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<裏野部>はつ恋は何のお味?


 最悪だ。死ねばいいのに、死ね、死んでしまえ。寧ろ、死んで下さい。お願いします。
 手にした空き缶をゴミ箱へ華麗なるダストシュート。
 ぐちゃぐちゃなのは自分の気持ちだけではなかった。よくよく考えれば周囲も『ぐちゃぐちゃ』だった。
 莫迦じゃないの。莫迦よね、莫迦だった。形容し難い思いが胸中を渦巻いている。

 だって、こんなの、あんまりじゃない!
 私、頑張ったよ? すっごい頑張ったのに、報われないの? てか、愛してよ! 私を!
 文字通り殺したい位愛しちゃってたというか、殺すの我慢してたのに。私が。趣味が人殺しの私が!

「もう、いいもんッ! し、しっ、死んでやる じゃなかった、殺してやるぅぅぅッ!!!」

 夢見・早愛。14歳。気軽に『らぶりー☆さあいちゃん』ってお呼びください。
 あと少しで終わってしまう夏休みで失恋しました。初めての恋でした。殺意を上回るラブでした。
 夏が、終った気がする。ついでに生命活動も止めてきます。相手の。
 その前に或る程度周囲もお掃除しておきました。やだ、私のマジックスティッキ(という名前のバールのようなもの)が血で汚れてる!
 まあ、いいや。待っててね。××さん。ほんっとうにあいしてるよ


「えーと……、初恋は実らないって言うけど、その、皆はどうだった?」
 冷房が心地よいブリーフィングルーム。『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は足をぶらぶらとさせながら椅子に腰かけていた。
「はつ恋。甘酸っぱいさくらんぼ。まだ花開いたばかりの優しい思い」
 其処まで紡いだ後、世恋は目を逸らす。だったら、よかったのになーなんて。
 初恋。恋する乙女は時には暴走する。まるでその様子は暴走列車。何処に向いても報われないのはきっと経験が少ないから。その背丈に合わない恋をするから、実らないというのだ。
「非常に申し訳ないんだけど、優しい恋愛とか、そう言う概念とか捨てちゃってね。
 ええと、お願いしたいのは甘酸っぱさからかけ離れた『裏野部』の対応よ」
 モニターに映し出されたのはバールのようなものにリボンを括りつけた少女。
 しあわせそうに笑っているが所々が血に汚れているし、纏う魔法少女風の衣装も血まみれだ。
「彼女の名前は夢見・早愛。まだまだうら若き乙女。趣味は人殺し。好みのタイプは死んでも死に切れなさそうな人」
 性格で選ぶそうよ。未練がましそうとか、そういうの。
 フォーチュナの目は焦点が合ってない。愛だわ恋だわと綺麗な言葉を謳う彼女からするとこの暴走列車は手に負えなかったのだろう。
「彼女、初恋に敗れちゃったの。相手を殺しちゃおうかな、なんて。
 腹いせに周囲に居た一般人を殺して、想い人の居る塾に乗り込もうとしてるのよね」
 中学生だしね、塾位行くよね、と世恋が遠い目をする。もう何と言っていいのか分からないレベルだった。
「彼女と、あとそのお友達が数人でお礼参り。振ったからには死んで償え、ってことらしいの……」
 曰く、早愛の愛しのカレは進学コース。遅くまで授業をしているため、最終授業に早愛は現れるだろう。
 授業にはカレを含め授業が15人と教師が1人。
「皆には一般人である生徒と教師を過半数護り切って欲しいのよ」
 早愛を含めて『オトモダチ』も十分強い。教室内が殺戮現場に為る前に。
「さあ、悪い夢を醒まして頂戴。どうぞ、助けてきてね」
 ついでに愛の御指導を。フォーチュナはいってらっしゃい、と手を振った。

「嗚呼、愛って儚いのね……」
 本物の愛って何処かしら、なんて世恋は遠い目をした。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月27日(月)23:03
恋色血色。優しいお味。 こんにちは、椿です。
フィクサードの撃退及び一般人半数以上の保護をお願いいたします

◆敵情報
フィクサード『らぶりー☆さあい』夢見・早愛
 ヴァンパイア×覇界闘士。マジックスティッキ(という名前のバールのようなもの)
 趣味は人殺し。初恋に敗れたばかり。悔しい、殺しちゃう。だって女の子だもん。
 ・精神、麻痺無効
 ・Ex:マシュマロラバーズ 神遠全 魅了、ショック、ダメージ0

アーティファクト『M少女のお約束』
 まほうしょうじょのおやくそく。早愛所有、バールのようなもの。
 仲間のダメージ量により攻撃力が高くなります。
 
フィクサード×5
 早愛のお友達。ホーリーメイガス、デュランダル、クロスイージス、クリミナルスタア、マグメイガス
 早愛に誘われたのでご一緒に殺しに来ました。ご趣味です。それと庇い合い――庇い愛です。

一般人(塾の生徒15人、教師1名)
 内約に早愛を振った『カレ』も含まれます。ただし『カレ』が誰なのかは分かりません。


それでは愛を物理的ご教授です。
どうぞよろしくお願いいたします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
マグメイガス
風見 七花(BNE003013)
デュランダル
ノエル・ファイニング(BNE003301)
インヤンマスター
風宮 紫月(BNE003411)
ソードミラージュ
災原・闇紅(BNE003436)
プロアデプト
阿久津 甚内(BNE003567)
デュランダル
シャルラッハ・グルート(BNE003971)
デュランダル
芝原・花梨(BNE003998)


 ――ジリリリリリリッ!
 けたたましく鳴り響く非常ベル。
 発煙筒を片手に『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は芝原・花梨(BNE003998)と視線を交わせた。
 此処は某所の学習塾。フォーチュナの予知した『裏野部』のフィクサードが襲撃すると言われている場所だ。
『裏野部』の夢見・早愛。初恋に敗れたなんて可笑しな事情で人殺しを働く所は正にフィクサードだとでも言った所だろうか。
 彼女らの動きを見ていた『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)はこっそりと塾の事務所から電話を掛ける。その先は消防署だ。
「あ、もしもしー、今なんか報告ありましたー?すいましぇーん★ 塾の生徒の悪戯でー」
 戦闘中に突入などされてしまっては困るからという配慮だった。彼の様子を確認し、アンジェリカと花梨は一つ、明りの灯っている教室へと足を向けた。
「行こう……!」
 未だに為り響くベル。花梨はアンジェリカと共に塾の教室に飛び込んだ。
「火事だよ! 逃げて!」
 飛び込むが、非常ベルの音で慌てふためく生徒や少女の外見をした突然の乱入者に驚きを隠せない教師は言う事を聞かない。
「早く避難してください!」
 花梨の声も、アンジェリカの声も、外の非常ベルの音にかき消されて行く感覚がした。教師が廊下に様子を見に行くと言うが、避難させなければならない以上それも許せない。
 混乱する教室。救うために来たのに、救う手立てを喪失したような気にもなる。くらり、眩暈がした。
『――カさん、アンジェリカさん、聞こえますか!』
 首から下げたロザリオから『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)の声が聞こえる。
『窓の外を……ッ』
 駆け寄ったアンジェリカは窓へと駆けよった。広がったのは、赤。赤。


 非常ベルの音が鼓膜を叩く。口元に浮かべたのは笑み。嗚呼、此れは――
「ねえ、喜んで、私の最愛のお友達。リベリスタが来ているわ!」
『らぶりー☆さあい』夢見・早愛は幸せそうに笑う。ゆったりと微笑んだ彼女は塾の中に消えて行く。
 鳴り響くベルの音に集まり始めた一般人は後で殺そうか。
 有難う、リベリスタ!可愛い私の為に、こんなにも人を集めてくれて!
 人ごみの中でぐしゃりと肉を抉る音がする。
 血飛沫が舞う。
 集まってきた一般人の内臓の周囲にボトボトと飛び散った。早愛のお友達が始めた殺戮。悲鳴が、響く。
「嗚呼、ありがとう! 早愛の為にそんなに黄色い声を上げなくってもいいのよ!」
 でも、駄目ね、愛しい××さんを殺すのが先でしょ?
 彼女のお友達が振るう剣が『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)のConvictioとぶつかる。非常ベルが一般人を集めてしまう事は予想外であった。
「ッ、逃げてください」
「こんにちは、リベリスタ」
 ぎん、と刀がぶつかる。ノエルにとって、早愛という少女の愛は否定する事は出来なかった。
『愛』は千差万別、殺したい程の愛も否定しない。どんな形があっても『愛』は『愛』なのだから。ただ、殺したいほど愛してるからと言って殺していい事にはならない。
 その行動を許容する事は銀色の騎士の心情には反した。
「塾へ来たにしては物々しい雰囲気ですね、こんばんは」
 黒髪が揺れる。ハイ・グリモアールを抱えた紫月はアクセスファンタズムで教室で避難活動をしているアンジェリカ達へと連絡を入れていた。
 彼女らの前に居るフィクサードは六人。此れで全員だ。
「こんばんは、外でお話しするのは何だから、中で――どうかしら?」
 集まる一般人。その言葉には頷くしかなかった。避難活動を取りやめ教室内で籠城すれば少なくとも犠牲者が出る事はないだろう。
「――分かりました。それでは、玄関で」


 カチカチと電灯が揺れる。
『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)はその体内のギアを大きく高めた。風と同一化するように彼女はホーリーメイガスへと近づく。
 塾の玄関先にはリベリスタとフィクサードしか居なかった。
「恋が叶わなかったら殺しちゃおうなんて分かりやすいよね」
 金色の瞳を細めた『狂獣』シャルラッハ・グルート(BNE003971)は楽しげに笑う。戦場では殺戮を求める獰猛な獣。
 嗚呼、殺人が趣味ならば、きっと自分と気が合う。この獰猛な獣と殺戮を愛する魔法少女。
「一般人の事はシャルにとってはどーでもいいんだけど、一応お仕事だし」
 殺し合い、してくれるんだよね?
 彼女は早愛に向かい一直線に駆けて行く。だが、その輝く一閃は早愛には届かない。
「殺し愛、しましょうか」
 彼女のお友達が剣を振るう。前衛に走り込んでいたシャルラッハの腕を切り裂いた。その攻撃は彼女と同じオーラを纏うもの。
「恋って必ず報われるとは限らないのですよ」
 振られたら、大人しく傷心を抱えて引きこもるのもまた一興。風見 七花(BNE003013)は鉄甲を装備した掌をぐっと固めた。
 呪いが刻まれた黒い鎌がホーリーメイガスの首を狩ろうと振り下ろされる。
 頬の皮膚が切れる、溢れた血を拭いながらも彼女は一歩後ろに下がって、笑った。
「――初恋に敗れて、ですか」
 好きな人に振られたの、なんて早愛の年齢からすると相応な理由だった。だが、それに殺すという行動が伴うのはとても感化出来なかった。
 感心できない。その想い。普通の少女ではない、神秘を得た運命に愛された少女。
 言葉では説得できないほどに性根のまがった少女。
「言葉でダメなら、実力行使しかありませんね。……では、参りましょうか」
 開かれたハイ・グリモアール。占う不吉の行く先。呪うその影がホーリーメイガスを覆う。
 不吉の陰に隠れて近寄る闇。
 闇紅の放つ澱みなき連撃をデュランダルは庇う。傷つくその体へ詠唱で呼び出された癒しの微風が包み込んだ。
 闇に紛れて生きるか様な少女の体へと叩き下ろされる電撃を纏う一撃。
 庇われていては目当てに攻撃できない――ノエルの槍はデュランダルの刀とぎん、と音を立ててぶつかった。肉薄し合う。
「全てを穿つまで――」
 その力を込めて、ぐ、と押し込む。踏み込む。力負けはしないはずである。彼女の、攻撃でデュランダルは押し負ける。デュランダルの体は其の侭塾の壁へと吹き飛ばされた。
 背骨が軋む、赤い血がぽたぽたと口の端から流れ出る。
「我が運命は世界の為に―― 我が槍は、世界の敵に」
 彼女は『正義』だ。『正義』が為すその先の為に。世界の為に振るう。
「さあいちゃん始めましてー★ 僕ちゃん友達に殺人鬼居るねんけどー」
 爽やかに、笑みを浮かべたまま甚内は早愛へと語りかける。
「良かったら紹介するよー? 年上の好ー青ー年ー♪」
 殺そうとしても飄々と逃げるし良いと思うんだ、と笑った彼に対して瞬きを繰り返した早愛は笑う。
 不思議で堪らない。殺人鬼なんて、裏野部に来たら沢山居るのに。
「アークなら上手くやってく以上殺し放題だよー?」
「裏野部は殺す事がお仕事だけれど」
 くすくす、魔法少女の衣装が揺れる。
 矛がクロスイージスにささる。その痛みに呻いた彼は強い光を込めた十字を放つ。
「私はね、裏野部に居る事が幸せなのよ」
 幸せだけど、其れでも好きになったのは外部の人間だった。
 紡ぐのは癒しの詠唱、彼女の声をかき消す様に魔力の砲撃が彼女を襲う。
 七花は其れでも耐えず癒す。
「ねえ、恋の相手は実は先生だったりするのかな?」
 けたけたと笑う。生徒と教師の禁断の恋。まるで少女漫画の世界。燃えるね、とシャルロッハは笑った。
 でも、終った恋なら関係ないか。
 ――その言葉に少女の瞳に怒りが灯る。マジックスティッキと呼ぶバールを。リベリスタが彼女のお友達を傷つけるたびに彼女の攻撃力は増加する。
 その怒りを表す様に振るわれる炎がシャルロッハの腹をついた。
「そんなに殺したいならシャルが相手になってあげる」
「ええよろしく」
 ――ほら、仲良く一緒に殺り合おうよね!

 殺し愛、鬩ぎ愛、庇い愛――愛が交錯し合う。嗚呼、なんて、愛おしい。

 ばたばたと廊下を駆ける。教室の扉を閉じ、出ない様にと念を押したアンジェリカと花梨は駆けつけた。
 同数での対決。両者共に均衡した戦いを行っているとは言い難かった。アーティファクトの効果。全員がホーリーメイガスを傷つけるとその蓄積ダメージで早愛の握るバールが力を得る。
 彼女に殴りつけられるとそのダメージ量は大きく、段々と回復が間に合わなくなってきたのだ。
 ぜえぜえと肩で息をする。
 愛した人が振り向いてくれなくったっていい。――ボクが初めて愛した人。愛しいと思った人が居た。
 その人が振り向かなくても、想いが報われなくとも、傍で幸せにしてあげれたらそれでよかった。
「ボクは何が正しいか分からない。早愛が間違ってるとも言い切れない、でも、ボクは早愛の愛を認められない」
 だから、止めるんだ、壁を足場にし彼女はホーリーメイガスへと不吉のカードを投じる。
 だが、彼女の体を狙った様に放たれる四色の光。
 ぐらりと揺れた体を支える。彼女の体を蝕むものを七花は解き放つ。
「早愛、ボクは君を止める」
 ブラックコードがきりり、と軋んだ。
 クリミナルスタァの拳が花梨の腹へと入る。胃液が逆流し、ぽたぽたと薄く埃をかぶった床へと吐き出される。
「私は、まがった事が嫌いなんです!」
 兎の耳が揺れる。ツリ目がちな眼鏡の奥で花梨はじっと敵の顔を見据えた。彼女の目的であるホーリーメイガスはその攻撃を一心に受けている為にふらついている。
 それ故に、その周囲での攻撃が激戦区となっていた。只、偶然にフェイトを得たと言っても誰かの役に立ちたい、そう思う。
 握った鉄槌がデュランダルへ振り下ろされる。――だが、其の体はびくともしなかった。
「お嬢さん」
 デュランダルの男は笑う。
ぐらりと膝をつく。周囲を荒れ狂う雷が彼女を撃つ。運命を燃やし、立ち上がる。
 ――正義の為に。
 闇に紛れて、狙われた七花を庇う。だが、彼女の体はいとも容易く吹き飛ばされてしまう。
 体が、軋む。腹へと入れられた拳。
「カハッ――」
 咥内から酸素が漏れ出る。体が、廊下へと倒れ込む。
 嗚呼、楽しい。そう思う。面白い、面白い。
 一度でも膝をついた。彼女の想いを受け止めようと思う。
「お楽しみはこれからだよ!」
 笑む。振るうバルバロッサは早愛のその身へと叩きこまれる、放つオーラを纏った一撃が早愛のフリルで飾られた右腕を抉った。
「ッ――ほら、もっともっと!」
 殺し合いましょう?と笑う、高笑いが響く。
 可哀想で、可愛そうで堪らない子だとも思った。趣味が殺人だと、此処までも狂ったように殺戮を楽しんでいると言うのに。
 殺す事を我慢して、恋をしていたのだから。報われなかったら趣味に走るにきまっているだろう。
「さあいちゃんにとっては『美味しいものを食べよう』って位当たり前な行動なんえしょー?」
 殺しが、趣味だから。
 当たり前のことなのだ。彼女と同じように彼の友人には殺人を楽しむ青年が居る。日常が殺人で彩られる日々。
「まー、まだ若いんだし人生楽しまなくっちゃねー。趣味込み込みでー★」
 その言葉に早愛は嗤う。何て話しの分かる方かしら、と。
 だが、話しが分かっても所詮は敵。彼の体に叩き込まれるヘビースマッシュ。耐えず襲う荒れる雷が彼の体力をジワリジワリと削っていく。
「あきらめるのは、嫌なんです……ッ」
 茶色のツインテールが揺れる。運命を燃やした、守ると決めた者の為に。
 避難の猶予はなかった。守るべき対象が彼女の背に居るのだ。
 早愛を狙う花梨の鉄槌。だが、振り下ろす前に彼女の目の前が赤く塗り替えられた。続けざまに放たれる色。マグメイガスの謳う四重奏。
「ッ――」
 続けざまに叩きこまれるのは少女の甘い思い――マシュマロラバーズと名のついた攻撃であった。
 視界が白く染まったかと思うと、その甘い匂いが嗅覚を麻痺させるかのような感覚。
 激しく蝕まれる体を癒す紫月も肩で息をしていた。
 あの技を模倣できれば――
 そう思うが、模倣するにはまだ足りない。
 癒しては耐えずその微風を送る、だが、足りない。謳うホーリーメイガスへとノエルは放つ。その一撃を。
「ここで倒れて頂きましょう」
 ホーリーメイガスががくりと脚をつく。庇う足枷がなくなったデュランダルがノエルの体へと一撃を放つ。彼女に劣る物の力強い其れにノエルの足元がぐらりと揺れる。
 クロスイージスの放った攻撃は甚内の頬を掠める。彼を癒す七花も共に雷に襲われ、身を焦がす。
「私は……ッ」
 犠牲者を出さないように頑張ると、ふらりと立ちあがった七花。癒し手は何度立って、その微風を吹かせ続ける。
「僕ちゃん死にたくぁー無いんだー★」
「それはこっちだって!」
 クロスイージスは嗤う。だが、彼の体もふらふらと揺れ動く。アンジェリカの放ったブラックジャックが破滅を告げた。
「……情愛に溺れて倒されるのも、貴女らしいのではないですか?」
 呪いを、かけようと彼女は構える。早愛はくすくすと笑った。
 とても素敵なお誘いね、と。彼女に訪れる不吉の癒してはもう居ない。だが、其れでも少女は諦めなかった。
 振り被ったバールは甚内の腹を叩きつけて、彼の動きを制する。膝をつく、運命を捧げたって、死ぬわけにはいかない。
「ねえ、貴女、巫女さんなのでしょう」
 纏う巫女服をじっと見つめて早愛は嗤う。呪いは少女を蝕んだ。紫月に狙いを定めた様に放たれる四重奏。
 ノエルは刀を振り被る。早愛を庇う様に立っていたデュランダルは膝をつく。
「恋っていうのはとっても情熱的で、そこに生を感じるんだよね」
 頬に伝う血も、腕から溢れ出る血も、全て、全てが恋の味なのだろうか。愛するから殺したい、ならば流れる血は甘い恋なのだろうか。
 血を纏いながら機動音を出すバルバロッサは血で錆びる事もなく、その切れ味を上げて行く。
「未練を引き摺ってたら後味が悪いよね!」
 思い残す事がない様に、此処でひと思いに――。電撃を纏った一撃をシャルラッハは放つ。彼女の赤い髪が揺れた。
 叩きこまれた一撃でもまだ早愛は立っている。剥げたネイルに描かれるハートは歪に歪んでいた。
「そうね、未練って後味が悪いわね」
 少女の纏う魔法少女の様なワンピースのスカートに血が跳ねあがった。
 後味が悪いけれど、其れも甘い蜜の様に思えるかもしれないわ。
 バールを構える。ゆったりと浮かべた笑顔。放たれるのは破壊的な気。仲間達のダメージ量を引きうけたそのアーティファクトの効果でダメージ量は倍増されていた。
「殺戮を愛するなら、未練だって愛に変わるのよ」
 ふらり、シャルラッハが膝をつく。


「――飽きちゃった」
 バールの様なものをずりずりと引きずる。ネイルで整えられた爪先を見遣り、破れた服と傷つきあがらなくなった左腕をだらりと下げる。
 飽きちゃったとは物は良いよう、降参という事だろう。
「ネイルも剥がれたし、お洒落もボロボロ。サイテーじゃない」
 ラブリーじゃない、と唇を尖らせた早愛は残っていたお友達の手を引っ張る。帰ろうよ、と我儘を言う子供の様に。
 残っていたお友達――マグメイガスはそうだね、と早愛に笑った。
 其処に立っていたのは早愛とマグメイガス、クリミナルスタアと紫月とノエルの五人だけ。後は皆、倒れてしまっている。
 状況は痛み分けであった。まだ戦えると言っても両方共に傷つきあっている。
 じじじ、小さく音を立てた電灯の下、ノエルはだらりと腕を下げる、此処までだろう。回復手を失った今、交戦しても勝ち目はないだろう。
「今回限りで落ち着いていただければ」
「愛って急に浮かぶものだよお姉さん」
 くすくすと笑った早愛は笑って去っていく。
 倒れた仲間を介抱しながら、ノエルと紫月は未だ明りの灯る教室を覗く。
 全員そろったソコでは、誰も死ぬことなく、物音に怯える生徒達が居た。
 

 さあ、今日の殺戮劇場は終わり。
 ――はつ恋って甘いのね?

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れさまでございました。
塾内の保護対象は全て守られました、皆さんのおかげです。有難うございます。
火事を装い、発煙筒を使用し防犯ベルを鳴らすということは注目を集める可能性が十分あるかと思われます。
 
早愛嬢にとって、此れもきっと一つの愛の形。
お気に召します様。ご参加、有難うございました。