●とびこめー^^ 俺にはもうあいつを擁護してやる用意はない ――アーク、タワーオブバベル所持職員による証言 「いやぁ、もふもふって正義ですよねぇ」 「なんだいきなり。とうとう頭がおかしくなったか」 ものすごいアップテンポな声でリベリスタ達へ第一声を向けた『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)を見たリベリスタの感想は尤もだ。 っていうか、こいつがもふもふ()とか頭おかしい。 「そんなに怯えなくでもいいと思うんですけどねえ。あ、今回の依頼は『もふもふしたアザーバイドが沸くバグホールを潰し、然るべきバグホールへ送り返す』だけです」 「……元のホールじゃ駄目なのか?」 「ええ、駄目です。どうやら、バグホール、識別『A』は蛇口のようなもので、吐き出すことしかできないそうです。逆に、識別『B』は吸引、と」 「まあ、だいたい一本道みたいなものなんだろ? 列整理でもするのか?」 「ああ、いや。それが、このアザーバイドは『もふもふされたい』という漠然とした感情があるようなので、皆さんでもふもふ、っと……してもらえれば」 なあんだ、こんとんじょのいこ(文字化け)。 「ああ、で、そのアザーバイドの素体というかこちら基準の外見ですが」 夜倉が、ガラスケースを置く。リベリスタ達に与えられたのは三秒の硬直と逃走という選択肢だった。 「おっと、僕も学習したんですよ」 「うわぁ電子ロック?! あのロリしか使わねえと思ったのに!」 ……余談であるが。 ガラスケースの中身は「ナミケダニ」――害のない、ごくごく安全なダニである。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月06日(木)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●神秘の犠牲 かわいいふわもこと戯れるだけの簡単なお仕事! ヒャッハー、楽してバイト代ゲットだぜ、にひひ♪ ――『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)、詳細を知る前の歓喜 「電子ロック、か……なるほど……」 目の前の扉が生半可なことでは解錠されないことを確認し、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)の口から変なものが溢れた気がした。 何処を見ているのか判然としないが、ここではないどこかだろう。それだけは確かだ。 「……この間木の枝に降りた時に、お仲間さんをぷちっとしちゃってごめんなさいです」 常々そこかしこを縦横無尽に歩き回っている『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)にとって、ふとしたきっかけでダニを轢殺してしまうことはよくあることなのだろう。 いや、それにしてもナミケダニに謝るとはなかなかしない好意をいともたやすく行うこのお嬢さんは本当にもうね。 ……純粋といいますか。 「もふもふのダニかあ……どれくらいの大きさなんだろうね」 阿鼻叫喚甚だしいブリーフィングルームにあって、『本屋』六・七(BNE003009)の落ち着きは尋常ではなかった。 寧ろ、異常なまでに楽しみにしている風すら感じられた。 幼稚園児くらいの知能、それなりの馬力があるがゆえにもふもふ出来る快楽。 それを考えれば喜びこそすれ忌避感はない、らしい。 だから彼女には、浮かない顔で震えているメンバーのことが今ひとつ理解できないでいた。 「もふるのノミさんあいてなのっ!??」 もふもふ依頼と聞いて喜び勇んで来たリベリスタは数多い。 大凡半数以上は、羊とかそのあたりを想像した純粋な至高の持ち主だったに違いない。 そりゃまあ、いきなり閉じ込められてナミケダニっぽいアザーバイドもふってこいとか鬼みたいなこと言ってるよなアークも。 だが、それも任務である。もふもふの依頼に来たのにもふらないことを頑張ろうとするミーノは、珍しく後ろ向きだった。 「ダニだろうが蜘蛛だろうがカビだろうが、世界に無害でもふもふなアザーバイドであれば返してしまえばいいじゃない」 ところで、エレーナこと『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は冷静だった。 何故か手元の幻想纏いでナミケダニの映像を延々と垂れ流している様子からすると、より鮮明かつズームアップされたそれを見ていると思われるが、大丈夫なんだろうか。 本人曰く、「お腹すいてる時に見るとサワガニみたいで可愛いわよ」だそうだが、お願いだから食べないでください。インドじゃねえんだから。 「おいどうすんだよ、ダニだぞダニ」 「ご主人……どうなさるおつもりだ……」 『いや名前は「と」じゃない』錦衛門 と ロブスター(BNE003801)――便宜的に『錦』『真ん中』『ロブ』で呼ぶ――は混乱していた。 正確には錦とロブが。真ん中の表情は変わっているようには見えないので、彼ら二人(?)が混乱しているだけだ、問題ない。 「タイムマシンよこせよ、ガッデム! いけないわ、包帯へのヘイトがストップ高よ!」 計都は既にストップ高だった。ヘイトが。誰に? 包帯に。 で、当の包帯はといえば裏口から逃げました。わかってるじゃねえか。 (ふふ、これはこれで楽しそうじゃないか……) で、まあそんな錯乱者沢山の状況下にあっても『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)は冷静だった。けど、これが初任務でよかったのかい。 ナミケダニは初心者だって遠慮せずもふっちゃうんだぜ。 なに、反応が見たくて入った? そうか、君の反応も見せてくれるな(強制 「私を誰だと思っているのだ! シベリア生まれの三高平育ちだぞ!単純作業とノルマの申し子たる私に掛かれば、ナミケダニ型アザーバイドの一匹や二……匹……っ」 ベルカ、拳を構え力説。どの辺に褒めて良い要素があるんだったか全く分からないが、気合だけは人一倍といったところか。 だがちょっと待って欲しい。声が尻すぼみになっているけどどういうことなのだろうか。 「うわあああ口に出して言ったら何か怖くなってきたああああ!!」 おいこの萌え系ビスハなんとかしろ。 「一刻を争う事態ですから、まおは頑張ります。とびこめー」 「お、おう……」 斯くして。 リベリスタたちは精一杯もふもふすることになりました。 ●わらわらもふもふ ブレイクゲートを前に、バグホールAはそれなりのナミィを吐き出していた。 具体数? 察せ。 『はーい、みんな! 良い子にして待っててちょうだいね? そしたら、うーんともふもふしてあげるから』 『もふもふしてー! とってももふもふしてー!』 『ちょ、待っ……ギャァァァァ!?」(途中で通常言語になりました) 空中は大丈夫だよね? っていう話が挙がりましたが。 たとえ空中でも、敢えてナミィにアプローチを取ってしまった計都はその限りではなかったのです。 よくやった計都! 君の尊い犠牲はリベリスタがバグホールAに進軍する時間を稼いだぞ!(やっつけ 「えっと、閉店なのですごめんなさい」 ナミィたちにぺこりと頭を下げ、ブレイクゲートを済ませたまおは心なしか表情が明るい。 それなりの数が居るとはいえ、彼女にとってはナミィ達は嫌悪の対象どころか、シンパシーを感じる素晴らしい相手だったり、する。 一方。 (せすじぞわぞわ~~っ!?) ミーノはといえば、看板を突き立てようとしたタイミングでナミィ数体に囲まれた。 「もふもふやかたこちら」と書いた看板を突き立てたはいいものの、肝心の翻訳係がもふってもふられてしている。 ミーノももふっている。これはやべえ。この二人は既に結構色々やばいぞ。 彼女たちに落ち度はないのだ。ナミィの熱意が全部悪いんだ。ボクメツ! 「私はクモが嫌いというわけでもないし、楽しませてもらうよ」 彩音は冷静だ。 ナミィへと悠然と接近する彼女は大仰に両手を広げ、近づいてくる者たちへ掌を落とす。 肌触りはミンクのようだ。指先を滑る滑らかさはシルクだが、その毛立ちのよさはえもいえぬ。 思わず緩みそうに成った頬を引き締め、満足行くまでもふっていった。 すっげえエンジョイしてるこの人。周囲の反応の前に本人が面白い反応してる。 「これが……ナミィ……よ、よろしくね……」 『わーい、もふもふー!』 若干引け腰ながらも表情を変えずに挨拶を向けたエレーナは、触れたナミィの感触に声を失った。 (イヴォイヴォの……織物……!?) そう。 彼はロシア人であるわけだが、ロシアで織物といえばイヴォイヴォである。イヴォイヴォの織物なのである。 一瞬、花嫁の街とも呼ばれるあの都市を思い出した気がしたが、雑念を断つ。 それは大した問題じゃない。もふらなければ。 「言葉は通じなくても、もふもふ愛があれば大体のことは通じるって信じてる……!」 七の表情は明るかった。目は輝いていた。 もふもふへの愛がある自分が何を恐れるというのか。 解り合おうとする心ともふもふへの愛があればすべてはきっとうまくいく。だから彼らを納得させる……! もう一度言う。 七は、輝いていた。 「うおあー!ダニがいる!ダニがいる!え、ちょ、待て待て外すn」 真ん中の判断により、ロブは外されました。 「我らぬいぐるみの手では上手くいかんのだ。片方は外れねばなるまい」 錦、それお前にとっても死亡フラグなんじゃねえの。いいのか、それでいいのか錦。覚悟完了した系か。 近づいてくるナミィに、真ん中はゆっくりと手を伸ばす。こころなしか、おずおずと、だが。 だが、一瞬触れてしまえばそれで十分だった。がばっと腕を広げた真ん中は、ロブ(が居た方の手)でナミィをもふもふしている。 寧ろ、全身を使った全力スキンシップだ。これは激しい。 「さあ! ナミィよ! 我が腕の中でもふたえるがよい!」 たえたらダメだろうベルカ。 いや、実際はそんな事より、いきなりテンションMAXな彼女である。 明らかに開き直った様子で、もふもふにすべてを賭ける勢いのベルカである。 どうやら、自分でノルマを設ければ怖くないと考えついたらしい。一応。 「……ふむ……見た目がアレな事を除けば至って従順」 もふもふを繰り返しているうちに、こころなしかベルカの頬が緩んでいるような気がしないでもない。 『おねーさんに、もふもふしてほしい子は誰かなー♪』 『おうたのおねぇさんだー!』 『とびこめー!』 「あばばばばばばばば」 計都はと言えば。 お行儀よく、なんて遊びたいさかりの精神年齢のナミィに通用しないということを理解できなかったのが痛かったというかなんというか。 既に十分もふもふ「されて」いたのにこれである。うん、オラ可哀想に見えてきたぞ! ところで、まおはこの状況を喜んでいた。 というのも、ダニの顎というのは蜘蛛のそれと大筋では変わらない構造をしているがために、それに気付いた彼女はちょっぴり、嬉しいのだ。 背中をかるくもふり、次いでお腹に手を伸ばし、全身を使って、素晴らしいまでの笑顔でもふるまおの様子は幸せいっぱいといったところで。 彼女の周囲だけ、すごく色々お花が飛んでそうな雰囲気。 ……ああそうだよ、クモビスハとナミケダニの取り合わせだよ! 可愛いんだから仕方ねーだろ! ●切なさは向こう側 「よーしゃよしゃよしゃよしゃ、気持いいのか? んん? よーしよし、いい子だなー……」 流石はシベリアの単純作業の申し子、ベルカ。数匹をモフり倒した時点で、彼女は既に覚醒しつつあった。 何に? ナミィの可愛さにさ。 見た目を気にしない事にした彼女にとって、従順なナミィは嫌悪する対象ではない、というのは明らかだ。 気持ちいい場所を探りつつ撫で付け、或いはもふもふする彼女の頬が次第に緩み始めているのは気のせいではない。事実だ。 「なんか楽しいかも……!!」 無論、そんなベルカに彩音が目を向けないわけがない。心境変化というのは貴重な話だとばかりに、ベルカを観察していたが……うん、カメラあったらダブピしてたかもな。 ミーノは、背筋も尻尾もぞわぞわしていた。 当然だろう、本来はナミィを誘導するだけの簡単なお仕事に興じようとして、現にそれは相応の結果をもたらしては居た。 ある程度の役目を全うした、ということだ。 なので、追加任務としてもふもふする必要性に駆られたわけだが、残念なことに彼女はナミィに対して耐性がなかった。いや、在る方がスゲェんだけど。 なので、ぞわぞわし過ぎたらどうなるかといえば―― 「ぷしゅぅぅぅ~~~~~~~~~~~」 声を上げて倒れてしまうこともまあ、あってしかるべきなのかもしれない。 まあ、その様子を彩音が(略 「大人しくて人懐っこいなら可愛い……か……も?」 エレーナは、既に慣れつつあった。だが、本当に慣れてきたのかどうかはその仮面の上からは理解することは叶わない。 ので、反応具合から見ざるを得ないのだが、反応自体が割と平板としたものだったためか、判別がつきづらいのだ。 要は、こう、エンジョイしてそうだけど微妙に変なオーラを感じないでもないのです。 「それにしてもナミィちゃんたち赤いなあ……うんうん、赤くてもふもふしてて可愛いよ」 『きゃー、くすぐったーい!』 七は、相変わらず輝いていた。 一匹残らずもふもふしなければならないというのに、自分の手は二本しかない。 なんと悲しいことだろう、などと思いながら、彼女はナミィの気持ちのよいところを遠慮無く探り続けていた。 頭、腹、もしくは顎の下。鳴き声が聞こえた気がしたが、嫌がるような仕草をしていないことから、決して的はずれなスキンシップをしているわけではないことも理解できる。 だから楽しい。 だからつい抱え上げ用途もしてしまう。 言葉なんてなくたって分かり合える、と彼女は改めて理解した気がした。 「一人でいけるか、ご主人」 錦は、片手で懸命にもふもふしていた真ん中の感情がやや揺れていることに気づいていた。 意思表示を表立ってしない真ん中が、これほどまでに自立しようとしている。それは錦にとって好ましいこと。 ナミィという存在あってこそ、真ん中は自立しようとしているのだ。これ程嬉しいこともあるまい。 「感謝する。そして頼んだぞナミィ殿」 そう言って、錦はその姿を地に晒す。 そして――真ん中の、もふもふ無双がはじまる。 両手が空いた。両手を使って、包み込むようにナミィの体に触れていく。 感触を幾分か味わったなら、身をうずめて全身で撫でる。 撫でる、くすぐる、顔を目一杯に擦りつけて息を吐きだす。 真ん中が、幸せそうなオーラを出している。ふかふかと楽しんでいる。 動物に触れたことのない少女にとっての「初めて」がナミィであったのは、彼女にとっては幸福だったのかもしれない。 一方、まおはといえば。 「よーしよしよしよしよしよしよs」 やめなさい! そのワードはエンコ切りフラグよ! 『おねーさんおねーさん!』 『すっごくたくさんもふもふしてもらったよ!』 『すごく楽しかったよ!』 『そ、そう……良かった……ッスね」 共通言語を繰るのもつかれるものだ、と計都は思う。彼女の場合、常以上の疲労を強いられたから当然といえば当然である。 「うわーん! ナミノフ! ナミンスキー! ナミッチ! 向こうに帰っても忘れるなよー!」 いつの間にか名前すらつけていたらしい。なんだろう、某沖縄元気っ娘みたいなネーミングセンスの欠如を感じるこの名前。 ベルカ、命名だけは流れ作業にするなよ……絶対だぞ。 「やはりまだ離れるとはいかぬか」 「ッていうか何で俺から外されんだよ!」 ゲートBに去っていくナミィ達に目を向け、真ん中は小さく笑った、気がした。 だが、錦は一時でも自分たちから自立したことが嬉しくもあった気がした。 故に、大きな一歩だったのだろうと。 最後のナミィがゲートをくぐったところで、まおがゲートを破壊する。 「切ないってこういう事だって、まおは覚えました」 そんな、切ない終焉――で、済めばよかったなあ。 「で、どうだった皆。感想をきかせてほs」 「あははははははははははははははは」 「夜倉ちゃんも面白いお仕事もって来てくれたわ。ええ、本当に。今度会ったら包帯を剥ぎ取るくらい感謝してるわ」 ダメ押しのような彩音の問いで色々とぶっ壊れた面々については、まあ。気にしてはいけない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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