● エンドロールは常にプロローグとなる。 繰り返す、繰り返し、繰り返して、それ以外は必要ではないという様に。 世界は常に暗転し、傷跡を残す。 続きのないカセットテープ。ループする不協和音。 繰り返し、削りとられて行く世界。エンドロールがプロローグになる。 始まりは終りだ、終りは始まりだ。 始は終となり、終は始となる。 一が全となるように。其れは『世界』を作り上げていく。 ● 「始と終が同居して、繰り返す日常に飽き飽きするってことはないかしら」 左右に目線を動かし『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は言葉を紡ぐ。 「甘くも苦くもない。無味無臭。皆にお願いしたいのはアーティファクトの破壊よ」 配られた資料。緊張した面立ちのフォーチュナは小さく息を吐いた。モニターに映し出されたのは魔術師の使う澄んだ水晶玉。 「アーティファクトの名前は『世界の輪郭』。ぼやけたソレは偶然、迷子と親和性を持っていたわ。 迷子の識別名は『世界の欠片』。迷子――アザーバイドについては響希お姉さまが予知してる。 欠片と輪郭は互いにリンクする。互いの行動が互いに影響してくると思う。心配なら後でお話しを伺いに行くべきかもしれないわね」 一度、そこで言葉を切る。 ――皆は、明日を夢見る? そんな言葉。悪い夢を醒ます事を熱望するフォーチュナの桃色の瞳は蔭を落とした。 「世界を繰り返す。終らないわ。エンドロールは常にプロローグとなる。来るはずの明日は、来ない」 詩的な言葉、まるで呪いの様な唱えられる言葉。 「『輪郭』は常にぼやけ続ける。繰り返して、世界を其処に創り上げてしまうわ。 ――じゃあ、失くした『明日』は何処に在るのかしら? 見返した『昨日』は? 前も後ろも、どこにあるのか。それはね、お姉さまの見たアザーバイドが食べてしまうの。 咀嚼して、幸せも、不幸も、優しさも、悔しさも全てを淘汰する。過去も未来を噛み砕いてしまうのよ」 繰り返し、繰り返す。壊す事の出来ないソレ。 「お願いしたいのはアーティファクトの破壊。これは最初に言った通り。 壊す事は簡単だと思うわ。ただ、それには手順を踏まなければならないわ」 その水晶は『明日』と『昨日』を持つ者しか触れられない。 「甘美な誘惑よね。不安定なままの先がなければ、幸せで居られるのよ? 悔やんだ過去がなければ、今は幸せで居られるかもしれない。 ねえ、貴方は本当に『明日』を望む? 貴方は悔やんだ『昨日』を大切だと思える?」 暗転。言葉は、紡がれた。 「皆は『今日』を壊して。貴方の続ける筈の『今日』を、有る筈の『日常』を忘れないで。 その想いがあれば、触れられる。その想いで、壊す事が出来るから」 輪郭が存在する街は既に『明日』と『昨日』を失いかけている。食われ続けるソレ。じわり、じわり。エンドロールがプロローグになる。 「ねえ、全てを許容できる強さは、あなたにはあるかしら」 もしかしたら、ない方が幸せなのかもしれないわね――なんてフォーチュナは寂しげに笑った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月29日(水)22:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 踏み入れた場所は只の静かな占いの館だった。客の姿はない。ぽつぽつと明りが、ぼんやりと宿っていた。 一つだけ、扉のあいた部屋があった。 ギィ、と鈍い音を立てて室内にリベリスタ達は踏み込む。 真っ白になる視界。ぐるぐると、目の前が回った。 ――繰り返したい『今日』はどこにありますか? ● 目を開けた、白い靄の先、目の前を掛ける懐かしい姉の姿。 今日は海に行こう。『さくらふぶき』桜田 京子(BNE003066)はバタバタと駅のホームを駆けていた。 「あ、京子さん! 国子さん! 早く!」 手を振る。友人の声がする。金色の長い髪が揺れている。手招きするその扉へと京子は姉を伴って滑り込んだ。 大切な人たちと海へ行こう。電車に乗って、ちょっとした遠出をしよう。 寝坊する姉、猫だと言われて怒る姉、からかう二人の友人。 鮮やかな海の青が、混ざる様な空の蒼が、全てを飲み込んでしまいそうな、そんな日。 「ここは触手型エリューションがでます。京子さんも気合入れてくださいね!」 「出たわね、お約束。気合入るわー」 「舞りゅんも国ちゃんも頑張れ!」 ほら、さおりんが見てますよ、なんて笑う先輩に、赤い瞳を細めて楽しそうに応援する親友。 「もう! 二人とも最後は私に押し付けて酷いじゃないですか」 「京子ったら拗ねないの」 「ピンクは淫乱ですよ!」 嗚呼、騒がしい一日が、桜の花びらの様に、掴めなくなる前に。 桜吹雪が、舞った。まるで『あの日』の様に。 願った今日は、先輩が居て、親友が居て、おねぇがいて、幸せで、騒がしくて、楽しくて、ずっと続けばいいと思う。 けれど、ごめんね、唇が震えた。 「おねぇ、私行くね」 失ったものは取り返せないと、この胸に刻まれた。 教えてくれた貴女。 ――『お願い。私の大切な人が、大好きな親友が、哀しい思いをしない様に貴女が励ましてあげて』 ごめんね、続けられないんだこの日々を。前を向かなきゃ。 だって、私が居ないと皆が寂しがるんだよ。 「私はね、皆の未来の中にも生き続けたいから」 その言葉、手を伸ばす。未来へ、生きるために。 ● ――貴女の背負うべきものは何ですか? ● ただ、ぼんやりと見ていた。 『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)はつまらなかった。世界が、自分に関わるもの以外が、自分以外が。 目の前のものは、石ころだった。 目指した未来が其処にあったはずだった。指先が触れた途端に、全ては白紙になった。 遠く、家系図を辿れば母方に革醒者の祖先が居る事を知った。この身に宿ったのは神秘であった。 「――嗚呼、」 父は神秘を得れなかった。只、神秘に憧れた凡人であった。それ故に、神秘を得ようと気狂い、生き狂う。 其の体に全てをと望んだ、一通り、神秘の為に。 叶いはしない望みの果ては、救われる事のない末路。 嫌いだった、そんな父が。嫌になった、おとこという生物が。 幸福であったのは年下の大切な肉親が大嫌いな父の手のうちから離れていた事だった。 不運であったのはかつて触れた未来にはソレすらも失うと言う事だった。 ただ、失う事だけ分かっていた。 思い出せやしない、何を視たのだろうか。嗚呼、でも、思い出したくもない。絶望と狂気の渦巻く果て。 叶えたい望みは一つだけだった、その肉親と姉妹として『普通』の生活を送りたかった。 『ただいま』『おはよう』『いただきます』――其れがあれば幸せであった。 手料理だって、作っただろう。美味しいよ、と微笑んでくれれば、それで。 だが、目の前は暗かった。絶望と狂気に蝕まれて、叶わない望みなのだと知った。 ――夢の中なら、見れるのでしょう?絶望も、狂気もない、都合のいい夢が。 抜け出せない、ぬるま湯に浸るかのような幸せが。 「く、ふふ、うふふふふっ」 嗚呼、馬鹿ね、本当に、本当に――夢に浸って、瞳を伏せて。 ● ――望む今は、確かに其処に在りますか? ● 「ハァ……めんどくさ」 小さなため息とともに踏み込む。ぐにゃり、視界が歪んだ。 其れは過去か未来か――もしかすると永劫に訪れる事の無い、いつか。 『Le blanc diable』恋宮寺 ゐろは(BNE003809)は目を開けた。 世界が、呼吸を止めた。神秘が、世界を支配する変異が沈黙して、普通を謳歌していた。 アークの任務だとか、リベリスタだとか、フィクサードだとか、そんなものが何もない日。 飾られた窓の外、青い空には鳥が羽ばたいていた。 神秘は常に理不尽だった。言葉にする事もない。理不尽な神秘は人を襲う、喰らう、そして取り込む。 フィクサードを殺すことだって、ない。 戦いは怖かった。逃げ出したい、怖い、怖い。その想いを閉じ込めるために部屋の隅でじっとする。 衝動を抑える様に、胸の内にしまう様に。全て奥底に、閉じ込めて、鍵を閉めて。 ――嗚呼、でも『普通』の世界は誰も脅かさない。 「今日は、そんな必要ないんだ」 穏やかな日だった。世界が呼吸をやめた。穏やかな日を繰り返せるなら、なんて幸せなのだろうか。 明日が欲しいと、願う。人殺しをする『可能性』のある明日を。 明日は『可能性』だった。 私という世界に新たな選択肢を与えるのが明日だった。可能性は、捨てたくない。徹底的に甘やかされて、選択肢を奪われる。 役立たずであることを余儀なくされ続けた。 ――怖かった。私でなくなる事が。嫌だった、役立たずである事が。 「嗚呼……ハハッ……」 気づいてしまった。今日はなんと無価値なことか。 戦う明日があるから、価値がある今日だ。怖くて、逃げ出したくて、堪らないけれど――私でありたい。 横たえた体を起こす、シーツが波打つ。転がした愛用の傘。 青い空が、窓ガラス越しに見えた。 手を伸ばす。空には届かない。綺麗で、キラキラと輝いた『普遍』の空。永遠に時の流れすらを忘れさせる青。 傘を、Ombrelleを握りしめる。 手に馴染む其れを振りかぶる、息を吐く。 目の前の窓硝子を、空ごと叩き割った。破片に、ゐろはの思い出がぽろり、ぽろりと浮かんで消えた。 ● ――貴女は今にどのような未来を当てはめますか? ● 繰り返したい今日とは、なんだろうか。イマイチ浮かばなかった。望む『今日』の在処は何処に。 浮上した意識。そろそろと瞼を開けば見慣れた天井が広がっていた。 『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は日課通りに窓から真っ青な空と三高平の街並みを見つめた。 ただ、ぼんやりとしていた。 ふと、時計を確認し、慌てて着替える。朝食は優雅に食べる暇がなかった。窓から飛び出して、青い翼を揺らす。 学生たるもの遅刻などはしたくなかった。 「――セーフ」 おはよう、と声を掛けてくる友人らに挨拶をする。普通の学生生活。馬鹿な話しやテストの話し、今流行りの番組の話し。 何の変哲もない今日が、其処にはあった。 鞄を握りしめて彼は神秘に浸る。非日常を日常とする場所へと足を踏み入れるのだ。 「天風!」 声を掛けてくれる戦友や事件を予知したフォーチュナ達と顔を合わす。神秘の、世界。 今日は――否、最近は事件はないようで、笑顔が溢れていた。 不幸になる人が少ない、なんて幸せなのだろうか。ずっと笑顔で過ごせるのは幸せだ。 そうして、日常が繰り返される。くるくる、からからと。 日課の散歩だって、ただ、ぼんやりと空っぽになるまで奔るだけだった。風を全身で感じる。阻むものはなかった。 幸せだった。 「最高です!」 嬉しくて、笑みがこぼれる。嗚呼、なんて自由なのだろう。 今日が、繰り返される。全力で踏む一歩は矜持を貫く。一歩一歩確実に前を進む。 今日が幸せであったとしても、立ち止まれない。未来が、失われない様にと。 ただ、その翼で駆ける為に。壁を蹴る、駆けあがる先の屋上。 もっと、速く。もっと高く、空へ、空へ。先にある未来へと。 手を伸ばす。青い翼を広げる。 その指先は、何かを掴もうとして開かれる。 だが、少年の指先はまだ、届かない。 望む日常であるのか、立ち止まれない矜持の為に何故望むものを捨てるのか――ふわり、ふわりと青い羽根は揺れる。 ● ――得たものは、どこに置いておきますか? ● 繰り返す、メビウスの輪。神秘をその身に宿した日。自分が人間ではない事を知った。 『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)は抜け殻だった。心は完全に死んでいただろう。 薄暗い路地裏で、人を殺した。人殺しは心を蝕むものだった。只、『人』ではなくなった自分は何も感じなかった。 壊れて行く、ぼろぼろと。自分が、壊れて行く。 繰り返す一日が、心を抉った。 「――ッ」 其処に居たのは少女だった。否、獣になり果てた少女だった。人を殺し、貪り食って、口の周りを人間の肉片で汚す。 人ではない自分よりも更に人ではなくなった獣。 命を繋ぐために貪欲に牙を剥いた彼女を殺した。死にたくないと泣き縋る様な少女の顔が離れないまま。 繰り返して、繰り返して、其れは生きているのだろうか。 ――自分は、神秘を得て死んだ。人ではなくなって、壊れて行った。 生とは痛みだ。痛みがなければ得る物など何もなかった。 胸を突き刺す痛みがない。 何かを学ぶ筈の己すらなかった。何も得なかった。 繰り返して行くうちに痛みは風化していく。只の無だった。なにも、なかった。 「嗚呼、私は人間として死んだ」 その言葉は、傷をつける。 だが、麻痺した心には傷が、つかなかった。 死に続ける為に必要だった明日。壊れ続けるには必要だった明日。 人間ではなくなった者が生きたいと願うあの顔。 壊してしまった獣となった『人』ではない少女の未来を喰らう為に、生きたい。 そう思う、けれど、痛みは、麻痺した心は風化していく。 今日はただ、単調に続く。その心に同じ傷を負わせながら。 ● ――壊れて行く今日を繋ぎとめる物はなんですか? ● 愛しい人と、寄り添って。ただ、幸せに溺れようと思う。 『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)は愛しい恋人の膝に座り、その背に手をまわしていた。 触れる温もりが、幸せで、暖かくて。優しい。 毎日毎日過ごすたびに幸せを感じる。日常を切り捨てる事など考えたことはなかった。大切で、幸せだから。 頭をなでるその指先が、優しくて。逞しい腕から伝わる温もりが優しくて。 愛しい日常、全てが『何時も通り』の『今日』。 望む毎日を繰り返して、繰り返して、閉じ込められたい――そう思う。 「ねえ、貴方は、本当の貴方なのでしょうか?」 出会って、その時から愛しいと思った本当の『貴方』?答えは来ない。ただ、撫でてくれるその掌が心地よい。 ――此れは、きっと幻なのだと思う。 彼の膝の上が大好きな居場所だった。彼が撫でる掌が愛おしかった、彼の腕にすっぽりと収まっていたかった。 過去に縋る事は出来ないと思った。本当の貴方が、望まないから。 壊そうと、手を伸ばす。 「櫻子」 名を呼ばれた。顔を上げる。指先が、するりと頬を撫でた。 「幻なんてない」 この日々は幻ではない。本当の今だよ、と彼は頭を撫でる。強い力で抱きとめられる。 望んだ繰り返される愛しい日々を壊そうと、伸ばした指先は絡め取られた。 選び取りたい『今日』の行方は分からない。現実なのか、そうではないのか、それすら曖昧になる。 境界線は、消えてしまった。ただ、愛しい人との時間があればいい。 愛は、甘い誘惑の様に、心を締め付けて離さない。 ● ――愛しい夢が紡ぐ『今』は本当に偽物ですか? ● 望む今日は何だろう、と『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)は首を傾げた。 畑が一つ、川が一つ、桃の木が一つ、見渡す限りヤマ以外は誰もいない世界だった。 「……なんとも、まあ」 古臭い世界だと思う。彼女からすれば、人は怖かった。 人に会うならば、ソレに殺されるかもしれないと疑わねばならなかった。 人を見たら、今までの殺しが胸を過ぎる。まるで、殺しを嫌だと言う様なその言葉に自嘲した。嗚呼、なんて今更。 何もせず、誰にも会わず、ただ、生きるのが望みだった。 其れが幸せだった。 『一人になりたい』とそう望むなら、首を掻き切ってしまえばいい、そうすれば一人になれるのに。 ただ、人殺しで、悪だと自分を罵った。覆らないその現実。 殺した過去を失くしても、責むる未来を失くしても、『今日』の自分が許さないのだった。 劈くような断末魔が未だに残る耳が、返り血を浴びたこの両手が。 彼女の体全てがソレを許さない。 今まで殺した者、浴びた物。全てに見合う物を、残さなければならない。 自分は悪だと思う。けれど、彼女が残した軌跡が価値或る物であると誰かに言ってもらえるならば。 一人で居たかった、其処に居られるなら、何も考えなくてすんだ。 ぼんやりと、佇んで居られたのに。 繰り返す日常が、自分を蝕んだ。 得るべき終わりは、自身をも厭う世界の果てに或る。 「――此処では終れんのじゃ」 すまんの、と小さくつぶやいた。砕けてくれれば、それでいい。ただ、存在の証明の為に。 繰り返した今日で悔やむ。手を伸ばす、生きて、その存在を証明するのだと。 ● ――貴女の指は何を掴みますか? ● 眠気が、支配していた。 「……ねむい」 ぼんやりとした意識で、先ほど何をしていたのかを思い出す。運ばれてきた夕飯を下げた所だった。 今日はもうやる事はない。寝ればいい―― 朝日が上がっている。気だるさに身を任せ二度寝しよう。ぽかぽかと太陽が体を包み込む幸せ。 そろそろ夕陽が沈んでしまうのだろうか。夕飯を食べて、ごろごろとのんびりしよう。 聞こえる両親の小言に曖昧に返事を返す。うん、そうじゃの、そうか。 嗚呼、そろそろ読む本も無くなってきた。みんなが寝静まったら書斎に取りに行こう。 ――心の中にぽかり、と穴があいている。 何かを忘れていると、心が何かを欲しているのに、気付けない。 何も刺激もない、けれど安全な日々。何も起きない、何もしない、昨日も今日も、此れから続く日もずっと『同じ』。 「なあ――」 誰だろう、とじっと見る。変なマスクをつけた男が立っていた。 以前本で読んだ登場人物だろうか。思い出したいのに、思い出せない。つきん、頭が痛む。 ――気になって堪らないのに。 ――何故、そんなにも見つめているのか、気になって仕方ないのに。 「ふふ、わらわに惚れたかえ?」 戯れ言だった。自分を想ってくれる人なんていないと思っていた。だから、問うた。惚れたか、と。 ―――好きなんだよお前が! 何でか知らねーけど好きなんだ、悪いか!! 言葉が、色を戻した。息が詰まる。 何もなかった日々を、やりなおすためになった筈のリベリスタ。人生をやり直そうと思った、色を、取り戻そうと。 その為にアークに居た、仲間と居場所を得た。 掴む所のなかったこの手を掴み、引き寄せてくれる人が居た。大切だと、大好きだと思える人が居た。 心の中のピースが埋まっていく。一人ではない、指先を絡めて、その名前を呼ぶ。 生きて行こうと思う、この人と、皆と。 嗚呼、愛しいひと。 ● ――その指先は、誰の手を掴みましたか? ● 囚われる。掴めない幸せに、ありふれた今日に、得た傷に、愛しい人の指先に、『繰り返す今日』はただ始まり、終る。 目を醒ましたのはレイライン、京子、ゐろは、ヤガ、そして運命を投じ愛しい人の指先から逃れた櫻子だった。 赤い絨毯が敷かれ、人が居ない割には小奇麗な部屋であった。ただ、壁に掛けられた大時計が静かに鎮座する部屋。 透き通る水晶玉、その先に見えるのは此処ではない別の場所の様にも見える。 始を終とするアーティファクト『世界の輪郭』はただ、そこにぼんやりとした光を放ち鎮座している。 「わらわは、皆と生きて行くのじゃ」 帰ったら彼に言おう、必要だと、好きだと、傍に居てくれ、と。天邪鬼でも、この先、一つずつ、ゆっくりと。 「――おねぇ」 運命は重い、背負ったのは命だった。人の命、護るべき手。笑って、泣いて。けれど、前を向こう。誰かの為に。 言葉は、無かった、ただ、面倒だと思った。可能性はそこにあった。握りしめたままの傘を下ろす。 「ハァ……ウザい」 かち、かち、かち――時を刻む音が聞こえる。壁の大時計の針は正しい方向へと進んでいく。 過去と、未来と、今の交差点。 此処だけ、時間の流れが違う錯覚に陥る。 かちり―― 「さよなら、私が望んだ愛しい今日」 穏やかに微笑む。ただ、彼女は見ているだけだった。じっと水晶を見つめる。 レイラインは先を想い、京子は過去を背負う、ゐろはは自由と可能性を欲し、ヤガは存在を証明する。 伸ばした指先が、水晶に触れる。 ――ぱきん。 小さく亀裂の入る。その向こう。ちらつくのはもう片割れ――戦闘を行う姿。 同調していたアザーバイド――『世界の欠片』の喰らう力を弱めて行く。 世界は『輪郭』を失った。ただ、其処に散らばる『欠片』は当てはまる所を失ったのだ。 ● A to Z ――全てを表す其れ。 『過去』と『未来』と『繰り返す今日』が織り成すもの。 エンドロールはこない。プロローグは綴られ続けていた。 世界はただ、沈黙した。何も淘汰しない。何も、消えやしなかった。只、其処に『刻む今』だけおいて―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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