下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






☆<福利厚生>オリオンをも穿てアンタレス

●伝説の狩人の伝説

 昔々 あるところに とても強い 狩人がいました。

 どんなに強い 獣たちも 彼の前では 無力でした。

 ある時 狩人は 自信たっぷりに 言いました。

「この世界で 俺より 強いものなど いるはずがない。」

 彼のごうまんに 怒った女神は 一匹のさそりを 送り込みました。

 さそりが 狩人の足を刺すと 狩人は毒で あっけなく 死んでしまいました。

 狩人は 星になった今でも 同じく星になった この小さな さそりを恐れて 逃げ回っているそうです。



●そんな夏の星空の物語
「……と、いうのがオリオン座の神話の一説だったりしますけど」
 パタン、と静かに神話の本を閉じる『転生ナルキッソス』成希筝子(nBNE000226)。
「私は、やっぱり女神アルテミスとの悲恋の方が、好きですね。星になった相手に会いに行く……素敵だとは思いませんか」
 成程、流石に彼女も年頃の女の子、矢張り恋愛ものには興味が――って違ああああああああああう!
 そうでなく、リベリスタ達が今気になるのは、何故唐突にそんな話をしたのか、という所である。
「じゃあ、本題に入りましょうか。今回の主要登場人物は、オリオンではありません。その敵役、蠍です」
 確かに、夏の星空にオリオンはいない。
 一説によると自らを殺めた蠍の星が昇るからだと言うが。
「この島の高台に、E・エレメントが出現したそうです。そう、皆さんお察しの通り、光の――星明かりのE・エレメント、識別名『スカーレットアンタレス』」
 アンタレス――ギリシア語『火星に対抗する者』の意味を持つその名に相応しく、夏の夜空で真紅に輝く別名『赤星』。その輝きが、他の星々、そして地上の光をも集めて覚醒した。
 そして、赤い光で構成されたこの小さなE・エレメントは、本物の、そして神話の蠍と同じように、尾に猛毒を持っていると言う。
「とは言え、攻撃力自体は然程でもなく、命中率も素早さも恐れる程ではありません。そうですね、神話のオリオンのように油断さえしなければ……最長でも五行位で終わるんじゃあないでしょうか」
 ――待て、最長とか五行とか何の話だ。
 ツッコみたい、その思いを堪えるリベリスタ達。今日の筝子は何だか様子がおかしい。と言うか、以前遊びに出掛けた時もそんなノリではなかったか。背後から何かに乗り移られてでもいるのだろうか。
「勿論、南の島まで来てそれだけではありませんよ?」
 ふふり、と悪戯っぽく微笑む筝子。
 ――ほら来た。
「敵は夜にしか現れないそうですので、当然夜の高台で戦闘を行う事になりますが……何と天気予報によると、雲ひとつ無い星空にお目に掛かれるそうなんですよ!」
 成程、つまり、早々にこのスカーレットアンタレスとやらを撃破し、この夏の終わりに八月の星座観賞を皆で楽しもう、という事か。
 都会ではなかなかお目に掛かれない、神秘的で幻想的な光景に現を抜かすのも、偶には良いだろう。折角だから浴衣を着ていくのも良いかも知れない。
「ね、行きましょう。此処最近、戦いばかりでしたもの。羽休めしたって罰は当たりませんよ」
 筝子は、何処か申し訳無さそうに、そう言って。
 ――微笑んだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:西条智沙  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年09月06日(木)23:16
いつもお世話になっております、西条です。
夏の終わりに、星空を見に行きませんか?

※実質EASYに近いです、手に汗握る戦いは展開されません、御了承下さい

●ピンナップについて

 当シナリオは『ピンナップシナリオ(β版)』です。リプレイ返却後、その内容に沿う形で
 担当の『サトかんみ』VCにより参加者+NPC全員の登場する大きなピンナップが作成されます。
 ピンナップの納品時期はリプレイ返却後一ヶ月程が目安になります。
 ※バストアップが無いキャラクターは描写されませんのでご注意下さい。

●敵データ

<1>スカーレットアンタレス
星明かりのE・エレメント、真っ赤な小さい蠍です
尻尾に猛毒を持っているようですが、それだけです
皆様が本気で掛かれば三行~五行で終わrげふんげふんです


●地形データ

周囲に遅咲きの待宵草が疎らに控え目に咲く高台です
平坦で遮蔽物・障害物等も特にありません
人工の光源もありませんが、星々の明かりが降り注ぎます


●その他データ

見上げれば満天の星空が広がっています
八月下旬の星座達が揃って皆様を迎えてくれるでしょう
都会では見られない、弱い光を放つ星々まで見られそうです


●筝子データ

当然の如く同行しております
戦闘中は特に指示が無ければピンポイントぺしぺししてます
星空観賞中は、お声掛けがあれば喜んでご一緒します


以上です。
皆様のご参加、お待ちしております。
参加NPC
成希 筝子 (nBNE000226)
 


■メイン参加者 6人■
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)



●まさか妨害が来るとは思わなかったよ!
「――大地は、あなたの居るべき場所では無い。天に還りなさい、紅の蠍」
 蒼銀の少女の言葉に、宵闇に紛れし青年は頷き赤星の蠍に全力で怒涛の連撃を見舞う。
 少女自身も魔なる漆黒の大鎌で蠍を断罪し、向けられた毒の刃も緑の聖女が聖なる息吹で清める。
 蛇神の巫は死の宣告を投げ掛け、山吹の青年が冷気の拳で蠍を縫い止め、顧みるは裂帛の気合と闘気を漲らせた正義の力を揮う相棒!
「拓真、頼んだ!」
「ああ……一気に、突き崩させて貰う!」


「スカーレットアンタレス……とても恐ろしい敵でした……」
「……あれ、改行抜いても私のこの発言含めて当初の予定を三行オーb(自粛」



●気を取り直して、主役はあくまでリベリスタ
 予定より若干長引いてしまったが、無事スカーレットアンタレスを討伐したリベリスタ達。
 日没までにはまだ少し時間がある、という事で、改めて挨拶を。
「筝子ちゃん。お久しぶり。キャンドル選んで貰って以来かな?」
 真っ先に言葉を掛けた『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)の隣には、恋人である『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)の姿。
「彼女は恋人のカルナだよ。カルナ、彼女は前に話した筝子ちゃん」
「こんばんは、筝子さん。今回は宜しくお願いしますね」
 ぺこり、と軽く頭を下げるカルナに、筝子も倣って軽くぺこり。
「此方こそ、宜しくお願いします。素敵な一日にしましょうね」
「ええ、これを機会に仲良くして頂ければ」
 悠里がキャンドル選びの際に筝子に世話になったという話はカルナも知る所であったので、その時に筝子の話を聞いていたようだ。
「成希は久々の顔合わせになるか。元気にしていたか?」
「はい、お陰様でこの通り。いつもお世話になっております」
 続いて筝子が礼を向けるは『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)。
「此方は何時も通り、だな。手が届く事は無いだろうが、未だ足掻いている」
 とは言え、拓真のその表情に限りは無く、寧ろ穏やかな微笑みすら見せていて。
 戦いに身を投じても、己の思うまま信念曲げずに生きている自分は、これ以上無い程に幸福な部類だろうと。
「それを聞いて安心しました。良かったです」
「ああ、それに、得ようとしても……もう一度得難い伴侶、相棒、戦友も居る事だしな」
 振り返れば其処には仲間達の姿。悠里とカルナには、仲睦まじい様で何よりだ、とからかい交じりに言葉を掛けて。そして、そんな彼の隣には、その伴侶たる『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)がいる。
「こんばんわ、成希さん」
 お元気そうで何よりです、と筝子に投げ掛ければ、にっこりと笑顔で挨拶が返ってきた。
 先日、黄泉ヶ辻所属のフィクサードを共に討伐した際から、悠月は筝子の調子を気に掛けていたのだが、この様子だと大丈夫なようである。
「そう言えば、成希さんは確か仁科さんと三輪さんとは……」
「初めまして、になりますね」
 ならばと、悠月はまず、『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)を招いて、紹介する。
「此方は仁科孝平さんです」
「今回は特別に星空を楽しむのに良い場所を用意して頂けたとか。楽しみですね」
 そう言って貰えると誘った甲斐があったものだと、筝子の笑みも深まる。
「そして此方は、三輪大和さん」
「初めまして、今日はお誘い有難うございます。宜しくお願いします」
 『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)も、挨拶を交わして正しい姿勢からお辞儀をすれば、柔らかな青の髪が風に揺れた。



●余談ではあるけれど
 此処で、集まった皆の出立を見てみたいと思う。
 舞台は淡黄の待宵草が控え目に咲き、皆を見守るこの高台。
 夜は幾分か気温も下がるとは言え、まだ残暑の頃。涼しげな格好でという事で、皆軽装でこの高台を訪れていた。
 その中でも、七人中六人が浴衣を身に纏っての参加であった。
 静かに空を仰ぐ拓真は、深い黒地に揺蕩う水面に鶴が舞い、茶の掛かった黒の帯を締め、きりりと引き締まった印象で。
 彼の隣に凛と佇む悠月は、爽やかな水色の地に青い竜胆の花が映え、紫の帯に帯留めの清楚な白花を一輪、咲かせている。
 今か今かと日没を待つ悠里は、縞の入ったやや薄く緑掛かった黒地を、落ち着いた黒の帯で纏め、穏やかな色を湛えている。
 そのすぐ傍で添うカルナは、髪と同じ柔らかな薄萌黄の地に黄と白の花咲さかせ、山吹の帯がとても可憐で愛らしい。
 何やら準備をしている大和は、白と見紛う秘色のグラデーション地に白の睡蓮を浮かべて、淡い露草の帯で綺麗に纏めている。
 それを手伝う筝子も、鮮やかな橙の楓をあしらった薄い黄地に暗い緋色の帯ですっきりと着こなしていた。
 孝平は浴衣でこそないものの、昼間は海辺にいたか、薄紫の軽い羽織を着込み、下は黒のサーフパンツで涼しげな様相だ。
 各人思い思いの姿で、夕涼みしつつ、星を待つ。



●星舞う夏の青藍に
 空も漸く、昏き縹の帳を下ろす頃。
 ぽつりぽつりと、自然の明かりが点々と、灯り始める。
「わ……」
 思わず、大和が感嘆の声を上げた。事前に聞いていた通り、澄んだ空気の中、人工の灯りも無い中で観る空に舞う星は、街では現さない姿をも此処では見せて。
 その姿に気を取られる間にも、光の数は徐々に増えてゆき――やがて、その小さな光の集まりは、それだけで地上を仄かに明るく照らす程に、夜空に遍く広がり渡り、煌めいた。
「これは……凄いですね……」
「ええ、唯々圧倒されそうですね。全てを包み込むような大きな空の下、周囲にはその星空を見るのに邪魔するものは無く、だからこそ……でしょうね」
 カルナが溜息交じりに呟けば、孝平も大きく息を吐いて、濃く昏き帳の色を青藍の色へと和らげた、星々を見上げた。
「時期的には少し遅いですけど、夏の大三角形も綺麗に見えるかも知れませんね」
 カルナの言う通り、天地を照らすさまねし星々の中には、見知った夏の星座も幾つか見受けられる。
 蠍座、その中一際輝く、真なるアンタレスも、低い位置に見つける事が出来た。
 そしてそんな星々に取り囲まれ、月の光もまた柔らかく優しく、煌々と白き光を注ぐ。
「……こうして満天の星月を感じるのは、それだけでもとても心地良いものですね」
 その目を細めて、悠月が零した言葉。夜天に宿る光、微かにそよぐ夜風。喧騒から離れてゆるりと穏やかに流れゆく時間。
 それは一人や二人で静かに、というのも良いけれど、皆で共に、というのも良いものだと、彼女は思う。
「……でも、あれですね。この光景が凄いのは判りますけれど、こうも星が多くてはどれがどれやら」
 星座早見盤を片手に、首を傾げる大和は、その頭上にはてなの記号が浮かんでいるよう。
「そうだね、星座として星を探して結んでいくのはちょっと大変かも」
 悠里は苦笑しつつも、同意を返す。流石にこれだけの数だと、戸惑うのも無理は無いだろう。
 と、その時数人の視線が筝子の手元へ向く。其処には一冊の本。どうやら、昼間に朗読していたものをそのまま持って来ていたらしい。
「成希さん、夏の大三角って分かりますか?」
 大和が筝子に助けを求めれば、筝子は暫し空に翠の双眸を彷徨わせ。
「そうだねえ……確かこの時間だとあの辺りにある筈だと思ったんだけど……あ、あれじゃあないかな?」
 筝子は、天の川と思しき星々の帯、その近くを指差した。見れば確かに川を隔ててより明るく輝く星がふたつ、そして川の中に、その星の中間やや高い位置にもひとつ、より強い光を放つ星がある。
 納得したように頷いた大和は、更にこんな提案を。
「良ければ、他の星座も教えて貰っても?」
 問い掛ければ、筝子は、自分で良ければ幾らでもと頷いて。
 早速、大和が用意したビニールシートに腰掛けて、星講座開始。
 夏の大三角形、その近しい位置に見えるアンドロメダやカシオペア、ペルセウスに纏わるエチオピア王家と英雄譚。
 女神の怒りを買って、親子共々獣に変えられながら、神の慈悲で星となり天へと上った熊の親子の話。
 今尚輝きを衰えさせないその小さな星々の物語が、次々と紡がれてゆく。



●続くは連綿、星も人も
 蠍座、そして今は姿の見えないオリオン座の詳しい話に及ぶと、悠月が、ぽつりと。
「オーリーオーンの伝承……そのの死に蠍が関わるものですら幾つもある」
 傲慢故の蠍による制裁、それひとつ取ってもバリエーションは様々。碌な死に方を得られないというのが共通点ではあるのだが。
 他にも、筝子の言った女神との悲恋の末の死等、枚挙に暇が無い。語り継ぐ者、受け継ぐ者によって、物語は形を変え――それでも、続いてゆく。
「昔の人って凄いよね。この空を見て、星座を考えて、物語が生まれて」
 カルナの隣、話を聞いていた悠里も、感慨深げに声を上げた。
 千年、二千年、或いはそれ以上の年月を重ねた今でも人々に愛され続ける物語達。だからこそ、星も物語も、人々の心を捉えて離さない。
「僕達が世界を守れば、もっと先までその想いを伝える事が出来るのかな?」
「そうですね、きっと」
 この輝きを。そしてその伝承を。
 世界を守るとは、きっとそういう事なのだと。生き物だけを守る事だけで成り立つ事ではないのだと、孝平も思いを同じくしているようで。
「皆が愛しながら、誰のものでも無いこの空を、光を、僕達だけで楽しむには贅沢過ぎる感じですが、折角のご褒美ですから遠慮無く」
 驕るつもりは無い。けれど、時折であるならば、戦いの暇にこんな日があっても良いのだと、彼等にとっては特別なものとなってしまった平穏を、噛み締める日があっても罰は当たらないのだと、此処に注ぐ光の小さな源達は、そう感じさせてくれる。
 確かに、守れているのだと、こうして眺めて、実感が湧いてくるからだろうか、なんて、孝平は思った。
「……落ち着いて景色を眺めたりする様になったのは……リベリスタとしての活動が活発になってからの方が、多くなったな」
 拓真がふと、零した言葉。恐らくは、それは此処にいる皆、そしてリベリスタの大半が、そうなのだろう。
 きっと皆、無意識の内に日常を求めているのだろうと。戦いに明け暮れる日々を、望む望まざるに拘らず、余儀無くされてから。
 時々、自分は何の為に戦っているのか、自身の行いは本当に正しいのか。この光と闇のように、白黒つけなければならない神秘の世界で、勝利を重ねつつも、時には敗北の苦汁を舐め、或いは勝てども後味の悪い思いをし、その度に、迷い、悩む事もあるだろう。
 そんな時、こうして、自身の守るべき物を確認したいのだろうと。
 何かを守れたのだと、実感する為に。或いは、迷いを断ち切りたい時に。
 不意に、拓真の脳裏を過ぎったのは、いつかの祖父の言葉。

 ――自らの戦う意味を忘れた者は、凶刃へと慣れ果てる――

 それでも、彼はゆるりとかぶりを振った。
「……俺にその心配は無さそうだ」
 隣に座る悠月や、仲間達を今一度見渡して、今一度目を閉じて、拓真は微かに、笑った。
 光は未だ、そんな拓真達を見守り続けている。



●闇の中に眠らぬ光を受けて
 夜空はその色濃さを増し、藍墨茶へと染まりゆく。
 白金の月と様々な色に輝く星々は、未だ眠らず皆を照らし続けているけれど。
 そろそろ、帰らねばならない。この景色を守る為に。これからも、守り続けていく為に。
 すっくと立ち上がった悠里は、その瞬間、改めて夜空を仰ぎ、静かに、口を開いた。
「ねぇ、カルナ。天国ってさ、何処にあるのかな?」
「悠里……?」
 見上げた背中は、何処か寂しげで、怪我をしている訳でも無いと言うのに、立っているのがやっとなのではと思える程に、儚げで。
「僕は正直、神様って信じてないんだけど」
 その名にも、存在にも、悠里はピンと来ないし、何より、神が慈悲と慈愛を持って世界を平等に見守っているのだと、実感出来た事が無い。
 それでも。例え愛しい人の説く神が、何かを、誰かを救おうと、救うまいと。
「いなくなったみんなが星と一緒に僕等を見守ってくれるなら、神様の事を信じたいなって思えるよ」
 戦いの中で命を落とした仲間達。彼の守れなかった命。目の前で消えた魂の炎。
 それが、死んだ瞬間に全て、存在も何もかも終わって、無かった事にされるなんて、思いたくなかった。寂しかった。
「悠里……矢張り、まだ引きずっているのですね……」
 その言葉に、悠里は何も言わなかったし、頷いた訳ではないけれど、その沈黙こそが、言葉より雄弁に肯定を示す。
 その傷が癒えるのは、少なくとも、まだ先の事らしい。その事に切なさを噛み締めながらも、カルナは立ち上がり、悠里の手を取った。
「そう……ですね。きっとあちらからアークを見守って下さっていると思います」
 でも、それだけではなくて。
「悠里に志ある限り、悠里の心の中からもきっと応援して下さってますよ」
 彼が忘れない限り。忘れずにいようと思える限り。
 その心の中で、生き続けるだろう。終わらずにいられるのだろう。
「うん、そうだね」
 有難う、カルナ――そう、悠里が微笑めば、カルナも柔らかく、笑みを返してくれる。
「では、名残惜しいですがそろそろ戻りましょうか」
「そうだね、あとはお若い人でってとこだね」
 顧みて笑みを深めるのは、もう一組の恋人達。
 そっと、さりげなく踵を返す二人。
 悠里はカルナの手を取って、帰路に着く。それでも、ゆっくりと歩いて行こう。この大切な時間が、少しでも長くなるように、星を眺めながら。


「……悠月」
 徐に、小さく、拓真がその名前を呼ぶ。
 応えて彼を見つめた悠月と、視線が絡む――その瞬間に、拓真は彼女の頬に手を添えて、その唇に口付けた。
 永遠にも思える時は、唇を離しては刹那に変わり、それでも、名残惜しいとの思いはすぐに消える。
 これが、最後ではないのだから。最後になんて、しないから。
 その想いは、同じ。違える事の無いそれに覚える安堵と幸福でその胸を満たし、微笑み交わす。
「それでは、帰るか……俺達の家に」
「……はい。帰りましょう、拓真さん」
 頷き返してくれる悠月に、拓真は彼女のその笑顔が、自分の幸せの大部分を占めるものなのだと、改めて再認識して。
 それを守り、手放さないようにいられる為に。戦いの日々に戻っても、それを忘れずいられるように。
 今は、この光の部隊を離れても、彼等が心穏やかでいられる場所に。
 どちらからとも無く、手に手を取って。
 立ち上がり、歩き出す――その場所へ。



●その名は希望
「……邪魔しないようにしましょうか」
「そうですね、馬に蹴られるような事だけは絶対にしません」
「羨ましいけど、微笑ましいですね」
 孝平と、大和と、筝子は、静かに去って行く恋人達を見守ってから、顔を見合わせて、苦笑した。
「世界の安寧に関わらない事なら、恋人同士が幸せであるに越した事はありませんしね」
 それに、そういったのを見るのは大好きですから――なんて笑む大和に、筝子も笑って同意の意を示す。
「しかし、今日は来て良かった。普段は見ることも難しい小さな星の声さえも聞こえるような空でしたね」
 孝平が、ビニールシートを畳んで大和に手渡しつつ呟けば、一条、星が流れた。
 それに気付いた大和が、声を上げた。
「あ、流れ星……」
「ペルセウス座流星群は時期的に外れていますが……流星が見られるとは」
「ああ、その頃は色々忙しかったですからね」
 孝平も夜空を見上げれば、思い出したように言う筝子の言葉に、先の戦いが思い出される。
 戦友を、誇りを、守る為の戦いであった。守る為に、攻めた。不利をも跳ね返す勢いで、奮戦した。それでも戦況は厳しいものがあったが、どうにか守り通す事が出来た。
 此処を離れ、夜が明けて、この束の間の休息にも幕が下ろされれば、また戦いは始まるだろう。
 今迄よりも、もっともっと厳しい戦いに、何度も何度も身を置く事になるのは確定事項なのだろうけれど。
 それでも、また来年も、こうして星を見られるように。
「来年こそ、どなたかと二人で見られるように、願いたいですね」
 願いを捧げる孝平に倣って、乙女二人もその心中に願いを唱える。
 再び微かに流れた星が、彼等を、そしてリベリスタ達に希望を齎すよう、瞬いて消えた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
『オリオンをも穿てアンタレス』を納品させて頂きます。
ご参加有難うございます、西条です。

今回の件が、皆様の思い出の一頁になる事を、願ってやみません。
少しでも皆様の心に何かを残せたのなら、幸い。

幸いと言えば、こういう時、筝子は皆様にお相手して貰えて幸せ者だと思っている親でした。

ともあれ、楽しんで頂けましたでしょうか?

それでは、ご縁がありましたらまた宜しくお願いします。