● 「……と、言う事なのですが」 「……竜牙サンってさぁ」 「はい」 「何て言うか時々、良い意味で変よね」 「……そうでしょうか」 「え、何、怒った?」 「いえ。……ジェネレーションギャップと言う物を感じただけです」 「いやあの、その顔で言うなよって突っ込むところ?」 「……いえ、別に」 「竜牙さんさ、その、目線で何か訴えるの止めましょうよ。ね。怖い。普通に怖い」 「では、お手伝いを願えますね?」 「……はい」 ● 「……そう言うわけで。なんか、竜牙サンのお願い、ってやつ。聞いてくれるかしら」 若干笑いを堪えている様な、そうでもない様な。 『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は、軽い咳払いと共に、資料を差し出した。 「何て言うか。うん。詳しい話は、本人から聞いた方が良いだろうって事で。うん。宜しく竜牙サン」 資料の先。何時も通り無言で其処に立っていた『常闇の端倪』竜牙 狩生 (nBNE000016)は微かに頷き、資料を取った。 「そんなに危険な話ではありません。……私と、私の友人の休日の楽しみに、協力して頂けないかと思いまして」 そんな言葉と共に、差し出された資料の一番上。少し大きめに書かれていたのは。 ☆楽しいゲートボールの仕方☆ の文字。 「私ももういい歳です。ゲートボールとは、年齢を重ねた紳士淑女の社交場である、と聞いた事もありましたので。 ……まぁ、友人達は、私の事を若者だと思っている様なので少々、残念ではあるのですが」 真顔。至って、真顔。淡々と紡がれていく台詞に、遂に後ろのフォーチュナが我慢し切れなくなった様に席を立った。 聞こえてくる、笑い声。それを丸ごと聞かなかった事にしながら。青年は話を続ける。 「今週末。私と私の友人は何時もの様に、集まる予定なのですが……月隠君によれば、その日、たまたま、ゴールポールそっくりの来訪者がやって来てしまうそうなんです。 ゴールさえして下さればお帰り頂けるようですが、有事の際に、私一人では少々心許無いかと思いまして。 ……宜しければ是非、ご一緒して頂けないでしょうか」 ルールや用具についてはご心配なく。そんな付け足し。けれどそもそもそういう問題じゃない気が、しなくもない。 至って真面目な表情のまま。人数分印刷された資料基ルールブックを差し出して。お待ちしています、そう言い掛けた青年はふと、思い出した様に嗚呼、と声を漏らした。 「……そう言えば。友人達は何故だか、私の真似をする事を楽しんでいるようでして。それに合わせて下さると、大変楽しんで頂けるかな、と思うのですが」 その辺りもどうか、宜しくお願いします。 そんな言葉を残して下がった青年に呼ばれたのだろう。笑い過ぎて若干疲れた顔のフォーチュナが、漸く戻ってくる。 「いや、あたしも見に行ったんだけど。……何て言うの、「3,2,1……チェックメイト」とか言いながら、ボール打ってるから。マジで。 あたしは当日、片付けの手伝いくらいしかしないんで。まぁ、皆宜しくね」 それじゃあ。思い出し笑いを飲み込んで。フォーチュナもまた、青年の後を追うように外へと消えた。 ● ☆楽しいゲートボール☆ ルールを守って、皆で楽しくゲートボールしましょうね! ☆簡単なルールと流れ☆ 1.持ち玉を決める チーム内の打順と、チームの先攻後攻を決めます。 先攻チームが紅、後攻チームが白になります。 打順は、紅1→白1→紅2……白8→紅1と回ります。 (本来は5人チームですが、今回は8人チームになります) 2.ゲームスタート! ゲートボールでは、3つのゲートを順番に通過し、最後にゴールポールに当てる事で「あがる」必要があります。 ←←←【第二ゲート】←←←← ↓ ↑ ↓ 【ゴールポール】 ↑ ↓ 【第一ゲート】 ↓ ↑ ↓→→【第三ゲート】→ ↑ ↑ 【スタートライン】 まず、第一ゲートをくぐらないと始まりません。スタートラインからボールを打って、完全に通れば通過となります。 但し、コートから出た場合と、ゴールを完全にくぐっていない場合はスタートからやり直しです! 次に、第二ゲートです。第一ゲートをくぐっている事が前提条件です。 第二ゲート以降は、コートから出てしまっても、矢印の方向からゲートを通過すれば通過になります! また、もし通過出来なくても、第一ゲートとは違い、ボールが止まった位置から打つ事が出来ます。 第三ゲートも第二ゲートと同じです。此方は、前2ゲートをくぐっていないと通過しても意味がありません! そしてラスト、あがりです! 上記全てのゲートを通過している場合のみ、あがりの権利を得ます。ボールをゴールポールに当てればおーけーです! 但し、一度上がると、そのあがった玉は取り除かれ、その玉の持ち主はもうゲームに参加出来ません! この辺も作戦上重要です、良く考えてあがりましょう! 他にもルールはありますが、今回は簡単バージョンです! とりあえずスタイリッシュに、ゲートボールに親しみましょう☆ |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月05日(水)23:32 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
● 秋と言うにはまだ暑過ぎる日差しの下。 「メイだぞ。今日は楽しく遊ぼうな」 ふわり、揺れる白いワンピース。深々と頭を下げてから『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE000267)は笑う。 マジ渚のエンジェル。此処はただの広場だが。 そんな五月がお年寄りに可愛がられる中、『常闇の端倪』竜牙 狩生 (nBNE000016)の横に並んだ『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は少し楽しげに口角を上げる。 「年を重ねた紳士淑女の社交場なら、あたし達の出番だわ」 青年と少女。明らかに『歳を重ねた』が不似合いな2人だが、実際相当高齢である。お爺ちゃんである。 狩生の友人なら、自分にとっても友人。楽しんで行こう。そんなことを思いながら輪へと歩き出す途中、ふと足を止める。 「まあその内、若者と思われるのも性別を誤解されるのも慣れるものよ?」 「……貴方が言うと、重みが違いますね」 交わされる微かな笑い声。紳士的に挨拶に向かった背を見送る青年の後ろでは、『三高平のモーセ』毛瀬・小五郎(BNE003953)が、少しだけ軽い……否、ちょっと不安定なだけだろうか。とりあえずそんな足取りで、持って来たスティックを立てかけていた。 自分の分と、大事な大事な妻の分。 「ほら、ばーさんや……久々のげーとぼーるじゃよ……」 優しげな、少し震えた声。否、震えちゃう声かもしれない。妻が元気な頃は、毎週の様に通っていた。今日は久々のゲートボールだ。 早起きして、早朝練習までしてきた。思わずうきうきしてしまう気持ちを隠し切れない。周囲にお花が舞っていそうな笑顔である。 「あれ、あんた……もしかして、あそこに住んでるモーセさんかい?」 声をかけてきたのは竹次郎。孫から聞いていたけど、神々しいじいさんだねぇ。そんな言葉が交わされる。じじばばネットワークぱねえ。 老後のスポーツ・ゲートボール。覚醒前に本でルール覚えたのが、まさか役に立つ日が来るなんて。 きょうだけはれいらいん、じゅうよんさい☆『巻き戻りし残像』レイライン・エレアニック(BNE002137)は、老人達の中で笑顔を振りまきながら、思う。 いや別に引きこもり脱出の切欠にしようとか思ってなかったし。ほんとだし。うん。実際にやるの初めてだし。 まぁ要は切欠に出来なかったのかもしれない。そんなことは置いておいて、楽しめばいいのだ。 「レイラインちゃんは、おばあちゃん子なのかしらねぇ」 「そ、そうなのじゃよ! おばあちゃん大好き!」 早速口調でぼろが出ているけれど。気にしたら負けだ。何か後ろの方で黒い青年が笑った気がするけどきっとそれも気のせいだ。 「冷蔵庫なんぞない。水筒も竹藪の竹で作ったもんやぁ」 生ぬるい水道水たっぷりのそれと、帽子。序でにマイスティックは手作りです。 『√3』一条・玄弥(BNE003422)は、同年代としてするりと、輪の中に混ざっていた。話すのは非常に他愛無い会話、なのだが。 「保険入ってないならあっしが紹介しやすぜぇ」 なんだか非常にこう、何て言うか、宜しく無い話が混じっているのは気のせいだろうか。きっと気のせいだろう。 ともあれ、そんな感じで。蝉の鳴き声を背に、仁義無きゲートボールは開始されるのであった。 ● 先行はリベリスタ。一番手の五月は、一つ深呼吸をした。その視線がちらりと、スティックを優雅に地面につく青年に行く。 スタイリッシュ。うん、わからん。 「3、2、1……チェックメイト、だぞ」 かつん、打ったボールは真っ直ぐ、ゲートを抜けていく。ほっと一安心。 上手く出来ているだろうか、同じく1番、菊を振り返れば、大丈夫よぉ、と笑顔の返事。あ、オネエなんすね。 その菊自身も、するりとゲートを通す。流石熟練。通した後に、一言。 「……ふふ、この調子なら、後3手も要らないわねぇっ」 あ、やっぱりオネエなんすね。 続いて、レイライン。妨害も何も無く。シンプルに打った球はやはり真っ直ぐ伸びて……ぎりぎりゲート通過。非常に、邪魔になる位置である。 しかしそれを物ともしないのがじじばば。竹次郎の一打はレイラインの玉を弾き、程好く止まる。 「――風の流れと己の力、地面の調子からボールがゲートを通れる事は手に取るように分かるわ」 すぅっと、伸ばされたスティック。エレオノーラ藍色の瞳が細められる。すごい真剣な顔してますけど、正直自分でも何言ってるのか良く分かりません。 音も無く、振り抜かれる。 「……だからカウントは3つも要らない」 転がったボールは、丁度中間地点。中々にいい位置である。集中した甲斐があったというものだ、そっと、息を吐いた。 「おや、流石ですね。……では私も」 常より楽しげな声。 3番手、狩生のスティックがやはり、軽い音を立てて玉を弾いた。エレオノーラの玉の近く。ぴたりと止まったそれに、笑う。 「予測は常に戦況を左右します。――幾重にも重なる糸から、私が選ぶのは『最善』」 全力を尽くしましょう。何かもうちょっと違う時にこう言う事言って欲しかったです。 噂に寄れば。ゲートボールって、体力使うハードなスポーツらしい。『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)は不安げにスティックを握る。 自分、大丈夫だろうか。『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759) は少し、考える。そういえば、このルールは簡単にしてくれたものなのだろうか。 初心者であろう、と此方に気を使っていては、老人達は本気を出せない。それは、心苦しかった。ならば。 「少しでも本気を引き出せるように頑張りたいのじゃ」 伸びたボールはまさにゲート通過ぎりぎり。ふ、とその口元が緩む。しかし。 スティックを持って近づいて来た梅が、にこりと笑う。 「わるいわねえ、お嬢ちゃん。アタシも本気出さないと」 若干斜め気味に構えたその姿。見ていた五月が、がたっ、と立ち上がる。 「う、梅さん、それは!」 \黄金☆ポジション/ 何か良く分からない技名が出た。お菓子を摘みながら老人の中にいた『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が、解説を求める。 なんか、要はすごい技らしい。梅にしか出来ないらしい。そんな感じらしい。適当だ。だって私にもその技名が何なのか分からない。 唯1人。 「流石はゲートボールの女豹……弾のベイベーの二つ名は伊達じゃないな」 うんうん、と満足げに頷いてる五月を除いては。 打たれた球が、転がる。ゲート端ぎりぎりを抜けて、最短距離。第二ゲートに最も近いところで停止したそれに、梅は満足げに笑った。 続く、『鷹蜘蛛』座敷・よもぎ(BNE003020)は、力を込めすぎないようにそっと、スティックを振る。慎重、しかしボールの行く先は見ない。 「……さあ、次だよ」 背を向ける。あ、何かそれかっこいいです。 白熱する試合の中で。自分の手番が終わってもこそこそと動く影、ひとつ。 楽しげに歓談する老人達のスティックの一本。そうっと手に取った玄弥がつけたのは、ガム。せこい。和気藹々と一片の容赦も無くせこい。 さっきからこっそりボール動かしたり繰り返してますが、ばれていないと思ったのでしょうか。 「いつでも殺る気だけはありまっさ」 「……そろそろ休憩の時間ですね。少し早く休憩して貰いましょうか」 静かに。かかった声に振り向けば。珍しく優しく微笑んだ狩生がいたとか、いないとか。 手渡されていたルールブックの表紙を、そっと触る。ゲートボール。そのスポーツに始めて触れた日を、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は思い出す。 微笑が、漏れた。友達も作らず公園で佇んでいた自分を、近所のお爺さんが誘ってくれたんだったか。 す、とマイスティックを握る。颯爽と、立つのは第二ゲート付近。皆の為でもあるけれど、久々の戦いだ。腕が鳴る。 そう。今のミリィは戦奏者ではない。言うなれば、魔術師。ゲートボールウィーザードなのだ。 「――さぁ、ショータイムです」 ゲート付近にあるボールを容赦なく弾く。 猛者が集うゲートボールフィールドで、ミリィはまさに魔術師。そして、戦況を見極め奏でるもの。 「私のボールは、嵐を呼びます!」 びしっと一言。軍師の能力をこんなところで遺憾なく発揮してしまう貴女が素敵です。きゃーかっこいいーって応援も聞こえますね! 対するは、八重。打ったボールは上手い具合に仲間のボールの位置を調整する。 「ふふ、私も場を整えるのが、得意なのよ」 お互い頑張りましょうねえ。微笑みこそ優しいが、纏う雰囲気は歴戦の猛者である。 外さずの小五郎。何かすごい肩書きを持ってるモーセ……基、小五郎の一打は、見事に第二ゲートを通り抜ける。 「ぃぇ~ぃ……」 「……はて? 次はわしの番ですかのう……?」 いやねおじいちゃん、ボールは今打ったじゃない。 外さずの小五郎に相応しい腕も勘もそのままのようだが、どうやら記憶力がコートアウトなさっているようです。 その後ろでは。 「オレは一閃する!」 第3ゲート目指す五月の声。外れた。しかし、見える。見えるのだ。次の手が。 自分はリレーションの猫。多分そう呼ばれてる気がする。気がするだけとか言わない。 「……オレはボールを通すことには貪欲だぞ」 そう、全てのボールは、五月の手の中で踊っているのだ。 リレーションの猫と呼ばれた、五月の掌で! ● 本来のゲートボールは時間制限があるものだが、今回は楽しくやろうという事で。 \おなかすいた/ 此処から、休憩タイムである。 「自信は……あ、あんまりないのじゃが……おいしいかぇ?」 「美味しいわよ、与市ちゃんはいい子ね!」 控えめに。手作りしてきた、というおはぎを差し出した与市。評価はとてもよいもので。 少しだけ、その表情がやわらかく緩む。 塩とライチの美味しいアレを楽しむエレオノーラの横では、レイラインが少女の顔でお茶を振舞う。 「……ところで、老後元気に過ごすコツとかって何かあるかのう?」 「お友達と趣味を大事にする事じゃないかなぁ。ほら、レイラインちゃん、飴ちゃんいるかい?」 「え、飴ちゃんくれるのかえ? やったー!」 あ、なんかやっと少女っぽいよ! 良かったねおばあちゃん! 「うん、オレたちは所謂お友達なのだぞ」 狩生の隣。老人の中にちょこん、と座った五月は、一生懸命話を続ける。狩生――じいじが何時もお世話になっている、といえば可笑しそうな、笑い声。 「……ええ、五月君はお友達なんです。宜しければ、皆さんも」 「オレ、皆と友達になりたいぞ」 機嫌が良いのだろうか。長い黒髪を、そっと撫でて。話に花を咲かせていく。 彼らにとって自分は孫世代だろうか。それとも、もっと? 分からないけれど。孫と遊んだ、って気持ちになってくれたなら、とても素敵だ。 表情が緩む。ああ、幸せだ。小さく呟いた。 「オレもこんな老後は安泰な生活をしたいな!」 五月ちゃんは可愛いねぇ。笑顔と共に、差し出される沢山のお菓子。どうやら渚のエンジェルは大人気の様だった。 「ん……狩生くんもどうかな? 何ならお弁当もご一緒したいのだけれど」 差し出したのは卵焼き。よもぎの誘いに、狩生は少しだけ申し訳無さそうに目を細め、微かに首を振った。 「運動中に食事を取るのは、少々苦手でして。……お話ならご一緒に」 嗚呼、その帽子もお似合いだ。そんな言葉の合間に、混ざるのは老人達の会話。 楽しそうに笑い合う姿は、少しだけ羨ましいものだった。 年月を経て、時を重ねて。それが自分には出来るのだろうか。姿は、変わらないけれど。同じ様に笑えるのだろうか。 答えは知らないけれど。 「みんな狩生くんの友人なんだよね。……良い友人だ、本当」 こんな未来があれば良いな、と、願う。 手際よく、ユーヌがお茶を配っていく中で。老体に鞭打っているであろうじじばばずにマッサージを施すのは小鳥遊・茉莉(BNE002647)。 もう、彼女自身も80歳越え。本当ならこんな風な生活をしていても可笑しくない筈だったのだ。 行うのはサポート。けれどだからこそ。良い試合になるように。丁寧に凝った肩を揉み解しながら、茉莉はそっと微笑んだ。 「息子の嫁が巻き寿司を持たせてくれましたじゃ……。嫁は料理上手でしてのう……よければ皆さんもお一つ如何ですかのう……?」 持って来た絶品巻き寿司は、皆に大人気。その有名さから(じじばばネットワーク調べ)あっと言う間に輪に溶け込んだ小五郎は、楽しげに言葉を交わす。 休憩中の世間話は、何よりのご馳走。 孫の話やら、ひ孫の写真やら。大事な、自分の家族の話をかわす。愚痴もあるかもしれないけれど、多くはとても幸せなもので。 流れる穏やかな雰囲気に微笑んだ狩生にも、小五郎は震える手でお茶を差し出した。 「……狩生さん、ご家族はおられるのですかのう……?」 不意に。自分に向けられた問いに、一瞬青年の動きが止まる。 硝子越し。銀月は相も変わらず冴え冴えとしたままだけれど。其処にある色を、老成した小五郎は見逃さない。 「いいえ。……縁者と呼べるものは、もう居ません」 仕方の無い事ですね。そう囁くように漏れた声に頷いて。小五郎はそっと、自身のお茶を置く。 歳を取るのは、大変な事だ。足腰は弱くなるし、記憶も曖昧になる。若い頃の様には、行かなくなる。けれど。 「皆と同じように歳を重ねられないという事は、寂しいと感じる事もあるでしょうな……」 歳を取らない、と言うのは果たして、幸せなことだったのだろうか。 一口。お茶を飲んで。青年は曖昧に、微笑んだ。 ● なんだか休憩前より1人減った? なんて事はまぁとりあえず置いておいて。 リベリスタ側の代打、ユーヌの作戦は非常に強かであった。既に第三ゲートを通過した玉を器用に弾き、射線を塞いだ上の、通過。 「健弱、乱気、陰影、停止、減退――運が悪かったな?」 まさに独壇場。彼女を避けようとすれば手番を重ねればならず、避けなければゴールさせてしまう可能性だってある。 この娘……出来る! とご老人が言ったとか言わないとか。 激戦を極めていた試合だが、終わりが見えてきていた。状況は、リベリスタ優位。しかし、たった一手で覆り兼ねない。 差をつけたのは、個々の努力。そして、ミリィや与市の、場を整えようと言う尽力だった。 射線上。一手でゴールを決めるには邪魔なそれを、レイラインは見つめる。此処で攻めねば、何時攻めると言うのだろうか。 半ば地面に叩き付ける様に。一見ミスショットに見せかけたそれはしかし、玉に宙を舞う力を与える。 ふわり、と。 浮いた玉は、射線上の玉を飛び越えて。くるくる、かかった回転のまま、ゴールポールへヒット。 「これぞ、エアリアルレイラインじゃ!」 何かめっちゃかっこいい名前ですが、自分の名前を入れちゃう辺りおばあちゃんお茶目です。 それに続く様に。苦戦するじじばばを差し置いて、エレオノーラもゴールする。 「……チェックメイト」 大事な決め台詞です。忘れません。 くるくる、回るスティックが、ぴたりとボール直前で止まる。よもぎの口元に浮かぶのは微笑。 「最後の瞬間まで楽しませておくれよ。そうすればこれは思い出として……記憶される」 黒髪が揺れる。打ったボールは、もう見るまでもない。 「カーテンコールの時間だ。アンコールも無いのに出てきてはいけないよ」 勝敗が、決して行く。ここぞという時の決め球だ。それまで使っていたスティックを置いた小五郎は、そっと、立てかけてあったそれを取る。 「ばーさんや、一緒にげーむをするのは久しぶりじゃのう……」 構える。大事な妻が、傍にいる気がした。 嗚呼。これは妻にささげる愛の一手。 「参、弐、壱……王手ですじゃ……」 ゴールポールも、喜んでいる気がした。 後片付けも済んで、気付けば夕方。 「……またここへ来ていいかい?」 「よければまた誘ってね、楽しかったわ」 よもぎや、エレオノーラの声には、勿論! と言う笑顔が返る。 それくらいに楽しかった一日もあっと言う間。別れを惜しむ言葉の影で、すう、っと消えたゴールポールと、戦い抜いた戦友達へ手を振って、ミリィは踵を返す。 老人ばかりの、じじばばぱらだいす。悪くなかったかも、知れない。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|