●世界はまるでできの悪いパンケーキのようだ 崩界。 上位存在等の影響により自らの世界が崩れ去り、世界そのものが滅亡すること。 崩れ去った世界にいるものは存在そのものが変質し、あるいは消え去る。 かろうじてそこから逃れ、別世界に移動することができたとしても―― ●花と竜と風と 「この世界には、馴染めなかったようですね」 視界の限り広がる花園の中心で、一人のアザーバイドが悲しげに呟く。憂いを含んだ悲しげな笑み。 「やはり世界と共に滅ぶのが、私達の運命だったのです」 「まだだ! 諦めるな、姫!」 諦念に満ちた声に反発するように声が被さる。爬虫類の鱗を持つ二足歩行のアザーバイド。彼もまた、この世界に受け入れられずにいた。 「この世界が姫を受け入れられぬというのなら、受け入れられるまで耐えるのみ!」 「ですが、この世界に多大な影響を与えてしまいます」 「それでもです! 生きている以上、滅びを受け入れる道理はありませぬ! 他者を食らって生き延びる。それは生命である以上当然の権利! それ以前に、私は姫に死んでほしくありませぬ!」 頭を垂れる半竜のアザーバイド。花園の姫は優しくその頭に手を置いた。 「判りました、スマシャ。滅びに足掻くと決めて、世界を捨てた私です。なさらば最後まで行きましょう。 我が騎士、こんな愚かな私を最後まで守ってくれますか?」 「ニグルゲイザの頂にかけて」 竜の騎士は誓いを立てて、花園の姫を守ると決める。 花園の姫は自身と騎士をこの世界に根付かせようと、己の能力を行使する。園にこの世界でない花が咲き乱れ、根付かずに崩れ行く。それでも、なお。 その行為が、世界を侵食すると理解してなお。 ●世界と 「レアなフラワーは嫌いじゃないが、生態系を破壊する外来種はノーサンキュー。そういうお話だ、おまえ達」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。 「討伐対象はアザーバイド二体と、派生したEエレメントの破壊だ。 何のことはない。Dホールを通ってきたアザーバイドを討伐するだけだ。彼らがやってきたホールは既に存在せず、討伐するしか道はない」 伸暁は淡々と事実を告げる。アザーバイドの会話をモニターで聞いていたリベリスタ達は、複雑な表情を浮かべた。フェイトを得られなかったアザーバイドは、この世界の崩壊を促す。放置はできない。そんな事は判っている。 「先ずはプリンセス。後方支援型だ。元居た世界の残滓をフィールドにしている。この世界での神秘を発現しにくくしているようだ。それに手一杯のようで、実質的な攻撃はしてこない」 花園の中心で手を組み、瞑目する女性のアザーバイド。彼女は滅びを受け入れ、それでもなお生きようと足掻いている。 「次、ドラゴンヒューマン。こっちは前衛だな。元の世界のマーシャルアーツなのか、素手で殴りかかってくる。硬い鱗もあって、殴りあうには相応に厳しい。 あと彼、ウィンドドラゴンだったのだろうね。この世界の風をエリューション化して従えている。フェーズは1」 独特の立ち様と構え。見る人が見れば、その動きは戦慄を覚える動き。かなりの時間を修行に費やしただろう自然な構えと、そして研磨された動き。 「漂流者(ドリフターズ)がこの世界に受け入れられる未来は、予知できなかった。神の目ともいえる『万華鏡』でも予知できない以上、皆無といってもいいだろう」 彼らに安住の地はない、とフォーチュナは告げる。世界に彼らを受け入れる余地はなく、また別の世界に渡るDホールが開く未来もない。 「倒すしかないのか」 「YES。彼らもそれを理解している。それでも最後まで生きようとしている。ロックンロールだね」 それを往生際が悪いと取るか、誇らしいと取るかは人それぞれだろう。 モニターの中で、二体のアザーバイドは何かを待つような表情をしていた。待っているのはこの世界に受け入れられる瞬間か、それとも自らに滅びを与える者か。 世界を守るために、リベリスタ達はブリーフィングルームを出た。 ●世界の敵、アザーバイド 「私にもう少し力があれば……」 「姫。もう自分を責めるな。あなたは精一杯戦ったのです」 まぶたの裏に移るのは、消え去った世界の思い出。そしてそれを滅ぼした一体のアザーバイド。花園の姫は、あらゆる感情を込めて自らの世界を滅ぼしたアザーバイドの名を口にした。 「……セリエバ……」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月06日(木)23:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 視界の限り広がる花園は、おそらく彼女達の世界の残滓。もはや存在しない異世界の花。白くうっすらと開花する儚き花の園。 そこに立つ花園の姫と、龍の騎士。そして騎士に従う風のエリューション。 「……ようこそボトムチャンネルへ」 花園に足を踏み入れる『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)の言葉には憂いがあり、その視線には殺気があった。『打撃系散弾銃「SUICIDAL/echo」』を肩に背負い、体内のギアを最大効率で動かす。 「如何に君達が高潔で美しく愛と情に溢れていようと、世界の異物である以上は排除する。悪いが受容は役目じゃない」 「ああ、可哀想な話ダ」 咥えタバコを揺らしながら『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)は体内のギアを加速させる。両手にナイフを構え、風よりも早く駆けると自らに暗示をかける。縦横無尽に戦場を駆け巡る風に。 「だけどね、それでも小生達は、小生達なりの正義と、世界を守るしかないんだョ」 「亡国どころか亡界の姫と騎士。そのくらい受け入れてやればいいのに」 ルーンを刻んだ『魔力鉄甲-Type:Hagalaz-』の調子を確かめるようにかかとで地面を叩きながら『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)が世界の狭量を嘆く。しかし仕方のないことは判っている。彼らがこの世界にとっての『異物』であり、倒さねばならないことは。 「ま、諦められないだろうさ」 「世界の恩寵が無い以上、私たちはこの世界を守るために倒すしかないのです」 サングラスの奥からアザーバイドにタイを視界に捉え、逃さぬと集中しながら『デモンスリンガー』 劉・星龍(BNE002481)が千丁に一丁しかできないといわれた『ワン・オブ・サウザンド』を構える。この花園の香りと光景が集中を乱していく。 「思ったよりも、厄介ですね。この花園。さて、最後まで持つかどうか」 「確かに。意図していないとはいえ、戦術としては恐ろしいです」 シャープなイメージを与えるフルフェイスのボディアーマー『PACノゾミスペシャル【Crimson tentacle】』を展開しながら、味方に守勢の指示を出す『混沌を愛する黒翼指揮官』波多野 のぞみ(BNE003834)。こちらの神秘を激しく消費するこの花園の効果は、短期決戦を強いられる。思考と戦略を練りながら、のぞみは翼を広げた。 「私の戦闘理論が貴方達にどれほど通用するか、楽しみです」 「セリエバですか」 『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は春先に戦ったEエレメントのことを思い出す。その桜の木精はとあるアザーバイドの影響を受けていた。それは花園の姫の世界を滅ぼしたアザーバイドと同じ個体。まさかその名前を聴くことになろうとは。 「これも縁なのかも知れません」 「救う手立ては何もない」 幻想纏いから一本の剣をダウンロードし、『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)は自らに言い聞かせるように呟いた。救う手立てはない。だから倒すしかないのだ。風斗もまた、この世界を大事にしているのだから。 「オレにできることは、最後の瞬間まで『奇跡』を願うことのみだ……」 「崩壊とかイマイチピンと来ないけど」 『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)は真っ直ぐな瞳でアザーバイドを見た。それは世界の敵という認識ではなく、何かを貫こうとする世界に抗うもの。それと戦わなくちゃいけない理由もミリーの中ではまだはっきりと形にはなっていないけど。 「あなたたちは他の『何か』に負けて欲しくないから? わかんない。でもなんかそう思ってる」 アザーバイドたちを指差し、敵対を表明するミリー。他のリベリスタ達も、それぞれの動きでアザーバイドに敵対を示していた。 「……この世界の守り人か」 竜の騎士が静かに言葉を吐く。言葉は通じるらしい。拳を振り上げる竜人。そして、 「スマシャ。あなたは私の剣です。我等が敵を排しなさい」 花園の姫は世界を壊すアザーバイドとして、声高らかに戦いの開始を宣告した。 御意、という言葉は地面を蹴る音に溶けて消える。 世界を守るものと、世界を侵すもの。共に誇りと生存をかけて火蓋は切って落とされた。 ● 「恨み言があるなら聞こう。呪うなら可能な限り受け入れよう」 口火を切ったのは、最も速度に優れる喜平だ。速度を生かして残像を生み、風のエレメントに迫る。虚と思わせて実。実と思わせて虚。繰り出される残像が隙を生み、生まれた隙に鈍器のように二体のエレメントに散弾銃を叩き込む。 言葉にウソはない。彼らの境遇には同情するところもある。絶望の中でも生きる為に覚悟を持って戦っている。だが、世界には受け入れられなかった。これはそういう話なのだ。故に。 「だから死ね。今、此処で」 喜平が駆けるべき言葉はこれ以外にはない。闘技に敬意と殺意をこめて、撃ちはなった。 「恨み言も呪いもない。そしてここで死ぬ気もない。戦い抜いて、生き延びる」 応じる龍の騎士の言葉に揺るぎはない。心に誇りがあり、拳に生きる意志がある。 「立派な言葉だ。そいつを証明してもらおうか」 スマシャの押さえにはいるのは、クルトだ。ステップを踏みながら間合いを計り、相手の隙をうかがう。上半身は相手の攻撃をいなす為、脚部に低温を纏わせて竜の拳士に近づいていく。 先に動いたのはどちらが先か。だが打撃を先に叩き込んだのは竜の騎士だった。伸ばした指先に爪が生え、瞬きの間に三度振るう。逃げ道を封鎖しての一閃。クルトの肌に赤い筋が走る。 「さぁ、お前の闘技の全てを俺に見せてくれ、竜の騎士」 だがクルトも痛みを気にせず駆ける。爪の間合いの一歩奥。その一歩を踏み出せたのは勇気か闘争心か。ローキックからミドルキックへの繋がる蹴り技。氷の鉄槌ともいえる蹴りが竜の肌を冷やし、氷で動きを封じる。 「甘いわ、この程度!」 気合を入れて氷を払うスマシャ。だが効かないわけではない、とクルトは確信する。防御はともかく動きはうまくすれば当てることは可能だ。 「さぁ、徒手同士と行こうか」 「そっちは任せたヨ。小生はこいつを抑えとく」 颯がナイフを両手に風のエレメントに迫る。片側のナイフをパリイ用にして、もう片方のナイフで敵を裂く。その場に立ちながら相手の居をついて跳躍し、喜平が傷つけたエレメントを狙っていく。 「ちょいと背中借りるヨ」 空気抵抗を抑えるために身体を低くして疾駆し、仲間の背中を足場にして跳躍する。地面を足につけない三次元的な動き。自分自身を弾丸として、戦場を駆け巡る一陣の風。 「小生は風より速くなる。ソレだけって訳ョ」 「さすがにこれ以上離れると、回復が難しいですね」 イスタルテは攻撃を食らわないように距離を開けながら、回復を行なおうとしていた。だが、動きが予測できない戦場において、ギリギリではもしもの時に対応できなさそうだと気付き、諦める。 息を吸い、吐く。一連の動作の中に含まれるのは肉体的なリラックスと精神的な儀式。声に力を、歌に魔力を。 「……ッ。コレは厄介ですね」 リベリスタの傷を癒すべく魔力を歌に乗せて奏でるが、予想以上の疲労に息をつく。まるで侵食した花園が、この世界の理を拒むかのように。全体の回復など何度も行使していれば、それだけで潰えてしまいそうだ。 「我が世界の残滓、テリナの花園。あなたたちの行使する神秘は、ここでは異世界の法則になります」 故に普段よりエネルギー消費が激しいのだ。『万華鏡』で事前に察していたとはいえ、実際に戦えばその苦労は身をもって理解できる。 「だとしても、剣を引く理由にはなりません」 イスタルテは花園の中心にいるミリエに向かって言葉を放つ。『万華鏡』で情報を得て、もはや救いがないと知ってなおイスタルテは志願したのだ。普段はのんびりとしている彼女だが、今はそうではない。 「どんな状況でも、私の前で倒させはしません」 それがイスタルテの戦い。後ろから皆を支え、回復すること。その意志をこめた歌声が花園に響き渡る。 ● まずEエレメントを倒し、それからアザーバイドを倒す。リベリスタのとった方針はそれだ。 火力を集中させれば、それは容易い。オーラを乗せた風斗の剣技やミリーの炎、星龍の弾丸が次々と荒ぶる颶風を無に帰す。 「亜人の闘士、勝負!」 ミリーが拳に炎をまとってスマシャに迫る。竜の騎士は足を振り上げ、自らの周りにいるものを巻き込むように竜巻をうんだ。圧倒的な風量がリベリスタを襲う。その風の中、ミリーは拳を握って炎を燃やしていた。 「全てを賭して姫を背負うあんたは強いけど」 しなやかな柳のように。ミリーはそれを意識して風の中に立つ。如何なる暴風の中でも、燃焼源と熱を失わなければ炎は消えない―― 突き出された拳はスマシャの胸に叩き込まれる。ただ真っ直ぐに突き出された拳は、竜の胸に拳の火傷を残した。 「根性は残ってる、気合もある、ずるいかも知れないけど仲間だっている! 負けない!」 「仲間なら私にもいる。世界が滅ぶまで戦った仲間が。その身が滅んでも我が心の中に」 「ならその仲間毎、あなたを射抜きます」 スマシャからの貫通攻撃を意識して立ち位置を変えながら星龍が銃を構える。いつもより神秘を行使するときの消耗が激しい。アザーバイドの能力を戦いの中で見切り、それろ仲間たちに伝える。 「気をつけてください。大きな長所はありませんが、同時に弱点もありません」 それは弱点をついての短期決戦ができないということだ。この状況ではつらい事実だ。星龍はライフルを構えて狙いをつける。 (狙え、狙え、狙え、狙え) 幾重にも重ねる狙い。その姫を守ることに誓いを立てた騎士に敬意を表し、持ちうる最大の一撃を叩き込むために。 呼吸すら忘れるほどの集中が、竜人の動きを捉える。思った瞬間にはトリガーはひかれ、気付いたときには弾丸は鱗の弱い部分を貫いた。 「そこまでだ。これ以上この世界を侵食させはしない」 風斗は仲間がスマシャを抑えている間に、ミリエの方に向かう。赤く光る剣を振り上げ、持ちうる最大威力の一撃を振り下ろす。肉体能力に秀でる花園の姫にその剣を避ける術はなく、異種族の血が偽りの花園を染めた。 「別に憎いわけじゃない。境遇に同情はするし、生きようとする意志を否定したりしない」 「構いません。剣を振るうことで助かる世界があるのなら、容赦する必要はありません」 手折られそうになりながら、花は気高く言葉を返す。 それが自らを殺せという意味だと理解しながら、 「敵を討つ。それが生きるということ。自らの意思を持つということなのですから」 「……ッ!」 剣を振り上げながら風斗は奇跡を願っていた。この瞬間、このアザーバイドにフェイトがえられると言う奇跡を。『万華鏡』の予知を越える奇跡を。そうなれば、彼らは。 「んっ……! 回復役の私たちがばてたらまずいですからね。気合を入れていきますよ!」 自らのプロテクターに身を苛まれながら、のぞみは味方のエネルギー回復に従事していた。ミリエの花園の影響で、リベリスタの消耗は激しい。時間が立てば経つほど、エネルギー不足に喘ぐものが増えてくる。 「消費が激しいのなら、それ以上の補給をするだけです」 のぞみのチャージと的確な指示。リベリスタ達が存分に動けるのはまさに彼女の働きの賜物である。常に冷静に。フルフェイスの奥から戦場を観察し、適切なサポートをする。これが彼女の戦い。 「戦士の礼儀として、全力でお相手します!」 「望むところ。もとよりこちらも全力。後のない戦いだ」 「来なさい、この世界の守り人達。テリナの花園、この地に咲かせて見せましょう」 生と死。誇りと誇り。互いを尊重しながら、しかし許すことのできないもの同士の戦い。 異界の花が、少しずつ枯れ始める。 ● 戦況は始終リベリスタが押していた。 風のエレメントを倒しアザーバイド討伐に進む流れによどみはなく、スマシャの咆哮により隊列が大きく乱れることはなかった。 「……っ! 大丈夫です。回復に支障はありません」 何よりも回復役のイスタルテが心乱れなかったのが大きい。これによりリベリスタは安定した回復を受けながら攻撃を続けることができた。 しかし、無視できない問題もある。ミリエの結界内ではリベリスタの神秘行使が難しいことだ。のぞみの補給こそあるが、リベリスタの疲弊は激しい。エネルギー切れで満足な攻撃ができない物も増えてくる。 それでも。 「世界に受け入れられなくても、生きてくれと願う騎士、その願いに応えた姫。いいじゃないか! 実に自分に正直で、俺好みだよ」 「ミリーの火は消えない!」 リベリスタの戦意は消えない。クルトとミリーが氷と炎で攻め立てれば、喜平と颯が高速で竜の鱗を刻んでいく。 「騎士殿、君は立派でかっこいい、だからこそ小生は全力で狩らせて頂く。自分の守りたい物のために」 「……隙あり、だ」 「温い。ルザタリアの風をここに!」 リベリスタに通常状態のエネルギーがあれば、ここで押し切れただろう。だが異界の花園により疲弊した状態の攻撃ではスマシャを倒すには至らなかった。突きが貫通する風となってクルトとイスタルテを巻き込んだ。運命を削り、その場に留まる二人。 しかし竜の猛威も、ここまでだった。 「これで終わりです。この弾丸は、あなたに敬意を表して」 二撃目を放とうとするスマシャの眉間に、星龍の弾丸が叩き込まれる。その一撃を受けて、竜の騎士は花園に倒れた。 「スマシャ……!?」 「……くそッ! あんたたちは何の罪を犯したわけじゃないのに!」 風斗は剣を強く握り締めながら、言葉を吐く。 都合のいい奇跡は起きない。世界に認められた悪人もいれば、世界に認められない善人もいる。なんて残酷で平等な、世界の選定。 それでも風斗の剣は、止まらない。ただ真っ直ぐに、運命の寵愛を受けた戦士の剣は振り下ろされる。 「あなたが剣を振るうことで助かる人がいるのなら、剣を振るいなさい」 命を奪うであろう一撃を前に、花園の姫は静かに告げる。 「悩み、苦しみ、そして選んだのなら、その道は辛くても正しい道です。 あなた達の未来に、幸あれ」 振り下ろされる刃。骨を絶つ確かな感触。とさり、とミリエの体が地に伏した。 ● ミリエが倒れると同時に、異世界の花は硝子が砕けるように細かく砕けて消えていく。 「最後まで、世界に愛されなかったようですわね」 のぞみは二人のアザーバイドが生きようとした証を回収しようとしたが、彼らの肉体や持ち物は花園と同じように砕けて掌から零れ去っていった。 「聞かせてほしい。あんた達の世界を滅ぼした、セリエバのことを」 クルトは崩れ行くミリエに声をかける。そのアザーバイドとは縁があった。 「私も詳しくは……。異世界の樹木。ただ貪欲な存在……。運命を持つものの、天敵です」 絶え絶えとしたミリエの言葉から判ることは、そう多くなかった。 風斗はスマシャを運んでミリエの隣に並べる。自分が弔いとしてできることはこれだけだ。剣を納めて、拳を握った。 楓が無言で祈り、星龍がタバコを吹かして供養の煙を吐く。安らかに眠れるようにと。 「『来む世には心の中にあらはさん あかでやみぬる月の光を』。来世ではお幸せに……」 イスタルテが一句読み、瞑目する。来世があるかはわからないが、そこでは幸せになってほしい。そう願って。 「そのセリエバとかいうのも、その内、絶対燃やすわ!」 ミリーが消え行くミリエに約束する。その言葉に花園の姫はわずかに驚き、そしてかすかに微笑んだ。もしそれが叶うなら、彼らの心に火をつけたのなら。 ――私がここにきた意味は、あったのかもしれない。 そして最後の欠片が風に乗って消える。 二体のアザーバイドの痕跡は、一片たりとも残さず消え去った。 だが、残した想いはある。 花の気高さ、竜の強さ。それはリベリスタの心のどう残っただろうか? ただ明日を求めた戦場に、風が静かに吹いて消える。 花も竜も風も世界も。 今は静かに、リベリスタの心にその存在を示していた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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