「そいつ」だ!」です!」でありますな!」 ウルザ、正道、咲逢子の三名が黒帽の小人を指し、アーティファクトの所在を見抜いた。水晶を削り出したような透明度、しかし得体の知れぬ存在感、禍々しい威圧感……『悪毒の林檎』の名をほしいままにするアーティファクトがリベリスタの前に姿を見せた瞬間だった。 ●悪とは何哉、毒とは何哉 黄帽の小人が、喜平を横合いから斬りつける。正面の黒帽に集中していた彼は一瞬反応が遅れ、その腕を僅かに割かれるが傷としては大したものではないらしく、返す表情には余裕すら見えた。 「おや、やはり慌てるかね? 面白くなってきたね!」 流石に、二対一とはいえその状況を静観できる小人達ではないらしく、ゼルマ側からは二体、ウェスティア側からは一体が駆け出したものの、その踏み込みが到達する前に、揃って爆炎へ飲み込まれた。 「少し考えが甘いんじゃないかな? 逃さないよ!」 ウェスティアのフレアバーストに飲み込まれたのは、赤、緑、紫の三体。圧倒的なダメージと言うにはやや足りないが、行動のアドバンテージを奪うには十分な猶予を与える一撃だった。 「かわせるものなら、かわしてごらん!」 「逃しません――っ!」 爆煙の切れ間から、ウルザの一撃が光跡を描き、黒帽の小人の喉を穿つ。ギ、と軋んだ声を上げる小人は片膝をつき、しかし赫怒の視線をもってウルザを貫く。対するウルザは、しゃがみ撃ちの姿勢から一転、自らの尻を叩いてあからさまに挑発をする。ひきつけることに於いては、確実に成功したといえる瞬間でもあった。 かるたの斬撃は相次いで赤帽の小人を裂き、出血を止める暇を与えない。 「ウルザ、無理に惹きつけようとしなくていい! そいつは、俺が引き受ける!」 アウラールの得物の先から放たれる十字の光は、ウルザに気を取られた小人を飲み込んで爆ぜる。それで黒の殆どの行動力を奪ったのだろう、殆ど動ける状態ではなくなっていた。 「ひゅー! かぁーっこいい!」 アウラールの勇姿に、ウルザは賞賛の声を上げる。彼は彼なりに、仲間を賦活するすべを心得ている、のだろう。 「残ったことに敬意を評し、自分が引導を渡すとしましょう」 ゼルマを狙い、唯一そちらに残ったピンク帽の小人に向け、正道は正確に一撃一撃を叩き込む。完全に計算された気糸の乱舞は、それ自体の破壊力はなくとも、戦闘力を削ぐに足る状態異常を引き起こし、主導権を確実に奪う。 「ほうれ。まだまだ倒れるでないぞ?」 ゼルマの口から漏れるのは、歌と言うには余りに傲然としたテンポのそれであった。然し、その傲然さも精神力に裏打ちされたものであるならば、決定的な回復手段足りうるのだ。 「もう、一発――!」 咲逢子の拳が、再び青帽の小人を打ち据える。各々の有効打が続く状況だけに、集中攻撃に動くべきか、とも彼女は考えた。しかし、戦況を鑑みれば、前に出れば対等な戦いは厳しい。自らを未熟と思うがゆえに、勝利へ貢献せんが為に、彼女は確実に自分の仕事をこなすことを選択する。 「じゃぁ、そろそろ頂くとしようかな」 疲弊しきった黒帽の小人に散弾銃を突きつけ、喜平は略奪を宣言する。幾度目かの散弾銃による蹂躙により、黒帽の小人は悪毒の林檎と共に舞い上がり――静かに、林檎の中へ赤い液体を満たした。 『とぷん』、と何かが僅かに満たされる音は、その場に居る全員の耳に深く響いた。それが何を意味するか、リベリスタ達には理解出来ない。小人達にとってのそれが、凱歌に等しい意味を持つことも、彼らには理解出来ない。仲間が死んだと、いうのに。 「……っ、アウラール!」 中空に投げ出されたアーティファクトを、黄帽の小人とはすんでの差で、喜平がキャッチする。そのまま触れたか否かのタイムでアウラールへと放り投げると、黄帽の針を敢えて受ける形になるが――幸いにして、膝を衝くには至らない。まだ、十全に戦える。 「次は、お前か!」 一体目が死して、林檎が反応を始めてからの小人達の行動は、明らかに精細を欠いていた。否、最も体力が温存できていた黄帽以外が、極端にその行動を緩やかにした、というべきか。アウラールの十字光が赤帽の小人を貫き、林檎の容量は更に増す。鮮血を溜め込んだような禍々しい紅。触れてはいけない錯覚を起こす色を前に、アウラールは躊躇する。だが、それでも。 「迷わないでください! 敵なら僕が引き受けます!」 「危ないなら、こちらで引き受けるのだよ! 躊躇わなくていいのだ!」 「ここは、任せてください!」 得伍の気糸が、卯月のチャージ能力が、かるたの渾身の一撃が。 「ほれほれ。もっと長く痛めつけられるぞ。嬉しいかえ?」 「落ち着けば問題有りません。勝ち戦を棄ててはなりませんぞ!」 「一体ずつ確実に倒せば問題ないよ! 任せて!」 ゼルマの賦活の歌声が、完全な理詰めに沿って放たれる正道の一撃が、ウェスティアの魔術師たる矜持を押し出した悪魔の響きが。 「これで、青は終わり、だ!」 「もう一度、奇跡を!」 「受け止めてくれないと、困るよ?」 咲逢子の引導を渡す一撃が、ウルザの放つ閃光が、喜平の振るう大型の散弾銃が。 アウラールの戸惑いを解き、アーティファクトへと手を伸ばさせる。 ――圧倒的な情報量だった。半ばほどを満たした紅だった液体は、アウラールの指先で徐々に緑色へと変化を遂げていく。それが何を意味するのかも、彼には分かる。ただ、その情報量を処理しきれないだけで。 黄帽の小人が、偏執的に叫ぶ。ボトム・チャンネルのどの言語体系にも属さない言葉を理解するすべは、リベリスタ達には存在せず。 『セプテット・デ・ツヴァーク』撃破及び『悪毒の林檎』回収ミッションは、成功という形で幕を閉じたのである。 ●枕もとでは見れない夢を見よう 結局のところ、アウラールの手に渡った段階で緑色へと変化した液体の正体については、リベリスタ達では理解できなかった。情報習得能力者でも居れば話は別だったかもしれないが、拾得者であるアウラール曰く、「死を蓄積できる量は所有者の器により、溢れない限りは問題無い。小人よりも自分達の器が大きかったため、溢れる危機を示す紅ではなく安全色である緑色へと変化したのだろう」、との見解だった。それも、彼がアーティファクトを受け止めた瞬間の限定記憶である以上、研究が必要なのだが。 破壊に関して積極的な者はゼルマを除いて居らず、ゼルマ本人も危険性があるのなら、という前提での破壊推奨だった為、『悪毒の林檎』はアークの管理下に置かれることになった。 そして、解散を目前にかるたが小さく、その場に残ることを進言した。 「校庭のブランコというのが……その……」 「そうだね、折角だし遊んでいってもいいかもね?」 かるたの語尾を拾うように、ウェスティアが呟く。思えば、ウルザも咲逢子も、まだリベリスタとしてはとても若い部類の人間である。その提案に乗らないという道理もない。彼らを残してさっさと帰ってしまう、という理屈も、アウラールや得伍、喜平や正道ら紳士たる男性陣には無い。 その夜、暫くの間。 幼稚園の校庭で、リベリスタ達のはしゃぐ様子があった。 秘匿を秘匿とするために、声こそ密やかであったけれど。 その幸せは、かるたを、そしてリベリスタ達を明日へと繋ぐ活力としてあり続けるのだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|