●とある大学構内 「けどさー、去年のあれは……」 「マジで? それじゃあ変更しないと!」 とある大学の一室。 普段であれば、前方に掲げられた黒板の前で教師が熱弁を振るっているところだが、生憎今は午後九時。講義も終わり、教師たちも既に帰宅している時間である。 そんな中、なぜ彼ら男女六人がこの場に居残っているのかと言うと、サークルの仲間同士だからであり、二ヵ月後に開催されるであろう文化祭の出し物案を考えているところだったからだ。 彼らは額を突き合せ、案を出し合う。あるいは出された案を練り、発展させる。 そんなことに熱中して、気付くと十時を回っていた。 「あ、もうこんな時間?」 仲間の一人である女性が腕時計を見下ろし、そこに表示されている時刻を確認して悲鳴染みた声を上げた。それに続いて仲間達も携帯や時計で時刻を探り、一様に困ったような声を上げる。 「やべ、俺明日一限目からなんだよな」 「早く帰らないと」 焦り始めるサークルの仲間達。が、同じように帰る準備を始めた女性の一人が、ふとある事に気付く。 「ねえ、こんな遅くなったんだし……せっかくだから、肝試しして行かない?」 「肝試し?」 おうむ返しに仲間が問うと、女性は得意げに頷く。 「そう。この近くに、本当に『出る』って噂の墓地があってね……」 ●Crepuscule Dare 「とある大学の男女六人が、エリューションに殺害される予知を見たの」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を前に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう切り出した。 「場所は、ここから車で数時間行った場所にある大学――の、すぐ近くにある墓地。大体500mくらいに渡ってお墓が並んでいて、おまけに照明もほとんど無くてまっくら。夏には絶好の肝試しスポット。 そこに、E・エレメントが現れる」 このエリューションは、生前野球部でエースピッチャーをやっていた若者が、チームメイトに裏切られて腕を折られ、失意のうちに自殺した――その青年の怨念がエリューション化したものだと言う。 「そのエリューションは、少しだけ臆病みたいで、ある程度人数が少ない相手しか襲ってこない。そうね……多分二人で行動していれば、エリューションも出てくるんじゃないかな」 イヴはそう言い、彼女を見据えるリベリスタ達を一度眺め回した後、軽く頭を下げた。 「このままだと、生きている人間たちが犠牲になる。そうなる前に、みんなにはこのエリューションを退治して欲しいの。……お願いできる?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:水境 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月10日(金)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●夜 くだんの墓場に到着したリベリスタは、エリューションを誘き寄せるために二人一組のペアとなり、墓場を進む作戦を取ることを決めた。 頭上から瞬く電灯の光は頼りなく、手にした懐中電灯もまた、前方を充分に照らすには至らない。 風に揺れる柳の木の葉擦れの音を聞きつつ、ある者にとってはいつもと同じ、またある者にとってはいつもよりも恐ろしい、エリューション退治が始まった―― オッサンペアとか誰得なんだよ、と心中で呟きつつ、頭をがしがしと掻きつつ進むのは『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)だ。傍らには彼とペアを組みエリューション捜索中の『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)がいる。 正直このペア相手が決定した時は若干首をかしげたものの、それはそれ、仕事は仕事である。彼は冷静に、バットを担いで虎鐵と共に墓場を練り歩いていた。 「ときに聞くでござるが……」 と、不意に虎鐵が声を上げ、ソウルは「何だ」と返答する。 「おぬし、そのバットは何でござるか?」 「お、これか?」 虎鐵が指を指して示したのは、ソウルの担いだバットだった。ソウルはそれで肩を叩くようにぽんぽんと弾ませ、 「まー、今回現れるのはエースピッチャーの無念っつーからなあ」 言いつつ前方を探るように見据える。 エリューションは未だ、見つからない。 「一発ガツンとかっ飛ばしてやりゃ、すっきりするだろ。その高校球児がスポーツマンならな」 今回出現するエリューションは、元高校野球のエースピッチャー。その相手の投げる球を、このバットで打ってやろう。ソウルはそう考えていたのだ。 「肝試しー。暗くて静かなところって良いよね」 ソウル達に続いて二番目に出発したのは、『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)とエリス・トワイニング(BNE002382)だ。と言っても二人の中でも主に言葉を口にしているのは都斗の方で、エリスは彼の楽しげな様子を首を傾げつつ見守る時間が多かった。 「あっ」 と、不意に都斗が声を上げ、エリスは瞬きして彼の顔を覗き込んだ。 「どうかしたの……?」 「ちょうどいい木、発見」 エリスの言葉に都斗は悪戯っぽく笑みを返し、その背に伸びる翼をはためかせる。彼が目指したのは、先ほど都斗が「ちょうどいい木」だと称したおどろおどろしい柳の樹木だった。 彼は柳の木の先端付近に近付くと、どこに持っていたのかコンニャクをくくりつけた糸を垂らした。 「んふふふ~♪ せっかくの肝試しだもの。盛り上げないとね?」 含み笑いをしつつエリスの隣に戻ってきた都斗は、闊達に笑って「さ、行こう」とエリスを促す。 「……???」 促されたエリスは頷き返そうとするも、彼がなぜ柳の木にコンニャクをくくり付けたのか、その行動がいまいち理解出来ていないようだった。理解しかねる、と言った風に首をかしげるエリスに対し、都斗は彼女の肩をぽんぽんと叩く。 「あれに意味なんてないから気にしなくていいよ?」 「意味がない、の……?」 「そう。まあ、強いて言うなら、後続の人達があれを見て叫んでくれれば……味方の位置を把握できていいかもしれないね」 「どうして、あれを見て叫ぶ、の……?」 その言葉に、今度は逆に首をかしげる都斗。 「どうしてって……それは肝試しだからだよ」 「……」 エリスは分からない、という風に首を左右に振ってから、再びゆっくり歩き出す。都斗はその歩調に自分の足を合わせつつ、エリスくんは全然怖がらないんだなー、などと心中で呟いていたのだった。 「お、おばけなんているわけないし」 『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)の隣を歩く『ナーサリィ・テイル』斬風 糾華(BNE000390)の言葉はあくまで素っ気無かったが、しかし彼女の肩がわずかに震えていることに鉅は気付いていた。 既に根元近くまで吸ってしまった煙草を右手指先で折り曲げながら、彼は肩をすくめた。 「斬風は――あまりこういうのが得意では無さそうだな」 「な、何言ってるのよ?」 ずばり指摘されて肩をびくつかせる糾華だったが、すぐについと顔を背けて前方を見据えた。 「だ、大丈夫よ。何よ、肝試しなんて……こんなの全然大したことなきゃあああっ!!」 何を見たのか唐突に悲鳴を上げた糾華は、すぐに傍らの鉅の背に隠れる。何事かと鉅が彼女の視線の先を見やれば、そこには人差し指大ほどの虫が、傍らの茂みから音を立てて出てきたところだった。 どうやら彼女は、この虫が立てたガサガサという音に驚き悲鳴を上げたらしい。そう気付いた鉅は、手にしたままの煙草を軽く揺らしつつ、背後で震える糾華に声をかける。 「ほら、あれは虫だ。幽霊じゃないぞ」 言われ、ようやく自身の大げさな行動に気付いたのだろうか――糾華ははっと顔を上げ、鉅の肩越しに虫を確認。ごほんとわざとらしい咳払いをしつつ、再度彼の隣へとゆっくり並び立った。 「や、やっぱり虫だったのね。そ、そうよ。オバケなんていないものね。大丈夫大丈夫、怖くない怖くない」 (これは順序を後回しにしてもらって正解だったな) 鉅は心中で嘆息する。順序的には最も前を歩く者がエリューションに遭遇し易いだろう、と読んでいた彼は、パートナーである糾華のあまりの怯え様に、わざわざ順番を後回しにして貰ってエリューションとの遭遇率を下げようと試みていたのだ。 彼の心中を知ってか知らずか、糾華はびくびくと震えつつ一歩一歩、足を踏み出す。 怖がる糾華の更に後方で、突然自身の頬にぺたりとくっついてきた『何か』に悲鳴を上げる一人の女性。 「きっ、きゃああああああ!?」 甲高い声を上げるのは『高嶺の鋼鉄令嬢』大御堂 彩花(BNE000609)。その頬にくっついてきたのは、言うまでもなく先ほど都斗が仕掛けたコンニャクだ。 彩花はその場から飛び退き、びくびくと身体を震わせつつ自身の頬にくっついてきたそれを見やる。 「……コンニャク? どうしてこんな所に……」 このコンニャクがどうしてここにあるのか、その理由を述べれば、彼女と共に同じ仕事を受けた仲間の仕業であるのだが、彩花に同行している『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)にとっては、そのことはさほど重要ではない。 モニカはぶらぶら揺れるコンニャクに近付き、それを一瞥した後、彩花の方をちらりと見やる。 「大分怖がっていらっしゃいましたね、お嬢様」 「こ、怖がる!?」 その単語を口にした瞬間、彩花の顔に憤慨の色が浮かんだ。 「こ、怖いとかではなくて、ちょっとビックリしただけですっ!」 そうですか、とモニカは肩を竦める。その反応に唇を尖らせた彩花だったが、すぐに進行方向である前方を見やり、手にしたバールのようなものを握り直した。 「は……早くいらっしゃい、エリューション。勝負して差し上げますわ……!」 「静かな墓地。確かに肝試しにはおあつらえ向きだよね」 懐中電灯の光を足元で揺らしつつ、四条・理央(BNE000319)はぽつりと呟いた。そして前方を歩く『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)の背中におえをかける。 「静さん、大丈夫?」 すると、肩をびくつかせた後、静はさっと振り向き、やや青ざめた顔で笑って見せた。 「だっ、大丈夫大丈夫、幽霊なんて怖くないしさ……!」 その言葉に淡く微笑む理央。 「そうだよね。どんな幽霊が出てくるかワクワクするよ」 幽霊、の単語に静がわずかに震えたことを気付いているのかいないのか、理央はそのまま周囲に視線を走らせた。 そして―― 「あっ」 「えっ!?」 唐突に声を上げた理央に、静は悲鳴染みた躊躇いの声を口にするが、彼女は全く気にせず彼の腕を取った。 「ほら、桜小路さん。あそこに幽霊っぽいのがいるよ」 「え、えええ!?」 「ほら、あそこ」 と言いつつ、静の腕を引っ張りつつ理央はずんずんと前に進んで行く。静が恐怖に滲んだ瞳をそちらへ向ければ、そこには確かに木の下にひっそりと佇む黒い影。仲間の誰かかとも思ったが、あのシルエットに該当する仲間の姿が思い浮かばず、本当に幽霊か、と静は硬直する。 「り、理央さ……!」 「幽霊かな。幽霊だったらボク、喜んじゃうんだけど」 「ちょっ――!!」 静は引きずられつつ逃げようとおたおたする。 結局、そのシルエットは都斗の仕掛けた(ウィッグとマントを使った)トラップだったのだが、それが判明するまでの約数分、静は気が気ではない時間を過ごす事になるのだった。 ●遭 あちこちから聞こえてくる仲間の悲鳴に、『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)は苦笑した。 同行しているパートナーである『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)に怖くないのかと問われた彼女は、苦笑しつつ、 「化け物退治なんて始めちゃうと、おばけが怖い、なんて思わなくなるんだよね」 と、そんなことをぽつりと口にした。代々続くリベリスタの家系に生まれた彼女は、幼い頃からエリューションを見ていたと言うのだが、 「子供の頃は、エリューション見て泣いちゃったりしたらしいんだけど。ま、全然覚えてないんだけどね」 そう言って、快活に笑った。 それでも墓場の雰囲気が嫌だから、という理由で快の背中に隠れるようにして進んでいくレイチェル。快も彼女を守るように周囲を見回し、そして不審に思った場所に懐中電灯の光を走らせて行く。 「……こういうのって安心よね」 「どうしたんだい?」 快が肩越しに振り返り、問いかけてくる。レイチェルは口の端を笑みの形に緩めつつ、そっと顎を引いた。 「ううん、ただ仲間がいるのっていいなって思っただけ」 ぽつりと言った、その彼女の言葉尻に被さるかのように―― ごう、と彼女の髪を何かが揺らした。 快とレイチェルは素早く顔を上げ、そちらを見やる。そこには、 「――仲間? コロス、コロス、コロスコロスコロス……!!」 壊れた人形のように呪いの言葉を繰り返す、エリューションが佇んでいた。 甲高い音が墓場内に響き渡る。平然と、あるいは怯えつつ歩いていたリベリスタ達は一斉に顔を上げ、音のした方向へと振り返る。 「今の……!」 「ああ。近いな」 糾華の言葉に鉅は頷き、背後の闇に目を凝らす。わずかな空気の擦過音が聞こえ、彼は走り出した。 「ま、待って……!」 糾華もまた、恐怖をかみ殺しつつその背を追った。 レイチェル達の元に一番に駆けつけたのは、彼らの後ろを歩いていた彩花とモニカだった。 「レイチェルさん、快さん!」 彩花が叫ぶ。二人の眼前では、快がレイチェルを庇うような形でエリューションと相対していた。ひょろりとした背の高い青年――しかも半透明――のエリューションが、恨みの篭った瞳で彩花を睨みつける。わずかに唇の端を引きつらせる彩花だが、すぐにどこからともなくヘッドライト付きのヘルメットを被り、バールのようなものの先端をエリューションにぴしりと向ける。 「さあ、野球で勝負ですわ!」 無謀にも彼女、バールのようなものをバット代わりにして、この元エースピッチャーに野球勝負を挑もうと試みた。 (と言っても相手はエリューションですから、実際には敵の魔球攻撃に対して斬風脚で互いの必殺技をぶつけ合う形になるのですが……) 文字通り、殺るか殺られるかの真剣勝負、これが超次元ベースボール! ブェー、ブェーブェーブェー、ブェーデブェンデデデデブェーと歌を歌って応援をするモニカの前で、彩花はバット代わりのバールのようなものを引き絞り―― 「野球少年、デッドボールじゃアウトは取れんぞ」 またもや不意に割り込んできた声。彩花はスイングを止めてそちらを見つめると、快とレイチェルを挟んで向こうの方に、鉅と、彼の背に隠れるようにして恐る恐るエリューションを見つめている糾華の姿があった。 鉅はエリューションの攻撃を受け続けてきたらしい快の姿を一瞥すると、すぐにその視線をエリューションへと向け、スローイングダガーの先をぴたりと据えた。 「基本を忘れているな。その手癖の悪さ、矯正させて貰う」 言いつつ放たれたのは、彼の身体から一斉に放たれた気糸。それはエリューションの青年の腕に絡みつく――寸前で、エリューションはするりと避ける。そしてカウンター気味にその手から放たれた攻撃は、恐怖に腰の引けていた糾華の肩口を打ち抜いた。 「糾華さん!」 慌てて彩花が駆け寄ろうとするが、糾華がエリューションの攻撃、およびその姿に恐慌し、悲鳴を上げる方が早かった。 「やだ、もうやだ! 死んじゃえ!!」 「糾華さん、相手はもう死んで――」 彩花のツッコミを最後まで言わせることなく、糾華はギャロッププレイを放つ。高い命中率ゆえかはたまたその必死さゆえか、その気糸は見事にエリューションに絡み付いた。 「よ、予定は狂いましたけど……食らいなさい、秘打・竜巻スイング!」 この機を逃す訳にはいかないと、迫ってくる球は無いがスイングした彩花、発生したかまいたちはエリューションの胴体にクリーンヒット。 「お墓はなるべく傷つけないようにね……!」 快に庇われているレイチェルが叫ぶ。 だが、高い命中率を誇る糾華と鉅のギャロッププレイ、そして彩花、モニカ達の攻撃は、他の仲間が駆けつけてくる前に、あっさりとエリューションを倒してしまったのだった。 ●帰 「ちっ、一発デカいのぶちかましたかったぜ」 言いつつ、苛立たしげにバットを振りかぶるのはソウルだ。彼が駆けつけて来た時には、既にエリューションは倒されており、持ってきたバットは無駄になってしまった。 「でも肝試しは楽しめたし、まあいっかなー。色々悪戯も仕掛けられたし」 「あれは都斗くんのトラップだったんだ? せっかく本物の幽霊だと思ってワクワクしてたのになあ」 飄々と都斗が言うのに、ウィッグ+マントというトラップに引っかかった理央が苦笑した。引っかかった、とは言っても彼女はむしろ都斗の意図とは反対に、好奇心と嬉しさを持ってそれに近付いていったので、その表現はやや語弊があるかもしれない。 「それにしても……野球勝負を挑まれようとした方、何人もいたんだ、ね……」 都斗の隣でぽつぽつと呟くのは、相変わらず恐怖というものを微塵も感じていないであろうエリスだった。彼女はバット(らしきもの)を振り回すソウルと彩花を交互に見据え、目を瞬かせている。 「……まあ、俺もあのエリューションに一打席だけ、勝負を挑もうとしてたんだけど……」 そう言った快は、エリューションが佇んでいた位置に視線を向け、目を眇める。そして彼の放った台詞を反駁した。 ――仲間? コロス、コロス、コロスコロスコロス……!! (恐らく、彼の欲しかったものは『野球』じゃなくて――) 肝試しを続けるか否かで揉め始めるリベリスタ達を、中天に上った月が静かに見下ろしていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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